index 次巻
どんな本?
『とある暗部の少女共棲』は、鎌池和馬によるライトノベル作品で、『とある魔術の禁書目録』シリーズのスピンオフ作品である。
物語の概要
本作は、超能力が“一般科学”として認知された学園都市の裏側に存在する『暗部』組織に焦点を当てる。その中でも、四人の少女で構成される精鋭部隊『アイテム』の活動を描く。彼女たちは、表には出せない任務を遂行し、学園都市の闇を生き抜いていく。
主要キャラクター
• 麦野沈利:学園都市が誇る七人の超能力者(レベル5)の一人で、『アイテム』のリーダー。
• 滝壺理后:能力者が発する微弱な力を読み取り追跡する能力を持つ。
• フレンダ=セイヴェルン:爆発物やトラップを用いた戦闘が得意。
• 絹旗最愛:窒素を自在に操り、防御を担当する。
物語の特徴
本作は、学園都市の表と裏、光と闇のコントラストを鮮明に描き出す。
『アイテム』のメンバーそれぞれの背景や葛藤、そして彼女たちの友情が物語の核となっている。
スピンオフ作品でありながら、シリーズ全体の世界観を深める内容となっている。  
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:電撃文庫
• 発売日:2023年3月10日発売
• 判型:文庫判 
• ページ数:360ページ
• ISBN:9784049149395
読んだ本のタイトル
とある暗部の少女共棲
著者:鎌池和馬 氏
キャラクターデザイン・イラスト:ニリツ 氏
キャラクターデザイン:はいむら きよたか 氏
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
これは、学園都市の『暗部』に生きる少女たちの物語――。
『超能力』が“一般科学”として認知された『学園都市』。その平和の裏には表沙汰にできない任務を請け負う『暗部』組織が存在する。
『アイテム』――四人の少女で構成される精鋭部隊だ。能力者が発する微弱な力を読み取り追跡ができる滝壺理后。爆発物やトラップを用いた戦闘が得意なフレンダ=セイヴェルン。窒素を自在に操り防御を担う絹旗最愛。そして学園都市が誇る七人の超能力者の一角、麦野沈利。学園都市の暗闇を自由に生きる彼女たちが、静かに標的に狙いを定める――!
「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」
これは、やがて「凄惨な事件」へと至る少女たちの、出会いと友情と暗闇の物語。
主な出来事
序章:フェミニンデンジャラスブライト
研究施設襲撃と制圧
- 複合装甲で守られた非公開研究施設が光の砲撃により崩壊。
- 侵入者たちは、無差別に見せかけた計算された光の攻撃で全ての出入口を封鎖し、生存者を逃がさないよう制圧。
- 少女たちは余裕を持って施設を進み、標的の殲滅を継続。
- 暗部組織『アイテム』のリーダーである麦野沈利が指揮を取り、「原子崩し(メルトダウナー)」で次々と敵を消去。
研究施設の完全破壊
- 施設内には拷問器具が散乱し、異常な実験が行われていた形跡あり。
- 麦野は抵抗する研究員や警備兵を容赦なく殲滅。
- 研究データや関係者を徹底的に処分し、最後の生存者も『原子崩し』で消去。
極秘実験の痕跡と撤収
- 冷凍睡眠状態の少女たちを収めたポッドを発見。
- 「暗闇の五月計画」の成功例である『窒素装甲』を持つ少女・絹旗最愛を回収し、新たな戦力とすることを決定。
- 証拠隠滅のため、学園都市の正規警備員が発見する形で残りの被験者を処理。
第一章:『五』人目の少女
学園都市の暗部と『アイテム』の役割
- 学園都市の『暗部』では情報管理が最重要視されており、情報漏洩者は即座に排除対象となる。
- 『アイテム』の各メンバーが持つ能力と特性が詳細に解説される。
- 新たに加わった絹旗最愛が、チームの正式メンバーとして迎え入れられる。
ショッピングモールでの騒動
- フレンダ、滝壺、絹旗が高級ショッピングモールで服を購入中、フレンダのブラックカードが凍結される事態が発生。
- 口座凍結の原因が計画的な妨害である可能性が浮上。
『電話の声』からの新たな依頼
- 口座凍結の背後に『コロシアム』と呼ばれる違法賭博の存在が関与。
- 生命保険を利用した殺し合いが行われており、その壊滅が新たな依頼として課される。
第二章:Colosseum.
コロシアムの調査と保険会社への潜入
- コロシアムの資金源が高額な死亡保険であることを突き止める。
- 保険会社のデータを得るため、華野超美が変装し、中央サーバーに侵入。
- 最新のセキュリティコード変更により、麦野が『原子崩し』でビルの一部を破壊し、強制的にロックを解除。
- 取得したデータをもとに、コロシアムの試合会場を特定。
試合会場への潜入と敵との対峙
- 地下の闘技場『コロシアム』に潜入し、違法試合の様子を確認。
- 主催者が学園都市第六位を名乗る女貞木小路楓であることが判明。
- 彼女の能力により、『原子崩し』が歪められ、攻撃が通じない状況に陥る。
スーツケースの争奪戦
- 麦野は重要なスーツケースを追うが、途中でホワイトタイガーと対峙し、一撃で沈める。
- 花山過蜜という少女と激突し、驚異的な速度のキックスケーター『ドラゴンモーター』を駆使した攻撃を受ける。
- 『原子崩し』で決着をつけるも、『アイテム』側が罠にはまり、華野超美が敵に囚われる。
第三章:とある勇気、秘密の報酬
囚われの少女・華野超美
- 窓のない部屋に監禁され、精神的に追い詰められる。
- 井上ラスペツィアと鰐口鋸刃が心理戦を仕掛け、仲間への情報提供を迫る。
- 最後の抵抗として、隠し持った液体爆薬の信管を起動。
爆発と『アイテム』の怒り
- 隠れ家を爆破し、自らの命を犠牲にすることで敵に一矢報いる。
- フレンダが華野の死に激怒し、敵への復讐を決意。
- 『アイテム』のメンバーは、敵の拠点を特定し、殲滅作戦を開始。
第四章:超能力者は咆哮する
女貞木小路楓の逃亡と追跡
- 彼女は計画的に逃走し、第三学区のバスターミナルへ。
- しかし、バス乗車直前に爆発が発生し、包囲網が敷かれる。
- 滝壺理后の『能力追跡』により、逃走が不可能な状態に陥る。
麦野沈利との最終決戦
- 女貞木小路楓の『殺傷圧撃』と麦野の『原子崩し』が激突。
- 環境を利用した戦闘が続き、麦野が勝利を収める。
- 女貞木小路楓は『原子崩し』で下半身を蒸発させられ、完全決着。
終章:いつかどこかに繋がる道
華野超美の葬儀と『アイテム』の決意
- フレンダたちは斎場を遠くから見守り、華野の死を悼む。
- 麦野は「敵対アイテム」の拠点が自分たちのマンションの下にあったことを知り、新拠点を模索。
『電話の声』への復讐
- 『アイテム』の戦いが上層部の計画である可能性を察知。
- 麦野と絹旗が『電話の声』の拠点を襲撃し、直接制裁を下す。
華野超美の真の正体
- 彼女は死亡しておらず、偽装された姿で暗部の管理者『電話の声』として生存。
- 『アイテム』同士の戦いを仕組み、学園都市のバランスを調整していた。
次なる戦いの予兆
- 『アイテム』が真の敵と対峙する未来が示唆され、戦いは続く。
感想
本作は、とある魔術の禁書目録の舞台となる学園都市の闇に生きる少女たちの過去と戦いを描いた作品。
暗部組織『アイテム』の結成過程や、彼女たちがいかにして現在の形になったのかを詳細に描写していた。
研究施設の襲撃、違法賭博場『コロシアム』の殲滅、そして敵対組織との戦いが連続し、緊張感のある展開が続く。
