どんな本?
『盾の勇者の成り上がり』は、異世界に召喚された主人公が「盾の勇者」として数々の試練に立ち向かうダークファンタジー作品である。第8巻では、主人公・岩谷尚文が新たな脅威に直面し、仲間たちと共に困難を乗り越えていく姿が描かれている。 
主要キャラクター
• 岩谷尚文:異世界に召喚された盾の勇者。仲間と共に世界を救う使命を果たす。
• ラフタリア:尚文に仕える亜人の少女。剣士として尚文を支える。
• フィーロ:フィロリアルという鳥型の魔物で、尚文の仲間。天真爛漫な性格で、戦闘でも活躍する。
物語の特徴
本作は、主人公が逆境に立ち向かいながら成長していく姿が魅力である。また、仲間との絆や信頼関係が深く描かれており、読者に感動を与える。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA/メディアファクトリー
• 発売日:2014年11月25日
• 判型:B6判
• ISBN:9784040671802
• メディア展開:本作はアニメ化もされており、2019年1月から6月まで第1期が放送された。さらに、2022年4月から6月に第2期、2023年10月から12月に第3期が放送された。第4期は2025年7月に放送予定である。
読んだ本のタイトル
盾の勇者の成り上がり 8
著者:アネコ ユサギ 氏
イラスト:弥南 せいら 氏
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あらすじ・内容
強敵を追ってたどり着いた新世界! 尚文たちの運命は!?
「オレの名前は風山絆、四聖、狩猟具の勇者だ」
危機に瀕した尚文たちを救った少女はそう名乗った。
本の眷属器の所持者キョウとの死闘は、オストという尊い仲間の犠牲により撃退成功。しかし、深手を負い異世界へと逃走するキョウを追いかけたはずの尚文が目を覚ましたのは牢屋の中だった!?
仲間たちとは散り散りに、挙句にはレベルが1に戻ってしまった尚文たちを待ち受ける新たな問題とは……?
全編完全書き下ろしで贈る、異世界リベンジファンタジー第八弾、ここに登場!
感想
異世界の試練と成長
異世界へと渡った尚文は、仲間と離れ離れになり、レベルもリセットされるという過酷な状況に追い込まれる。
迷宮で目覚めた彼は、リーシアとともに脱出を試みる中、狩猟具の勇者である絆と出会う。
絆の助けを借りながら、新たな世界での戦いが始まる。
フィーロは幼い姿に変えられ、見世物として扱われ、ラフタリアは成長がリセットされるという苦境に立たされる。
さらに、彼女は刀の眷属器に選ばれたことで、敵国から追われる立場となる。尚文は仲間を救うべく奔走し、新たな戦いに挑む。
異世界の試練と商才
尚文は新たな世界に適応しながら、独自の方法で資金を稼ぎ、装備を整える。
彼の商才は異世界でも発揮され、魂癒水の販売によって莫大な利益を得る。
異世界の通貨や交易の仕組みを巧みに利用し、必要な物資を集めることで、戦いに備える姿が描かれる。
その過程で絆との信頼関係を築き、ラフタリアやフィーロを救う計画を進めていく。
ラフタリアの覚醒と眷属器の力
刀の眷属器に選ばれたラフタリアは、敵国からの執拗な追跡を受ける。
尚文たちは彼女を救うために奔走し、激しい戦闘を繰り広げる。
白虎の複製体や異世界の強敵との戦いを経て、ラフタリアは己の力を証明し、成長していく。
最終的に、尚文たちは敵の包囲を突破し、安全な場所へと移動することに成功する。
異世界の真実と波の謎
異世界における四聖勇者の役割や、波の本質についての新たな事実が明かされる。
絆の世界では、波が異世界の融合を引き起こし、その影響で勇者たちが召喚されていることが示唆される。
尚文たちは、ただ戦うだけでなく、この世界の仕組みを理解し、より大きな目的のために行動しなければならないことを認識する。
総括
本巻では、尚文の商才と戦略的思考が光り、新たな仲間との絆が描かれる。
異世界のルールや敵の強大さが増し、物語はさらに深みを増していく。
次巻では、キョウとの決戦に向けた準備が進むことが予想され、今後の展開に期待が高まる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ 無限迷宮
牢屋での目覚めと現状確認
岩谷尚文は水滴の音とリーシアの声によって目を覚ました。辺りを確認すると、石造りの湿った牢屋のような場所であった。鉄格子が設置され、自身が寝ていた場所には藁が敷かれていた。リーシアも同様に状況が理解できておらず、不安を抱えていた。尚文は混乱しつつも、これまでの経緯を思い出そうとする。
異世界召喚と勇者の背景
尚文は日本でオタク趣味を持つ大学生だったが、「四聖武器書」を読んでいたところ異世界に召喚された。盾の勇者として「波」と呼ばれる災厄を防ぐ役目を担わされたが、召喚国メルロマルクの陰謀によって冤罪をかけられ迫害された。その後、冤罪は晴れ、勇者としての活動を続ける中で、他の三勇者と異なる強化方法を実践し、結果的に彼らを上回る成長を遂げる。しかし、次々と新たな困難に直面していた。
霊亀の討伐と新たな敵の出現
尚文は「霊亀」という世界を守る役目を持つ守護獣と戦い、その活動を一時停止させたが、霊亀の意志を担うオスト=ホウライによって、霊亀が完全に討伐されていないことを知らされる。霊亀はキョウ=エスニナという研究者によって操られ、本来の役目を果たせなくなっていた。尚文たちは霊亀の体内に侵入し、キョウと対峙する。グラスたちの協力を得て激戦の末、霊亀のコアを破壊し、キョウは異世界へと逃亡した。尚文たちは追撃するため、キョウが開いた異世界への門を通った。
レベルリセットと仲間の行方
目を覚ました尚文は、自身の装備が初心者用の小盾に変化し、レベルが1に戻っていることに気づいた。リーシアも同様にレベルが1になっており、彼らの仲間であるラフタリアやフィーロの姿はどこにもなかった。さらに、パーティー機能が機能しておらず、奴隷紋による位置特定もできない状況であった。二人は脱出を試みるが、牢屋の扉には鍵がかかっていなかったため、簡単に外へ出ることができた。
見知らぬ土地での探索と戦闘
牢屋を出た尚文たちは、周囲を探索しながら草原へと向かう。見慣れない魔物「ホワイトダンボル」と遭遇し、戦闘を開始する。尚文の指示によりリーシアがトドメを刺し、彼女の経験値が上昇することでレベルが急速に上がっていった。尚文も次第にレベルを取り戻し、ある程度の戦闘能力を取り戻したが、多くの盾は依然として使用不能であった。
河童との戦闘と未知の勇者の登場
川辺で水を飲んでいた二人は、突如として河童の魔物に襲われる。尚文は盾で防御しながらリーシアに攻撃を指示するが、魔物の防御力が高く、なかなか倒せない。さらに新たな河童が出現し、尚文は次第に追い詰められていく。その時、突如として河童の首が斬り裂かれ、第三者の介入によって危機を脱する。
風山絆との出会い
尚文たちを救ったのは、風山絆と名乗る少女であった。彼女は狩猟具の勇者を名乗り、尚文の世界とは異なる四聖の勇者であった。互いの四聖武器の違いに困惑しながらも、絆が尚文たちの日本と異なる異世界の住人であることが明らかになる。絆は尚文たちがグラスやラルクと接触していたことを知り、特にグラスとの関係を強調した。
無限迷宮の存在と脱出の難しさ
絆は尚文たちがいる場所が「無限迷宮」と呼ばれる脱出不可能な牢獄であることを説明する。外界との隔絶により、波による強制召喚も発生しないという特徴を持っていた。尚文は異世界そのものを牢獄のように感じていたため、特に驚くことはなかったが、脱出の難しさを理解する。
異世界移動の罠と絆の経緯
尚文はキョウの罠によって異世界移動の際に分断され、意識を失っていたことを思い出す。一方、絆は長年この迷宮に囚われており、外界との接触がなかったことを明かす。彼女はグラスたちとの関係を大切に思っており、尚文たちがグラスと協力関係にあったことに安心する。
新たな協力関係の構築
尚文は絆の案内で安全な場所へ向かい、情報を交換することを決意する。異なる異世界の勇者として、互いの知識を共有しながら、迷宮からの脱出とキョウへの追撃を目指すこととなった。
