小説「サイレント・ウィッチ -another- 〈下〉」感想・ネタバレ

小説「サイレント・ウィッチ -another- 〈下〉」感想・ネタバレ

どんな本?

サイレント・ウィッチ -another- 結界の魔術師の成り上がり』は、依空まつり 氏によるライトノベルシリーズ『サイレント・ウィッチ』のスピンオフ作品。

このシリーズは1800年代の近代ヨーロッパを思わせるファンタジー要素が特徴的な世界観を持ち、魔術などの要素が取り入れられている。
本編はモニカ・エヴァレットという超人見知りの主人公の成長ドラマで、ミステリーや派閥争いといった側面もストーリーに深みを与えている。

『サイレント・ウィッチ -another- 結界の魔術師の成り上がり』では、七賢人の1人で「結界の魔術師」として知られるルイス・ミラーが主人公のストーリー。
彼はモニカの同期であり、上品な態度を持ちつつも強い癖を持つキャラクターだが。
本書では・・・

シリーズは2023年8月時点で電子版を含めた累計40万部を突破し、『このライトノベルがすごい!2022』では総合新作部門7位、単行本・ノベルズ部門2位を獲得。
続く『このライトノベルがすごい!2023』では単行本・ノベルズ部門で4位にランクイン。
『このライトノベルがすごい!2024』では単行本・ノベルズ部門で11位となっている。

読んだ本のタイトル

サイレント・ウィッチ-another- 結界の魔術師の成り上がり
著者:依空まつり 氏
イラスト:藤実なんな  氏

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あらすじ・内容

ロザリーとの婚約を認めてもらうため、ルイスは史上最年少で魔法兵団の団長に上り詰めた。狙うは七賢人の座ただ一つ! だが、恩師ラザフォードが七賢人に推薦したのは、無詠唱魔術を開発した天才少女で……?

サイレント・ウィッチ -another- 結界の魔術師の成り上がり〈下〉

感想

この物語は、七賢人の結界の魔術師のルイス・ミラーが主人公である。
北の村の孤児だった彼は、魔法兵団の団長であり、恋人であるロザリー・ヴェルデとの結婚を望んでいた。

しかし、ロザリーの父、治水の魔術師バードランド・ヴェルデは、七賢人でなければ娘との結婚を認めないと言う。
ルイスはその条件を満たすため、様々な努力を重ねていた。

物語は、ルイスがリディル王国の宮殿で開かれた夜会に参加し、七賢人の推薦を受ける機会を探る場面から始まる。

その夜会で彼は王国の重要人物と交流し、将来の支援者を見つけようとする。

その中で、彼は七賢人候補として自らの名前を挙げ、ライオネル王子の支援を受けることとなる。

しかし、その後、ロザリーが屋上から転落し、重傷を負い記憶障害に陥る。

記憶を失った彼女はルイスのことを思い出せず、彼女を巡る様々な陰謀が明らかになる。

ライオネル王子の兄弟、フェリクス王子との対立や、政治的な陰謀が彼女の事故に関連していることが示唆される。

ルイスはロザリーの記憶を取り戻すため、彼女の父バードランドと共に手を尽くす。

その過程で、彼は多くの困難に直面し、魔法兵団内の対立や外敵との戦いにも巻き込まれる。

それでも彼はロザリーへの愛を貫き、最終的には彼女との結婚を果たす。
そして、彼は自らの努力と周囲の支援により、七賢人の一員として認められる。

物語は、ルイスとロザリーが新たな人生を歩み始める場面で終わる。
彼らは多くの困難を乗り越え、お互いを深く理解し合う関係となり、共に未来を築いていくことを誓い合う。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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その他フィクション

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フィクション(novel)あいうえお順

備忘録

プロローグ  結界の魔術師

ナディン地方を襲った10年に一度という規模の大嵐により、住民は家畜や屋根を失うほどの被害に見舞われた。
強風と雨で街は混乱し、濁流が街を流れた。住民は安全な場所への避難を急ぎ、中には若い母親が幼い子供たちを連れて逃げる姿もあった。

逃げる途中、屋根の一部が風で飛ばされ、母娘に直撃しそうになるが、魔法兵団の魔術師が魔法で守った。

その魔術師はルイス・ミラー、魔法兵団第三部隊の隊長であり、彼と契約精霊が住民達を安全な場所へ避難させた。
彼らの活躍により、大きな被害を最小限に抑えることができた。

また、治水の魔術師バードランド・ヴェルデが到着し、川の氾濫を食い止めるために大規模な魔術を発動させる。
ルイスは彼の詠唱が完了するまで時間を稼ぎ、最終的に街は大災害から救われた。

この功績により、ルイスは魔法兵団団長に就任し、「結界の魔術師」という肩書きを得る。
これは、彼が魔術師養成機関を卒業してから3年と少しの秋の出来事であった。

一章  駆け出し紳士の夜会デビュー

飛行魔術でリディル王国城に訪れたルイス・ミラーは、第一王子ライオネルと久々に再会し、彼の部屋で小さな宴を開く。

この宴は、ルイスの魔法兵団団長就任を祝うものだった。ルイスとライオネルは、お互いに親しみやすいやり取りを交わし、美味しい酒とジャムで楽しい時間を過ごす。
ライオネルからは、ルイスの就任を祝って片眼鏡が贈られ、ルイスはそれを気に入る。

