小説「サイレント・ウィッチ VIII(8)」感想・ネタバレ

小説「サイレント・ウィッチ VIII(8)」感想・ネタバレ

どんな本?

サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと」は、モニカ・エヴァレットという無詠唱魔術を使える世界唯一の魔術師を主人公にしたファンタジー小説。
彼女は伝説の黒竜を一人で退けた英雄であり、極度の人見知りの天才魔女でもある。
しかし、彼女は無詠唱魔術を練習しているのは、人前で喋らなくて良いようにするためで。

無自覚なまま「七賢人」に選ばれてしまい、第二王子を護衛する極秘任務を同僚の七賢人に押しつけられることになり、気弱で臆病ながらも最強の力を持つ彼女が、王子に迫る悪をこっそり裁く痛快な物語が展開している。

読んだ本のタイトル

サイレント・ウィッチ VIII 沈黙の魔女の隠しごと
著者:依空まつり 氏
イラスト:藤実なんな  氏

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あらすじ・内容

父の死の理由、第二王子の過去。真相に辿り着いた魔女が下す決断とは……?

公爵邸への潜入で輪郭を表した、第二王子にまつわる一つの仮説。その答え合わせのため帝国の魔術師と対峙したモニカは、重大な取引を迫られる。一方の第二王子は己の計画の実現のため、宝玉の魔術師を脅迫し――?

サイレント・ウィッチ VIII 沈黙の魔女の隠しごと

感想

本巻は、王宮で起こった謀略と陰謀が織りなす物語であった。
特にアイザック・ウォーカーの過去は重く、彼の運命がどのように決まったのかを知ると胸が締め付けられる思いであった。
アイザックがフェリクスとしての人生を送る中で、失った家族への思いとクロックフォード公爵の計画に翻弄される様子が痛々しかった。

クロックフォード公爵の妄執の起源についても、興味深く感じた。
彼の行動がリディル王国を危機に陥れる一因となり、またモニカの父に冤罪を着せた原因ともなっていたことが、物語の中で明かされたのは衝撃的であった。

一方、モニカは帝国の皇帝との緊迫した交渉や、アイザックの過去に秘められた真実を今は亡きフェリックス王子の日記を読ん知る場面など、物語の展開は終始目が離せないものばかりであった。

フェリクスとしてのアイザックがどのようにして自分の使命を果たそうとしているのか、そしてモニカがどのようにして戦争を回避するのか?
次の巻が待ち遠しく感じる。

一方で、主人公モニカの成長も見どころであった。
かつては人の前に立つと、アワアワしてフリーズしていたモニカが。
自分の力だけではダメだと気が付き。
仲間たちの協力を得ようと奮起し、彼女にとって最大の困難に立ち向かう姿勢は感動的であった。
モニカが関係者が集まる生徒会室へと赴き、七賢人しか持つ事を赦されていない杖を手に、自身の正体を明かすシーンは、、

“皆んな信じてくれるのか?”と思ってしまった。
いや、感動的なシーンだったよ?
あのモニカがアイザックを助けるため、戦争を止めるために勇気を奮い出して自身の正体を明かす。
彼女の葛藤を知る者としたら感動的だった。

だが、、
ダメダメな彼女の事しか見てない生徒会の彼等はどうなんだろうか?
あの、モニカが沈黙の魔女??
その事実を受け入れられるのだろうか?

次巻の出だしがどうなるのか、非常に楽しみである。
ハヨ!

最後までお読み頂きありがとうございます。

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サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと
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サイレント・ウィッチ II 沈黙の魔女の隠しごと
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サイレント・ウィッチ III 沈黙の魔女の隠しごと
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サイレント・ウィッチ IV 沈黙の魔女の隠しごと
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サイレント・ウィッチ IV -after-
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サイレント・ウィッチ Ⅶ
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サイレント・ウィッチ -another-

その他フィクション

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フィクション(novel)あいうえお順

備忘録

プロローグ  持ち出された物(回想)

ヒルダ・エヴァレットは、月のない夜に逮捕されたヴェネディクト・レインの研究室に忍び込み、資料を探していた。レイン博士の研究所は差し押さえられていたが、膨大な資料を全て処分するには時間が必要であり、その間に資料を回収しようとした。協力者が酔っ払いを装って兵士を引き留める間に、ヒルダは設計図を見つけ出した。荒らされた研究室で、彼女はレイン博士の設計したコーヒーポットも見つけ、博士の遺品となることを悟った。

ヒルダは資料とポットを持ち出し、夜の街を走った。博士を告発したピーター・サムズへの怒りを抱きながら、博士の娘モニカのことを思い、彼女にポットだけでも渡したいと考えた。ヒルダは無力感に襲われ、声を殺して泣いた。

一章  水霊の至高

セレンディア学園の生徒総会が大講堂で行われた日、モニカは生徒会会計として全校生徒の前で会計報告を行った。入学したばかりの頃は自己紹介すらできなかったモニカであるが、友人たちの支えもあり、緊張しつつも報告をやり遂げた。

その後、質疑応答を担当するシリルが「よくやった」と囁き、隣に座るフェリクスがモニカに微笑みかけた。モニカはブリジットと共にクロックフォード公爵の屋敷に潜入した過去を思い出しながらも、現在の生徒会長フェリクスが偽物ではないかという疑惑を抱えていた。

ブリジットは本物のフェリクスを探し続けており、モニカは学園祭の際に聞いた「おぞましい真実」を探るための手段を講じていた。フェリクスの閉会の挨拶が終わると、生徒たちは退場し始めた。モニカはシリルにフェリクスへの尊敬を確認し、シリルの誇りがフェリクスに認められたことにあると知り、彼の秘密を暴くことにためらいを覚えた。

モニカは、卒業式までの短い期間に真実を掴んだとしても、誰にも語らずに全てを胸に秘めて生きる決意を固めていた。

セレンディア学園の生徒総会が午前中に行われた後、モニカは図書館棟に向かい、ダスティン・ギュンターの本を探していた。ダスティン・ギュンターは冒険小説『バーソロミュー・アレクサンダーの冒険』シリーズで有名であり、モニカはその本を借りようとしていた。図書館で、モニカは学園祭で侵入者と共に行動していたハイディに出会い、今夜女子寮裏手の森で待つように耳打ちされた。これにより、モニカは「おぞましい真実」の答え合わせをする時が来たと感じた。

一方、ラビアナ司教は教会での権力者であり、クロックフォード公爵との晩餐会に臨んでいた。ラビアナ司教は、魔法薬「水霊の至高」の規制緩和をクロックフォード公爵に求めた。だが、クロックフォード公爵はその薬の危険性を指摘し、国の繁栄とは認めずに拒絶した。最終的にクロックフォード公爵の護衛兵がラビアナ司教を襲撃し、彼は命を落とした。公爵の冷たい対応にラビアナ司教は無念の思いを抱えたまま、その生涯を終えた。

夕焼けに照らされた司教館は多くの兵士に包囲されていた。そこに豪華なローブをまとった銀髪の女性、〈星詠みの魔女〉メアリー・ハーヴェイが到着した。彼女が司教館に向かうと、指揮官が立ち塞がり、出入りを禁じた。メアリーは司教館の封鎖理由をすぐに理解し、ラビアナ司教が「水霊の至高」を流通させようとしたことを指摘した。

クロックフォード公爵は、メアリーの言葉を受け流しながら、ラビアナ司教の死を通じて、他国の影響を許さぬ姿勢を示した。メアリーは、クロックフォード公爵がどんなに豪華な駒でも不要と判断すれば排除することを思い浮かべたが、そのことに躊躇しない強さが公爵を今の地位に押し上げたと知っていた。

