どんな本?
本作は、死にたがりの異才士官が巻き起こす下剋上スペースオペラの第二弾である。主人公ナオは、航宙駆逐艦シュンミンの魔改造を終え、首都星に帰還する。そこで第三王女からの熱烈なスカウトを受け、彼女が設立した広域刑事警察機構の座乗艦として、艦と乗員ごと招かれることとなる。王族の意向に逆らえず、ナオは新たな任務に就くが、各地の貴族への根回しや豪華なパーティーに参加する日々が待ち受けていた。そんな中、宇宙海賊の秘密拠点を偶然発見し、絶好の殉職チャンスが巡ってくる。
主要キャラクター
• ナオ・ブルース:死にたがりの異才士官。航宙駆逐艦シュンミンの艦長であり、第三王女のスカウトを受けて広域刑事警察機構に参加する。
• 第三王女:広域刑事警察機構の設立責任者。ナオとその艦を高く評価し、直々にスカウトする。
物語の特徴
本作は、主人公ナオの望まぬ出世と彼を取り巻く政治的駆け引き、そして宇宙海賊との戦いを描くスペースオペラである。第三王女との関係や、ナオの内面的な葛藤が物語に深みを与えている。また、コミカライズ企画が進行中であり、書き下ろしの番外編も収録されている。
出版情報
• 出版社:TOブックス
• 発売日:2024年2月20日
• ISBN-10:486794095X
• ISBN-13:978-4867940952
読んだ本のタイトル
「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上 2
著者:のらしろ 氏
イラスト:ジョンディー 氏
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あらすじ・内容
「逃がしませんよ、英雄さん?」
王女様からの熱烈スカウトで、出世街道が止まらない!?
死にたがりな異才士官が巻き起こす下剋上スペースオペラ、第二弾!
コミカライズ企画進行中!
書き下ろし番外編収録!
「私は、英雄あなたが欲しいのです!」
航宙駆逐艦・シュンミンの魔改造後、首都星に戻ったナオを待っていたのは―—第三王女からのラブコール!?
星系を跨ぐ治安組織・広域刑事警察機構の設立責任者となった彼女の座乗艦として、艦と乗員まとめてスカウトしたいのだという。
理想の最期が遠のく展開に抵抗を試みるも、王族の意向には逆らえない。
泣く泣く出向すれば、各地の貴族への根回しのため豪華なパーティーに連れ回されて“殿下のお気に入り”という立場が着々と固まっていく!
だがそんな中、捜査中の宇宙海賊の秘密拠点を偶然発見するという絶好の殉職チャンスが巡ってきて……?
死にたがりな異才士官が巻き起こす下剋上スペースオペラ、第二弾!
感想
王宮からの召喚と異例の待遇
ナオ・ブルースは士官学校を卒業したばかりの新米士官であったが、軍上層部の思惑によってコーストガードへ出向を命じられた。彼は本来、戦場での死を望んでいたが、優秀な部下たちと共に活躍し、軍の計略を覆す形で航宙駆逐艦『シュンミン』を手に入れた。この艦は徹底的な改造が施されており、通常の軍艦とは異なる特徴を持っていた。そんな折、王宮からの召喚を受け、ナオは首都星ダイヤモンドへ向かうことになった。到着後、王族や国賓のみが使用する特別な航路を案内され、王室専用の着陸スポットへと誘導された。王宮からの異例の厚遇に戸惑いながらも、彼は指示に従い艦を着陸させた。
王女の提案と広域刑事警察機構の設立
着陸後、王室警備部による査察が行われた。その最中、ナオは王宮からの訪問者を迎えることになり、そこに現れたのはかつて勲章授与式で顔を合わせた第三王女であった。彼女はナオと少尉のメーリカを伴い、会談を開始した。王国の治安維持を目的とし、新たに「広域刑事警察機構設立準備室」を立ち上げたことを説明し、その実働部隊としてナオと『シュンミン』のクルーをスカウトしたいと申し出た。星系ごとに独立している警察機構の限界を超え、王国全体の安全を守る組織を作るための一歩であった。ナオの艦は移動手段だけでなく、海賊討伐の実働部隊としての役割も期待されていた。
望まぬ昇進と新たな役割
王女の提案に対し、ナオは最前線での活動機会が増えると考え、渋々ながら受諾を決意した。正式な組織設立までは「出向扱い」となり、コーストガードからの異動が速やかに進められた。王女はナオの艦の性能に関心を示し、その速度が王国最速であることを把握していた。こうしてナオは正式に「広域刑事警察機構設立準備室」の一員として新たな任務を担うこととなる。しかし、彼にとっては再び自らの望んだ人生から遠ざかる展開であった。
艦内の査察と王女の評価
王女の側近であるマーガレットと王室警護隊が査察を進めた後、王女による艦内視察が正式に開始された。艦内は豪華な改装が施されていたが、実戦運用には課題も多く、各部署の責任者すら決まっていない状態であった。ナオはその都度説明を加えながら案内を進めた。王女はこの艦を「王国最高の軍艦」と評価したが、ナオは実戦能力に不安を抱いていた。
艦長への正式任命と王宮への出向
翌日、ナオたちはコーストガード本部へ召喚され、出向の手続きを行った。その後、軍本部でも正式な辞令が発行され、ナオは「ナオ・ブルース中尉」に昇進し、王宮への正式な出向命令を受けた。さらに、『シュンミン』も正式に王宮へ譲渡されることが決定した。こうしてナオは、望まぬ形で王女の座乗艦の艦長となる。
新たな職務と貴族社会との関わり
ナオは王宮近くの庁舎へ赴き、新組織への配属を言い渡された。王宮直轄の組織であり、各星系の治安維持を目的とする機関の立ち上げを担うこととなった。さらに、フォード船長や王室造船研究所のサーダー主任らが艦の運用と査察に関与し、『シュンミン』の試験航行を実施することになった。
また、王女の意向により、貴族たちにこの組織の意義を認識させるために、ナオは貴族のパーティーへ参加することを余儀なくされる。貴族社会の中で注目を集めながら、彼は王女の意向に沿った活動を進めることとなった。
最初の海賊討伐と衝撃的な事件
『シュンミン』の初任務として、海賊の拠点を制圧する作戦が開始された。ナオたちは奇襲を成功させ、敵の基地を制圧する。しかし、その中で臓器売買に利用されていた子供たちを発見することとなった。彼らの多くは極度の衰弱状態にあり、助けられなかった者もいた。ナオは自ら手を下す決断を迫られ、その体験が彼の価値観を根底から覆すこととなる。
変わる決意と新たな誓い
この事件を通じて、ナオは自身の殉職願望を捨て、海賊を根絶することを誓った。王女の言葉と行動が彼の心に影響を与え、彼はこの組織の目的のために戦う覚悟を決める。こうして、彼は単なる「流される士官」ではなく、「王女の信念を支える存在」へと変わっていくのであった。
広がる戦いと新たな敵
ナオたちはさらなる作戦を進め、海賊討伐だけでなく、貴族社会との軋轢にも直面していく。王女の計画が着実に進む一方で、それを阻もうとする勢力も現れ始めた。王国の未来を左右するこの戦いの中で、ナオの運命もまた大きく揺れ動いていく。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
第四章 殿下の広域刑事警察機構設立準備室
王宮からの招集と異例の待遇
ナオ・ブルースは、士官学校を卒業したばかりの新米士官であったが、軍上層部の思惑によってコーストガードへ出向させられていた。殉職を望んでいた彼にとっては不本意な展開であったが、優秀な部下と友人の助けにより、軍の計略を覆し航宙駆逐艦『シュンミン』を手に入れる。しかし、その艦は徹底的な魔改造が施されており、正規の軍艦とはかけ離れた存在となっていた。そんな折、王宮からの召喚を受け、ナオは首都星ダイヤモンドへ向かうこととなった。
