どんな本?
『屍王の帰還 ~元勇者の俺、自分が組織した厨二秘密結社を止めるために再び異世界に召喚されてしまう~』は、異世界ファンタジーとコメディを融合させたライトノベルである。主人公の日崎司央は、中学3年生のときに異世界に召喚され、勇者として世界を救った過去を持つ。しかし、彼がかつて「屍王」と名乗り組織した秘密結社「ヘルヘイム」が、再び異世界で暴走していることを知らされ、再度召喚されることになる。自らの黒歴史と向き合いながら、彼は組織の暴走を止めるために奮闘する。
主要キャラクター
• 日崎司央(ひざき しおう):主人公。かつて異世界を救った元勇者であり、「屍王」として秘密結社「ヘルヘイム」を組織した過去を持つ。再び異世界に召喚され、自らの黒歴史と向き合うことになる。
• 八戒(はっかい):司央が組織した「ヘルヘイム」の最強の部下たち。彼らは司央を深く敬愛し、再び彼のもとに集結する。
物語の特徴
本作は、異世界ファンタジーとコメディを巧みに融合させている。主人公が自らの過去の黒歴史に悶えながらも、それを乗り越えていく姿が描かれており、読者に共感と笑いを提供する。また、個性的なキャラクターたちとの再会や、組織の謎を解き明かす展開が、物語に深みと興奮を与えている。
出版情報
• 著者:Sty
• イラスト:詰め木
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:MFブックス
• 発売日:2024年7月25日
• 判型:B6判
• ページ数:324ページ
• ISBN:9784046833730
• 関連メディア展開:
• Web小説:『小説家になろう』および『カクヨム』にて連載
• コミカライズ:未定
読んだ本のタイトル
屍王の帰還 ~元勇者の俺、自分が組織した厨二秘密結社を止めるために再び異世界に召喚されてしまう~1
著者:Sty 氏
イラスト:詰め木 氏
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あらすじ・内容
かつての廚二病のせいで再召喚!? 秘密結社が時を超えて再び始動する!
かつて異世界を救った勇者日崎司央は再召喚され、かつて「屍王」と名乗り自らが組織した「ヘルヘイム」を騙る組織の暴走を止めるため再びヘルヘイムを始動させる。彼を敬愛する最強の部下「八戒」たちとともに――。
感想
厨二要素と人間ドラマの融合
この作品は、厨二病の黒歴史を抱える主人公の日崎司央が再び異世界で立ち上がる姿を描いている。
ヘルヘイムの再結成や、部下たちとの絆の深さは非常に魅力的である。
一方で、主人公がかつての過ちを悔いながらも行動する姿には、人間的な成長が感じられる。
ヘルヘイムとの再会
異世界に戻った日崎司央は、かつての仲間である八戒たちと再会する。
彼らは長い年月を経ても、日崎司央への忠誠心を失わず、再び彼を中心に集結した。
その再会の場面は、感動と期待を与えるものであった。
厨二病と再召喚の運命
日崎司央は、かつて異世界で悪魔王を倒し、平和を取り戻した英雄であった。
だが、その過程で彼が名乗った「屍王」や、組織した「ヘルヘイム」という厨二病全開の秘密結社が、再び異世界で暴走していると知らされる。
現実世界で平穏な生活を送っていた彼は、神の要請により、もう一度異世界へと召喚されることになった。
悪魔王討伐後の代償
悪魔王を倒した後の日崎司央は、異世界に残ることなく元の世界に戻った。
その後、彼が異世界で築き上げた功績や、ヘルヘイムの存在が次第に歪められていく。
世界を救った英雄でありながら、彼は次第に人々から警戒される存在となり、王族からも目の敵にされていった。
次巻への期待
特に気になるのは、王族が屍王を危険視している理由と、屍王の妹・氷華がどのように物語に絡んでいくかである。
彼女が兄の立場を知った時の反応や選択も、物語の重要な鍵となるだろう。
また、八戒の残るメンバーがどのような形で登場し、屍王の冒険にどう関わるのか、次巻が非常に楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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同シリーズ
その他フィクションョン
備忘録
プロローグ
悪魔王との最終決戦
悪魔族の王である悪魔王は、勇者たちや国の戦力をことごとく滅ぼし、世界を崩壊の淵へと追い込んでいた。しかし、そこに現れたのは「屍王」と名乗る謎の少年であった。屍王は自らの率いる組織「ヘルヘイム」を用い、悪魔王の軍勢を全滅させた。屍王は骸骨の仮面と灰色の外套に身を包み、冷淡な態度で悪魔王を討伐し、彼の最期を見届けた。
