小説「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上3感想・ネタバレ

小説「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上3感想・ネタバレ

どんな本?

本作は、宇宙を舞台にしたスペースオペラである。主人公のナオは、新人少尉として首都星域警備隊に配属される。彼は「仲間を守ってカッコよく死ぬ」ことに憧れているが、現実は彼の望みとは裏腹に進んでいく。

主要キャラクター
• ナオ:遅咲きの中二病で、彼女を寝取られたことをきっかけに自暴自棄となり、「ここは任せて先に行け!」というシチュエーションに憧れる新人少尉。

物語の特徴

ナオは、絶体絶命の状況で殉職を望むが、部下たちの活躍により生還してしまう。さらに、宇宙海賊との戦闘では、敵艦のエンジン故障により鹵獲に成功するなど、彼の望みとは逆に出世街道を突き進む。死にたがりの主人公が巻き起こす下剋上劇が、本作の大きな魅力である。

出版情報
• 出版社:TOブックス
• 発売日:第3巻は2024年9月15日に発売された。
• 関連メディア:本作はコミカライズもされており、ウェブ上で連載中である。  

読んだ本のタイトル

「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上 3
著者:のらしろ 氏
イラスト:ジョンディー  氏

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上3感想・ネタバレBookliveで購入gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上3感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上3感想・ネタバレ

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あらすじ・内容

「お待ちしておりました、司令!」
戦隊司令となって、いざ海賊の本拠内制圧戦へ!?
死にたがりな異才士官が巻き起こす下剋上スペースオペラ、第三弾!
コミカライズも2024年夏連載開始予定!
書き下ろし番外編&コミカライズ第1話の先行試し読みを巻末収録!

宇宙海賊の人身売買拠点を制圧したナオたちは、コロニーで保護した子供たちを伴い首都星へと帰還していた。
海賊と通じていた貴族などの摘発は他部署に任せ、とりあえずはひと段落。
そう思っていたのに――今度は戦隊司令への就任辞令が出てしまった!?
どうやら広域刑事警察機構設立準備室が今回の功績で正式に官庁化するらしく、その実働部隊を掌握する彼も出世することになったのだ。
自身の望みとは正反対の流れに “ま、まぁ駆逐艦一隻だし肩書きだけだよな”と思いこむのも束の間。
ついに発見したシシリーファミリーの本拠地制圧戦ではコーストガードからの援軍も指揮下に入れることに……!?
死にたがりな異才士官が巻き起こす下剋上スペースオペラ、第三弾!

ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上3

ナオ・ブルースは、士官学校を卒業したものの、左遷先とされるコーストガードに配属された。しかし、海賊との戦闘を属となった。そこで彼は、宇宙海賊「シシリーファミリー」の拠点を発見し、部隊を率いて壊滅させることに成功する。

しかし、その拠点には臓器売買の被害に遭った子供たちが残されており、ナオは彼らを救えない現実に直面した。王女は共に背負うと語りかけるも、ナオの心は晴れなかった。戦闘の功績により、広域刑事警察機構は正式な官庁となり、第三王女はその長官に就任。ナオ自身も「戦隊司令」に昇格することとなった。

その後、孤児院の設立を進めつつ、軍内部の腐敗や貴族派閥の思惑と対峙する。さらに、海賊との新たな戦いに向け、広域捜査と軍の協力を得ながら動き出す。しかし、王国軍の一部はナオの活躍を快く思わず、彼を拘束しようとする動きもあった。その騒動は軍警察の介入を招き、国家レベルの問題へと発展した。

一方、海賊の勢力は完全には衰えておらず、新たな戦闘が待ち受けていた。ナオは、広域刑事警察機構の司令官として、宇宙の治安を守るべく戦い続けることを決意する。経て戦果を挙げたことで、第三王女が設立を進める広域刑事警察機構に転

感想

大海賊との戦いと国家の変革
ついに宇宙海賊「シシリーファミリー」の拠点が壊滅し、王国に根付いていた闇の一部が払われた。海賊と結託していた貴族たちも粛正され、第三王女の影響力が大きくなる。一方で、第一王子と第二王子の派閥は、貴族出身の士官たちがナオを拘束したことで国家反逆罪に問われ、失点を重ねる結果となった。これにより、王位継承争いは第三王女に有利な展開へと進んでいく。

戦闘の成果と課題
今回の作戦で海賊の拠点は潰せたものの、多くの敵が逃亡した。完全な壊滅には至らなかったが、海賊勢力は大きく衰えたのは間違いない。貴族の影響を受けない独立した組織として広域刑事警察機構が発足し、今後はさらに強化されることが期待される。だが、まだ残る敵勢力や内部の腐敗問題もあり、これで終わりではない。

登場人物の成長と描写
ナオの指揮官としての成長が際立つ巻であった。単なる生存を目的としていた彼が、責任ある立場として戦い続ける姿が描かれた。また、カリンやマキといった人物が本格的に関わるようになり、彼らの描写も増えてきた。ただ、2巻と3巻の人物紹介が変わらなかったのは残念である。新たな登場人物の情報が加われば、より理解が深まるだろう。

ビジュアル面への期待
戦闘シーンの描写は非常に緻密で、戦略的な駆け引きが楽しめた。ただ、宇宙船のビジュアル描写が不足していると感じた。イラストには一応登場しているが、もう少し詳細なデザインを見たいところである。この点については、今後のコミカライズに期待したい。

次巻への展望
広域刑事警察機構の正式な発足により、ナオたちはより大きな力を持つことになった。しかし、軍との対立や逃げ延びた海賊たちの動向など、不安要素も多い。今後の戦いがどのように展開していくのか、そしてナオ自身がどこへ向かうのか、続きが気になる展開であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

第七章  新たなる戦いに向けて

ここまでの簡単な経緯

軍への入隊と予想外の士官学校入学

ナオ・ブルースは大学入試に失敗し、孤児院で共に育った彼女から手酷く振られたことで、自暴自棄になり自殺を試みた。しかし、死ぬこともできず、ならば戦場で死のうと軍人を志す。一般兵士としての入隊を希望していたが、予期せぬ展開で士官学校に放り込まれることになった。

士官学校卒業と左遷先のコーストガード

無事に士官学校を卒業したものの、宇宙軍には配属されず、軍内部では左遷先として知られる首都宙域警備隊(通称:コーストガード)へと出向を命じられる。殉職を望んでいたナオにとっては大きな落胆であったが、ほどなくして宇宙海賊との戦闘に巻き込まれ、大戦果を挙げて叙勲されることとなった。

広域刑事警察機構設立準備室への異動

戦果を挙げたことで上層部から煙たがられ、第三王女殿下が組織した広域刑事警察機構設立準備室へと再び出向を命じられた。新たな配属先で宇宙海賊との戦闘を重ねるうち、大海賊シシリーファミリーに関する情報を得る。調査を進めるうちに、彼らの臓器売買の拠点を発見し、戦闘に突入した。

シシリーファミリーとの激戦と拠点の制圧

激戦の末、ナオたちはシシリーファミリーを撃破し、彼らの拠点を制圧することに成功した。しかし、その施設には臓器を摘出された子供たちが残されており、彼らの救出は絶望的な状況であった。

子供たちの安楽死と葛藤

ナオは、苦しむ子供たちを救うために安楽死させる決断を下した。しかし、自らが下したこの判断が正しかったのかという疑問が、彼の中で消えることはなかった。王女殿下は彼に寄り添い、「共にこの業を背負おう」と優しく語りかけたが、ナオは未だに自分を許すことができなかった。

帰投と心の空白

シシリーファミリーを壊滅させ、大勝利とも言える戦果を挙げたものの、ナオにとってそれは決して喜ばしいものではなかった。海賊の拠点を軍に引き渡し、広域刑事警察機構の部隊は帰投することとなったが、ナオの心には虚しさだけが残った。

鹵獲艦の引き渡しとファーレン宇宙港への到着

『シュンミン』が首都星に近づいた際、政府より鹵獲した航宙駆逐艦の調査のため、それを軍の防衛司令部があるスペースコロニーへ預けるよう命令が下された。これにより、無人のリモート操縦で二隻を惑星へ降ろす手間が省けたため、ナオは安堵した。駆逐艦をコロニーに係留後、『シュンミン』は首都星のファーレン宇宙港に着陸し、多くの医療スタッフが待機する中、保護した子供たちが次々と病院へ搬送された。同時に、医療犯罪に関わった容疑者も軍警察に引き渡された。

