どんな本?
主人公・岩谷尚文は、異世界に召喚され「盾の勇者」として世界を救う使命を負う。しかし、仲間の裏切りにより信頼と地位を失い、孤独な戦いを強いられる。そんな中、奴隷の少女ラフタリアやフィロリアルのフィーロと出会い、共に冒険を続ける。第7巻では、新たな敵や試練が彼らの前に立ちはだかり、物語はさらに深みを増していく。 
主要キャラクター
• 岩谷尚文:盾の勇者として召喚された青年。仲間の裏切りにより孤立するが、強い意志で困難に立ち向かう。
• ラフタリア:尚文が解放した奴隷の亜人少女。剣の使い手であり、尚文を信頼し支える。
• フィーロ:尚文が孵化させたフィロリアルという鳥型の魔物。明るく元気な性格で、仲間たちのムードメーカー。
物語の特徴
本作は、異世界召喚や勇者といった定番のファンタジー要素に加え、主人公の逆境からの成長や仲間との絆が描かれている。また、裏切りや陰謀などのダークな要素も含まれており、読者に深い感情移入を促す。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA/メディアファクトリー
• 発売日:2014年6月25日
• ISBN:4040667905
• メディア展開:本作はアニメ化もされており、2019年1月から6月まで第1期が放送された。さらに、2022年4月から6月に第2期、2023年10月から12月に第3期が放送された。第4期は2025年7月に放送予定である。
読んだ本のタイトル
盾の勇者の成り上がり 7
著者:アネコ ユサギ 氏
イラスト:弥南 せいら 氏
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あらすじ・内容
すべてを護りきれ! 異世界リベンジファンタジー第七弾!!
「一刻も早く、私を倒してください」
妖艶な雰囲気を漂わせ、美女オストは尚文に告げた。
四霊と呼ばれる強力な魔物の一つである霊亀の暴走を、仲間たちと共に阻止した盾の勇者尚文。霊亀討伐の際に行方不明となった他の勇者たちを捜索する先で、霊亀の使い魔だと名乗る美女、オストと出会う。
彼女によって告げられたのは、霊亀は生きているという事実と、霊亀を操り世界を滅ぼそうとする黒幕の存在……!?
全てを護りきれ! 異世界リベンジファンタジー第七弾、ここに登場!
感想
霊亀の使い魔・オストの存在感
本巻で最も印象に残ったのは、オストの存在である。
彼女は霊亀の使い魔でありながら、尚文に協力し、最後まで自らの役割を果たそうとした。
その忠誠心と自己犠牲の精神は、尚文にとっても特別なものとなった。
最終的に彼女は消滅する運命にあったが、尚文が彼女を信じたことが物語の重要な要素となった。
三勇者の情けなさ
本巻では、行方不明となっていた元康・錬・樹が再登場したものの、彼らの扱いは散々であった。
霊亀のエネルギー源として囚われ、自力で脱出することもできず、敵からも「偽物」と侮られる有様であった。
特に、元康は仲間に見捨てられ、樹は仲間と対立して捕まるなど、勇者としての威厳はほとんどなかった。
彼らと比べると、尚文の成長ぶりが際立っていた。
異世界の眷属器勇者・キョウの小物感
本巻の黒幕であるキョウは、霊亀を操り、尚文たちの行動を妨害する。しかし、その態度は終始小物臭が漂う陰険な雰囲気であった。
彼の計画は確かに危険であったが、その振る舞いや言動が軽薄であり、尚文たちの怒りを買うばかりであった。結果として、最後の最後で逃げられたことは不快感が残った。
戦闘の長さと緊張感
本巻では霊亀との戦闘が多く、特に霊亀内部での探索は緊張感があった。しかし、戦闘描写が長いため、やや冗長に感じられる部分もあった。
コマンド技を交互に繰り出すような戦いが続き、もう少しスピーディーに進めても良かったのではないかと感じた。
新たな旅立ち
最後に、尚文は霊亀の便宜で異世界へ渡ることを決意する。これはこれまでの物語の舞台を超え、新たな冒険へと進む重要な転機である。
ラルクたちと共に、キョウを追って異世界へ向かう展開は、次巻への期待を高めた。
総評
本巻は、霊亀戦のクライマックスであり、オストの存在感が強く印象に残った。
一方で、三勇者の情けなさや、戦闘の長さがやや気になった。
しかし、物語のスケールがさらに広がり、次巻への期待が高まる内容であった。異世界での戦いがどのように描かれるのか、楽しみにしたい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ 捜索
勇者捜索と尚文の過去
尚文は、フィーロが引く馬車で荒れ果てた大地を進みながら、行方不明となった勇者たちを捜索していた。長期間にわたり、元康、錬、樹の姿を追い求めていたが、手がかりは得られていなかった。ラフタリアは尚文の呼びかけが荒々しいと指摘したが、尚文は何日も探索を続けた疲れから苛立ちを隠せなかった。
彼の過去は、日本の大学生でありながら、異世界へ召喚され、「盾の勇者」として波と呼ばれる災厄に立ち向かうことを強いられたものであった。しかし、仲間の裏切りによって冤罪を着せられ、盾の勇者としての戦闘能力の制約も相まって、絶望的な状況に置かれることとなった。
戦闘に適応するため、尚文は奴隷商でラフタリアを購入し、彼女と共に強くなりながら旅を続けることになった。ラフタリアは当初幼い少女だったが、亜人の特性により急速に成長し、今では頼れる戦士となった。
フィーロと勇者たちの特徴
尚文の旅には、フィロリアルのフィーロも同行していた。彼女はフィロリアルクイーンへ進化し、馬車を引くことを好む特殊な魔物である。人型に変身できる能力も持ち、金髪碧眼の少女の姿になることができた。
一方で、尚文が捜索していた勇者たちは、それぞれ異なるゲームの世界観を信じていた。剣の勇者・天木錬は、孤独を好むクールな性格であり、VRMMOの知識を元に戦っていた。槍の勇者・北村元康は、女性関係に奔放な性格で、オンラインゲームの世界観を信じ込んでいた。そして弓の勇者・川澄樹は、自己中心的な正義感を持ち、独善的な行動を繰り返していた。
カルミラ島での戦いと勇者たちの失踪
尚文と三勇者は、カルミラ島でのレベル上げを経て、強化方法について話し合った。しかし、それぞれの強化方法を信じず、対立が深まった。結果的に、尚文だけが強化方法を正しく理解し、他の勇者たちとの実力差が広がった。
その後、尚文たちは霊亀の使い魔の討伐を依頼される。勇者たちは、独自の判断で霊亀に正面から挑んだが、消息を絶った。尚文たちは連合軍と協力し、霊亀の討伐に成功したものの、青い砂時計の表示は消えず、異変が続いていた。
勇者たちの捜索と新たな事件の兆し
尚文は勇者たちの行方を追い、彼らが最後に姿を見せた場所へ向かっていた。ラフタリアは、災害の被害者たちがまだ危険にさらされていることを憂慮していた。探索を続ける中、フィーロは悲鳴を聞きつけ、馬車を急発進させた。
尚文たちは、その悲鳴の元へと向かい、さらなる異変と新たな脅威に直面することとなる。事件はまだ終わっていなかったのである。
一話 人助けの真意
魔物の襲撃と戦闘
尚文たちが声の元へ向かうと、霊亀の使い魔(蝙蝠型)が人々を襲っていた。この魔物は霊亀の本体が討伐された後も活動を続けており、最も多く確認されている種類であった。尚文は馬車を降り、襲われている人々を守るために前へ出た。盾を構え、使い魔の熱線を防ぎながら、注意を引くスキルを発動することで戦闘を開始した。
ラフタリアとフィーロもそれに続き、次々と使い魔を撃破していった。フィーロはラフタリアを背に乗せ、高速で飛び回る使い魔を討伐していった。二人の連携により、戦闘は短時間で決着し、襲われていた人々の安全が確保された。
新たな敵の出現
フィーロが異変を察知し、さらに強力な霊亀の使い魔(雪男型)の出現を知らせた。雪男型は蝙蝠型とは異なり、強靭な体躯と戦闘力を兼ね備えており、並の冒険者では太刀打ちできない相手であった。尚文はラフタリアとフィーロに討伐を指示し、二人は必殺技を駆使して雪男型を撃破した。戦闘後、周囲を確認したが、他の魔物の気配はなかったため、一旦警戒を解いた。