屍王とその過去
屍王の正体は、かつて異世界に召喚された勇者、日崎司央であった。彼はかつてクラスメイトと共に戦い、多くの仲間を失った末に心を壊した少年である。復讐の念に駆られた彼は、自身の力で戦力を集め、「ヘルヘイム」という秘密結社を築き上げた。この集団は圧倒的な力を誇り、屍王のためにのみ存在していた。
悪魔王討伐後の動向
悪魔王を討ち取った屍王に感慨はなく、彼とその部下たちは迅速に撤収を始めた。屍王の一声で「ヘルヘイム」は忽然と姿を消し、彼は役目を終えるとともに元の世界へ強制的に送還された。この後、彼の行方や「ヘルヘイム」の存在目的は依然として謎に包まれている。
一章 帰還
目覚めと黒歴史の追憶
日崎司央は高校卒業式当日の朝、夢に悩まされながら目を覚ました。かつての異世界での戦いや、自らが作り上げた秘密結社「ヘルヘイム」の記憶が鮮明によみがえり、過去の自分を恥じて頭を抱えていた。クラスメイト全員を失い、復讐心の末に悪魔王を討伐した後、彼は現実世界に帰還していた。日常を取り戻した司央は、平穏な生活の中で心の傷を癒していたが、異世界での記憶は彼を決して離れなかった。
再びの召喚と神の要請
突如として司央は真っ白な空間へと転送され、神と再会した。神は、司央がかつて作り上げた「ヘルヘイム」が異世界で暴れていることを告げ、再び異世界に戻るよう要請した。抵抗しつつも状況を受け入れた司央は、自身の異能がリセットされていることを知らされながらも、かつての仲間たちへの責任感から異世界への帰還を決意した。
エリューズニルの現状
異世界では、「ヘルヘイム」の拠点エリューズニルが静寂に包まれていた。幹部たちは司央の失踪後に散り散りとなり、今や館に残るのは幹部の一人であるニヴルのみであった。ニヴルは司央の帰還を信じて日々を過ごしていたが、最近の「ヘルヘイム」の悪名によって心を乱されていた。そこに現れた幹部のガルムが、司央の匂いを感じ取ったと告げ、希望を取り戻すきっかけとなった。
異世界での再始動
一方、異世界に転移した司央は森の中で目を覚まし、自らの魔力や能力を確認した。全てがリセットされている中、かつての異能「死の祝福」の条件を思い出し、過去の記憶に苦悩しながらも前進することを決意した。再び異世界に足を踏み入れた彼は、新たな冒険の一歩を踏み出したのである。
第五王女と異変の始まり
グリフィル神聖国の第五王女、アーシャ・エル・グリフィルは、国宝級の魔法具『グリフィル魔法図』を通じて樹海の異常を目撃した。樹海全体が凍りついており、生物の気配が一切ない状況に直面したアーシャは、王家の誇りと責任感から、単独で調査を始めた。
樹海での邂逅
アーシャは凍りついた樹海の中で、飢えで倒れていた青年を発見した。彼を助け、名を尋ねる中で、突如盗賊団に襲われ、二人とも捕縛されてしまった。盗賊団のリーダーは、今回の異変が「ヘルヘイム」の幹部によるものだと告げ、彼らを脅迫し始めた。
謎の男との対峙
盗賊団の背後には、ヘルヘイムの幹部「智謀」を名乗るルーカスが存在していた。ルーカスは、アーシャを利用して神聖国を脅迫しようと企んでいた。しかし、青年はルーカスの言動に異を唱え、「ヘルヘイム」の規則に反していることを指摘した。その態度はルーカスを困惑させた。
青年の正体と力の解放
青年は突如冷気を発し、洞窟内を凍りつかせた。彼は、今回の異変を引き起こしたのは自分だと語り、ヘルヘイムの本来の掟を守らないルーカスを糾弾した。そして、凍結の力を用いて盗賊団とルーカスを一掃し、静寂を取り戻した。
凍りついた結末
洞窟内は完全な凍土と化し、ルーカスを含む盗賊団の者たちは冷気の中でその命を奪われた。青年の異能と力が、真の危機を覆す決定的な要素となったのである。
屍王の復活と第五王女との対峙
グリフィル樹海を凍らせた青年は、魔力を使い果たして倒れていたが、第五王女アーシャに助けられた。青年は過去の行いを思い出して自嘲しつつ、目の前の氷像を見つめていた。その場でアーシャに追及され、自分が森を凍らせた理由を「悪魔を討つため」と説明したが、彼女の疑念を完全には拭えなかった。青年は名乗りを上げる際、自らを「屍王」と称し、王女に別れを告げて立ち去った。
アーシャの決意
青年が屍王だと知ったアーシャは驚愕した。屍王は、王家の伝承において悪魔王と並ぶ脅威であり、討つべき巨悪として語り継がれていた存在であった。彼女はその背中を見送りながらも、いずれ必ず討つと心に誓った。
部下たちの反応と新たな動き
