どんな本?
『神統記(テオゴニア) 2』は、亜人種との戦いの中で「谷の神様」の憑代として『加護持ち』の力を得た少年カイが、小人(コロル)族や鹿人(ウーゼル)族らの帰依を受け、谷に小さな「国」を築きつつある物語である。
主要キャラクター
- カイ:ラグ村の少年であり、亜人種との戦いの中で「谷の神様」の憑代として『加護持ち』の力を得た。
- ナーダ:「真理探求官」としてカイに迫る僧侶。
物語の特徴
本作は、亜人種との戦いの中で力を得た少年が、小さな「国」を築き上げる過程を描いている。 また、「真理探求官」たる僧侶ナーダとの対峙を通じて、カイが自身の力とこの世界への知識を深めていく姿が描かれている。
出版情報
- 出版社:主婦と生活社
- 発売日:2018年7月27日
- ISBN:978-4-391-15217-3
読んだ本のタイトル
神統記(テオゴニア) 2
著者:谷舞司 氏
イラスト:河野紘 氏
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あらすじ・内容
亜人種との戦いの最中、「谷の神様」の憑代として『加護持ち』の力を得た少年カイ。
豚人(オーグ)族の大戦士・六頭将(リグダロス)の一角を討ち果たし、
小人(コロル)族や鹿人(ウーゼル)族らの帰依を受けたことで、谷には小さな「国」が生まれつつあった。
感想
広がる世界と過酷な戦場
物語は、主人公カイが亜人たちとの関係を深めつつ、人族との対立を深めていく展開を見せた。戦場の描写は圧倒的な迫力があり、戦いの果てに広がる静寂と残酷な現実が印象的である。戦闘後の森に漂う異様な静けさが、戦争の冷酷さを強調していた。亜人との共存を模索しながらも、人間社会のしがらみに苦しむカイの姿が、読者の心を揺さぶる。
亜人との関係と人族の反発
カイは、鹿人族の少女との交流を通じて、異種族との信頼を築こうとする。しかし、その行動が人族からの不信を招く結果となった。亜人たちは彼に帰依を求め、強い絆を築こうとするが、その分、人間側との溝は深まっていく。特に、巡察使との対立は、理不尽な権力構造を浮き彫りにし、カイの怒りを増幅させた。権力の理不尽さに抗う姿は、読者に強い共感を呼び起こす。
悪神の脅威と賢姫の登場
物語が進むにつれ、亜人たちを脅かす「悪神」の存在が明らかになった。悪神の誕生が土地神の喪失と関係していることが示され、カイはその真相を探るために動き出す。そして、新たに登場した「北の賢姫」は、冷静な知略と強い胆力を持ち、カイと対等に渡り合う存在として描かれていた。彼女の登場により、物語はさらに多様な視点を持つことになり、今後の展開がますます気になる。
迫る戦いと予測不能な未来
灰猿人族との対立は避けられず、カイは戦いへと巻き込まれていく。村を守るための戦略、敵との交渉、そして悪神討伐に向けた準備が並行して進み、緊張感が途切れることはなかった。特に、村の女性たちの苦悩や、カイの怒りが交錯する場面は、感情の揺れを鮮やかに描いていた。戦争が避けられない現実の中で、どのように決断するのかが問われる展開である。
作品の魅力と期待
本作は、東洋的な世界観と多種族の関係を深く掘り下げた作品である。単純な善悪ではなく、それぞれの種族の生存戦略が描かれ、リアリティが増している。カイの行動は、読者に共感を与えつつも、人間社会の歪みを強く浮かび上がらせる。次巻では、悪神との本格的な戦いが描かれることになるだろう。その行方を見守りたい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
第四章 忍び寄る影
朝の戦場の目覚め
カイは朝の森で目を覚ました。周囲には豚人族の死体が散乱しており、静かな空気が戦場の記憶を際立たせていた。自らの身体が驚くほど軽く、力が満ちていることを感じたが、戦いの後の不安をぬぐえなかった。戦場を後にするために装備を探し始めたカイは、近くで鹿人族の少女を発見した。
鹿人族の少女との遭遇
鹿人の少女はカイに敵意がないことを示すため、ぎこちなく人族語を話した。彼女は村の長の娘で、異種族間の交渉に必要なため人族語を習得していた。カイは少女が戦闘力を持たないと判断し、警戒を緩めたが、彼女との会話に興味を持たなかった。
装備の回収と礼儀
カイは散らばった装備を回収し、亡き鎧武者に祈りを捧げた。その後、鎧武者の遺品を収集し、価値のあるものを携えた。彼は神石をいくつか抱え、村へ戻る準備を進めたが、少女がついてくることに気づき困惑した。