襲われた人々と火事場泥棒
尚文は助けた人々に状況を尋ねたが、彼らは霊亀による被害で住処を失った避難民であった。しかし、尚文はその言葉を完全には信用していなかった。この混乱の中、火事場泥棒が横行しており、危険な地域に踏み込んで宝を盗もうとする者も多かったためである。
念のために所持品を確認させると、やはり彼らは略奪品を隠し持っていた。尚文はそれを没収し、安全な場所へ送ることを条件に、彼らを馬車に乗せることにした。
剣の勇者の目撃情報
馬車の中で、尚文は勇者たちの目撃情報を尋ねた。その中の一人が、剣の勇者・天木錬らしき人物が霊亀に立ち向かっていたという証言をした。彼は黒い服をまとい、一人で剣を振るいながら戦っていたという。尚文は地図を広げ、証言の場所を確認したところ、それは錬が最後に消息を絶った町の近くであった。
他の勇者についての情報は得られなかったが、剣の勇者の存在は確認できた。尚文は、この証言を手がかりに捜索を進めることを決意した。
城への帰還と捜索の行き詰まり
その後、尚文たちは火事場泥棒たちを安全な町へ送り届け、城へと戻った。彼らの移動には、勇者だけが使用できる転移スキル「ポータルシールド」を用いた。メルロマルクの城に到着すると、フィーロはメルティの元へ向かい、尚文はリーシアとエクレールに迎えられた。
尚文は彼女たちに捜索の進捗を報告したが、依然として勇者たちの行方は掴めていなかった。霊亀の討伐からすでに一週間が経過し、依然として四聖勇者の不在が続いていた。女王とも協議を重ねたが、新たな手掛かりはなく、事態の収束には時間がかかると見られていた。
この時、尚文は翌日に何か大きな事件が起こるとは予想していなかった。だが、捜索はまだ終わっておらず、彼は勇者たちを見つける旅を続けていくことを決意していた。
二 話 霊亀の使い魔(人型)
町への帰還と異変の発生
尚文たちは、前日に訪れた町へポータルで戻った。到着すると、町中に悲鳴が響き渡り、人々が逃げ惑っていた。異変を察知したラフタリアとフィーロが指し示す方向には、巨大な黒い影が迫っていた。それは「霊亀の使い魔(寄生混合統括型)」と呼ばれる魔物で、全長約八メートルの異形の怪物であった。ドラゴンのような胴体にカマキリの鎌を持ち、獅子の頭を備え、さらに霊亀の特徴である甲羅を背負っていた。異常な姿に違和感を覚えつつも、尚文たちは討伐に向かった。
戦闘の開始と魔物の異常な再生能力
フィーロが先陣を切り、ドラゴンの頭部に蹴りを叩き込むと、腐敗した肉が飛び散り、頭が千切れた。しかし、その様子を見たフィーロは「この相手は腐っている」と違和感を訴えた。霊亀の能力によって、死体を苗床にしている可能性が高いと判断し、注意を払う必要があった。
さらに、敵の挙動には異様な点があった。落とした鎌や頭部から筋のようなものが伸び、元の部位へと戻っていった。霊亀の使い魔の特徴を踏まえると、これは通常の回復ではなく、複数の魔物の部位をつぎはぎにしている証拠であった。
増殖する霊亀の使い魔
フィーロの直感によれば、この魔物を下手に攻撃すると増殖する危険があった。ラフタリアが剣で敵の腕を斬り落とすと、その断面から「霊亀の使い魔(蝙蝠型)」が次々と湧き出してきた。つまり、この魔物は寄生と統括によって複数の使い魔を束ね、自己修復しながら戦い続ける仕組みになっていた。
尚文はこの状況を打破するため、効果的な攻撃方法を模索した。魔物を分裂させるのではなく、要となる部分を狙い、一撃で仕留める必要があった。彼は獅子の頭部が最も頻繁に動いていることから、そこが弱点であると推測し、ラフタリアとフィーロに狙わせることを決めた。
獅子の頭部への攻撃と敵の異常な耐久力
ラフタリアとフィーロは、それぞれ「陰陽剣」と「スパイラルストライク」を放ち、獅子の頭部を攻撃した。結果、頭部は横に切り裂かれ、フィーロの突撃で吹き飛んだ。しかし、それでも魔物は倒れなかった。
その時、尚文の背後から女の声が聞こえた。彼女は「その程度では倒せない」と告げ、霊亀の使い魔の後方に引きずっている何かを指し示した。そこでは、新たな部位が補填されるように巨大な目玉が生えていた。
謎の女の介入と霊亀の使い魔の正体
その女は、かつて尚文の前に現れ、彼に「自分を倒せ」と頼んできた人物だった。彼女は霊亀の使い魔の動きを制止する力を持ち、尚文たちにさらなる高威力の攻撃を求めた。
フィーロはメルティから学んだ「ドライファ・トルネイド」を発動し、巨大な竜巻を使い魔に叩きつけた。しかし、強力な風の刃でも魔物を完全に破壊するには至らなかった。尚文は、ここで自身の奥の手を使うことを決断した。
ラースシールドの発動と戦闘の終結
尚文は「ラースシールド」を召喚した。これは彼の憤怒を糧にする呪われた盾であり、過去に使用した際には自身の能力が大きく低下するほどの副作用をもたらした。しかし、これを使わなければ勝機は見いだせなかった。
彼はフィーロとラフタリアの助けを借り、理性を保ちながら前進し、敵の至近距離に到達した。そこへ霊亀の使い魔が鎌を振り下ろしたが、尚文は片手でそれを受け止め、ラースシールドの「ダークカースバーニングS」を発動させた。黒い炎が噴き出し、霊亀の使い魔(寄生混合統括型)と周囲の使い魔を焼き尽くした。最終的に、全ての魔物は黒焦げの残骸となり、戦闘は終結した。
謎の女の正体の判明
戦いの後、尚文は謎の女に問いかけた。彼女はこれまで自身を「倒してほしい」とだけ語っていたが、ここでついに正体を明かした。
彼女は「霊亀の使い魔(人型)」であり、霊亀の分身であると告げた。彼女の存在は、尚文たちの戦いに新たな局面をもたらすものだった。
三 話 霊亀の再動
霊亀の使い魔(人型)との対話
尚文は、目の前の女が「霊亀の使い魔(人型)」であると名乗ることに疑問を抱きつつも、話を聞くことにした。女は猶予が少ないと述べ、西の空を見つめていた。ポータルシールドの制限で城への転移は不可能であり、尚文は会話の場として冒険者ギルドを利用することを決めた。
ギルド内は静まり返っており、勇敢な冒険者たちは霊亀の使い魔の残党を討伐に向かっていた。尚文は女王からの書状を提示し、会議室へ案内される。そこに霊亀の使い魔(人型)と名乗る女を招き、詳しい話を聞くことにした。
霊亀の役割と犠牲の真相
女はローブを脱ぎ、中華風の服装を見せた。彼女はかつて霊亀が封印されていた国の王に取り入り、国を腐敗させ、人々の命を奪い、魂を蓄える役割を担っていたと告白した。その目的は、災厄の波から世界を守るための防壁を作ることだったという。
尚文は、その話がフィロリアルの女王・フィトリアの言葉と一致することを確認した。霊亀は命を奪い、その魂を結界に変換して世界を守る存在であり、過去の勇者たちもその役割を理解していた。しかし、尚文にとっては関係のない話だった。彼が守るべきは、信頼できる仲間たちだけであった。
波の脅威度と霊亀の異常な行動
尚文は、視界に表示されている「青い砂時計」の意味を尋ねた。女は、それが「蓄積された魂」と「波の脅威度数」を表していると説明した。現在の波の脅威度は「7」に達しており、霊亀はその力を持つ敵に相当するという。尚文は、これまでの波と比べて敵が段階的に強くなっていることを実感した。
さらに、尚文は波の中から現れたグラスたちの存在について尋ねたが、女は「波にはそのような効果はない」と答えた。グラスたちの目的は、霊亀とは異なるものだった可能性が高い。
オスト・ホウライの名乗りと霊亀の異変
尚文は女に名前を尋ねた。彼女は「オスト・ホウライ」と名乗った。彼女は本来、霊亀の役割を遂行するために動いていたが、何者かによって霊亀本体が乗っ取られたため、尚文に協力を求めに来たのだという。
霊亀は適切な手順で封印を解かれたわけではなく、計画外の解放によって暴走していた。本来ならば、霊亀が暴れることで魂を集め、結界を張る予定だったが、現在はその機能が停止し、単に災厄を撒き散らす存在となっていた。
霊亀の正しい倒し方
尚文は、霊亀の頭を吹き飛ばしたはずだと指摘した。しかし、オストは「それだけでは霊亀は死なない」と否定した。霊亀を完全に討伐するためには正しい方法が必要だったが、彼女自身もその詳細を知らなかった。