事務作業と過去の出来事の報告

殿下は迎えの車に乗り王宮へ向かい、ナオは艦の乗員に休暇を与えた後、副長と共に官庁街のグランドオフィスへ向かった。そこで待っていたマキ室長はナオの変化に気付き、何があったのかを尋ねた。ナオはまだ気持ちの整理がついていないとして詳細を伏せ、まずは事務処理を優先すると告げた。

地上勤務では事務作業が山積していた。武器弾薬の消費報告、燃料や食料の補給計画、他の基地への立ち入り報告、乗員の管理といった業務が膨大であり、軍のように自動化されたシステムがないため、一つ一つ手作業で処理する必要があった。ある程度作業を終えた後、マキが皆のためにお茶を淹れ、ナオはスペースコロニーでの出来事を彼女と副長に伝えた。マキは子供たちの臓器摘出の事実に大きな衝撃を受け、副長もナオが自ら子供たちを安楽死させたことに深く動揺していた。

貴族の介入と新たな人事

話を切り替え、ナオは最近の軍からの配属について疑問を呈した。特に、エリート士官学校の恩賜組であるカリン少尉が、自分の指揮下に入ったことに驚きを隠せなかった。マキによれば、最近になって貴族からの圧力が強まり、準備室に息の掛かった者を送り込もうとする動きが活発化していた。貴族たちは自らの子弟を役職に就けることで影響力を持ちたいと考えており、庶民出身の職員に対しては露骨な態度を取っていたという。しかし、フェルマンがしつこい干渉を防いでおり、大きな問題にはなっていなかった。

カリン少尉の配属に関しては、彼女が殿下の学友であることが関係していた。軍の推薦で広域刑事警察機構に送られてきたが、これは王室絡みの決定であり、貴族の圧力とは別のものであった。メーリカ副長は軍からのさらなる人事介入を懸念していたが、ナオはそれどころではないだろうと考えた。シシリーファミリーの摘発により、海賊と軍の高官との関係が暴かれる可能性が高く、軍部全体が大混乱に陥ることは確実だったからである。

重大発表と広域刑事警察機構の昇格

その後、ナオたちは食事に出かける計画を立てていたが、急遽マキが王宮に呼び出されることになった。殿下からの招集であり、記者会見に参加するためだった。ナオと副長は待つ間、王宮のロビーでニュースを見ていた。

記者会見では、陛下が登壇し、広域刑事警察機構設立準備室を正式な官庁として発足させることを発表した。さらに、その初代長官に殿下を任命し、彼女を大臣格に昇格させると宣言した。これにより、殿下の立場は王国の中で極めて重要なものとなり、軍や貴族による干渉も容易ではなくなった。殿下は会見で、組織の幹部を紹介し、マキも管理職の一人として登壇した。

その後、記者会見に参加した幹部たちは会食に招かれ、ナオと副長も管理職扱いとして同行することになった。会食の場で、人事課長から新たな人事方針が説明された。準備室は本庁へと昇格し、全員が正式な部長職に就くことが決定された。マキも庶民出身者として初の女性部長となり、注目を集める立場になった。また、ナオも「戦隊司令」という役職を与えられたが、実際にはまだ一隻の航宙駆逐艦しか存在せず、先行きは不透明であった。

孤児院の設立と就学隊員の活用

翌日、ナオは事務作業に追われていたが、殿下から呼び出しを受けた。殿下は広域刑事警察機構の組織強化について相談し、特に人員不足の問題を議論した。その中で、保護した子供たちを孤児院へ送ることが困難であることが判明した。既存の孤児院はすでに収容限界に達しており、新たな受け入れ先が必要だった。

そこで、殿下は新たに孤児院を設立し、12歳以上の子供たちには就学隊員のような形で働きながら教育を受けさせる制度を導入する考えを示した。ナオはコーストガードの就学隊員制度が貴族の影響を受けない優れた仕組みであることを説明し、殿下の方針を理解した。殿下はさらに、孤児院の運営に詳しい者の意見を聞くため、マキを招いて議論することを決めた。

ナオは、自身が孤児院出身であるものの、運営の専門知識はないことを正直に伝えた。しかし、マキは孤児院での手伝い経験が豊富であり、彼女の助言が不可欠であると進言した。殿下もその意見に賛同し、すぐにマキを呼び、具体的な運営計画について話し合うことになった。

ブルース孤児院との交渉

マキは孤児院設立に関する問題点を挙げ、殿下と共に解決策を議論した。昼食を挟みながらの長時間の協議の末、基本方針が決定された。殿下はすぐに現地で準備を進めるよう指示し、マキはナオと共にニホニウムへ向かう手配をした。ナオの予定を確認することなく、旅程が決まったことに彼は戸惑ったが、事務仕事が山積していることを考えると、出張も悪くない選択肢だった。

出張の準備を整えようとするナオだったが、事務処理の量が増えており、彼の机の上は昨日よりも散らかっていた。そこへ副長のメーリカが訪れ、乗員のスケジュール処理の遅れを指摘した。ナオは殿下の会議に缶詰めだったことを伝え、急ぎスケジュール管理の権限を副長に移譲した。その後、ナオとマキは出発前に副長と夕食を共にし、孤児院設立に関する話を共有することにした。

ファーレン宇宙港での夕食と組織運営の議論

ナオたちはファーレン宇宙港の食堂で食事を取りながら、殿下と協議した内容をメーリカに説明した。ナオは既に艦載機の訓練を希望する就学隊員に機会を与えており、その実例を話した。軍やコーストガードとは異なり、年齢制限のない組織だからこそ可能な取り組みであった。メーリカは「規則が未整備だからこそ可能な制度だが、現場の判断に委ねられている限りは問題ない」と述べ、今後の組織運営に関しても柔軟に考えていく方針を確認した。

食事を終えた後、ナオとマキは夜行便でニホニウムへ向かい、現地到着後すぐにブルース孤児院を訪れた。殿下の計画を伝え、協力を求めたが、孤児院側は対応に難色を示した。特に、コーストガードとの関係が深く、卒業生の多くがコーストガードへ進む現状があるため、子供たちを新たな組織へ移すことには慎重だった。交渉の末、数名の職員の貸し出しのみが認められたが、大規模な協力は得られなかった。

ドック社長との交渉と孤児院の設立

ブルース孤児院との交渉が難航する中、ナオたちはドック社長を訪れ、宿泊施設の借用について相談した。社長は即座に了承し、以前ナオたちが使用していた解体船の船室を孤児たちの住居として提供することになった。これにより、急場をしのぐ孤児院の設立が決定した。

さらに、ドック社長の仲介で、キャスベル工廠の社長と面談することになった。マキは新設される組織の概要を説明し、高速航行が可能な新造船の必要性を訴えた。キャスベル工廠側もナオの乗る航宙駆逐艦『シュンミン』の活躍に注目しており、次期航宙フリゲート艦の開発にも影響を与えていることを明かした。正式な契約には至らなかったが、新造船についての協議は前向きに進められた。

また、キャスベル工廠は殿下が設立する孤児院への協力を申し出た。これは善意だけでなく、新組織と繋がりを持つことが目的であることは明白であった。ナオとマキはこれを受け入れ、地元経済界との関係を強化する方針を固めた。その結果、孤児院の建設はキャスベル工廠の協力のもとで進められることになった。

孤児たちの受け入れとナオの葛藤

ナオは孤児院の設営準備を進め、改造作業を手伝いながら、シュンミンで運ばれてくる孤児たちの受け入れに備えた。幼い子供たちは順応が早く、新しい環境に馴染んでいったが、ナオは過去の出来事を忘れることができなかった。特に、臓器摘出の現場で安楽死させた少女たちに対する罪悪感が拭えなかった。

そんな折、かつて救出した少女がナオに感謝の言葉を述べた。そして、彼女は「兄の仇を討つために殿下の組織で働く」と誓った。ナオは彼女が真実を知った時の反応を恐れたが、最終的に、彼女が正式に隊員となった暁には真実を伝えることを決意した。