少女の追随と帰依の申し出
鹿人の少女はカイに「帰依」することを申し出た。彼女は村に加わりたいと懇願したが、カイは断り続けた。それでも少女は驚異的な脚力で彼に追いつき、ついにカイを説得することに成功した。カイは彼女を谷に住まわせるよう指示し、自らは村へ戻ることにした。
野営地への帰還と村の解散
カイは野営地に到着し、仲間たちと再会した。豚人族との戦闘を報告した後、遠征隊は無事にラグ村へ戻った。村人たちは彼らを労い、隊は解散となったが、その直後、カイは坊官に呼び止められた。
エルサの悲劇
カイは城館で配膳係の少女エルサが巡察使に虐待されたと知らされた。巡察使はエルサが純潔でないと疑い、残酷な仕打ちを加えていた。カイはその話に激怒し、エルサを見舞った。エルサは重傷を負いながらも命を繋いでいたが、その姿は痛ましいものであった。
怒りと決意
カイは巡察使の非道に対する怒りを胸に秘めながら、エルサを守れなかった悔しさを感じていた。村の未来と少女の無念を抱え、カイの心には新たな決意が芽生えていた。
怒りと仲間の理不尽な状況
カイは村の惨状を目にし、理不尽な仕打ちを受けた仲間たちの無念に怒りを募らせていた。エルサを含む被害者の存在に、なぜ暴挙を許すのか理解できなかった。村の女性たちは「土地への呪い」を恐れ、慎重に行動するよう説いたが、カイの怒りは簡単には収まらなかった。
坊さんの説得と王国の構造
坊さんはカイに王国の成り立ちや、国王が持つ「王神」としての役割を説明した。国王は土地そのものに影響を与える存在であり、彼の機嫌を損ねることが村にとって重大な悪影響をもたらすと説いた。この説得を通じて、カイは怒りだけでは問題を解決できないと少しずつ理解した。
カイの力と坊さんの提案
坊さんはカイの「加護持ち」としての力を見抜き、それを利用する方法を提案した。古法を用い、加護持ちとして貴族に挑戦する権利を行使することで、敵を倒せる可能性があると語った。しかしカイはこの提案を疑念を持ちながら受け止め、坊さんが信頼できる相手か慎重に見極めていた。
谷の神様の警告と追跡者の存在
谷の神様はカイに「坊さんを殺せ」と訴えた。カイは自身が監視されていることを察し、坊さんの持つ「百眼」の能力に気づいた。その力を回避するため、カイは森を抜け、追跡者を撒きながら谷へ向かった。
小人族の協力と変装の準備
谷に到着したカイは、小人族の長老ポレック老に変装道具を依頼した。ポレック老は大事に保管していた衣装を提供し、カイを小人族の加護持ちのように見せる準備を整えた。さらに、鹿人の少女ニルンへの便宜を図るよう頼み、協力を得た。
復讐への決意
カイは整えた装備を身にまとい、坊さんへの警戒を胸に秘めながら、理不尽な状況を生み出した敵に向かう決意を固めた。彼の心には、谷にエルサを迎える未来への小さな希望も生まれていた。
白姫の苦悩と村の現状
白姫ジョゼは、村の女性たちが巡察使の理不尽な要求に耐えかねている状況に胸を痛めていた。村の女性たちは、巡察使からの要求に応じることを強いられ、その度を越した無体ぶりに《女会》は不安と怒りで混乱していた。ジョゼは村を守るために交渉に挑むも、巡察使にすげなくあしらわれ、打つ手を失っていた。
灰猿人族の襲撃とカイの策略
その夜、灰猿人族の襲撃が始まった。襲撃は突発的なものであったが、裏にはカイの策略が隠されていた。カイは変装し灰猿人族の指揮官と交渉を行い、自身の目的を果たすために村への攻撃を利用した。村を大規模に攻撃することで防御を分散させ、自身の侵入経路を確保したのである。
村への潜入と白姫との遭遇
カイは灰猿人族の襲撃の混乱を利用し、村の裏手から侵入した。その途中、白姫ジョゼと遭遇する。カイの真意を悟った白姫は、自身も巡察使への強い憎しみを抱えており、彼を助けるどころか共に巡察使の討伐を目指すことを誓った。
巡察使との対峙と制裁
カイは白姫の案内で巡察使の部屋にたどり着いた。巡察使は外の戦闘を楽しむかのように笑い、完全に無防備であった。その背後に忍び寄ったカイは、巡察使を一撃で制圧し、容赦なく村外へと放り投げた。村への影響を最小限に抑えつつ、自身の目的を果たしたのである。
終わらない闘争の始まり
巡察使の追放は成功したが、カイの行動は村や自身に新たな波紋を広げる可能性を孕んでいた。白姫との共闘は一時的な勝利をもたらしたものの、さらなる試練が訪れる兆しを残していた。