一方で、ルイスは魔法兵団団長としての地位に甘んじることなく、更なる高みを目指しており、特に七賢人の一員になることを強く望んでいた。その目的は、〈治水の魔術師〉として知られるロザリーの父から結婚を認められるための条件を満たすことにあった。

そのためには、七賢人に相応しい実績や社会的地位を確立する必要があり、ルイスはそのためにも努力を続けていた。

ライオネルはルイスの決意を理解し、社交界でのルイスの地位向上のために協力を申し出る。

冬至休み前の夜会にルイスを個人的な護衛として招待し、それを機会にルイスが社交界での認知を高めることができるよう配慮する。

ルイスは、このチャンスを活かして七賢人の一員への道を切り開く決意を新たにする。
彼はもはや過去の悪童ではなく、将来の七賢人候補として自分自身を見据え、その目標に向かって前進する覚悟を固めていた。

ルイスがライオネルの護衛として参加した夜会は、バリエス侯爵が主催し、魔術師関係の重鎮が多く出席するものだった。
ライオネルは、夜会の出席者についてルイスに情報を提供する。

特に魔導具産業で名を馳せるアンバード伯爵や魔術の名門ベルスティング侯爵の出席が予想され、ベルスティング侯爵が出席している場合は、〈星詠みの魔女〉も同席する可能性が高いと言われている。

七賢人も半数程度が出席する見込みで、ルイスにとっては、この夜会が七賢人への推薦人を得る絶好の機会である。

ルイスは、短期間で正装を整え、魔術師としての地位に相応しい服装を完成させていた。

庶民出身でありながら、夜会用の正装を選ぶ際には流行を抑え、自分に合った寸法で仕立てるなど、細心の注意を払っている。

ルイスは髪も編み、自信満々で夜会に臨む準備ができていた。ライオネルからの服装に対する賛辞を受け、ルイスは自分が完璧な紳士であると自負していた。

絢爛豪華な宮殿で開かれた夜会にライオネルの護衛として同行するルイスは、内装の豪華さに目を奪われつつも、周囲の会話から情報収集に励んでいた。

夜会には七賢人や魔術師組合の幹部など、魔術師関連の重要人物が多数出席していることが分かる。

その中でルイスは、ミネルヴァの常駐医であるウッドマンと再会し、肉体操作魔術の規制緩和についての議論を交わす。
ウッドマンは規制緩和派であり、ルイスにその見解を求めてきた。

一方、第二王子フェリクスが登場し、ルイスに敬意を示しつつも、その完璧すぎる振る舞いにルイスは違和感を抱く。

フェリクスの出席は、ライオネルに対する牽制や、魔法兵団との繋がりを探る目的があるとルイスは推測する。

フェリクスは健康的であり、病弱だった過去からは想像もつかないほど元気に見えた。

この夜会でのフェリクスとのやりとりから、ルイスは王位継承における兄弟間の対立構造を感じ取り、自身はライオネルを支持することを決める。

ライオネルの弟想いの様子や、国を良くすることに尽くす姿勢に触れ、ルイスはライオネルが真の王にふさわしいと確信する。

フェリクスに対する不信感とライオネルへの信頼から、ルイスは今後もライオネルを支え、必要ならば策略も辞さない覚悟を固める。

フェリクスが夜会で幼馴染のエリオット・ハワードと再会し、二人はライオネルとルイスについて語り合う。

エリオットはフェリクスに、ライオネルとの兄弟関係についてからかうが、フェリクスは自慢の兄上だと述べる。

一方で、二人はライオネルの隣にいるルイスに注目し、彼が最近魔法兵団の団長に就任した〈結界の魔術師〉であること、そして以前七賢人選考でクロックフォード公爵によって推薦が潰された経緯を語る。

フェリクスは、七賢人選考において第一王子派が増えるのをクロックフォード公爵が望まないためにルイスが選考から外されたと指摘する。

エリオットはルイスに同情し、フェリクスはルイスが将来上位に上がる可能性があると示唆し、エリオットが嫌いそうなタイプであることを理由に挙げる。
フェリクスのこの発言にエリオットは戸惑い、二人はその場を離れる。

二章  元悪童、弟子をとる

ルイスは魔法兵団団長として書類作業に追われる日々を送るが、先日の夜会で新たな仕事を獲得するなど、役職の変化に順応していた。

しかし、ミネルヴァの研究棟で魔力暴走による爆発事故が発生し、ラザフォード教授の研究室が被害を受ける。この事故を受けて、ルイスは研究棟の防御結界の再構築に協力する意向を示す。

その一方で、学生の魔力暴走が魔法戦用の簡易結界を破壊したことに疑問を抱き、何か裏があると考え、更なる情報収集を副団長に命じる。

ルイスはこの機会を利用して、ミネルヴァの教授達に恩を売り、将来の七賢人選考に向けて推薦人を確保しようとする。​

ミネルヴァで魔力暴走事故を起こした11歳のグレン・ダドリーは、膨大な魔力量を持つことで知られ、〈星詠みの魔女〉メアリー・ハーヴェイの予言により、彼が精肉店を継ぐと国が滅びるとされた。