孤児院の竣工式と地元名士との交渉

孤児院が完成し、殿下を迎えての竣工式が執り行われることになった。式には地元の名士や貴族たちが出席し、広域刑事警察機構の今後の方針が公に示される場となった。ナオは式の準備に追われていたが、受付業務には就かず、組織の重要人物として立ち振る舞うよう求められた。

式後の会食で、ジャイーンの父であるストロング・アーム家当主と対面した。彼はブルース孤児院が殿下の計画に協力しなかったことを悔やみ、今後の支援を申し出た。マキと直接話をさせた結果、彼の懸念は払拭され、ニホニウムにおける孤児院運営への協力を約束した。

宇宙への帰還

孤児院の問題が一段落した後、ナオは殿下から通常任務への復帰を命じられた。再び海賊討伐のため、『シュンミン』と共に宇宙へ向かうことになった。

戦隊司令への昇進と新たな権限

ラーニがナオに「艦長」と呼びかけたが、カリン少尉はそれを訂正し、彼が既に戦隊司令であることを指摘した。しかし、ナオ自身は新たな職務の詳細を聞かされておらず、その権限についても理解していなかった。カリン少尉は、戦隊司令には独自の判断で出撃および交戦する権限があることを説明し、これまでの出撃はすべて殿下の命令によるものであったことを指摘した。

ナオは、自身の判断で出航すれば事務処理が増えることを考え、従来通り慎重に行動するつもりでいた。特に、本部が細かい財務報告を求めてくることに苛立ちを覚えており、新たな権限を得ても大きな変化はないと考えていた。

タイムセールと報告書の騒動

ナオはタイムセールによる価格差について報告書を提出する羽目になったことを振り返っていた。孤児院出身の就学隊員が、食料品の追加購入時にタイムセールを利用した結果、同じ日に購入した品目の価格に差が生じた。本部の事務担当者はそれを不正使用と疑い、ナオに詳細な報告を求めた。

ナオは厨房長に確認し、就学隊員の行動が単なる節約のためであることを突き止めた。しかし、タイムセールの概念を理解できない本部の担当者に説明するのは困難であり、最終的に顛末書を提出してようやく受理された。ナオはこの件にうんざりしつつ、広域刑事警察機構が正式な官庁となることで、いずれ彼の後任が配置されることを期待していた。

スペースコロニーへの帰還

ナオは短い休息の後、メーリカ副長に起こされ、目的のスペースコロニーへの到着を告げられた。艦橋に向かうと、すでにコロニーの管制官との交信が始まっており、寄港態勢に入っていた。寄港作業は当直士官の指揮で進行し、ナオは見守る立場となった。

コロニーのポートに到着すると、軍の警備隊に交じってマーク准尉が待っていた。ナオは彼との約束を思い出し、正式な説明をするために三時間後の面会を約束した。その後、カリン少尉と共にコロニーの中央管理室へ向かい、捜査室長のトムソンと情報交換を行った。

新たな手がかりと海賊の補給基地の存在

トムソンは、コロニーで押収した資料の中に、シシリーファミリーの動向を示す直接的な証拠はなかったと報告した。しかし、海賊の補給船の燃料補給データから、近くに補給基地が存在する可能性が高いことを示唆した。ナオはその情報を基に、次の任務として広域捜索を行う決断を下した。

カリン少尉は無駄足を嫌い反対したが、ナオは訓練を兼ねて探索を進める意向を示し、自らの権限で行動することを決定した。

旧友との再会と過去の回顧

ナオは部下たちに休息を取らせる指示を出し、自身はマークとの約束を果たすために彼を探した。食堂エリアで再会したマークの他、同期のソフィアとエマも同席し、久々の会話が始まった。

ナオは、自身の過去を振り返りながら、成り行きで士官学校に入った経緯やコーストガードでの扱いについて説明した。さらに、殿下のもとで広域刑事警察機構の戦隊司令に就任した経緯を語り、自身の将来については未だ不透明であることを示唆した。

マークは、自分たちがナオの作戦に関与したことで感状を受け、恩賜組よりも先に昇進する話が持ち上がっていることを伝えた。これにより、ナオの一連の行動が意図せず同期たちの出世にも影響を与えていることが明らかになった。

最後に、エマが軍の女性下士官を呼び寄せ、マークの活躍について詳しく語らせた。その場の雰囲気は次第に和らぎ、四人の旧友は久しぶりの再会を楽しんだ。

補給艦護衛戦隊の役割と士官訓練

補給艦護衛戦隊は、新人士官や高級軍人の訓練を目的とした部隊であり、実戦経験を積ませるための場となっていた。ここに配属される士官は、下に熟練の下士官を持ち、指導を受けながら経験を積んでいく。卒業成績上位の恩賜組は短期間で別の配属先へ移るが、マークを含むその他の士官は資質を評価されながら順次配属が決定される仕組みであった。

ナオの同期であるマークは、まだこの戦隊に所属しており、保安部隊の小隊長を務めていた。殿下の要請により、補給艦護衛戦隊の一部が『シュンミン』の支援に向かうこととなり、マークの乗艦する『チカ』もその任に就いた。戦況を確認した『チカ』の艦長は、『シュンミン』に援護の必要性を確認し、スペースコロニー制圧の指示を受けたことで、突入作戦が決定された。

スペースコロニー突入作戦の開始

『チカ』の艦長は、陸戦隊を先行部隊として投入し、コロニーのポート制圧を命じた。その後、マークの部隊も続いて突入するよう指示され、彼は副長から直接命令を受けた。マークは部下を率いて出撃準備を整え、陸戦隊の後方支援を担うことになった。

格納庫には陸戦隊三十名とマークの保安部隊十名が待機し、艦長の激励を受けた後、副長の指揮のもと内火艇に乗り込んだ。初陣となるマークは緊張していたが、彼の補佐を務める熟練の下士官が冷静に支えた。副長の計算により、マークの部隊は経験豊富な者たちで構成されており、彼が指揮官としての役割を全うできるよう配慮されていた。

ポート制圧とコントロールルーム確保

内火艇がコロニーに接舷すると、陸戦隊が先行して突入し、銃撃戦が始まった。ポート内は混乱していたが、計画通りにバリケードを築き、防衛態勢を整えた。しかし、このままではじり貧になると判断した副長は、マークにポートのコントロールルームの制圧を命じた。

マークは部下を率いて突撃を決行し、援護を受けながら階段を駆け上がった。敵の妨害を受けつつも、部隊は迅速にコントロールルームを制圧し、作戦の要点を押さえることに成功した。副長の指示で、ハッチを一斉に開放し、気圧差を利用して敵の戦力を削ぐ策が実行された。これにより、ポートの占拠は短時間で完了した。

本隊の到着とスペースコロニーの制圧

マークたちがポートを確保してから二時間後、本隊が到着し、殿下のクルーザーおよびフリゲート艦三隻が続いた。中央制御室の占拠が完了し、スペースコロニーの制圧が完了したことが放送された。

マークは、その後の任務として、殿下を中央制御室まで護衛する役目を任されることになった。緊張しながらも、彼は正式に殿下と対面し、案内役を務めた。これが彼にとっての重要な経験となり、また一つ成長の機会となった。

軍の再編と新たな訓練計画

スペースコロニーは、軍の訓練施設として活用されることが決定され、第一艦隊の部隊は順次第二艦隊と交代することになった。これにより、軍内の戦果の偏りを是正しつつ、より多くの士官に実戦経験を積ませる方針が示された。マークたちはここを離れることになったが、次に配属されるのは第二艦隊の士官たちであり、恩賜組の者たちも再びこの戦隊に戻されることになった。

ナオは、マークたちとの再会を機に、軍上層部の動向を把握することができた。彼は今後、軍との交渉をカリン少尉に委ねることを決め、新たな作戦に向けて動き出した。

小惑星帯での海賊捜索

『シュンミン』は、シシリーファミリーの拠点を探すため、小惑星帯の探索を開始した。航路周辺は軍の監視が厳しく、海賊が潜伏する可能性のある小惑星帯を重点的に調査する方針を取った。しかし、探索を続けるうちに、乗員の疲労が蓄積し、三日目にして進展のない状況に不満が高まっていた。