一 話 狩猟具の勇者
異世界への召喚と迷宮での遭遇
主人公は姉と妹とともにゲームに参加したが、気づけば異世界に召喚されていた。最初はゲームの世界だと考えていたが、長く過ごすうちに異世界であると理解した。三勇者と似たような状況だが、死亡などの経緯はない。彼がプレイしていたのは「セカンドライフプロジェクト 第二弾ディメンションウェーブ」というゲームで、体感型のVRMMOであった。異世界召喚後、魔物を支配する竜帝を倒すよう命じられ、冒険の果てに幽霊船の謎を解くも、船の消失により遭難。さらに関係の悪い国に捕らえられ、迷宮に投獄された。
迷宮での生活と脱出の試み
迷宮に閉じ込められた彼は、長年にわたり脱出の方法を模索していた。そこで主人公たちと出会い、共に行動することとなる。食料は海から魚を釣り、保存食を用意することでなんとか生き延びていた。武器はドロップ品を活用し、防具も最低限の装備で整えた。彼の持つ狩猟具は対人戦に適さず、魔物にしか有効ではなかった。探索の途中、緑色の巨大な鼠型魔物との戦闘が発生。主人公は盾で防御しつつ、仲間と共に撃退した。戦闘後、食材を確保し、拠点へ戻り料理を作ることで疲れを癒した。
脱出の可能性と異世界への扉
絆は迷宮の仕掛けについて説明し、ある場所へ案内する。そこには転移装置があり、異世界へ続く扉が存在していた。しかし、四聖勇者には他世界への移動が禁じられているため、主人公は通過できなかった。リーシアの分析により、この迷宮は過去の魔術師が作り上げたものであり、暴走した空間が閉じ込めの要因であることが判明する。また、迷宮の外へ出た魔物の存在が示唆され、巨大な魔物が育つことで空間の崩壊が起こり、脱出の可能性があると推測された。
突破口の発見と新たな希望
主人公は迷宮脱出の方法を模索しつつ、持ち物を整理する中で重要なアイテムを発見する。それを手にし、絆に向かって笑みを浮かべながら「なんとかなるかもしれない」と告げた。この発言が新たな展開を示唆し、彼らの脱出への希望となった。
二 話 脱出
迷宮の最小空間への潜入
絆の案内で、主人公たちは迷宮内でも特に狭いとされる空間にたどり着いた。その場所は教会のような祭壇と椅子が並ぶ部屋で、リビングアーマーと呼ばれる鎧の魔物が徘徊していた。室内には割れたステンドグラスがあり、そこからは黒い雲と密林のような景色が見えたが、空間が不自然に繋がっており、直接行くことはできなかった。主人公は、バイオプラントの種を活用する計画を立て、絆に手伝わせながら準備を進めた。そして、割れた石畳の隙間に種を投げ込み、発芽を確認するとすぐにアーチを潜って退避した。絆の話では、魔物はアーチを通ることができないため、安全に撤退できるはずだった。
バイオプラントの変異と空間の異変
種は順調に発芽し、瞬く間に成長を始めた。その影響で、リビングアーマーの一部が植物と融合し、新種の魔物へと変異した。しばらく観察していると、アーチの周辺で異常なスパークが発生し、空間全体が揺らぎ始めた。このような現象は過去に例がなく、絆は期待に満ちた表情を浮かべていた。リーシアは不安を隠せない様子だったが、主人公は覚悟を決め、前へ進むことを決断した。絆が先導し、スパークするアーチを通過するが、すでにバイオプラントが空間を侵食し始めていた。教会のような部屋は植物に埋め尽くされ、黒い雲が壁を飲み込み、足場が崩れ始めていた。主人公たちは駆け足で移動し、巨大な蔓を足場にして穴へ飛び込んだ。
落下と脱出の成功
穴を抜けると、視界は一瞬で開け、青空が広がっていた。しかし、気づけば彼らは高所から落下しており、下には神社のような建物が見えた。主人公はとっさにエアストシールドを展開し、足場を確保したが、長くは持たない。そこで、絆は釣竿を使い、神社の屋根にルアーを引っ掛けてロープ代わりにすることで、落下を回避した。辛うじて着地すると、周囲にはバイオプラントが繁殖を続けていた。すぐさま除草剤を撒き、拡散を食い止めた。種が周囲にばらまかれていたため、それらも回収した。絆は周囲の状況を確認し、ついに迷宮から脱出できたことを確信すると、歓喜の声を上げた。長年閉じ込められていたため、その喜びは計り知れないものだった。
未知の場所への到達と今後の行動
迷宮を脱出したものの、現在地は不明だった。周囲を見回すと、木製の頑丈な囲いに囲まれた神社のような建物があり、入り口は施錠されていた。絆は釣竿を利用し、囲いを乗り越える手段を考案。見張りがいないことを確認し、慎重に行動を開始した。荷物の運搬に苦戦しつつも、主人公たちは無事に囲いを越えた。絆が先導し、速やかにこの場を離れることを提案。迷宮は脱出不可能な牢獄とされているため、ここで発見されれば囚人扱いされる危険があった。主人公たちは警戒を強めながら、その場を離れ、新たな道を模索することとなった。
三 話 見知らぬ異世界
森を抜けた後の進路について
主人公たちは警戒しつつ森を抜け、街道へとたどり着いた。ここまで来れば警戒を緩めてもよさそうだったが、ここからの行動方針を決める必要があった。絆は今後も同行を望んでいたが、主人公は念のため確認を取ることにした。絆はこの国との関係が悪く、単独行動は危険だと主張し、協力を求めた。国境越えの選択肢もあったが、関所を何度も越える必要があり、金銭的な負担が大きいとされた。そのため、より現実的な手段を模索することになった。
転移スキルの制限と龍刻の砂時計
主人公と絆はそれぞれ転移スキルを持っていたが、どちらも自由に使えるものではなかった。主人公のポータルシールドは異世界での位置情報が記録されておらず、使用が制限されていた。一方、絆のスキル「帰路の写本」は特定の道具を媒体としなければならず、この国では使用できなかった。そのため、移動手段として龍刻の砂時計の活用が提案された。龍刻の砂時計には特定の移動スキルが存在し、それを利用すれば安全な国へと移動できる可能性があった。しかし、問題はその場所に無事たどり着けるかどうかであった。
波の到来と移動手段の選択
移動手段として、国境越え、龍刻の砂時計の利用、波の召喚に便乗するという三つの選択肢があった。国境越えは最も困難な道であり、龍刻の砂時計を利用する方が比較的安全だった。波の召喚に便乗する方法もあったが、それは二週間後の出来事であり、時間的に待つ余裕はなかった。ラフタリアたちを探す必要もあり、できる限り早く動く必要があった。そのため、まずは戦力を整えるためにLv上げを行い、装備を揃えながら町で情報収集をすることになった。
異世界の町と住民の特徴
主人公たちはしばらく進んだ先で大きめの町へと到達した。町の雰囲気は和風で、平安京のような趣があった。住民の特徴として、耳が長く、肌が白い亜人種が多く見られた。絆によれば、彼らは「草人」と呼ばれる種族で、主人公の世界ではエルフに該当する存在だった。また、町には半透明の体を持つ者も見られ、彼らは「魂人(スピリット)」と呼ばれる種族であった。魂人は生命力と魔力を統一した特殊なステータスを持ち、Lvを持たず、エネルギーの総量が強さを決めるという特徴があった。
冒険者ギルドのような施設とドロップ機能の違い
町の中を進むと、主人公たちは冒険者ギルドのような施設に到着した。そこには依頼書が掲示され、活気のある雰囲気が広がっていた。特に興味を引いたのは、水晶を使った大きな機械であった。人々はその機械にペンダントをセットし、何かの操作をしていた。絆によると、それは四聖の武器や眷属器のドロップ機能を模倣した装置であり、「晶人(ジュエル)」と呼ばれる宝石から進化した種族が作り出したものだった。この装置により、魔物のドロップ品を具現化できるが、四聖の武器ほどの還元率はないという。主人公はこの技術に興味を持ち、元の世界へ戻る際に持ち帰れないかと考えた。
こうして、主人公たちは町で情報を集めながら、今後の行動を決めることとなった。
四 話 ドロップ売却
買い取り商と異世界のドロップ品