この予言を受け、国の重鎮達はグレンをミネルヴァに入学させるが、グレンは訓練中に事故を起こし、アリンダルの塔に隔離される。
ルイス・ミラー〈結界の魔術師〉が彼の師匠となり、グレンはルイスの弟子になることを選択する。

ルイスはこの事態をミネルヴァに恩を売るチャンスと見做し、グレンと共に魔法兵団の詰所へ向かうことになる。

ルイスの契約精霊リィンズベルフィードはメイド服を「信念」として着用し、グレンを含む三人を飛行魔術で魔法兵団の詰所へ運ぶ。

この新しい環境にグレンは驚きつつも、未来に一筋の光を見出している。

ルイスに引き取られたグレンは、魔法兵団の宿舎で雑用係として住むことになった。
ルイスは、グレンに自分の世話をさせず、魔術の訓練を主に命じる。

訓練場での初めての稽古では、グレンの魔力暴走を防ぐために、ルイスは他の団員たちと協力して安全に訓練できる環境を作った。

グレンは魔術の使い方が上手く、攻撃用の火炎魔術と移動用の飛行魔術に絞り、これらを使いこなせば魔法戦に最低限対応できるようになる。
ルイスは結界を展開しながら飛行魔術でグレンを追い回し、実戦的な訓練を施している。

リディル王国の最高峰魔術師養成機関であるミネルヴァの研究棟で、一〇代前半の少年バーニーと少女モニカが課題を提出するために歩いていた。

少年は利発そうな金髪の眼鏡をかけた少年で、少女はおさげ髪で俯きがちに歩いていた。

二人は、過去に魔力暴走事故があった研究棟の一部がまだ修復中であることを語りながら、進んだ。
研究室で、彼らは〈紫煙の魔術師〉ギディオン・ラザフォードに出会い、少年は彼に課題を提出した。

その後、少女はラザフォードの机に置かれていた木片から成る立体パズルに興味を持ち、素早く一二面体を完成させる。
この行動はラザフォードによって未確認のままであった。

三章  待ち望んだ再会

ルイス・ミラーは、王都の高級住宅街にある自宅の書斎で、最愛の人ロザリー・ヴェルデに宛てた手紙を書いていた。

ロザリーの父である〈治水の魔術師〉バードランド・ヴェルデから、結婚を認めるための条件として、上品な振る舞い、魔法兵団の団長の地位、そして七賢人の地位を求められていたルイスは、その条件を満たすべく努力してきた。

しかし、ロザリーとの直接的な連絡は取れず、手紙も届いていない状況だった。
その中で、ルイスは手紙を書くが、突然グレンが飛行魔術の失敗で窓から飛び込んできて、手紙を台無しにする。

その後、魔法兵団からルイス宛に届いた手紙をグレンが届け、その手紙にはバードランド・ヴェルデからの七賢人引退の意向とルイスへの次期七賢人の推薦、さらにはロザリーとルイスの婚約の申し込みが記されていた。
ルイスはこの意外な展開に喜びを隠しきれず、グレンに七賢人になることを告げる。

ロザリー・ヴェルデは、王都近郊の街で、勤務先の病院への退職挨拶を終え、自宅に戻る途中であった。
彼女の父、〈治水の魔術師〉バードランド・ヴェルデが、彼女とルイス・ミラーの婚約を認め、ルイスを家に招待したことに胸を躍らせている。

ミネルヴァを中途退学後、ルイスとは会っておらず、手紙のやり取りもなかったが、彼女はルイスの魔法兵団での活躍を耳にしており、彼が「すげ ー魔術師」になったことを知っていた。
一方で、街中でミネルヴァの同級生であるアドルフ・ファロンに出会い、彼から突然の婚約の申し込みを受ける。

アドルフは、魔術師組合で将来を嘱望される立場にあり、ロザリーが七賢人の娘という地位を利用して自分の地位を高めようと考えていたが、ロザリーはルイスとの婚約を彼に告げて断る。
アドルフは内心、ルイスを完全に出し抜こうと決意し、徹底的に追い詰めることを誓う。

夏中月の終わり、〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーは、大都市カズルにある〈治水の魔術師〉バードランド・ヴェルデの屋敷を訪れた。

この訪問は、ロザリー・ヴェルデとの婚約と、自身が七賢人に推薦されることに関連していた。ルイスは完璧な紳士の装いで、バードランドとロザリーに会う。

バードランドは、新年の儀を終えた後に七賢人を退任し、次期七賢人としてルイスを推薦すること、そして娘ロザリーとの婚約を承認することを告げた。

ただし、ルイスが無事に七賢人に選出されることが条件だった。

ロザリーが秋から魔法兵団所属の医師として働くことになり、バードランドはロザリーを支えてほしいとルイスに頼んだ。

ルイスは自信を持って、これらの期待に応えると答え、ロザリーと婚約者として働く日々を楽しみにしていた。

四章  出揃う候補者

冬の初日、ルイス・ミラーはロザリーと正式に婚約し、魔法兵団の団長としても絶好調だった。彼は魔法兵団の訓練に情熱を注ぎ、部下たちを厳しく指導していた。

ルイスは、魔法戦の結界を使用せずに体力や体術を鍛える訓練を重視しており、その訓練の過程で部下たちを精力的にこき使っていた。
しかし、その激しい指導方法は部下たちに恐れられていた。