ナオは、明日まで探索を続け、成果がなければ一旦スペースコロニーに戻る決定を下した。その日の宿泊地として適当な小惑星を選び、艦載機を使って偵察を進めた。しかし、その最中、突然艦載機から「敵襲」の報告が入った。

敵襲と緊急迎撃

艦橋は一瞬で緊張に包まれた。ナオは即座に艦載機の交戦を許可し、防御態勢を整えるよう指示した。さらに、敵の正体が不明のため、艦載機に囮として光子魚雷を使用し、安全確保を優先するよう命じた。

艦内は臨戦態勢に移行し、『シュンミン』は急行して艦載機を回収する準備を整えた。しかし、敵の位置が特定できず、小惑星帯の影響でレーダーも機能しにくい状況だった。ナオは攻撃の軸線を定め、敵の存在が疑われる方向に主砲と魚雷を発射する決断を下した。

その後、艦載機は無事に回収され、損傷もなかった。しかし、敵の正体は依然として不明であり、ナオはカリン少尉に艦載機の再出撃準備を命じた。慎重に整備を進めながら、『シュンミン』は新たな攻勢に向けて動き出した。

敵艦発見と攻撃開始

『シュンミン』の艦橋は緊張に包まれていた。敵艦の存在が確認されると、艦長は即座に攻勢を指示し、主砲の斉射と魚雷の発射を命じた。続けて光子魚雷を二本発射し、その魚雷を追う形で最大船速で前進した。航宙士は小惑星帯内での高速航行に戸惑ったが、艦長は魚雷が先に障害物に当たるため問題ないと判断した。哨戒士には敵艦載機や奇襲の警戒が命じられた。

敵艦との接触と識別

前方に金属反応が確認され、熱源も検知された。これは明らかに人工物であり、宇宙船の可能性が高いと判断された。艦長は即座に警戒態勢を指示し、カリン少尉に艦載機を発進させ、後方および側面の警戒を強化するよう命じた。やがて、宇宙船の詳細が明らかになり、それがシャフト造船製の中型貨客型宇宙船であることが判明した。しかし、その熱源反応が小さすぎるという不審な点が指摘された。

敵船への接近と異常な静寂

『シュンミン』は慎重に速度を上げながら敵船に接近した。しかし、敵船は攻撃を仕掛ける気配がなく、異様なほど静かであった。この不自然な状況に艦長は警戒を強め、艦載機には後方警戒を徹底するよう指示を出した。さらに哨戒を強化したが、周囲に他の人工物は見当たらなかった。このため、敵船自体が罠である可能性が浮上した。

海賊船の正体と鹵獲作戦

接近を続けると、敵船は完全に推進力を失っていることが判明した。おそらく、先ほどの攻撃で推進機構に直撃を受け、航行不能に陥ったと考えられた。艦長は『シュンミン』を敵船と並走させ、慎重に調査を行うよう命じた。さらに、副長に決死隊の準備を指示し、自らも突入する意向を示した。

乗員が宇宙空間に出て、海賊船へと突入したが、内部はもぬけの殻であった。敵はすでに逃亡しており、戦闘の痕跡も残っていたが、戦利品などは一切残されていなかった。海賊たちは証拠を極力残さないよう徹底していたようである。艦長は、この船を回収し、スペースコロニーへ曳航することを決定した。

スペースコロニーへの帰還と軍の対応

鹵獲船を曳航しながら『シュンミン』はスペースコロニーへ向かった。探査しながらの往路とは異なり、復路は半日で到着した。しかし、管制官との交信が普段とは異なり、軍管理下にあるため民間船の入港を拒否するという指示が下された。これに艦長は困惑したが、すぐに別の通信が入り、第二艦隊のバードン中佐が情報開示を要求してきた。

軍との対立と監察官の介入

バードン中佐は高圧的な態度で、鹵獲した海賊船を軍に引き渡し、『シュンミン』は速やかに立ち去るよう命じた。しかし、艦長は軍に命令権がないことを指摘し、正式な手続きを経るよう求めた。これに対し、中佐は激昂し、「軍に戻ったらただでは済まない」と恫喝した。

このやり取りの最中、王宮監察官が介入し、『シュンミン』の入港を許可するよう要請した。バードン中佐は渋々承諾し、管制官に入港許可を出させた。さらに、艦長には入港後に出頭するよう命じたが、艦長は殿下に報告し、鹵獲船の扱いについて指示を仰ぐことを決定した。

こうして、『シュンミン』は無事にスペースコロニーへの入港を果たしたが、新たな問題が待ち受けていることは明らかであった。

監禁と軍の強硬姿勢

『シュンミン』がスペースコロニーのポートに入港すると、ナオ・ブルースは待ち構えていた軍人たちに連行された。囚人扱いではなかったが、副長のメーリカも同行させた。彼女は軍からの出向ではなく、軍の命令に従う義務がないため、軍の横暴を防ぐ盾となると考えたためである。

連行された先はコロニーで最も立派な建物の一室であり、そこにはバードン中佐と、その上官と思われる大佐が待ち構えていた。大佐はナオに対し、彼が有名なナオ・ブルース中尉であるかを確認したが、ナオは軍の中尉ではなく、広域刑事警察機構の戦隊司令であると改めて主張した。この返答にバードン中佐は激昂し、軍警察の取り調べを理由にナオを拘束すると宣言した。

メーリカは即座に抗議し、ナオは軍の管理下にはないと主張したが、バードン中佐は彼女を部屋から追い出し、ナオを病院跡に監禁した。そこはかつて子供たちが閉じ込められていた場所であり、鉄格子がはめられた監禁施設であった。

軍警察の介入と解放

二時間後、軍警察の数名がナオを訪れ、彼の解放を告げた。彼らは軍を代表して謝罪し、本部から上官が向かっているため、それまでの間はスペースコロニー内に留まるようにと伝えた。ただし、バードン中佐らがいる建物には近づかないよう警告された。

ナオはメーリカに連絡を取り、前回マークたちと会った食堂で時間を潰すことにした。一方、『シュンミン』の乗員には艦内で休息を取るよう指示し、不要なトラブルを避けるよう配慮した。

監察官との接触

食堂に着くと、軍関係者の間に焦燥感が漂っていたが、ナオは気にせずコーヒーを飲んでいた。そこへトムソン捜査室長が現れ、ナオに紹介したい人物がいると告げた。しばらくして現れたのは王宮監察官のチャーリーであった。彼はナオに謝罪するとともに、今回の事件を大ごとにしたくないが、軍の行為は無視できないと述べた。

監察官は、宇宙軍が続けている不祥事に対し、王宮も強い関心を持っていると説明した。さらに、ナオが鹵獲した船について、軍が欲しがるなら譲っても構わないという殿下の意向を伝えた。この船には重要な証拠は残されていないと判断されていたため、王宮側も特に関心を示さなかった。

軍警察本部長の介入と反乱未遂

翌朝、軍警察本部のトップであるマキャベリー本部長が到着し、ナオは再び呼び出された。彼は宇宙軍を代表してナオに謝罪し、今回の件を最小限の問題に抑えたいと申し出た。

本来、ナオの監禁は王国に対する反乱と見なされてもおかしくない行為であったが、軍全体を巻き込んだ反乱として認定すると、第二艦隊が機能不全に陥るため、本部長は「反乱未遂」として処理する方向で考えていた。そのため、首謀者であるバードン中佐と大佐の二人、そして直接ナオを拘束した三名の計五名を拘束し、本部へ移送することが決定された。

ナオは事件をこれ以上大きくするつもりはなかったが、本部長の判断には同意した。今回の件は、軍内の派閥争いが背景にあり、特に第二艦隊の焦りが問題を引き起こしていた。第一艦隊との軍功の差が広がったことに対する苛立ちが、不満としてナオに向けられたのが実情であった。

事態の収束と出発準備

本部長の指揮のもと、事件の処理が進められ、ナオは正式に解放された。その後、トムソン捜査室長と会い、彼の部隊もスペースコロニーを離れたいと申し出たため、ナオは『シュンミン』で彼らを送り届けることを承諾した。

