どんな本?
『盾の勇者の成り上がり』は、異世界に召喚された主人公が盾の勇者として成長し、仲間と共に数々の試練に立ち向かうダークファンタジー作品である。第14巻では、尚文たちが新たな脅威に立ち向かい、世界の謎に迫る物語が展開される。
主要キャラクター
- 岩谷 尚文(いわたに なおふみ):盾の勇者として召喚された青年。逆境にもめげず仲間と共に戦う。
- ラフタリア:尚文が最初に迎え入れた亜人の少女。成長し、剣士として尚文を支える存在となる。
- フィーロ:尚文が孵化させたフィロリアルの女王。人間の少女の姿にも変身でき、戦闘や移動で活躍する。
物語の特徴
本作は、主人公が逆境から立ち上がり、仲間との絆を深めながら成長していく姿が描かれています。特に、ラフタリアやフィーロとの関係性は物語の大きな魅力となっています。また、異世界の設定や緻密なストーリー展開が、他の作品とは一線を画すポイントです。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:MFブックス
• 発売日:2016年02月25日
• 判型:B6判
• ISBN:9784040681214
• メディア展開:本作はアニメ化もされており、2019年1月から6月まで第1期が放送された。さらに、2022年4月から6月に第2期、2023年10月から12月に第3期が放送された。第4期は2025年7月に放送予定である。
読んだ本のタイトル
盾の勇者の成り上がり 14
著者:アネコ ユサギ 氏
イラスト:弥南 せいら 氏
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あらすじ・内容
尚文、旧都に侵攻する!?
ラフタリアを狙う現天命を倒すべく、クテンロウの革命派と手を組んだ尚文。国の悪政による事件を解決し、着々と政府を追い詰めていくのだった。更に勢いをつけるべく、旧都への侵攻を決めた尚文は、クテンロウを裏から操る者の存在を知ることに……。
「まあ良い。俺達は進むしかないんだ。やるしかない」
進軍を続ける一行に、政府が送り込んできたのはなんと、サディナの妹!? 血縁者達が相見えるクテンロウでの騒動に、盾の勇者はどう立ち向かって行くのか!
民衆を率いて革命を起こせ! 異世界成り上がりファンタジー第十四弾、ここに登場!!
クテンロウの状況と革命の進展
- クテンロウの港町で戦勝会が開かれたが、多くの仲間が二日酔いで動けなかった。
- 現政権の腐敗が進んでおり、国民の不満が爆発していた。
- 尚文たちの侵入により革命が加速し、港町が占拠された。
- 盾の勇者としての立場は異なり、メルロマルクでは迫害、シルトヴェルトでは崇拝されていた。
仲間たちの役割と関係性
- アトラとフォウル
- シルトヴェルトの上位種族であり、戦闘能力が高い。
- フォウルは妹を支え続けたが、現在は彼女に振り回されている。
- 弓の勇者・樹とリーシア
- 樹は精神的に追い詰められていたが、リーシアの支えで回復してきた。
- 過去に樹に捨てられたリーシアは戦闘能力を開花させ、彼を説得した。
- フィーロとガエリオンの対立
- フィロリアルの女王フィトリアの加護を受けたフィーロ。
- ドラゴンの意識を宿すガエリオオン
クテンロウの戦略と計画
- 現天命は腐敗しており、国民の信頼を失っていた。
- 尚文たちの目的
- 天命を排除し、ラフタリアを指導者に据える。
- 占拠した港町を拠点に勢力を広げる。
- 旧都を奪還し、革命を進める。
- 戦略の選択肢
- 直接乗り込んで決着をつける(難易度が高い)。
- ラフタリアを旗頭にし、賛同者を集める(確実な方法)。
- ラフタリアの巫女服
- クテンロウで特別な意味を持ち、国民の支持を集める要素となった。
封じられしオロチとの戦い
- 戦略会議中に爆発音が響き、異変が発生。
- クテンロウの古墳から「封じられしオロチ」が復活。
- オロチの能力
- 強力な毒と炎を操る。
- 結界で四聖勇者の力を阻害。
- 頭を落としても再生する。
- 戦術の変更
- 胴体が弱点と推測し、攻撃の焦点を変更。
- ラフタリアの「太極陣天命斬」で桜天命石の防御を破壊。
- オロチの撃破
- 仲間の連携でオロチの加護を剥ぎ取り、討伐成功。
- しかし、オロチの本体は別に存在していた。
オロチの本体と決戦
- 本体オロチが古墳の崩壊とともに出現。
- 強化された能力
- 先ほどのオロチより巨大。
- さらに強力な桜天命石の結界を持つ。
- 戦力の分配
- 分身の足止め班:ラフタリア、樹、リーシア。
- 本体討伐班:尚文、フィーロ、ガエリオン、サディナ。
- サディナの獣化
- 尚文の盾の力で獣化し、雷撃と津波を操る。
- オロチの最終撃破
- ラフタリアの「桜天結界破壊」により加護を剥ぎ取る。
- 最終攻撃でオロチの核を弾き飛ばし、討伐完了。
呪われし天叢雲剣と処理
- オロチの核が呪われし天叢雲剣に変化。
- 処理の問題
- 呪いが強く、通常の手段では封印不可。
- 尚文の盾に収納する案もあったが、過去の失敗から却下。
- 元康二号の対処
- 剣の品質を確認し、鍛え直すことを決定。
クテンロウの革命とフィーロの象徴化
- 革命派の勢力が拡大し、敵側の戦意が低下。
- フィーロの象徴的な存在
- クテンロウの神話と関係があると推測される。
- 伝承と符合し、信仰の対象となる。
- 敵の戦術
- フィーロの捕縛とラフタリアの命を狙う計画。
旧都攻略と天命の決着
- 旧都への進軍
- 敵側が決闘を提案するも尚文は拒否。
- 敵の撤退により無血開城。
- ラフタリアの天命就任
- 桜光樹の祝福を受け、新たな力を得る。
- 「調停者の祝福」を尚文も受け、封印耐性が向上。
- 龍刻の砂時計の発見
- 遠距離転移が可能になり、メルロマルクへ一時帰還。
天命との対面と裁定
- 現天命の正体
- 幼い少年で、孤立していた。
- マキナに利用され、権力を持たない状態。
- 裁定の決定
- 天命の資格を剥奪。
- フィーロの圧で恐怖を与え、国民の怒りを沈める措置を実施。
- 新たなクテンロウの統治
- 革命派の統治へ移行し、新時代が始まる。
シルディナとの決着と新たな未来
- 水竜の巫女・シルディナの投降
- 尚文たちに協力することを決定。
- サディナとの関係修復
- 過去の確執を乗り越え、姉妹としての絆を深める。
- クテンロウの戦いの終結
- ラフタリアは村の一員として生きることを決意。
- 尚文もまた、次なる戦いに備えた。
こうしてクテンロウの革命は完了し、新たな時代へと歩みを進めることとなった。
感想
ラフタリアの成長と革命の行方
クテンロウ編は、ラフタリアの両親の故郷を取り戻す戦いであった。彼女が巫女服を着たことで、天命の後継者と勘違いされ、暗殺者を差し向けられたのは皮肉な展開である。結果的に尚文たちは獣人の国を味方にし、逆侵攻を果たす。民衆の支持を得て、旧都をあっさりと落としたが、尚文たちが世界を救うという大義名分に振り回されている印象も強い。
敵の弱さとあっさりした展開
今回の戦いは、敵の自滅による要素が強く、緊張感はやや薄かった。悪役たちは策を巡らせていたが、結局は早々に崩壊。過去の天命との対決は興味深かったが、全体としてはあっさりと終わった印象である。しかし、尚文が気を体得し、新たな魔法のヒントを得たことは大きな収穫であった。
フィーロの象徴的役割とラフちゃんの癒し
フィーロが神話と結びつく存在として描かれたことで、革命の展開に影響を与えたのは面白い要素であった。また、戦闘が続く中で、ラフちゃんの存在が癒しとなったのも良いバランスであった。
ラフタリアと過去の天命の対決