その後、ルイスは医務室を訪れてロザリーに軽い擦り傷の手当てをしてもらう。

ロザリーは医務室で老齢の医師ハウザーと共に勤務しており、ルイスはその短い時間を利用してロザリーと親しく過ごそうと試みた。

彼は昔を懐かしむかのようにロザリーとの会話を楽しんだが、公私混同を避けるロザリーの姿勢に苛立ちを感じつつも、その場を楽しんだ。

訓練後、ルイスは夕食の誘いを試みるが、部下のグレンがシーツを持って医務室に入ってきたため、会話は中断される。

ルイスは公私混同を理由に厳格に振る舞うロザリーとの距離を感じながらも、グレンとの打ち解けたやり取りを羨む。
仕事を理由に医務室を後にするルイスは、内心ではロザリーとの時間をもっと持ちたいと強く望んでいた。

ルイスを訪ねてきたトラジェットは、魔術師組合の幹部で、白髪混じりの黒髪と装飾の多いローブを身につけた五十歳程の貴族筋の男である。

トラジェットはルイスに、七賢人候補者が出揃ったことを報告し、候補者が四人であることを伝える。
その中にはルイスのミネルヴァ時代の同級生であるアドルフ・ファロンが含まれている。

アドルフが七賢人候補に推薦されたのは、遠隔魔術で国内最高記録を出したためで、彼の背後にはクロックフォード公爵と第二王子派の大物貴族がいることが示される。

ルイスはこの政治的背景に面倒な闘争が絡んでいることを悟る。

トラジェットがその他の候補者として、飛行魔術のウィンストン・バレットとミネルヴァの学生である「沈黙の魔女」モニカ・エヴァレットを挙げる。
特にモニカは無詠唱魔術を会得しており、その才能により推薦されている。

ルイスとトラジェットの会話から、七賢人選考の複雑な政治的背景と競争の激しさが浮き彫りになる。
ルイスは、この競争に勝つためには全力を尽くす必要があると覚悟を決める。

元七賢人カーラ・マクスウェルは魔力濃度調査のため旅をしているが、久しぶりにミネルヴァを訪れ、自分の師であるギディオン・ラザフォードの研究室を訪ねた。

カーラは、研究室に所属している後輩モニカ・エヴァレットが七賢人候補になったことを知り、驚く。
ラザフォードは、モニカが七賢人候補に選ばれた理由として、彼女の才能を周知させる必要があると説明する。

また、ラザフォードは、ルイスが第一王子派に分類されるため、彼を推薦するとクロックフォード公爵に潰されると予想し、モニカを推薦したのだ。
カーラは、アルスーン魔導具工房の魔力濃度上昇についての相談をラザフォードに持ちかけるが、彼女の身分では難しい状況となる。

そして、ミネルヴァの教師たちとのやりとりの中で、ラザフォードは自身の行動がルイスにとって良い刺激になると考え、モニカの才能を評価しながらも、競争を促している。

五章  失われたもの、失われていないもの

魔法兵団医務室の勤務医であるロザリー・ヴェルデが屋上から転落したという報告を受け、ルイスは急いで医務室に向かった。
ルイスは風を操りながら短縮詠唱で着地し、医務室に駆け込むと、ロザリーがベッドに横たわっているのを見つけた。

ロザリーは頭に包帯を巻かれており、大怪我をしていたが、生きていることを確認すると一時的な安堵を感じた。
しかし、ロザリーは記憶障害を起こしており、ルイスや自分自身のことを認識できなかった。

ルイスはロザリーに自分が婚約者であることを告げたが、彼女は困惑した反応を示す。

その後、ハウザー医師はロザリーの怪我の診断結果を説明し、記憶障害がどのくらいで治るかは不確かであると説明した。
ロザリーは自分が医務室の医者であることを忘れており、仕事への影響を気にしていた。

その後、ルイスはロザリーに自分の家に滞在することを提案し、ロザリーはそれを受け入れた。
しかし、彼女はまだルイスのことを「ミラーさん」と呼んでおり、以前の親しい関係を思い出せていなかった。
ルイスは彼女の記憶が戻ることを願いつつ、グレンに事故の詳細を隠すよう指示した。

ルイスが休暇を急に取ることになり、副団長のアンダーソンが仕事の引き継ぎを行った。
怪我をしたロザリーのために、アンダーソンは最新型の馬車を手配し、ルイスはクッションを敷いて二人で座った。

家に帰る途中、ロザリーは窓外の風景をじっと見ていたが、記憶を取り戻そうとする様子が見られた。ルイスは家族の迷惑を気にするロザリーに対し、自身が天涯孤独であることを明かした。

ルイスは自らの出生や過去について話すことはあまりないが、それを隠すつもりもないと考えていた。
家に到着すると、ロザリーはルイスの精霊と初対面し、少しの間滞在することになった。

この時、ロザリーは自分が裕福な家庭の出身であることを理解し始めていたが、具体的な記憶は戻っていなかった。

痛みと熱に苛まれながら、ロザリーは自分自身について知り得た情報を呟いた。しかし、それらの事実が自分に馴染まないように感じられ、他人の話のようだった。ロザリーは自分の記憶に馴染みのある人々、特に優しかったハウザー、グレン、そして婚約者であるルイスについて考えた。