メアリーは公爵に対し、〈宝玉の魔術師〉の安否を尋ねたが、公爵は逆に彼女にその詳細を問うた。二人の間には緊張が走ったが、メアリーはすぐにその場を去った。メアリーが去った後、公爵は東の方角に目を向け、伝令を命じた。彼は自国に侵入した者の存在を認識していた。

二章  黒獅子の誘い

モニカは図書館から借りた『バーソロミュー・アレクサンダーの冒険』シリーズの本を屋根裏部屋に置き、ネロにフェリクスの護衛を頼んで、一人で夜の森へ向かうことにした。森の中でユアンと出会い、彼の協力者ハイディと共に、真実を探る会話を交わした。モニカはユアンの魔術がフェリクスの偽物を作るために使われたことを理解し、その真実を暴露するというユアンの意図を知った。

一方で、シュヴァルガルト帝国の皇帝である黒獅子皇ことレオンハルトが現れ、モニカに戦争を回避する策があるかを問うた。モニカは具体策は持っていなかったが、自分の大切なものを守りたいと願い、戦争を防ぐことを誓った。皇帝はモニカに興味を持ち、彼女がリディル王国で何を成すかを見守ることを決めた。モニカは皇帝の支配力と理知的な一面に触れ、戦争回避の使命を自覚した。黒獅子皇の指示でハイディがモニカの連絡係となり、共に森を抜け出すことになった。

モニカは森を抜け女子寮に向かう途中、無言のハイディから彼女が帝国に帰れない状況について聞かされ、焦りを感じた。戦争を回避する方法について何も考えていなかったモニカは、ハイディに調べごとを依頼し、情報を集めることにした。ハイディはモニカの依頼を受け入れたが、冷ややかな態度を崩さなかった。

女子寮に戻ったモニカは、ネロに迎えられたが、彼に自分の状況を説明する間に、ネロが読んでいた『バーソロミュー・アレクサンダーの冒険』シリーズの中の「黒い聖杯」という単語に気づいた。過去に父親の古書店で見つけたメッセージと関連があると感じたモニカは、この「黒い聖杯」が父親の死に関係していることを確信した。

ネロから「黒い聖杯」の役割についての説明を受けたモニカは、この情報が父親の死の理由を示すものであることを理解し、自分の体が震えるのを感じた。父親が殺された理由を悟ったモニカは、悲しみに打ちひしがれながら、今後の行動を考える必要があると自覚した。

三章  黒い聖杯の真実

モニカがコールラプトンの街に再び訪れた夜、古書店ポーターを訪れた。店主のポーターはモニカの父の友人であり、彼女が持っていた父の形見と同じコーヒーポットを使っていた。モニカはポーターに、父が処刑された理由について尋ねた。ポーターは、小説『バーソロミュー・アレクサンダーの冒険』の黒い聖杯が、特定の血族に反応する魔導具であり、モニカの父がこれを作ろうとしていたことを示唆した。

ポーターは、クロックフォード公爵がフェリクスの正体を隠すためにモニカの父を処刑したことを知っていたが、何もできずに傍観者でいる自分を責めた。モニカもまた、父が処刑されるのを見ていることしかできなかった過去を思い返し、今度こそ自分が何かできると信じている。

モニカは、無詠唱で風の魔術を使い、ポーターに自分の力を示した。ポーターは驚きながらも、モニカの決意を感じ取った。モニカはフェリクスと話し、彼の正体を知ったときの反応を知りたいと願った。彼女は、自分の力を使って、過去のようにただ傍観するのではなく、行動を起こす覚悟を決めた。

エマニュエル・ダーウィンは、七賢人の一人としてリディル王国第二王子フェリクス・アーク・リディルと会見した。エマニュエルは、偽王の笛ガラニスを違法に所持しており、そのことを隠すため、フェリクスと接触した。フェリクスは、彼が自分の祖父であるクロックフォード公爵を暗殺することをほのめかし、その後のサポートを約束した。

フェリクスは、クロックフォード公爵の魔導具の点検中に事故を装い、公爵を殺害することを提案した。エマニュエルはそれを恐れながらも、フェリクスからの圧力に抗うことができなかった。フェリクスは、既に第二王子派の貴族たちと密約を交わしており、彼の後継者としての地位を確保していた。エマニュエルはフェリクスの脅迫に屈し、彼の力になることを決意した。彼は七賢人としての地位を守るため、そして国王の相談役になるという野望を実現するために、フェリクスの計画に従うことを余儀なくされた。

四章  秘密の友達

フェリクス・アーク・リディルは、セレンディア学園への帰路で、計画が順調に進んでいることに満足していた。彼は〈宝玉の魔術師〉エマニュエル・ダーウィンを自分の味方に引き入れ、クロックフォード公爵を事故に見せかけて暗殺しようとしていた。さらに、彼は公爵の死後の後ろ盾も確保しており、派閥の異なる貴族たちと秘密裏に接触して支援を取り付けていた。

フェリクスにとって玉座はスタート地点に過ぎず、彼の最終目標は偉大な国王として歴史に名を残すことであった。彼は、いかなる犠牲を払ってでもこの目標を達成しようとしていた。馬車の中で時間を確認した後、フェリクスは学園の生徒会室に向かうことを決め、仮眠を取った。彼は雨音を聞きながら、初めて馬車に乗った日を思い出し、その記憶に浸っていた。

(アイザック過去編)

アイザック・ウォーカーは、リディル王国東部のルガロアという町の医者の息子であった。彼の家族は、父と母、そしてまだ一歳にも満たない弟コリンと彼自身の四人で、平凡で幸せな生活を送っていた。しかし、その幸せは年に一度の祭りの日に崩れ去った。

その日、家族で祭りに出かけたアイザックは、父から串焼きを買ってもらい、楽しんでいた。しかし、遠くで非常事態を知らせる鐘の音が鳴り響き、「竜だ!地竜の群れが町に!」という叫び声が聞こえた。町は恐慌状態に陥り、人々は逃げ惑った。父はアイザックの手を引き、母は弟を抱えて避難しようとした。

地竜の群れは町を襲い、町は壊滅状態に陥った。アイザックたちは町の南端の避難所で過ごすことになったが、父は医者として負傷者を治療するため町に戻ることになった。アイザックは父の安全を心配したが、父は「怪我している人がいるなら、行かなくてはいけないんだ」と言い、避難所を去った。

アイザックは父の言いつけを守り、母と弟を守ろうとしたが、父は夜遅くなっても戻らなかった。そして、翌日、父は崩壊した家屋の下敷きになり、帰らぬ人となった。

アイザック・ウォーカーは、父の死後、母と弟と共に町を出る準備をしていた。避難者が殺到する中、彼らが馬車に乗れたのは、順番を待ち続けて二日後であった。ようやく乗り込んだ馬車は座席もない幌馬車で、人々がぎゅうぎゅう詰めになっていた。

アイザックは弟をあやしながら、父の死を思い出し泣きたくなる気持ちを必死で堪えていた。すると、突然馬車が大きく揺れ、竜が馬車を襲った。馬車が倒れ、人々が悲鳴をあげる中、アイザックの母も頭から血を流していた。彼女はアイザックに弟のコリンを託し、自分を置いて逃げるように促した。

しかし、アイザックはまだ六歳であり、母を見捨てて逃げるという選択はできなかった。彼はコリンを抱きしめ、馬車から逃げ出そうとしたが、竜の爪がアイザックの顔の右半分を抉った。痛みと恐怖で混乱しながらも、弟を守ろうとしたが、竜の尾が彼を襲い、意識を失った。