ガルダル火山では、屍王の帰還を感知した部下ニーズヘッグが歓喜に震えていた。彼女は、死んだと思っていた王の復活に驚きつつも、再び従う決意を固めた。一方、帝国では皇帝の相談を受けたある男が、凍った樹海を屍王の仕業だと確信し、忠誠を誓う行動に出ていた。
樹海の異変の真実
凍った樹海を目撃した者たちは、屍王の復活とその力を確信し始めた。王家や帝国の人々は、彼の存在を再び意識せざるを得ない状況に追い込まれた。屍王の足跡が示す意図を汲み取る者たちは、それを帰還の宣言と受け取り、新たな波乱の幕開けを予感していた。
幕間 普遍的異世界召喚・妹の場合
兄への不安と通学路の独白
日崎氷華は、兄・司央が卒業式当日に起きてこないことに不安を抱えながら通学路を歩いていた。兄に対する深い愛情を胸に秘めながら、通学途中の男子生徒からの誘いを冷たく断り、自身の内面に向き合っていた。
異世界への召喚
卒業式の最中、クラス全員が白い空間に転送され、「神」と書かれたTシャツを着た女によって異世界への召喚を告げられた。氷華はその提案を拒否しようとしたが、「帰ることはできない」と断言されたため、渋々球体に触れる決断を下した。
異世界での迎え
氷華が目を覚ました先には、グリフィル神聖国の国王ダート・エル・グリフィルと名乗る男が待ち受けていた。彼は「ヘルヘイム」という組織の脅威を告げ、彼らの力で屍王を討つよう求めた。氷華たちは、その場に居合わせた王女アーシャ・エル・グリフィルと顔を合わせ、異世界での生活が始まることを悟った。
氷華の静かな決意
豪奢な場で熱弁を振るう国王や期待に満ちた瞳を向ける王女とは対照的に、氷華は冷淡に状況を見つめていた。彼女の関心は、未知の世界での生存と、兄・司央の足跡を追うことに向けられていた。
二章 忠義の再会
秘境と悪魔の脅威
世界には「秘境」と呼ばれる未開の地が存在し、探索者たちはそこを調査する職業に従事していた。「戦地の檻」と呼ばれる秘境において、通常なら存在しない中級悪魔「ヨロイ」が発生し、探索者のパーティーが壊滅した。この出来事により、秘境のランクが引き上げられるとともに、その危険性が広く認識された。
シオーと異能「死の祝福」
シオー・ヒザキは、異能「死の祝福」を持つ人物であった。この異能は、多くの命を奪うことで新たな力を得るという残酷な性質を持ち、彼はそれによってかつて数多の命を犠牲にしてきた。彼は再び異世界に戻り、自身の行動と向き合いながら、新たな挑戦へと踏み出した。
再会する部下たち
シオーはグリフィル樹海で「ヘルヘイム」の幹部であるニヴルとガルムと再会した。彼女たちは長い間、シオーの帰還を信じて待ち続けており、再会の喜びを隠せなかった。シオーは自分が「屍王」としての役割を再び担うことを認め、彼女たちを伴い、名を騙る者たちを討つ決意を固めた。
秘境での中級悪魔との戦闘
シオーたちは探索の途中で中級悪魔と遭遇した。ガルムの異能「不壊の獣体」による圧倒的な防御力と攻撃力により、悪魔は容易に討伐された。この戦闘を通じて、彼らの結束と実力が改めて確認された。
探索者の街ガートへの到着
一行は情報収集のため探索者の街ガートに向かった。街は活気に満ち、シオーは「ヘルヘイム」の名を騙る者たちの情報を得るべく探索者ギルドに向かった。彼は目立たないよう振る舞いながら、適切な情報源となる人物を探し出そうとした。
探索者ギルドの喧騒と情報収集
探索者ギルドは、中級悪魔「ヨロイ」の出現情報で混乱していた。そんな中、幼馴染で探索者Lv3に昇格したばかりのアンドとニームは祝杯を挙げていた。席を外したアンドを待つニームに一人の青年が近づき、中級悪魔やヘルヘイムについての情報を尋ねた。ニームは自分が知る範囲で彼に答えたが、青年は彼女の気づかぬうちに立ち去った。
路地裏の情報屋との交渉
一方、灰色の外套を纏った女性が路地裏の情報屋を訪れた。彼女は情報を得るために冷静かつ強引な交渉を展開し、主である男からヘルヘイムに関する最新の情報を引き出した。その存在感や振る舞いから、男は彼女がただの情報屋ではないと察した。
ガルムの探索と集合命令
ガルムは獣人の特性を活かして街の外壁から情報収集を試みたが、屍王の集合命令を受けて探索を中断した。彼女は屍王に全てを見透かされているような感覚を懐かしみながら、その指示に従った。
秘境「戦地の檻」での討伐隊の動向
探索者たちは秘境「戦地の檻」で中級悪魔の亡骸を発見したが、そこで仲間の死体が消失しているという異常事態に直面した。さらに、ダイトに成り代わった上級悪魔「オセ」が正体を現し、悪魔の大群と共に探索者たちを襲撃した。
屍王の登場と対峙