尚文は、オストの目的が尚文を霊亀に挑ませるための罠ではないかと疑念を抱いた。そこへ、冒険者ギルドの係員が血相を変えて駆け込んできた。霊亀が活動を再開したとの報せが届き、尚文たちは即座に対応を迫られることとなった。
オストの協力と新たな仲間の編成
オストは尚文に協力を申し出たが、本体の動きを止めることはできないという。ただし、魔法による援護と使い魔の動きを鈍らせることは可能であると説明した。尚文はオストの能力を評価し、期間限定で仲間に加えることを決めた。
オストの得意な魔法は「土」と「援護魔法」、さらに現在では失伝している魔法も使用可能であった。彼女の能力はラフタリアよりも僅かに高く、フィーロには劣るが、全体的にバランスが取れていた。尚文はパーティーに迎え入れたものの、完全には信用していなかった。
霊亀討伐に向けた準備
尚文はポータルシールドを発動し、霊亀を倒した場所への転移を試みた。しかし、その地点に飛ぼうとした際、視界に砂嵐が発生し、転送が阻害された。オストは「本体周辺の地場の影響で転移ができなくなっている」と説明した。
尚文は、一度メルロマルクへ戻り、女王や仲間たちと合流することを決めた。ポータルシールドを使い、城の庭へと転移すると、そこでは女王やリーシア、エクレールたちが出発の準備をしていた。
女王との対話とオストの正体の暴露
尚文が霊亀の活動再開について報告すると、女王もすでに情報を得ており、霊亀の周囲を捜索していた兵士たちは退避を進めているが、一部は連絡が取れなくなっている状況であった。
さらに、女王はオストの姿を見て驚愕した。オストは霊亀の封印されていた国の王の妾として知られており、過去の政治的な会議で女王と対立したことがあった。女王はオストが尚文に同行している理由を問いただした。
オストは、霊亀が乗っ取られたこと、結界が作れなくなったことを女王に説明した。女王は慎重な態度を示しつつも、霊亀を阻止するという目的は一致しているため、協力を受け入れることを決めた。尚文は、ポータルで霊亀の元へ飛べない以上、直接向かう必要があると判断し、準備が整い次第出発することを決定した。
霊亀討伐への進軍
尚文の指示により、メルロマルクの兵士たちは出発の準備を整え、霊亀討伐のために進軍を開始した。オストの協力を得たことで戦力は増したが、尚文は彼女を完全には信用しておらず、警戒を怠らなかった。
霊亀が何者かに乗っ取られたという事実、そして霊亀を倒すための正しい方法が未だ不明であることが、尚文たちの前に大きな課題として立ちはだかっていた。
四 話 暴君霊亀
霊亀の進行と被害拡大
尚文たちはメルロマルクの城を出発して一日が経過した。その間、霊亀に関する情報が次々と伝えられ、現在は人の多い地域を優先して移動し、より強力な攻撃を放って甚大な被害を出していることが判明した。
馬車の中で女王は地図を広げ、霊亀の進行先を指し示した。すでに国内で大きな被害が出ており、尚文も旅の中で破壊された町を目にしていた。彼らが前回霊亀を討伐した際には、頭を吹き飛ばしたが、それだけでは倒せず、時間が経てば再生することが報告されていた。
七星勇者の状況と戦力評価
尚文は、七星勇者がどの程度役に立つのかを女王に尋ねた。彼らは霊亀が封印されていた国で調査を行っていたため、到着には時間がかかるという。女王は「尚文ほどの強さはないが、ラフタリアやフィーロと同等の力は持っている」と答えた。
しかし、それでは尚文の仲間の戦力と大差なく、迅速に討伐を進めるためにも彼らが先行するのが最善と判断された。尚文が作戦を確認しようとした矢先、フィーロが空を指差して何かの異変を知らせた。
異世界に似つかわしくない攻撃
尚文たちが視線を向けると、空に向かって何かが上昇し、その後、無数の巨大な串のようなものが降り注いだ。続いて、進行先の山に落下し、爆発音が響き渡った。辺りには凄まじい衝撃波が広がり、炎が立ち上り、大地が抉られていった。まるで戦争映画のような光景に尚文は驚愕した。
女王は「集団合成儀式魔法の一種である『隕石』の可能性がある」と推測したが、フィーロは「魔法とは違う感じがする」と異を唱えた。オストは、尚文の想像通り、それが霊亀の攻撃である可能性が高いと述べた。
変貌した霊亀の姿
馬車が見晴らしの良い場所へ到達すると、霊亀の姿がはっきりと確認できた。しかし、それは前回見たものとは異なり、狂犬病にかかったかのように口から涎を垂らし、目を赤く光らせながら歩いていた。
かつて霊亀の背にあった町の残骸も、成長や移動の影響でほとんど消え去っていた。その代わりに、巨大な棘を背負い、より凶暴な姿へと変貌していた。まるで「暴君霊亀」とでも呼ぶべき存在に進化しており、前回よりもはるかに速いペースで移動していた。
霊亀の新たな攻撃と町の壊滅
霊亀は突如として立ち止まり、背中の棘を射出した。その棘は天高く舞い上がり、しばらくして地上へ降り注ぐ。次の瞬間、広範囲に爆発が連鎖し、辺り一帯が破壊された。近くにあった町は一撃で消滅し、地形すら変化してしまった。
尚文は「これは広範囲爆撃ではないか」と驚き、その威力の凄まじさに戦慄した。ゲームならばラスボス級の攻撃だが、これは異世界の現実である。霊亀の暴走を止めなければ、さらなる被害が広がるのは確実だった。
連合軍との合流へ
尚文は、霊亀の動向を注視しながら、連合軍の所在を探した。しかし、辺りは瓦礫と化しており、視界が悪くなっていた。女王が指差した先に連合軍が遠巻きに分散陣形を取りながら移動しているのを確認した。霊亀は生命が多い場所を狙う習性があるため、彼らは標的にならないように散開していたのだ。
尚文は迅速な合流を決断し、フィーロの力を借りて連合軍の陣地へ急行することとなった。
五 話 被害甚大
連合軍との合流と作戦会議
尚文たちは連合軍と合流し、馬車の中で作戦会議を行った。連合軍は前回の戦いよりも分散した陣形を取り、誘導が成功しているため被害はあるものの死者は少ないと報告された。霊亀は依然として活動を続けており、甲羅の上には町の残骸がまだ存在しているという。
連合軍からは霊亀に関する研究資料が渡されたが、その場で確認する余裕はなかったため、リーシアに読ませることにした。さらに、尚文は霊亀の使い魔であるオストを紹介し、連合軍の幹部たちに霊亀の異常な行動について説明した。
連合軍の反発と尚文の指摘
オストの存在を知った連合軍の幹部たちは驚愕し、彼女が霊亀の使い魔であることを知ると怒りをあらわにした。霊亀によって多くの犠牲が出たことから、オストを糾弾し、一部の者は彼女を処刑すべきだと主張した。しかし、オストは自身の役割として霊亀の力を利用することで世界を守ることが目的であり、罪を認めることはなかった。
尚文は、連合軍の幹部たちに対し「勇者に頼ること自体が勇者を犠牲にする行為ではないのか」と問いかけた。彼らが勇者を召喚し、世界を救わせることが当然だと考えていることを指摘し、それが霊亀と本質的に変わらないことを示した。さらに「勇者が世界のために戦うのは当然だ」と主張する幹部に対し、「ならば、彼ら自身が犠牲になる覚悟はあるのか」と問い詰めた。
その言葉に幹部たちは黙り込み、最終的に女王が「霊亀を倒すという目的に変わりはない」として議論を収束させた。
戦術の確認と霊亀の異常
作戦会議の結果、尚文たちは再び霊亀の頭を攻撃して時間を稼ぐ方針を決定した。前回よりも攻撃が激化しているため、どこまで耐えられるかが問題であった。オストは霊亀の倒し方を知らなかったが、王族に取り入る過程で伝承を学んだことを明かしたため、尚文はリーシアと共に情報を整理するよう指示した。
霊亀は時折立ち止まることがあり、その間は最大で二時間ほど動かないことが確認された。この間に作戦を立てる時間を確保できると考えられたが、霊亀が停止している間に「大地の力」を吸収し、攻撃の準備をしている可能性が指摘された。
霊亀の魔力吸収と戦略の見直し