主人公は異世界の買い取り商について絆に尋ねた。絆によれば、商人は存在するものの、価値のあるものは基本的にドロップ品であり、素材は安く買い取られる傾向にあった。そのため、主人公の持っていたダンボルの死骸はほとんど価値がないと判断された。ドロップの価値観が異なる世界であることを理解しつつ、主人公たちはギルド内で情報収集を開始した。
隣国の脱獄騒ぎと曖昧な情報
ギルド内には、隣国で脱獄事件が起こったという速報が流れていた。その監獄はLv補正を無効化する厳重な施設であり、脱獄が容易ではないはずだった。主人公は、もし脱獄者がラフタリアやグラスであれば厄介なことになると考えたが、絆は可能性は低いと考えていた。さらに、情報が錯綜しており、脱獄者の特徴が敵国の高官や巨漢の戦士などと異なるため、あまり参考にはならなかった。
また、隣国では新兵器の開発や、凶悪な魔物の製造に関する噂が流れていた。さらに、四聖や眷属器の転送技能を再現しようとする研究も進められているらしく、異世界の技術発展の方向性が明らかになった。主人公は、自身がいた異世界では転送スキルの再現など聞いたことがなかったため、この研究がどの程度進んでいるのか興味を持った。
異世界の文字と翻訳の仕組み
リーシアはギルド内の本を手に取っていたが、その文字が読めずに困っていた。主人公も同様に読めなかったが、盾の翻訳機能によって会話が成り立っていた。絆も同じ仕組みで言葉を理解していたが、簡単な文字の読み書きはできるようであった。グラスの指導によって習得したものらしい。主人公は書物を確認し、文字が古文に似ており、漢字のようなものが混ざっているため習得はそれほど難しくないと判断した。
宿泊と資金調達の計画
日が傾き、宿泊場所の確保が必要になった。幸いなことに、絆の顔は一般的には知られておらず、指名手配もされていなかったため、宿泊には問題がなかった。迷宮からの脱出についても、何かが溢れ出たという噂程度であり、詳細は知られていなかった。
資金については、絆がいらないドロップ品を売却して確保していたため、三人分の宿代には困らなかった。主人公も不要なドロップ品を売ることを検討し、異世界の魔物のドロップ品が高値で売れる可能性に気づいた。しかし、異世界のアイテムであるがゆえに足がつくリスクがあり、取引相手の理解力にも左右されるため慎重に進める必要があった。
異世界のアイテムと強化方法の違い
宿に入った後、主人公は売れそうなドロップ品を整理し、絆に高値で売れそうなものを選別してもらった。その過程で、主人公の世界の魔力水がこの世界には存在しないことが判明した。代わりに、「大地の結晶」と呼ばれるアイテムが魔力回復に使用されていた。試しにその結晶を握ると、魔力が回復すると同時に経験値が得られる仕組みになっていた。これは主人公の知る経験値の概念とは異なっており、異世界のルールの違いを実感した。
さらに、絆の武器には経験値システムがあり、武器を使用することで成長していく仕組みだった。この違いを活かせば、お互いに強化方法を共有することでさらなる成長が見込めるのではないかと考えた。
魂癒水とスピリットの特性
主人公は、過去にラルクがグラスに魂癒水を使用した際、グラスが強化されたことを思い出した。この世界ではSP(魂力)を回復する手段が限られているため、魂癒水はスピリットにとって極めて貴重なアイテムであると考えられた。絆もその可能性に気づき、スピリットにとって喉から手が出るほど欲しい品であると評価した。
これを売れば高値で取引できる可能性があったが、未知のアイテムゆえに市場価値が不明であった。しかし、主人公は行商の経験を活かし、適切に売却すれば利益を得られると判断した。
異世界間の強化方法の相違
主人公と絆は、それぞれの強化方法を試し合ったが、異世界の違いにより相互に適用できないことが判明した。グラスから聞いた強化方法は適用できたものの、主人公の盾の強化方法や絆の武器成長システムは互換性がなかった。異なる世界のルールが干渉し、互いの方法が通用しないという結論に至った。
しかし、異なる強化方法を理解することで、それぞれの成長戦略を最適化することは可能だった。特に、経験値を効率よく稼ぐために「大地の結晶」を大量に確保する必要があり、そのためには資金調達が最優先事項となった。こうして、主人公たちは翌日に向けて金策の準備を進めることとなった。
五 話 実演販売
魂癒水の販売開始
主人公たちは、橋を越えた先の大きな町で魂癒水の販売を始めた。商店街の端に陣取り、仮面を着用して顔を隠しながら呼び込みを行った。魂癒水の効果を知らない群衆が集まる中、主人公はスピリットの冒険者を呼び寄せ、薬の効果を試させた。スピリットたちは驚愕し、エネルギーが回復する奇跡の薬であると叫んだことで、群衆の注目を集めることに成功した。
需要の拡大と販売戦略
魂癒水の効果が実証されると、多くのスピリットが購入を希望し、店先には長蛇の列ができた。主人公は混乱を避けるため、販売数を制限し、まずは五個の魂癒水を売りに出した。最初に試したスピリットたちが即座に購入し、残り二個は無料で試せる機会として提供された。結果として、その効果を直接体験したスピリットたちが、さらに魂癒水を求めることになり、市場価値が一気に高まった。
市場の反応とオークション計画
魂癒水の希少性が広まると、次第に群衆の期待が膨らみ始めた。主人公は、この機会を利用し、翌日にオークション形式で販売することを発表した。群衆の興奮は高まり、拍手と歓声が巻き起こった。主人公は、あえて供給を絞ることで市場価値を最大化し、貴族や富裕層をターゲットにする狙いを立てた。
異世界の通貨と商売の駆け引き
販売終了後、主人公たちはこの世界の通貨について確認した。銅文、玉銀、金判という単位が使われており、金貨や銀貨の価値感覚が異なることが判明した。また、商売の流れを利用して町の貴族を引き寄せ、高額で売却する計画を立てた。人々の噂を利用し、需要を高めることが狙いであった。
魔物の異変と戦闘経験
翌日までの時間を有効活用するため、主人公たちは近隣の魔物を狩ることにした。絆が戦闘を行い、以前よりも魔物の数が増えていることに気づいた。主人公がリーシアと共にダンボルを倒すと、無限迷宮にいたものよりも強く、得られる経験値が多いことが判明した。どうやら、魔物の強さが異なる世界であり、グラスたちが強い理由の一端が見えてきた。
魂癒水のオークション開始
翌日、仮面をつけた主人公たちは再び市場へ向かった。すでに人だかりができており、スピリット以外の者も多数集まっていた。研究者や商人、貴族の監視役と思われる者も混じっており、魂癒水の注目度がさらに高まっていた。主人公は集まった群衆を前に、前置きを省略し、すぐにオークションを開始した。
魂癒水の高騰と策略
最初の魂癒水は三〇玉銀八三銅文で落札された。順調に価格が吊り上がる中、主人公はさらなる利益を狙い、残りの在庫を意図的に減らす計画を実行した。リーシアが「誤って」魂癒水を落とし、残り一本しかない状況を作り出したのである。この演出によって焦燥感が生まれ、競争が激化した。結果として、最後の一本は四金判で落札され、貴族まで競争に加わるほどの価値を生み出すことに成功した。
今後の警戒と撤収
魂癒水の高額落札により、主人公たちは十分な資金を手に入れた。しかし、貴族の関心が強まり、製造法を探られる危険性も高まった。襲撃の可能性も考えられるため、主人公は慎重に行動する必要があった。最後に群衆へ感謝の言葉を述べ、大きな拍手の中、市場を後にした。
六 話 異世界の装備概念
魂癒水販売の成功と戦略の調整
リーシアの失敗を装った演技により、魂癒水の価格は最大限に引き上げられた。絆はその手法に感心しつつも、時間の都合上、さらなる高騰を狙う余裕はなかった。主人公たちは通行手形の購入を決め、残った資金で武器や防具の調達を行うことにした。市場で装備を整えながら、主人公はこの国の商売と流通の特徴を把握し、さらなる資金確保のための戦略を考えた。
武器と防具の調達