惑星ダイヤモンドの管制圏に入った『シュンミン』は、通常の軍用航路ではなく、王族や国賓のみが使用する「ゲスト航路」へ案内された。さらに、着陸場所も王室専用スペースの五番スポットと指定され、異例の待遇を受けることとなる。ナオとそのクルーは戸惑いながらも指示に従い、指定された場所に着陸した。
王室警備部による査察と第三王女の視察
着陸後、王室警備部第五課のシーノメ主任率いる査察部隊が艦内の安全確認を行うこととなった。査察中、ナオは王女の訪艦が予定より早まったことを知らされ、迎えに向かう。エアロックエリアに現れたのは、以前勲章授与式で顔を合わせた第三王女であった。彼女は艦内の豪華な内装を見て感嘆の声を上げ、すぐにナオとメーリカ少尉を伴い会談を始めた。
王女は、王国の治安維持を目的とした「広域刑事警察機構設立準備室」を立ち上げたことを説明し、その実働部隊としてナオと『シュンミン』のクルーをスカウトしたいと申し出た。各星系の警察機構が独立しており、星系を跨ぐ犯罪捜査が機能していない現状を打破するため、王室の権威を利用して新たな組織を設立する必要があった。ナオの部隊は、移動手段としての役割だけでなく、海賊討伐の実働部隊としての活躍も期待されていた。
望まぬ昇進と新たな任務
王女の提案に対し、ナオは自らの殉職願望が叶わない可能性に落胆しつつも、最前線での活動機会が増えることを考え、受諾を決意した。正式な組織設立までは「出向扱い」となり、コーストガードからの異動も迅速に進められることが決定した。さらに、王女はナオの艦の性能に高い関心を示しており、『シュンミン』の航行速度が王国最速であることを把握していた。
王宮からの厚遇を受け、ナオとそのクルーは「広域刑事警察機構設立準備室」の一員として新たな役割を担うこととなった。しかし、彼にとっては、またしても思い描いた人生から遠ざかる展開となっていた。
王女の視察と艦内の評価
殿下の側近であるマーガレットがシーノメ主任を案内し、艦内の安全が確保されたことを報告した。これにより、王女による艦内視察が正式に開始された。ナオ中尉はメーリカ少尉に艦橋を任せ、自ら王室警護隊を伴って船内を案内することになった。
艦内は改装されたばかりであり、豪華な内装が施されていたが、実際の運用面では未完成な部分も多かった。各部署の責任者すら決まっておらず、新兵の訓練も始まったばかりであったため、ナオはその都度説明を加えながら視察を進めた。王女はそうした細かい問題には興味を示さなかったが、王室警護隊の中には露骨に顔をしかめる者もいた。
視察後、王女は「これ以上の軍艦はこの国には存在しない」と評価し、今後の運用に期待を寄せた。しかし、ナオはこの艦の実戦能力には不安を抱いており、王女が捜査活動に同行する際の安全確保について慎重な姿勢を示した。王女も無謀な行動は取らないと約束し、視察は無事に終了した。
王宮への出向と艦の譲渡
翌日、ナオたちはコーストガード本部へ召喚された。出向の手続きを行うためである。殿下の指示により、シーノメ主任と王宮警備部が『シュンミン』の警備を担当することになり、ナオたちが艦を離れる間も監視が続けられることとなった。さらに、王宮のクルーザー乗員も補助要員として乗船し、最低限の艦の維持が可能となった。
本部に到着すると、ナオとメーリカは総監から直々に辞令を受けた。ただし、ナオのみが出向ではなく、「出向停止」となっていた。彼はコーストガード所属ではなく軍籍のままのため、改めて軍本部への出頭を命じられたのである。軍の関係者からは「最短記録」と皮肉交じりに言われたが、彼の経歴が異例であることは間違いなかった。
軍本部での手続きが完了すると、ナオは「ナオ・ブルース中尉」に昇進し、王宮への正式な出向命令を受けた。そして、彼の乗る『シュンミン』も正式に王宮へ譲渡されることが決定した。
新たな職務と艦長への任命
ナオは王宮近くの庁舎へ赴き、そこで「広域刑事警察機構設立準備室」への配属を言い渡された。王宮直轄の組織であり、各星系の治安維持を目的とする機関の立ち上げを担うことになる。さらに、彼は『シュンミン』の艦長に正式に任命され、艦の管理と捜査活動の指揮を執る役割を担うこととなった。
王女の側近であるフェルマンが補佐し、フォード船長や王室造船研究所のサーダー主任が艦の運用と査察に関与することになった。彼らは『シュンミン』の性能試験と、今後の活動に向けた準備を進めるため、ナオと共に艦へ向かうこととなった。
艦への帰還と新たな警備体制
ナオがファーレン宇宙港の五番スポットに到着すると、厳重な警備によりクルーが艦に戻れなくなっていた。王宮警備部の指示で最警戒態勢が敷かれていたためである。ナオは王室関係者として影響力のあるフォード船長と共に警備責任者に掛け合い、状況の確認を求めた。
さらに、艦の入り口を警備しているシーノメ主任へ連絡を入れ、ナオの帰還を認めるように指示を出すこととなった。こうして、彼は正式に艦長として『シュンミン』へ戻り、新たな任務に向けて準備を整えることとなった。
艦長昇進とメンバーの役割決定
ナオは殿下から正式に艦長の辞令を受けたが、その情報が王宮警備に伝わっておらず、一時的に艦への帰還が妨げられていた。シーノメ主任が状況を把握し、警備体制を修正したことで、ようやくナオたちは艦に戻ることができた。
艦内では、副長のメーリカ少尉、攻撃主任のケイト准尉、機関主任のマリア准尉の三名が士官として紹介された。さらに、殿下の持つ航宙クルーザーの船長であるフォードが、査察航海に同行することとなった。乗員全員を後部格納庫に集め、今後の予定と辞令交付の詳細を説明した後、ゲスト用の部屋の準備が進められた。
艦内の環境とゲスト対応
『シュンミン』の艦内は、豪華客船の部品を再利用して改装されており、士官食堂として使われるラウンジも贅沢な造りとなっていた。フォードはその内装を見て驚き、殿下がこの艦を手に入れたことを「良い買い物」だと評価した。
ナオはフォード船長とサーダー主任を士官用のデラックス仕様の部屋に案内しようとしたが、二人は豪華すぎることを理由に下士官用の一等客室を希望し、最終的にそこに落ち着いた。その後、マリアがゲストを艦内に案内し、各部署の設備について説明を行った。
艦内配置の決定と人事調整
ナオとメーリカは艦長室にこもり、艦の配置を決定した。ナオが艦長、メーリカが副長、ケイトが攻撃主任、マリアが機関主任を務めることが正式に決定された。その他の乗員についても、ローテーションを組むことで効率的に配置する方針が定められた。
翌日、殿下が艦を訪れ、乗員全員に辞令が交付された。ナオは正式に艦長の職務を拝命し、『シュンミン』の性能試験航行を命じられた。フォード船長の協力により、補給もすでに完了しており、準備は順調に進んでいた。
査察航海と異次元航行試験
『シュンミン』はファーレン宇宙港を出港し、ゲスト航路三番を通って宇宙へと向かった。ナオは異次元航行のテストを行うため、巡航速度を七宇宙速度に設定し、指定座標へと進んだ。フォードはその速度に驚き、王国最速の船と比較しても圧倒的に優れていることを認識した。
異次元航行の試験では、レベル五から開始し、最終的にレベル十までの航行が成功した。これにより、『シュンミン』は王国最速の異次元航行能力を持つ艦としての評価を確立した。
武装試験と帰投
異次元航行試験の後、ナオはレーザー砲が使用できない環境下での武装試験を実施した。レールガン「朝顔」や航宙魚雷の有効性を確認し、武装の適用範囲を広げる戦術の可能性が示された。サーダー主任はこの試験に興味を示し、特にレールガン技術の復活に大きな関心を寄せた。
試験航海を無事に終えた『シュンミン』は、ゲスト航路を経由してファーレン宇宙港の五番スポットに帰投した。ナオ、フォード船長、サーダー主任はすぐに王宮の事務所へ向かい、査察の報告を行うこととなった。
王宮事務所の変化と新たな環境