雨が降り注ぐ中、意識を取り戻したアイザックは、弟を守ろうと必死で抱きしめ続けた。その時、竜騎士団が到着し、アイザックを発見した。しかし、弟のコリンは既に冷たくなっていた。アイザックは、両親との約束を果たせずに一人生き残ったことに気づき、絶望感に打ちひしがれた。

アイザック・ウォーカーは家族を失い、天涯孤独の身となり、ルガロアの町から少し離れた街の孤児院に入れられた。右目の上には深い傷が残ったが、失明は免れ、骨折もなかった。しかし、家族を失った心の傷は癒えず、彼は黙々と勉強に打ち込んでいた。知識を詰め込まないと、頭がどうにかなりそうだったからである。

ある日、アイザックは院長室に呼び出された。そこには、貴族然とした冷たい雰囲気の男が座っていた。男は50歳くらいで、白髪混じりの金髪を結っていた。彼はアイザックに命じて顔を見せるように言った。アイザックは言われた通りに右目を隠す前髪をかきあげたが、男は傷痕を見ても眉一つ動かさなかった。

男はアイザックの髪色と年齢が近いことを確認し、彼を引き取ることを決めた。男が呼び鈴を鳴らすと、院長がすぐに現れ、男の要求に応じた。男はクロックフォード公爵、ダライアス・ナイトレイと名乗り、彼の名を聞いたアイザックは言葉を失った。

クロックフォード公爵に引き取られることが決まったアイザックは、日を改めることなく、すぐに公爵の馬車に乗せられた。孤児院に別れを告げる暇も与えられず、アイザックは自分が何をさせられるのか不安を抱きつつも、黙って馬車に揺られていた。道中、クロックフォード公爵はアイザックに向かって、彼が第二王子の代役を務めることになると告げた。王子は病弱であり、アイザックはその代役として育てられるというのが公爵の意向であった。アイザックは自分の傷が問題になると考えていたが、公爵は顔を作り替える術があると言い放った。

屋敷に到着したアイザックは、第二王子フェリクスと対面した。フェリクスは幼いながらも可愛らしい王子であったが、祖父である公爵の前では緊張しきっていた。公爵はフェリクスに冷たく接し、屋敷のルールを教えるよう命じて去って行った。フェリクスは涙を浮かべながらも泣くのを堪えていた。

アイザックは、自分の弟コリンを思い出しながら、ハンカチでウサギを作り、フェリクスを慰めた。フェリクスはアイザックの作ったウサギに興味を示し、少しずつ笑顔を見せ始めた。アイザックは、この幼い王子様を笑わせてあげたいと思い、随分久しぶりに笑い方を思い出した。

アイザックは、フェリクスの従者として特別待遇を受け、忙しい日々を過ごしていた。フェリクスは病弱であり、王になるためには健康が必要だと誰もが理解していたため、クロックフォード公爵はアイザックをフェリクスの替え玉として育てていた。ある日、フェリクスが高熱で寝込み、アイザックは彼の看病をした。フェリクスは自分が死んだら忘れられてしまうのではないかと悲しんでいたが、アイザックは彼を慰め、友達として接することを約束した。アイザックはフェリクスの頼みで、星を一緒に見ながら優しい時間を過ごし、彼を友人であり弟のように感じていた。

五章  必要な傷(アイザック過去編)

アイザックがフェリクスの従者になってから約一年後、屋敷にエリオット・ハワードという少年が出入りするようになった。彼はフェリクスの友人兼側近候補として選ばれたが、フェリクスを見下し、横柄な態度を取っていた。ある日、乗馬の練習中にフェリクスを揶揄し、アイザックがフェリクスを擁護すると、高慢に鼻を鳴らした。アイザックはエリオットに言い返さず、フェリクスに安心感を与えた。

翌日、エリオットの悲鳴を聞いて駆けつけたアイザックは、脇腹に枝が刺さったフェリクスを発見した。エリオットは木から落ちたと説明したが、アイザックは彼がフェリクスに木登りを強要したと察した。怒りを抑え、アイザックはフェリクスの傷を止血し、庭師に医者を呼ぶように頼んだ。

アイザックがフェリクスの従者になってから約一年後、フェリクスが木から落ちて怪我をした。主治医のアーサーが手当てをし、幸い傷は内臓に達していなかったが、傷跡が残ることになった。クロックフォード公爵は、その傷跡をアイザックにも刻むよう命じ、フェリクスとの入れ替わりを準備していた。

アーサーの手で脇腹に傷を刻まれたアイザックは、痛みを堪えながらもフェリクスの看病に戻った。彼は、フェリクスと共に過ごすために、この試練を受け入れることを決意していた。フェリクスはアイザックを信頼し、彼の手を握りしめ、安心して眠りについた。アイザックは、今度こそ大切な人を守ると心に誓った。

フェリクスは木からの転落による怪我とその後の発熱から、歩けるようになるまで一ヶ月を要した。ある早朝、フェリクスは鏡に映る自分の姿を見て、病弱である自分に失望していた。彼は、自分の存在が母アイリーン妃の死を招いたと考え、自分自身を責めていた。

アイザックはフェリクスの泣き声を聞き、彼の元へと急いだ。フェリクスが自分を恥じ、母の死を悔いていると告白すると、アイザックは彼を慰め、「アークがいなければ良かったなんて思わない」と言った。この言葉にフェリクスは救われ、感謝の念を抱いた。

アイザックはフェリクスに、以前話していた蜜を吸える花を差し出し、二人でその蜜を吸った。フェリクスはその甘さに心を和ませた。アイザックの優しさに触れたフェリクスは、自分が不出来な王子であっても、少なくともアイザックが誇れる主人になりたいと密かに願った。

フェリクスは、アイザックが誇れる主人になりたいと思いながらも、体調を崩すことが多くなった。調子の良い日はエリオットやブリジットと過ごしたが、最近はほとんど自室に籠っていた。ある日、フェリクスは体調が少し良く、日記に理想の王子様像を描き始めたが、自分との違いに気づき落ち込んだ。

彼は母の形見である首飾りを見ながら、母のように精霊と契約できたらと考えたが、自分の才能の無さにため息をついた。そこへアイザックが来て、フェリクスの様子を見に来た。アイザックはフェリクスの優しさを褒め、フェリクスを励ました。

その後、フェリクスはアイザックの剣術の訓練を窓から見ていたが、アイザックの脇腹に自分と同じ傷痕を発見し、驚いた。フェリクスは祖父のクロックフォード公爵にそのことを問いただすため、彼の部屋を訪れた。

そこでフェリクスは、アイザックが自分の替え玉として育てられていることを知った。祖父はフェリクスに何も期待しておらず、公式行事でもアイザックを代わりに出すつもりだと告げた。この事実にフェリクスは深く絶望し、アイザックが全てを承知の上で自分の友人になっていたことを知り、心が凍りつくような思いを味わった。

六章  彼の棺(アイザック過去編)

アイザックは課題を終え、夜遅くに机の前で伸びをしていた。彼は屋敷での生活に慣れ、フェリクスの従者としての役割を果たしていたが、自分が替え玉であることをフェリクスが知った時の反応を心配していた。深夜、フェリクスがアイザックを誘い、星を見に行くことになった。フェリクスは裏庭で木に登り、アイザックに将来の夢について尋ねた。アイザックはフェリクスの従者でいることを望んでいた。

フェリクスはアイザックに、自分のために夢中になれるものを見つけてほしいと頼んだ。その後、フェリクスはアイザックに封筒を渡し、部屋で読むようにと指示した。封筒にはフェリクスの手紙と、母の形見の首飾りが入っていた。手紙には、アイザックがフェリクスの代役になること、そして自分が原因で彼が損なわれることに耐えられないと書かれていた。フェリクスはアイザックに逃げて自由になるよう願っていた。