巡察使を制裁した後の脱出
カイは巡察使セベロを窓から放り出した後、素早くその場を離れた。城館内の兵士たちは騒ぎ始めたが、その行動は遅く、カイは難なく建物から脱出した。防壁を超えたカイは、巡察使が灰猿人族に討たれる前に捕まえるため、暗闇の中を駆け抜けた。
灰猿人族の混乱と追撃
カイは灰猿人たちの陣を飛び越え、彼らの注目を集めた。灰猿人たちは小人族姿のカイに困惑しつつも、指揮官の命令で統率を保った。一方、カイはセベロを探し出し、怯えた小男を発見した。セベロは恐怖で腰を抜かし、カイの激しい一撃を受けて倒れ込んだ。
巡察使の真の力と反撃
セベロは《五齢神紋》と名乗っていたが、その実力はカイが期待したものには遠かった。彼の神紋は弱々しく、見せかけだけの存在だった。追い詰められたセベロは懐剣を取り出し、最後の抵抗として魔法を放つも、カイにはほとんど効果がなかった。
セベロの最期と灰猿人族の退却
逃げようとしたセベロをカイは追い詰め、灰猿人たちの混乱の中で捕らえた。カイは素早く首を締め上げ、セベロの命を断った。自称《五齢神紋》の巡察使セベロ・ガンダールは、その傲慢さと怠惰な体が命取りとなり、あっけなく命を落とした。カイは死体を引きずりながら灰猿人たちに紛れて退却し、その死を闇に葬った。
蛙野郎の死とその後処理
カイはセベロ・ガンダールの死体を引きずりながら、灰猿人たちの陣地へ移動した。セベロの体は引きずられる間に損傷し、その傲慢な貴族然とした姿は跡形もなくなっていた。カイはその場で死体を見下ろし、次にすべきことを考えたが、坊さんの監視が続いているため思うようには動けなかった。
灰猿人族の反応と去就
灰猿人の指揮官は、カイが持ってきた死体を神の加護を奪った者と見なし、疑いを抱いた。カイはその疑念を否定し、指揮官たちを説得して自分の目的を隠した。灰猿人たちは最終的にその場を去り、指揮官はカイに敬意を表して別れを告げた。
神石の取得とその用途の模索
カイはセベロの体から神石を抜き取った。黒く光るその石は手のひらほどの大きさで、カイにとっては同族のものであるため食べる気にはなれなかった。代わりに、神石の恩恵を誰に与えるかを思案した末、負傷したエルサを救う手段として利用することを決めた。
村への帰還と坊さんとの対峙
カイは神石を持って村へ戻り、坊さんの監視を振り切ろうと試みたが、坊さんはすでに全てを見通していた。坊さんは監視をやめると約束したが、それを信用しないカイは殺意を抱き続けた。坊さんはカイの疑惑を避けるため、自分が村を発つことを宣言した。
巡察使の失踪事件と村の混乱
翌日、巡察使セベロの行方不明が発覚した。村人たちと随員たちは混乱し、セベロが突如乱心して村外へ飛び出したという筋書きが用意された。彼の死体は遠くの森で発見され、灰猿人族の襲撃に巻き込まれたと結論付けられた。一行は王都への帰還を決め、村を離れることになった。
村の日常への回帰とエルサの容態
村は徐々に日常を取り戻したが、カイはエルサの容態を心配していた。エルサは面会を拒み、重傷のため容態は悪化していた。カイは神石を使って彼女を救おうと考えたが、周囲の目がそれを阻んでいた。エルサの状態を見たカイは、その夜に行動を起こすことを心に決めた。
カイの潜入とエルサの部屋
カイは静まり返った村の中で人目を避け、女宿舎に侵入してエルサの部屋へたどり着いた。部屋は暗く、香木の香りが漂う中で、エルサはベッドに横たわっていた。カイは彼女に声をかけ、自分が助けると伝えた。エルサは拒絶するどころかカイを受け入れ、弱々しくも希望を見せた。
神石の提供とその決断
カイはエルサに巡察使から取り出した神石を渡し、それを食べれば傷が治る可能性があると告げた。エルサは迷いながらも決意し、カイの助けを借りて神石を口にした。しかし、味の不快さから吐き出してしまった。それでも彼女は再挑戦し、少しずつ神石を飲み込んだ。
神石の効果とエルサの昏睡
神石を取り込んだエルサは劇的な変化を見せ、傷の治癒が進んだが、その代償として気絶した。カイは成功を確信しつつも、彼女が目を覚まさないことに不安を感じた。翌朝、村ではエルサの奇跡的な回復が話題になったが、彼女は意識を取り戻さなかった。
村の決断とエルサの運命
村はエルサを僧院へ移すことを決定した。カイはこれに反対したが、村の現実的な事情に押し切られた。エルサの状態を改善するためにあらゆる手段を模索しながらも、彼女の容態は悪化の一途をたどった。