ナオたちは合同庁舎の高層ビルに到着したが、事務所は以前とは比べものにならないほど活気に満ちていた。受付や保安ゲートが新たに設置され、多くの人々が忙しく働いていた。ナオのIDカードが未登録でゲートを通れないという問題が発生したが、マキ・ブルースが対応し、無事に入館することができた。
マキは『シュンミン』のグランドオフィス室長に昇進しており、ナオとは孤児院時代からの知り合いであった。彼女の案内でナオたちは殿下の執務室へと向かい、今回の査察航海の成果を正式に報告することとなった。
査察報告と艦の課題
ナオは殿下に査察結果を報告した。異次元航行試験ではレベル十まで確認され、通常時でもレベル八を安定して出せることが判明した。フォード船長がその意義を説明し、王国内ならどこでも二日以内に到達できることが明らかとなった。
艦の問題点として、フォード船長は「艦橋に殿下の席がない」ことを指摘した。殿下が指揮を執るための座席は提督席や豪華客船の船長席クラスのものが必要であるとし、改造の必要性が示された。また、サーダー主任は武装に関する熱弁を振るい、特に「朝顔五号」や光子魚雷の運用について戦術面での工夫が求められると語った。
さらに、フォード船長は「艦内の人員不足」を問題視した。特に調理要員が不在であり、今回の航海ではナオが自ら料理を作っていたことが判明した。殿下はこれを受けて、すぐに艦内の調理担当を確保するようフェルマンに指示した。
護衛機の確保と王室造船研究所の協力
サーダー主任は艦に「護衛機がない」ことを指摘し、王室造船研究所に試作機が数機あることを明かした。試作機は未武装だが、改造すれば使用可能であるという。殿下はこの提案を受け入れ、試作機を確保するよう指示した。ただし、パイロットの確保が課題となり、その選定については今後の検討事項となった。
さらに、サーダー主任は航宙魚雷の調達についてもナオに尋ね、ナオはドックから供給を受けていることを伝えた。サーダー主任は研究目的でまとまった数の魚雷を入手したいと考えており、フェルマンはこれを契機に「王室造船研究所との共同研究プロジェクト」を提案した。航宙魚雷の運用見直しをテーマとし、研究所と協力関係を築くことで相互の利益を図ることとなった。
予算の問題と組織の今後
フェルマンは、現在の組織運営費として四百億ゴールドが計上されているものの、これは王宮予備費の中から捻出されたものであり、来年度以降の予算の確保は不透明であると説明した。組織を正式な政府機関に昇格させるためには、実績を上げることが不可欠であり、殿下はその点について楽観的な見解を示したが、周囲の者は慎重な姿勢を崩さなかった。
ナオたちは、王室造船研究所の試作機を確保し、艦の改修を進めるため、翌日にイットリウム星系のニホニウムにあるドックへ向かうことになった。殿下も同行することが決まり、艦の安全性が改めて問われることとなった。
航行中の食事とナオの料理
『シュンミン』は早朝に出航し、航行中の昼食が問題となった。ナオはマーガレットに相談し、殿下がナオの手料理を楽しみにしていることを知った。ナオは就学隊員を集め、百人分の食事を準備した。食事は殿下にも好評であり、殿下はナオの料理の腕前を称賛した。
殿下は、ナオだけに調理を任せるわけにはいかないとして、早急に専門の調理員を確保するよう再度フェルマンに指示した。その後、航行は順調に進み、ニホニウムの管制圏内に入った。
ドック到着と社長との面会
ニホニウムのドックに到着すると、案内人が乗り込んできた。前回とは異なり、艦内の人員が増えていることに案内人は驚いていた。特に女性の比率が高いことが印象的であった。無事にドック入りを果たした後、ナオはフェルマンの了承を得て、ドックの社長を殿下の元へ案内した。
社長は殿下に対して礼儀正しく応対し、スムーズに面会が進んだ。ナオは、社長が意外にも礼儀正しく振る舞う姿に驚きを覚えたが、結果として問題なく交渉が進められることとなった。
整備契約と艦の改修
ナオたちは、ニホニウムのドックで整備契約を締結した。年間契約料を支払い、個別案件ごとに追加費用を支払う形式である。また、サーダー主任との交渉により、航宙魚雷は無償譲渡となった。もともと処理費用を負担する予定だったため、むしろ歓迎される形となった。さらに、ナオたちの使用する魚雷も無償提供となった。
殿下の座席についても、提督用の座席を持ち込んでその場で取り付けた。これも解体船からの流用品であり、費用は発生しなかった。社長は商売気がなく、気に入った相手には利益度外視で支援する性格のようだった。殿下は整備の間、フェルマンと今後の計画について話し合い、倒産した隣の工場を買収する意向を示した。作業完了後、ナオたちは首都へ戻った。
研究計画と経費問題
ナオは地上で運航計画の調整を行った。王立造船研究所との共同研究が進んでおり、サーダー主任が航宙魚雷を使用した戦術研究に熱を入れていた。魚雷自体は無償だが、発射試験のために宇宙へ艦を出すコストが問題となった。経費の負担は研究所側が担うことになり、実験計画書の作成が厳格に求められた。ナオもシミュレーションや戦術検討に巻き込まれ、毎日のように事務所でサーダー主任と議論を重ねた。
一方、殿下とフェルマンは人員の補充を進めていた。王妃や王女の警護を担当する近衛兵の女性部隊『百合の園』から三十名を引き抜き、保安要員として配置した。ナオの艦には「百合小隊」の一分隊十名を常駐させ、殿下が乗る際にはさらに十名を追加する体制が整えられた。交戦時には捜査本部が指揮を執るため、ナオもその指揮下に入ることとなった。警察組織としての運用は軍とは異なるため、指揮系統の違いに適応する必要があった。
料理人の確保と艦の準備
殿下は料理人を連れてきた。料理長となるエーリンと助手三人の四人で、艦内の食事を担当することになった。食材補給についてはグランドオフィスが手配し、これにより食事に関する問題は解決された。
また、王室管財部の許可が下り、艦載機が正式にナオの艦に回されることになった。改造のためにドックに運ぶ必要があり、強襲用の内火艇も発注済みだった。これらの搬送と料理人の訓練を兼ね、翌日ニホニウムに向かうことが決まった。
広域刑事警察機構の本格始動
ナオの艦は最も準備が遅れていたが、ついに必要な設備と人員が揃い、機構の正式稼働が目前に迫った。他の部門は情報収集や捜査、事務処理などを整備すれば準備完了となるが、ナオの艦は戦闘と運用の両面で複雑な要件を満たす必要があったため、準備に時間を要した。
ナオはエーリンたちを艦に案内し、乗員に紹介した。保安要員の入れ替えがあるため、全員を紹介することはなかったが、指揮権と役割の違いについて簡単に説明した。メーリカ副長は「艦内の人員構成が複雑になった」と率直な感想を述べ、ナオも今後の運用の困難さを予感していた。
ニホニウムへの航行と殿下の行幸
翌日、殿下が『百合分隊』と王室警護隊を伴い艦に乗り込んだ。ナオは殿下を艦橋に案内し、全乗員に向けて殿下の言葉を伝えた後、ニホニウムへ向けて出航した。今回の移動は王国内の正式な行幸としてニホニウム政府に事前通達されていたため、到着後は宇宙港の最上位区画に案内された。
宇宙港では、公爵や地元の貴族たちが殿下を歓迎し、儀礼的な行事が執り行われた。その後、殿下は行政府へ向かい、ナオたちはドックへ移動する予定だった。しかし、その前にマーガレットがナオを呼び出し、殿下の要請で同行することになった。
組織の幹部会議と貴族社会への対応
ナオが案内された会議室には、組織の主要幹部が集まっていた。フェルマンが状況を説明し、急遽この場で首脳陣の顔合わせと方針の統一を行うことになった。殿下の活動は一部の貴族には理解されているものの、多くの貴族は王室の干渉を警戒していた。そこで、内部で認識を統一し、外部に付け入る隙を与えないようにすることが重要だった。