こうして、軍の混乱をよそに、ナオは仲間たちとともにスペースコロニーを後にする準備を整えた。

軍警察官の職務と日常

シャー・チクは宇宙軍に所属する軍警察官であった。軍内部での犯罪を取り締まるため、一般の軍人からは嫌われがちであったが、基地周辺の住民からは尊敬されていた。かつて不良軍人に襲われかけた女性を助けたことが縁となり、彼女と結婚した。昇進により第二艦隊軍警察局の保安機動隊小隊長となり、仕事も家庭も充実していたが、最近は異常なほど忙しかった。

第一級緊急招集と司令部への出動

非番の日の朝、第一級緊急招集の連絡が入り、妻をなだめながら職場へ向かった。部下が揃う前に装備を整えさせ、上官の指示を待った。やがて局長から「至急、第二艦隊司令部前に集合せよ」との命令が下り、事態の重大さに不安を覚えた。外部からの攻撃や暴動ではなく、司令部内で何かが起こっていることは明白であった。

司令部前では既に多くの軍警察官が待機しており、シャーの部隊が最後に到着した。局長の指示を受け、軍警察捜査官とともに司令部内へ進入した。通常の警戒態勢とは異なり、警備の配置は外部ではなく内部を警戒するものだった。つまり、敵は建物の中にいるということを示していた。

艦隊司令長官の拘束

ガチ装備のまま階段を十五階まで上がり、向かった先は艦隊司令長官の執務室であった。同時に別動隊が作戦司令室や参謀本部へ向かい、家宅捜索を開始していた。捜査主任が軍本部からの命令書を読み上げ、艦隊司令長官の職務権限を停止し、身柄の拘束を宣言した。

「艦隊司令長官、あなたには王国に対する反乱未遂の嫌疑が掛かっております。軍警察の職務権限により、嫌疑が晴れるまでの間、軍警察があなたの職務権限を預かり、拘束いたします」

司令長官は驚き、言葉を失った。シャーは機動隊員に銃火器を収めさせ、室内の警戒を続けたが、当面の危険はないと判断した。

反乱未遂の背景と司令長官の反応

局長が事件の概要を説明すると、司令長官は戸惑いを見せた。訓練派遣中の補給艦護衛戦隊が反乱未遂で拘束されたと聞かされ、ようやく事態を理解した。しかし、彼自身は反乱には関与していないと強く主張した。

「反乱未遂の件は理解した。しかし私は全く関与していない。そもそも反乱をするにしても、なぜあんな場所で起こすのか。軍人なら誰もが無意味だと理解できる行動だ」

確かに、反乱を計画するならば戦略的に重要な拠点を押さえるはずであり、航路から外れたスペースコロニーで反乱を起こすことは考えにくかった。艦隊参謀長もこの考えに同意し、少なくとも司令長官が直接関与していないことは明白だった。

事態の収束と帰宅

捜査は数時間で終了し、その日の夕方のニュースで事件が報じられた。シャーは十時間ほどの勤務を終えて解放され、自宅へ戻った。局長からも非番中の招集を詫びられたが、すでに夜七時を過ぎており、家族との時間は失われていた。

帰宅すると、娘がテレビでシャーの姿を見たと言って抱きついてきた。妻も涙を浮かべながら迎え入れた。シャーは二人を抱きしめ、「ただいま」とだけ言った。この幸せな時間を守ることを心に誓った。

それにしても、軍警察が動くような大事件が続いていた。つい最近も戦隊の高級士官数名を拘禁して首都に送り届けたばかりであり、第一艦隊でも高級軍官僚の逮捕が相次いでいた。この王国で何が起こっているのか、シャーは不安を感じたが、妻を心配させまいと、その思いを胸にしまい込んだ。

第八章  シシリーファミリーとの激闘

捜査室長の依頼と『シュンミン』の出発

トムソン捜査室長ら捜査官たちを乗せ、『シュンミン』はスペースコロニーを出発した。王宮の役人たちは別の仕事があり同行できなかったが、見送りに来たチャーリー監察官が丁寧に断りの言葉を述べた。トムソンたちは船内の部屋を案内されたが、士官用の個室では分不相応だと拒否し、就学隊員と同じ部屋を希望した。部屋数の都合から、チーフ以上は下士官用の部屋に、トムソンは士官用の部屋に割り当てられた。しかし、彼はこれを貸しと考えているようであった。

部屋の問題が落ち着くと、トムソンはナオに依頼を持ちかけた。海賊船を捕まえた現場へ案内してほしいというのだ。捜査の基本である「現場百回」に則り、宇宙の専門知識がなくとも、直接現場を見て何か手がかりを得たいと考えていた。ナオはこれに同意し、殿下の許可を得るため通信を取ることにした。

海賊の隠れ航路への進入

殿下からの指示もあり、海賊船を拿捕したポイントへの航行が決定した。『シュンミン』は宇宙軍の巡航速度に合わせ、慎重に航行を進めた。この狭い航路は正式な認可を受けていないため、宇宙軍と接触する可能性があった。過去のトラブルを考え、ナオは余計な軋轢を避けるため、宇宙軍の慣例に従うことにした。

途中、首都宙域警備隊――つまりコーストガードが捜査に協力することが本部から通達された。彼らもまた軍の影響下にあるが、今回の件では殿下の要請があったため、遠慮なく出張ることができた。カリン少尉によれば、コーストガード内では功績を挙げることへの焦りがあり、軍への忖度ばかりしてはいられない状況にあるようだった。

新たな航路の発見

航行中、トムソンが新たな発見をした。これまで通ってきたコースが一本道になっており、どこへ繋がっているのかを確かめる必要があると考えたのだ。ナオはこの提案を受け入れ、進路を反転させるよう指示した。

小惑星帯を抜け、再び通ってきた航路を戻ると、捜査官たちが監視していた映像に異変が見つかった。トムソンは、海賊が利用していた隠れ航路の可能性が高いと判断した。ナオもこの推測に納得し、航路の終点を特定するために進行を続けることを決定した。

進路を反転させた『シュンミン』は、慎重に航路を遡りながら監視を続け、ついに目的の地点へと到達した。ここが海賊の拠点に繋がる重要なポイントである可能性が高まっていた。

未知の小惑星と隠された航路

『シュンミン』のレーダーがスペースコロニーを探知したことで、この航路が海賊によって利用されていた可能性が高まった。しかし、なぜ軍もこの場所を発見できなかったのかという疑問が浮かぶ。ほどなくして、その理由が判明した。航路の先には巨大な小惑星が存在しており、さらにその周囲には十二個の小型小惑星が点在していた。これらの障害物が航路の視界を遮り、今まで発見されなかった要因となっていたのである。

この小惑星には「KCLP 845357632745」という識別名がつけられていたが、正式な調査は行われておらず、軍の地図にも記載がなかった。ナオはこの発見を本国政府に報告するよう指示し、公務員としての義務を果たすことにした。同時に、政府の公式な航宙図ではこのエリアが空白扱いになっており、軍ですら詳細な座標を持っていなかったことが明らかになった。

第一巡回戦隊の到着と休息

通信士からの報告で、コーストガードの第一巡回戦隊が応援に駆けつけることが判明した。彼らは十時間後に到着予定であり、迅速な対応にナオは驚きを隠せなかった。巡回戦隊が焦っている理由は、組織として早急に成果を上げる必要があったためと推測された。

応援を待つ間、ナオは乗員たちに休息を取らせることを決定した。小惑星に着陸し、準戦態勢を解除したうえで交代でレーダー監視を続ける形を取った。戦闘の緊張状態が続いていたこともあり、この判断は適切であった。

ナオはトムソン室長と副長とともに食堂へ向かい、今後の方針について話し合った。第一巡回戦隊が応援に来たのは、彼らが軍の影響を受けていない唯一の部隊であり、組織としての独立性を保つためにも、成果を上げる必要があったからである。しかし、ナオは彼らが協力的であるかどうかを懸念した。

応援艦隊との合流と出発

休息を終えた後、第一巡回戦隊が小惑星の衛星軌道上に到着した。旗艦『アカン』を中心に、二隻のフリゲート艦と一隻の駆逐艦が並び、『シュンミン』と合流した。ナオは旗艦に向かい、戦隊司令と正式な挨拶を交わした。第一巡回戦隊は最初から『シュンミン』の指揮下に入る方針で動いており、指揮命令系統の確認もスムーズに進んだ。