秘境に現れた屍王とその部下ニヴル、ガルムは、オセと彼が従える中級悪魔や下級悪魔の群れと対峙した。屍王はかつての力を取り戻すため、上級悪魔を討つべく剣を構えた。ニヴルとガルムは彼を支えつつ、その背中を信じて戦いを見守った。
燃え盛る剣と悪魔の群れ
屍王は炎剣「フラウロス」を片手に、中級悪魔オセが統率するムシアリの大群を焼き尽くしていた。剣に魔力を注ぎ込み、地中から火柱を立てることで次々と悪魔を屠った。膨大な数の悪魔を相手にしながらも、彼は冷静に数を減らしていき、戦場は焦げた臭いと炭化した屍で満たされた。
屍王の力と権能の覚醒
長時間の戦闘による疲労が見え始める屍王に対し、オセは勝利を確信して挑発を繰り返した。しかし、屍王はムシアリをすべて討ち、権能「屍の轍」を解放した。この力は屍の数に応じて身体能力を大幅に向上させるものであり、彼の戦闘力を飛躍的に高めた。
中級悪魔との激闘とオセの追い詰め
権能を得た屍王は中級悪魔たちを次々と撃破した。圧倒的な力と動きで敵を圧倒し、最終的にオセだけを追い詰めた。屍王はオセの脚を切り落とし、徹底的に無力化した後、ヘルヘイムや悪魔王復活の計画について尋問を行ったが、有力な情報を得られなかった。
オセの最期と戦場の終息
屍王はオセを斬り、その命を絶った。オセの身体は溶けるように消え去り、残ったのは黒い水晶の素材だけであった。この素材は武具として加工できる価値あるものであり、屍王はそれを拾い上げた。
帰還命令と新たな出会い
屍王は戦場を後にするため、部下のニヴルとガルムに「ヘルヘイム、帰還する」と命じた。だが、その場に現れた探索者Lv8の女、アーテル・ナノアールによって、ヘルヘイムの名を聞かれてしまった。アーテルは屍王たちを帝国に連行すると宣言し、緊張感の漂う新たな局面を迎えた。
帝国を救う探索者アーテル
アーテル・ナノアールはフォルテム帝国の探索者Lv8として、その力と名声を確立していた。帝国皇族と深い縁を持つ彼女は、ヘルヘイムによる第五皇子と第七皇女の誘拐事件に心を痛め、捜索の命を受ける。グリフィル樹海での異常現象を追い、彼女は率いるパーティー『驍勇の槍』と共にガートへ向かった。
異常な秘境と全滅の痕跡
ガートで聞きつけた「Lv3の秘境で中級悪魔が発生」という話に疑念を抱いたアーテルたちは、秘境の調査を決意した。現場に到着した彼女らが目にしたのは崩落した地面、焦げた死骸、そして散乱した探索者の遺品であった。その異常な光景の中心には、炎を纏う剣を持つフードの男が立っていた。
誤解と緊迫する対峙
男をヘルヘイムの一員と見なしたアーテルは、彼に捕縛を宣言した。暗纏の魔法を用いて視覚を奪い細剣で攻撃を仕掛けたが、男はこれを難なく防ぎ、さらに必死に「誤解だ」と弁明した。周囲の惨状が疑惑を深める中、男は自身の潔白を訴え続けた。
守護竜ニーズヘッグの登場
突然の轟音と共に現れたのは、フォルテム帝国の守護竜ニーズヘッグであった。アーテルたちは彼女の突如の登場に驚愕し、敵味方関係なく圧倒的な存在感を感じた。しかし、ニーズヘッグは彼女なりの目的で秘境に来ており、皇帝の命令とは無関係だと明かした。
屍王の正体と混乱する状況
ニーズヘッグは屍王を「我が王」と呼び、彼に膝をついて忠誠を示した。この予想外の展開に、アーテルたちは言葉を失い、その場は混乱に包まれた。屍王自身も恥ずかしさのあまり声を荒げ、状況を収拾しようとするが、その努力は空しく響いていた。ニーズヘッグの一方的な発言により、事態はさらに複雑さを増した。
屍王の名乗りと動揺する探索者たち
ニーズヘッグが屍王を王と呼んだことで場の空気は一変した。屍王自身もこの状況に困惑し、ニーズヘッグの角を掴んで詰め寄るが、彼女は嬉々としてその忠誠を示した。彼女の振る舞いに同じ八戒であるニヴルとガルムが皮肉を交えつつ口論を始めたため、屍王は二人を制止し場をまとめた。
偽ヘルヘイムと屍王の宣言
屍王はこの混乱を逆手に取り、自らが真実のヘルヘイムの主であると名乗り、探索者たちに「偽ヘルヘイムを粛清する」と宣言した。探索者たちにはフォルテム皇帝にのみ事実を伝えるよう命じ、その場を転移魔法で離脱した。
エリューズニルでの反省と新たな目的
拠点であるエリューズニルに戻った屍王は、自身が軽率に名乗りを上げたことを反省したが、八戒の三人が屍王への忠誠を誇らしげに示したため、彼も気を取り直した。そして、偽ヘルヘイムの手掛かりを探すため、八戒の一人である鍛冶師グルバに会うべく鉄鋼都市ガギウルを目指すことを決めた。
探索者アーテルの疑念
一方、探索者のアーテルは屍王の言葉に混乱しつつも冷静に状況を分析した。周囲の状況と屍王の存在から、偽ヘルヘイムの危険性だけでなく、屍王自身の脅威についても警戒心を抱きつつ、フォルテム皇帝への報告を急いだ。