オストは「大地の力」とは経験値と大気に溶け込む魔力の二つであると説明し、霊亀はそれを利用して強力な攻撃を準備していることを示唆した。現在の位置では霊亀が容易にエネルギーを補給できるため、もう少し移動してから戦う方が有利だと判断された。
尚文たちは、霊亀の行動を慎重に見極めながら、適切な戦闘地点を見つけることを決めた。そして、霊亀の攻撃が再開するまでの間、準備を整えつつ、適切な戦術を練ることとなった。
六 話 VS霊亀前哨戦
霊亀の再始動と戦闘準備
霊亀が動き出し、尚文たちは戦闘に備えた。この一時間、尚文は霊亀に関する資料を確認していたが、内容は複雑で解読に時間を要した。特に、長年の間に失われた情報が多く、霊亀の封印や伝承に関する詳細は不明な点が多かった。リーシアによると、霊亀の体内に侵入する方法があるらしく、過去の勇者が残した碑文にもその記述があったという。しかし、詳細は不明であり、碑文の一部は破損していた。
霊亀への突撃と戦闘開始
尚文たちは馬車を駆って霊亀に突撃し、戦闘を開始した。霊亀は背中の棘を射出し、広範囲に爆発を引き起こすが、フィーロの機敏な動きによって回避しながら接近した。馬車内では激しい揺れに耐えながらも、オストが失われた魔法「重力反転、浮遊」を使用し、仲間たちの体を浮かせることで揺れを軽減した。この魔法は、重力を操作することで身体の負担を減らす効果があり、彼女の特殊な能力の一つであった。
霊亀の猛攻と防御戦
霊亀の攻撃が激化し、尚文は「流星盾」を展開して仲間を守った。さらに、ラフタリアとフィーロが必殺技を発動し、霊亀の喉を貫いた。エクレールやババアも援護攻撃を行い、尚文は「ツヴァイト・オーラ」などの支援魔法を使用して仲間の能力を強化した。オストも「金剛力」という魔法を使用し、仲間の攻撃力を向上させた。霊亀の頭部に致命傷を与えたことで、ついにその首を切断することに成功した。
霊亀の驚異的な再生能力
霊亀の首が落ち、戦闘が一段落したかに思えたが、驚くべきことに霊亀はすぐに頭部を再生させた。以前は首を落とせば一週間は動かなかったが、今回は即座に復活し、再び雷撃を放った。尚文は防御魔法を展開して雷撃を受け止めるが、強力な攻撃によって限界を迎えた。オストは尚文の盾に魔力を付与し、防御力を向上させたが、それでも尚文の体は焼かれ、大きなダメージを受けた。
撤退と戦略の見直し
霊亀の圧倒的な再生能力と攻撃の激化により、尚文たちは撤退を決断した。フィーロが馬車を引き、全速力で戦場を離脱した。尚文は、現状では霊亀に正攻法で勝つことが不可能だと判断し、女王やリーシアと協議して新たな戦略を練る必要があると考えた。霊亀の異常な能力に対抗するため、尚文たちは次の手を模索することとなった。
七 話 時間稼ぎ
霊亀の再生と絶望的な状況
尚文は本陣に戻り、連合軍の馬車で作戦会議に参加した。連合軍の上層部は霊亀の驚異的な再生能力に恐れを抱いていた。女王は封印の手段について言及したが、それは大規模な儀式魔法を必要とし、尚文たちが単独で使用できるものではなかった。オストは封印の要である地下寺院の像について説明し、それが未だ破壊されていない可能性を示唆した。尚文たちは封印の試みと、碑文の調査のどちらを優先すべきかを検討した。
フィトリアの援軍要請
作戦を練る最中、フィーロがフィトリアからの伝言を伝えた。フィトリアは霊亀討伐に協力するために向かっているが、到着まで約一時間かかるという。尚文は霊亀の進行を食い止める必要があると判断し、女王や連合軍に避難誘導を優先させるよう指示した。しかし、霊亀の進行速度を考えると、メルロマルクの城下町が被害を受けることは避けられそうになかった。
時間稼ぎの戦闘開始
尚文はフィーロとオストを連れ、霊亀の足止めに向かった。霊亀は尚文たちを発見すると、巨大な足を振り下ろして攻撃を開始した。尚文は「流星盾」と「ツヴァイト・オーラ」で防御を固め、オストの援護魔法を受けながら霊亀の足を押さえ込んだ。さらに、霊亀の使い魔「突撃型」が現れたが、オストの力を利用して魔力を奪い、支援を継続させる戦術を展開した。
霊亀の雷撃と耐久戦
霊亀は雷撃を放ち、尚文は「ラースシールド」で耐えた。しかし、その攻撃にはSPを奪う効果があり、尚文の体力は急速に削られた。オストは「魂光」を使用し、尚文のSPを回復させたが、霊亀の攻撃の頻度は次第に増していった。さらに、新たな使い魔「雷電突撃型」が出現し、フィーロが誤って蹴り飛ばした際に感電し、大きなダメージを受けた。尚文は避難誘導を急ぐようフィーロに指示し、女王からの追加支援を要請させた。
霊亀の圧倒的な耐久力
霊亀の攻撃は激化し、尚文の防御力を試すかのように次々と雷撃を放った。オストは「ドレインシール」でSPの吸収を防ぎ、尚文は「ラースシールド」と「ソウルイーターシールド」を使い分けて耐え続けた。しかし、時間とともに尚文とフィーロの体力は限界に近づき、戦闘の長期化による消耗が深刻になっていった。
フィトリアの到着と反撃
ついに、フィーロがフィトリアの到着を確認した。巨大なフィロリアルクイーンであるフィトリアは、霊亀に向かって一直線に突進し、圧倒的な力でその頭部を押し潰した。しかし、霊亀は即座に頭を再生し、雷撃で反撃した。フィトリアはそれを軽々と回避し、再び霊亀の頭を蹴り飛ばした。尚文は、まるで怪獣同士の戦いのような光景を目の当たりにしつつ、これ以上の戦闘は危険と判断し、一時撤退を決意した。
撤退と次なる戦略
尚文はフィーロに指示を出し、オストを連れて撤退を開始した。フィーロは高速で戦場を離脱し、尚文たちは連合軍のもとへ戻った。霊亀の脅威が依然として続く中、フィトリアの参戦が状況を打開する鍵となるかが問われることとなった。
八 話 探索
霊亀とフィトリアの激闘
尚文たちは霊亀と戦うフィトリアを遠くに見ながら、連合軍の元へ辿り着いた。尚文の鎧は破損が激しく、自動修復が追いついていない状態であった。一方、フィトリアは霊亀を相手に奮戦し、馬車を変形させて巨大なチャリオットと化し、霊亀へ突進を仕掛けた。しかし、霊亀は欠損した部分を即座に再生させ、雷を放って応戦した。フィトリアは霊亀の動きを封じることには成功していたが、甲羅の破壊には至らず、決定的な打撃を与えることはできなかった。
避難完了と作戦の決定
その頃、ラフタリアたちは避難誘導を終えて戻ってきた。メルロマルクの城下町の住民はほぼ避難を完了しており、次の作戦へ移行できる状況となった。女王は霊亀の体内に侵入し、封印を施すことが最善の策であると提案し、尚文もそれに同意した。また、勇者が残した碑文の解読も選択肢の一つとして挙げられたが、確実性が低いため並行して行動することが決まった。
霊亀の異変と体内への道
戦況を観察していた尚文は、霊亀の頭が増えていることに気づいた。それぞれの頭が雷を放ち、攻撃の手数が増えていたが、その分火力は若干低下していた。オストは尚文に霊亀をよく観察するよう促し、甲羅の根元にかつて山であった名残があることを示した。そこを登れば、霊亀の体内へ続く洞窟にたどり着ける可能性があった。霊亀の攻撃パターンを分析した結果、背中への乗り込みは比較的安全であると判断された。
霊亀への突入作戦
尚文はフィトリアに、霊亀の体内へ侵入する間の時間稼ぎを頼んだ。フィトリアは快諾し、戦闘を継続すると伝えてきた。尚文は連合軍に呼びかけ、心臓部を目指して霊亀に乗り込むことを決定した。女王も同行を決め、連合軍は士気を高めながら準備を整えた。
霊亀の甲羅への突入開始
ラフタリアやエクレールは疲労の色を見せながらも、尚文の指示に従い準備を整えた。エクレールは霊亀の変異に驚きを隠せなかったが、尚文は洞窟内に霊亀の使い魔が出現する可能性を指摘し、戦闘準備を怠らないように指示した。連合軍の兵士たちは気勢を上げ、尚文たちは霊亀の後方へ回り込み、甲羅へと乗り込むための行動を開始したのだった。
九 話 霊亀洞
霊亀の背中への侵入
尚文たちは霊亀の甲羅に乗り込み、山道を進んでいた。霊亀の背には棘が目立つが、所々に木々が生い茂り、山肌の名残も見られた。伝承によれば、洞窟を通じて体内に侵入できるとされていたが、前回の調査ではその経路を発見できなかった。しかし、今回の霊亀の変化により、新たな道が開かれている可能性があった。