特に、華野超美の行動は物語の大きな転換点となり、強い印象を残した。
キャラクターの魅力
『アイテム』の四人は、ただの戦闘集団ではなく、それぞれに異なる背景と信念を持っていた。
麦野沈利は圧倒的な火力を持ちながらも、仲間を守ろうとする意志を示し、滝壺理后は冷静に状況を見極める立場として機能する。
絹旗最愛の過去と映画好きの理由が明かされたことで、彼女の内面にある傷が浮かび上がり。
フレンダ=セイヴェルンは、軽い口調の裏に恐ろしい覚悟を秘めたキャラクターとして描かれた。
特に「どんなことをしても?」という言葉は、彼女の内面を暗示しており、後の展開に影響を与えそうであった。
物語の展開と緊迫感
本作では、戦闘の激しさと心理戦が巧みに絡み合っていた。
『コロシアム』の潜入は、単なる戦闘ではなく、違法組織との駆け引きが求められる状況であった。
華野超美の最期は特に印象的であり、彼女の覚悟が物語全体に大きな影響を及ぼした。
敵対組織『敵対アイテム』との戦いでは、学園都市の裏側に潜む恐ろしさが強調されており、戦闘の緊迫感が一層際立っていた。
作品のテーマと暗部の描写
学園都市の『暗部』を描くことに徹底した作品である。
キャラクター同士の信頼関係や、裏切り、復讐が織り交ぜられ、読者に道徳観を問いかける内容となっていた。
学園都市の支配構造や、大人たちの策略が背景に存在していることが示唆され、単なる戦闘ではなく、より広い視点からの陰謀が絡んでいることが伝わってくる。
『電話の声』の正体や、学園都市第六位の存在が今後の物語にどのような影響を与えるのか、非常に気になる部分であった。
総括
本作は、学園都市の裏側を深く掘り下げた物語であり、特に『アイテム』の過去を知るうえで重要な一冊であった。
戦闘シーンの迫力や、キャラクターの心理描写が優れており、最後まで緊張感を持って読める作品であった。
暗部の過酷さを描くことで、『アイテム』の存在意義がより明確になり、強い印象を残す内容となっていた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
index 次巻
備忘録
序 章 フェミニンデンジャラスブライト
研究施設襲撃と制圧
複合装甲で守られた非公開研究施設が、光の砲撃によって瞬時に崩壊した。侵入者たちは、溶け落ちた壁を難なく越え、警備兵を瞬く間に制圧した。光の攻撃は無差別に見えて、全ての出入口を的確に封鎖し、生存者を逃がさないよう計算されていた。少女たちは、まるで学校の廊下を歩くように施設内を進み、標的の殲滅を続けた。防衛設備は機能せず、敵は完全に無力化された。
暗部組織『アイテム』の行動
襲撃を指揮したのは、学園都市の七人の超能力者(レベル5)の一人、麦野沈利であった。彼女は「原子崩し(メルトダウナー)」と呼ばれる能力で、あらゆる物質を分解する閃光を放ち、敵を次々と消し去った。仲間の滝壺理后は、能力で標的を正確に追跡し、フレンダ=セイヴェルンは爆発物で施設を破壊した。戦闘の合間にも軽口を叩きながら、少女たちは任務を着実に遂行した。
研究施設の完全破壊
研究所内には拷問具のような器具が散乱し、異常な実験が行われていたことが示唆されていた。麦野は、抵抗する警備兵や研究員を迷いなく殲滅し、逃げようとする者すら容赦しなかった。標的となった研究員は命乞いをしたが、彼女たちの任務に慈悲はなかった。証拠隠滅のため、研究データや関係者の処分が進められ、最後の生存者も『原子崩し』の光に消された。
極秘実験の痕跡
施設の奥には、冷凍睡眠状態の少女たちが収められたポッドが多数並んでいた。麦野は、実験体のうち一人を回収することを決定し、防御役として利用する計画を立てた。ターゲットは、学園都市の超能力開発計画「暗闇の五月計画」の成功例である「窒素装甲」の少女、絹旗最愛であった。彼女を解凍し、新たな戦力として迎え入れることが決められた。
撤収と策略
少女たちは、研究所の破壊が完了すると、速やかに撤収を開始した。逃走ルートには痕跡を意図的に残し、警備員が踏み込んだ際には別の標的が犯人と見なされるよう細工が施された。冷凍睡眠の他の被験者たちは、学園都市の正規の警備員が発見するよう仕向けられ、事件の全貌が隠蔽されるよう調整された。
新たな『アイテム』の一員
施設を脱出した少女たちは、移動用の車両で拠点へと戻った。絹旗最愛は、解凍直後の混乱を経て、自らの状況を徐々に理解し始めた。彼女にとって、ここから先の選択肢は限られていた。戸籍も居場所も持たない彼女が生き延びるには、『アイテム』に加わる以外の道はなかった。麦野の問いかけに対し、彼女は微笑を浮かべて「超悪くないです」と答えた。こうして、学園都市の暗部で新たな戦いが始まろうとしていた。
行間 一
学園都市の暗部組織と機密情報の管理
学園都市の『暗部』では、情報の扱いが極めて重要とされていた。凶悪犯にとって機密情報は、上層部との繋がりを示す信頼の証でもあり、その保全が最優先事項であった。情報の漏洩が発覚すれば、その不正閲覧者は排除対象となることが暗黙の了解とされていた。日々の保全業務は、秘密裏に学園都市の暗闇を掌握するための試みとして進められた。
麦野沈利と『原子崩し』
麦野沈利は、学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の一人であり、『原子崩し(メルトダウナー)』の異名を持っていた。電子を粒子や波形に変えず、そのままの状態で撃ち出すことで、照射対象に莫大な熱と摩擦を与え、強引に焼き切る能力を有していた。その性質から、新型兵器研究や量子コンピュータ開発など、多様な分野での応用が期待されていた。特に、既存の量子暗号や次世代通信技術にも影響を与える可能性が示唆されており、一部の研究成果は『アネリ』プロジェクトにも組み込まれていた。
同じく電子を扱う『超電磁砲』とは相互干渉のリスクがあるため、研究施設の設計には特別な考慮が求められていた。
滝壺理后と『能力追跡』
滝壺理后は、大能力者(レベル4)であり、『能力追跡』を操る者であった。能力者が無意識に放つ微弱なAIM拡散力場を記録し、どこへ逃げても追跡可能とする特異な能力を持っていた。この追跡には『体晶』と呼ばれる特殊な粉末の摂取が必要であり、その製造には莫大なコストがかかる上、副作用も強力であった。
『体晶』の使用時以外でも、彼女は何かを受信しているような言動を見せることがあり、それが能力によるものか、無意識の察知によるものかは不明とされていた。『能力追跡』自体が謎の多い能力であり、統括理事会においても情報保全措置が厳重に施されていた。
フレンダ=セイヴェルンと爆発物の専門技術
フレンダ=セイヴェルンは無能力者であったが、爆発物の取り扱いに長け、素手での戦闘にも一定の技量を有していた。格闘技術は特定の流派を持たず、現場で生き残るために独自に習得したものであった。化学薬品の合成技術においては、大学教授レベルに達しており、独学とは思えない知識を持っていたが、具体的に誰に師事したかは不明とされていた。
交友関係が広く、生活に困る様子もなかったため、何故『暗部』に属しているのかも明確にはなっていなかった。一時は潜入捜査官の可能性も疑われたが、現在では否定されている。しかし、依然として不明点が多く、疑問点が一定数を超えた場合は調査班が編成されることになっていた。
絹旗最愛と『窒素装甲』