手紙を読んだアイザックは、フェリクスを探しに飛び出した。屋敷の正面に集まった人々が屋根を見上げており、そこにはフェリクスの姿があった。フェリクスは輝く星に手を伸ばし、そのまま屋根から落ちてしまった。アイザックは慟哭しながらフェリクスに駆け寄ったが、彼の目はもう二度と動くことはなかった。アイザックはまたしても、大切な人を守れなかったのだ。

フェリクスは眠るように亡くなったが、その目を再び開くことはなかった。部屋には医者のアーサー、クロックフォード公爵、そしてアイザックだけがいた。アーサーがフェリクスの死を確認したが、公爵は動揺せず、外部にはフェリクスが大病を患ったと伝えるように命じた。公爵は、フェリクスの自殺を「愚か」と呟いた。

アイザックは、自分の存在がフェリクスを追い詰めたことに気づき、深い絶望を感じた。フェリクスがアイザックのために自ら命を絶ったことが、アイザックの胸を激しく貫いた。公爵は計画に変更はないと言い、アイザックにフェリクスとして生きるよう命じた。

フェリクスの遺志を無視して逃げることもできたが、アイザックはフェリクスの名を歴史に残すことを決意した。彼はアーサーに顔の処置を依頼し、フェリクスとして生きることを選んだ。それは、幼くして亡くなった優しい王子の名を、人々に覚えてもらうための、幼く愚かな願いであった。

アイザックは、アーサーの施した肉体操作魔術によって顔を作り替えられ、一時間足らずでフェリクス・アーク・リディルの姿になった。彼は自分の変わった顔を手鏡で確認し、背中の傷痕も消されていることを知った。フェリクスの替え玉として生きることになったアイザックは、体格の違いをカバーするため、今後一年間は外部の人間と会わずに大病を患っていることにすることになった。

アイザックは魔力中毒の副作用により軽いめまいと吐き気を感じたが、魔力量に恵まれているため、起き上がることができた。肉体操作魔術は禁じられているが、アイザックはそれを使ってフェリクスを名乗り、歴史に名を刻む決意をした。

クロックフォード公爵は、アイザックに魔術を使わないように命じ、完璧な王子としての振る舞いを求めた。公爵は、第一王子が外交下手であることを利用し、国内貴族を味方につけて外交で成果を上げることを目指していた。公爵は、フェリクスの遺体を見て、アイザック・ウォーカーを「殺す」準備を進めることを示唆した。

アイザックとアーサーは、フェリクスの遺体を庭の小屋に運び込み、そこに油を撒いた。この小屋を燃やすことで、アイザックが火事に巻き込まれて死んだことにし、入れ替わり計画の仕上げとすることになった。

埃と黴の匂いが漂う小屋がフェリクスの棺となることを、アイザックは罪悪感を感じながら受け入れた。王家の人間なら本来、華やかな葬儀が行われるはずだが、ここで死ぬのはフェリクス・アーク・リディルではなく、アイザック・ウォーカーであると自分に言い聞かせた。

アイザックがマッチを取り出すと、クロックフォード公爵は突然アーサーを殺害し、「真実を知る者は私とお前だけだ」と告げた。アイザックは恐怖を感じることもなく、ただ一つ罪が増えたと虚ろに思いながら、マッチを擦り、火をつけた。火は小屋の中に広がり、二つの遺体を包み込んだ。

炎に包まれていくフェリクスの顔を目に焼き付けながら、アイザックは心の中でフェリクスに許しを乞うことはせず、再会した時に許さないでくれと願った。

七章  奇跡の魔女

アイザックはフェリクスに成り代わり、一年を政治の勉強に費やした。表向きには第二王子が大病で臥せっていることになっていたため、外での訓練はできなかったが、座学に打ち込み続けた。フェリクスの世話係には、新しい使用人が選ばれたため、フェリクスの振る舞いを知る者がいなくなり、正体が露見する心配も少なかった。

アイザックは、フェリクスの理想の王子様像を目指し、完璧な王子としてのスキルを磨いていった。彼はクロックフォード公爵に魔術の勉強を禁じられていたが、密かに魔術の勉強を続けた。特に、フェリクスが憧れていた上位精霊との契約を目指していた。精霊ウィルディアヌとの契約を成功させ、フェリクスの願いを叶えようとしていたのである。

また、アイザック自身も力を求めていた。いずれクロックフォード公爵と決別し、自分の力で歴史に名を残すために、戦う手段を増やしておきたかったのである。

フェリクスに成り代わったアイザックは、昼は課題をこなし、夜は魔術の勉強をする生活を数年間続けた。彼は第二王子が大病から回復したことを機に、セレンディア学園の中等科に入学した。学園では学業と人脈作りに励みながら、魔術の勉強も続けた。

アイザックは上位精霊である水霊ウィルディアヌとの契約を目指し、夜な夜な契約の儀式に挑んでいたが、なかなか成功しなかった。しかし、ある秋の日、ついに契約の手応えを感じることができた。数日の試行錯誤の末、彼はついに精霊ウィルディアヌとの契約を果たした。

契約に成功したことで、アイザックは大きな喜びと興奮を感じた。ウィルディアヌは小さなトカゲに姿を変え、アイザックの味方となった。アイザックはフェリクスの願いを叶えるため、彼の名を歴史に残すことを目指し、ウィルディアヌの力を借りてクロックフォード公爵に対抗する決意を新たにした。

アイザックは、水霊ウィルディアヌと契約し、フェリクス・アーク・リディルとしてセレンディア学園高等科に進学した。クロックフォード公爵の計画は順調に進み、第二王子を国王にという声が高まっていた。

ある日、アイザックはウィルディアヌと会話し、ライオネル第一王子の処遇について話し合った。ライオネルは玉座を巡る政敵であるが、すぐにどうこうするつもりはなく、ランドール王国を刺激しないために見張りをつける程度で十分だと考えていた。しかし、戦争が起こった場合には、ライオネルとヴィルマ妃を人質として利用することを視野に入れていた。

アイザックはウィルディアヌからフェリクスの最後の願いについて問いかけられ、彼がフェリクスのために何をすべきかを考えた。ウィルディアヌは、フェリクスが他の誰のためでもなく、アイザック自身のために夢中になれるものを見つけてほしいと願っていたことを伝えた。

アイザックは、自分が夢中になれるものを探すために夜遊びを試みることにした。ウィルディアヌの力で寮を抜け出し、今だけアイザック・ウォーカーとしての楽しみを追求することに決めた。国王になるまでの僅かな時間を、自分自身のために使うことを考えていたのである。

アイザックは高等科に進学して二年が経過していた。彼は夜の街を遊び歩いていたが、何かに夢中になることはできずにいた。音楽や芝居、物語に触れるたびに、作品の評価や思想にばかり気を取られ、純粋に楽しむことができなかった。娼館通いも人脈作りが目的となり、心から楽しめることはなかった。

そんな折、アイザックは故郷ルガロアの復興記念慰霊碑の除幕式を訪れることを決意したが、東部地方では黒竜の目撃情報が広がり、避難民で道が溢れ返っていた。アイザックは避難民に気づかれることを避けるために足止めを受け、翼竜の群れと遭遇してしまった。翼竜の数は圧倒的で、アイザックは恐怖に駆られた。

その時、光の粒子で作られた神々しい門が空に現れ、精霊王召喚が行われた。翼竜が矢のように撃ち抜かれる様子を目の当たりにし、アイザックは感動した。彼はこの奇跡を起こした「沈黙の魔女」と呼ばれる人物に強く興味を抱き、彼女の論文を集めて読みふけるようになった。それは、彼が夢中になれるものであり、彼の心を再び震わせた。