一方で、霊亀の背中には大量の使い魔が待ち構えていた。蝙蝠型や雪男型など、多種多様な使い魔が次々と出現し、進行を阻んでいた。特に連合軍の兵士たちは苦戦しており、脱落者も出始めていた。
霊亀洞の発見
連合軍の偵察部隊が山の中腹に洞窟を発見し、それが霊亀洞である可能性が高いことが報告された。尚文は先頭に立ち、連合軍を率いて洞窟へと突入した。ラフタリアたちは魔法で光源を作り出し、慎重に進んだ。
洞窟の内部は以前とは異なり、壁には霊亀の使い魔である目玉の化け物や芋虫のような存在が張り付いていた。また、迷路のように入り組んだ構造になっており、進行ルートを見極めるのが困難であった。女王が持参した地図を頼りに進んだものの、霊亀の動きによって洞窟の形状が変化している可能性があり、完全には信用できなかった。
広場の守護兵との戦闘
地図を確認しながら進むと、比較的広い場所に辿り着いた。しかし、そこには巨大な霊亀の使い魔「守護兵」が複数待ち構えていた。これまでの使い魔とは異なり、全長四メートルを超える亀型の存在であり、広場の防衛を担っているようだった。
尚文たちは即座に戦闘態勢に入り、フィーロが蹴りを放ち、ラフタリアが剣で首を刎ね飛ばした。リーシアは援護に回り、エクレールとオストも協力して撃破に貢献した。女王も氷の魔法で敵の動きを封じ、戦闘は優位に進んだ。守護兵の耐久力は高かったが、連携によって殲滅に成功した。
拠点の確保と探索の準備
守護兵を倒した後、尚文たちは広場を拠点として利用することを決定した。影部隊も合流し、連合軍の護衛を担当することとなった。尚文は影に探索部隊を編成させ、霊亀の心臓部を探す役割を任せた。
また、尚文は連合軍の平均戦闘力を確認し、彼らのレベルが65程度であることを知った。これが想定よりも低かったため、尚文は女王に対し、今後の強化策を考えるよう求めた。
探索の開始
探索の方針として、フィーロは影部隊と共に霊亀の内部を調査し、尚文、ラフタリア、オスト、リーシア、女王は町側の寺院跡を調査することとなった。尚文は女王の同行に若干の不安を覚えたが、彼女の知識の豊富さを考慮し、同行を認めた。
こうして、霊亀の心臓を探す探索が本格的に開始された。
十 話 霊亀事件の容疑者
霊亀洞内での進行と使い魔の襲撃
尚文たちは寺院へ向かうため霊亀洞を進んでいたが、道中で幾度となく使い魔に襲われた。この洞窟は使い魔の巣窟となっており、進行の妨げとなっていた。地図も完全には頼れず、地形の変化が進行をさらに困難にしていた。外ではフィトリアが霊亀の足止めを続けており、時間の猶予はなかった。
分かれ道に差し掛かった際、オストが直感的に進むべき道を示した。尚文はオストの勘を信じ、指示された道を進んだ。結果としてその選択は正しく、寺院へ続く道へと繋がっていた。しかし、進行の途中で十字路に差し掛かり、そこには再び使い魔が待ち構えていた。
謎の冒険者たちとの遭遇
十字路で使い魔を倒した直後、洞窟内に現れたのは三人の冒険者だった。一人は槍を持つ鎧姿の男、もう一人は白っぽい装いのツインテールの少女、最後は貴族風の装いをした赤髪の魔法使いだった。尚文は彼らを見て違和感を覚え、女王も不審に思った。
ラフタリアは彼らが幻覚魔法の類を使用していることを察知し、正体を暴くための魔法を発動させた。すると、三人の姿が変わり、そこに現れたのはラルク、グラス、テリスであった。彼らがなぜこの場所にいるのか、尚文は疑問を抱きつつも、すぐに警戒を強めた。
霊亀の使い魔の奇襲と戦闘の勃発
グラスたちと対峙していた最中、霊亀の使い魔が突如現れ、尚文たちを狙って攻撃を仕掛けた。奇妙なことに、使い魔はグラスたちには攻撃せず、まるで彼らを守るかのような動きを見せた。この様子から、尚文はグラスたちが霊亀の暴走に関与している可能性を確信した。
一方で、ラルクたちは尚文と戦う意思があるようには見えたが、使い魔の動きを見て戸惑っているようでもあった。混乱の中で戦闘が始まり、洞窟内は激しい攻防の場と化した。
洞窟の崩落と撤退
戦闘の最中、霊亀の使い魔が天井を攻撃し、洞窟が崩落を始めた。尚文は咄嗟に盾を展開し、仲間たちと共に後退した。土煙が晴れると、ラルクとグラスの姿は消えていた。どうやら彼らは逃走を図ったようだった。
尚文たちは崩落した洞窟を突破するのは困難だと判断し、迂回することに決めた。しかし、その直後、彼らの前に現れたのはグラスとラルクそっくりの姿をした存在だった。
擬態型使い魔との戦い
目の前に立っていたのは、霊亀の使い魔(擬態型)だった。それはラルクとグラスにそっくりの姿をしており、尚文たちに襲い掛かってきた。動作は本物と変わらないが、攻撃の威力が本物ほどではなかったため、尚文は即座に擬態と見抜いた。
狭い洞窟内での戦闘は不利であったが、オストの重力魔法によって擬態型の動きを鈍らせ、ラフタリアが一撃を加えた。擬態型は崩れ落ちたが、すぐに再生を始め、さらに巨大な姿へと変化した。尚文は撤退も視野に入れたが、最終的には女王とオストの強力な魔法で擬態型を撃破した。
今後の方針とグラスたちの動向
戦闘後、尚文たちは進行ルートが崩落によって塞がれていることを確認した。オストの勘を頼りに、別の道を探すこととなった。一方で、尚文はグラスたちの態度に違和感を覚えていた。彼らは霊亀の暴走に関与しているようだったが、完全に敵対しているとも言い切れない様子だった。
しかし、今は考える時間はなかった。尚文たちは目的を果たすため、迂回ルートを探索しながら、霊亀の心臓へと向かって進むことにした。
十一話 勇者の碑文
寺院の調査と石板の発見
尚文たちは霊亀洞を迂回し、寺院の方の出口へと到着した。しかし、町の様子は壊滅的で、寺院とその周辺の建物以外はほとんど瓦礫と化していた。女王とオスト、リーシアが寺院の調査を始めると、以前調べた石板が霊亀の進軍によって完全に破壊されていることが判明した。
残骸の中から石板の欠片を拾い集めると、尚文はかろうじて読み取れる文字を発見した。それには「頭」「心臓」「同」と記されており、尚文は頭と心臓を同時に撃破することで霊亀を倒せるのではないかと推測した。しかし、オストはその推測が正しいように思える一方で、何かが足りない気がすると違和感を覚えていた。
連合軍との合流とグラスの関与
寺院での調査を終えた尚文たちは、連合軍の待機地点へ急いだ。使い魔の襲撃を退けながら進み、無事に合流することができた。エクレールや連合軍の兵士たちが迎え入れ、尚文は石板から得た推測を伝えた。
また、尚文は寺院へ向かう途中でグラスたちと遭遇したことを報告した。彼らは霊亀の事件に関与している可能性が高かったが、尚文は彼らの態度に違和感を覚えていた。主犯である確証はないものの、どこかで再び対峙することになるだろうと考えていた。
心臓への道の発見と擬態型の使い魔
フィーロと影が探索を終えて戻ってきたが、収穫はなかった。尚文たちは再度洞窟の探索を続けたが、地図を頼りにマッピングを進めても、すべての道が行き止まりになっていた。
その時、フィーロが地面に違和感を覚え、そこが生き物のように動くことに気付いた。オストの分析により、それが擬態型の使い魔であることが判明し、強酸水を使って表層を溶かしたところ、下へ続く道が現れた。尚文たちはその道を進み、霊亀の体内へと到達した。
霊亀の体内での戦闘と龍刻の砂時計
霊亀の体内は生温かく、肉壁のような構造をしていた。進むにつれて免疫系の使い魔が次々と襲い掛かり、尚文たちは応戦しながら進んだ。しばらくして、青白い光を放つ龍刻の砂時計を発見した。
オストによれば、この砂時計は霊亀が犠牲にした魂を蓄えるためのものだった。すでに砂は半分以上溜まっており、満たされることで世界を守る結界が発動する仕組みになっていた。しかし、霊亀の暴走によって計画が狂い、現在は利用されている可能性があった。
霊亀の心臓との戦闘
進んだ先で尚文たちは霊亀の心臓を発見した。それは六メートル以上の巨大な臓器で、二つの目を持っていた。心臓は尚文たちに敵意を向け、目から高出力の光線を放って攻撃を仕掛けた。