紹介された幹部は、情報室長のジェームス・バカラン、捜査室長のトムソン・コロンビア、機動隊長のアイス・キール、保安室長のバージニア・スタンレーであった。彼らはそれぞれの分野で高い実績を持つが、貴族社会では異端視されがちな存在だった。この布陣は、貴族政治に対する明確なメッセージとなっていた。
フェルマンは「我々の目的は海賊取り締まりだが、貴族の既得権益を脅かす可能性もある」と説明し、慎重な対応を求めた。海賊とつながる貴族もいる可能性があり、その影響力を警戒しながら活動する必要があった。
貴族のパーティーとナオの苦闘
ナオたちは公爵邸で開かれるパーティーに招かれた。フェルマンらは各地の要人と交流を深め、ナオも殿下の側に控えていた。しかし、フェルマンに制止され、殿下のそばには立てなかったため、新たな作戦を考えた。
最初に機動隊長アイスに接触を試みたが、貴族の令嬢たちに囲まれており、邪魔者扱いされた。次に捜査室長のトムソンに近づいたが、警察関係者と固まっており入り込めなかった。最終的に、ナオは目立たぬよう壁際に退避し、目立たぬように振る舞う「壁際の雑草作戦」を決行した。
旧友との再会
壁際に身を潜めていたナオは、偶然旧友のジャイーンと再会した。彼はケイリン大学の四年生で、地元のキャスベル工廠で校外実習中だった。今回のパーティーには、工廠の社長の随行員として参加していた。
ジャイーンは、かつてナオの想い人を奪った男だったが、彼の実家は孤児院を支援しており、ナオ自身も恩義を感じていた。再会した二人は、当時のことを回想しながら、現在の状況について語り合った。ナオは、彼の存在に複雑な感情を抱きながらも、久しぶりの再会を受け入れるしかなかった。
ジャイーンとの再会
ナオは貴族のパーティー会場の隅で旧友ジャイーンと再会した。ジャイーンはケイリン大学の四年生で、実習先のキャスベル工廠の社長の計らいでこの場に参加していた。彼もまた、貴族社会の中で目立たぬよう「壁の花」作戦を遂行中であった。
二人が言葉を交わしていると、突然殿下が現れた。殿下はナオを貴族の集まりへ引き込もうとし、ジャイーンにも挨拶を求めた。普段は冷静なジャイーンも、王女殿下を前にしては動揺を隠せなかった。ナオは彼を助ける気もなかったが、結局殿下の策略にはまる形で貴族たちの輪に引きずり込まれてしまった。
貴族たちとの対話と新たな提案
殿下は集まった有力貴族たちに自身の計画を説明し、ナオの乗る『シュンミン』についても言及した。そして、公爵をはじめとする貴族たちに艦を見学するよう提案し、さらには船上パーティーの開催を決定した。公爵もこの申し出を快諾し、明後日に周遊しながらの会合が開かれることとなった。
ナオにとっては想定外の展開だった。殿下がわざわざ『シュンミン』を披露する理由は明らかだったが、貴族たちの中には彼女の計画を軽んじている者も少なくなかった。船上パーティーを通じてその意識を変えさせるつもりなのだろうが、ナオにとっては大きな負担となった。
船上パーティーの準備
殿下と共にドックへ向かったナオは、早速パーティーに向けた準備に取りかかった。殿下はナオにゲストの収容可能人数を確認し、ドックの社長に直接指示を出した。その結果、多目的ホールに貴族用三十席と随行員用九十席が新たに設置されることとなった。工事は即座に開始され、翌日には完了していた。
ナオは艦に戻り、副長のメーリカと相談しながら航路の設定を行った。殿下の指示では、会食のほかに艦のデモンストレーションも含まれていた。主砲とパルサー砲の実射を予定し、最外惑星を越えての航行を組み込んだ。さらに、殿下は厨房長と詳細な料理の打ち合わせを進めており、食材の手配も整えられた。
貴族たちの招待と船上パーティーの開幕
パーティー当日、『シュンミン』は宇宙港に移動し、貴族たちの迎え入れを行った。公爵を先頭に、招待された貴族と随行員が続々と乗船した。ナオは殿下と共にゲストを迎え、彼らを多目的ホールへ案内した。離陸後、通常航行に移るとともに、ナオと殿下は艦内放送で挨拶を行い、正式にパーティーを開始した。
殿下の指示により、ナオは貴族たちを士官食堂へ案内した。そこで飲み物が振る舞われ、貴族同士の談話が始まった。ナオも挨拶を交わしていたが、貴族たちの視線には温度差があった。殿下の計画を単なる道楽と見なす者もいれば、敵意を含んだ視線を向ける者もいた。ナオはこれを情報室長のジェームスに報告し、彼もまた警戒を強めるべきだと認識した。
艦内ツアーとデモンストレーション
パーティーの一環として、貴族たちは艦内ツアーに招かれた。彼らは『シュンミン』の豪華な内装に感嘆していたが、軍艦としての機能には関心を示さなかった。主砲のデモンストレーションを実施したが、出力を抑えていたため、貴族たちはそれを単なる演出として見ているようだった。
ナオはこの状況に多少の不安を感じたが、殿下は予定通りに進めることを望んでいた。四時間にわたるパーティーは無事終了し、貴族たちは満足げに下船していった。ナオは疲労困憊し、その場で座り込んでしまったが、殿下は「経験を積むには良い機会だった」と語った。
広域刑事警察機構の始動
船上パーティーの成功を受け、殿下の行幸は本格化した。ナオたちは次の星系へ向かい、同様の形で貴族たちへの周知を続けた。この行幸の目的は、各地での海賊取り締まりの協力を得ることにあった。貴族たちに圧力をかけ、拒否できない状況を作り出すための計画だった。
同時に、情報室と捜査室も活動を開始していた。ニホニウムではすでに捜査が進んでおり、フェルマンの指揮のもと、殿下のクルーザーが捜査拠点となっていた。ナオたちは一か月にわたって各星系を回り、その間にも次第に組織の基盤が固まっていった。
ニホニウムへの帰還
一か月の行幸を終え、殿下は王宮に報告を行い、その後再びニホニウムへ向かった。ナオたちも同行し、今度は正式な協力要請を行う予定だった。しかし、今回の出発は急を要するものであり、殿下は「今日中に首都を離れないと当分出られなくなる」と説明した。ナオは事情を知らなかったが、殿下の指示に従い、直ちに出発した。
六時間後、ニホニウムの宇宙港に到着した。殿下はそのままクルーザーへ向かい、ナオたちは翌日から探査訓練に入ることとなった。カスミは通信設備の強化を提案し、ナオはその稟議をマキに回した。補給作業も無事に終わり、艦は再び出港の準備を整えた。
こうして、殿下の計画は着々と進行していった。しかし、各星系での敵意は次第に顕在化し、今後の活動が一層困難になることは明白であった。ナオにとっても、貴族社会との関わりは避けられない課題となりつつあった。
ドックへの移動と到着
ナオとその仲間たちは、以前も利用した列車でドックへ向かった。今回は通勤・通学の時間を避けていたが、それでも車内は混雑していた。途中、かつての知人であるテツリーヌと遭遇することはなかった。ドックに到着後、ナオは事務所へ向かい、事務員たちに挨拶した。専務が対応し、社長は来客中であると告げたが、同行していたカスミが社長を大声で呼び、結果として応接室へ案内されることになった。
応接室での対面
応接室では社長と二人の来客が待っており、そのうちの一人はナオの知人であるジャイーンであった。もう一人は、マークの父であり、社長の親友でもあるコロナ・キャスベルであった。コロナ専務はナオと面識がなかったが、マークを通じて彼の存在を知っていた。ナオは自己紹介をし、かつての協力への感謝を伝えた。その後、話は航宙魚雷の調達へと移り、ナオの艦が利用する弾薬の確保について具体的な交渉が行われた。
ジャイーンの焦燥と勘違い
応接室でのやり取りの最中、ジャイーンはナオとカスミの親しげな様子に複雑な思いを抱いていた。また、ナオが社長とも親密な関係を築いていることに驚き、彼との立場の違いを痛感していた。ナオが軍に入隊してからの急速な昇進に疑問を抱き、自身との差を意識し始める。彼の焦燥は次第に羨望や嫉妬へと変わっていった。後に彼は愛人たちと会い、その思いを打ち明けたが、彼女たちもまたナオの立場の変化に驚きを隠せなかった。