エルサとの逃亡
カイはエルサを抱え、村を離れる決断をした。夜の危険を顧みず、彼女を救うために谷へ向かった。途中の村や亜人たちの領域を通り過ぎながら、カイは全力で谷を目指した。
ポレック老との相談と真実の発覚
谷に到着したカイは、小人族の長であるポレック老に相談し、神石の影響や処置について聞いた。ポレック老は同族食の禁忌や神石の毒性について語り、エルサの状態がそれに起因する可能性を示唆した。カイはその言葉に強い衝撃を受け、行動を起こした。
谷での新たな発見
怒りと焦燥に駆られたカイは、谷の別荘に戻る途中で血に染まった小人族の少女アルゥエを発見した。その直後、カイは僧侶に背後から襲われ、命を脅かされる状況に陥った。
カイの絶命とナーダの勝利への確信
ナーダは、カイの胸を貫く密具を手に入れ、カイを瀕死の状態に追い込んだ。ナーダは「加護持ち」を倒す秘術を用い、自身の勝利を確信していた。カイが倒れ込む中で、彼の神石を奪い去り、これが死を確実にする方法だと語った。
神石の奪取とナーダの野望
カイの神石を手に入れたナーダは、彼の命を奪い、自らが谷の神の恩寵を得る計画を練っていた。カイが動かなくなったことを確認し、墓所に祈りを捧げる準備を進めた。その姿には高徳の僧侶のような威厳が漂っていた。
カイの意識の回復と決意
瀕死のカイの中に微かな意識が戻った。彼は自分を呼ぶエルサの声を感じ、生き抜く決意を新たにした。全身の霊力を振り絞り、致命的な傷をふさぎ、体を起こすことに成功した。
アルゥエの救助
カイは瀕死のアルゥエを発見し、残りの霊力を使い彼女を治療した。彼女の命を救うことに成功したが、自身の体力は限界に近づき、なおも立ち上がり、ナーダに立ち向かう決意を固めた。
カイとナーダの対峙
ナーダはカイの復活に動揺しつつも、自信を持って再び攻撃を仕掛けた。カイは計算された動きでナーダの密具を狙い、激しい攻防が続いた。ナーダの動揺を利用し、カイは最後の力を振り絞り、ナーダの神石奪取を阻止しつつ、再び自らの神石を手に入れることに成功した。
形勢の逆転
カイは失った神石を胸の穴に戻し、失われた力を取り戻した。形勢は逆転し、彼はナーダへの反撃の機会を得た。全身を震わせる中で、カイは最後の一撃を仕掛ける準備を整えた。
ナーダの反撃とカイの治癒
ナーダはカイに致命傷を与えたが、カイは奇跡的に自らの力を取り戻し始めた。胸の傷が異常な速度で修復される様子を目の当たりにし、ナーダは驚愕しつつ撤退を試みた。
ナーダの逃走とカイの追跡
ナーダは《僧会》武術の秘技を駆使し、谷からの脱出を図った。カイは負傷した体でありながら、彼を執拗に追い続けた。霊力を利用してナーダの監視装置である「目玉」を破壊し、ナーダの視覚を遮断することに成功した。
ポレック老の介入
谷を抜け出そうとしたナーダの前にポレック老が立ちはだかった。ポレック老はためらうことなくナーダの指を刺し、谷底へと転落させた。カイはその隙を逃さず、ナーダを迎え撃つために動いた。
カイとナーダの対決
ナーダは最後の抵抗を試みたが、カイに追い詰められた。説得を試みるナーダは人族のためにカイの力を求めるが、カイはその申し出を断固として拒絶した。結果として、カイはナーダを殺害し、谷を守り抜いた。
僧会の反応と次の動き
ナーダの死を知った《僧会》の僧官たちは、辺土の混乱を嘆きつつも、次なる調査に向けた準備を進めた。彼らはナーダの位牌を作ることを話し合いながら、広がる平原の中を歩き去った。
第五章 仮面の男
ラグ村の日常の回復
ラグ村は巡察使の一行が去った後、急速に日常を取り戻しつつあった。村人たちは農作業や冬支度に追われ、暗い空気も晴れていった。そんな中、初雪が舞い、厳しい冬の訪れを予感させる光景が広がった。
リリサの嘆願
兵舎を訪れたリリサは、亡き姉エルサの墓の場所をカイに問いただした。しかしカイは、危険だから教えられないと拒絶し続けた。リリサの涙にカイは謝罪するしかなく、村の女性たちは彼の行動をエルサへの独占的な愛情と解釈した。
モロク家の苦悩と対立
巡察使の変死後、モロク家では中央からの制裁を避けるため、辺土伯への根回しが行われた。その過程で財貨を惜しまず提供することに嫡子オルハは苛立ちを隠さず、父ヴェジンとの対立が生じた。また、縁談を押し付けられたジョゼは屈辱に耐えねばならなかった。
カイの悔恨と夜の訪問