尚文たちは応戦し、ラフタリアとフィーロが連携して強力な攻撃を放った。さらに、フィーロはフィトリアと通信し、外で霊亀の頭を破壊するタイミングを合わせた。計画通り、心臓と頭部を同時に攻撃し、霊亀を完全に停止させることを試みた。
しかし、霊亀の心臓はすぐに再生を開始した。頭部が破壊されたにもかかわらず、霊亀は依然として活動を続けていた。オストは霊亀の本体には「コア」が存在し、それを破壊しなければ完全に停止しないと考えた。
撤退と次なる作戦
霊亀の心臓は不完全ながらも活動を続けており、このまま戦い続けても決定打にならないと判断した尚文は、一時撤退を決定した。影に後方支援を任せ、連合軍を迎えに行きながら、次の作戦を練ることにした。
今の状況では、封印の手段を試すことが必要だとオストは推測した。尚文たちは霊亀のコアを探し出し、真の決着をつけるために行動を開始することになった。
十二話 霊亀の心臓
連合軍との合流と戦力の再編
尚文たちは連合軍の待機地点に戻ると、リーシアたちが迎えた。霊亀の心臓部を発見したことを報告すると、連合軍の兵士たちは歓声を上げた。しかし、尚文はこの兵士たちを心臓部まで無事に連れて行くことが最も困難な課題であると考えていた。
連合軍側も戦闘が続いており、尚文たちが不在の間に九回の襲撃があったことが報告された。尚文は連合軍に対し、心臓部へ進む途中で魔物の襲撃がさらに激化することを警告し、自身の防御能力を活かして守るが、それでも自分の身は自分で守るように指示した。
洞窟の奥への進軍と使い魔の脅威
尚文たちは連合軍を引き連れ、霊亀の心臓へと向かった。道中では寄生虫型の使い魔や免疫系の魔物が次々と襲いかかり、連合軍の兵士たちにも犠牲が出た。使い魔に取り込まれた者が目の前で溶かされる光景に、一部の兵士はその場で嘔吐するほどだった。
尚文は隊列の維持を最優先し、立ち止まることの危険性を強調した。ラフタリアやフィーロ、オスト、エクレール、女王を中心とした戦闘部隊が次々と現れる敵を撃破しながら進んだ。そして、最奥へ続く扉の前で影と合流し、霊亀の心臓部へ突入する準備を整えた。
霊亀の心臓との決戦と封印儀式の開始
心臓部へ到達すると、霊亀の心臓は尚文たちを認識し、雄叫びのような音を発して鼓動を高めた。尚文は連合軍に対し、封印の準備を指示し、戦闘部隊は心臓を弱らせることを最優先とした。
戦闘が始まると、霊亀の心臓は強力な熱線を放ち、周囲の使い魔すら巻き込むほどの威力を見せた。尚文は盾でそれを防ぎつつ、戦闘部隊を支援した。しかし、霊亀の心臓は白い塊を放ち、それを受けた兵士たちの魔力が吸収され、多くが戦闘不能に陥った。
封印の魔法が唱えられる中、霊亀の心臓はさらに強力な攻撃を放ち、尚文は防御に徹した。フィーロは自身の能力を使い、霊亀の心臓が吸収した魔力を逆に奪い取ることで、熱線の威力を低下させることに成功した。その隙を突き、連合軍は再度封印の儀式を試みた。
封印の成功と霊亀の異常再生
フィーロとババアの魔法攻撃が霊亀の心臓に直撃し、尚文たちはこの機を逃さず、封印魔法を発動させた。巨大な魔法陣が展開され、霊亀の心臓の動きが封じられた。兵士たちが歓声を上げる中、尚文は慎重に状況を確認した。
しかし、わずかな間をおいて霊亀の心臓は再び鼓動を始め、封印の魔法陣を打ち破った。尚文たちは驚愕し、オストは霊亀のコアが完全に破壊されていないため、心臓が再生を続けていると分析した。
コアへの道の開放と最終決戦への準備
オストの力によって、霊亀のコアへと続く道が開かれた。しかし、彼女は連合軍をこの先へ連れて行くのは危険だと警告した。尚文はその意見を受け入れ、連合軍を待機させ、主力部隊のみでコアのある最奥部へ進むことを決断した。
女王は連合軍の指揮を取り、尚文たちのために道を確保すると申し出た。尚文はこれを了承し、霊亀を完全に倒すため、ラフタリア、フィーロ、オストと共にコアへと向かった。
十三話 黒幕
コアの間への突入
尚文たちは霊亀の肉壁でできた階段を降り続け、やがて奥に広がる光を目にした。盾に奇妙な脈動を感じながら進むと、オストは静かに決意を固めた表情で前を見据えていた。この戦いが終わる時、霊亀と共にオストも消えることを皆が薄々察していたため、場は沈黙に包まれていた。
尚文は自らの頬を叩き、仲間たちを鼓舞した。フィーロ、リーシア、エクレール、ババアがそれぞれ気を引き締め、オストも覚悟を決めて前へと進み出た。そして全員が一斉に駆け出し、コアのある間へ突入した。
霊亀のコアと囚われた勇者たち
部屋の中央には、緑色に光る巨大な水晶がゆっくりと回転していた。それが霊亀のコアであり、そこには集められた犠牲者たちの魂が込められているように見えた。しかし、尚文の視線はその後方へと向かう。
そこには、行方不明になっていた三人の四聖勇者――剣の錬、槍の元康、弓の樹が透明な水晶のような物体に閉じ込められ、壁に埋め込まれていた。三人は苦悶の表情を浮かべ、微かにうめき声を上げていた。リーシアは樹に駆け寄ろうとしたが、突如として飛来した一枚の紙に弾き飛ばされた。
その直後、不敵な声が響いた。
黒幕の登場
部屋の奥に立っていたのは、銀髪の男だった。彼はボサボサの長髪に白い肌を持ち、研究者のようなコートを羽織っていた。胸元には試験管を帯状に巻き付けており、錬金術師のような装いをしていた。しかし、何よりも特徴的だったのは、その目付きだった。
彼の瞳には生気がなく、死んだ魚のような濁った光を宿していた。自信過剰で他者を見下す態度が見え隠れし、皮肉を込めた言葉で尚文を挑発した。
霊亀の暴走が本来、世界を守るためのものであることを考えれば、この男の行動は不可解だった。にもかかわらず、彼は霊亀を操り、犠牲を増やしていた。尚文がその目的を問うと、男は笑いながら「滅びる世界の住人には関係ない」と言い放った。その言葉には、まるで自分はこの世界の住人ではないかのような響きがあった。
霊亀の力を吸収した敵
男はさらに、囚われた勇者たちの力を奪っていることを明かした。錬、元康、樹は霊亀のエネルギー源として利用されていたのだった。彼らの武器はわずかに光を放ち、抵抗しようとしていたが、封じ込められたままだった。
男は愉快そうに笑いながら、三人の勇者を捕らえた時の様子を語った。錬は仲間を失っても攻撃をやめず、猪突猛進で敗北した。元康は仲間に見捨てられ、逃げた先であっさり捕まった。そして樹は仲間と対立し、縛られて動けなくなったところを連れ去られたのだという。
尚文はこの話を聞き、勇者たちが消息を絶った理由と、霊亀が異常に強化された原因を理解した。三人分の聖武器の力を吸収したことで、霊亀は通常の方法では止められないほどの存在となっていたのだ。
戦闘の開始
敵は尚文たちを取り込もうと本を広げ、無数のページを飛ばした。尚文は流星盾を展開して防御を試みたが、攻撃は予想以上に強力で、盾は即座に破壊された。
ラフタリアとフィーロが迎撃に動き、エクレールとババアも応戦した。オストは魔法の詠唱を開始したが、敵は尚文を挑発し、攻撃を続けた。しかし、尚文は冷静に戦況を分析し、エアストシールドやセカンドシールドを利用して敵の動きを封じ、ラフタリアとフィーロに攻撃の隙を作った。
しかし、敵は透明な防壁を展開し、ラフタリアとフィーロの攻撃を遮断した。その防壁は霊亀のコアからエネルギーを得ており、突破するには相当の攻撃力が必要だった。
使い魔との戦闘と窮地
男は霊亀のコアを操作し、全身鎧をまとった霊亀の使い魔を十体召喚した。彼らは剣、槍、弓を装備し、それぞれ三勇者の武器の力を宿していた。
エクレール、ババア、リーシアは迎撃に当たったが、各々が一体ずつ相手にするのが限界であり、残り六体は尚文たちの方へ向かってきた。尚文は盾で攻撃を受け止めたが、霊亀の使い魔は驚異的な攻撃力を持ち、ダメージを完全に無効化することはできなかった。
さらに、弓を持った使い魔が雷撃を放ち、尚文を狙った。尚文は盾を切り替えて防御に徹したが、状況は圧倒的に不利だった。敵は尚文の焦りを察し、楽しげに笑いながら戦いを煽った。
尚文はラースシールドを使うことを考えたが、囚われた勇者たちを巻き込む危険があった。また、ブラッドサクリファイスを使用すれば一撃必殺を狙えるが、自身が戦闘不能になるリスクも高い。