八章  盤外のポーン

アイザックは偉大な魔女の奇跡を思い返しながら、馬車の中で目を覚ました。彼は魔女に会いたいと願い、もっと彼女を知りたいと考えていた。

到着間近と告げられた彼は、フェリクスとしての自分を確認し、窓の外を見つめた。彼は寮に戻る前に生徒会室で書類を回収することを決め、濡れた校舎内を進んだ。

生徒会室でフェリクスが見たのは、灯りもつけずにチェス盤を見つめるモニカだった。彼女はボンヤリとした様子で、フェリクスの問いかけにもチェスを続けた。会話の中でモニカは、誰かを犠牲にしなければ願いを叶えられない場合、どうするかをフェリクスに尋ねた。フェリクスは、「必要なら、手にかける」と答えた。

モニカは、自分の父が誰かの願いのために犠牲になったことを知り、迷いを抱えていた。フェリクスは盤面を乱し、人間関係の複雑さを語った。彼はモニカに助けを求めるよう勧めたが、彼女は涙を堪え、ある名前を口にした。「ヴェネディクト・レイン」というその名を忘れないでほしいと訴え、部屋を飛び出した。

フェリクスはその名前に聞き覚えがないものの、どこかで目にしたような気がした。そして、モニカの父親の名かもしれないと考え、調べることを決意した。

モニカは父の名前をフェリクスに告げたことに後悔しつつ、女子寮へと向かった。父の死にフェリクスが関与していないと感じたが、それでも父の名前を忘れないでほしいと願ったのは、呪いにも似た感情であった。

学園で過ごすうちにモニカは変わり、数字だけではない世界の存在を知った。クロックフォード公爵と偽物の王子アイザックを断罪することで父の無実を訴えることができるかもしれないが、そのためにはアイザックの処刑も避けられない。

戦争を回避するため、モニカはクロックフォード公爵と取引をし、第二王子の正体を公開せずに第一王子ライオネルを王位につける方法を考えた。クロックフォード公爵の弱みを握り、交渉する機会として、彼女はガーデンパーティでの会合を計画した。

モニカは、フェリクスを王位に据えずに戦争を回避するために、自分の意見を手紙にまとめて公爵と交渉する決意を固めた。彼女はアイザックに王位を諦めさせる必要があると考えつつ、彼を傷つけることを謝罪した。

ルイス・ミラーは城の執務室で第二王子の秘密を確認し、クロックフォード公爵の陰謀を暴くことを計画していた。彼は、第二王子が偽物であることを国王が知っており、自分を王子の護衛に任命したのはこの事実を暴くためであると考えた。ルイスはガーデンパーティでクロックフォード公爵の罪を公表するつもりでいた。

一方、エマニュエル・ダーウィンはクロックフォード公爵の暗殺を企てていた。彼はコレクションルームで公爵を襲おうとしたが、罠にはまってしまった。エマニュエルは短剣の術式を書き換えようとしたが、毒針の罠にかかり、命を落とした。クロックフォード公爵は、第二王子の裏切りを予見していたため、エマニュエルを利用しようとしていた。

九章  妄執の亡霊、立ち尽くす

雨の日の生徒会室でモニカがフェリクスに父の名を告げてから一週間が経ったが、フェリクスの態度に変化は見られなかった。モニカも自分の気持ちを悟られないよう努めていた。資料室で作業をしていたシリルは、モニカに新生徒会役員の話を断ったことを指摘した。シリルはモニカの仕事を評価し、彼女を次期生徒会役員に推薦したいと述べたが、モニカはそれを断った。

モニカは、シリルの評価に心が温かくなったものの、自分が七賢人であることを考え、役員を続けることができないと判断した。シリルは新生徒会役員候補について話し、モニカの友人たちの名前を挙げた。モニカは驚きつつも、来年度の生徒会に期待を寄せた。

フェリクスが資料室を訪れた際、モニカは気まずさを感じたが、彼は穏やかに微笑み、用事で先に帰ると告げた。フェリクスと目が合った気がして、モニカの胸は静かにざわついた。

フェリクスとしての名を持つアイザックは、モニカが口にした「ヴェネディクト・レイン」という名について確認するために、古書店のポーターを訪ねた。ポーターはその名を知っており、ヴェネディクトは生前、遺伝子を研究し、血縁を証明する魔導具を作ろうとしていたと説明した。しかし、ヴェネディクトは禁術研究罪で処刑された。

アイザックは、クロックフォード公爵がヴェネディクトを謀殺した可能性に気づき、自分の目的がモニカの父の死に関わっていたことに衝撃を受けた。ポーターは、アイザックの物語が歴史に残ることはないと告げ、アイザックは自身の罪に重く打ちのめされた。彼は、自分の物語が歴史に必要ないと悟りながらも、モニカの父を失わせた事実に苦しんだ。

フェリクスとしての仮面を被っていたアイザックは、モニカとの会話で触発された思いに駆られて古書店を訪れ、ヴェネディクト・レインという名を持つ人物のことを調べていた。その人物はモニカの父であり、禁術研究罪で処刑されたことが判明した。アイザックは、ヴェネディクトがクロックフォード公爵によって謀殺されたのではないかと考え、自分の計画がモニカの父を犠牲にしていた事実に苦悩した。

その後、アイザックは寮に戻り、モニカのことを考えながら一晩を過ごした。翌朝、彼は新旧生徒会役員候補との顔合わせのために準備を進めていたが、そこに中央からの兵士が現れ、彼を偽物として逮捕しようとした。アイザックは状況を冷静に分析し、クロックフォード公爵が自分を見限ったと悟った。公爵は第三王子を新たな候補に擁立し、計画を進める意図を持っていた。

アイザックは抵抗せず、シリルに生徒会を託して護送用の馬車に乗り込んだ。この状況を報いと受け止めた彼は、破滅の足音を聞きながらも心を静かに保っていた。

セレンディア学園の生徒会室に新旧生徒会役員が集まり、顔合わせを行っていた。次期生徒会長であるニールと現役員たちは、新生徒会役員候補とともに、今後の活動について話し合っていたが、そこにシリルとグレンが慌てた様子で駆け込んできた。

グレンは、男子寮に中央の兵士が押しかけ、〈宝玉の魔術師〉エマニュエル・ダーウィンが自殺したという情報を伝え、さらにはフェリクス(アイザック)が第二王子の偽物だとして連行されたことを告げた。この衝撃的な知らせにモニカを含む生徒会役員たちは動揺し、事態の深刻さを実感していた。

十章  傍観者はかく語りき

七賢人の一人、エマニュエル・ダーウィンが自宅の書斎で自ら命を絶った。彼の遺書には、帝国の魔術師と共謀して第二王子を暗殺し、その魔術師が王子に成りすましてリディル王国を乗っ取ろうとしていることが記されていた。

ルイス・ミラーは自宅の書斎でこの報告を受け、城に向かう準備を進めた。報告には七賢人の招集命令も含まれており、城は混乱している様子だった。ルイスは〈沈黙の魔女〉であるモニカを城に連れてくるようリンに指示し、育児にも協力的な彼は娘のレオノーラを寝かしつけることにも意欲を見せた。

今や七賢人は六賢人となり、モニカがセレンディア学園にいる理由もなくなったため、彼女の退学手続きを考慮する必要があった。ルイスは今後の事態を憂慮しつつ、事態の進展を見守る姿勢をとっていた。