絹旗最愛は、大能力者(レベル4)であり、『窒素装甲』の能力を有していた。空気中の窒素を高圧縮し、全身を防護することで、極めて高い耐久性を確保していた。その防御力は至近距離からのショットガン攻撃でも傷一つつかないほどであった。さらに、防御に特化するだけでなく、圧縮された窒素の反発力を利用して擬似的な腕力強化を実現することも可能であった。
また、彼女は学園都市第一位の超能力者・一方通行の思考パターンを移植する『暗闇の五月計画』の被験者であった。その影響により、極度の興奮時には口調が変化するという報告も存在していた。『窒素装甲』の自動防御機能は、一方通行の『反射』の計算式を一部組み込んだものとされ、その耐久性の高さを証明していた。
学園都市の暗部に属する少女たちは、それぞれ異なる能力と役割を持ち、組織の中で独自の地位を確立していた。彼女たちの存在は、学園都市の裏社会において、極めて重要な意味を持っていた。
第一章 『五』人目の少女
高級マンションでの朝
七月一日の午前十時、第一五学区最大の複合ビル「フィフティーンベルズ」の最上階では、『アイテム』の拠点である超高級マンションの一室で、麦野沈利が朝を迎えていた。広大なリビングを横断し、寝室へ向かう途中、巨大なテレビが自動で点灯し、ニュース番組を映し出した。偶然にもその画面が、部屋の片隅で異常に点滅する光を発見する手助けとなった。
麦野は、炭酸水のボトルを片手にリクライニングチェアへ体を投げ出し、受話器を取った。窓の外には、風力発電のプロペラが回る学園都市の光景が広がっていた。しかし彼女にとっては、その輝く街こそが欺瞞の象徴であり、『暗部』の存在を隠蔽するために築かれた虚構に過ぎなかった。
実家の執事からの連絡
受話器の向こうから聞こえてきたのは、実家に仕える執事・貉山の声であった。彼は礼儀正しくも遠回しな態度で麦野の生活態度を問いただし、彼女に「麦野」の名を背負う者としての自覚を促した。麦野の家は、学園都市外においても影響力を持つ穀物生産企業を運営しており、表向きには裏社会との繋がりを一切見せない一流の資産家一族であった。しかし、その実態は、世界各地に兵力を擁し、金融や企業買収を通じて影響力を拡大し続ける暗黒の組織であった。
貉山は、麦野が学園都市で過ごすことを案じつつも、彼女の身の安全を確保しようとしていた。しかし、麦野自身はすでに『暗部』の中心にあり、日々の殺しを淡々とこなす日常を送っていた。
ショッピングモールでの騒動
一方、フィフティーンベルズの下層には、高級ブランドショップが並ぶショッピングモールが広がっていた。フレンダ=セイヴェルン、滝壺理后、そして新入りの絹旗最愛は、開店前の特権時間を利用して衣服を購入していた。絹旗はフレンダから借りたワンピースのサイズが合わず、仕方なく新しい服を探すことになった。しかし、値札に並ぶ桁の多さに驚愕し、購入をためらった。
フレンダは、絹旗に新しい服を選ばせる一方で、滝壺に対しても着せ替え遊びを楽しんでいた。彼女は滝壺をロードバイク用のピタピタスーツに包み込もうと試み、滝壺は淡々とそれに応じていた。やがて絹旗は、動きやすいパーカーワンピースとレギンスの組み合わせを選び、フレンダがブラックカードで支払いを済ませようとした。しかし、そのカードは認証されず、口座が凍結されていることが判明した。
フレンダは動揺しつつも、財布の奥からプリペイドカードを発見し、何とか決済を完了させた。しかし、カードの凍結が偶発的なエラーではなく、何者かによる意図的な妨害である可能性が浮上した。
華野超美の訪問
その頃、『アイテム』の拠点であるマンションには、新たな訪問者が現れた。華野超美という少女で、変装と潜入を専門とする無能力者であった。彼女は指示に従い、フィフティーンベルズの最上階へと向かったが、エレベーターのセキュリティに阻まれた。そこで特殊なスプレーを使用し、掌紋認証を突破。さらに虹彩認証を回避して、マンション内へと侵入した。
しかし、リビングに入るや否や、耳を劈く怒号が響いた。麦野が、口座凍結の件で銀行に激怒していたのだ。そのあまりの威圧感に、華野は恐怖でその場に座り込んでしまった。華野は『電話の声』と呼ばれる依頼人から、『アイテム』に加わるよう指示されていたが、彼女の訪問は最悪のタイミングであった。
新たな依頼と『コロシアム』の闇
麦野は、依頼人である『電話の声』に口座凍結の原因を問いただした。すると、それが『アイテム』に対する計画的な妨害である可能性が示唆された。敵対勢力が先手を打ち、彼女たちの資金を封じることで、行動を制限しようとしていたのだ。
依頼人は、新たな仕事として『コロシアム』に関する情報を提供した。『コロシアム』とは、無制限の殺し合いをライブ配信し、違法賭博や死亡保険を利用した不正利益を生み出す闇の格闘場であった。そこでは、参加者に高額な死亡保険をかけ、試合中に全員を殺害することで巨額の保険金を回収する仕組みが構築されていた。
今回の依頼は、保険会社からのものであり、この違法システムを崩壊させることが目的であった。『電話の声』は、手段を問わず、『コロシアム』の運営を根絶やしにするよう求めた。
『アイテム』の決断
麦野は、新たな依頼に興味を示した。『コロシアム』の運営は、学園都市の『暗部』と深く結びついており、高火力の戦闘能力を備えた勢力である可能性が高かった。しかし、それこそが彼女にとって魅力的な挑戦であった。
一方で、『アイテム』には新入りの絹旗最愛と華野超美が加わることになった。彼女たちをどのように扱うかを決める必要があった。新たなメンバーの受け入れと、命を懸けた戦いの準備が、彼女たちを待ち受けていた。
『アイテム』の組織体制と人員選定
『アイテム』は単なる少女達の集団ではなく、背後には彼女達を支援する下部組織が存在していた。ただし、支援を受けられる人数には限りがあり、麦野の判断ではフルスペック要員は三~四人が限度であった。戦力維持のためには適切な役割分担が求められ、新たに加わった華野超美は戦闘能力に欠けるため、雑用係としての扱いが決定された。
一方、絹旗最愛は『アイテム』の正式な戦闘員として認められた。滝壺は麦野の決定を肯定しつつ、華野の命を守るための采配であることを指摘した。フレンダは、最終的な評価は実戦によるとし、両者の実力を見極める機会を提案した。
コロシアムの調査と標的の選定
地下駐車場に降りた一行は、コロシアムの調査を開始した。華野は主催者の情報が乏しく、試合の開催地が毎回異なるため手掛かりが少ないと懸念を示したが、麦野は依頼人である生命保険会社の常務を直接拉致し、情報を得る方針を決定した。
麦野の判断に他のメンバーは特に驚く様子もなく、依頼人が情報を小出しにしている点から、裏に何か隠されていると推測した。華野は、依頼人を敵に回すことで報酬が得られなくなるリスクを指摘したが、麦野はコロシアムの運営が抱える資金の方が遥かに価値があるとして意に介さなかった。
また、滝壺は学園都市第六位の超能力者の存在に言及し、『暗部』にとっての脅威となる可能性を示唆した。麦野は、その危険を理解しつつも、戦闘を楽しむ性質から、強敵の存在をむしろ歓迎する態度を示した。
保険会社常務の襲撃と警策看取の介入
高速道路のジャンクション下で、保険会社常務の車列を強襲した。フレンダの爆破工作により護衛車両を無力化し、絹旗が物理的に車両のドアを引き剥がして標的を確保した。しかし、その直後、警策看取が現れた。