絶体絶命の状況の中、尚文は打開策を模索した。
援軍の到着
その時、光り輝く車輪が尚文の目の前を通過した。さらに、鋭い矢が飛び、追い打ちとして巨大な炎が親衛型の使い魔を焼き尽くした。
尚文はこの炎に見覚えがあった。
攻撃が飛んできた方角に目を向けると、そこにはラルク、グラス、テリスの三人が立っていた。
十四話 リベレイション
挟み撃ちと敵の策略
尚文たちは敵に囲まれ、戦いづらい場所へと誘導されていた。これは偶然ではなく、計画的な罠である可能性が高かった。グラスやラルクが擬態して現れたのも、敵の策略の一環であったと考えられた。
逃走の手段も断たれた状況で、ラルクが親衛型に鎌を振り下ろし、尚文の前に立ちはだかった。グラスとテリスも戦闘に加わり、敵を攻撃し始めた。尚文は困惑しながらも、ラルクたちが敵と対峙していることを理解した。
ラルクたちの目的
ラルクたちは、霊亀を操ったキョウを討つために尚文たちと共闘することを宣言した。キョウの行動は眷属器の所持者として許されざる行為であり、その罪を裁くため、尚文たちと一時的に協力するという判断を下したのだった。
グラスは、守護獣を操ることは許されない蛮行であり、それを行ったキョウは処罰されるべき存在だと説明した。これにより、ラルクたちが敵ではなく、同じ目的を持つ仲間であることが明らかとなった。
キョウの挑発と親衛型の増加
キョウは尚文たちの参戦を意に介さず、三勇者のエネルギーを吸収して新たな親衛型を次々と生み出した。三勇者たちは苦悶の表情を浮かべ、命が尽きる寸前の状態にあった。
ラルクは親衛型を攻撃するが、その防御力の高さに驚く。ラルク自身が波の影響下で強化されていたことを尚文に説明し、現在の戦闘力が以前よりも落ちていることを認めた。それでも彼らは戦い続け、尚文たちと共にキョウを討つために動いた。
共闘の開始と劣勢の戦況
尚文はラルクたちをパーティーに加え、連携を取りながら戦闘を開始した。しかし、キョウは戦闘中にさらなる親衛型を召喚し、彼らを強化する術式を発動させた。親衛型はより素早く、より強力になり、ラルクやグラスも押され始めた。
尚文は流星盾を展開して攻撃を防ぎ、ラルクたちに隙を作るが、敵の数が多く、状況は依然として厳しかった。さらに、キョウは詠唱と薬品を用いて周囲に影響を及ぼし、戦闘を有利に進めていた。
キョウの防壁とラルクの攻撃
尚文はラルクと協力し、キョウの防壁を破壊する作戦を立てた。ラルクは尚文の盾を足場にして跳躍し、防御比例攻撃を放つことでキョウの結界を砕いた。
この隙を突き、テリスとオストが魔法を放ち、キョウを追い詰めようとした。しかし、キョウは再び防壁を展開し、攻撃を防いだ。ババアが防御比例攻撃を用いて結界を破壊しようとし、尚文もエアストシールドを使いながら支援した。
最終的にババアとラルクの連携でキョウの防壁は破壊され、フィーロが決定打を放った。しかし、キョウの身体は驚異的な再生能力を持っており、致命傷を受けてもすぐに回復してしまった。
超重力場と戦況の悪化
キョウは霊亀のコアに手をかざし、強力な重力場を発生させた。この影響で尚文たちは地面に押さえつけられ、立ち上がることすら困難になった。
この中で立っていられるのはオスト、グラス、ババア、そして中腰のリーシアだけだった。尚文はラフタリアを抱えて後退し、オストが魔法を展開して味方を回復させた。しかし、オスト自身の消耗は激しく、長くはもたない状況であった。
グラスは魂癒水を飲み、かつての戦闘力を取り戻した。これにより、キョウの結界を破壊しながら親衛型を次々と倒していった。
オストの正体とキョウの計画
キョウはオストを捕らえ、彼女のエネルギーを吸収し始めた。そして、オストが霊亀の魂そのものであることが明かされた。彼女は霊亀の意志の具現化であり、霊亀が滅べば彼女も消滅する運命にあった。
キョウはオストからエネルギーを奪い取り、それを自身の力として吸収した。すると、霊亀のコアからもエネルギーが流れ出し、空気が振動し始める。尚文はこの状況を見て、キョウがさらなる力を得ようとしていることを察知した。
決戦の幕開け
尚文たちはキョウの防壁を攻撃し続けたが、破壊してもすぐに再生する厄介なものだった。キョウはこれを利用し、オストを結界内に取り込んでさらに強化を図った。
オストが苦しむ中、尚文たちは必死に攻撃を続けた。しかし、キョウはついに霊亀のエネルギーを完全に掌握し、かつてない力を得た。その瞬間、周囲の空間が激しく揺れ、キョウの姿が変化し始めるのだった。
十五話 霊亀の心
キョウの覚醒と圧倒的な力
キョウは結界を抜け、霊亀のエネルギーを吸収してさらなる力を得た。彼の周囲には魔力の渦が発生し、その力は尚文たちを大きく吹き飛ばすほどであった。キョウは圧倒的な力を見せつけ、広範囲の攻撃を繰り出しながら高笑いを響かせた。尚文たちは応戦を試みるが、キョウの強化された攻撃を前に苦戦を強いられた。
霊亀のコアとオストの提案
オストは、キョウが霊亀のエネルギーを自身に付与していることを説明し、コアを破壊すれば彼を弱体化できると提案した。しかし、キョウは尚文たちに人質がいることを示唆し、三勇者とオストの命を盾に脅しをかけた。グラスやラルクは動きを封じられ、尚文たちは苦しい選択を迫られることとなった。
リーシアの覚醒
そのとき、リーシアがキョウの卑劣な行為を糾弾した。普段は臆病な彼女だったが、このときばかりは強い意志を宿し、キョウに真正面から立ち向かった。キョウはリーシアを侮り、彼女を最初に始末しようと攻撃を放った。しかし、リーシアは驚異的な反応速度で攻撃を避け、変幻無双流の技を駆使してキョウに迫った。
キョウは苛立ちを募らせながらもリーシアを圧倒しようとしたが、彼女はその攻撃をすべて捌きながら着実に距離を詰めていった。リーシアはキョウの攻撃が強引な力任せであり、戦闘技術に乏しいことを見抜いていた。そして、自身の意志と信念を貫き、勇者たちを閉じ込めていた水晶を破壊し、三勇者を解放した。
キョウの動揺と尚文の決意
人質を失ったキョウは焦りを見せたが、それでも彼は尚文たちを見下し、自らの計画の正当性を主張した。しかし、ラルクは眷属器の力がキョウの行いを否定していることを指摘し、激しく非難した。尚文はこの状況を打開するため、ラースシールドを使ってブラッドサクリファイスを放つことを決意するが、オストがそれを止めた。
オストは尚文に、彼女が盾に残した力を使うよう促した。すると、尚文の盾が新たな形へと変化し、「霊亀の心の盾(覚醒)」が解放された。この盾は驚異的な能力を持ち、尚文に新たな力をもたらした。
霊亀のコア破壊と決断
オストは尚文に霊亀のコアを破壊するよう懇願した。しかし、それは同時にオスト自身を消滅させることを意味していた。尚文は葛藤しながらも、彼女の願いを受け入れ、エネルギーブラストを発動させた。
霊亀のコアに向けて放たれた高出力のエネルギーは、キョウを跳ね飛ばし、コアを覆っていた結界を破壊した。そして、強大な光が放たれ、霊亀のコアは砕け散った。辺りは静寂に包まれ、キョウが作り出していた結界もすべて消失した。
キョウの逃亡
尚文たちは勝利を確信したが、キョウはなおも執念を燃やしていた。彼は尚文たちを激しく罵倒しながらも、すでに自分の目的は果たしていると語った。そして、手の中に霊亀のエネルギーを凝縮し、それを空間の裂け目へと送り込んだ。
すると、突如として空間に歪みが生じ、重力の穴が発生した。キョウは笑いながらその穴へと飛び込み、姿を消した。尚文はすぐに追いかけようとしたが、四聖勇者には他世界への侵攻が不可能であるという制約により、穴を通ることができなかった。
オストの最期と別れ
キョウが逃亡した直後、尚文はオストに目を向けた。彼女の体はすでに半透明になっており、消滅の時が近づいていた。それでも、オストは穏やかな表情を浮かべ、尚文に礼を述べた。
グラスやラルクたちはキョウがどこへ逃げたのかを調べるため、空間の裂け目を解析しようとしていた。尚文はキョウを逃がしたことを悔やみながらも、オストの言葉に耳を傾けた。彼女は自らの役割を果たし、世界のために尽くせたことに満足していた。