生徒会室に集まっていた生徒たちは、グレンが駆け込んできて告げた「〈宝玉の魔術師〉の自殺」と「第二王子が偽物で連行された」という二つの話に驚愕していた。モニカはブリジットを見たが、ブリジットも同じようにモニカを見返し、フェリクスが偽物であったことに驚いていた。

一方、ニールは冷静に振る舞い、現時点での情報を整理しようと呼びかけた。グレンが再度話し出し、ニールもこれを受けて対策を考えようとしていた。シリルもまた動揺していたが、ようやく状況を説明し始めた。フェリクスが連行された理由は、帝国の魔術師が第二王子に成りすまし、国を乗っ取ろうとしていたためだった。

モニカはこの事態の背後にクロックフォード公爵の陰謀を感じ取っていた。ニールは他の生徒たちに、この件については黙っているように指示し、状況を静観するよう求めた。シリルは未だにショックから立ち直れずにいたが、クローディアの指摘で、モニカとブリジットが何かを知っているかのような反応を示していることが明らかになった。

クローディアは、彼らが事態を知っているのではないかと暗示し、事態がさらに複雑化する様相を呈していた。

生徒会室に残っていたモニカは、椅子に座りながらブリジットの様子をうかがっていた。ブリジットは顔色を失っていたが、気丈に振る舞い、情報を整理しようとしていた。エリオットはモニカとブリジットを見ながら、茶でも飲もうかと声をかけた。ブリジットはエリオットの態度に苛立ちを見せたが、モニカは彼の冷静さに疑問を抱いた。

エリオットはフェリクスの幼馴染であり、二人の関係は長いものであった。モニカはエリオットがフェリクスに対して敬意を払わない理由を疑問に思い、エリオットにフェリクスが偽物であることを知っていたのではないかと問いかけた。エリオットはそれを否定せず、過去の出来事を話し始めた。

幼少期のフェリクスは、勉強や運動が苦手で、頼りない王子であったという。エリオットは彼に意地悪をし、本を木の上に隠したが、フェリクスはその本を自力で取ろうとして転落し、大怪我を負った。それでもフェリクスはエリオットを庇い、自分が悪かったと認めた。エリオットはその時、フェリクスの優しさに心を打たれたのだった。

その後、フェリクスは大きな病を患い、会うことができなくなったが、再会した時には完璧な王子に変わっていた。エリオットはその変化に驚き、彼が偽物であることを知ったと語った。

エリオットは久しぶりに会ったフェリクスが以前とは異なり、非常に自信に満ちた姿に変わっていることに驚いた。彼は背が伸び、肌の色も健康的になり、立ち振る舞いにも自信が溢れていた。パーティーでその変化に戸惑いながらも、エリオットは一人でフェリクスの私室を訪れた。

フェリクスはエリオットを迎え入れ、彼の問いに対し、自らの体にある古傷を見せて同一人物であることを証明しようとしたが、エリオットは違和感を覚えた。フェリクスの目には、一瞬、嫌悪の感情が現れた。それは、エリオットがフェリクスをいじめていた頃から知っていた、彼を嫌悪する従者の目だった。

エリオットは従者の正体を見破り、本物のフェリクスがどうなったのか問い詰めた。従者はフェリクスの代役として育てられたことを明かし、本物のフェリクスが自ら命を絶ったと語った。従者はフェリクスの死を悔いており、その名を忘れられないために、自分がフェリクスとして歴史に名を刻むことを誓っていた。

エリオットは怒りと嫌悪を覚えながらも、従者の言葉に耳を傾けた。従者はエリオットに対し、クロックフォード公爵がこの計画に関与しているため、口を閉ざすよう警告した。エリオットは従者を侮蔑しつつも、彼の行く末を見届けることを決意した。

従者は、自分の破滅を恐れず、フェリクス・アーク・リディルの名を守ることを最優先に考えていた。彼の最も恐れることは、フェリクスの名が忘れ去られることであった。エリオットは、この従者が憎んでいるのも嘲笑しているのも、すべてが彼自身であることに気づいた。

エリオットはフェリクスが偽物であることを語り終えると、疲れた様子でため息をついた。ブリジットはその話を聞き、驚きと悲しみで顔を覆った。本物のフェリクスはすでに亡くなっており、その理由が従者のために自ら命を絶ったことであった。モニカはフェリクスが死んでいることを知っていたが、エリオットの話を聞いてもなお、アイザックが何を思っていたのか、何を願っていたのかを理解できていなかった。

エリオットは、フェリクスの代役として育てられた従者がフェリクスに成りすましていたことを思い出し、正体を見抜けなかった自分を悔やんだ。しかし、エリオットは従者を愚かだと思うことができず、彼の苦悩を理解しているようだった。エリオットはシリルやモニカのように、身分の壁を越えた人々を否定できないことを自覚していた。

シリルがエリオットの話を聞いていたことに気づくと、彼はエリオットに詰め寄り、フェリクスが偽物であったことに対する怒りと悲しみをぶつけた。シリルにとって、フェリクスは彼を見出してくれた絶対的な存在であり、そのフェリクスが偽物であったことは、シリルの誇りを否定するものであった。

モニカはシリルの苦悩を目の当たりにし、彼を励ますために感情をぶつけた。シリルはその言葉に支えられ、フェリクスの偽物という事実を受け入れながらも、自分の意思を裏切らずに生徒会副会長としての務めを全うする決意を固めた。

その後、クローディアが会話を盗み聞きしていたことが発覚し、モニカとシリルはお互いの見苦しい姿を恥じたが、少し笑い合うことができた。彼らは今後もそれぞれの役割を果たし続けることを決意した。

十一章  北の地の再会

モニカとシリルが生徒会室に戻ると、エリオットは笑いながら二人を迎えた。ニールが職員室から戻り、現状の説明を行った。教員たちは詳細を把握しておらず、フェリクスが連行されたことは口外しないように釘を刺されたという。そして、三日間の臨時休校が決定された。引き継ぎや卒業式の準備は生徒会長不在のまま進める必要があるとされ、一同の顔が暗くなった。

シリルはエリオットの話を元に、本物のフェリクスが10年前に亡くなったことと、寮に押しかけてきた兵がチェス大会の侵入者を帝国の魔術師としたことに矛盾を感じた。クローディアは入れ替わりがクロックフォード公爵の仕業であると指摘し、帝国の人間による仕業とされることで戦争の口実が得られることを示唆した。

ニールは、アイザックが取り調べで真実を語る可能性を提起したが、エリオットはそれを否定した。アイザックにとっては本物のフェリクスの名誉を守ることが何よりも重要であり、殿下を殺した罪人として死を選ぶだろうと述べた。

生徒会室での話し合いは現状確認で終わり、クロックフォード公爵の策略に誰も反抗できないことが確認された。モニカはこのままでは戦争が避けられないと考え、森で帝国の諜報員ハイディと接触した。ハイディは、アイザックの処刑が迫る中、モニカが戦争を止めることを期待していた。

ハイディから受け取った紙には、アイザック・ウォーカーと本物のフェリクスを知る人物の名前と修道院名が記されていた。モニカは、その人物と話をすることで何かを変えられるかもしれないと考えた。モニカが訪れる予定のリシャーウッド修道院は、かつて彼女の友人ケイシー・グローヴが送られた場所であった。

シェフィールドの祭日が過ぎ、リディル王国は春の気配に包まれたが、北部のヴェランジェ山では、日陰に雪が残っていた。その山道を若い修道女が歩いていた。彼女は籠を背負い、手にはボウガンを持ち、獣の足跡を確認しつつ、山菜を摘んで籠に入れていた。