新たな旅路の始まり
屍王と八戒の三人は、偽ヘルヘイムの追跡と武具作成のための旅を始めることになった。屍王はかつて悪魔王を倒した時の仲間たちと同じように、今の八戒と共に新たな戦いに挑む覚悟を決め、気楽な笑顔を浮かべながら次の目的地を目指した。
三章 ガギウルの鍛冶神
鉄鋼都市ガギウルの繁栄と鍛冶神グルバ
鉄鋼都市ガギウルはヴェヒノス鉱山の麓に位置し、鍛冶師たちの聖地として栄えていた。悪魔の素材を扱う鍛冶師たちが集まり、その武具を求め貴族や探索者が訪れ、商人たちがそれを支える。中心には「ガギウルの大木」が聳え、その幹に鍛冶神グルバが打った剣が突き刺さっていた。この剣を抜いた者には、彼の神髄を得る権利が与えられると宣言されたが、未だ誰も成功していなかった。
鍛冶神グルバの孤独と武具への執念
グルバは鍛冶の道を極めた結果、人の手に余る武具を造るようになり、作業が無為になっていた。唯一彼の本気で打った武具を扱えた「若」はすでに去り、以降は誰もその剣を抜けない日々が続いていた。無気力な日々の中、グルバは自分の神髄を再び活かせる者が現れることを待ち続けていた。
領主の娘アイレナの奮闘
ガギウルの街を歩く少女アイレナは、領主の娘として職人や商人たちに声をかけるも、冷ややかな反応を受け続けていた。領地の不作や父親の乱心、他の貴族との軋轢が影響し、住民たちからは期待と失望が入り混じった言葉を背中に受けていた。だが彼女は歯を食いしばり、前を向いて進むことを選んでいた。
ガギウルの宿命と希望
街は繁栄しているように見えるが、住民たちは領地の現状に不安を抱いていた。一方で、アイレナは諦めることなく街の未来を支えようと努力を続けており、その姿には覚悟と希望が込められていた。彼女の奮闘が、グルバの待ち続ける「新たな力」にどう影響を与えるのか、街の運命はまだ未知数であった。
鉄鋼都市ガギウルへの到着と金欠問題
ヘルヘイム一行はヴェヒノス鉱山中腹から鉄鋼都市ガギウルを見下ろし、街への進入を決めた。しかし、大きな問題として金欠に直面した。屍王は再召喚されてから収入がなく、ヘルヘイムの機能停止も相まって資金不足が深刻だった。部下たちの世間知らずぶりも災いし、短期的な解決策として探索者になる案を考えたが、顔を晒すリスクが高いことに悩んだ。
街への入城とガギウルの大木
麓に到着した彼らは、門番の許可を得て街に入城した。街中では巨大な「ガギウルの大木」がひときわ目を引き、屍王はその木が自分が過去に植えたものだと回想した。大木の根元には商人や探索者が集まり、一振りの剣が突き刺さっていた。この剣は鍛冶神グルバが打ったもので、「抜けた者がグルバの神髄を得られる」とされ、多くの挑戦者が剣を抜こうとしていた。
剣を抜いた屍王と少女の出現
屍王は群衆をかき分けて剣を抜くことに挑戦し、恐怖克服の能力を活かして成功を収めた。観衆が驚く中、鈍色の髪を持つ少女が現れ、剣とその功績を譲るよう申し出た。彼女は剣の価値を冷静に分析し、鍛冶神グルバの技術は評価しつつも、この剣が「使い手を選ぶ欠陥品」と見抜いた。その知識と態度に屍王は興味を抱き、剣を金貨五十枚で譲渡することを決めた。
加速魔法と秘密の交渉
時空魔法「加速」により二人だけの空間を作り出し、少女は剣の真価を語った。彼女は剣を引きずるように持ちながらも、その意志の強さを示し、自らの目的を明かさず立ち去った。屍王はその姿に可能性を見出し、彼女を「原石」と評した。
新たな旅立ちと鍛冶神グルバの捜索
剣を譲ったことで金銭的余裕を得た屍王は、仲間たちとともに鍛冶神グルバを探す決意を新たにした。少女との再会の可能性を胸に抱きながら、ヘルヘイムの本筋に戻るため、再び動き出した。
異世界の勇者たちとグリフィル神聖国の召喚
第五王女アーシャは、異世界から勇者として召喚された少年少女たちを伴い、鍛冶神グルバの剣が刺さるガギウルの大木を目指していた。馬車に揺られる一行は、大木の巨大さと異世界の光景に驚きつつも、それぞれの目的に思いを馳せていた。中でもアーシャは、剣を抜くのはヒョーカ・ヒザキであると確信しており、彼女の異能と力を頼りにしていた。
異変の報せと勇者たちの動揺
鉄鋼都市ガギウルへの到着を目前に、一行は鍛冶神グルバの剣が抜かれたという報せを受けた。その知らせにアーシャや護衛の騎士たちは動揺し、勇者たちも落胆した様子を見せた。報せによれば、剣を抜いたのはアイロン伯爵家の令嬢アイレナであり、この知らせは一行にとって大きな驚きとなった。
屍王一行の動きとグルバへの接触