彼女は学園都市の研究で生み出された能力者であり、銀色の液状金属を操る特殊な力を持っていた。警策は保険会社の常務を狙い、『アイテム』と対峙した。戦闘が開始されると、彼女は上空に待機させた膨大な量の金属を降らせ、広範囲に破壊をもたらした。
絹旗は滝壺を守るために身を挺し、フレンダは防御を捨てて攻撃に転じた。麦野は警策の能力の特性を見抜き、『原子崩し』で金属の組成を変化させ、彼女の戦闘能力を封じた。華野は機転を利かせ、警策の隙を突いて直接攻撃を仕掛けたことで、『アイテム』は辛うじて勝利を収めた。
尋問と『暗部』の掟
戦闘を終えた『アイテム』は、保険会社常務を廃工場へと運び、尋問を開始した。麦野は彼を拷問する役割を新入り二人に与え、実際に手を汚させることで『暗部』の一員としての適性を見極めようとした。
華野は最初こそ怯えたが、麦野の「相手を殺さないための暴力」という言葉に影響され、拷問を受け入れる形となった。絹旗もまた、自らの役割を理解し、標的への暴力を行使する決意を固めた。
常務は恐怖に怯えながらも、情報を開示する他に選択肢はなくなった。麦野は彼の態度を冷静に観察しながら、必要な情報を確実に引き出すための手段を講じた。
暴力が生む世界の変化
華野と絹旗が拷問に関与したことで、彼女達は決定的に『暗部』の世界へと足を踏み入れることとなった。最初はためらっていた華野も、環境によってその価値観を塗り替えられ、暴力の正当化を受け入れ始めていた。
こうして、『アイテム』はまた一つの目的を達成し、新たな情報を手に入れることとなった。だが、その過程で彼女達がどれだけ深く闇に染まったのか、もはや誰にも測ることはできなかった。
行間 二
保険金詐欺とコロシアムの資金源
保険会社の関係者は、コロシアムの運営資金が高額死亡保険を利用して優勝賞金を確保する形で賄われていることを明かした。すなわち、優勝者以外の参加者全員の死亡保険金が一箇所に集められ、その資金が賞金として支払われていた。しかし、本来ならばこのような資金操作は不可能であり、不自然な契約や支払いの異常は、中央サーバーの自動アラートによって即座に検出される仕組みとなっていた。
脅迫による不正操作
それにもかかわらず、コロシアムは現在も稼働していた。その理由として、関係者は自らが『黒幕』に脅迫され、内部から中央サーバーのアラート設定を改竄したと告白した。この行為はすでに保険会社に対する重大な不正行為であり、通常の警備員には相談できなかった。その結果、表沙汰にならずに問題を解決するため、『暗部』への依頼に踏み切ったのである。
守られるべき家族と不完全な情報
関係者は、コロシアムの問題が解決された後も同じ手法で脅迫される可能性を恐れ、依頼時に全てを明かさなかったと説明した。また、家族が何も知らないまま巻き込まれる事態を避けたかったため、慎重に行動していたと語った。
『黒幕』の正体と録音のノイズ
コロシアムを運営している『黒幕』についての情報も口にしたが、詳細を語る直前に録音が乱れ、ノイズが発生した。途中まで『ザ』で始まる名称を名乗ったことは確認されたものの、完全な情報は判別できなかった。録音データのノイズ除去が必要とされたが、元のデータを加工すると証拠能力が損なわれる危険があったため、慎重な処理が求められた。
第二章 >> Colosseum.
遅い朝と部屋割りの混乱
麦野沈利は、七月七日の朝九時になってもベッドから起き上がらなかった。隣にはジャージ姿の滝壺理后が潜り込んでいた。彼女によると、新入りが増えたため部屋割りが混乱し、新しい家具を用意する余裕もなかったという。麦野は早朝ジョギングの予定を思い出すが、滝壺は既に三度も起こしていたと指摘する。結局、麦野は渋々ながらもベッドから這い出ることになった。
七夕の飾りとフレンダの勘違い
リビングに出ると、フレンダ=セイヴェルンが大きな笹を抱えて歩いていた。彼女は胡蝶蘭の鉢に笹を突き刺し、派手な飾り付けを施していた。しかし、短冊に書かれた願いは「アイテムのメンバーの無事」から「金、地位、名誉、休み、人気、友達」と強欲なものであった。麦野はそれを見て、学園都市の科学全盛の中で何をしているのかと呆れた。
ジョギングの準備と麦野の不満
麦野はシャワーを浴び、運動着に着替えた。スニーカーは高級な低衝撃モデル、イヤホンは有線タイプを選択し、ジョギング中にゲーム機を持ち歩くことにした。一方、滝壺は犬型ペットロボットを眺め、フレンダは何かの記録をつけていた。結局、麦野は一人でエレベーターに乗り、ジョギングへ向かった。外に出ると、夏の暑さに不満を漏らしながらも走り出す。
コロシアムの情報収集と疑問
ジョギング中、麦野は取材記録の音声を聞きながら、コロシアムの情報を整理していた。保険金をかけられた若者たちが失踪し、後に殴打された遺体で見つかる事例が続いていた。彼らは寮にも帰れず、金を手にする手段も限られていたにもかかわらず、巨額の保険金がかけられていた。麦野は、コロシアムの開催場所や保険金の流れを突き止める必要があると考えた。
絹旗最愛との邂逅
ジョギング中、麦野は絹旗最愛と合流した。絹旗は映画館で一晩中映画を観た後の体をほぐすために走っていた。彼女は南米のゾンビパニック映画を熱心に語り、子供の頃に研究施設で受けた洗脳映画の影響を話した。麦野はその異常な環境に驚かず、『暗部』に染まった自分を再認識することになった。
保険会社への潜入計画
麦野たちは、コロシアムの運営資金の流れを追うため、保険会社への潜入作戦を立てた。華野超美が常務に変装し、本社の中央サーバーに潜入して情報を抜き取る計画であった。彼女は完璧な変装を施し、堂々と受付を通過する。しかし、中央サーバー室のドアロックが最新のパスコードで更新されており、解除できない事態に陥った。
強硬手段による突破
麦野は強引な方法を選択した。『原子崩し』を使い、保険会社のビルの一部を破壊し、大規模災害と認識させることで自動的にロックを解除させた。華野は恐怖に震えながらも、計画通り中央サーバー室に侵入し、データを抜き取った。しかし、非常階段が封鎖され、逃走が困難になった。
華野の脱出と絹旗の救援
華野は警備員に変装し、階段を下りようとしたが、途中で警備チームと遭遇した。間一髪で誤魔化しながら降りていたところ、外からコンクリートの壁を破壊しながら絹旗が現れた。彼女は華野を抱え、高層階からダイブする。『窒素装甲』による衝撃吸収を利用し、二人は無事に着地した。
今後の方針とコロシアムの行方
奪取したデータには、コロシアムに関わる高額保険金の契約者リストが含まれていた。麦野は、次の手として、保険金をかけられたまだ生きている対象者を追跡し、コロシアムの試合会場へ辿り着く計画を立てた。これにより、『アイテム』の次なる行動が決定された。
遅れた脱出と焦る仲間たち
麦野は焦る華野超美に迎えられ、ようやく脱出に成功した。彼女は麦野に小型のコンピュータを手渡した。麦野はそれを受け取り満足そうに頷くが、周囲の破壊されたビルの様子を見て、逃げる必要はないのかと不安を口にする。結局、彼女たちはワンボックスカーでその場を離れた。
狭い車内での騒動
車内では華野超美が着替えを始めるが、仲間たちがじっと見つめる状況に彼女は動揺する。仲間の一人は茶化しながら応援し、華野超美は困惑しながらも制服を脱いだ。狭い車内でのやり取りが続く中、彼女たちは昼食の場所を決めることになった。
食事と雑談
情報通のフレンダが第三学区にあるエリート会社員向けのレストランを提案する。店へ向かう途中、フレンダはビールの試供品を配る女性を見つけ興奮するが、滝壺はその意図を理解できずに首を傾げる。目的の店に到着すると、意外にも普通の中華料理店だった。麦野はその平凡さに不満を抱くが、フレンダは混雑を避けられる店の利点を説明する。