過去の天命との戦いは、単なる敵対ではなく、指導に近い形で進んだ。二人の対話を通じて、天命の役割がどのようなものかが描かれ、ラフタリア自身の成長にもつながる展開であった。
尚文の微笑みと未来への歩み
戦いを終えた尚文が、微笑みを浮かべる場面が印象的であった。普段は目つきの鋭い彼が、安堵の表情を見せたことで、物語が一つの区切りを迎えたことが伝わった。戦争が終わっても、彼らの戦いは続く。だが、今回はその中に静かな余韻が感じられた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ クテンロウ侵攻会議
戦勝会の翌朝と二日酔いの仲間たち
クテンロウの港町での戦勝会が明け、尚文は仲間たちを集めて今後の方針を決めようとしていた。しかし、屋敷内には前夜の騒ぎの名残があり、多くの者が二日酔いで動けない状態であった。特にサディナとの飲み比べに挑んだ者たちは完全に潰れており、まともに話ができるのはごく一部であった。
クテンロウの政治腐敗と革命の動き
クテンロウの現政権は腐敗が進んでおり、国民への負担が増大していた。ラフタリアを狙った刺客も、その腐敗勢力の影響を受けていた者たちであった。尚文たちがクテンロウに乗り込んだことで、革命運動が一気に広がり、港町を占拠した時点で町全体が祭り騒ぎとなった。外では今も祝賀の声が響いており、国民の不満が爆発していることが伺えた。
異世界での盾の勇者の立場
尚文は日本から召喚された盾の勇者であったが、召喚された国によってその扱いが大きく異なった。メルロマルクでは悪魔として迫害されたが、シルトヴェルトでは神として崇拝されていた。もしシルトヴェルトに召喚されていたならば、崇拝の対象として扱われた可能性が高いが、それもまた自由とは言えない状況であった。
フォウルとアトラの立場
尚文が購入した奴隷であるアトラとフォウルは、ハクコ種というシルトヴェルトの上位種族であった。アトラは小柄ながら戦闘能力が高く、シルトヴェルトの国民からも評価されていた。一方、フォウルは病弱だった妹を支えてきたが、現在は彼女に振り回される立場となっていた。二人は尚文と共にクテンロウへ向かう際に活躍し、国民からも評価を受けていた。
弓の勇者・川澄樹とリーシアの関係
川澄樹は尚文と同じ日本から召喚された弓の勇者であったが、陰謀によって精神的に追い詰められていた。現在はリーシアと共に行動し、彼女の支えを受けながら回復しつつあった。リーシアは過去に樹から捨てられたが、戦闘能力を開花させ、彼を説得して立ち直らせたという経歴を持つ。
クテンロウの問題と戦略の策定
クテンロウの現天命は、腐敗した政策を施行し、国民の信頼を失っていた。尚文たちはこの天命を排除し、ラフタリアを新たな指導者として据えることを目指していた。まずは占拠した港町を拠点とし、国全体に勢力を広げていく方針を決めた。現在の天命は首都を新たな場所へ移転しており、旧都を奪還することが最初の目標となった。
フィーロとガエリオンの対立
尚文の仲間であるフィーロとガエリオンは、種族的な関係もあり常に対立していた。フィーロはフィロリアルの女王フィトリアから加護を受け、戦闘能力が向上していた。一方、ガエリオンはドラゴンの子供であり、以前尚文が倒したドラゴンゾンビの意識を宿していた。ウィンディアの手で育てられていたが、現在は尚文と行動を共にしていた。
戦略会議と作戦の選定
尚文たちは、クテンロウの天命を排除するための戦略を練った。選択肢の一つとして、直接乗り込んで決着をつける案が挙がったが、現地の技術による勇者への干渉が懸念され、難易度が高いと判断された。もう一つの案として、ラフタリアを旗頭にして賛同者を集め、徐々に勢力を拡大する方法が検討された。こちらの方法は時間がかかるが、確実な戦略とされた。
ラフタリアの巫女服と国民の支持
ラフタリアが巫女服を着ることは、クテンロウにおいて特別な意味を持っていた。そのため、尚文たちは彼女を前面に押し出し、国民の支持を集めることにした。尚文はラフタリアの巫女服姿を高く評価し、それを利用して士気を高めることを決定した。
突如として響いた爆発音
作戦会議の最中、フィーロとガエリオンが異変を察知し、直後に遠くから爆発音が響いた。クテンロウでの戦いは、さらに激化することが予想された。
一話 封じられしオロチ
突如響いた爆発音と異変
町の外れの山付近で土煙が上がり、異常が発生していた。尚文たちはその方向を確認し、そこが以前通りかかった古墳のある場所であることを思い出した。調べ物から戻ったリーシアと樹もこの異変に気づき、ラルヴァは古墳を見つめながら驚愕していた。
封印された魔物の存在
武器屋の親父とその師匠である元康二号が駆けつけ、政府が非常手段に出たことを示唆した。元康二号によると、古墳にはかつてクテンロウに甚大な被害をもたらした魔物が封印されており、それは当時の天命によって封印されたとされる存在だった。さらに、現在の天命が過去に封印された魔物に対し、守り神としての祝福を施していたことが判明した。
魔物の封印が解かれる危険性
現在の天命は、国を守る結界を強化する目的で魔物を封印したとされていたが、実際には封印された魔物に祝福を施し、戦力として利用しようとしていた可能性が高かった。その結果、封印が破られた魔物は通常の魔物とは比較にならないほどの強さを持つことになった。尚文たちは、この事実を利用し、魔物を討伐することで民衆の支持を得る計画を立てた。
尚文たちの出撃
ガエリオンが大きくなり、尚文はその背に乗って現場へ急行した。フィーロも負けじと競争しながら後を追った。ラフタリア、サディナ、アトラ、フォウルも続き、リーシアと樹はフィーロに乗って追従した。元康二号の軽口に対し、尚文は彼を後回しにすることを決め、目の前の戦いに集中することにした。
封印が解かれたオロチの出現
古墳が大きく揺れ、地割れと共に魔物が出現した。それは「封じられしオロチ」と呼ばれる巨大な八つの頭を持つ蛇型の魔物であり、桜天命石と祝福のしめ縄を身にまとっていた。桜天命石による結界が発動し、四聖勇者の力を阻害する影響が出ていた。
戦闘開始と戦略の模索
オロチは強力な毒と炎を吐き、尚文たちは結界の影響を受けながら戦わざるを得なかった。フィーロとガエリオンが果敢に攻撃し、一時的に頭を落とすことには成功したが、すぐに再生された。尚文は胴体が弱点である可能性を示唆し、攻撃の焦点を切り替えることにした。
桜天命石の防御壁
オロチの背には桜天命石による六角柱の結界が展開されており、攻撃を防ぐ役割を果たしていた。尚文はラフタリアの「太極陣天命斬」で桜天命石の加護を打ち破る作戦を立て、それに合わせてフィーロとフォウルが突撃した。結界の解除に成功し、尚文たちは総攻撃を仕掛けた。
オロチの撃破と予想外の事態
ラフタリア、フィーロ、フォウル、アトラが次々と攻撃を繰り出し、オロチの動きを封じた。最終的に、オロチは完全に動かなくなり、戦闘が終わったかに見えた。しかし、アトラは異常な気配を察知し、尚文に撤退を指示した。直後、オロチは自爆し、大量の毒の霧を発生させた。尚文たちは間一髪で避難し、町を守るための対策を講じる必要に迫られた。
オロチの本体の存在
フィーロの風魔法で毒の霧を吹き飛ばしたが、直後にオロチの本体が再び現れた。先ほどのオロチは分身であり、本体を倒さない限り復活し続ける仕組みになっていた。さらに、オロチの鱗には先ほどよりも強力な加護が施されており、次の戦いはより困難なものとなることが予想された。
戦力の分割と作戦の決定