一方、屍王とその仲間たちは、街の探索者ギルドでグルバの工房について情報を得て、郊外の小高い丘に向かおうとした。しかし工房への道は厳重に警備されており、門番により立ち入りを拒否された。さらに、グルバに会うための唯一の方法である剣の試練が既に終わっていたことを知り、屍王は自らの誤算に気付いた。
アイロン伯爵家への接触を決意
屍王は剣を抜いた令嬢が自分に剣を譲った少女アイレナであることを思い出し、伯爵家を訪れることを決意した。彼はアイレナと再び会うことで便宜を図ってもらえる可能性を見出し、偽ヘルヘイム討伐のためにも鍛冶神グルバの協力を得る道を模索した。
計画の再構築
一行は無益な争いを避けつつ、慎重に動くことを選んだ。屍王はアイレナとの再会を目指しながらも、最悪の場合には強硬手段も視野に入れ、目的達成に向けた新たな一歩を踏み出した。
ガギウルの大木と封印の剣
ガギウルの大木に突き刺さっていたグルバの剣は、長年封印の役割を果たしていた。しかし、その剣が引き抜かれたことで封印は解かれ、内部で胎動していた上級悪魔が目覚めつつあった。大木の虚は秘境と化し、悪魔の誕生が間近に迫っていた。
アイレナとゲーテル侯爵の交渉
アイロン伯爵家の令嬢アイレナは、ガギウルの大木から抜いたグルバの剣を携え、ゲーテル侯爵との交渉に臨んだ。彼女は伯爵家の爵位返還と領主権剥奪の延期を勝ち取り、領内の改善案を提出する猶予を得た。しかし、ゲーテル侯爵はアイレナの状況を嘲笑い、その異能の無力さを揶揄した。アイレナは苦々しい思いを抱えつつ、家の存続をかけて動き続ける覚悟を固めていた。
父の錯乱と領地の危機
執務室に籠もる父アイロン伯爵は、錯乱した様子で独り言を繰り返していた。その原因は不明であり、医者にも打つ手がなかった。この異常は、ヘルヘイムの名が世界に広がり始めた頃から顕著になり、不作や領内の混乱が続いていた。アイレナは領地の問題を解決するため、十四歳の身で重い責務を背負い続けていた。
屍王との再会
アイレナが自室で涙を流していると、グルバの剣を抜いた張本人である屍王が現れた。彼は自らの目的を果たすため、アイレナに協力を申し出た。彼の提案は、互いに力を貸し合うという公平な条件だった。アイレナは戸惑いながらも、その提案を受け入れる形で行動を共にすることとなった。
鍛冶神グルバとの対面
グルバの工房を訪れたアイレナは、剣を持つことで面会を許された。しかし、グルバは剣を抜いたのがアイレナでないことを見抜き、彼女を一蹴した。その際、アイレナは屍王の名を口にし、彼の存在を伝えた。グルバは怒りを露わにしつつも屍王に興味を示し、転移魔法で屍王を工房に招いた。
再び結びつく師弟関係
工房に現れた屍王を見たグルバは驚き、涙を流しながら喜びの声を上げた。屍王は、再び彼と共に行動することを提案し、グルバをその場に引き戻した。鍛冶神としての使命を失いかけていたグルバにとって、屍王との再会は新たな目標への希望となった。
鍛冶神グルバとの和解
グルバは当初の威圧的な態度を改め、好々爺然とした表情で笑みを浮かべた。その急激な変化に、アイレナは戸惑いを隠せなかった。一方、屍王とその部下たちは昔のように賑やかに振る舞い、場を和ませた。アイレナがグルバたちの真意を計りかねる中、屍王は彼女に親しげに接し、「レナちゃん」という愛称で呼び始めた。その軽快さにアイレナも少しずつ心を開いていった。
アイレナの抱える問題と屍王の提案
屍王は自分たちがアイレナを助けることを宣言し、部下たちもそれぞれ力を貸すと意気込んだ。ニヴルが不作の原因について調査する中、アイレナは自身の無力さを嘆き、自嘲の言葉を漏らした。これに対し、屍王は彼女の努力を称え、問題解決の第一歩を踏み出したのは彼女の行動だと断言した。その言葉にアイレナは涙を拭い、希望を取り戻した。
ガギウルの大木と不作の原因
不作の原因は、ガギウルの大木に隠された異常にあると判明した。かつて屍王が埋めた悪魔の神木は、その魔力を発散して周辺を豊かにしていたが、現在では虚に魔力を吸い上げる状態に変化していた。ニヴルはこの木が疑似的な秘境となり、悪魔が育つ環境を生んでいる可能性を指摘した。屍王たちは早急に調査を開始することを決定した。
ヘルヘイムの作戦開始
屍王は自分を正義の味方ではなく、必要に応じて協力する薄情な存在だと述べたが、アイレナの努力が巡り巡って自分たちを引き寄せたと強調した。その言葉にアイレナは自信を取り戻し、彼に全幅の信頼を寄せるようになった。そして屍王は部下たちに作戦の開始を宣言し、ヘルヘイムの面々は一致団結してガギウルの問題解決に乗り出した。
四章 鈍色の覇鎚
アイロン伯爵家への王女の訪問