無線機の取引と今後の課題
話の流れで、社長は高性能な無線機のジャンク品について話を持ちかけた。その無線機は星間通信が可能なものであったが、セキュリティロックが解除できず、活用が難しい状態だった。ナオはこの機材の購入を提案し、研究所で解析することに決めた。カスミと共に調査を進め、必要であれば更なる協力を仰ぐことになった。商談がまとまると、社長は勢いよく手続きを進め、ナオたちは外へと送り出された。
第五章 準備室 始動する
殿下からの新たな命令
ドックでの用事を終えたナオは、カスミと昼食を取り、宇宙港へ戻った。そこで、殿下からの呼び出しを受け、彼女のクルーザーへと向かった。クルーザー内部は豪華な造りでありながら、ナオの艦『シュンミン』の方がさらに華美であることに気づいた。殿下との会話の中で、ナオは密輸航路の調査と、機動隊の宇宙訓練の協力という二つの新たな任務を正式に命じられた。
機動隊訓練と迫る困難
ナオは訓練の具体的な計画について殿下と話し合った。機動隊は宇宙戦闘の経験が乏しく、まずは通常航行に慣れることが目的とされた。実戦では海賊との交戦も想定されており、ナオはその指揮を任されることになった。殿下はこの計画を準備室長としての命令として下し、ナオもそれを承諾した。しかし、彼は自らの「トラブル体質」を改めて意識し、今後の展開に警戒を抱くのだった。
機動隊の受け入れと準備
ナオは殿下との会談を終え、クルーザーを降りた。搭乗ゲートではアイス隊長率いる機動隊三十名が待機していた。彼らは今日到着したばかりで、ナオは彼らを『シュンミン』へ案内することになった。機動隊は今回の訓練で専用の待機場所を利用することになり、ナオはブリーフィングのために多目的ルームを用意した。後部格納庫では、機動隊が使用する内火艇の収容スペースについて説明が行われた。ナオは艦内の案内をマリアに任せ、艦橋へ向かい、明日の出航に備えて準備を進めた。
訓練計画の策定
艦橋では副長のメーリカと共に、航路の確認と調査計画の立案を進めた。機動隊の訓練についても議論し、彼らの船外活動の経験を確認した。機動隊員たちは様々な職場から集められた精鋭であり、基本的な訓練は受けていたが、統率の取れた行動は未経験だった。そのため、途中の小惑星帯で船外活動の訓練を行うことが決定された。パーソナルムーバーを使用した突入訓練も追加され、必要な機材をクルーザーから借りて準備を整えた。
夕食と士官たちとの顔合わせ
夕食時にナオは士官たちを集め、アイス隊長を正式に紹介した。軍やコーストガードとは異なり、士官が全員揃う機会は限られていたため、この場を利用して機動隊との交流を深めた。ナオは機動隊の隊長や班長たちとも話し合い、訓練計画を最終確認した。特に、小惑星帯を利用した突入訓練については、アイス隊長も積極的に賛同し、訓練の方向性が決まった。
初の戦闘訓練と混乱
翌朝、ナオたちはニホニウムを出発し、三時間後に訓練予定の小惑星帯へ到達した。訓練開始前に艦内の警戒レベルを準戦レベルに引き上げ、戦闘態勢を整えた。しかし、実際に訓練を開始すると、多くの乗員が自分の部署へ到達できず、艦内で迷子になるという問題が発生した。保安隊の協力を得て状況を把握すると、修学隊員の一部が緊張のあまりパニックに陥り、指示を理解できていなかったことが判明した。この事態を受け、ナオは訓練を中止し、全員の配置を確認する基礎訓練を行うことを決定した。
機動隊の訓練と艦内の再調整
機動隊の訓練は予定通り進められ、彼らは後部格納庫からパーソナルムーバーを使って小惑星への突入訓練を実施した。その間、ナオたちは艦内での緊急時の行動訓練を繰り返し、三回目の訓練でようやく迷子が出なくなった。五回目の訓練では、準戦態勢への移行がスムーズに行えるようになり、初めて指示通りに動くことができた。しかし、戦闘態勢への移行には三十分以上かかるという課題が残り、さらなる改善が必要とされた。
突如として受けた攻撃
小惑星帯の調査を進める中、突如として未知の勢力からレーザー攻撃を受けた。第一波の攻撃は艦に命中しなかったものの、ナオたちは即座に状況を把握し、応戦を試みた。しかし、艦の戦闘準備には時間がかかるため、直ちに最大速度での退避を決断した。その後、異次元航行を利用して敵の射程から脱出し、態勢を整えた。
反撃と敵艦の殲滅
準備を整えた後、ナオたちは攻撃地点に戻り、敵艦を発見した。警告の無線を送ったが反応はなく、敵側が再び攻撃を仕掛けてきたため、応戦を開始した。ケイトが主砲と魚雷を一斉に発射し、敵艦を撃破した。しかし、過剰な攻撃によって敵艦は完全に破壊され、識別可能な情報が残らなかった。この結果にナオは頭を抱え、デブリの回収と調査を命じた。
デブリ回収と機動隊の出動
アイス隊長率いる機動隊がデブリの回収と調査を担当し、ナオたちも協力することになった。ナオは艦内の修学隊員たちを宇宙遊泳訓練としてデブリ回収作業に参加させ、彼らの実戦経験を積ませることを決定した。安全のためにワイヤーを使用し、セクションリーダーの指導のもと、船外活動を開始した。
次なる戦闘への備え
ナオ自身も艦橋の隊員を率いて船外作業に参加することを決め、艦橋をメーリカ副長に託した。部下たちはナオの行動に戸惑いを見せたが、彼は自らの意志を貫き、実地訓練に臨んだ。船外活動を通じて、クルーの即応性を高めることを目指し、次なる戦闘に備えたのである。
艦長不在の艦橋とデブリ回収
メーリカは艦橋でマリアに、ナオを船外作業に出した理由を問われた。メーリカは「艦長が退屈していたから」と説明し、艦橋にいても役に立たないからだと答えた。マリアはそれを聞き、艦橋から逃げようとしたが、メーリカに制止されて仕事を命じられた。艦橋の乗員たちはその様子を見て笑い、それぞれの業務に戻った。
一方、ナオたちは五時間かけてデブリの回収を終えた。収集されたものの中に有益な情報はなく、遺体も残っていなかった。ナオは、回収作業が精神的な負担を伴うものであることを認識し、特に若い隊員たちにとっては過酷な任務になると考えた。そのため、彼らに遺体の回収を命じることがなかったことを安堵した。
ニホニウムへの帰還と報告
ナオは回収したデブリを持ち帰り、分析のためにニホニウムへ戻ることを決定した。マリアは調査の必要性に疑問を呈したが、メーリカは「敵の船種を特定する必要がある」と指摘した。マリアはすでに古い貨物船であることを突き止めていたが、それでも確認作業は必要だった。こうして『シュンミン』は一日かけてニホニウムの宇宙港に入港し、メーリカと共に殿下へ報告を行った。
殿下は「無人の空間に海賊船がいたことから、その周辺に何かがあると考えているのですね」と確認した。メーリカは、「敵が野良の海賊であるならば、それ以下の勢力も付近に潜んでいる可能性が高い」と述べ、再調査の許可を求めた。殿下はこれを承認し、『シュンミン』の三日間の整備後に再出航することを許可した。
武装内火艇の納品と通信機の確認
殿下は、機動隊用の武装内火艇の準備が整ったことを知らせ、翌日の受け取りを指示した。さらに、納品業者の社長がナオに「無線機の件で来社するように」と伝言を残していた。ナオはこの伝言に呆れつつも、カスミとカオリを連れてドックへ向かった。
ドックでは、社長がカスミを連れて奥へ進み、無線機のセキュリティロック解除の作業を始めた。専務の案内でナオは新たに納品された武装内火艇を確認した。それは廃棄予定の港内タクシーを基に改造されたものであり、軍用艦載機のエンジンを流用して強化されていた。パルサー砲やマリアとの共同開発による新型武装も搭載され、戦闘力の高い仕上がりとなっていた。
ナオは内火艇の操縦を試し、専務たちと共に宇宙港へ移動した。マーガレットによる受領手続きを終え、正式に『シュンミン』の装備として配備された。
再調査と新たな戦闘