武器屋では、日本刀や扇、槍といった和風の武器が主に扱われていた。主人公はリーシアに小太刀を購入し、防具屋で新たな鎧を調達した。しかし、盾の品揃えは乏しく、戦国時代の影響か、この国では盾が軽視されていることが分かった。主人公は鎧を選ぶ際にくさりかたびらを勧められたが、個人的な理由で拒否した。一方、絆の羽織が意外にも高い防御力を持っていることが判明し、この世界独自の防具文化に驚かされた。
戦闘準備と経験値の確保
市場で魔力回復用の「大地の結晶」を購入し、主人公たちは戦闘に備えた。特にこの結晶は魔力回復だけでなく、大量の経験値を得る手段にもなった。主人公はレベルを35まで引き上げ、リーシアも同様に大幅な成長を遂げた。戦闘力を高めるため、リーシアに札を持たせることを決定し、魔法攻撃の手段を増やした。こうした準備を終えた後、彼らは首都を目指して町を出発した。
絆の戦闘能力とスキルの分析
道中、絆の戦闘能力が改めて確認された。彼は「一式・落とし穴」や「一本釣り」といったスキルを駆使し、魔物を効率的に仕留めていた。また、防御力を低下させる謎のルアーの使用により、リーシアの攻撃が有効に機能する場面もあった。絆の戦闘技術は非常に優れており、グラスやラルクと同等の実力を持つことが明らかとなった。さらに、経験値の取得率が高いため、リーシアのレベルは42にまで上昇した。
首都到着と龍刻の砂時計の警備
首都に到着すると、街並みは室町時代風から江戸時代風へと変化していた。龍刻の砂時計がある建物は厳重な警備下にあり、敵国として扱われているこの国での行動は慎重に進める必要があった。龍刻の砂時計を利用すれば脱出は可能だが、入るには厳格な身分証明が必要であった。さらに、この国には「鏡の眷属器」の持ち主がいる可能性があり、敵対勢力の襲撃の危険性も考えられた。
突入計画と強行突破の決断
主人公たちは、時間をかけてレベルを上げるよりも、龍刻の砂時計へ強行突入する方が得策だと判断した。絆には代償を伴うが、対人攻撃を可能にする手段もあった。彼らは事前にポータルスキルの使用可否を確認し、最悪の場合の撤退計画も立てた。そして、正面突破を試みることが決定された。
計画実行と不測の事態
突入の機会を探していると、龍刻の砂時計前で騒ぎが起きていた。隣国の天才術師が、四聖や眷属器による転移スキルの再現に成功し、その実験のために訪れていたのである。主人公たちはこの混乱に乗じようとしたが、建物の代表者が絆を発見し、大声で叫んだ。すぐに絆は龍刻の砂時計へ向かって走り出し、主人公もリーシアを守りながら追随した。
激闘と脱出の成功
警備兵が一斉に攻撃してきたため、主人公は「流星盾」を発動し、敵を弾き飛ばしながら突進した。しかし、天才術師の配下が盾を破壊し、直接攻撃を仕掛けてきた。天才術師自身も巨大な炎を放ってきたが、主人公はこれを盾で弾き返し、逆に術師を燃やすことに成功した。その間に絆は龍刻の砂時計へと到達し、「帰路の龍脈」を発動。転送が開始され、敵の妨害を振り切る形で脱出に成功した。
安全な国への移動と今後の課題
転送の結果、主人公たちは西洋風の建物が立ち並ぶ安全な国へと到着した。現地の人々は絆の帰還を歓喜し、温かく迎え入れた。主人公は龍刻の砂時計の利用が成功したことを確認しつつ、今後の動きを慎重に考えることにした。一方、天才術師との因縁が生まれ、今後の戦いに新たな火種が加わったことも明らかとなった。
七 話 波の伝承
異世界の帰還と王の謁見
絆の転送によってたどり着いた国は、西洋風の文化が根付いた場所であった。メルロマルクと比較すると、ドイツ的な中世の雰囲気を持ち、建築や街並みにも違いが見られた。王宮へと案内された主人公たちは、絆の帰還を歓迎する王と対面した。王は、無限迷宮への幽閉が事実であれば正式な抗議を行うと述べた。絆は主人公の協力によって脱出できたことを説明したが、「異界の四聖勇者」との言葉に、王や周囲の者たちは動揺を見せた。
四聖勇者と波の真実
絆の問いかけにより、王は四聖勇者に関する伝承について語った。この世界では四聖勇者には、波の発生時に人々を救う役割とは別に、本来の使命があるという。その使命とは、他世界との衝突融合を防ぐことであり、波の発生はその現象の一環であるとされていた。さらに、四聖勇者は世界の要石であり、波の最中に他世界の四聖が全滅すると、その世界は滅び、逆に生き残った世界は延命できると伝えられていた。この事実は、グラスやラルクが主人公の命を狙った理由を説明するものであった。
絆の決意と対立の回避
絆は、世界を守るために他世界の四聖を犠牲にするという考え方に強く反発した。伝承だけを根拠に決定を下すのではなく、波の本質を理解するための調査が必要であると主張した。また、四聖勇者が直接他世界の勇者を討つのではなく、それを実行するのは眷属器の持ち主であることも判明した。この点において、主人公と絆の戦闘能力の特徴が影響を及ぼしていた。両者とも対人戦には不向きであり、単独で戦うには厳しい状況であった。絆は、争いを避けるため、グラスたちとの交渉を試みる意向を示し、王に対し、彼女たちの行方を探す協力を求めた。
グラスたちの行方と今後の方針
王の話によれば、グラスとラルクは「驚異的な強化方法がある」とされる手段を求め、波の発生時に他世界へと向かったまま戻っていなかった。このため、彼らの行方を突き止めることが最優先課題となった。王は絆に対し、安全のために前線から退くよう進言したが、彼女はそれを拒否した。主人公は、彼女の考えに共感しつつも、もし異世界の四聖を討つことで日本に戻れるのであれば考えなくもないと発言し、リーシアを震え上がらせた。
探索の準備と協力者の召集
今後の行動として、グラスやラルクの捜索を最優先とし、さらに「本の眷属器」の持ち主が関与している国への抗議も計画された。主人公は、無限迷宮のような場所に仲間が捕らえられている可能性を考え、迅速な行動が必要であると認識した。絆は、捜索の専門家として「エスノバルト」を呼び寄せるよう王に依頼し、王もそれを了承した。主人公たちは、情報が集まるまで待機することになったが、その間にも状況に応じた準備を進める意向であった。
八 話 狩猟具の勇者の帰宅
待機と新たな目的地への移動
人捜しの専門家が来るまで、主人公たちは待機することとなった。絆は「帰路の写本」を利用できることを説明し、主人公たちを連れて移動を開始した。街道を進むと、城下町を抜けた先に衛星都市のような町が広がっていた。商業施設よりも住居が多く、漁港も備えている町であった。その町の一角に建つ大きな石造りの家の前で絆は立ち止まり、ここが自分たちの拠点であることを告げた。絆は鍵を取り出し、長らく留守にしていた家の扉を開いた。
無事に残っていた拠点と過去の記憶
家の中には埃がほとんどなく、誰かが手入れしていた形跡があった。絆はグラスが掃除をしていた可能性を指摘し、懐かしそうに室内を見回した。客間には写真が飾られており、絆、グラス、ラルク、テリス、そして見知らぬ人物たちが映っていた。その写真の中の彼らは、達成感に満ちた表情を浮かべていた。主人公は、それを見ながら、自身の仲間関係との違いを痛感した。ラフタリアやフィーロ、メルティは信頼できる存在であったが、それ以外の関係はあくまで利害の一致によるものに過ぎなかった。主人公は、異世界の仲間たちとこんな写真を撮る日が来るのかと考えつつ、それは永遠に訪れないのではないかという不安を抱いた。
絆とグラスの出会い
主人公は、絆がどのようにグラスと出会い、どんな経緯で仲間になったのかを尋ねた。絆は昔を振り返るように語り始めた。かつて彼女は、ゲームの世界にいる感覚で釣りをしながら少しずつ強くなろうとしていた。その当時、この国は今よりも国力が低く、跡目争いなどの内政問題を抱えていた。そして、絆とグラスが出会ったのは隣国でのことだった。とある流派の門下生たちが、扇の眷属器の適任者として試される場において、出生の関係から軽視されていたグラスが選ばれるという出来事があった。それを妬んだ兄弟子たちによって、グラスは仲間から追放された。
その後、グラスは隣国の草原で魔物と戦っていたところを絆と遭遇し、意気投合して共に戦うようになった。こうして旅を続けるうちに仲間が増えていき、現在の関係が築かれたのだという。主人公は、彼女たちの関係と自分の境遇とを比較し、改めて自分は異世界の人間とは対等に付き合えないことを実感した。