尚文たちは、オロチの分身を足止めする班と、本体を討つ班に分かれることを決定した。ラフタリアは分身から狙われる傾向があったため、分身戦に参加することになった。樹とリーシアは分身戦の援護に回り、尚文、フィーロ、ガエリオン、サディナらが本体討伐に向かうことになった。戦力を二手に分けた尚文たちは、それぞれの役割を担いながら、決戦へと向かっていった。
二話 強化共有
古墳内部への侵入と異様な気配
尚文たちは、本体の討伐を目的に半壊した古墳の内部へと侵入した。内部は崩落しかけた石室であり、龍脈の力の流れが不気味に漂っていた。ガエリオンは、この力が国を守る結界を侵食し、他の封印された魔物をも解き放つ可能性を指摘した。クテンロウの天命派が、自ら国の守りを破壊している状況に尚文は呆れた。
勇者の碑文と盾の強化方法
石室の壁には古代の文字が刻まれていた。それはカルミラ島で見た魔法文字と似ており、尚文だけが解読できた。その内容は「盾の聖武器の強化方法」に関するものであり、他の聖武器や眷属器との強化の共有について記されていた。しかし、それはすでに実践済みの方法であり、新たな発見にはならなかった。
封印の仕組みと核の存在
石室の奥には紫色に輝く縦穴があり、その底に魔物の核が存在していた。ガエリオンは、この封印が長期間持続するように設計され、封印された魔物の力を結界の維持に利用する仕組みであることを説明した。しかし、天命派による封印解除の試みが進行し、魔物は新たな肉体を形成しつつあった。
水流による強制排出
突如、穴から水が噴き出し、尚文たちは激流に飲み込まれた。サディナが尚文、ラフタリア、フォウルを抱えて流れに逆らうも、結局は勢いに押し流され、古墳の外へと弾き出された。落下寸前にガエリオンが救出し、間一髪のところで地面への激突を免れた。
本体オロチの出現
古墳が完全に崩壊し、その内部から分身の三倍もの巨体を持つ本体オロチが姿を現した。その根元には紫色の核があり、龍脈の力を吸収しながらさらに膨張していた。尚文たちは短期決戦を決断し、即座に攻撃態勢を整えた。
サディナの獣化と戦力の強化
尚文の盾が新たな力に反応し、獣王の盾の能力をサディナに適用する選択肢が現れた。サディナはそれを承諾し、獣化を果たした。巨大なシャチの姿へと変化した彼女は、水竜の加護を受けたかのように圧倒的な力を発揮し、雷撃と津波を操る攻撃を繰り出した。
桜天命石の結界とオロチの防御
オロチは桜天命石の結界に守られ、通常の攻撃が通用しなかった。さらに、紫色の結界が追加され、太極陣天命斬さえも通じない防御力を誇っていた。尚文は、オロチの再生する頭をすべて同時に破壊することで結界が弱まることに気付き、戦術を切り替えた。
総攻撃と結界破壊
サディナが雷撃で四つの頭を破壊し、ガエリオン、フォウル、フィーロが残りの頭を狙った。全ての頭が潰された瞬間、紫色の結界が消失し、ラフタリアが桜天結界を破壊することで、オロチの加護を完全に剥ぎ取った。
トドメの一撃とオロチの消滅
サディナとガエリオンが大規模な浄化魔法を発動し、オロチの肉体を消滅させた。同時に、ラフタリアとラフちゃんが最終攻撃を放ち、オロチの核を肉体から弾き出した。分身も樹たちの手によって撃破され、戦いは決着を迎えた。
飛び去る核の追跡
戦いを終えた尚文たちだったが、オロチの核が弾き飛ばされたまま行方不明となっていた。アトラが不穏な気配を察知し、尚文たちは急いで核の行方を追うことにした。
三話 呪われし天叢雲剣
呪われた剣の発見
尚文たちは、飛ばされた核を追って地面に突き刺さった剣を発見した。白い刀身の中心には核のようなものが嵌め込まれ、周囲の地面は紫色の瘴気に侵食され始めていた。ラフタリアは、このままでは再び魔物が再生すると警告し、早急な処分を提案した。ガエリオンが核を処理しようとしたが、弾かれてしまい、瘴気の強さが問題となった。尚文は、その剣を「呪われし天叢雲剣」と認識したものの、強力な呪いが込められているため慎重に扱う必要があった。
剣の処分方法を巡る議論
リーシアは剣の勇者・錬に託してから処分することを提案したが、呪われた装備を持たせることへの不安もあった。一方で放置すればオロチが復活する可能性があるため、適切な方法で処分しなければならなかった。尚文は、盾に収納する案も考えたが、過去の魔竜の一件を思い出し、それは避けるべきだと判断した。
元康二号の介入と呪いの制圧
そこに武器屋の親父と元康二号が現れ、戦いの壮絶さに驚きながらも、剣をどうするのかと尋ねた。尚文が状況を説明すると、元康二号は剣の品質を確認し、そのまま柄を握って引き抜いた。すると、剣から紫色の瘴気が溢れ出したが、彼は一喝してこれを抑え込んだ。鍛冶師としての経験から、呪われた武器を扱う技術を持っていたのである。
剣の再鍛造の決定
元康二号は、この剣をそのまま使うことは不可能だと判断し、鍛え直す必要があると述べた。尚文は、武器屋の親父にも処理できるか尋ねたが、彼は「まだ師匠には及ばない」として断った。最終的に、元康二号と武器屋の親父が共同で剣を鍛え直すことになり、尚文たちも必要な素材を集める形で協力することになった。
町の被害と革命派の動き
ラルヴァの報告によれば、港町の一部が崩壊したものの、怪我人はごく少数に留まったという。しかし、古墳周辺には瘴気が残り、修復には時間がかかるとのことだった。尚文は、封印された魔物を解き放ち、革命派を攻撃しようとしたクテンロウの国政に大義がないと指摘し、これを機にさらに国民を煽動することを決意した。
革命派の士気向上
尚文は大きな声で演説し、天命派が国を守る意思がないことを強調した。それを聞いたラルヴァたちは意志を固め、尚文の指導のもとで反乱を加速させることを誓った。ラフタリアは尚文のやり方に多少の違和感を抱きつつも、国を正すためには仕方がないと納得した。
フィーロの存在への関心
戦いの後、革命派の兵士たちはフィーロに注目した。彼女のフィロリアルとしての白い姿と桜色の模様に、何か重要な意味があるのではないかと考えたのだ。尚文はその意図を測りかねながらも、クテンロウの伝承や信仰に関わる可能性を考えた。
四話 追い風
革命派の拡大と戦意の低下
翌日、近隣の町々から多くの顔役や権力者が革命派の軍門に下ることを望み、頭を下げに来た。国が封じられた化け物の封印を解き、尚文たちを排除しようとした行為は、彼らにとっても過剰だったようである。国側は尚文たちのせいで封印が解けたと弁明したが、天命が化け物に祝福を施していた事実と、生類憐みの令による信頼低下の影響で信用されなかった。その結果、天命を支持する勢力が軍を率いて革命派に戦いを挑んだが、フィーロの姿を見ると戦意を喪失し、ほとんど相手にならなかった。
フィーロの象徴的な存在
クテンロウ国内には様々な伝承が存在し、その中にはフィーロのような存在が特別視されるものがあった。そのため、天命派の者たちはフィーロを「異国の邪神に囚われた神鳥」とみなし、奪還を目指す者が現れた。これにより、敵の目的はラフタリアの命とフィーロの捕縛の二つになった。ラフタリアは桜天命石の祝福に対応できるようになり、アストラルエンチャントを受けた敵に対しても、太極陣天命斬で即座に無力化できるようになった。その結果、革命派は破竹の勢いで勢力を拡大し、国民も新たな天命を迎え入れる準備を進めた。
封印された化け物と呪われた武器
天命派は尚文たちの侵攻を妨害するため、近くに封じられていた化け物の封印を解き続けた。しかし、その行為が風評を悪化させ、国民の支持を失う結果となった。尚文たちは封印が解かれた化け物と戦うことになり、それを討伐すると呪われた武器がドロップすることが判明した。これまでに剣、ツメ、槍、斧の四種類が確認されており、封印されている魔物の数は不明であった。最近では斥候を送り、封印を解こうとする者を事前に捕縛することで対策を進めていた。
フィーロが狙われる理由