整備を終えた『シュンミン』は、再調査のために再出航した。ナオは前回の反省を踏まえ、小惑星帯に到達する前に準戦態勢へ移行し、慎重に航行を進めた。警戒態勢を維持しながら調査を進める中で、怪しげな宇宙船を発見した。敵はレーザー砲で攻撃を仕掛けたが、照準が定まっておらず、『シュンミン』には当たらなかった。
ナオは内火艇を発進させ、機動隊による強制臨検を実施した。機動隊はわずか二十分で制圧を完了し、敵船を拿捕した。今回の作戦では負傷者が二名出たものの、戦死者はなく、比較的安全に作戦を終えることができた。
ニホニウムへの帰還と海賊討伐の報道
ニホニウムへ戻った『シュンミン』は、拿捕した海賊船をドックに運び込んだ。すぐに殿下の主導で記者会見が開かれ、広域刑事警察機構の戦果として報道された。これまでの海賊討伐では確たる証拠がなかったため、正式な発表は控えられていたが、今回は拿捕した船があるため、王国全土にニュースが広がった。
拿捕した船の調査は地元警察とコーストガードが共同で行い、捕虜となった海賊たちは司法当局に送致された。捜査本部は、新たな情報がない限り、この付近での調査を終了し、次の捜査地点へ移る方針を決定した。
隠された航路の捜索とレニウムへの移動
『シュンミン』の調査によって、隠された航路の存在がより明確になった。しかし、その全貌を把握するには至らず、捜査は行き詰まった。情報室の調査によると、航路のもう一方の端であるレニウム星域に不穏な動きが見られた。特に、レニウムのスラム街で子供の誘拐事件が頻発しており、人身売買にこの航路が利用されている可能性が浮上した。
殿下はこの新たな事態を重く受け止め、ニホニウムでの捜査を打ち切り、レニウム星域へ拠点を移すことを決定した。ナオたちは新たな捜査のため、レニウムへと向かうことになった。
捜査拠点の移動と『シュンミン』の準備
殿下は迅速に動き、機動隊員と捜査員を率いてクルーザーでレニウムへ向かった。ナオは艦載機のパイロットと整備士の着任を待ち、三日間『シュンミン』に留まることとなった。機動隊員は既に出発したが、内火艇は『シュンミン』に残り、彼が自由に使用できる状態にあった。
カスミはドックで無線機の作業を続け、マリアとカオリも同行したため、ドックは騒がしくなっていた。殿下たちが去って三日後、艦載機のパイロットと整備士が到着し、ナオは『シュンミン』の外で彼らを迎えた。公用車が到着し、六人が降りてきた。その中に、ナオが士官学校時代に世話になった先輩の姿があった。
カリン・ブルーム少尉の赴任
先頭に立つのは、宇宙軍少尉であるカリン・ブルームであった。彼女はブルーム子爵の令嬢であり、士官学校卒業時の成績は上位十位以内に入る優秀な人物であった。彼女がなぜ『シュンミン』に赴任してきたのか、ナオには理解できなかったが、カリンは正式に異動を申告し、書類を手渡した。
ナオは全員を迎え入れ、後部ハッチから艦内へ案内した。すでに副長のメーリカが待機しており、パイロットと整備士たちの管理を任せ、ナオはカリンを艦橋へ案内した。カリンは艦内の豪華な造りに驚きつつも、自身の役割について理解を深めた。
艦載機管制官としての役割
カリンは艦載機管制官として着任し、艦内での序列は副長のメーリカに次ぐ第三位となった。彼女の直属の部下はパイロットと整備士たちであり、すでに顔合わせを済ませていた。彼女は『シュンミン』内での指揮系統を理解し、すぐに業務に取り掛かった。
ナオは艦橋でカリンの職務を説明した後、殿下に乗艦の報告を行った。殿下はカリンをよろしく頼むと伝え、どうやら彼女とは以前から親交があったようである。カリンは殿下のご学友であり、広域刑事警察機構の構想を早くから知っていたという。
艦内の問題と部屋の調整
カリンは自室の内装に不満を抱き、ナオに変更を求めた。しかし、ナオは『シュンミン』の改造過程を説明し、全室が高級客船の流用品であることを伝えた。結果として、彼女も部屋の状況を受け入れることになった。
その後、マキ室長が制服を届けに来た。ナオはマキが自身の孤児院時代の先輩であり、今は艦の運行管理を担当していることを紹介した。カリンはすぐに広域刑事警察機構が政争の渦中にあることを説明し、自身の赴任が軍の影響を防ぐための措置であることを明かした。
訓練と小惑星帯への進入
翌日、全員を集めて新たな乗員を紹介し、『シュンミン』はニホニウムを出発した。カリンは着任直後から精力的に訓練を開始し、艦載機の運用や整備の確認を行った。彼女の徹底した指導は、ナオですら驚くほどであり、艦載機部隊の練度を一気に向上させた。
『シュンミン』は小惑星帯に接近し、準戦態勢に移行した。航路の探索を進める中で、艦載機や内火艇を用いた警戒を実施した。カリンは艦橋からセンサー類を監視し、宇宙空間を漂う人工物を発見した。
漂流船の発見と調査
カリンの報告を受け、ナオは『シュンミン』のセンサーで確認を行ったが、詳細は不明だった。救難信号も発信されておらず、状況は不審であった。ナオは艦を漂流船に接近させ、内火艇を戻した上で臨検隊を編成した。
ナオは臨検隊を率い、副長のメーリカも同行することになった。通常ならば艦長は艦に留まるべきだが、カリンに指揮を任せることで、ナオは直接乗り込む判断を下した。臨検隊は十五名で編成され、パワースーツを装備し、後部格納庫に集合した。
漂流船への突入
ナオは内火艇を操縦し、漂流船の後部ハッチを強制的に開き、船内へ突入した。カスミは船内のトラップの可能性を調査し、マリアは機関部へ、副長は艦内の制圧を担当した。ナオ自身は船長室へ向かった。
漂流船の内部には何が待ち受けているのか、ナオたちは慎重に進んでいった。
第六章 優先順位
漂流船の臨検と内部調査
臨検隊は内火艇を降り、それぞれの持ち場へ向かった。ナオは船長室へ向かうため、カスミと途中まで同行した。艦内には至る所に血痕が残されていたが、遺体は見当たらなかった。外部から襲撃を受けた形跡がなく、内部で何らかの争いが起きたと考えられた。
その時、機関部を調査していたマリアから通信が入った。エンジン周りが破壊されており、修理不能な状態であるという。ナオはカスミとマリアに艦橋の調査を指示し、自身は船長室に入った。室内には航海日誌が記録された端末が残されていたが、内容は不完全だった。しかし、数字や金額らしき記述があり、船長が個人的な備忘録として使用していたようだった。さらに、最新の日誌にはボイスメモが残されており、何らかの重要な記録が含まれている可能性があった。
電源供給とさらなる調査
カスミとマリアが艦橋を調査したが、内部機材はすべて機能していなかった。エネルギー供給システムが破壊され、予備電源も期待できない状態だった。ナオは『シュンミン』から最低限の電力を供給するため、ワイヤーを接続し、送電を開始した。その結果、人工重力と空気循環が復旧し、艦橋内の電源も確保された。
ナオは中断していた航海日誌の確認を再開し、ボイスメモを再生した。その内容から、この船が菱山一家ではなく、別の海賊組織「シシリーファミリー」の所属であることが判明した。さらに、シシリーファミリー内では最近内部抗争が激化しており、この船もその影響を受けた可能性が高いと推測された。
食料保管庫での衝撃の発見
調査を進めている最中、副長のメーリカから緊急の通信が入った。第三デッキの食料保管庫で、大量の子供たちが発見されたという。彼らは極度に衰弱しており、死亡者も出ている可能性があった。
ナオはすぐに『シュンミン』の乗員を動員し、救助活動を開始した。食料保管庫は冷蔵庫のような環境で、室温は三度に保たれていた。五十人近い子供たちは身を寄せ合い、辛うじて生き延びていたが、発見が遅れれば全滅していた可能性が高かった。ナオは第三デッキのみ空調を復旧させ、室温を上昇させた。
その後、ナオは自身の判断の重さを痛感し、子供たちを守るため、即座に『シュンミン』をレニウムへ向かわせる決断を下した。
敵拠点の航路発見とレニウムへの移動