彼女が仕える精霊神は狩りや肉食を禁じていなかったため、北の地で貴重な栄養源である肉を求めて狩猟を行っていた。食料調達係の彼女は月に二回町に買い物に行くが、新鮮な肉は手に入りにくかった。

そんな中、微かな足音が聞こえ、咄嗟にボウガンを構えると、木の陰から誰かが姿を現した。それは、地味なローブを着た小柄な少女で、腕に黒猫を抱えて震えていた。修道女ケイシー・グローヴは、その少女がモニカであることに気づいた。ケイシーがボウガンを下ろすと、モニカは脱力してしゃがみ込み、笑みを浮かべた。久しぶりに再会した二人の間には、和やかな空気が漂った。

モニカとシリルは気まずい顔をして生徒会室に戻ったが、エリオットはそれを笑顔で迎えた。どうやら、二人の会話は全て聞こえていたらしい。シリルは取り乱してしまったことを謝罪し、エリオットはそれをからかうように応じた。

その後、ニールが職員室から戻り、臨時休校になることやフェリクスの件が口外されないようにと釘を刺されたことを伝えた。エリオットは、生徒会の引き継ぎや卒業式の準備を進めるようにと提案したが、皆の顔は暗かった。

シリルは、フェリクスが偽物であることを知り、混乱していたが、クローディアがそれを諭した。ニールがクロックフォード公爵が全てを知っていることを指摘し、戦争を望んでいることを示唆した。

モニカは、アイクを助けたいと考えており、シスター・マーシーに会いたいと思っていた。しかし、マーシーは既に亡くなっていたため、モニカは落胆した。シスター・ローナは、モニカにマーシーの遺品を託した。それはフェリクスの日記帳であり、モニカはそれを読み進めることにした。

マーシーの遺書には、彼女の罪と後悔が綴られており、アイザックへの願いが込められていた。モニカはこの日記と手紙を通じて、アイクやフェリクスの過去を知ることになるであろうと感じた。

モニカはフェリクスの日記と手紙を読み、心を動かされた。手紙はマーシーが書いたもので、彼女がフェリクスの日記を持ち出した経緯が記されていた。フェリクスが屋根から転落した事件に自分が関与していると感じ、クロックフォード公爵への恐怖から屋敷を去ったのだ。マーシーはアイザックにこの日記を渡すことを望んでいたが、それを果たせぬまま亡くなった。

日記には、フェリクスが祖父に叱られていたことや、従者のアイザックとの関係が詳しく記されていた。フェリクスは、自分に自信がない内気な少年であり、アイザックと名付けた秘密の友人「アイク」との交流を楽しんでいた。また、彼は自分の理想の王子様像を描き、その中には「みんなに優しい」という特徴が強調されていた。

日記の最後には、フェリクスがアイザックを代役にする計画を知り、彼を自由にしたいという願いが記されていた。しかし、その中でアイザックに対する誤解があることにモニカは気づいた。彼女は、この日記をアイザックに見せることが彼を助ける鍵であると感じ、強い決意を抱いた。

モニカは、アイザックを助けるという願いを決意に変え、彼を自由にするために動くことを決めた。フェリクスの日記は、アイザックの誤解を解く重要な手がかりとなるだろう。

ネロはケイシーに抱かれ、彼女の心地良い対応に満足していた。ケイシーはネロに対して非常に丁寧で、撫で方や抱っこの仕方も上手であり、ネロに食事まで用意してくれた。ネロはケイシーがモニカの友人であったことを知っており、過去に彼女がモニカに刺繍を施したハンカチを贈ったことも覚えていた。

モニカが部屋に戻ってくると、ネロはモニカのポケットからハンカチを引き出し、彼女に感謝の言葉を促した。モニカは緊張しながらもケイシーに感謝を伝え、二人は学園時代のように和やかに笑い合った。

モニカはケイシーに、これから自分が行うかもしれない「正しくないこと」について話し、戦争を防ぐことを約束した。ケイシーはモニカの決意を支持し、彼女が選んだ道を応援した。ネロはこの再びつながった友情を微笑ましく思い、満足そうに尻尾を振っていた。

十二章  父が生きた証

〈宝玉の魔術師〉の急逝により、七賢人が城の〈翡翠の間〉に集まった。最後に到着したのは、竜討伐から戻った〈砲弾の魔術師〉ブラッドフォード・ファイアストンであった。ブラッドフォードは疲れを見せず、他の賢人たちが沈んでいる様子を不思議に思った。

特に〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーは、育児疲れで疲弊しており、〈宝玉の魔術師〉の死に関しては冷静な態度を見せた。モニカも体力と魔力を使い果たし、疲れ切っていたが、彼女はアイザックの処刑を阻止するために会議で発言をした。

しかし、ルイスは〈宝玉の魔術師〉が帝国の魔術師と組んで第二王子を殺害したという説が都合が良いと主張し、モニカの意見は受け入れられなかった。政治において、権力者に都合の良いことが真実となることがあるとルイスは指摘した。

モニカは本物のフェリクス王子の日記を持っていたが、ルイスには協力を求めるべきではないと判断した。アイザックを救うための道を模索する中、〈星詠みの魔女〉メアリーからバルトロメウスの名前が記されたメモを渡されたことをきっかけに、モニカはある案を思いついた。

その案を実行するために、モニカはメアリーに協力を求めた。これはモニカにとって人生最大の賭けであり、アイザックを救うために必要な行動であった。

アイザック・ウォーカーは、リディル王国城の監獄塔に投獄されていた。監獄塔は主に貴族や王族の囚人が使う場所であったが、アイザックはまだ刑を言い渡されていないため、王族相応の待遇を受けていた。部屋は小綺麗で、最低限の設備が整っており、鉄格子付きの窓や重い鍵が掛けられた鉄製の扉があるものの、居心地は悪くなかった。

アイザックは質素で清潔な服を着ており、魔術の使用を封じる腕輪型の呪具を付けられていたが、自由に歩け、食事も一日三回提供されていた。昼食にはパンと具の多いスープ、果物が出され、毒は盛られていないと確信した。

食事中、アイザックの前に黒猫が現れた。黒猫は、〈沈黙の魔女〉と行動を共にするバーソロミュー・アレクサンダーであった。彼はアイザックに「死ぬ気か?」と問うたが、アイザックはすでに一〇年前に死んでいると答えた。彼は顔も名前も失くした亡霊のような存在であり、フェリクス・アーク・リディルの名誉を守るために自らを犠牲にする決意を固めていた。

アイザックは、クロックフォード公爵にとってフェリクスの名誉が残る形で死ぬことが最良の方法であると考えていた。彼は、自らの悪名を高めることでフェリクスの英雄的なイメージを美しく残そうとしていた。

黒猫はアイザックの計画を理解し難く思ったが、アイザックの依頼を承諾した。アイザックは契約精霊ウィルディアヌの契約石を〈沈黙の魔女〉に託すことを願った。そして、黒猫が去った後、アイザックは食事を再開し、自らの運命を受け入れる準備を続けた。

モニカは〈星詠みの魔女〉メアリー・ハーヴェイの取りなしを終えて、城の客室に戻り、思案していた。そこに黒猫のネロが現れ、アイザックの様子を報告した。ネロは、アイザックが収監されている監獄塔を訪れ、彼が元気に食事をしていると伝えた。モニカは、アイザックの状況を知り、次の行動に移ることを決意した。

モニカは急いで荷物をまとめ、やるべきことのために移動することを決意した。最高審議会が行われる一六日後までに、クロックフォード公爵と対峙する必要があった。

一方、ヒルダ・エヴァレットは、王立魔法研究所の研究員としての自宅での整理整頓に手を焼いていた。資料の山が雪崩を起こし、自らを埋めてしまった彼女は、養女のモニカが訪れると聞いて慌てた。モニカはヒルダに、父の研究資料を求めた。ヒルダは最初は躊躇したが、モニカがクロックフォード公爵と戦うために必要だと説明すると、隠していた資料を提供した。