フィーロが執拗に狙われる理由は、天命派が崇拝する神鳥がフィロリアルであり、国の権威の象徴が桜光樹であるためだった。フィーロの外見がその伝承に合致しており、信仰心の強い者ほど彼女に手を出せなくなっていた。これは、江戸幕府における家紋柄の動物のような存在であり、忠義心が高い者ほど戦えないという構造があった。そのため、尚文はフィーロにしばらくフィロリアルの姿で行動するよう指示した。
セインとの再会
革命が進む中、尚文たちは異世界の眷属器持ちであるセインと再会した。セインはゼルトブル出身の異世界人で、元いた世界が滅びた後、波に乗じて各世界を渡り歩いていた。彼女はシルトヴェルトでの調査を任されていたが、尚文の無茶な行動を見かねて船を手配し、クテンロウまで追ってきた。セインは尚文への忠誠心が強く、護衛として役に立ちたいと願っていたが、結界の影響で転移が使えず、行動に制限があった。
革命の加速と魔物狩り
尚文たちは戦闘だけでなく、クテンロウの治安改善のために魔物狩りも行った。生類憐みの令によって国民は魔物を討伐できず、被害が拡大していた。しかし、革命派に加わった勢力はこぞって魔物狩りを行い、尚文たちに素材を献上するようになった。クテンロウの魔物は妖怪のような姿をしており、経験値が多く得られるため、戦闘の効率が良かった。サディナは雷の魔法で魔物を次々と討伐し、戦闘で最も活躍した。
支配領域の拡大とフィーロの重要性
尚文たちは数日間でクテンロウの三分の一を支配下に置いた。この速度は予想以上であり、直接敵天命の首を取るよりも早く進んでいた。国の奥深くに進むにつれ、フィーロに似た神鳥の像が増えてきたことが確認された。フィーロの姿と桜光樹の関係が、国の象徴的な存在として認識されていたのは間違いなかった。尚文は、かつてフィトリアがこの国を訪れた可能性を考えたが、フィーロを媒介とする通信は発動していなかったため、結界の影響かもしれないと推測した。
元康二号の問題行動
そんな中、元康二号がクテンロウの町でナンパしている姿を発見した。武器屋の親父の目を盗んで抜け出し、町で遊んでいたらしく、尚文が問い詰めると視線を逸らしながら誤魔化した。尚文は彼の持っていた金を没収し、武器屋の親父に返却することにした。その後、元康二号を連行する役目をフォウルとガエリオンに任せた。元康二号は女に連行されることを期待していたが、男二人に拘束されたことで大いに不満を漏らした。
セインの武器と新たな計画
セインは元康二号が作成した桜天命石のハサミに満足していた。彼女の眷属器は破損しているため、代わりとなる武器を求めていたようだった。また、セインはラフちゃんをモデルにした巨大なぬいぐるみの作成を提案したが、尚文は喋らないことを条件に許可するつもりだった。しかし、ラフタリアはこれを即座に却下した。尚文たちは次の作戦を立てるため、町の司令部へと戻ることにした。
今後の課題と戦闘準備
司令部に戻った尚文は、変幻無双流の修行やリベレイションクラスの魔法習得を考えていた。リベレイションクラスの魔法はオストと共に使用したことがあったが、それ以来発動できずにいた。尚文は鳳凰戦に備え、この魔法を習得することを目標とした。クテンロウの制圧は順調に進んでいたが、次なる敵の動向にも注意を払う必要があった。
五話 相手側の情報
旧都攻略の方針と天命の継承
革命派の首脳陣が集まり、旧都攻略の方針について議論が行われた。旧都に到達すれば、戦況は革命派にとって更に有利となる見込みであった。そこではラフタリアの正式な天命継承の儀を執り行うことが可能であり、彼女が祝福を施せば、傘下の兵士たちは大幅に戦力を強化できると考えられた。しかし、桜天命石の結界は異なるもの同士が反発する性質を持っており、敵は妨害を仕掛けてくる可能性が高かった。これまでの戦闘でも、ラフタリアが祝福の力を無力化していたため、敵の桜天命石の効果は薄れていたが、油断はできなかった。
天命派の誤算と指導者マキナ
敵対する天命派の指導者たちは、ラフタリアを軽視し、革命派を侮る姿勢を崩していなかった。その背景には、天命派の後見人であるマキナの影響があった。マキナは元々シルトヴェルトから布教のために派遣された宣教師であったが、先々代の天命に気に入られ、やがて国の実権を掌握するに至った。彼女は重税を課し、国の交易を圧迫するなど、国政を私物化していた。また、天命の一族が暗殺された事件にも関与が疑われたが、確たる証拠はなく、現在の天命の後見人の地位を維持していた。
水竜の巫女とサディナの関係
革命派が警戒すべき存在として、水竜の巫女の存在が挙げられた。水竜の巫女は天命から祝福を受けた刺客であり、サディナの後任にあたる人物であった。しかも、その巫女はサディナの妹であることが明らかになった。サディナ自身はその事実を知らされておらず、巫女の里では、彼女に匹敵する後継者を作るために非人道的な手段が用いられたとの証言もあった。巫女の一族は、サディナ以上の力を持つ後継者を育成することに固執していたようである。
巫女の能力と神託の力
当代の水竜の巫女は、神託の力を持つとされ、天命のもとで活動していた。神託とは、神の声を聞く特殊な才能であり、天命派の巫女や神主たちの中でも特に重要視される能力であった。サディナ自身はこの力を持たなかったが、当代の巫女は虚言を弄する者たちを見抜き、排斥することに成功していた。そのため、真の神託を持つ者として信頼されており、天命派の中でも特に影響力が大きい存在とされていた。
革命派の進軍と天命派の崩壊
革命派の進軍は順調であり、クテンロウの支配地域は拡大を続けていた。戦争を望まない領主や国民は次々と革命派に寝返り、内部分裂が続いていた。天命派の上層部は、封印されていた化け物を解き放つという愚策を繰り返し、国民の信頼を完全に失っていた。もはや攻城戦を想定する必要すらなく、革命派の勢力は雪崩のように広がっていた。
旧都への進軍と過去の記憶
旧都はラフタリアの両親の思い出の場所でもあり、彼女にとっても重要な地であった。尚文は、ラフタリアが望めば、この国の未来を託すことも視野に入れていた。そのため、旧都への進軍は単なる戦略的な目的だけでなく、ラフタリアの過去を知る旅でもあった。
夜間のパレードと革命の加速
尚文たちは夜間のパレードを計画し、ラフタリアの威光を広めることで、更なる支持を獲得しようとした。また、フォウルには買い物の付き添いを命じ、アトラには兄の失敗を願うのではなく、協力するように促した。尚文は自身の過去と重ねながら、兄弟の関係について考える場面もあった。こうして、革命派は次なる戦いに向けて準備を進めていった。
六話 気の運用
気の習得と稽古の進展
尚文は日々の稽古を続けていたが、本格的な鍛錬は久しぶりであった。アトラとラフタリアの組み手を見守る中で、アトラの攻撃が魔力ではなく気の流れによるものだと気づいた。ラフタリアは木刀に力を込め、その攻撃を弾き返していた。その様子を見ているうちに、尚文自身も気の流れを視認できるようになり、訓練次第では防御比例攻撃への対策が可能であると確信した。
リーシアによる確認と変幻無双流の特性
尚文は気の習得を確認するため、変幻無双流を習得しているリーシアに見てもらうことにした。リーシアの指導のもと、投擲具に込められた気を視認し、防御しようと試みたが、変幻無双流には回避と受け流しの技法しかなく、防御の型が存在しないことが判明した。そのため、尚文は自身の戦い方に適した技術を編み出す必要があると理解した。
セインの技術と気の応用
稽古の最中、セインが尚文の鍛錬を観察していた。彼女は攻撃を受け流す技術や、魔法を集めて再利用する技術を披露し、その応用の可能性を示した。尚文はこれらの技術を学ぶことで、防御能力をさらに向上させることができると考え、セインからの指導を受けることを決意した。