カイはエルサの家族に対して知らずに犯した無礼を悔い、夜中に彼女の実家を訪れた。リリサと母親の困窮した様子を目の当たりにし、咳止めの薬草を探しに谷へ向かった。
谷の新しい住人たち
谷の周辺には、小人族と鹿人族の集落が形成されていた。両者は協力し合い、交流を深めながら安定した生活を築きつつあった。谷の神としてのカイは、それを見守りつつ谷の安全を維持する役割を果たしていた。
アルゥエとニルンの小屋
カイが訪れると、アルゥエが温かい食事を用意して迎え入れた。その小屋には鹿人族のニルンが寝泊まりし、エルサの面倒を見ていた。未だ昏睡状態のエルサを撫でるカイの姿には、彼の深い愛情が滲み出ていた。
エルサの延命措置と治療
エルサの延命に必要な処置は、小人族に伝わる技術から得られたものであった。胃に薬を届けるための医療技術が導入され、ラカンの蔦を使った処置が定期的に行われた。これにより、エルサの状態は徐々に安定し、苦しみが和らいだ。カイと看護を担当するニルン、アルゥエは彼女を支え続けたが、カイのエルサへの一途な思いは、2人に複雑な感情を抱かせた。
亜人商人フルーの訪問と谷の情報交換
猫人族の商人フルーが谷を訪れ、亜人世界の情報をもたらした。ポレック老はフルーの取引を管理し、谷の安全を確保する条件を提示した。フルーから得られた情報では、豚人族が北の異形との戦いに注力しており、そのため谷への侵攻は一時的に控えられているとされた。カイは谷を中心とした国造りの可能性を初めて考え始めた。
ラグ村の薪集めとカイの怪力
冬に備えた薪集めが行われ、カイの怪力が発揮された。豚人族の武器を使い、巨大なバレン杉を倒し村へ運ぶ姿は、村人たちを驚嘆させた。彼の力は村人たちから「神石を多く摂取した結果ではないか」と囁かれ、一種の畏敬の念を抱かれるようになった。
領主ヴェジンの計画とジョゼの反応
領主ヴェジンはカイの力に注目し、州都で行われる冬至の宴への護衛として連れて行く計画を立てた。この提案を受け、ジョゼは内心で喜びの色を見せた。カイの存在は村と領主家の間で新たな動きの兆しを見せ始めていた。
灰猿人族の煙と村の緊張
森から立ち上る灰猿人族の煙は日を追うごとに増え、村人たちの不安を煽った。例年であれば亜人族の活動が低調になる冬季に、灰猿人たちは異例の動きを見せていた。村の領主ヴェジンは籠城戦の準備を指示し、薪を矢の材料に転用するなどの対策を進めた。一方、オルハは速戦を主張したが、ヴェジンの慎重な判断により却下された。
灰猿人族の砦と敵勢力の規模
偵察部隊からの報告で、灰猿人族が森に砦を築き、約1,000匹が集結していることが判明した。その砦は村の動向を監視できる櫓を備え、戦闘の準備が整っていた。この報告を受け、村人たちは恐怖に包まれたが、助勢を求める試みは近隣の村々に断られた。辺土伯が救援に来るにはひと月以上かかる見込みであり、村人たちは自力で戦う覚悟を固めた。
カイの思索と村の準備
カイは灰猿人族の動機を分析し、彼らが土地神を奪還しようとしていると推測した。しかし、村人たちにそのことを説明する余裕はなく、黙々と土砂で正門を埋める作業に従事した。兵士たちはカイの怪力に希望を見出しながらも、戦いの恐怖を隠せずにいた。
戦闘の開始
灰猿人族の軍勢がついに村へ接近し、防壁上で待機する兵士たちは緊張を高めた。飛礫が飛び交う中、バスコの号令で大弓が一斉に放たれ、数匹の灰猿人族を仕留めた。しかし、その攻撃が敵の闘争心を煽り、灰猿人族の怒号が戦場を満たした。村の存亡を懸けた戦いが始まったのである。
灰猿人族の猛攻と村の防衛
灰猿人族の軍勢がラグ村に襲来し、防壁に取りつき始めた。村の防壁は堅牢であったが、灰猿人の身体能力により突破が試みられる。村の兵士たちは弓や槍で応戦し、女たちは飛礫を避けながら物資や臭い汁を供給して戦いを支援した。この臭い汁は灰猿人に効果的で、多くの敵が防壁から落ちていったが、それでも敵の猛攻は続いた。
カイの活躍と防壁の防衛
防壁上では、カイが偽の加護持ちとして圧倒的な活躍を見せた。彼の怪力は灰猿人族を圧倒し、多くの敵を殴り倒した。その活躍により防壁の中央部の攻防を一手に引き受け、村の士気を大いに高めた。灰猿人たちはカイの隈取りを加護持ちと信じ、攻撃の勢いを失った。
戦いの終息と村の状況
戦いは村の善戦により第一波の攻撃を退ける形で収束した。灰猿人族の軍勢は退却を始めたが、その後も村を包囲し続けた。一方、ラグ村では防壁の被害を修復しながら戦いの準備を続行した。カイの活躍により防壁周辺の死傷者は少なく、彼の戦功が村人たちに称賛された。