尚文はオストの最期を見届ける決意を固めながら、彼女の言葉に耳を傾け続けた。
エピローグ オスト =ホウライ
オストの別れ
オストの姿は次第に淡くなり、今にも消えそうな状態であった。それでも彼女は満足げな表情を浮かべ、尚文に感謝の言葉を伝えた。尚文もまた、短い間ながら彼女を信頼できる仲間だと認めた。霊亀という存在でありながら、共に戦った彼女の姿を思い出し、その別れを惜しんだ。フィーロはオストの行く末を心配し、ラフタリアは彼女が使命から解放されることを伝えて慰めた。
オストはフィーロに微笑み、世界の一部であることを理由に「どこにも行かない」と優しく告げた。その言葉には真実も含まれていたが、彼女自身が消えゆく運命にあることは変わらなかった。
仲間への感謝とリーシアの成長
オストはフィーロに続き、リーシアに目を向けた。彼女が注意を払ってくれたおかげで霊亀のコアを破壊することができたと礼を述べた。リーシアは自らの非力を悔やみ、もっと強くなりたいと願った。樹に見捨てられたとき以上に、自分が十分に力になれなかったことを悲しみ、涙を浮かべた。
尚文は過去を振り返り、どんなに後悔しても失敗を取り戻すことはできないと痛感していた。それでも、オストは彼の罪悪感を和らげようとし、彼女の死を悲しまないでほしいと語った。その言葉を受け、リーシアやエクレール、ババアたちは倒れた三勇者の介抱へと向かった。
キョウの逃亡と四聖の制約
尚文はキョウを追いかけようとしたが、四聖勇者には他世界への侵攻が許されていないため、ゲートを通ることができなかった。オストは四聖の役割がこの世界を守ることであり、異世界への干渉は眷属器の役目であると説明した。尚文は眷属器の本来の役割について疑問を抱きつつも、オストの願いを聞き入れ、キョウを追撃する決意を固めた。
オストは尚文に対し、キョウが奪った霊亀のエネルギーを取り戻せば、波までの時間を稼ぐための結界を生成できる可能性があると告げた。さらに、彼女が倒されたことで次の守護獣である鳳凰の封印が解けることも示唆した。鳳凰は霊亀以上に強力であり、現在の勇者たちでは対抗できるかどうかわからない状況であった。
異世界への追撃の決定
オストは最後の力を振り絞り、尚文に異世界への侵攻を可能にする特例許可を与えた。尚文は彼女の願いを受け入れ、奪われたエネルギーを取り戻すことを誓った。ラルクやグラスも尚文に協力し、キョウを追いかけると約束した。
尚文はラフタリアとフィーロと共にゲートを通ることを決意したが、リーシアも同行を申し出た。彼女はイツキを支えたいという思いと同時に、悪を許せないという強い信念を持っていた。尚文はリーシアの覚悟を認め、彼女も追撃部隊に加えることを決めた。
オストの消滅と尚文の決意
オストの身体は光となって消え始めていた。彼女は自分の死を悲しまないよう皆に伝えたが、それでも尚文たちは彼女を失うことに深い悲しみを覚えていた。最後に、彼女は自らの運命を受け入れつつも、自分の死を悼んでくれる仲間がいることに感謝しながら消えていった。
尚文は光の柱を見上げながら、この世界が犠牲を強いる酷い場所であることを改めて痛感した。それでも、彼はオストの願いを叶えるため、そして奪われたエネルギーを取り戻すために異世界へと旅立つことを決意した。
こうして尚文たちは、世界と世界を繋ぐ門を潜り、キョウへの追撃を開始した。彼らはまだ異世界のことを何も知らなかったが、戦うべき敵の名も、顔も、行いも知っていた。そして、奪われたものを取り戻すため、仲間と共に異世界へと踏み出したのである。
番外編 魂癒水を求めて
魂癒水とナオフミの脅威
グラスは、ラルクが持ち帰った「魂癒水」の効果に驚いていた。この薬は彼女の戦闘能力を飛躍的に向上させたが、それでも尚文に勝つことはできなかった。もしラルクたちの協力なしに戦っていたら、敗北は免れなかったであろう。
尚文は盾の勇者であり、防御に特化した能力を持つ。攻撃が苦手であるはずなのに、彼の急激な成長は驚異的であった。前回の戦いからわずか二週間の間に、彼は信じがたい強さを身につけていた。呪われた武器を扱いながらも自我を保ち、次に戦えば仕留められると考えていたグラスの予想は甘かった。結果として、今度は彼女たちが追い込まれる可能性が高くなった。
魂人の特性とエネルギー管理
グラスは、魂癒水の効果が一時的なものであり、長時間の維持が難しいことを認識していた。魂人である彼女は、エネルギーが強さに直結する種族であり、レベルの概念を持たない。魔物を倒しても大きな力は得られず、自然回復によってのみエネルギーを蓄えることができる。
ラルクは、この問題を解決するためにエネルギーの総容量を増やす手段を模索していたが、それには時間がかかる。波までの時間が限られている以上、戦力強化の方法を見極めなければならなかった。
異世界への潜入計画
ラルクは、次の波で異世界へ乗り込み、強くなるべきだと提案した。彼の話によれば、異世界でレベルを上げると、波の時に両方の世界の効果が重複するという。これにより、成長の効率を大幅に上げることができる。
グラスは一度は反対したものの、異世界での戦闘経験を積むことが有効であると認めた。さらに、波の最前線で四聖勇者を仕留めるのは困難であり、波が起こる前に敵の世界に乗り込むことこそ、眷属器の持ち主の役割であると理解した。
テリスのこだわり
準備を整えるため、ラルクとグラスはテリスを迎えに行った。彼女は尚文が作った腕輪に執着しており、それを撫でながら恍惚とした表情を浮かべていた。
テリスの魔法は宝石の力を利用するが、尚文が作った腕輪は彼を傷つけることを拒んでいた。この事実にグラスは困惑したが、テリスは尚文の技術の高さを称賛し、ラルクにもっと優れた細工を求めた。
テリスもまた、異世界への潜入計画に賛同し、一行は次の波で尚文の世界に向かうことになった。
異世界での探索と戦力強化
異世界へと渡ったグラスたちは、まず装備の影響を確認した。ラルクが用意した西洋風の鎧を着ることになったグラスは、その見た目に違和感を覚えながらも、新たな環境に適応することを決意した。
彼らは各地を巡り、魂癒水の素材を求めて魔物を狩りながら、尚文の世界の情報を集めた。その過程で、尚文が提案したアイテムが市場で流通していることを知り、彼の影響力の大きさを実感した。
また、尚文以外の四聖勇者についても調査を行った。剣、槍、弓の勇者がいることはわかったが、彼らの実力は不明であった。特に、以前戦った際に勇者を名乗っていた者があまりにも弱かったため、本物の四聖勇者がどこにいるのか疑問が残った。
霊亀の異変とキョウの企み
探索を進める中で、霊亀という守護獣が活動を開始したという情報が入った。眷属器の警報が鳴り響き、異変を察知したグラスたちは、ある町で眷属器の勇者キョウ・エスニナと遭遇した。
キョウは眷属器の力を権力の道具として利用し、この世界の霊亀を独自の技術で支配していた。彼の行動は、波のルールを逸脱した暴走行為であり、放置すれば両世界に大きな影響を与える危険があった。
キョウは得意げにグラスたちを嘲笑し、転移スキルを使用して姿を消した。グラスたちは彼の暴挙を止めるため、霊亀のもとへ急ぐことを決めた。
霊亀討伐への決意
グラスたちは、尚文たちが霊亀討伐に動くことを察し、自分たちも行動を開始した。もしキョウが霊亀のエネルギーを利用しようとしているのなら、その先に待っているのは破滅である。
彼らは異世界での滞在期間を活かして、魂癒水のストックを確保し、戦闘能力を向上させた。そして、命に代えてもキョウの計画を阻止する決意を固めた。
こうしてグラスたちは霊亀へと向かい、尚文たちの物語と交錯していくこととなった。世界と世界の境界線が歪む中、彼女たちは大きな戦いへと身を投じることになったのである。
同シリーズ
盾の勇者の成り上がり
小説版















漫画版


























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