料理への気の活用と味の向上
その後、尚文は夕食の準備に取り掛かった。魚を捌く際に気を込めて包丁を使用すると、まな板まで切れるほどの鋭い切れ味を発揮した。その結果、料理の味が格段に向上し、ラフタリアやフィーロたちは驚きながら食事を楽しんだ。尚文は気の応用範囲の広さを実感し、新たな可能性を見出した。
夜のパレードと革命派の支持
食事後、ラフタリアとフィーロはクテンロウの町を巡るパレードに参加した。フィーロは特別な馬車を引き、ラフタリアは巫女服姿で民衆に手を振った。民衆の歓声は大きく、革命派の士気はさらに高まった。また、商人たちの間ではラフタリアの姿絵が売られ、革命派の資金源の一つとなっていた。
アトラとフォウルの買い物
パレード後、屋敷に戻ると、アトラが疲れ切った様子で座っていた。フォウルが彼女を連れ回し、衣装を選ばせていたためである。アトラは不満を漏らしていたが、フォウルはさらに翌日の買い物の計画を立てていた。ラフタリアはそれを聞いて呆れながらも、尚文の計画を理解していた。
尚文の夜の外出
尚文は夜の間に屋敷を出て、武器屋の親父のもとへ向かうことにした。アトラは同行を希望したが、尚文は彼女をラフタリアたちに任せ、休息を取らせることにした。フィーロやガエリオンも屋敷に残し、尚文は単独での行動を開始した。
七話 方向音痴
夜のクテンロウと鍛冶場への訪問
尚文はパレード用の装備ではなく、クテンロウに合わせた衣装を身にまとい、夜の町へと繰り出した。町は内戦中にも関わらず活気があり、桜光樹の淡い光が風情を演出していた。尚文の目的は、鍛冶屋の親父に気の習得を報告し、技術の応用について相談することであった。
道に迷う謎の女
鍛冶場へ向かう途中、尚文はぼんやりとした表情の女に道を尋ねられた。指し示した方角に進んだかと思うと、すぐに別の方向へと歩き出す彼女の様子に違和感を覚えた。尚文とセインは不思議に思いながらも、その場を後にし、鍛冶場へと向かった。
鍛冶場での会話と気の応用
鍛冶場では、親父が革命派の武器を修理し、元康二号が転がされていた。尚文は昼間の稽古で得た気の概念について親父に説明し、鍛冶にも応用できる可能性を示唆した。親父は気の流れを視認できなかったが、素材の声を聞くことの重要性を語った。一方、元康二号はふざけた態度を取りながらも、鍛冶の技術を披露し、武器に気を込める工程を見せた。その技量に尚文は感心し、気の習得がアイテム作成にも適用できることを確信した。
再び現れた方向音痴の女
鍛冶場での話が終わると、先ほど道を尋ねた女が再び現れ、またもや表通りへの道を問うた。尚文は彼女を連れて移動することにしたが、案の定、彼女は脇道へ逸れそうになり、尚文が手を引く羽目になった。迷子になる理由が理解できるほどの方向音痴ぶりであった。
酒場での宴と策略
元康二号はその女を酒に誘い、尚文たちも付き合うこととなった。女はゾディアと名乗り、酒を好む様子を見せた。一方で尚文は、元康二号を酔い潰すために密かにルコルの実を彼の酒に仕込んだ。ゾディアは酒を楽しみながらゲームを提案し、尚文たちはカード遊びを始めた。元康二号は負け続け、次第に酒の影響で動きが鈍くなった。
ゾディアの正体と別れ
やがて元康二号は酒に酔い潰れ、尚文は計画通り彼を抱えながら会計を済ませた。ゾディアは尚文に興味を抱き、婿にならないかと冗談めかして言った後、スキップしながらどこかへ去っていった。彼女の正体や目的は不明であったが、その自由奔放な態度が尚文にはサディナを思わせた。
屋敷への帰還
尚文は元康二号を鍛冶場の親父に預け、セインと共に足早に屋敷へ戻った。夜が更ける中、ゾディアの行方を気にしつつも、元康二号の扱いに苦労しながら帰路についたのであった。
八話 姉貴
屋敷での再会とフォウルの変化
尚文が屋敷に戻ると、ラフタリアが出迎えた。彼女は遅くまで起きていたが、尚文の帰りが遅れたことを気にしている様子だった。セインと共に元康二号を罠にはめて酔い潰したと説明すると、ラフタリアは呆れつつも納得した。
フォウルは突然ラフタリアを「姉貴」と呼び始めた。事情を尋ねると、アトラが尚文を追って屋敷を飛び出そうとした際、フォウルが彼女を止めようとして失敗し、ラフタリアに諭されたという。ラフタリアはフォウルに対し、兄としてアトラを甘やかしすぎることを指摘し、厳しく叱った。フォウルは反論したが、最終的にラフタリアの言葉に納得し、アトラを導く決意を固めた。
フォウルとアトラの戦い
ラフタリアの説教を受けたフォウルは、アトラが甘えすぎていることを悟り、彼女の前に立ちはだかった。アトラは怒りを露わにし、兄に向かって挑発したが、フォウルは決意を曲げなかった。結果として二人の戦いが始まり、その夜はフォウルが勝利を収めた。尚文は彼の成長に感心しつつも、その方法が脳筋的すぎると苦笑した。
ラフタリアも多少やりすぎたことを反省しつつ、フォウルの変化を見守った。アトラの教育が進めば尚文の負担も減るため、状況としては悪くない方向へ進んでいると判断した。
スキルの改良と新たな試み
翌日、旧都へ向かう準備が進められ、尚文たちは宿に滞在していた。稽古の時間を利用し、尚文はスキルに魔力を込める試みを行った。エアストシールドの発動後、その構造を観察すると、魔力の流れが不均一であることに気づいた。アトラに破壊を試みさせたところ、弱点を突かれ簡単に砕かれた。
そこで尚文は、魔力と気をより意識してスキルを発動し、より強固なエアストシールドを作り出そうとした。結果として多少の強化は見られたが、まだ完璧とは言えなかった。次に魔法の強化を試し、ファスト・ガードに魔力を込めたところ、通常よりも高い効果を発揮することを確認した。これにより、スキルや魔法の強化の可能性がさらに広がった。
セインの技術とラフちゃんの巫女服
セインも独自の方法で防御技術を披露し、アトラがそれを真似ることで更なる技の発展が見られた。周囲も徐々に気の使い方を理解し始めていた。
また、尚文はラフちゃん用の巫女服を注文しており、それが完成して届いた。ラフちゃんに着せてみると、ラフタリアに負けず劣らず似合っていた。尚文は巫女服ラフちゃんの魅力を広めるべく撫で回し、満足げな様子を見せた。フィーロも興味を示したが、彼女にはあまり似合わないだろうと尚文は判断した。
温泉と混浴問題
夜、尚文たちは温泉へ向かうことになった。クテンロウの温泉は呪いに効く効果があるとされており、尚文も期待していた。しかし、アトラは尚文と混浴したがり、フォウルがそれを阻止しようと奮闘した。尚文はフォウルの行動に同調し、アトラを諭すように促した。
サディナも混浴に興味を示したが、尚文はそれを拒否した。クテンロウには混浴文化があると説明されたものの、尚文は「痴女が男湯に入るのはおかしい」とバッサリ否定した。ラフタリアに監視を頼み、問題が起こらないようにした上で、尚文は温泉へ向かった。
騒がしい夜の終わり
尚文が温泉に入ると、アトラとフォウルが外で騒ぎ続けていた。アトラは尚文と共に入りたがり、フォウルはそれを阻止しようと必死だった。尚文はその様子を見て呆れながらも、騒がしい夜を過ごしながら、一人湯に浸かった。絆との日々を思い出し、今の状況が騒がしくも楽しいものだと感じたのであった。
九話 殺戮の巫女
宿の浴場での遭遇
尚文が宿の浴場に入ると、ゾディアが先に湯船に浸かっていた。彼女は方向音痴で迷い込んだらしく、男湯だと気づいていなかった。尚文は彼女を早く追い出そうとするが、ゾディアはのんびりとした態度で話を続けた。最終的に尚文の指示で脱衣所へ移動させたが、その後、彼女の姿が消えてしまった。
ゾディアの行方と騒がしい宿