『シュンミン』は小惑星帯を抜け、レニウムへ向かう途中、明確な航路が存在することに気づいた。ナオはすぐに殿下のクルーザーに通信を送り、状況を報告した。殿下は現在貴族外交中で不在だったが、捜査室長が応答し、十五時間後にスペースコロニーで合流することが決まった。
目的地に到着すると、既に殿下からの要請を受けた医療チームが待機しており、子供たちの救護が開始された。その後、捜査室長や機動隊長と今後の対応を協議し、シシリーファミリーの拠点を調査することになった。軍に応援を要請し、ナオたちは拠点の規模を確認するために出航した。
敵拠点の特定と偵察任務
ナオたちは漂流船を切り離し、敵拠点の調査を開始した。途中、警戒のため艦載機を展開し、パイロット希望の就学隊員を後部席に乗せた。五時間後、先輩のカリンが敵拠点らしき人工物を発見した。しかし、詳細な情報は得られず、ナオは艦載機を戻して一度待機することにした。
その後、敵の勢力を確認するため、艦載機を使った偵察作戦を実施した。慎重に敵拠点へ接近し、三時間後に航宙駆逐艦が二隻存在することが判明した。カリンは収集したデータを解析し、敵艦が王国製の「ブルドック型航宙駆逐艦」であることを突き止めた。
軍艦の正体と疑惑
ブルドック型航宙駆逐艦は王国で生産された駆逐艦の最高傑作とされ、全三十隻が軍やコーストガードに払い下げられていた。しかし、軍艦が正式な処理を経ずに海賊の手に渡っていることは異常であり、軍内部に密かに便宜を図っている者がいる可能性が浮上した。
カスミはこの状況に疑問を抱き、海賊が軍艦を所有できる経緯を探る必要があると指摘した。ナオもこの事実の重大性に気づき、殿下に報告するため、一度後退することを決定した。
後退と軍への報告
敵拠点の情報を確保したナオは、敵の監視が外れるリスクを承知の上で、一時的に撤退することにした。安全な距離を確保した後、殿下に連絡を入れ、敵拠点の座標と軍艦の情報を伝えた。殿下は軍に一個戦隊の応援を要請し、三日以内に戦力が到着することが決まった。
その間、ナオたちは監視を続け、三日間の警戒態勢に入ることとなった。戦闘が目前に迫る中、ナオは慎重に次の行動を考えた。
敵駆逐艦との戦闘
艦橋では敵の駆逐艦についての議論が続いていたが、緊張感は薄れ、和やかな空気が流れていた。そんな中、突然、艦載機から緊急無線が入った。敵艦載機に発見され、攻撃を受けているという報告であった。カリンは即座に応戦許可を求め、ナオは部下の命を優先し、即決で許可を出した。
敵艦載機は旧型であり、搭載しているのはブルドック型駆逐艦に初期配備されていたものだった。一方、『シュンミン』の艦載機は最新型で、その性能差は歴然としていた。結果として、敵艦載機三機を撃墜することに成功した。しかし、その代償として敵駆逐艦に発見され、カスミの報告により、敵のレーダー波を受信したことが確認された。これにより、敵は明確に『シュンミン』の存在を認識し、戦闘態勢へ移行した。
ナオは殿下に無線連絡を送り、応援の到着を急がせるよう指示した。さらに、機動隊長のアイスが戦闘への参加を申し出たため、彼に特殊作戦を提案した。『シュンミン』の機動力を活かし、敵駆逐艦を分断した上で、機動隊が内火艇で強襲乗艦し、動力部を制圧するという作戦であった。
戦闘の開始と強襲作戦
作戦開始に向け、『シュンミン』は臨戦態勢に移行し、十四分後には準備が整った。ナオは副長に操艦を任せ、できる限り派手に動くよう指示した。『シュンミン』は速度を上げて敵駆逐艦の前方をかすめるように飛び、挑発のためにパルサー砲を発射した。
戦闘が本格化すると、カリンは艦載機を指揮し、敵駆逐艦の行動を封じるために航宙魚雷をかすめるように発射した。その隙に、機動隊が後部ハッチから強襲乗艦し、敵艦の動力部を制圧することに成功した。ナオの指揮の下、『シュンミン』の主砲が敵の主砲を無力化し、敵艦は逃走を試みたが、すぐに牽制射撃を受け、降伏勧告を受け入れた。
敵の背後にある存在
降伏した敵艦から通信が入り、彼らが「シシリーファミリー」の一員であることが判明した。さらに、彼らには「心強い後ろ盾」が存在し、軍や警察を敵に回しても安泰であると豪語していた。ナオはこの発言に疑念を抱き、軍の関与の可能性を警戒した。
降伏した敵艦のシステムを掌握するため、カスミが艦隊指揮権コードの送信を要求した。敵は当初抵抗したが、最終的にはナオの圧力に屈し、コードを送信した。これにより、『シュンミン』は敵艦の人工重力を切断し、完全に制圧することに成功した。
その直後、カオリから軍の応援が予定より二時間早く到着するとの報告が入った。ナオは軍に対し、敵拠点であるスペースコロニーの強襲を要請した。また、機動隊からの連絡により、敵艦の動力部が完全に制圧され、シャットダウンに成功したことが報告された。
殿下の到着と指示
戦闘が終結した直後、殿下からの通信が入り、三時間後に三隻の軍艦と共に到着するとの報告があった。さらに、先行して一隻の軍艦が向かっているため、その指揮をナオに委ねるという指示が下された。ナオは困惑したが、殿下の指示に従い、軍と協力して敵拠点の制圧を進めることになった。
その後、敵艦二隻を『シュンミン』の指揮下に置き、捕虜を収容した上でスペースコロニーへと向かった。軍のフリーゲート艦がポートを占拠していたため、一度艦を外に出してもらい、ようやく接舷が完了した。
同期との再会
スペースコロニーでは軍の士官が出迎えており、ナオはその中に同期のマークを発見した。マークは驚きつつも、軍としての職務を全うしようとしたが、ナオの姿を見て動揺を隠せなかった。さらに、後ろには同期のソフィアとエマの姿もあった。
彼らと短い再会の挨拶を交わした後、ナオは殿下からの指示に従い、捕虜の引き渡しと機動隊の派遣を進めることになった。その間、アイス隊長率いる機動隊が殿下の元へ向かう準備を整えていた。
保護者のいない人々の存在
軍のマークとの会話の中で、ナオはスペースコロニーに「保護されている人々」の存在を知ることになった。彼らは軍の監視下にあるものの、実際には適切な管理が行われていないようだった。
ナオはその状況を確かめるべく、機動隊の派遣とは別に、コロニー内の「保護者のいない人々」のいる場所へ向かうことを決意した。彼がそこで何を見つけるのか、予測はつかなかったが、放置できる問題ではなかった。
保護された者たちと臓器売買の真相
ナオは護衛の保安員と共に、スペースコロニー内の一般人が保護されている場所へ向かった。そこは広めの会議室のような部屋であり、十名近い男女が疲れ果てた様子で座っていた。彼らは海賊による人身売買の被害者であり、中には客船の船医だった者もいた。彼の話によれば、ここでは臓器摘出のために医療関係者を集められており、特に子供の臓器は高値で取引されていたという。
この証言により、漂流船で保護した子供たちがここにはいないことにナオは疑問を抱いた。子供たちはどこか別の場所に監禁されている可能性が高い。ナオはすぐに殿下へ無線を入れ、状況を報告した。殿下はこれを重く受け止め、すぐに捜査員と機動隊員を動員し、子供を含む一般人の捜索を開始した。
病院の監禁施設と子供たちの救出
ナオは殿下からの報告を受け、多数の子供が発見されたという現場へ向かった。その場所はコロニー内の病院にある監禁施設であり、百名を超える子供たちが格子で囲まれた部屋に監禁されていた。扉には鍵がかかっており、捜査員たちも手をこまねいていたが、ナオは迷わずレーザーガンを取り出し、鍵を破壊した。
扉が開くと、就学隊員たちが子供たちの保護を開始した。同様の部屋があと二つあり、機動隊員たちがそれらの格子を破壊し、救出作業にあたった。ナオは『シュンミン』のエーリンに連絡を入れ、消化に良い食事の準備を指示し、就学隊員たちにも手伝いを命じた。