拠点での休息と夜の釣り
その日は絆の家で休むこととなり、それぞれ空き部屋で休息を取った。しかし、夜になって主人公はテラスから外を見ていると、絆が家を出ていくのを目撃した。彼女の後を追うと、向かった先は海辺であった。絆は釣竿を手に持ち、海にルアーを投げながら釣りを始めた。彼女にとって釣りは帰ってきたことを実感する手段のようであった。
しばらくすると、絆は特殊なルアーを取り出し、大型の魚を狙い始めた。数回のキャスティングの後、巨大なニシンを釣り上げた。彼女は得意げにそれを掲げ、異世界ならではのサイズであることを強調した。主人公は、その光景を見ながら、釣り道具の工夫が戦闘にも応用できるのではないかと考えた。
アクセサリー強化の可能性
絆のルアーは特殊なアクセサリーであり、武器に装着することで異なる効果を得られる仕様であった。主人公は、自身の盾にも似たような強化ができるのではないかと考え、かつて武器屋の親父からもらったアクセサリーを思い出した。それを応用すれば、盾の新たな強化方法が見つかるかもしれなかった。
絆は、付与師がいなければ特定の効果を付与するのは難しいものの、ベースとなるアクセサリーを作ることは可能であると説明した。主人公は、試しに自作してみることを決め、さらに、絆のためにルアーを作ることも視野に入れた。こうして、新たな可能性を探ることが、今後の課題となった。
九 話 式神
人捜しの準備と新たな出会い
城で待機していると、人捜しが得意な人物が到着した。少年のような外見を持ち、銀髪に赤みがかった瞳を持つ美しい人物であった。彼は船の眷属器の所持者であり、名をエスノバルトといった。絆と親しい間柄のようで、再会を喜んでいた。エスノバルトは絆の式神であるペンギンのクリスを預かっていたが、それを返還した。クリスは絆に飛びつき、久しぶりの再会を全身で表現していた。
式神と眷属器の能力
エスノバルトはこの世界の守護者の末裔であり、魔法にも長けていた。彼の正体は魔物の血を引く存在であり、実際に本来の姿はウサギのようであった。彼は絆にとって信頼できる仲間の一人であり、強力な支援者でもあった。また、式神についても詳しく、式神を使えば人捜しが効率的になることを説明した。これを聞いた絆は、尚文にも式神を授けることを提案した。
式神生成の儀と新たな仲間の誕生
エスノバルトは式神生成の儀を執り行うため、全員を龍刻の砂時計のある場所へと案内した。式神を作るには媒体が必要であり、尚文はラフタリアの毛髪を素材として選んだ。その毛髪に自身の血を与え、儀式が始まった。すると、式神の生成が予想以上の速度で進行し、強い光が発生した。儀式の結果、現れたのは小さなアライグマのような生き物であり、「ラフー」と鳴いた。それを見た尚文は、ラフタリアの名にちなんで「ラフちゃん」と名付けた。
捜索の開始と新たな課題
ラフちゃんの能力を用いてラフタリアの居場所を探ると、絆の式神クリスと同じ方向を指し示した。ラフタリアとグラスは同じ場所にいる可能性が高かった。しかし、その場所は絆たちが敵対する国の領土であり、非常に危険な地域であった。絆は仲間を集める時間がないことを悩んだが、今すぐ行動しなければならないと判断した。
転移による出発
エスノバルトは自身の船の眷属器を利用し、全員を転移させる準備を整えた。尚文はその能力がフィトリアの馬車と似ていると感じつつ、転移の準備を進めた。こうして、尚文たちはラフタリアとグラスを救出するため、危険な国へと向かうこととなった。
十 話 刀の眷属器
転移と目的地への到着
エスノバルトの船に乗り、空飛ぶ船による移動を開始すると、すぐに転移が作動し、景色が変化した。龍刻の砂時計の繋がりを利用し、高速で移動できる仕組みらしいが、妨害があるため完全に目的地へは到達できず、可能な限り近づける地点に降り立った。地表に降りた後、ラフタリアの居場所を探るため、ラフちゃんとクリスの指し示す方向へ進むこととなった。
異国の町と見世物小屋
進んだ先に広がる町は、幕末の雰囲気を感じさせる和風の文化が根付いていた。木造建築の中に近代的な要素が混ざり合い、独特な町並みを形成していた。冒険者たちは新撰組のような衣装を身に着けており、住民は和服姿が多かった。町の中に入ると、異様に長い行列ができていることに気付いた。調べてみると、見世物小屋が開催されており、その看板には「天から舞い降りた背中に羽のある幼き天女」と書かれていた。
フィーロの発見と救出計画
この説明を聞いた尚文は、背中に羽の生えたフィーロの可能性を疑い、注意深く様子を探ることにした。そして、小屋の内部から「ご主人様、助けて」という悲痛な叫び声が聞こえた。続く鞭の音と観客の反応から、見世物小屋でフィーロが虐げられていることが明らかとなった。尚文たちは救出方法を検討し、一度ギルドで見世物小屋の出資者を調査した。その結果、この町の貴族が関与していることが判明し、正攻法での救出は困難であると判断した。
潜入作戦の準備
交渉や買い取りによる救出は難しく、時間もかかるため、尚文たちは夜に潜入し、フィーロを直接救い出す作戦を決定した。そのために、尚文は戦闘の準備を進め、適した盾を選定した。ヌエの盾を覚醒させ、雷耐性や特殊効果を活かせるように強化し、戦いに備えた。こうして、夜の潜入作戦に向けた準備が整い、尚文たちはフィーロを救うために動き出した。
十一話 天女救出作戦
夜の潜入作戦
夜が更け、町が静まりかえるのを待って尚文たちは市場の方へと向かった。絆とともに屋根伝いに忍び込むが、リーシアが足を滑らせそうで注意が必要だった。一方、ラフちゃんは身軽で問題なく進めた。町の雰囲気は文明開化と江戸時代が混ざったようなものだった。絆の話によれば、この国では夜間の外出には提灯の使用が義務付けられているとのことだった。尚文は忍者の登場を連想し、絆の仲間に本物の忍者がいることを聞かされるも、あまり会いたくはないと考えた。
見世物小屋への侵入
見世物小屋に到着すると、フィーロの居場所を探るために魔物紋を使用した。すると、小屋の中に確かにフィーロの反応があった。絆が狩猟具のスキルで姿を隠す能力を発動し、一行は小屋の裏手へと回った。扉には警報装置付きの錠前があり、力ずくで開けると音が鳴る仕組みになっていた。尚文は魔力を利用して装置を無力化し、その隙に絆が錠前を切断し、無事に侵入することに成功した。
フィーロの救出
見世物小屋の内部は長屋のような造りで、奥には金袋が積まれていた。尚文はフィーロを探しながら、鳥かごの中に小さな雛鳥がいることに気づいた。不審に思いながらも魔物紋で確認すると、その雛鳥がフィーロであることが判明した。どうやら、フィーロは何らかの札によって姿を変えられていたようだった。札がフィーロの体に張り付いたままになっていたため、尚文は魔物紋を発動させ、それに干渉して使役札を剥がした。札が取れると、フィーロは元の姿に戻り、涙ながらに尚文に抱きついた。
見世物商への報復
フィーロの救出を終えた直後、見世物商が目を覚まし、刀を構えて尚文たちを威嚇した。しかし、尚文は怒りを抑えきれず、ヌエの盾の専用効果「夜恐声」を発動した。すると、見世物商は激しい幻覚に襲われ、恐怖のあまり錯乱状態に陥った。ラフちゃんも幻覚の魔法を使い、見世物商の精神をさらに追い詰めた。尚文はシールドプリズンで見世物商を閉じ込め、拷問のように「夜恐声」を聞かせ続けた。その結果、見世物商は発狂寸前に陥り、泣き叫びながらすべてを白状した。
脱出と追っ手の出現
見世物商から情報を引き出した後、尚文たちはすぐに見世物小屋を離れようとした。しかし、外では役人らしき者たちが店を取り囲んでおり、すでに逃走が困難な状況になっていた。どうやら誰かに見られて通報されたらしい。尚文はフィーロをパーティーに加えた後、ポータルシールドを使用し、瞬時に町の外へ転移した。絆は驚きながらも成功したことを喜び、一行はそのまま町を離れて逃走を開始した。
十二話 ハミングフェーリ
隣町への到着と手配書