昼食の選択と騒動
仲間たちはそれぞれの好みに合わせて料理を注文する。華野超美は味の濃い肉野菜炒めを選び、食事中の会話の中で、唐辛子を避ける理由を説明する。彼女は唇が腫れることを恐れており、滝壺が七味唐辛子をすすめると動揺する。食事は美味しかったものの、特別な感動はなく、社会人の食の選択基準に疑問を抱く者もいた。
コロシアムの情報と午後の動き
食後、麦野はフレンダに試合の開始時間を確認する。最も近い試合は午後八時からであり、すぐに動き出す必要はなかった。その後、仮眠を取ることにしたフレンダと華野超美は、午後三時に目を覚ます。フレンダは華野超美の働きを評価し、彼女が戦闘や潜入で役に立ったことを認める。一方で、華野超美はビル破壊の影響に恐れを感じていた。
新入りへの歓迎行事
突然、絹旗が部屋を訪れ、華野超美を連れ出す。新入りの伝統として、試着地獄が待っていた。ブランドショッピングモールへ連行された華野超美は、派手なミニ浴衣を試着させられるが、その露出度に困惑する。そんな中、麦野からの連絡が入り、次の任務が決まる。標的の学生寮がある第七学区へ向かうこととなった。
尾行と騒動の予感
第七学区に到着し、彼女たちは標的の少女を尾行する。三つ編みの少女はコロシアムの選手であり、彼女を追うことで秘密の試合会場に辿り着けるはずだった。混雑した街中で目立たないよう尾行するが、麦野はシャケ弁の低カロリーさに驚き、思わず声を上げる。フレンダは尾行中に写真を撮り始め、華野超美はその軽率さに焦る。
パラソル街の発見
標的が向かった先は、違法な露店が集まるパラソル街だった。ここでは様々な商品が売られており、華野超美は珍しい化粧本を見つけて興奮する。麦野はこの市場を『暗部』の表層的な部分と称し、標的が試合会場に向かう道を見極める。
試合会場の特定
標的は図書館に入ったが、閉館中のため正面からの侵入は不可能だった。絹旗が建物の非常ハシゴを使い、仲間たちは二階の窓から内部へ潜入する。内部は意外にも人の気配が多く、試合の準備が進められていた。
コロシアムの実態
階下では、観客たちが殺し合いを楽しむために集まっていた。リングの周囲には巨大なスピーカーや映像機材が設置され、興奮した群衆が騒ぎ立てていた。檻の中には選手たちに混じってホワイトタイガーまで用意されていた。麦野たちの目的は試合ではなく、コロシアムの黒幕を仕留め、資金を奪うことであった。
主催者たちの姿
主催者である四人の少女たちは、試合を観戦しながら状況を把握していた。彼女たちは資金管理にも精通し、『暗部』の世界で巧妙に立ち回っていた。中でも女貞木小路楓は、冷徹な笑みを浮かべながら、『アイテム』の名を語る。
第六位の驚愕
天井裏に潜んでいた麦野たちは、主催者たちが『アイテム』と名乗ることに困惑する。さらに、彼女たちのリーダーである女貞木小路楓が学園都市第六位の超能力者であることが判明し、状況は急変する。麦野の『原子崩し』が歪められ、思うように攻撃が通じない。
スーツケースの奪取作戦
フレンダの指示で麦野はスーツケースの確保に集中する。美術部風の少女がそれを持ち去ろうとしていたため、麦野は彼女を追う。しかし途中、解き放たれたホワイトタイガーが立ちはだかるが、一撃で黙らせた。少女が逃げ込んだのはプラネタリウムだった。
運び屋との対峙
スーツケースを追う麦野の前に立ちはだかったのは、花山過蜜という陸上少女だった。彼女はジェットエンジンを搭載したキックスケーター『ドラゴンモーター』を操り、驚異的な速度で襲いかかる。彼女の狙いは、麦野を足止めし、その間にスーツケースを確保することだった。
激突の予感
『アイテム』を名乗る少女たちと麦野たちの間で、本格的な戦闘が始まる。麦野はスーツケースを奪うため、花山過蜜を突破しなければならなかった。戦いの火蓋が切られる中、両者の運命は交錯していく。
戦闘の幕開けとコロシアムの混乱
フレンダ=セイヴェルンと絹旗最愛は、女貞木小路楓と鰐口鋸刃と対峙した。開戦の合図となったのは、鰐口鋸刃の豪快な一撃である。壁が吹き飛び、コロシアムの会場が騒然とした。突如として観客の興奮を煽るような宣言が響き渡り、戦いはさらに過激な展開を迎えた。
照明の消失と戦況の変化
フレンダの機転によってブレーカーが落とされ、会場は一時的に暗闇に包まれた。これにより生配信は妨害されたが、女貞木小路楓は冷静に対応し、観客のスマートフォンを回収していたため、記録は阻止された。フレンダと絹旗は不利な状況の中で、敵の能力の正体を探る必要に迫られた。
鰐口鋸刃の圧倒的な力
戦いは苛烈さを増し、絹旗とフレンダは距離を詰めるが、鰐口鋸刃の力は尋常ではなかった。渦を巻くような打撃は本棚を粉砕し、その破壊力を見せつけた。さらに、彼女は関節技を駆使し、巨大なグリズリーをも一撃で粉砕した。その異常な力を前に、観客すらも息を呑む事態となった。
敵の能力と戦術
女貞木小路楓の能力は、単なる動物操縦ではなく、周囲の環境を自在に操作するものであった。機械や生物を意のままに動かす力は計り知れず、鰐口鋸刃の怪力と組み合わせることで、彼女たちは圧倒的な戦力を誇った。絹旗は対抗策として体に機械油をかぶり、関節技を封じる策を講じたが、女貞木小路楓はさらなる戦略を秘めていた。
麦野沈利と花山過蜜の激突
一方、別の場所では麦野沈利が花山過蜜と対峙していた。花山は異常な速度でキックスケーターを操り、重力すら無視するような軌道で麦野を翻弄した。ワイヤーを駆使した攻撃は致命的な脅威となったが、麦野はドームの天井を破壊することで相手の行動を制限し、最終的に『原子崩し』で撃破した。
罠にはまる「アイテム」
しかし、戦況は予想外の方向へ進んでいた。華野超美が敵に捕らえられ、女貞木小路楓の策略によって交渉の材料とされていた。さらに、フレンダと絹旗も重傷を負いながら麦野のもとへ戻ったが、戦力は大きく削がれていた。敵は周到に計画を立て、暗部の天敵としての圧倒的な優位性を誇示した。
失われた仲間と決意
戦いの後、「アイテム」は隠れ家へ戻った。しかし、そこには華野超美が書いた短冊だけが残されていた。彼女の願いは、仲間として認められることだった。その無邪気な願いを目にした麦野は、無言のままそれを見つめる。滝壺理后は静かに言葉を発し、「アイテム」のメンバーとして、華野を取り戻す決意を固めた。
第三章 とある勇気、秘密の報酬
実寸大脱出ゲームと夏季都市水害防止プログラム
フレンダ=セイヴェルンは妹と共に、学園都市の地下に作られた水没ダンジョン型プールにいた。これは夏季都市水害防止プログラムの一環であり、集中豪雨による地下街の水没リスクに備えた負荷実験であった。しかし、学生たちにとっては単なる遊び場であり、彼女の妹も楽しげに水面を叩いていた。
イベント期間中は多くのビジネスチャンスが生まれる。フレンダはタブレット端末を操作し、拡張現実(AR)を活用した脱出ゲームを進めていた。画面には暗号が映し出され、それを解きながらゲームを進める仕組みであった。彼女は妹とともに問題を解きつつ、慎重に水没区画を探索していた。
妹との会話と水着談義
妹はフレンダの水着に興味を持ち、どこで購入したのかを尋ねた。彼女は今年の流行に合わせたビキニを選んでいたが、妹はシンプルなワンピース水着を着ていた。妹は大人の水着に憧れを抱きつつも、フレンダは「自分にしかできないことを大事にしろ」と諭した。その言葉に妹は納得しつつも、微妙に複雑な表情を浮かべた。