尚文が風呂から上がると、ゾディアがいなくなっていた。フィーロとラフちゃんに女湯を確認させるが、彼女の姿はなかった。どこかへ迷い込んだのだろうと尚文は考え、再び現れた時に注意することを決めた。
その間も宿ではアトラ達が騒ぎ続けていた。セインに教わった技を使ってラフタリア達と戦っているらしく、サディナもその場に加わっていた。尚文はこれ以上騒ぎが大きくなる前に止めることにした。
サディナの過去と巫女としての役割
夜が更け、尚文はサディナと話をすることにした。彼はラフタリアの家柄やサディナ自身の経歴について詳しく聞くことを決めた。サディナは、彼女の家系が水竜の巫女であり、天命の裁きを執行する役割を担っていたことを語った。
彼女の生まれた村では、特定の血筋を重視する文化があり、天命の一族や巫女としての役割には厳格な規則があったという。サディナ自身は生まれつき雷の魔法を使えたが、それが珍しいために周囲と異なる立場にあった。
サディナとラフタリアの両親
サディナは幼少期から過酷な環境で育ち、厳しい役割を背負わされていた。しかし、そんな彼女を支えてくれたのが、ラフタリアの父親であった。彼は責任感が強く、人望も厚い人物だったが、天命の跡目争いに巻き込まれ、命を狙われる立場となった。
そのため、彼はサディナに国を出る相談を持ちかけた。サディナは水竜の助言を受け、彼らの護衛として共に逃亡することを決めた。こうして彼女はラフタリアの両親と行動を共にし、普通の家庭の温かさを知ることとなった。
逃亡生活とメルロマルクへの流れ
ラフタリアの両親と共に逃亡しながら、サディナは様々な国を巡った。最終的にメルロマルクに辿り着き、亜人融和政策を掲げる領主と接触した。そこで彼女は新たな生活を築きつつ、ラフタリアを守ることを最優先に考えていた。
しかし、その後の波の襲来で村は壊滅し、ラフタリアの両親も命を落とした。サディナは自分が守れなかったことを悔やみつつも、尚文に諭され、過去に囚われずに前へ進むことを決意した。
サディナの決意と尚文の反応
尚文はサディナの過去を聞いた上で、彼女が無理をしすぎていることを指摘した。彼女の努力は十分に認められるものであり、過去の出来事を必要以上に背負い込む必要はないと伝えた。
しかし、サディナは突然ふざけた態度に戻り、尚文の妻になりたいと冗談めかして言い出した。尚文は呆れつつも、彼女がまた無茶をしないように釘を刺し、その場を収めることにした。
その後、騒ぎを聞きつけたラフタリアがやってきて、サディナを叱責した。尚文はため息をつきながら、この騒がしい日々がまだ続くことを実感した。
十話 盾の強化方法
旧都への進軍と戦略会議
尚文たちは旧都へ向かう最終調整を行いながら進軍していた。敵軍は旧都前に陣を敷き、いつでも戦闘を開始できる態勢を整えていた。桜天命石の結界を活用する可能性はあったが、尚文たちの火力と戦術を考えれば、敵が籠城策を取ることは難しいと見ていた。
敵の奇襲と部隊の分配
進軍中、敵が尚文たちの占領した町や村に奇襲を仕掛けているとの報告が入った。国民の支持を失わないためにも、襲われた地域を無視するわけにはいかなかった。そこで尚文は、アトラ、ガエリオン、フォウルを率いる部隊を治安維持のために派遣することにした。アトラの士気は高く、シルトヴェルトの部隊とも連携を取れるため、適任だった。フォウルは渋ったものの、ラフタリアの説得を受けて参加を承諾し、ガエリオンと共に出発した。
旧都の陥落と敵軍の撤退
尚文たちが旧都に近づくと、敵軍が整然と並び、戦闘準備を整えていた。しかし、敵からの伝令が現れ、代表戦による決着を提案してきた。尚文は、敵が後方で奇襲を仕掛けていることを理由に即座に拒否し、伝令を追い返した。すると、敵軍は混乱し、統率が取れていない様子が見え始めた。
その後、敵軍は旧都の防衛を放棄し、撤退を始めた。伝令によると、水竜の巫女が撤退を指示し、旧都を無血開城することを決定したという。尚文は、降伏した軍を追撃することなく、旧都の占拠を完了した。
旧都の歓迎と急速な支配拡大
旧都では、革命派への支持が高く、市民の歓迎を受けた。一部の兵士も既に革命派へと傾倒しており、天命派の求心力の低下が明らかであった。
さらに、旧都の制圧を機に、地方へ左遷されていた優秀な将軍たちが次々と尚文たちに合流し、支配地域の拡大が急速に進んでいった。天命派の対応のまずさもあり、戦況は圧倒的に尚文たちに有利となっていた。
天命就任の儀式
尚文たちは旧都の城へ向かい、ラフタリアの天命就任の儀式が行われる聖域へと案内された。そこには、桜光樹が立ち、神聖な雰囲気が漂っていた。
革命派の重鎮たちが見守る中、儀式が開始され、桜光樹の光がラフタリアへと降り注いだ。彼女の身体が光を帯び、新たな力を得ていることが明らかになった。尚文もその儀式に巻き込まれ、「調停者の祝福」を授かることとなり、精霊拘束の制限解除や封印耐性を得た。さらに、ラフタリアは桜天命石の結界を自在に操る力も獲得し、今後の戦いで大きな戦力となることが確定した。
聖域に隠されていた龍刻の砂時計
儀式が進む中、尚文は聖域の奥に龍刻の砂時計があることに気づいた。この砂時計は特別なクラスアップを行うための施設であり、かつ遠距離転移の手段としても利用できるものだった。
革命派の重鎮たちはラフタリアの離脱を懸念したが、尚文は戦況を整理し、一時的にメルロマルクへ戻る決断を下した。
石碑に刻まれた勇者の強化方法
龍刻の砂時計の周囲には、三つの石碑があり、それぞれ勇者の強化方法について記されていた。尚文と樹が解読すると、そこには「強化方法の共有」「信頼による能力向上」「エネルギーブースト」についての記述があった。
これらの記述から、尚文はこれまでの自身の成長が、仲間たちとの信頼関係によって加速されていたことに気づいた。また、エネルギーブーストにより、新たに気を操る力を得ることも判明した。樹も同様に力を得たことで、尚文たちはさらなる強化の可能性を見出した。
メルロマルクへの帰還
強化方法の解明を進めるため、尚文たちは龍刻の砂時計を利用し、メルロマルクへ転移することを決定した。クテンロウの占領は完了したが、まだ多くの課題が残っており、今後の戦いに備えて新たな戦力を整える必要があった。
十一話 一時帰還
村への帰還と状況確認
尚文たちはポータルシールドを使い、村へ戻った。フィーロやラフちゃんが元気よく迎える中、キールが駆け寄り、ラフタリアを狙った敵を倒したのかと尋ねた。尚文は錬とも合流し、クテンロウでの進展や戦況について簡単に報告した。
錬によれば、村には敵の襲撃がまったくなく、クテンロウへの進攻が進んでいるため、敵も余裕がなくなっているのではないかとの見解を示した。また、出発前にエクレールの領主としての才能について否定的な発言をした影響で、彼女が不満を漏らしていたことが判明した。尚文はその話題を流しつつ、錬を侵攻部隊に加えることを決定した。
村の子供たちの要望と却下
キールをはじめとする村の子供たちは、ラフタリアの故郷を訪れたいと申し出た。しかし、クテンロウでは戦争が続いており、戦場に連れていくわけにはいかなかった。さらに、村を空ければ盗賊に狙われる可能性もあるため、全員の移動は却下された。
メルティに貴重品の管理を依頼する案も出たが、ラフタリアの意向もあり見送られた。尚文は、戦後に観光として訪れる機会を設けることを約束し、子供たちを納得させた。
呪いに効く温泉の発見
尚文は、クテンロウには呪いに効く温泉が存在することを思い出した。勇者たちは呪いによる弱体化が進んでおり、特に錬は戦闘能力の低下が深刻だったため、温泉での治療を優先事項とした。
また、シルトヴェルトに残っているラトやウィンディアの回収も検討された。彼らはシルトヴェルトの生態系調査を終えていたため、研究のためにクテンロウへ移動することになった。