アイレナが家を空けている間、グリフィル神聖国の第五王女アーシャが異界からの勇者たちと共にアイロン伯爵家を訪問した。使用人たちが丁重に迎えたものの、アイレナの不在を伝えられる。王女と勇者たちは歓待を受けることとなったが、その和やかな空気の中で、館の主メタル・ウィル・アイロンが現れた。当主は異様な様子で勇者の一人、沢村の首を手折り、謎の言葉を口にする。館内は恐怖と混乱に包まれた。
ガギウルの異変と屍王の決断
ガギウルの大木から爆音が響き渡り、屍王たちは状況の深刻さを察した。ビフロンスと呼ばれる上級悪魔が目覚め、街を混乱に陥れたことを確認し、屍王は迅速に行動を開始した。彼はアイレナの異能を活かし、街を救う作戦を立て、彼女を連れて大木へ向かう決断を下した。
ビフロンスの復活と街の混乱
ビフロンスはガギウルの大木を拠点に復活を果たし、住民を恐怖に陥れた。彼の能力「死亡した生物を支配下に置くこと」により、街中に悪魔の群れが溢れ、住民は逃げ惑った。状況は混沌を極め、ビフロンスの復讐が街全体を覆った。
グルバの参戦と反撃の開始
混乱の最中、鍛冶神グルバが戦闘に加わり、中級悪魔たちを撃退し始めた。彼の圧倒的な戦闘力は住民たちに希望をもたらし、各所で彼の部下たちも戦闘に参加した。グルバは屍王への信頼を示し、彼らの勝利を確信して戦いを続けた。
屍王の反撃への布石
屍王はビフロンスによる街の混乱を逆手に取り、自らの策を実行する準備を進めた。彼はガギウルの大木の問題を根源から解決し、街を救うための決断を下した。アイレナの異能とヘルヘイムの力を結集し、反撃の時を迎えようとしていた。
ビフロンスとの対峙
屍王はレナを抱え、氷に覆われたガギウルを進み、ついにビフロンスと対峙した。ビフロンスは復讐の念を燃やしながら屍王に挑んだが、屍王は冷静に彼を挑発し、戦闘態勢を整えた。レナは自身の異能の準備を進めながら、剣を屍王に渡した。
激闘と異能の発動
ビフロンスが生み出した悪魔の群れが襲い掛かったが、屍王はその猛攻をかわしつつ、レナを守り続けた。レナは異能発動の準備を整えつつ、自分の無力感と戦いながら集中した。屍王は冷静に状況を見極め、レナが力を発揮するための時間を稼ぎ続けた。
グラシャラボラスの鎖
屍王は過去に討伐した悪魔、グラシャラボラスの力を解放し、ビフロンスの軍勢を鎖で封じた。この戦術は、ビフロンスの動きを制限し、戦況を有利に運んだ。ビフロンスは憎悪を露わにしたが、屍王の計略により追い詰められていった。
ガギウルの戦闘と守護者たち
ニーズヘッグとガルムは街の各所で悪魔を掃討し、住民の避難を支援した。グルバもまた、圧倒的な力で悪魔を討伐し、住民たちを救った。彼らの連携によって、ガギウルの混乱は次第に収束し、住民たちは命を救われた安堵と驚きの中にいた。
ヘルヘイムの宣言
ガルムは住民たちに「我らはヘルヘイム」と名乗り、屍王の命に従い行動する存在であると宣言した。この言葉は住民たちに混乱をもたらしたが、同時に彼らが救済者であるという印象を強く刻んだ。この宣言は屍王の帰還を世界に知らしめる布石となり、未来への一歩を示した。
ビフロンスとの最終決戦
ビフロンスは膨大な魔力を用い、不定形から巨人の姿へと変貌し、街を支配しようと試みた。彼の圧倒的な力は悪魔を次々と創り出したが、屍王の剣と魔力分解の鎖によりその攻撃は無力化された。ビフロンスが渾身の一撃を放とうとしたその時、準備を整えたアイレナが立ち上がった。
アイレナの覚醒と一撃
アイレナは自身の異能【不動の鐡腕】を発動させ、チャージ型の能力を最大限に生かした。屍王のサポートにより力を高めた彼女の攻撃は、街の運命を背負う一撃となった。屍王の鎖がビフロンスの腕を分解し、アイレナはグルバの剣を受け取ると、一世一代の力を込めて悪魔の核を狙った。彼女の急降下攻撃は、街の住民たちの歓声とともにビフロンスを滅ぼした。
アーシャと氷華の行動
一方、アイロン伯爵家では、勇者たちが伯爵の暴走に恐怖し混乱する中、アーシャと氷華が状況を打破するべく動いていた。氷華の異能【銀星の寵姫】が伯爵の攻撃をかわし、アーシャが伯爵を支配していた悪魔の核を討ち取ったことで館内の危機は収束した。
街への奔走と悪魔の脅威
アーシャと氷華はガギウルの状況を確認するため街へ向かった。そこで目にしたのは、悪魔の支配から解放され歓声を上げる住民たちと、アイレナの一撃で滅びゆくビフロンスの姿であった。氷華はその光景を見ながら、屍王に対するある種の既視感と自身の運命に深く思いを馳せていた。
ガギウルの勝利と新たな展開