そんな中、一人の幼い少女が「マー君がいない」と泣きながら訴えてきた。彼女の姉もマー君が大切な存在であることを伝え、ナオは二人に約束した。「おじさんが捜してくる」と。しかし、その約束がどれほど苦しいものになるか、この時のナオはまだ知らなかった。
手術室の惨状とマー君の行方
ナオは少女たちの言葉を胸に、さらに子供たちが監禁されている可能性がある場所を探した。その途中、一人の白衣の男性が現れ、無言で手術室へ案内した。そこには医師と看護師数名が呆然と立ち尽くし、全員の目は死んでいた。
手術室には生命維持装置に繋がれた子供たちが横たわっていた。そのうちの一人は、あと十時間ほどで命を失う状態であった。ナオが理由を尋ねると、男性は「臓器の鮮度を保つためだ」と答えた。彼らは、生きたまま臓器を摘出し、注文が入るたびに一つずつ提供していたのだ。
その子のカルテには「心臓摘出済」と記されていた。ナオは救える可能性を探したが、心臓はすでに売られてしまい、戻ることはなかった。静かに生命維持装置のスイッチを切ると、その子はすぐに息を引き取った。初めてナオは自らの意志で、人を殺した瞬間だった。
涙の決断と少女たちへの報告
同じ状況の子供があと五人いた。ナオは護衛の保安員に「この行為を記録に残せ」と命じ、自らの手で子供たちの命を絶っていった。その中には、少女たちが捜していたマー君もいたかもしれない。しかし、今となっては確認する術もなかった。
すべてが終わった後、ナオは殿下からの呼び出しを受け、少女たちのもとへ向かった。彼女たちはナオを見つけ、泣きそうな目で「マー君は?」と尋ねた。ナオは彼女たちと目線を合わせ、「ごめん。マー君は殺されていた」と告げた。少女たちはしばらく沈黙した後、静かに涙を流した。
ナオは嘘をついた。本当はマー君を殺したのは海賊ではなく、自分だった。しかし、その真実を彼女たちに伝えることはできなかった。そして、そんな自分自身の行為に嫌悪しながらも、少女の姉は小さな声で「マー君を探してくれて、ありがとうございます」と言った。だが、ナオの心には何も響かなかった。彼の心は、すでに壊れてしまっていたのかもしれない。
殿下の言葉と決意の変化
ナオは殿下のもとへ向かい、行ってきたことをすべて報告した。そして「どのような処罰でも受ける覚悟がある」と頭を下げた。しかし、殿下は静かにナオに近づき、こう言った。
「私はあなたの行為を支持します。貴方の行った行為は、すべて私の命令の下で行われたものです。私はあなたを処罰しません」
そして、殿下はナオをそっと抱きしめた。「あなたの責任ではありません。すべては私の責任です。貴方を苦しめてすみません。この業は、私も一緒に背負います」
その言葉を聞いた瞬間、ナオの壊れた心に変化が起こった。砂漠のように乾いた心に、殿下の言葉が温かい雨のように降り注いだ。そして、ナオは声を上げて泣いた。傍にいた保安員も、殿下も涙を流していた。
この時、ナオの人生観は変わった。それまで「かっこよく殉職する」ことが彼の最優先だったが、今は「こんな不幸を二度と起こさせない」「こんなことをする海賊を絶滅させる」という強い決意に変わった。
帰還と新たな誓い
殿下の指示により、保護された人々を首都へ運ぶことになった。王室監査部が到着し、スペースコロニーの捜査を引き継ぐと同時に、ナオたちは鹵獲した二隻の駆逐艦を伴い、首都星『ダイヤモンド』へ向かった。
船内では、ケイトが積極的に保護した子供たちの世話をしていた。彼女も孤児院出身であり、同じ境遇の子供たちに対する対応が慣れていたのだ。また、殿下は捕虜となった医療従事者を活用し、子供たちの診療にあたらせていた。
ナオは、殿下の覚悟と責任感に心を打たれた。これまで海賊討伐をただの任務としていた彼は、この時初めて「殿下のために」「王国のために」全力でこの戦いに身を投じることを誓った。
彼は航路の安全を確認しながら、ふと「そういえば、マークたちに説明すると約束していたな」と思い出した。しかし、会うことすらできなかった。今度こそきちんと説明しよう。しかし、何を説明すればいいのか、ナオには分からなかった。
私はカリン
王女殿下との出会いと信念の変化
カリンは陛下の派閥に属する伯爵家を寄親とする子爵家の娘であった。幼い頃から貴族のあり方について疑問を抱いていたが、第三王女殿下の御学友となったことでその考えに大きな変化が生じた。王女殿下は貴族としての常識に囚われず、王都を巡り民の暮らしを自ら視察するなど、並外れた行動力を持っていた。その影響でカリンも貴族らしからぬ行動を取るようになり、国の未来について殿下と真剣に語り合うようになった。
二人が長い議論の末に辿り着いた結論は、「国は国民の笑顔を守るために存在する」という信念であった。しかし、現実の王国はその理想とは程遠く、貴族の権力争いによって庶民の生活は顧みられていなかった。貴族そのものが害悪とは思わなかったが、現状の打開には抜本的な改革が必要だと理解していた。
王女殿下の決意と治安の現状
やがて進路を決める時期を迎え、王女殿下は国の治安維持を最優先する決断を下した。特に辺境における海賊被害が深刻であり、官僚ですら命の危険を伴う状況であった。その実情を知った殿下は、ただ理論を語るのではなく、具体的な行動を起こすことを決意したのである。
また、王女殿下が尊敬していたブルース提督の影響も大きかった。彼は軍を退官する前に、首都宙域の治安を守るためにコーストガードを創設したが、それが地方に波及することはなかった。宇宙軍は国防を優先し、貴族軍も海賊取り締まりには消極的だったため、国の治安は悪化の一途をたどっていた。カリンと王女殿下はこの現状を何度も話し合い、対策を考えた結果、「貴族が仕事をしていないことが問題の根源である」と結論付けた。そこで殿下は、海賊撲滅を目的とした新たな組織の創設を計画した。
進路の相違と初めての対立
高等教育の終盤に差し掛かった頃、カリンは王女殿下と初めて意見が対立した。王女殿下はカリンが大学に進学し、自身の従者として仕え続けることを望んでいたが、カリンは軍に入り、武力をもって殿下を支える道を選んだのである。
カリンの家は代々軍人を輩出しており、父は宇宙軍の将軍、兄もエリート士官養成校を卒業し、第一艦隊に所属していた。彼女自身も軍で昇進し、戦隊を率いることで、将来的に殿下に軍事的支援を提供できると考えていた。しかし、この決断は王女殿下にとって裏切りにも等しいものだった。
「カリン、私はずっとあなたが私を助けてくれるものと思っていた」
「私の気持ちは変わりません。王女殿下のお力になりたいのです」
「ならば、なぜ軍人に? 役人を志すなら分かりますが……」
「殿下の計画には武力が必要です。私が軍で昇進し、戦隊を預かる立場になれば、必ず殿下の力になります」
「……分かりました。これからは競争ですね。国が滅びる前に私の組織ができるか、カリンが軍から戦隊を持ってこられるか」
「はい、殿下。必ず武力をお持ちします。長くは待たせません。十年、十年あれば殿下のもとに駆けつけます」
「十年……長いようでいて、きっとすぐに時間は過ぎるのでしょうね」
王女殿下の迅速な行動と新組織の創設
カリンの予想とは異なり、王女殿下は十年を待たず、わずか数年で大きな実績を積み、新たな組織の創設を実現した。王国の治安維持に関する実績を積み重ね、ついに陛下より正式な勅命を受けたのである。その組織は「広域刑事警察機構」。まだ準備室の段階ではあったが、王国における治安維持の新たな礎となることは間違いなかった。
カリンは軍から休暇を取り、王女殿下の招きでこの式典に参加していた。目の前で陛下から勅命を受ける王女殿下の姿を見ながら、彼女は改めて自らの決意を固めた。早く軍での地位を確立し、武力を持って殿下のもとへ駆けつける。その誓いを胸に、カリンは王女殿下の姿を見つめていた。
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