鍛冶師たちの合流
尚文は、イミアの叔父を元康二号の工房へと連れて行った。彼は家庭の事情で鍛冶の修行が中途半端になっていたため、この機会に正式な鍛冶技術を学ぶこととなった。元康二号の工房は巨大な鍛冶場と製鉄所を兼ね備え、魔法的な設備も充実していた。
尚文は、霊亀の素材を提供できることを伝え、さらなる武器強化の可能性を示唆した。しかし、元康二号は尚文の干渉に反発しつつも、イミアの叔父を受け入れることとなった。
錬の武器強化と問題発生
尚文は、錬に強力な剣をコピーさせるため、工房へ案内した。しかし、浄化中の剣に触れさせるには時間が必要だった。錬は剣作りにも関心を示し、元康二号との会話の中で多少の指導を受けることが決まった。
しかし、錬が呪いによって触れた武器を劣化させてしまい、工房内で混乱が発生した。結果として、桜天命石の剣一本が損害となり、錬の武器強化にはさらなる対策が必要となった。尚文は錬の呪いを早期に治療するため、温泉への入浴を命じた。
十二話 先代と当代
旧都占拠と戦況の進展
旧都を占拠して数日が経過し、クテンロウの三分の二を掌握したことで、尚文たちは事実上、国を支配下に置いた。ラフタリアは巫女服をまとい、信仰を集めるために街宣活動を行った。各種族の代表者も続々と天命派を見限り、尚文たちの陣営に加わっていた。
一方、天命派の勢力は衰退し、水竜の巫女がテロ行為を抑制しようとしていたものの、毒婦の配下が暴走を続けていた。さらに、天命派が展開する桜天結界も、継承の儀を経たラフタリアの結界によって相殺可能であったため、戦局は尚文たちに有利に進んでいた。
作戦会議とラフタリアの心境
尚文たちは東の都への進軍を進めつつ、戦略を練るために作戦会議を開いた。ラフタリアは、自身の出生が知られることには複雑な感情を抱いていたが、尚文はクテンロウの安定のために彼女が果たすべき役割を説いた。
また、東の都では敵側から決闘の提案が届いた。勝てば水竜の巫女が投降し、負ければ革命派は撤退を余儀なくされるという条件であった。サディナが戦う意志を示したため、尚文たちはこれを受けることにした。
シルディナとの対決
サディナの対戦相手は、現水竜の巫女・シルディナであった。彼女は風の魔法を駆使し、さらに神託の力を使って過去の偉人や勇者の力を自身に宿すという特異な能力を有していた。
戦闘は熾烈を極め、シルディナはサディナの雷の力を利用しながら戦いを優位に進めた。しかし、サディナは意図的に雷を使わせ、その力を逆用することで形勢を逆転させた。やがて、シルディナが神託の力を極限まで引き出し、風と雷を纏った鎧を身にまとうと、戦局は更なる激化を見せた。
神託の暴走と正体の発覚
シルディナは最後の切り札として呪われた刀を用い、更なる力を発揮した。しかし、サディナは新たに習得した雷撃魔法「鳴神」を放ち、シルディナを打ち倒した。
その直後、尚文はシルディナの言動や特徴から、彼女がかつて酒を酌み交わした方向音痴の女性・ゾディアであることに気付いた。これにより、シルディナは動揺し、戦闘は思わぬ形で中断された。
神託の力の異常と戦闘の混乱
シルディナの体に刻まれた紋様が異常な光を放ち始め、彼女は苦しみ出した。ラフタリアが霊刀で紋様を斬ると、その影響が和らいだが、完全には消えなかった。さらに、天命派の一部が革命派を襲撃し、戦場は混乱に陥った。
その中で、突如シルディナの態度が一変し、戦闘を中止して革命派に投降するよう命じた。天命派の軍は動揺しつつも、その命令に従い始めた。
東の都への侵攻
シルディナは風の魔法を用いて単独で東の都へと向かった。その後、尚文たちも軍を率いて進軍を開始し、いよいよ最終決戦の舞台へと歩みを進めた。
十三話 過去の天命
城下町の混乱と城への進軍
城下町に侵入すると、城の方角から煙が上がっていた。城下の混乱は味方の軍に任せ、隊は城へ向かった。城門は開いており、容易に侵入できる状態であった。煙の原因は火災かもしれないと判断し、炎の鎮火を指示しながら進軍した。目的は敵側の天命の捕縛であり、すでに城内の見取り図は入手済みであった。しかし、混乱の最中に天命が城の天守にとどまる可能性は低いと考えられた。
城内での探索と発見
城内には兵士や貴族の死体が散乱していた。中には恐怖に震える貴族もおり、命乞いをする姿が見られた。彼から城内での異変について尋ねると、突如として強大な力を持つ者が現れ、次々と人々を殺害したと語った。貴族は極度の恐怖に陥り、ラフタリアの顔を見た瞬間に失神した。死体を確認すると、一部は鋭利な刃物で首を落とされ、他の者は強大な衝撃で上半身を潰されていた。兵士たちは明らかに武器による斬撃で殺害されていたが、身なりの良い者の死体は鈍器のようなもので打ち砕かれていた。
訓練場での遭遇
死体が続く方向へ進み、城の裏庭に出た。そこは訓練場であり、武器を装備した案山子が設置されていた。さらに、ラフタリアに似た姿の案山子も発見された。その時、地響きが響き渡り、訓練場の中央に巨大な穴と血の飛沫の跡が現れた。その場には巨大なハンマーを持つ巫女装束の少女が立っていた。彼女はラフタリアに酷似していたが、ラフタリアの姉妹である可能性は低かった。サディナは、この少女こそが敵側の天命ではないかと推測したが、情報と一致しなかった。
天命との対峙
その少女は、自らを「もう天命ではない」と名乗り、国の腐敗を断ち切るためにマキナを討ったと語った。しかし、マキナは霊体として残存し、シルディナへ憑依しようとしていた。彼女は他者の肉体を奪い取ることで生き延びようとしており、シルディナに対しても同様の企みを持っていた。シルディナはこれを阻止しようとしたが、亡霊の力は強大であり、簡単には排除できなかった。
亡霊との戦い
ラフタリア、錬、樹はソウルイーター素材の武器を用いて亡霊を攻撃したが、マキナは防御膜を展開し、状態異常を引き起こす黒い触手を用いて対抗した。ラフタリアたちは目視できない亡霊を攻撃する手段を模索し、ソウルイーターシールドの効果によって亡霊の姿を捉えることに成功した。聖水を用いたサディナの魔法攻撃も加わり、ついにマキナの霊体を撃破した。
シルディナの試練
戦闘の後、シルディナに憑依していた別の存在がラフタリアに決闘を申し込んだ。彼女は「調停者」としての立場を持ち、ラフタリアの力量を試そうとしていた。ラフタリアはこの挑戦を受け入れ、一騎打ちが開始された。
決闘の開始と幻術の応用
戦闘は高度な幻術の応酬となった。過去の天命はラフタリアを幻惑し、幻影を用いて翻弄した。ラフタリアもまた幻術を駆使して応戦したが、過去の天命の技術は一枚上手であり、彼女の攻撃を悉く封じ込めた。ラフタリアは精霊具の力を引き出しながら戦術を組み立て、ついに攻撃を命中させることに成功した。
決着と試練の終焉
最終的にラフタリアは精霊具の力を極限まで高め、過去の天命の猛攻を凌ぎながら、最後の一撃を繰り出した。これにより、過去の天命は敗北を認め、試練は終結した。彼女はラフタリアを認め、天命の使命を継ぐように告げると、その場から姿を消した。シルディナは意識を取り戻し、倒れ込んだ。
戦後の処理
ラフタリアはシルディナを受け止め、戦いの終結を確認した。彼女の状態は衰弱しており、早急な治療が必要であった。治療を施しながら、城の制圧を続行するよう指示が下された。戦いは終わったものの、クテンロウの行く末にはまだ不安が残されていた。
十四話 魔物の恐怖
天命の居場所と孤立
シルディナの応急手当てを終えた後、隊は城の天守閣へと向かった。城内に残っていた生存者の話によると、現在の天命は天守閣の間に一人でいるはずだという。彼は幼く、配下や重鎮たちはすでに逃亡し、ただ一人取り残されていた。マキナは「すぐに騒ぎは収まる」と天命に告げて去り、隠し通路から逃亡を図ったが、最終的には隊の目の前で滅ぼされた。クテンロウを混乱に陥れた張本人が、最後には無責任に逃げ出そうとしていたことに、隊の者たちは強い苛立ちを覚えた。