モニカは、父が遺した黒い聖杯の設計図を手に入れた。それはアイザックを救出するための鍵であった。ヒルダは、父の研究を守ってきたことを悔しそうにしながらも、モニカに資料を託した。モニカは感謝の気持ちでヒルダに抱きつき、彼女の決意を新たにした。

十三章  水霊はその感情の名を知らない

モニカは夜の街を歩き、バルトロメウスの工房を訪れた。工房の看板は鶏のイメージが強かったが、モニカはそこが正しい場所だと確認し、入ってみた。工房の中には、バルトロメウスが作業台に突っ伏していた。モニカは彼に挨拶し、黒い聖杯の設計図を示して作成を依頼した。

バルトロメウスは設計図を見て驚いたが、個人の工房では材料も設備も足りず、作成は困難だと即答した。それでも、彼はできる限りのことをすると約束し、材料や設備が整ったら知らせるようにと言った。モニカは彼の協力に感謝し、工房を後にした。

モニカは街を出て、セレンディア学園に戻る前にネロに抱えられて休むことにした。彼女はアイザックを救い、戦争を止めたいという思いを抱きながら、ネロに礼を言った。モニカはアイザックを救うために必要な物を取るために、一度城へ向かうことにした。

モニカはセレンディア学園の女子寮に戻り、翌朝には再び活動を始めた。学園は臨時休校を終え、翌日から授業が再開されることになっていた。仮眠をとったモニカは制服に着替え、軽食をバスケットに詰めてもらい、ネロと一緒に屋根裏部屋で食事をする準備をした。

食堂から屋根裏部屋に戻る途中、ラナがモニカを呼び止めた。ラナは私服のドレスを着ており、モニカに気遣いながら話しかけた。彼女は明日から授業が再開されること、そして放課後に新旧生徒会役員での会議があることを伝えた。モニカはその言葉を受け止めながら、ラナに「また明日」と告げ、彼女に背を向けた。モニカはラナとの短い時間を心に刻み、次に進む覚悟を決めた。

モニカがセレンディア学園の女子寮に戻ったのは朝であった。第二王子の事件以降、臨時休校となっていたが、授業が再開されることになった。モニカは仮眠を取り、制服に着替えて食堂へ行き、屋根裏部屋でネロと共に食事をするための軽食を用意した。

食堂から戻る途中、ラナが声をかけてきた。ラナはモニカを心配し、明日から授業が始まり、生徒会の会議があることを伝えた。モニカは残された時間の少なさを痛感しながら、ラナに「また明日」と告げ、背を向けた。

一方、シリル・アシュリーは男子寮で勉強していた。生徒会役員の引き継ぎや卒業式の準備を終え、精霊言語学の勉強をしていた。過去に何もできなかった自分への反省から、精霊との関係を理解しようとしていたのである。

ある日、シリルは黒猫をカラスから助け出した。黒猫はネロであり、アイザックの懐中時計を持っていた。時計にはアイザックの契約精霊ウィルディアヌの契約石が隠されていた。モニカはウィルディアヌと話し、彼の願いを知ることとなった。ウィルディアヌはアイザックを助けたいと願っていたが、モニカは犠牲を出すことを拒んだ。

モニカは、自分一人ではできないことを認識し、他人に頼ることを決意した。彼女は大切な思い出を失うことを覚悟し、これからの行動を決めた。

エピローグ  〈沈黙の魔女〉

エリアーヌ・ハイアットは、実家から届いた手紙を読んで憤慨していた。セレンディア学園は今、国を揺るがす一大事件に巻き込まれていた。リディル王国第二王子フェリクス・アーク・リディルが暗殺され、その偽物が帝国の魔術師として入れ替わっていたという噂が広まっていたのである。エリアーヌはこの噂が第一王子派の陰謀だと考え、クロックフォード公爵がフェリクスを助けてくれると信じていた。

ところが、実家からの手紙にはフェリクスの安否について触れられず、代わりにエリアーヌが第三王子アルバート・フラウ・ロベリア・リディルと婚約することが記されていた。エリアーヌはこれがクロックフォード公爵の指示であれば、フェリクスを見捨てたことになるのではないかと不安になった。しかし彼女は、クロックフォード公爵が自分の孫であるフェリクスを見捨てるはずがないと信じていた。フェリクスが処刑されることなどありえないと考え、エリアーヌは自分を納得させようとしていた。

アルバート・フラウ・ロベリア・リディルは、最近の噂に憤慨していた。噂では、第二王子フェリクスが暗殺され、偽物が成り代わっていたという。アルバートはこの事態に関して説明を受けておらず、母親からの手紙には、レーンブルグ公爵令嬢との婚約が決まったとしか書かれていなかった。

従者のパトリックは、状況だからこそ婚約の話が進んでいるのではないかと推測し、クロックフォード公爵がアルバートを擁立したいのかもしれないと考えていた。アルバートは、自分がフェリクスのスペアにされることに屈辱を感じたが、自分が王の器ではないとも思っていた。

そんな中、アルバートは学園でモニカ・ノートンに出会った。彼女はアルバートに放課後の生徒会室に来てほしいと頼んだ。アルバートは、この依頼がモニカの個人的なものではなく、高等科生徒会からのものであると考え、放課後に生徒会室に行くことを承諾した。モニカはアルバートに深々と頭を下げて感謝し、去っていった。

モニカがセレンディア学園の生徒会室に現れた時、そこには新旧生徒会役員と王族であるアルバート、問題児のヒューバードが集まっていた。モニカは彼らを集めた理由を説明し、彼女自身が「〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレット」であり、フェリクスを助けるために皆の協力を求めた。

モニカはこれまで身分を隠していたことを謝罪し、彼女が七賢人の一人であることを明かした。モニカは、フェリクスが偽物として処刑されることに反対し、彼を助けるために行動を起こす決意を示した。彼女の真剣な姿勢に生徒会役員たちは動揺しながらも、事態の重大さを理解し始めた。

ラナや他の生徒会役員たちは、モニカの告白に驚きながらも彼女の話を聞き入れた。モニカは最高審議会でフェリクスを救うために、彼らの助力を必要としていた。モニカの勇気ある決断と誠実な言葉により、その場にいる全員が彼女のために協力する意思を固めた。

【シークレット・エピソード】星の行く末

リディル王国のクロックフォード公爵ダライアス・ナイトレイは、二週間後の最高審議会に関する書類を見ていた。彼は過去に最高審議会に出席したいと願った時期もあったが、今ではその場を掌握する立場にある。しかし、彼にはそのことに対する感慨はなく、ただ執着のみが残っていた。

ある時、扉をノックもせずに〈星詠みの魔女〉メアリー・ハーヴェイが現れた。彼女はかつての婚約者であり、昔からダライアスに遠慮のない態度を取っていた。メアリーは、戦争がしたいのかと問いかけ、ダライアスは帝国が揺らいでいる今が好機であると考えていたが、彼女はそれを否定も肯定もせずに、星の行く末が最高審議会で決まると述べた。

メアリーは書類の中の「第二王子を騙った罪人」の記述に触れ、その罪人がダライアスの末路と似ていると示唆した。ダライアスはこれに対し、笑えぬ冗談だと無反応で、仕事に戻った。二人の間には過去の軋轢があり、クロックフォード公爵は父の失脚を乗り越え、国の未来を決める立場に立っていた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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