ルイスのことを思うと胸がざわつき、過去の感情を確かめようとすると強い痛みが襲ってきた。
記憶を探る試みは、痛みによって中断された。

ただ一つ、ルイスの栗色で毛先がオレンジがかった髪が何となく好ましいと感じることだけが確かだった。

六章  安寧は、勝ち取り抱えて守るもの

ロザリーがルイスの家に到着した翌日、ルイスは早朝から調理場で食事の準備を行った。

自称メイド長のリンは料理をしないため、ルイス自身がパンを温め、野菜と豆のスープを作った。彼は学生時代に調理場で働いた経験があるので、基本的な料理はできる。

ロザリーが利き手を負傷しているため、ルイスはジャムを塗ったパンを食べやすい大きさにちぎり、彼女の食事を助けた。

その後、ルイスはロザリーの包帯を巻き替え、髪を梳かして編んだ。娼館での経験が彼にこれらのスキルを教えた。

時間が来ると、ルイスは仕事のために飛行魔術で魔法兵団詰所に向かったが、彼の心はロザリーとの時間を大切に思っていた。

ロザリーがルイスの家に到着した翌日、ルイスは早起きして自分で朝食を準備した。
彼が自称メイド長のリンには料理の才能がないため、野菜と豆のスープとパンを用意した。

ロザリーは利き手を負傷していたので、ルイスがパンにジャムを塗り、彼女に食事を助けた。

その後、彼はロザリーの包帯を変え、髪を編む手伝いをした。これらの家事は、彼が娼館で働いていたときに身につけたスキルである。

仕事の時間が来ると、ルイスは飛行魔術で詰所に向かった。
仕事中、彼はロザリー転落事件とオーエンの失踪事件の調査を担当しているワイズから報告を受けた。ワイズによると、オーエンが自宅で自殺を試みたとのことである。

オーエンがロザリーを屋上に呼び出し、その後転落したという事実が明らかになったが、ルイスはその解釈を疑っている。
オーエンのアパートに到着し、彼の部屋が整頓されていることに気づき、その状況から何かを感じ取るルイスであった。

ロザリーはルイスの家に滞在しており、ライオネルが訪れた。彼はロザリーに頭を下げ、自分の訪問が彼女の混乱を招いたことを謝罪した。

その場にはルイスもおり、ライオネルはロザリーを同級生としてくつろいでほしいと語った。

ロザリーは自分が王子と同級生だったことに驚き、記憶に不確かな情報があることに気づく。

彼女がある男の子の記憶を取り戻そうとするが、苦痛を感じ、意識を失ってしまう。

ライオネルとルイスはその場面に困惑し、ロザリーの容体に心を痛めた。

その後、ライオネルは自分の疑いをルイスに打ち明け、友情に基づいて謝罪する。

二人は深い信頼関係を確認し、ライオネルはルイスが七賢人選考会で成功することを願って去った。

七章  元悪童、珍獣と出会う

ロザリーは婚約者ルイスの家で療養しており、第一王子ライオネルの見舞いから三日が経過していた。

この期間、ロザリーはほとんど寝たきりで、苦しむことが多かった。

特に、北部訛りの男の子についての記憶を思い出そうとすると、頭痛が激しくなる。

三日目の朝、彼女は回復し、ルイスが早く家を出たことを知る。通常、ルイスは彼女と過ごす時間を大切にしており、彼の早出は珍しいことであった。

ロザリーは、彼女が本当に好きなのは朧げな記憶の中の北部訛りの男の子であるため、罪悪感を感じていた。
リンはルイスが作った朝食のスープについて質問し、彼女を驚かせた。

リンはロザリーとルイスの関係を尋ねられ、彼らの関係は単なる契約であることを示唆した。

家が突然の振動に見舞われたとき、リンは風を操ってロザリーを保護し、状況をコントロールしようとした。

グレン・ダドリーは、ルイスの弟子であり、ロザリーが事故に遭った後、一度だけ会ったが、その時の印象が強く残っている。

金茶色の髪を持つ約15歳の少年で、元気があり、人懐っこい。彼が額を赤くしていたのは、飛行魔術の失敗によるものだった。
飛行魔術が使えることにロザリーは驚き、彼に安全に気をつけるようアドバイスする。

ロザリーは、グレンの額を冷やすことを勧め、自身も現在進行形で記憶喪失であるため、頭の怪我には注意が必要であると説明する。
グレンは、過去にもロザリーによく手当てを受けていたため、彼女に感謝している。