合流後、海賊の本拠地へ向かうため、発見した航路を進むことが決定された。ナオはカオリ通信士に対し、これまでの航路情報を第一巡回戦隊と共有するよう指示した。コーストガードの巡航速度に合わせ、四宇宙速度で航行を開始した。

途中、第二機動艦隊もこちらに向かっていることが判明した。第一巡回戦隊の戦隊司令が本部に連絡を入れたことで、追加の支援が決定したのである。しかし、第二機動艦隊は独自の指揮命令系統のもとで動くため、ナオの指揮下には入らなかった。ただし、可能な限り協力するという立場が取られた。

海賊艦隊との遭遇

四時間ほど進んだところで、哨戒士のカスミが前方に金属反応を探知した。その数は二十以上に及び、そのうち十五隻は逃走し、五隻が『シュンミン』らに向かってきた。これにより、敵が海賊艦隊であることが明確になった。

ナオは副長に警戒態勢を発令するよう指示し、第一巡回戦隊にも情報を共有した。しかし、兵力の分散は愚策であり、敵艦隊の分断にどう対応するかが問題となった。戦力差を考えれば、一時撤退も選択肢に入るが、海賊たちを逃がせばさらなる被害を生む可能性があった。

そんな中、沈黙を保っていたトムソン室長がナオに話しかけた。彼の発言には、戦局を打開するための手がかりが含まれているかもしれなかった。

軍と警察の役割の違い

トムソンは、警察の義務について説明した。警察はテロリストと対峙する際、市民の安全を最優先に行動し、必要ならば全滅を覚悟してでも時間を稼ぐ。しかし、市民がいない場合は、一度撤退し態勢を立て直してから対処するのが基本である。軍の方針は異なるかもしれないが、広域刑事警察機構も警察である以上、この原則に従うべきだと述べた。

この言葉を受け、ナオは敵を完全に逃がすことなく、適切な対応を取る必要があると判断した。そして、第一巡回戦隊に、離脱する敵船団を追跡するよう依頼し、自身の責任のもとでコーストガードに応援要請を出すことを決定した。これにより、広域刑事警察機構が直接統制できる範囲を超えた活動も、正当な指示のもとで遂行できるようになった。

二手に分かれる決断

カリンは兵力の分散を懸念したが、ナオは戦争ではなく捜査活動であることを強調した。王国最速の艦である『シュンミン』ならば、必要な場合は迅速に撤退も可能であると説明し、最終的にカリンも指示に従うこととなった。

ナオは副長のメーリカに対し、第一巡回戦隊に対する正式な依頼を出し、全ての責任を自身が負うことを明確にした。そして、依頼と同時に収集した情報を開示し、電子証明付きの正式な書類を発行しておくよう指示した。これにより、万が一の際にも、責任の所在が明確となるよう配慮した。

その後、第一巡回戦隊から受諾の返信が届き、敵船団の追跡を開始するとの報告が入った。同時に、ナオは自艦の行動について「威力偵察後、撤退する」と伝え、作戦の実行に移った。

敵艦隊への突入

『シュンミン』は最大船速で敵艦隊中央へ突入を開始した。ナオはトムソンたちを戦闘区域から遠ざけるため、作戦検討室に移動させた。敵艦までの距離が縮まる中、航宙魚雷の射程に入ったため、牽制として各艦に一発ずつ発射を指示した。これは敵の隊列を乱すことを目的としており、十分な効果が期待された。

哨戒士のカスミは敵艦の種類を特定し、軍艦相当の艦が三隻、改造商船が二隻含まれていることを報告した。さらに、艦速の違いにより、軍艦と商船の間に距離が生じ始めていることも判明した。

新兵器「朝顔」の使用

この戦闘で、ナオは今まで使用してこなかった新兵器「朝顔」の存在を思い出した。これはレールガンの一種であり、エネルギー兵器が使用できない環境でも機能する。開発に携わったマリアが使用を強く求めたこともあり、ナオはこの兵器を主力攻撃に加えることを決定した。朝顔は自動追尾機能を備え、秒間三発の速射が可能であった。

さらに、ナオは戦術を調整し、敵艦隊の中央突破後に艦載機を発艦させ、改造商船を撃破する計画を立てた。これにより、『シュンミン』は軍艦相手の戦闘に集中できる状況を作り出すことが可能となった。

戦闘開始

敵艦隊が光学認識エリアに入ると、海賊たちは『シュンミン』を標的に砲撃を開始した。しかし、射程外からの攻撃であり、効果はなかった。カスミの報告によると、敵は発射された魚雷を艦載機と誤認し、主砲で迎撃しようとしている可能性があった。この行動は非効率的であり、ナオは牽制としての効果を実感した。

この時、第一巡回戦隊から連絡が入り、敵船団をレーダーで捕捉し追跡を開始したことが報告された。さらに、第二機動艦隊も最大船速で移動中であり、間もなく合流する見込みとなった。

『シュンミン』は敵中央部に突入し、全武装で攻撃を開始した。航宙魚雷、朝顔、パルサー砲を駆使し、敵の隊列を崩壊させていった。そして、改造商船の位置まで移動した後、艦載機を発艦させ、商船の制圧を開始した。発艦後、『シュンミン』は反転し、敵軍艦への再突入を開始した。

初めての負傷者

激しい戦闘の最中、『シュンミン』に被弾のアラートが響いた。被害状況を確認すると、中央底部の第五十七ブロックに金属片が突き刺さり、緊急隔壁が作動していた。被害は限定的であったが、三名の就学隊員が負傷し、救護室に運ばれていた。

警察組織である広域刑事警察機構は、軍のように艦ごとに医師を配置していない。コーストガードも同様であり、通常は戦隊単位で医師を配置している。しかし、『シュンミン』には専属の医師がいなかったため、負傷者の治療は乗員による応急処置に頼ることとなった。

ナオは、この状況が組織の脆弱さによるものだと痛感した。戦闘は続いており、負傷者の状態も完全には把握できていない。今後、戦闘が激化する中で、さらなる犠牲を出さないための対策が求められる状況となった。

戦闘の継続と負傷者の報告

戦闘はなおも続いていたが、ナオは負傷者の状況を把握するため、部下たちの報告を受けていた。第五十七ブロックの破損は推進力や攻撃力に影響を与えておらず、戦闘の継続に問題はなかった。

やがて負傷者の詳細が報告された。三名の乗員は飛来した金属片による裂傷や打撲を負ったものの、骨折などの重傷はなく、命にも別状はなかった。一名が手術を受けたが無事に終わり、全員救護室で休養をとっているとのことだった。

この報告を受け、ナオは安堵した。そして、今度は戦闘状況を改めて把握し、中央突破後の行動を決定した。

中央突破と敵艦の撃破

右舷側の敵フリゲート艦に対して「朝顔」弾や航宙魚雷が命中し、敵艦は次第に損害を受けていった。ナオは中央突破後、旋回しながら敵の二隻のフリゲート艦を先に撃破する方針を決めた。

『シュンミン』は最大速度のまま急旋回を開始し、発生する横Gに耐えながらも戦闘を継続した。旋回の影響で左舷側のイージス艦への攻撃が難しくなったため、攻撃目標を右舷のフリゲート艦二隻に集中させた。

その結果、航宙フリゲート艦Bは中央部に魚雷が命中し、船体が二つに裂けて撃破された。同時に航宙フリゲート艦Aも大破し、戦闘能力を喪失した。

敵イージス艦の脱出

右舷の敵を制圧した後、ナオは左舷のイージス艦の様子を確認した。敵の攻撃が減少していると報告が入り、カスミからの情報では敵イージス艦が進路を変更し、撤退を試みていることが判明した。

さらに、敵艦には異次元航行の前兆が見られた。異次元航行は通常、広い宇宙空間で行うものであり、小惑星帯のような障害物が多いエリアでは危険な行為であった。しかし、敵艦は戦闘エリアからの脱出を試み、そのまま姿を消した。