一方で、フレンダは妹の純粋な願望を尊重しつつ、彼女の成長を感じていた。水辺での遊びの時間は続き、二人はプールの外で冷たい飲み物や甘いスイーツを求めることを考え始めた。
友人の安否とフレンダの葛藤
水から上がり、フレンダは妹と手を繫ぎながら歩いていた。彼女の心には、華野超美のことが引っかかっていた。暗部の世界では、生死が不確かであり、仲間が何を話したのかも分からない状況が続いていた。
フレンダは妹に「問題を抱えた友達を放っておくのはどう思うか」と尋ねた。妹は「みんなでプールに行くために、さっさと解決すべきだ」と答えた。その率直な言葉に、フレンダは沈黙しつつも、一つの結論に至った。彼女にとって華野超美は、すでに友達の枠に収まっている存在だった。
絹旗最愛と滝壺理后の会話
第一五学区のフィフティーンベルズにて、絹旗最愛は映画館から出てきたばかりであった。彼女は馬鹿馬鹿しい映画を観た後、外の空気を吸いに来たが、滝壺理后と会話する中で「居心地の悪さ」の原因を考え始めた。
滝壺は、華野超美がいなくなったことで麦野が苛立っていることを指摘した。絹旗は「麦野が仲間想いだとは信じがたい」と反応したが、滝壺は彼女の過去を語った。滝壺はかつて冤罪で捕まり、『能力追跡』の研究対象として少年院送りにされる寸前だったが、麦野が助け出したという。
それ以来、滝壺は麦野の優しさを信じており、華野の失踪に対する彼女の怒りは単なるプライドの問題ではなく、本気で仲間を取り戻そうとしているのだと確信していた。
アイテムの決意
絹旗と滝壺は、華野超美を救うことを決意し、マンションへ戻った。そこには、麦野が膨大な資料を壁に貼りつけ、敵の情報を分析していた。彼女は、敵対チームの動向や拠点の情報を徹底的に調査し、必ず仲間を取り戻すという強い意志を示していた。
そこへフレンダが大量の荷物を抱えて戻ってきた。彼女は爆薬を大量に持ち込み、「友達を助けるなら、本気でやらせてほしい」と宣言した。その言葉に、アイテムのメンバーは改めて戦う覚悟を固めた。
敵対アイテムの動向と女貞木小路楓
一方、敵対アイテムのリーダーである女貞木小路楓は、常盤台中学に通う名門のお嬢様だった。彼女は表と裏の世界を巧みに行き来し、学園都市の闇に深く関わっていた。
彼女は自身のチームの動向を把握しながら、華野超美の処遇について考えていた。仲間の中には「すぐに殺すべきだ」と主張する者もいたが、楓は慎重に状況を見極めていた。
救出作戦の準備
麦野は、華野超美がまだ生きていると判断した。その根拠は、現在『暗部』の下部組織が『窓のないビル』襲撃のために総動員されており、死体処理ができない状況にあったためである。そのため、敵対アイテムも華野を処分できずにいる可能性が高い。
彼女たちは、敵の拠点である第一一学区の廃棄列車隧道を特定した。そこに上級高速列車『夜鷹』を隠し拠点として利用していることも判明した。トンネルの壁と列車の高圧電線を利用し、位置を特定されるのを防ぐ構造になっている。
麦野は、確実に敵を殲滅するための計画を練り、戦闘に備えた。アイテムのメンバーはそれぞれの役割を確認し、華野超美の救出に向けて準備を進めていた。
井上ラスペツィアの裏の顔
証拠捏造と彼女の本性
井上ラスペツィアは美術部に所属する銀髪の少女であり、見た目は可憐であった。しかし、その実態は他人を欺くことに長け、嘘を巧みに操る存在であった。作業ルーペを装着しながら血まみれの灰皿の証拠を捏造する姿は、彼女の本性を示していた。幼少期から培われた演技力と、誰からも疑われにくい地味な性格が、彼女をより巧妙な詐欺師へと育て上げていた。
歪んだ悪意と快楽
彼女が求めるものは金でも復讐でもなく、むしろ大人たちが冤罪によって人生を崩壊させられる姿を楽しむことにあった。自身の悪行に対して罪悪感を抱くことなく、むしろ純粋な悪意を持って他者を操ることを快楽としていた。彼女の悪意は制御されることなく肥大し、まるで「狼少年」の寓話のように、誰も彼女を疑わないまま破滅に導かれていった。
フィギュアと二次元への執着
そんな彼女には、現実とは異なるもう一つの世界があった。フィギュアを愛し、推しの抱き枕カバーを収集するオタクとしての一面である。二次元の住人は彼女の嘘に騙されることなく、態度を変えないため、駆け引きを必要としない存在であった。井上は、それを理想的な関係と考え、現実と二次元の境界を曖昧にすることで自分の精神を安定させていた。
鰐口鋸刃との日常
帰宅と会話
鰐口鋸刃がコンビニから戻ると、井上ラスペツィアは作業ルーペを外し、一息ついた。彼女は三時間ごとに補給を受けないと生きていけない処刑人であり、女貞木小路楓の庇護を受けながら過ごしていた。彼女は総合格闘技に飽き足らず、より過激な闘技場へと身を投じていたが、実際にはコンビニの菓子類を手放せないという矛盾した一面を持っていた。
調理と雑談
鰐口は井上の部屋で缶切りを探し、雑に放り投げられた大型ナイフを受け取る。そのナイフが楓の私物であることに気づき、井上が楓の持ち物をこっそり自室に持ち帰る癖があることを指摘する。二人は互いに皮肉を交えながらも軽口を叩き合い、独特の関係性を築いていた。
囚われの少女・華野超美
監禁の実態
華野超美は一週間もの間、窓のない部屋に監禁されていた。彼女は鋼管に手錠で繋がれ、最低限の備品しかない環境に置かれていた。暴力は加えられず、精神的に追い詰められる形で支配されていた。人間の精神は耐え難い状況に陥ると容易に崩壊するものであり、彼女はその瀬戸際にいた。
香水の痕跡と心理戦
井上と鰐口は、華野が香水を振り撒いていたことに気づく。これは追跡を困難にするための小細工だったが、幼稚な試みとして一蹴された。二人は彼女の心理を弄ぶように言葉を投げかけ、抵抗する意思を削ぎ落とそうとしていた。井上は、楓が華野を仲間に引き入れる可能性を考慮していたが、鰐口は否定的であった。
アイテムとの対峙
夜鷹への接近
フレンダ率いる「アイテム」は、華野超美を救出するために隠れ家を目指していた。彼女たちは巧妙に仕掛けられたトラップを見抜き、慎重に進んでいた。しかし、罠を突破した先には、敵側が用意した八本脚の戦闘機械が待ち受けていた。
滝壺理后の決意
滝壺は「体晶」を使用し、命を削りながら敵の居場所を特定しようとしていた。しかし、肝心の隠れ家には誰もおらず、全てが空であることが判明する。これは敵側の計画的な欺瞞であり、「アイテム」は罠にはめられたことを悟る。
華野超美の最後の抵抗
隠された信管
井上は華野の異変を察知し、強引に胸元を引き裂いた。そこには液体爆薬の信管が隠されていた。華野は一週間もの間、これを用意していたのである。彼女は最後まで抵抗する意志を持ち、絶望的な状況の中で自らの道を選んでいた。
爆発と終焉
華野の起爆によって、「敵対アイテム」の隠れ家は爆発した。華野は死を選ぶことで敵を巻き込み、「アイテム」に決定的な手がかりを残した。
怒れるフレンダ
無念と誓い
フレンダは華野の死を受け入れられず、沈黙の中でその死を悼んでいた。彼女は華野の勇気を無駄にせず、敵への復讐を誓った。黒煙と炎が燃え上がる中、彼女は戦いの意志を固め、「アイテム」の狩りを開始することを決断した。
復讐の始まり
怒りに燃えたフレンダは、敵を殲滅する覚悟を決める。もはや交渉の余地はなく、彼女たちの目的は明確になった。「パチモン『アイテム』」を根絶やしにするために。
行間 三
瓦解する組織と女貞木小路楓の決断
爆発の余波と惨劇