領主の命令とカイの出立
戦いの後、カイは領主に呼ばれ、オルハとジョゼが倒れたことを知らされる。領主はカイを伴い、二人の病の原因を探るためエダ村の土地神の墓所へ向かった。そこでは灰猿人族が墓所を荒らしており、土地神に呪いをかけていたことが判明した。
墓所での戦闘と土地神への疑問
エダ村の墓所では領主とカイが灰猿人族と戦闘を繰り広げた。墓所を守るための戦いで多くの灰猿人が討たれたが、その中で土地神の墓所を破壊する可能性についてカイは考えを巡らせた。最終的に領主の命令に従い、ふたりは次なる土地神のもとへと向かった。
エルグ村への突入と灰猿人族の排除
ご当主様は夜陰の中、驚異的な速さでエルグ村の墓所へ駆けた。カイもその後を追ったが、冷静さを保つため距離を置いた。墓所では灰猿人族が呪いを刻んでおり、ご当主様とカイはそれらを迅速に排除した。カイは初めて『加護持ち』の力を存分に発揮し、村の防衛戦よりも効率的な戦闘に驚嘆した。
ご当主様の教えと戦略的思考の重要性
戦闘後、ご当主様はカイに『加護持ち』としての心得を説いた。無計画な突撃は命を危うくする愚行であり、冷静に選択肢を見極めて勝利の道筋を立てるべきと教えた。この教えを受け、カイは村の防衛や戦術に対する視点が広がり、『加護持ち』の本質を理解し始めた。
土地神の墓所の冒涜とその影響
灰猿人族は土地神の墓所を荒らし、呪法を用いてその力を妨害していた。ご当主様は墓所の簡易な修復と祈りを捧げ、墓所の尊厳を守る努力をした。カイは墓所を汚す行為の恐ろしさと、それが土地神や村に与える影響を痛感した。
ラグ村への帰還と新たな戦況の始まり
村への帰還途中、灰猿人族の追撃部隊と遭遇したが、ご当主様とカイの力でこれを振り切った。村に戻ったカイは、領主家から破格のもてなしを受け、ご当主様との会話で自身の可能性と期待を感じ取った。
オルハの復調と領主家の動き
倒れていたオルハが意識を取り戻し、村の状況を知って悔しがった。一方で、領主家ではカイの存在が新たな動きの要因となっており、家族や使用人の間に緊張感が生じていた。アクイはオルハのために静穏を保とうと努めながら、領主家の変化を見守っていた。
谷の神の「見極めよ」という導き
カイは灰猿人族の陣地を監視し、その士気が低下していることを察した。灰猿人たちは外部の厳しい環境と戦い、越冬のための食糧不足に苦しんでいた。包囲陣の手薄な様子に気づいたカイは、状況を確認するため本陣へ向かうことを決意した。
灰猿人への接触と小人族の変装
本陣へ向かう途中、カイは灰猿人に発見されることを恐れ、小人族に変装する策を講じた。灰猿人の見張りに接触した際、力を見せつけることで敵対的な態度を制し、「族長に会わせろ」と片言の言葉で要求した。彼の態度に驚いた灰猿人たちは次第に従い始めた。
本陣での対峙と族長との接触
灰猿人の本陣に到着したカイは、『加護持ち』であることを示し、族長の元へ通された。族長は彼の顕した《象形紋》を見て驚愕し、「鼎の大神」と呼び崇める態度を見せた。その場の緊張は解け、族長はカイにすがりつきながら感謝を述べたが、カイ自身はその意図を理解できず困惑した。
灰猿人族の反応と神への信仰
灰猿人たちは族長の異様な行動に驚きながらも、カイを尊敬の念を込めた目で見るようになった。族長は「守護者が遣わされた」と歓喜し、自族の存続と救済を求めるようにカイに懇願した。しかし、谷の神の「見極めよ」という言葉の真意は、依然としてカイの中で曖昧なままであった。
灰猿人族との交渉と「地腐れ」の発端
カイは灰猿人族の族長から、土地が腐り木々が枯れ始める「地腐れ」という現象が起きているとの説明を受けた。この現象は北限の土地神が奪われた影響が灰猿人族の領域にまで及んだものであった。さらに族長は、「悪神」による侵略が起こり、彼らの主邑が奪われたと語った。この話にカイの内に宿る谷の神が激しく反応し、深い因縁を示唆した。
村への帰還とリリサとの対峙
カイは灰猿人族の陣を離れ、夜明け前に村へと戻った。しかし村に入る際、エルサの妹リリサに見つかり、詰問を受ける。リリサは姉エルサの行方についてしつこく問い詰めたが、カイは冷たく対応した。リリサは泣き崩れるも、それ以上の追及を諦めた。
灰猿人族の撤退と村人の歓喜