また、彼はロザリーのお見舞いに来ていたが、その際には私服を着ており、見習いの雑用係であることが明らかになる。

グレンはミネルヴァの学生であったが、魔力暴走の事故を起こして退学し、ルイスのもとで弟子として新しい生活を始めている。

グレンの人生は困難であるが、ルイスには深い感謝を持っており、彼はロザリーのために昼食を作ると提案する。
このやり取りは、ロザリーにとって心温まるものであった。

ルイスはリディル王国城の城門前に飛行魔術で到着し、杖を振って飛行魔術を解除した後、懐中時計で時間を確認する。

調べ物に時間がかかり、ギリギリの時間になってしまった。
ロザリーの転落事件に関する調査に奔走しており、その真相が明らかになりつつある。

七賢人選考会では私服で参加するため、マントを羽織って出向いた。
城門でウィンストン・バレットに遭遇し、彼が七賢人候補から辞退することを知る。

ウィンストンは自由を愛し、七賢人としての役割よりも空を自由に飛ぶことを選んだ。
ルイスはこれを歓迎し、選考会での競争相手が一人減ることを好意的に捉える。

ウィンストンは城と反対側に去り、ルイスは城内の応接室へ向かう。
応接室では、残る七賢人候補者の一人、アドルフ・ファロンが待っていた。

アドルフはルイスに余裕がないかのような言葉を投げかけるが、ルイスは心に余裕を持って対応する。

そこで、もう一人の候補者であるモニカ・エヴァレットと対面する。
モニカは非常に緊張しており、自分が話しかけるだけで恐れをなしてしまった。

カーテンの裏に隠れている彼女は、自分が魔法戦で勝ってしまうと言い、アドルフとルイスはその発言に冷たい笑みを浮かべる。
モニカの指導教官であるラザフォードが現れ、モニカの行動に手を焼く。

彼は、選考会の厳しさを説明し、モニカに激励の言葉を投げかける。
この選考会では、猶予なく戦う必要があると強調される。

八章  本物のバケモノ

ギディオン・ラザフォードは〈沈黙の魔女〉の保護者として城に来ており、三名の七賢人候補が魔法戦の会場である森に向かうのを見送った。
その後、城の一室で一服していると、メアリー・ハーヴェイが訪れ、魔法戦を観戦することを提案するが、ラザフォードはこれを辞退する。

彼は過去に七賢人候補として名前が挙がったが、頑なにそれを固辞し、使者をぶん殴ったこともある。
彼の弟子や教え子が次々と七賢人候補になっているのを見て、ラザフォードは魔術の天才についてメアリーと話し合う。

彼は努力の天才であるルイス・ミラーと数字の天才モニカ・エヴァレットを例に挙げ、これらの教え子がミネルヴァに在学していたら面白いことになっていただろうと述べる。
彼はどちらかが七賢人になれないことを悟りながらも、選考会で何かを得ることを望んでいる。

七賢人選考会が終了し、結果の発表が翌日になることを知ったルイスは、その足で魔法兵団の詰所に向かったが、実際には仕事に身が入らず、疲れ切っていた。

彼は七賢人の座に近づいていたが、選考会での魔法戦で若い〈沈黙の魔女〉に敗れ、自身の敗北を受け入れざるを得なかった。深夜、部屋でぼんやりとしていると、グレンが訪れる。

彼は休日だったため私服を着ており、ルイスの選考会の結果について尋ねた。ルイスは〈沈黙の魔女〉に完敗したことを認め、その才能を賞賛した。
その時、ロザリーが部屋に入り、二人の婚約がルイスの七賢人昇格のためだと指摘する。

ルイスは愛情を告白するが、ロザリーはその場を去り、別れを告げる。グレンはルイスを引き留め、ロザリーの気持ちを考えるよう訴える。

ルイスは自分が本当に振られたことに怒り、その怒りをグレンに向けるが、グレンはロザリーの幸せを願う気持ちを伝える。

グレンは、精神干渉魔術を使ってロザリーの記憶を封印したかのような言葉を漏らし、ルイスは冷たくその事実を問いただす。

九章  硝子の虚城、健在の魔女

リディル王国の第一王子ライオネルは、公務を終えた後、手土産の酒瓶を持ち、従者のネイトを伴って魔法兵団詰所にルイスを訪ねた。

その日は七賢人選考会が行われており、結果はまだ発表されていなかったが、ライオネルは友人であるルイスが良い成績を収めていると信じていた。
ライオネルとネイトがルイスの執務室に到着すると、ルイスと彼の弟子グレンが睨み合っていた。

ライオネルが訪問を謝罪すると、ルイスは彼らを証人にすることを要求した。
ライオネルが状況を困惑しながら見守る中、ルイスはかつての友人に、グレンがロザリーの記憶喪失に関与した疑いがあると説明した。

ルイスは図書館からの記録を示し、グレンが精神干渉魔術について学んでいたことを明らかにした。
グレンはその事実を否定せず、震えていた。

ライオネルはグレンに対して理解を示しつつも、事実を明らかにするよう促した。
グレンは激しく動揺し、最終的にはロザリーに対するルイスの態度を非難し、その場の緊張が高まった。

グレンは、一ヶ月余り前の出来事を回想していた。彼は医務室の手伝いをしており、重い薬瓶入りの箱を運んでいた。ロザリーも同様に別の箱を抱えていたが、彼女はグレンの力仕事に感謝していた。二人は医務室に向かいながら、親しく会話を交わしていた。ロザリーがお礼にと焼き菓子を提供することになり、その話でグレンは喜んだ。

しかし、その帰路、二人はルイスと見知らぬ男が話す声を耳にした。

会話の中で、ルイスが七賢人になるためにロザリーとの婚約を利用しているような発言が飛び出し、ロザリーの足が止まった。

グレンはロザリーを連れ戻そうとしたが、手が塞がっており、引き返すことができなかった。ロザリーはルイスの言葉を耳にしてしまい、ショックを受けて立ち尽くした。

その後、ロザリーが涙を流し、グレンは彼女を慰めようとしたが、ロザリーは自らの立場を理解していると静かに答えた。

グレンは、ロザリーの記憶を封印する魔術について調べたことを話し始めた。
彼はロザリーの記憶を消すことで彼女を保護しようと考えたが、最終的にはその行動を控えた。

しかし、その後、ロザリーが屋上から落下し、グレンは彼女が自殺を試みたと誤解した。
彼はロザリーが再び自殺を図ることを恐れ、記憶封印を決意した。

この話を聞いたライオネルとネイトは、ルイスに対する批判的な意見を表し、ルイスはこれに反省の意を示した。

彼はロザリーの記憶を元に戻す意向を示し、グレンに術式の解説を求めた。
この間にも、魔法兵団詰所では魔力暴走事故の報告が入り、ルイスは事故現場への対応を迫られた。
この日は多くの厄事が重なり、ルイスは多方面からの批判と圧力に直面することとなった。