女貞木小路楓は、自らの着せ替え撮影会の最中に突然の衝撃を受けた。爆発による停電が発生し、天井のボードが崩れ、無数の配線が火花を散らしていた。暗闇の中で状況を把握しようとする彼女の目に飛び込んできたのは、破壊された部屋と焦げた遺体であった。
井上ラスペツィアの頭部は黒焦げで原形を留めておらず、鰐口鋸刃もまた、鋭利な金属片に貫かれ壁に貼り付けられたように動かなくなっていた。楓は衝撃と吐き気を堪えながら、すべてを理解した。人質であった華野超美が爆発を引き起こし、隠れ家を崩壊させたのだ。
孤立と敵の接近
組織の中核を担っていた二人を失い、楓は一人となった。さらに、爆発は外部に漏れ、警備員や報道陣だけでなく、麦野沈利たち「アイテム」も迫ってくることが確実となった。この状況で戦うことは不可能であり、無謀な殴り合いに持ち込むのは愚策だった。
楓の基本方針は一貫していた。暴力による衝突ではなく、群衆に紛れ、透明に溶け込むことで生き残ることこそが最強の戦術である。この場からの撤退を最優先とし、追跡を撒くための手段を講じるべきだった。
証拠隠滅と撤退
楓は即座に決断を下し、証拠となる資料や携帯電話を回収して焼却した。死体はそのまま放置し、持ち出せる物だけを持ち出す。常盤台の制服を纏い、八〇〇億の詰まったスーツケースを抱えたまま、隠れ家を脱出した。
この隠れ家は、高級マンション「フィフティーンベルズ」の一角にあり、麦野たちが使用していた最上階の一つ下に位置していた。エレベーターが警備員や消防隊によって使用されることを見越し、非常階段を利用して一階分だけ降りることで、追跡を撒く策を取る。
冷静な逃走と戦略的撤退
地上に出た楓は、派手な行動を避けるため、正面ではなく職員用出入口から抜け出した。爆発現場には警察、消防、報道関係者が群がり、周囲の人々も興奮状態にあった。その中で彼女は表情を崩すことなく、何事もなかったかのように人混みに紛れた。
フレンダ・セイヴェルンの怒声が響く。
しかし、その声を背に受けながらも、楓は歩みを止めなかった。ここで目立つことこそ愚策であり、戦うべき時ではない。今はただ、安全圏へ逃れ、次の一手を考えるべきだった。
「アイテム」の継承
楓の能力は極めて強力であったが、むやみに使えば痕跡を残し、敵に感知されるリスクがあった。だからこそ、彼女は能力を封じ、自然な振る舞いに徹した。
何も終わってはいない。
この戦いに勝ち残った者こそが「アイテム」を名乗る権利を持つ。
楓は静かに、その瞬間を待ち続けていた。
第四章 超能力者は咆哮する
逃亡の準備と警戒
七月二十一日、午後八時。女貞木小路楓は顔を隠すために大きなマスクをつけ、第三学区まで移動していた。化粧道具が焼け残っていたことに安堵しながら、警備ロボットの動きを冷静に分析し、過度に目立たぬよう行動した。第三学区は大企業が集まる高級オフィス街であり、学園都市の北ゲートが存在するため、交通インフラも整備されていた。
夜の蒸し暑さの中、浴衣姿のカップルが線香花火を楽しんでいるのを目にし、不快感を覚えつつも、計画を遂行するため長距離バスターミナルへ向かう。スーツケースとスポーツバッグを携え、騒がしさに紛れながら施設内へ足を踏み入れた。
逃亡計画と夏休みの利用
女貞木小路楓は、青森行きの長距離バス「ハイウェイクレイドル」の電子チケットを確認し、バスの到着を待つことにした。通常なら第二三学区から国際線を利用して国外逃亡を図るのが理想だったが、警戒が厳しくなっていることを考慮し、地方経由での脱出を選択した。
この日まで潜伏を続けた理由は明確だった。七月二十一日は学園都市の夏休み初日であり、多くの学生が帰省や旅行で移動するため、人混みに紛れやすい。常盤台の学生寮は外泊に厳しかったが、夏休みの帰省という名目で書類を整えれば問題なく外へ出られる。この混雑を利用し、追跡を避けることが彼女の狙いだった。
バスターミナルに到着した深夜バスを確認しながら、彼女は一人になった現実を再認識する。対する麦野沈利側は四人も残っており、能力の強弱ではなく、戦術の相性によって戦局が大きく変わることを理解していた。
爆発と包囲網
突如として、巨大な爆発音が響き、バスターミナル全体が揺れた。すぐに停電が発生し、非常灯が点灯する中、室内スピーカーから異様なアナウンスが流れた。それは録音音声ではなく、生の声だった。
外には四方を包囲する無人空爆機とリモート擲弾砲が配置され、逃亡を防ぐための完全な封鎖が敷かれていた。周囲の一般人はパニックに陥り、次々と避難していく。しかし、この状況で最も危険なのは、これを仕掛けた相手が「本当に攻撃を躊躇しない」ことだった。学園都市内でここまでの軍事行動を起こせるのは、もはや常識を超えた存在のみだった。
戦闘開始と滝壺理后の追跡能力
そんな中、バスの残骸の向こうから現れたのは、ピンクジャージの少女だった。彼女はすでに「体晶」を使用し、女貞木小路楓のAIM拡散力場を完全に記録していた。つまり、逃げても必ず追跡されることを意味していた。逃げ切るためには、彼女を殺す以外に方法はなかった。
女貞木小路楓は即座に戦闘態勢に入り、スポーツバッグとマスクを放棄する。相手の能力が純粋な追跡能力であるならば、直接的な殺傷能力はない。だが、それは罠だった。
突如、横合いから強烈な閃光が走り、バスターミナルの柱がまとめて吹き飛んだ。現れたのは麦野沈利。彼女は狂気に満ちた笑みを浮かべ、戦闘の火蓋が切られた。
戦闘の激化と能力の暴露
戦いは熾烈を極めた。麦野沈利の「原子崩し」は、周囲の構造物を次々と破壊し、逃げ場を奪っていった。一方、女貞木小路楓の「殺傷圧撃」は、圧力を一点に集中させ、不可視の攻撃として襲いかかった。
女貞木小路楓は、自身の能力を駆使して麦野の攻撃を逸らしつつ、隙を突いて攻撃を試みた。しかし、麦野はすでに彼女の能力を分析し、圧力の方向を読むことで攻撃を回避し始めていた。
そして、決定的な瞬間が訪れた。麦野はバスの屋根を破壊し、女貞木小路楓を水浸しの床へと追い込んだ。バスの燃料が爆発し、彼女は空中に投げ出される。着地すれば即座に感電死する状況。
しかし、麦野はさらに追撃の一手を加えた。自らの生存すら度外視し、宙に浮かんだ女貞木小路楓に向けて「原子崩し」を放つ。その瞬間、彼女の下半身は蒸発し、全てが終わった。
完全な決着
麦野沈利は、何も躊躇することなく、勝利を確信した。そして最後に呟いた言葉は、かつての仲間へのものだった。
「……見てるかよ、華野」
凶暴な閃光が学園都市の暗闇を切り裂き、すべてを終わらせた。
終 章 いつかどこかに繫がる道
華野超美の葬儀
七月二十八日、午後二時。フレンダ=セイヴェルンと滝壺理后は、遠くから斎場を眺めていた。そこでは華野超美の葬儀が行われており、双眼鏡で覗くと、喪服を着た男女が棺にすがって号泣していた。
彼女が死亡したのは十四日。爆殺という壮絶な最期であり、遺体の損傷が激しかったことから葬儀までに時間を要した。棺の中に本当に遺体が入っているのかさえ不明だった。
フレンダは蓋も開けていないサバ缶と本を公園の展望台の手すりに置き、遠くの煙突を見つめながら静かに両手を合わせた。その姿を見た滝壺は、華野が遺体を守り抜いたことに言及し、もし学園都市の「暗部」によって事件そのものが隠蔽されていたなら、死体すら残らなかったであろうと語った。
斎場へ行って焼香することは叶わなかった。フレンダは再び双眼鏡を覗き、華野の両親の泣き崩れる姿を見つめる。そして、七歳になる妹のことを思い浮かべた。