翌朝、灰猿人族の使者がラグ村を訪れ、カイの介入により争いを止めるという旨を伝えた。その後、灰猿人族の軍勢は防御陣地を撤去し、撤退を開始した。村人たちはこの予期せぬ勝利に歓喜し、領主モロク・ヴェジンと防衛に貢献したカイを称えた。
領主家の兄妹とカイへの評価
病み上がりのジョゼとオルハは、村人たちの賛辞の的となったカイを見て複雑な感情を抱いた。特にオルハは自尊心を傷つけられ、父の期待をカイに奪われたように感じた。一方でジョゼは、カイに笑みを向け、モロク家の一員として彼を認める姿勢を示した。
勝利の影響と周囲の反応
ラグ村の勝利は近隣の領地に広まり、モロク家は領民と領主としての名声を得た。祝いの品や支援が送られ、戦勝の噂は辺土全体に広がった。こうしてラグ村は復興の道を歩み始め、本格的な冬の到来を迎えた。血なまぐさい争いを覆い隠すように、純白の雪が大地を包み込んだ。
第六章 鼎の守護者(前編)
隊商の来訪と村の賑わい
ラグ村に隊商が訪れ、村人たちは熱心に広場の除雪を行い、歓迎の準備を整えた。商人たちは雪にもかかわらず、亜人との戦いを勝ち抜いた村との関係を強化するために訪れた。村の広場では、馬車に並んだ商品が販売され、祭りのような活気に包まれていた。カイは粒銀貨を手に慎重に品定めを行い、エルサやリリサ、谷で待つ少女たちへの贈り物を購入した。
リリサとの接触
カイはリリサに声を掛け、彼女がほしがっていた髪留めを買い与えた。リリサは最初驚きつつも、カイの行為に照れくさそうな表情を見せた。カイはそれを見届けてから広場を去り、自身の所持金をすべて使い切った清々しさを感じていた。
渡り僧の滞在
隊商とともに訪れた渡り僧たちは、村に居残り冬を越すこととなった。彼らの世話役にはリリサが選ばれ、初めての仕事に緊張しながらも、他の世話役たちとともに僧たちのもてなしを行った。僧たちは王都や亜人界の話を語り、村人たちを楽しませた。
リリサの告白と僧たちの推測
世話役たちとの会話の中で、リリサはカイのことを話題にし、彼がエルサを隠していると思い込んでいることを語った。しかし、僧の一人が「エルサが元気で自由に村に来られるなら、なぜ家族に会いに来ないのか」と指摘し、リリサを黙らせた。彼女はその言葉に困惑しつつも、僧たちの推測に耳を傾けた。
カイの献身とリリサの認識
僧たちはカイの行動がエルサを思っての献身である可能性を示唆した。カイがエルサの墓参りをし、リリサと母親に配慮して届け物をしているのではないかと語り、大人たちもそれに同意した。リリサはなおもエルサの生存を信じていたが、その言葉には徐々に迷いが混じり始めていた。
カイの谷への頻繁な訪問
カイは灰猿人族との戦いを回避した後、毎晩のように谷を訪れていた。村を離れられなかった反動や、谷の眷属たちとの相談ごとが理由であった。ある日、水路を伝って谷へ向かう途中、人影を避けるために水路に身を隠し、ずぶ濡れのまま谷に到着した。眷属たちに着替えを促されるも、カイは村を離れる気はないと明言し、その意図を示した。
谷の指導者たちとの会議
谷の指導者たちが集まり、灰猿人族の領域での観察結果が報告された。ポレックは、墓所が冒され『悪神』が発生したことを確認し、その影響で土地が広範囲に腐敗する危険性を述べた。続いてケチャクが、灰猿人族軍の一部が砦に留まり、カイたちの動向を監視していることを報告した。鹿人族の代表も、灰猿人族の略奪が原因で近隣の従属種族に怨嗟が広がっていると伝えた。
『悪神』討伐の決意
カイはポレックから『悪神』が土地の恩寵を奪い、周囲を荒廃させる仕組みを聞き、討伐の必要性を認識した。『悪神』を放置すれば、いずれ自滅するものの、大規模な被害が避けられないとの説明を受け、谷の神の強い意思もあり、討伐を決意した。
冬至の宴の準備と家族内の対立
ラグ村では、辺土伯が主催する『冬至の宴』に向けた準備が進められていた。モロク家からはヴェジン、オルハ、ジョゼが参加することとなったが、ラーナは自分も参加したいと駄々をこねた。オルハの冷ややかな態度や家族の対応に不満を募らせたラーナは、自室を飛び出した。
ラーナの失踪
家族会議の間に、ラーナが城館にも村にも戻らない事態が発生した。さらに、城館の馬が1頭いなくなっていることが判明し、村全体が大騒ぎとなった。
馬の盗難と姫の失踪
ラグ村で「馬が盗まれた」という叫び声が響いた。領主家の姫ラーナが家を飛び出し、馬を盗んで逃亡したことが明らかとなった。ラーナは世話役の若者セマルをそそのかし、一緒に州都へ向かう計画を立てたが、途中で馬が暴れ、セマルは怪我を負って立ち往生していた。村では騒ぎが広がり、カイの班が捜索を命じられた。