アイレナの一撃によってビフロンスは完全に消滅し、街は再び平穏を取り戻した。しかし、この勝利が新たな脅威への布石となる可能性を予感させる中、それぞれの登場人物が新たな決意を胸に歩み始めた。
ガギウルの英雄、アイレナの決意
アイレナは悪魔ビフロンスを討ち滅ぼした後、街の復興に向けた新たな一歩を踏み出していた。街の人々から送られる歓声に応える彼女は、自分の行動が街を救ったと理解しながらも、その責務の重さを感じていた。彼女が手にしたビフロンスの素材は、屍王の提案により街の修繕費として使われることとなった。
屍王たちの別れと助言
屍王とその仲間たちは、アイレナを残して街を去ることを決めた。レナちゃんの不安を和らげるため、屍王は彼女の父親であるアイロン伯爵がビフロンスに操られていただけだと伝えた。さらに、街の人々の声援が彼女の力になると励ました。鍛冶神グルバもまた、彼女が街の新たな象徴であることを認め、重責に立ち向かう覚悟を促した。
新たな英雄の誕生
屍王は最後に「ガギウルの英雄、アイレナ・ウィル・アイロン」として彼女を称え、再び会うことを誓った。その言葉とともに屍王たちは転移し、姿を消した。残されたアイレナは、涙ながらも笑顔で彼らを見送った。彼女は街を守った英雄として、そして未来への希望として新たな役割を担うこととなった。
アーシャと氷華の疑念
その場に居合わせたアーシャは、去っていく屍王を目撃した。彼の姿を見た彼女は激しい感情を抱き、屍王への追跡を決意した。一方、氷華は屍王を目にした瞬間、彼に兄の面影を感じ取り、混乱に陥った。その呟きは静かな街に響き、新たな物語の幕開けを予感させた。
エピローグ
屍王復活の報せ
ゼノマ大陸の最北端、秘境にそびえる『襲王殿』に十人の超越者たちが集った。屍王復活の報せが、元老である一席の口から告げられると、それぞれの反応は様々であった。一部の者は懐かしみ、また一部は興味を示した。特に四席の美貌の女は屍王の元弟子であり、驚愕と歓喜を隠せなかった。しかし、一席の長老に制止され、直接の行動を控えることを余儀なくされた。長老の慎重な態度は、屍王の存在が彼らにとって特別なものであることを物語っていた。
放浪する悪魔、フルカスの動向
一方、大陸の別の場所では、五十番目の上級悪魔であるフルカスが放浪していた。彼は同族の上級悪魔を容赦なく狩りながら、屍王復活の報を耳にして歓喜する。かつて悪魔王から授けられた異例の称号「騎士」を持つフルカスは、百年以上ぶりに目的を見つけ、屍王に会うために動き出した。血濡れの秘境内で放たれた彼の声は、新たな騒乱の予兆として響き渡っていた。
閑話 狭間の少女
天使と悪魔の血を引く少女
天使族と悪魔族が人間の台頭により退いた数千年後、二つの種族の禁忌から一人の少女が生まれた。天使族の母と悪魔族の父の間に生まれたその少女は、天使皇に「許されざる命」とされ、悪魔王からも「反逆の兆し」と恐れられた。両親を失い孤独を抱えた少女は、命を狙われながらも絶望の中を生き続けていた。
雪深い森での絶望
少女は極寒の雪深い森で命の危機に瀕していた。凍える体と飢えに苛まれながらも、孤独の恐怖に耐えきれず嗚咽を漏らす。その心は、自分を狙う人間さえも愛おしいと錯覚してしまうほど追い詰められていた。ついに力尽きた少女は雪の中に倒れ込み、意識を失った。
炎と灰色の外套の青年
少女が目を覚ますと、目の前には焚き火と灰色の外套を纏った青年がいた。青年は彼女を助けた理由を「死にかけた子供を見過ごせなかったから」と語り、傷ついた彼女を治癒した。彼の言動に少女は警戒心を抱きつつも、徐々に安心感を覚える。しかし、その背後に漂う孤独の匂いが彼女の胸を締め付ける。
異能『虚構支配』の試み
少女は自らの異能『虚構支配』で青年を殺そうと試みるも、彼には一切効果がなかった。その事実に驚愕する彼女は、初めて自分の力が及ばない存在に出会ったことを悟る。そして、青年が見せる涙に自分と同じ孤独を感じ、拒絶しながらも心を揺さぶられていった。
与えられた名と新たな絆
青年は少女に「ニヴル」という名を提案した。彼女はその名を受け入れることで、次第に自分の孤独が癒され始めるのを感じた。彼との出会いは、彼女の心に小さな温もりと希望を灯した。
百八十年後の再会
エリューズニルの寝室で、百八十年ぶりに再会を果たしたニヴルは、眠る彼の顔を見つめ、彼への想いを再確認した。彼女は過去の自分では考えられないほど彼への愛情を募らせ、彼と共にいられる現在の幸せを噛み締めていた。「愛しています」という言葉は、彼女の胸の内に溢れる感情の全てを象徴していた。
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