新たな拠点の模索
一方、麦野沈利と絹旗最愛は、コンクリートに囲まれた地下通路を並んで歩いていた。「敵対アイテム」の本拠地が自分たちのマンションの真下にあったと知り、耳を押し当てて盗み聞きされていたことに驚きを隠せなかった。
次の拠点について話し合い、第一五学区は避けるべきとの結論に至る。麦野は、女貞木小路楓を追い詰めた第三学区に目をつけ、高級マンションや個室サロンがあるはずだと推測した。
その後、絹旗は麦野の判断について意外だと口にする。特に、滝壺はともかくフレンダに対して出撃を控えさせるよう配慮していたことに驚いた。麦野は、フレンダが殺しを楽しむ爆弾マニアでありながら、涙脆い一面を持っていると分析した。そして、「暗部」にいる以上、いずれ壊れる可能性があるとも述べた。
第六位の正体
二人は、女貞木小路楓が自称していた「学園都市第六位」について言及する。麦野はそれをブラフだと断じ、絹旗も同意した。
もし本物の超能力者であれば、暗部の利害関係者が報復に動くはずだが、そうした兆候は一切なかった。また、学園都市の超能力者は貴重なDNAマップを持っており、無許可で街を出ることは極めて危険である。つまり、女貞木小路楓が「外壁」を越えようとしていた時点で、本物の超能力者ではないと結論づけた。
そして、もし「暗部」の天敵と呼ばれる存在が本当にいるとしたら、それは彼女のようなレベルではないはずだった。
麦野沈利の決意
その時、麦野の携帯電話が鳴る。相手は「電話の声」。コロシアムの件が片付いたことを伝え、報酬について確認してきた。
麦野は、保険会社の常務を誘拐した件について咎められないことを不思議に思った。しかし、「電話の声」はそれが問題ではないと語る。学園都市の秩序は「無能力者から超能力者までの六段階評価」によって維持されており、それが崩れることを上層部は望んでいなかったのだ。
さらに、麦野は「敵対アイテム」という存在自体が、学園都市の上層部が意図的に仕組んだものではないかと推測する。二つのチームを競わせ、生き残った方を「アイテム」とする。しかし、勝ったところで得られる利益は何もない。ただ、出る杭を打ちたい上層部、あるいはそれに媚びた者が「敵対アイテム」を組織し、麦野たちを殺し合わせたのではないかと考えた。
「電話の声」の排除
疑念を確信に変えるため、麦野と絹旗は「電話の声」の拠点を突き止め、地下シェルターの壁を破壊して侵入した。
そこには、タイトスカートのスーツを着た二〇代中盤の女性がいた。時代がかった黒電話とオープンリールの録音機を使用していたが、それが単なるアナログ趣味ではなく、高度な暗号化処理が施されていることは明らかだった。
驚愕する「電話の声」を前に、麦野は冷たく言い放つ。敵対アイテムの四人はどうでもいいが、華野超美の死は納得がいかない。彼女が巻き込まれたのは「電話の声」の判断ミスによるものだった。
そして、「アイテム」対「アイテム」の戦いを許可した時点で、「電話の声」は粛清対象となった。
「電話の声」は、自分は学園都市の命令を出す管理者であり、殺されれば「反乱」とみなされると必死に訴える。しかし、麦野は迷わなかった。
掌に「原子崩し」の閃光を凝縮させ、心からの笑みを浮かべながら最後の言葉を告げる。
「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」
爆発現場の謎
麦野沈利と絹旗最愛は、下部組織からの報告を受け、七月十四日の爆発現場に残されていた遺体が二体しかなかったことを確認した。焼け焦げてバラバラになった遺体の特定には時間がかかり、人の位置を追うAIエアコンの記録の復旧もようやく完了した。
記録によれば、井上ラスペツィアと鰐口鋸刃が華野超美を監禁していた部屋に入ったのは十四日の夜八時二十一分。そして、爆発が外部から確認されたのは八時三十分であった。爆発までの約九分間、何が起きたのかは不明だったが、その時間があれば脱出することも可能だった。
華野は能力バトルで二人に勝つことは不可能だったはずだが、蛇口の針金を使って手錠を外し、コンセントを利用した感電攻撃で動けなくさせ、時限爆弾を設置して立ち去った可能性があった。
さらに、棺の中が空だったことも問題だった。葬儀で泣き崩れていた人々の正体が不明であり、下部組織との連絡も取れなかった。華野超美とは一体何者なのか――その疑問が残った。
華野超美の正体
七月三十一日、第三学区にある大手建設会社の本社ビル。そのビルの最上階へ向かうエレベーターに、一人の少女が乗っていた。半袖のセーラー服姿で入るには不釣り合いな場所だったが、誰も彼女を止めなかった。
ビルには大勢の秘書が働いていたが、彼らが見ている正面のオフィスとは別に、隠された通路が存在した。そもそもこの建設会社自体がカムフラージュの一環であり、社長室は「暗部」の高級幹部職員用のオフィスに作り替えられていた。
華野超美は、安全な密室に入ると、猫の鳴き声を模した歌を口ずさみながら部屋を横断した。そして、ウィッグを外し、眉毛やまつ毛を取り去り、顔の形を変えた。
彼女は元の姿に戻ると、冷蔵庫からビールを取り出し、煙草を手に取った。見た目は二〇代後半の亜麻色のセミロングの女性へと変わり、もはやセーラー服の少女の面影はなかった。
華野超美は、学園都市の定説である「大人は能力を使えない」というルールに縛られない存在だった。ビールを呷りながら、煙草をくゆらせる彼女は、まるで「暗部」に浸かる者としての本性を取り戻したようだった。
「電話の声」の影
机の上には、無数の携帯電話が並び、すべてが逆探知防止装置と声質変換プログラムで保護されていた。華野はその中の一台を手に取り、画面を確認する。そこには、ある死亡報告が届いていた。
彼女は静かに笑い、麦野沈利の行動を「友達思い」と評した。しかし、同時に彼女の思慮不足を指摘し、友人を殺されて感情的になったことが「暗部」において致命的であると分析した。
華野超美は、「電話の声」として学園都市の情報を操作し、命令を下す存在であった。だが、それは単なる表向きの役割にすぎず、本当の「電話の声」は他にも存在していた。暗部の秩序は情報の統制によって維持され、華野はその一部に過ぎなかった。
学園都市の闇
華野は、ある相手へ電話をかけ、報告を行った。アイテム同士の衝突を煽り、対立を深めることで「暗部」のバランスを保つことが彼女の目的だった。そして、その計画は成功した。
彼女は煙草を吸いながら、「アイテム」の勝利が確定したことを伝えた。通話相手は上層部の人間であり、彼らの意図を華野は詮索しなかった。学園都市の支配者たちは、科学を掲げながらも神話のような存在であり、彼らの意志に逆らうことは許されなかった。
通話を終えた華野は、重役の椅子に沈み込んだ。彼女は暗部の頂点にいるように見えて、実際には単なる駒の一つであった。しかし、それでも彼女は「電話の声」としての役割を果たし続けるしかなかった。
次なる標的
華野は、これからの動きを考えた。「未元物質」や「心理掌握」といった異端の存在が「暗部」にどのような影響を与えるのか、警戒を強める必要があった。
そして、最も危険なのは社交性の高いフレンダ=セイヴェルンだった。彼女はどの業界にも無秩序に友人を作り、その繋がりが暗部にとっての脅威となる可能性があった。
華野は静かに煙草を消し、決断した。
「まったく、こいつときたら」
index 次巻
同シリーズ


とあるシリーズ

その他フィクション

Share this content:
コメントを残す