馬の追跡とラーナの発見
カイたちは雪原を追跡し、途中でセマルを発見した。彼から事情を聞き出した後、北の森へ向かう馬の足跡をたどった。森の中でカイは馬とラーナを見つけ、ラーナを雪の中から引き抜いて保護した。ラーナは意識を失っていたが、カイは冷静に対処し、彼女を肩に抱え谷へと向かった。
ラーナを谷に連れて行く
カイはラーナを谷の小人族の村、ハチャル村へ連れて行き、村長ポレックに預けた。彼はラーナを「小人族に攫われた」ことにしてしばらく匿うよう依頼した。この間にカイは灰猿人族の領域へ向かう準備を整える計画であった。
領主家の反応と捜索計画
村ではラーナの行方不明を受け、領主家が動揺していた。ヴェジンは当初捜索を諦める姿勢を見せたが、ジョゼの説得により短期間限定の捜索を承認した。カイが捜索の任を引き受け、準備を整えて出発することが決まった。
谷での準備と別れ
カイは谷に戻り、眷属たちとともに旅の準備を進めた。アルゥエやニルンが食料や装備を整える中、カイは眠り続けるエルサを見舞った。彼女が目覚めたら新しい生活を始めるという希望を胸に、カイは笑みを浮かべた。準備を終えたカイは眷属たちとの別れを惜しみながら谷を後にした。
霧深き道の進軍
カイとポレック率いる小人族兵士たちは、冬の森を進み『竜の背骨』と呼ばれる道を通った。この道は雪を避けるために使われる亜人の主要ルートであった。途中、灰猿人族の領域に足を踏み入れ、通行税として少量の食料を提供することを余儀なくされた。また、穴熊族の領域では険悪な状況となるも、カイが巨木を叩き割る力を示したことで無事に通過を許された。
灰猿人族の衰退と主邑の到着
二日間の道のりを経て、カイたちは灰猿人族の主邑を支えるソマ湖に到着した。そこは濃い霧と悪臭に覆われ、土地神の恩寵が薄れていることが明らかであった。湖岸には難民があふれ、飢えと疲弊で理性を失いかけた灰猿人たちが集まっていた。
大首領との対面
カイは案内役に従い、大首領が待つ巣に入った。病に伏す大首領は、土地を荒らす『悪神』の影響で力を失い、苦しんでいた。彼は灰猿人族を救うために『悪神』討伐を懇願し、カイはその願いを静かに引き受けた。灰猿人たちはその姿に心を打たれ、希望を託した。
主邑への進軍と黒衣の軍勢
カイたちは主邑『大営巣』に向かう途中、黒衣の灰猿人軍勢に行く手を阻まれた。彼らは王族に仕える親衛隊であり、『悪神』討伐の主導権を巡り、大首領派と対立していた。カイはその場で指揮官を制し、力の差を示して進軍を許可させた。
賢姫の存在
進軍中、黒衣の軍勢の指揮者が「賢姫様」という名を叫び、『悪神』討伐を成し遂げると宣言した。その声を背に、カイたちは『悪神』との対峙に向けて進み続けた。
大営巣への進入
カイたちが進んだ『大営巣』の正面入口は、高い吹き抜けの廊下へと続いていた。廊下は焼け焦げた亡骸で埋め尽くされており、腐臭が充満していた。壁面には灰猿人たちの穴居が続き、内部では抗戦が続いている様子が見られた。トルードは『悪神』の起源とここ一月の出来事を語った。北限で発生した『神変』が原因で『悪神』が誕生し、主邑に連れ帰られた経緯が明らかにされた。
王城区画の発見
トルードの先導でカイたちは『王城区画』に到達した。その場所は強烈な腐臭とともに、かつて灰猿人たちが築いた居住地の跡が広がっていた。最奥にある大きなテーブル岩は王の座所であったが、現在は『悪神』が居座っていた。巨大な蛇のような『悪神』は、灰猿人たちの遺体を貪り食らい続けていた。
北の賢姫の登場
そのとき、王城区画に賢姫の声が響いた。彼女は防具に身を包み、『悪神』に向けて檻の中の獣を差し出した。賢姫の挑発に応じるように、『悪神』が姿を現し、凄まじい威圧感を放った。さらに『神狼』も現れ、緊張感が一気に高まった。カイは賢姫の目的を理解し、彼女の意図に注目した。
村の動揺
一方、村ではリリサがカイの不在を気にしつつ冬至の宴の準備をしていた。彼女の耳には僧たちの不穏な会話が聞こえ、同時に季節外れの遠雷が鳴り響いた。その音に村人たちは動揺し、防壁へと駆け出す者もいた。リリサは不安に駆られながらも、カイの無事を祈り続けていた。
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