天命との対面
天守閣の奥にある天命の部屋へと進むと、そこには神主のような衣装を着た八歳ほどの少年がいた。彼はフィロリアルの雛を模したぬいぐるみを抱きしめ、怯えた目で隊を見つめていた。部屋の中はフィロリアルグッズで埋め尽くされ、ぬいぐるみや絵画、木像や銅像までが並んでいた。それらの装飾品には金や宝石で作られたものもあったが、よく見ると金メッキや安物の宝石が使われていた。少年は混乱し、マキナの行方を尋ねながら、助けを求めていた。
天命の自覚と責任
少年は自身の立場を理解しておらず、マキナの言葉を信じて待ち続けていた。しかし、隊が彼に告げたのは、もはや味方はおらず、彼自身に権力は残されていないという現実であった。少年は最初こそ驚いたが、やがて「マキナが戻らないことは気づいていた」と語った。さらに、周囲の者たちが彼を疎ましく思いながらも表向きは従っていたことも理解していた。彼は「それでも皆を信じたかった」と言葉を続けたが、返答は冷淡なものだった。自らの統治力の欠如により、部下たちが独断で暴走し、ラフタリアの命が狙われたことを考えれば、大目に見るわけにはいかなかった。
罰と試練
少年は天命としての敗北を認め、処刑を受け入れる覚悟を見せたが、彼を慕う者たちに罪はないとして寛大な処置を求めた。しかし、実際には彼を慕う者たちこそが問題の中心であり、少年自身にはそれほどの罪はなかった。彼は公務の場では「余」と名乗り、それ以外では「ボク」と使い分けていたことから、教育はそれなりに受けていたようであった。最終的に、天命の資格を剥奪し、今後の処遇を決めることが伝えられた。少年は静かに震えを抑えながら、それを受け入れた。
フィロリアルとの対面
隊は少年に恐怖を与え、天命の重さを理解させるため、フィロリアルクイーン形態のフィーロを対面させた。少年はフィロリアルを愛していたが、実際に生きたフィロリアルと接したことはなかったらしく、フィーロの威圧的な視線を受けて怯えた。フィーロは指示通り黙っていたため、猛禽類のような威圧感を与えた。少年は恐怖で腰を抜かし、命の危険を感じながら助けを求めた。最終的にフィーロが彼の襟首をくちばしで掴んで持ち上げると、革命派の重鎮たちはその様子を映像水晶で記録し、それを天命の処刑映像として国中に広めることになった。
少年の目覚めと決意
少年は自らの行為がどれほどの影響を与えたかを理解し、天命の資格を放棄することを決意した。革命派が新たな天命を支持する中、少年は「機会が与えられるなら、人々に迷惑をかけた分、償いたい」と語った。隊は彼の処遇について議論したが、単なる処刑ではなく、国外追放や教育の機会を与える方向で考えることとなった。
ラフちゃんとの対話
少年の関心をフィロリアルから別の方向へ向けるため、隊はラフちゃんを紹介した。少年は初めて見る魔物に興味を示し、すぐにラフちゃんを気に入った。これを機に、隊は少年に「フィロリアルよりも賢く、役に立つ魔物だ」と説明し、ラフタリアが彼の親戚であることを明かした。少年は驚きながらもその事実を受け入れ、ラフタリアとの関係を改めて考え始めた。
クテンロウの支配完了
秘密裏に少年を連れ出し、隊はクテンロウの支配を完了させた。驚くほどの速さで城を制圧できたことに、隊の者たち自身が驚くほどであった。戦後、アトラたちが駆けつけたが、すでに戦闘は終わっており、ラフタリアが戦いを終えた後であった。こうしてクテンロウの混乱は収束し、新たな時代への道が開かれた。
エピローグ 夕暮れ
シルディナの目覚め
東の都を占拠して二日が経過した頃、隊は医療所で療養中のシルディナを見舞った。彼女はちょうど意識を回復したばかりであったが、体力が戻りきっておらず、すぐに起き上がることはできなかった。同伴していたのはサディナと、変装して顔や尻尾を隠した子供である。フィーロを使った映像水晶が公開され、国民には天命が惨たらしく処刑されたと公表されていた。これは国民の怒りを沈めるための措置であった。
シルディナの心境
シルディナは意識を取り戻したものの、すぐに戦おうとする様子を見せた。隊はそれに呆れながらも、彼女の行動に疑問を抱いた。わずか一度しか会ったことのない者に魂の欠片を託すという決断が、なぜできたのかと。シルディナは、初めて素敵だと思った相手に出会ったからだと答えた。彼女にとって、それは革命派の天命を後押しするシルトヴェルトの神という、あまりにも出来すぎた巡り合わせであった。
サディナとのやり取り
サディナは冗談交じりに彼女をからかい、シルディナをさらに苛立たせた。彼女はサディナに対して複雑な感情を抱いていたが、サディナはそんな妹に対し、「もっと情熱的に攻めなければならない」と無邪気に挑発した。シルディナは反発したものの、サディナの強引な態度に押され、次第に心を開き始めていった。
役職の解任
隊はシルディナに対し、「殺戮の巫女」の役職を解任することを伝えた。心の底から嫌がっている者にそのような役割を続けさせる必要はないという判断であった。彼女が選ぶべきは水竜の巫女だけであり、サディナもまた、その立場に戻る気はなかった。シルディナは驚き、戸惑いを見せたが、それが彼女にとって自由への第一歩となることは明白であった。
過去の真相とマキナの裏切り
シルディナは過去の天命を降ろしていたが、その天命は当初からマキナを殺そうと企んでいた。しかし、シルディナ自身がそれを抑え込んでいたため、実際に手を下すことはなかった。マキナは彼女を完全に道具として利用し、最後には「飼い犬に手を噛まれた」と嘲笑しながら処分しようとした。シルディナはその言葉を思い出しながら、彼女に対する怒りと失望を噛み締めた。
新たな道への選択
隊はシルディナに対し、今後の生き方を自由に選ぶよう伝えた。過去のしがらみから解放され、彼女は自らの意思で新たな道を歩むことができるようになった。方向音痴という致命的な欠点はあったが、少なくともこれからは縛られることなく生きることができる。彼女はナオフミと飲み比べやカードゲームをする約束を交わし、これまでにない穏やかな表情を浮かべた。
サディナの復讐と故郷への帰還
サディナはシルディナを連れて生まれ故郷へ向かい、そこで虐待を繰り返していた者たちに報いを受けさせるつもりであった。シルディナは最初は戸惑いながらも、最終的には同行することを決意した。二人は獣化しながら並んで歩き、去っていった。その様子は、今までのすれ違いを乗り越え、新たな関係を築こうとしている姉妹の姿であった。
クテンロウの統治と戦いの終結
隊は城へと戻り、勝利の余韻に浸った。ラフタリアは天命としての責務を果たし、国の統治に尽力していた。戦勝ムードが漂う都の中、ナオフミはラフタリアと二人で旧都を見下ろしながら、これまでの戦いを振り返った。クテンロウの未来は革命派に託され、隊は役目を終えようとしていた。
新たな生活の始まり
ラフタリアは自身の出自を再確認しながらも、クテンロウではなく村の一員として生きることを望んだ。ナオフミもまた、シルトヴェルトの王となる気はなく、ただ利用できるものを利用したに過ぎなかった。二人はこれからの生活について語り合いながら、次なる歩みを進めていった。そして、静かに沈む夕日を見つめながら、未来へと思いを馳せるのだった。
同シリーズ
盾の勇者の成り上がり
小説版















漫画版


























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