ナオは、この行動が無謀な逃走ではなく、事前に計算されたものではないかと推測した。海賊たちはこのエリアを熟知しており、撤退ルートを確保していた可能性があった。しかし、これ以上の追跡は困難であると判断し、戦闘の終了を決定した。

戦闘の終結と艦載機の回収

ナオは副長に指示を出し、艦内の警戒レベルを準戦状態に戻し、乗員の休息を確保するよう命じた。同時に、艦載機の無事を確認し、改造商船二隻の撃沈を報告させた。

その後、『シュンミン』は進路を変更し、艦載機の回収を開始した。カリン少尉は、無事に帰還した艦載機のパイロットたちを直接労いたいと申し出たため、ナオも同行することにした。

艦載機チームへの賞詞の準備

後部格納庫では、艦載機のパイロットたちが戦果を誇り、感激していた。カリン少尉が彼らを叱責しながらも労い、ナオは彼らの功績を讃えた。さらに、正式な賞詞を出すため、カリン少尉に推薦状を準備するよう指示した。

整備士のトーマス曹長も感謝の意を示し、艦載機の活躍が整備チームの支えによるものであることを強調した。ナオは彼らの働きを評価し、チーム全体を讃えるべく、殿下への推薦を進めると約束した。

負傷者の見舞いと今後の課題

ナオは救護室を訪れ、負傷した就学隊員たちの容態を確認した。彼らはまだ戦闘への恐怖を感じていたが、引き続き任務を続けたいと強い意志を示した。ナオは、無理に任務を続ける必要はないことを伝え、悩みがあれば必ず相談するよう命じた。

また、治療を担当したエーリンから、副長の「食肉も人の筋肉も同じ」という発言を聞かされ、軍医の不在が大きな問題であることを改めて認識した。ナオは今後、医療体制の強化を検討する必要があると感じた。

第五十七ブロックの確認と修理の準備

最後にナオは第五十七ブロックを訪れ、破損の状況を確認した。金属片が艦の外壁に突き刺さったままの状態であり、応急処置は施されていたが、空気の漏れが続いていた。短時間の調査を終えた後、ナオは修理の優先度を高めることを決定した。

艦橋に戻ると、副長は広範囲の探索を命じており、戦闘エリアに敵の残存勢力がいないことを確認していた。ナオはこれを受け、艦内モードを通常に戻し、修理作業を開始するよう命じた。

デブリの回収と捜査員の協力

戦闘後の処理として、戦場に漂うデブリの回収を行うことが決定された。ナオは捜査員のトムソンに協力を依頼し、艦載機と内火艇を使用して残骸の探索を行うよう手配した。

捜査員たちはデブリの中から重要な情報を回収し、トムソンはナオの依頼を快諾した。さらに、ナオは副長に命じ、第五十七ブロックの修理作業を本格的に開始するよう指示した。

艦内は通常モードに戻ったものの、修理やデブリ回収の作業が続き、忙しさは増していった。戦闘は終わったが、次なる行動の準備はすでに始まっていた。

第二機動艦隊との連携

第一巡回戦隊から通信が入り、第二機動艦隊との合流が無事に完了したとの報告が届いた。これにより、指揮権は第二機動艦隊司令官に移り、捕捉中の船団の制圧作戦が開始されることとなった。ナオはこれを確認し、情報の継続的な共有を依頼した。

その後、第二機動艦隊司令官から直接の通信が入り、殿下の依頼により第一巡回戦隊の応援に入るとの報告があった。状況が変わり次第、情報を公開するとのことで、ナオは丁寧に感謝の意を伝えた。

第五十七ブロックの修理完了

副長のメーリカが船外活動を終えて艦橋に戻り、第五十七ブロックの応急修理が完了したことを報告した。スカーレット合金の一部が剥がれたものの、大きな被害はなく、外部から鋼板を溶接したことでブロックの閉鎖を解除できる状態になった。ナオは即座に解除を指示し、艦内の移動の利便性を回復させた。

捕虜の問題と収監施設の課題

デブリ処理は進まず、救助された者の身元確認も難航していた。救助者の中には明らかに拉致被害者と思われる者もいたが、海賊関係者かどうかの判別がつかず、トムソンに調査を一任することとなった。

この艦には収監施設がなく、士官用の豪華な個室が多数空いていたため、暫定的に隔離施設として利用することになった。しかし、海賊たちを上級個室に収監するのは適切ではなく、今後の課題として収監施設の設置を検討する必要があった。

デブリ処理と首都星との交渉

船内からの情報収集や遺体処理など、多くの作業が発生し、捜査員たちは警察機関としての責務を果たすべく動いていた。しかし、作業の進捗は遅く、首都星の殿下と交渉の末、探索の一部を他機関に依頼することが決定した。それまではこの場にとどまり、作業を継続することになった。

応援の到着が翌日に予定されており、ナオたちは引き継ぎ後にこの場を離れることが決まった。しかし、救助された者たちの正体が判然とせず、拉致被害者として扱うには確証が得られなかった。以前、臓器売買の基地で救助された者の中にも海賊の一味が紛れていた事例があり、慎重な対応が求められた。

第二機動艦隊の戦果と残存戦力

第二機動艦隊は捕捉した船団に対し停船を求めたが、相手が発砲したため交戦となり、海賊船三隻の拿捕に成功した。また、改造船八隻および軍艦三隻を撃破したが、軍艦四隻の逃亡を許した。

これにより、シシリーファミリーの残存戦力として、最低でも五隻の軍艦が健在であることが判明した。さらに、海賊たちの拠点の存在も確実視され、第二機動艦隊の調査により拠点の位置が特定された。司令官はナオに協力を求め、拠点制圧作戦への参加を打診した。ナオは即座に同意し、明日の合流後、作戦の詳細を詰めることとなった。

艦内会議と今後の方針

ナオは士官たちを集め、今後の方針を説明した。単調ながら膨大な作業に追われていた乗員たちは、この場を離れる決定に賛成した。しかし、マリアは帰還できるわけではないことを確認し、ナオは第二機動艦隊と合流後に海賊拠点の制圧に向かうと告げた。

危険な任務になる可能性はあったが、今回は第二機動艦隊が指揮を執るため、ナオたちは補佐的な立場での参加となる見込みだった。応援の到着を待ちつつ、次の作戦に備えることとなった。

王国宇宙軍の接近

翌日、哨戒中のカスミから、王国軍の艦隊が接近しているとの報告が入った。まだ通信はなかったが、王国軍の艦隊であれば、こちらをレーダーで捕捉した後に連絡が来ると予想された。

ナオは不測の事態を避けるため、コーストガードのフォーマットに則った身元照会の無線を発するよう指示した。王国軍の一部はナオたちを敵対視しており、事前に身元確認を行わなければ、軍との衝突が発生する可能性があった。

『ホウオウ』の到着と殿下の来訪

無線の応答を確認した結果、接近していたのは王国宇宙軍本部直属の艦隊であり、その旗艦『ホウオウ』がナオたちの元へ向かっていることが判明した。しかも、同艦には殿下が乗っていた。

ナオは驚きながらも、すぐに通信を繋ぎ、殿下と会話を交わした。殿下によれば、先の事件は王国内でも大問題となり、宇宙軍の改革が急速に進められているとのことだった。その一環として、スペースコロニーの管理が宇宙軍本部直轄となり、本部からの派遣者が訪れることになったため、殿下も同行したという。

また、第二機動艦隊の指揮権が正式に移譲されることになり、今後の作戦について宇宙軍と調整する必要があった。

『ホウオウ』への訪問と軍高官との会談

ナオは副長とカリン少尉を伴い、『ホウオウ』に向かった。艦内では儀仗兵による正式な迎えが準備されており、ナオは軍の戦隊司令として迎え入れられた。

会談には第一艦隊司令長官、第一艦隊参謀長、宇宙軍本部主席参謀などの高官が出席していた。会議では、先の事件に対する軍の謝罪が正式に行われた。軍はすでに殿下へ謝罪を済ませていたが、ナオ本人への謝罪が求められたため、非公式な会合が設定されたのだった。

続いて、今後の方針について話し合いが行われた。宇宙軍は、補給艦護衛戦隊の管理を軍本部直属とすることを決定し、今回の作戦にも積極的に関与する意向を示した。殿下の要請により、デブリ処理には軍が三隻派遣され、拠点制圧作戦にも三隻の軍艦が参加することが決定した。