尚文たちは夜通し移動し、翌朝には隣町へ到着した。しかし、町に入るとすぐに手配書が掲げられているのを発見した。そこには「近隣の町で罪を犯した者たち」として彼らの特徴が描かれていた。特にラフちゃんの姿が明確に描かれていたため、尚文はラフちゃんを式神札に戻し、絆もクリスを札に戻した。フィーロはハミングフェーリーの姿になり、尚文の鎧の中に隠れることになった。町の住民たちは噂話をしており、「天の使者が天女を迎えに来た」との説が広まっていた。
フィーロの成長と移動手段の問題
フィーロのレベルは 1 に戻されており、尚文は世界を跨いだ影響ではないかと推測した。リーシアと同様、尚文や絆と一緒にいれば経験値は入るため、成長には問題はないと判断した。しかし、フィーロがフィロリアルの姿になれないため、馬車を引くことができず、移動手段に困ることとなった。絆が人力車の購入を提案するが、尚文が引くことになるのを拒否し、フィーロが人型で引く案も却下された。結果として、徒歩での移動を続けることになった。
町を抜けての休息とフィーロの食欲
町を抜けた後、フィーロは鎧の中から出て人型に戻った。尚文に助けられたことを感謝するが、すぐに空腹を訴え、干し果物を頬張った。しかし、それでも足りず、さらに食べ物を要求した。尚文はフィーロの姿が雛鳥であることと、異常な食欲が関係しているのではないかと考えた。フィーロの姿が変わった理由を知るため、詳しい者に聞く必要があると感じた。
狩りの計画と目的の再確認
尚文は、フィーロのレベル上げのために魔物の多い場所へ向かうことを決めた。絆は釣りを提案するが、尚文はフィーロの食欲を考え、短時間で効率的に食料を確保できる狩りの方が適していると判断した。絆は釣りへの強いこだわりを見せるが、尚文はその情熱に疑問を抱いた。狩りをしながら進む方針を決めたものの、尚文の本来の目的はラフタリアを探すことにあった。ラフちゃんを頼りに進むことが最優先であると再確認した。
フィーロと絆の交流
フィーロは尚文に改めて絆のことを尋ね、絆が四聖勇者であることを知ると、「釣竿の人」と呼んだ。絆は武器の形を次々に変えて見せるが、フィーロは困惑した様子を見せた。最終的にフィーロは絆を「キズナお姉ちゃん」と呼び、二人は握手を交わした。尚文は絆の外見と「お姉ちゃん」という呼び方に違和感を覚えたが、指摘すると絆に睨まれた。
情報収集とラフタリアの行方
フィーロのレベル上げを兼ねて進むことを決めたが、尚文は町に立ち寄って情報を集めることも必要だと考えた。絆によれば、この世界の亜人はエルフやドワーフが多く、ケモノ耳や尻尾を持つ者は珍しいとのことだった。そのため、ラフタリアもどこかで捕らえられている可能性が高かった。尚文は奴隷紋を使ってラフタリアの位置を探るが、依然として反応はなかった。フィーロが「かぐや姫」に例えられたように、ラフタリアもまた何らかの扱いを受けているのではないかと懸念しつつ、尚文たちは狩りをしながら進んでいった。
ー十三話 狩猟具の勇者の技能
魔物の解体と食事
尚文たちは夜に遭遇した魔物を解体し、焼き串にしてフィーロに与えた。ラフちゃんも適度に食べており、和やかな雰囲気となった。フィーロは成長期を迎えているため、常に空腹を訴えていた。魔物を解体する際の血の臭いは強いが、尚文は香料を使って誤魔化していた。絆は尚文よりも解体技能が高く、肉の品質をより良くできるが、それでも臭みが残るのは変わらなかった。
フィーロのレベルは順調に上がり、現在は 30 に到達していた。しかし、フィロリアルの姿に戻るのではなく、ハヤブサのような魔物へと成長していた。尚文は、フィーロの種族であるハミングフェーリーについて絆に尋ねると、音楽を好む鳥であり、成長段階ごとに姿を変えるという説明を受けた。
フィーロの飛行能力と新たな力
フィーロは羽ばたき、ふわりと空中に浮かんだ。フィロリアルは飛べない魔物だったが、現在のフィーロはハミングフェーリーであるため、飛行が可能になったようだ。フィーロ自身も飛ぶことに喜びを感じていた。ハミングフェーリーは、ツメによる攻撃のほか、音を操る能力を持ち、歌声が美しいことで有名であるらしい。
フィーロは魔物の姿になり、尚文の肩にとまった。その姿はフィロリアルクイーンの頃の色合いを保ちつつ、スリムなハヤブサのような体型へと変化していた。これが成長の最終形態なのかと尚文が尋ねると、絆は「ハミングファルコン」と呼ばれる途中段階であり、さらに成長する可能性があると説明した。一部では「伝説のハミングフェーリー」と呼ばれる個体も存在すると言われており、尚文は嫌な予感を覚えた。
フィーロは魔物の姿のまま言葉を発し、尚文を驚かせた。絆によれば、ハミングフェーリーはオウムのように言葉を覚えて話すことができるらしい。さらにフィーロは小さな雛鳥の姿にも変化できることを示し、変身の幅が広がっていることを明かした。
リーシアの言語学習と驚異的な才能
リーシアはフィーロに話しかけ、この世界の言葉を学ぶために協力を求めた。フィーロは、覚えたばかりの単語をリーシアに教え始めたが、説明が下手だったため、リーシアは困惑しながらも理解しようと努力していた。
尚文はラフタリアの安否を案じ、彼女がこの世界でどのような状況にあるのかを考えた。グラスたちは強いため心配していなかったが、ラフタリアだけが未だに行方不明であることが気がかりだった。尚文は、もしラフタリアが幼児化していたら戦いが難しくなることや、彼女の特徴である獣耳と尻尾が別の種族のものに変わってしまっている可能性も考慮した。奴隷紋が機能すれば良いが、それが使えなかった場合は見た目で判断するしかないと考えた。
リーシアの学習能力と知識の才能
旅の途中、リーシアは町の本屋で書物を購入し、尚文たちのもとへ戻った。その際、尚文はリーシアがこの世界の言語を理解していることに気づいた。リーシアは短期間で言語を習得し、さらに文字まで読めるようになっていた。その才能に驚いた尚文は、リーシアが元々どのような教育を受けていたのかを尋ねた。リーシアはフォーブレイの学校に通っていたことを明かし、運動以外の成績は良かったと自信を持って答えた。
尚文は、リーシアの知識面での才能が異常に高いことに気づき、彼女の適性が戦闘ではなく、知識や戦略面に特化している可能性を考えた。戦闘の才能もあると言われているが、彼女はむしろ後方支援や情報分析に適しているのではないかと思われた。
絆はリーシアに勉強を教えてほしいと頼み、リーシアは快諾した。しかし、それを聞いた尚文は、リーシアが「戦闘ができる正義の味方になりたい」と考えていることに疑問を抱いた。尚文は、彼女の才能が向いていない分野に使われていることを惜しく思いながらも、約束通りリーシアを強くすると決意していた。
十四話 帰路の龍脈
町での新聞と刀の眷属器の話題
町では新聞を配る商人の声が響いていた。尚文が受け取った新聞を絆に読ませると、「刀の眷属器の所持者が見つかったが逃亡し、国総出で追跡中」という記事が掲載されていた。刀の眷属器は国の首都で厳重に管理されていたが、今回の事件で持ち出されたらしい。
眷属器の選定については、選ばれた者しか使えない仕組みであり、国の威信に関わる問題であることが推測された。しかし、記事には眷属器の所持者の具体的な情報が意図的に削られ、同行者の詳細も曖昧に書かれていた。尚文は、この事態が国際的な争いに発展する可能性を考えた。
検問とラフタリアの行方
町を進むと、検問が行われており、武士のような男たちが道を封鎖していた。犯罪者が潜伏しているとの理由で通行が制限されていたが、ラフちゃんが示す方向は封鎖区域の中だった。尚文は、ラフタリアたちが犯罪者が潜伏している地域にいることに嫌な予感を抱いた。
最悪の場合、グラスたちが刀の眷属器の所持者と敵対している可能性もあり得た。絆は屋根伝いに侵入することを提案したが、尚文はフィーロに偵察を命じた。フィーロは飛べる魔物の姿になっていたため、偵察には適していたが、過去の捕縛経験から不安を示した。尚文が助けることを約束し、フィーロは渋々飛び立った。
ラフタリアの奴隷紋の消失と嫌な予感