アルスーン魔導具工房で魔力暴走事故が発生し、ルイスは部下を率いて現場に急行した。

工房は大きな被害を受け、内部では火災が発生しており、約二十人が取り残されている状況だった。
救助対象には職人や見学に来ていた子どもたちが含まれていた。

事故の原因は、魔力が定着しなかった魔導具から魔力が漏れ、それに引き寄せられた精霊が暴走を引き起こしたためである。

倉庫の結界が経年劣化で綻び、防護が不十分だったことが災いした。

ルイスは飛行魔術を用いて工房内に入り込み、火の精霊を封印し、防御結界〈硝子の虚城〉を展開して建物を一時的に補強した。

これにより、瓦礫や火から人々を保護し、安全な避難路を確保した。
救助活動は成功し、被災者は無事に避難することができた。

ルイスは魔法兵団の団長としての責任を果たしながらも、精神干渉魔術で苦しむロザリーのことを心配していた。
しかし、直接ロザリーのもとへ行くことはできず、救助活動に専念するしかなかった。

結果として、ルイスは救助活動を成功させるが、彼自身の魔力はほぼ消耗してしまう。
その後、ルイスはロザリーを探すために再び飛行魔術を用いて移動を試みたが、魔力切れとなり、走って彼女を探す覚悟を決めた。

十章  背負うもの、選んだもの

ロザリー・ヴェルデは婚約者と別れた後、自宅アパートへ向かっていたが、道に迷い、暗くなり傷も痛み出した中で、感情的な行動を取っている自覚があった。

かつての自分が感情的に行動したことを思い出しながら、ロザリーは痛む頭を抱える。
過去の記憶から、親しみを感じるある人物の特徴を思い出すが、具体的な名前は思い出せなかった。

その後、彼女は同年代の黒髪の男性、アドルフ・ファロンと再会する。
アドルフはロザリーの記憶障害を知り、自分たちが恋人だったと主張し、ルイス・ミラーが無理やり婚約させたと述べる。アドルフの言動にロザリーは疑念を抱く。
彼の提案する再婚約に対し、ロザリーは拒否感を示す。この時、ルイスが登場し、アドルフとの間に緊張が生じる。

アドルフはルイスに対抗しようとするが、ルイスは巧みにアドルフを制圧し、彼が遠隔魔術でロザリーを危険に晒したことを暴露する。
アドルフがオーエンの父親を脅迫してロザリーを危険にさらしたこと、そしてオーエンを殺害したことが明らかになる。

ルイスはアドルフを追い詰め、彼の背後にいるクロックフォード公爵の情報も掴んでいると告げる。
アドルフは自分の行動の結果を悟り、絶望する。ルイスはアドルフに対する制裁を宣告し、彼を罰する。

ライオネル、グレン、リン、ネイトの四人が分かれてロザリーを捜索していた。

ネイトは憲兵にも連絡を取ったが、アルスーン魔導具工房での大規模な火災事故のため、ロザリーの捜索を優先することは難しかった。

火災はルイスが何とか鎮火させたらしく、ライオネルは友人であるルイスを信じていた。
時間が経過すると、三人は情報共有のため集合場所へと向かった。
集合地点でグレンが暗闇で空からの捜索が難しかったと報告した。

その時、リンが現れてロザリーがルイスによって保護されたことを伝えた。
ライオネルとネイトはルイスの行動に敬意を表し、リンが彼らを事故現場に案内するために風魔法で空中に浮かべた。

ライオネルはこの精霊の力に驚きつつ、ルイスが学生時代から優れた能力を持っていたことを懐かしく思った。

最終的に、リンがアドルフ・ファロンが股間を踏み抜かれて瀕死であると報告し、場は沈んだ。

〈翡翠の間〉で星を眺めていた〈星詠みの魔女〉メアリー・ハーヴェイのもとに、〈治水の魔術師〉バードランド・ヴェルデが訪れた。

彼は、高齢の〈雷鳴の魔術師〉グレアム・サンダーズがギックリ腰で倒れ、七賢人を引退することを告げる。
グレアムの引退については周囲が椅子を新調する提案をして説得したが、彼の決意は固かった。

リディル王国では、七賢人の交代が相次いでおり、他にも引退を考える者がいる。
バードランド自身も魔力の衰退を感じており、近いうちに引退が必要と考えている。

バードランドは、自身の過去を振り返り、娘との関係や自身の過ちに思いを馳せながら、自分がどれだけ愚かだったかを反省する。

メアリーとバードランドは、次の七賢人の候補について話し合う。
メアリーは〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーを支持し、彼の能力とリーダーシップを高く評価している。