尚文はラフタリアの奴隷紋を確認しようとしたが、彼女の登録が消えていた。最悪の可能性を考えて背筋が凍る思いをしたが、ラフちゃんは依然としてラフタリアの方角を指し示していた。そのため、何らかの理由で奴隷紋が解除されたのだろうと考え直した。
フィーロは戻ってきて、布を被った者たちが魔物に追われていたと報告した。その情報をもとに、尚文たちは慎重に行動を進めた。
グラスたちとの再会
屋根伝いに移動した尚文たちは、開けた空き地に降り立ち、ローブを羽織った集団と遭遇した。警戒しながら仮面を外すと、相手も敵意を解き、ラルクが現れた。彼は新撰組風の服を身にまとい、尚文たちの姿を確認すると驚きを見せた。
さらに、グラスもローブを脱ぎ、涙目で絆に駆け寄った。その様子は、普段冷静な彼女からは想像しにくいものであり、尚文も驚かされた。テリスもまたローブを脱ぎ、宝石の模様が施された袴姿を見せた。そして最後に、ラフタリアが現れた。
巫女姿のラフタリアとの再会
ラフタリアは赤と白の巫女服をまとっていた。その装いは彼女に非常に似合っており、尚文は思わず見とれてしまった。巫女服のデザインはシンプルながらも洗練されており、尚文はこの格好を元の世界でもさせたいとまで思った。
ラフタリアも尚文との再会を喜び、状況を説明しようとしたが、敵の接近により話す時間がなかった。絆は救援の札を使おうとしたが、通信妨害が発生しており、助けを呼ぶことができなかった。尚文はポータルを使って脱出を図ろうとしたが、転送が不可となっていた。
追手との対峙とラフタリアの秘密
そこへ、尚文たちを敵視する者たちが現れた。彼らは尚文たちに対し、国を騒がせた罪でお縄につくよう迫った。尚文はその中に見覚えのある男を見つけた。彼は以前、龍刻の砂時計の転送時に戦った術師だった。
男は自らを最高の魔術師と称し、取り巻きの女性たちに囲まれて尚文たちを見下していた。尚文は彼の態度を不快に思いつつ、背後の巨大な白虎のような魔物の存在に違和感を覚えた。
男は尚文を「盗人の仲間」と呼び、敵意をむき出しにした。尚文がその言葉の意味を問うと、ラフタリアが申し訳なさそうに手を差し出し、一本の刀を見せた。それは、まさに刀の眷属器だった。
尚文は一瞬、状況を整理しきれなかった。ラフタリアが刀の眷属器の所持者であること、そして彼女の奴隷紋が消えていたこと。さらに、追われているのがラフタリアたちであり、追手が彼女たちを「盗人」として扱っていること。尚文は事態の重大さを理解しながらも、なぜラフタリアが逃亡者になっているのか、その理由を問うた。
十五話 刀の選定
ラフタリアたちの脱獄と眷属器の管理
ラフタリア、グラス、ラルク、テリスの四人は敵地で捕らえられ、能力を減退させる魔法が常に掛かった牢獄に収監されていた。この牢では囚人の力が弱まる一方、看守は強化される仕組みになっていた。四人は不利な状況ながらも協力し、ラフタリアが幻覚の魔法を使うことで脱出に成功した。
しかし、国側は彼らの活動を表沙汰にすると隣国への侵攻の口実となるため、情報を隠蔽しようとした。その結果、尚文たちがいた隣国には曖昧な情報しか伝わっていなかった。眷属器は国の権威の象徴でもあり、次の所持者が見つかれば、その国の力が増すと考えられていた。そのため、所持者が敵対する勢力に渡ることは避けるべき事態だった。
逃亡と龍刻の砂時計への接近
脱獄後、四人は国外脱出を目指し、潜伏しながら国の首都にある龍刻の砂時計へ向かった。戦力が揃っていたため、強引に砂時計まで到達できれば逃げ切れると判断したのだ。その道中でラフタリアはグラスたちの手助けを受け、成長を取り戻した。脱獄直後は幼い姿になっていたが、短期間で元の姿に戻ったらしい。
その過程で、首都では眷属器の所持者を決めるための催しが行われていた。挑戦者たちが刀の眷属器を引き抜こうとしていたが、眷属器は突如光を放ち、観衆の中にいたラフタリアの手へと飛んできた。こうして彼女は不本意ながら刀の眷属器の所持者として選ばれてしまった。
ラフタリアの眷属器と追跡の始まり
ラフタリアが刀の眷属器を得たことで、国の計画は狂い、彼女は「盗人」として追われることになった。眷属器を自分のものにできなかった者は、ラフタリアに執着し、国を挙げて彼女を捕らえようとした。追跡の手は執拗であり、強力な魔物を使役してラフタリアたちを追い詰めた。
尚文はこの事態に呆れたが、眷属器は選ばれた者にしか扱えないため、取り戻そうとする発想自体が間違っていると指摘した。しかし、敵は尚文の言葉を聞き入れず、なおもラフタリアを排除しようとした。
白虎の複製体との対峙
追っ手の中には巨大な白虎のような魔物がいた。これはグラスたちの世界に存在する四聖獣・白虎の複製体であり、国の決戦兵器として利用されていた。数が多く、転送を阻害する力を持っていたため、尚文たちは逃走が困難になっていた。
尚文はラフタリアを守ることを決意し、敵と対峙した。グラス、ラルク、テリス、フィーロも戦闘態勢に入り、白虎の複製体と対する準備を整えた。そして、白虎の遠吠えが響き渡る中、戦いの幕が切って落とされた。
十六話 無詠唱
戦力の分析と戦闘の開始
尚文は現在の状況を整理し、装備中の盾の中で最もリスクが少なく強力な「ヌエの盾」を選択していた。この盾は防御力が高いが、反撃効果には期待できなかった。仲間の戦力を推定し、グラス、ラルク、絆、ラフタリア、テリス、フィーロ、リーシアの順で強いと判断するが、ラフちゃんとクリスは戦力として計算に入れるのが難しかった。
目の前に立ちはだかるのは、グラスの世界の守護獣・白虎の複製体。その実力は未知数であり、グラスたちですら苦戦するほどの強さを持つ化け物だった。その白虎を使役するクズ二号とその仲間たちは、時間を稼げば稼ぐほど国の増援が到着するという状況だった。逃げても執拗に追われると判断した尚文は、戦うことを決意する。
激戦の幕開け
白虎の一匹がグラスと絆に襲いかかり、グラスは扇で防御しながら反撃するも、白虎は素早く身を引き、攻撃を回避した。その動きは虎という動物のイメージそのものであり、異世界でも屈指の強さを誇る存在だった。さらに、リーシアを狙って跳躍した白虎を尚文が後ろ脚を掴んで阻止し、フィーロが風の魔法で攻撃したが、効果は限定的だった。
ラルクが白虎へ「飛天大車輪」というスキルを放ち、白虎の毛を赤く染めるが、致命傷には至らなかった。テリスも「紅玉炎」を発動し、炎の業火が白虎を包む。苦しむ白虎を見たクズ二号が尚文に襲いかかるが、尚文は「エアストシールド」を発動し、クズ二号の刀を受け止めた。前回の戦闘で尚文の防御力を理解していたクズ二号は、その壁を破ることができず苛立つ。
戦況の変化と魔法の応酬
尚文は「ツヴァイト・オーラ」を発動し、まずグラスを強化。その結果、グラスは「輪舞零ノ型・逆式雪月花」という高火力のスキルを発動したが、白虎を仕留めるには至らなかった。テリスが防御低下の魔法「粉守」を唱え、ラルクが一撃を加え、ようやく白虎に大きなダメージを与えた。
一方、クズ二号は無詠唱の魔法を放ち、次々と火の玉を飛ばしてくる。その魔法は通常の詠唱魔法より威力は落ちるものの、連発できる点で脅威だった。しかし、尚文はその攻撃を容易に弾き、さほどの脅威ではないと判断した。
その後、クズ二号の仲間の女戦士が尚文に斬りかかるが、「流星盾」を発動して防ぎ、ラフタリアがその隙を突いて攻撃を試みる。しかし、クズ二号が妨害の魔法を放ち、ラフタリアは攻撃を中断。リーシアの札攻撃で敵の隙を作り出し、尚文は「ツヴァイト・ヒール」で自らの傷を癒した。
戦況の激化とラフタリアの一撃
尚文は、クズ二号の無詠唱魔法の欠点を指摘し、熟練した魔法使いなら詠唱を行うことでより強力な魔法を使えることを示唆した。フィーロもまた風の魔法を無詠唱で放ち、クズ二号にダメージを与えた。クズ二号は動揺しながらも、刀を手に尚文たちへ突進する。
白虎はラフタリアを標的に変更するが、尚文が尻尾を掴んで引き止めた。ラフタリアは「三日月閃」を発動し、白虎の毛皮を削ぎ落とした。同時に尚文の「ヌエの盾」が発動し、雷の盾(中)の効果でクズ二号を感電させ、攻撃の手を緩めさせることに成功した。
クズ二号の仲間たちが尚文たちに殺到する中、尚文は「トルネイドシールド」を発動し、竜巻を生み出して敵を吹き飛ばした。そして、ラフタリアが刀を強く握りしめ、一閃。「細雪」というスキルを発動させ、クズ二号の魔力を根こそぎ奪い去った。クズ二号は倒れながらも「大地の結晶」を使い回復を試みるが、尚文がその手を阻止し、再び感電させた。
戦いの終盤と新たな脅威
白虎の群れはまだ止まらず、さらに強大な個体が現れた。その動きを見た尚文は、絆が釣竿のルアーを使い、何かを仕掛けていることに気づいた。グラスたちは防御を固めながら戦い続け、白虎たちはなぜか絆を攻撃せずにいた。
すると、絆のルアーがクズ二号に命中し、「今は攻撃しないように」と尚文に指示を出す。その直後、特に巨大な白虎が現れた。尚文はその存在が単なる複製体とは異なることを直感し、事態の推移を見守った。戦闘はさらに激化する気配を見せていた。
十七話 血花線
白虎の制圧と戦局の転換
グラスは扇を構え、「夢幻」のスキルを発動した。桜の花びらが辺りを覆い、幻想的な光景が広がると同時に、白虎たちの動きが鈍り、目を回したような様子を見せた。続いてラルクが鎌を投げ、竜巻を発生させることでグラスのスキルを強化する。テリスも「輝石・麻痺羽」を発動し、蝶が舞いながら白虎たちを包み込むと、彼らは完全に動きを止めた。
絆は鮪包丁に武器を変え、狩猟具の勇者としての圧倒的な力を示す準備を整えた。グラスが「勝利は確定した」と告げると、尚文はクズ二号を押さえつけたまま、ラフタリアに指示を出し、最大の攻撃を放つよう求めた。
決定的な一撃
ラフタリアは刀を構え、クズ二号に向かって駆け出す。同時に絆も白虎に向かい、一瞬で相手を切り抜けた。ラフタリアの一撃は深く入り込み、クズ二号はその場で硬直する。動けば即座に命を落とすほどの致命傷であり、彼の顔色は青ざめていった。
絆は静かに白虎たちのもとへ戻ると、彼らを包丁の峰で軽く叩いた。それだけで白虎は次々に崩れ去り、血の飛沫が辺りを染める。その光景はまるで「血の花」が咲いたかのようであり、クズ二号の仲間や武士たちは言葉を失った。
恐怖と混乱
クズ二号の部下たちは、決戦兵器である白虎が瞬時に駆逐されたことに驚愕し、敗北を信じられない様子だった。「最弱の四聖がなぜここまで強いのか」と問い詰める声が上がるが、絆は冷静に指摘した。狩猟具の勇者は魔物を倒すことに特化した能力を持つため、対人戦ではなくとも圧倒的な戦闘力を発揮できるのだ。
尚文は改めて絆の強さを再認識し、その異常なまでの戦闘能力に驚愕した。対人特化の勇者が存在すれば、それこそ危険な存在となるだろうとも考えた。
退路の確保
絆は鮪包丁を掲げ、クズ二号の配下を牽制しながら、尚文たちを解放するよう要求した。尚文はクズ二号を人質に取り、相手の動きを封じたまま、白虎の死骸を盾に吸収し、戦場を後にしようとした。しかし、回復魔法を受けたクズ二号は再び敵意を剥き出しにし、尚文たちを殺すよう命じた。
その瞬間、ラフタリアが冷静に宣告する。回復魔法なしでは十秒、回復魔法があっても数日は動いてはならない状態であることを警告し、敵国と同盟を結ぶ可能性を検討するよう促した。しかし、クズ二号はその言葉を無視し、部下たちを従えて再び攻撃を指示する。
最期の瞬間
尚文たちが振り返らないよう忠告を受ける中、クズ二号は数歩踏み出した。そして、突如として異様な音が響き渡り、飛沫が散る音と共に絶叫が上がった。クズ二号は完全に沈黙し、その仲間たちも混乱と恐怖に包まれた。
尚文は背後を振り向こうとはせず、ただ冷静に言葉を紡いだ。「こうしてまた一つ、この世のゴミが消えた」。それに対し、ラフタリアは呆れたように叱責したが、尚文はどこか満足げだった。
絆の技と次の行動
尚文は、絆がどのようにして白虎たちを一瞬で仕留めたのかを尋ねた。絆は「相手の弱点の繋ぎ目を断つ必殺技」だと説明し、さらに「擬餌倍針」というスキルによって次の攻撃の威力を倍増させていたことを明かした。その効果により、ラフタリアの一撃は通常以上の威力を発揮し、クズ二号を即座に制圧したのだった。
一方、尚文は通信が回復したことを確認し、拠点へ戻る準備を進めた。絆の支援を受けながら、彼らは「ポータルシールド」を発動し、安全な地へと帰還した。
エピローグ 全員集合
城での休息と絆の叱責
尚文たちは絆の拠点である国の城で休息を取った。やがて絆が帰還したと聞き、呼ばれた先で、尚文は意外な光景を目の当たりにする。グラス、ラルク、テリスが正座させられ、絆が彼らを叱責していたのである。
その理由は、彼らが伝承を信じ、波の亀裂を通じて他世界の四聖を殺しに行ったことにあった。絆は彼らの行為を断固として否定し、異世界の勇者が波の影響でこの世界に来た事例がないことを指摘した。そして、「他者を犠牲にしないと維持できない平和を望んでいるのか」と強い口調で問いただした。グラスたちは言葉を詰まらせ、絆の怒りを真正面から受け止めるしかなかった。
異世界の四聖と波の意味
絆は、四聖が波に召喚される理由について疑問を投げかけた。「もし四聖が殺されるだけの存在なら、そもそも召喚する必要がないはずだ」とし、四聖が波を鎮めることで次の波への猶予時間を稼ぎ、世界融合の阻止に繋がる可能性を示唆した。
この考えにグラスたちは返答できず、尚文も改めて波の本質を考えさせられた。絆は、「他世界の人間を犠牲にする選択は絶対にしてはならない」と断言し、グラスもその意見を受け入れた。彼女は尚文たちに謝罪し、過去の過ちを認めたのだった。
和解と新たな共闘関係
グラスの謝罪を受け、尚文は彼女たちの苦悩を理解し、過度に責めることはしなかった。仲間のいない状態で、絆の帰還を信じて拠点を守り続けた彼らの気持ちは痛いほど伝わってきた。
絆は「もう異世界の四聖を殺すために乗り込むことはさせない」と断言し、ラルクやテリスもそれに従うことを決めた。ラルクは、「尚文と戦うことをためらっていた」と明かし、これ以上の対立は避けるべきだと納得した様子だった。
尚文は「最初からこんな真似をしなければよかった」と皮肉を言ったが、ラルクは軽く笑い飛ばし、絆に睨まれて口をつぐんだ。こうして尚文たちは正式に共闘関係を継続することを決め、目的を共有する仲間として動くことになった。
キョウへの報いと祭りの準備
尚文は、霊亀の力を奪い、尚文の世界を蹂躙した本の眷属器の所持者キョウへの復讐を果たすことを誓った。グラスやラルク、テリスもこの戦いに協力することを約束し、尚文たちの意志に賛同した。
その後、ラルクが手を叩くと、城の者たちが祭りの準備を始めた。絆の帰還を祝う宴が催されることになり、城全体が活気に満ちた空気へと変わる。尚文はラルクを「若」と呼び、ラルクも尚文を「坊主」と呼び続けることで互いにからかい合った。
武器の改修と新たな装備
祭りの前に、尚文たちは絆の紹介で鍛冶師ロミナの店を訪れた。ラフタリアの刀の鞘を作るためであり、同時に尚文の鎧やリーシアのフィーロ着ぐるみの修復も依頼することになった。ロミナは異世界の装備に興味を示し、「面白い仕事だ」と意欲を見せた。尚文は、鍛冶師の技術を信頼し、改修を任せることにした。
また、フィーロのツメが行方不明になっていることが判明し、尚文は盾から予備のカルマードッグクロウを取り出す。しかし、異世界を渡った影響でツメが機能しなくなっており、ロミナは研究を進めることにした。さらに、尚文の鎧に埋め込まれた「竜帝の核石」が、絆の世界にも存在する素材であることが判明し、鍛冶のさらなる可能性が広がった。
祭りの始まり
城から花火のような音が上がり、城下町の人々が祭りの開始を祝う声を上げた。グラスは涙ぐみながら絆に「おかえり」と告げ、絆も「ただいま」と応えた。その様子を見守る尚文たちは、彼らの強い絆を感じ取った。
フィーロやラフちゃんが祭りに興味を示し、尚文は「たまには楽しむのも悪くない」と考え、ラフタリアやリーシアと共に城下町へ向かった。
こうして尚文たちは、祭りの喧騒に包まれながら、束の間の休息を楽しむこととなったのだった。
同シリーズ
盾の勇者の成り上がり
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