一方で、〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレットの才能も認めているが、彼女の人見知りが問題であると指摘する。

さらに、〈風の手の魔術師〉アドルフ・ファロンも候補として挙がるが、彼は政治的な問題を抱えており、クロックフォード公爵の影響下にあるとされる。

この重要な時期に、グレアムやバードランドのようなベテランの引退は、国の安定と魔術界の将来に大きな影響を及ぼす可能性がある。

ルイスは記憶封印術式を解除するために、ロザリーの額に指を当てて魔法を行い、彼女の記憶を取り戻させた。

その直後、ロザリーは自らが迷惑をかけたことを気に病んだが、ルイスはその言葉を優先して彼女を励ました。
その後、リンが風を操り、ライオネル、ネイト、グレンを現場に連れて来た。

グレンが感情的になる中、ルイスは彼を制止し、アドルフに暴力を振るったことで、ライオネルから注意を受ける。
ロザリーとルイスは馬車で城へ向かう間、二人の間に生じた誤解を解くための会話を交わす。

ロザリーはルイスがなぜ七賢人になりたいのかを問い、ルイスはその理由がロザリーと結婚するためだと説明する。
二人は誤解を解き、互いの気持ちを確認し合う。

十一章  新七賢人

オーエン・ライトは病院で目を覚まし、自分が助かったことを絶望的に感じた。

過去に同級生や〈風の手の魔術師〉アドルフ・ファロンに利用されてきた記憶がよみがえる。

アドルフからの接触は、ルイスが七賢人候補に推薦された後に増え、アドルフがロザリーへの感情を告白しようとしていると聞かされる。

オーエンは屋上にロザリーを呼び出し、アドルフが遠隔魔術を使って彼女を攻撃する現場に居合わせるが、自身が犯人にされそうになる。

その後、アドルフは逮捕され、ルイスによって真相が明かされる。ルイスはオーエンを訪ね、掃除の指示をするなど、通常通りの交流を続ける。
そして、ルイスが七賢人に選ばれたことが明かされる。

オーエンはこれまでの行動に対して罪悪感を抱いているが、ルイスとロザリーに支えられ、団に留まる決心をする。

ルイスはアルスーン魔導具工房の事故、アドルフ・ファロンの逮捕など、多忙な日々を送っていた。
事件の後始末や、七賢人就任の準備など、忙しい中でもロザリーとのデートを望みつつ、食事をする時間もなく過ごしていた。

魔法兵団団長としての最終出勤日、部下たちに送られながら、送別会で大暴れした翌日、新七賢人就任式典の朝を迎えた。
式典で、もう一人の新七賢人である〈沈黙の魔女〉モニカは、緊張のあまりに不安定な様子を見せていた。

ルイスはモニカの不安を和らげようと努め、自らの経験を語り、モニカに自信を持つよう助言した。
その結果、モニカは式典後に自分の成就を報告しようと決心し、やや安心した様子を見せた。

七賢人就任式典の後、街では盛大なパレードが行われた。
ロザリーは人混みを避けて遠くからパレードを見ることに決めたが、グレンは彼女により良い視点を提供しようとした。

ロザリーは社交界に興味がなく、怪我も完治していなかったため、観覧席への潜り込むことを避けた。
グレンはロザリーを肩車することを提案し、飛行魔術を使わずにパレードを見せようとしたが、ルイスが現れてこれを阻止した。

ルイスは飛行魔術を使ってロザリーを宙に浮かび、パレードを眼下から見下ろす形で見学した。
彼はロザリーにサボりの楽しさを教えようとし、彼女が好きな悪童の振る舞いを示した。

エピローグ  何もない場所に、あなたと二人

ルイスとロザリーが新婚旅行でルイスの故郷である北部地方を訪れた。

その地はいつも冬のような寒さで、曇天が広がっていたが、ルイスにとっては懐かしい景色だった。
ロザリーは寒さに強くないが、ルイスは彼女が選んだこの場所での旅行を受け入れ、感謝している。

結婚式は王都の教会で行われ、多くの知人が祝福に訪れた。
特に、ロザリーの父やライオネルも含め、多くのゲストが感動しながら祝福を述べた。

結婚後、二人は親しい人々と共に宴会を楽しみ、ロザリーはその美しさで多くの人を魅了した。
そして現在、ルイスは新たな生活を楽しみながらも、七賢人としての責任を果たしている。

一三年前、〈紫煙の魔術師〉ギディオン・ラザフォードは雪崩で娼館に泊まることとなり、店の娼婦ヴィヴィアンから少年ルイスを連れ出して外の世界を見せてほしいと頼まれる。ヴィヴィアンはダングローツ村が廃村になる運命にあることを知っており、雑用係の少年ルイスがどこかで生きる場所があることを知るべきだと考えていた。ラザフォードはルイスの未来を自らの手で切り開くために推薦書を渡し、彼の運命を彼自身に委ねた。

新婚旅行でロザリーはルイスの故郷を訪れることを望み、二人はダングローツ村の跡地を歩く。村はほとんどが草に覆われ、かつての娼館も残っていなかった。ルイスは故郷に深い愛着はなかったが、一抹の寂しさを感じていた。彼はヴィヴィアンにジャムの瓶を墓標に供え、ロザリーと共に過去を振り返りながら未来へ歩みを進める決意を新たにする。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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