王国軍とコーストガードの関係

近年、宇宙軍とコーストガードの関係は緊張しており、特にコーストガードが殿下の傘下に入る可能性が取り沙汰されていた。殿下が宇宙軍とコーストガードの対面を意図的に設定したのではないかとの推測もあった。

ナオはこの場で殿下の意図を完全には理解できなかったが、結果的に軍との協力体制が整い、今後の作戦遂行に向けた基盤が固まることとなった。

殿下の同行と独自行動の決定

拠点制圧作戦において『シュンミン』も同行することが決まったが、第二機動艦隊の指揮下には入らず、独自行動を取ることとなった。これ自体に問題はなかったが、最大の懸念は殿下が『シュンミン』に乗船し、現地へ赴くことであった。『ホウオウ』での移動が可能であったにもかかわらず、拠点制圧の指揮権がコーストガードにあることから、『ホウオウ』は作戦に参加しないことが決まっていた。その結果、殿下の移動手段として『シュンミン』が選ばれ、軍本部の参謀部から数名の士官も同乗することになった。

メーリカは変わらず冷静であったが、カリンは軍のお偉方が乗り込んでくることに多少の困惑を見せた。さらに、コーストガードの第二機動艦隊からも士官が連絡役として加わることが決まり、『シュンミン』の乗員は大幅に増加することとなった。

『シュンミン』への帰還と殿下の迎え入れ

『ホウオウ』の内火艇で『シュンミン』に戻ると、フェルマンや殿下付きの護衛らがすでに到着しており、殿下を迎え入れる準備が整っていた。艦内では保安員による出迎えの儀式が行われ、ケイトも儀礼に参加していた。さらに、ケイトはナオに『シュンミン』の指揮権を返上し、士官として成長した姿を見せた。

その後、ナオは艦橋に向かおうとしたが、フェルマンに呼び止められ、殿下の部屋へ同行することとなった。そこで紅茶を振る舞われつつ、フェルマンから王国の騒動について説明を受けた。ナオの拘束は王国全体を揺るがす大問題となっており、第二艦隊の司令部が軍警察に包囲される事態にまで発展していた。殿下はこの件を受けて、『ホウオウ』の派遣を決断したとのことであった。

作戦準備と会議室の再利用

殿下は『シュンミン』の小ささを考慮し、軍の参謀らをどこに待機させるかを気にかけた。多目的ホールを使用する案もあったが、ナオは艦橋直近の作戦検討室を使用することを提案した。これまで休憩室として使われていたが、今回は本来の目的通り、指揮拠点として機能することとなった。

一方、作戦検討室の清掃が進められており、負傷していた就学隊員も復帰し、清掃に励んでいた。ナオが彼女たちの回復を確認すると、彼女たちはまだ軍医の診察を受けていないものの、軽作業には問題がないと報告した。その様子を見た殿下も彼女たちに声をかけ、作業を労った。

ナオの事務作業と殿下の提案

ナオは作戦前に事務作業を進め、特に艦載機チームの賞詞の申請に取り組んでいた。カリンから推薦状が届いており、ナオは司令として戦闘記録を添えて申請書を作成した。しかし、軍のフォーマットが広域刑事警察機構の仕様と異なるため、調整に苦労していた。

そんな中、殿下が部屋を訪れ、ナオの業務量の多さを把握した上で、秘書官を手配することを約束した。さらに、艦載機チームの功績を正式に認め、叙勲を検討するとも述べた。カリンの叙勲も含まれることになり、ナオはこの決定に驚きながらも、彼女の活躍が正当に評価されることを喜んだ。

作戦開始と『シュンミン』の高性能

作戦が開始されると、ナオは副長に艦橋を任せ、作戦検討室へ移動した。ここで、第二機動艦隊および宇宙軍の準備が整ったことが報告され、ナオが司令官に作戦開始を伝達した。

哨戒中のカスミからは、前方五宇宙距離以内に障害物は確認されていないとの報告が入った。この報告を聞いた軍の参謀たちは驚き、なぜそんな遠距離まで探知できるのかをナオに問いただした。ナオは『シュンミン』が最新の哨戒システムを搭載していることを説明したが、軍の標準規格にない装備であることが彼らの関心を引いた。

その後、カスミから新たな報告が入り、前方に二隻の航宙フリゲート艦が存在することが判明した。これにより、作戦の展開が大きく変わる可能性が浮上した。

敵の早期発見と艦載機の偵察

カスミの報告を受け、ナオは敵の詳細を確認するため、艦載機による偵察を提案した。殿下の許可を得た後、第二機動艦隊にも索敵の許可を求めた。艦隊司令官は半信半疑ながらも了承し、同時に自艦隊からも索敵機を出すことを決定した。

約一時間後、艦載機からの報告により、敵艦の正体が以前の戦闘で逃げた航宙フリゲート艦であることが判明した。さらに三十分後、第二機動艦隊も敵艦を確認し、全艦戦闘態勢に移行した。

圧倒的戦力差と敵の降伏

第二機動艦隊と宇宙軍の応援艦隊が戦闘態勢に入ると、敵は一切の抵抗を見せずに降伏した。海賊たちは王国内の高官にコネがあると考え、投降後の処遇についても楽観視している様子だった。

降伏した二隻の軍艦は鹵獲され、一隻のフリゲート艦が監視のために残された後、艦隊は作戦の本命である拠点へ向かった。目的地は資源採集用の小惑星であり、接近する艦隊を前に、敵はほぼ無抵抗のまま制圧された。

拠点制圧の完了と作戦の終結

拠点制圧には宇宙軍の陸戦部隊二個中隊と、第二機動艦隊の決死隊一個大隊が参加した。わずかな抵抗があったものの、大半は降伏し、作戦は短時間で終了した。拠点内に宇宙船ポートがあり、旗艦『タナミ』が入港して指揮所が設置された。第二機動艦隊司令官も上陸し、指揮を執ることになった。

殿下は作戦のあまりにも呆気ない終わり方に拍子抜けし、艦隊司令官に戦闘終了の公式宣言を求めた。司令官も同意し、全将兵に向けて作戦の終了が伝えられた。殿下も将兵に向けて感謝の言葉を述べ、士気を高める場面となった。

シシリーファミリーの壊滅と今後の課題

シシリーファミリーは本拠地を失い、残存戦力はわずかとなった。王国の悪徳貴族との癒着も断たれ、復活の可能性は極めて低いと見られた。しかし、ナオたちが本来追っていた菱山一家のカーポネ一味については、未だに手がかりがつかめていなかった。

作戦の成功により、ナオの部隊の任務は一段落し、今後は『シュンミン』のドック入りが予定されていた。また、殿下が約束した秘書官の手配も進められており、ナオの負担が軽減される見込みであった。ナオは殿下の指示を待ちつつ、一刻も早く帰還することを願った。

番外編 くそったれ〜

腐敗した司法と無力な警察

トムソン・コロンビアは、ニーム星系の辺境にある準惑星で警官を務めていた。彼が追っていた誘拐犯が、この地を拠点とする海賊の手先であると判明し、捜査の許可を求めたが、上司から即座に中止を命じられた。理由を尋ねても曖昧な答えしか返ってこず、最後には「スラムの子供が攫われても治安には影響しない」とまで言われた。この理不尽な対応に怒りを覚えたトムソンは、捨て台詞を残して警察署を出ると、場末のバーでやけ酒をあおった。

誘拐犯の逮捕と司法の腐敗

独自にスラムを巡回し、ついに誘拐犯を現行犯で逮捕した。しかし、犯人はこの地の領主である子爵家に連なる庶子であった。貴族籍を持たないため逮捕に問題はないと考え、警察署に連行したが、上司である警視から激しく叱責された。トムソンは、王国の法律では貴族であっても罪を犯せば逮捕されると反論したが、警視は動揺し、関係各所に電話をかけ始めた。

翌日、犯人は留置場から姿を消していた。釈放された形跡もなく、逮捕記録も消され、まるで最初から存在しなかったかのように処理されていた。トムソンは、警察以外にも記録が残るように裁判所に逮捕状を請求していたが、それも翌々日には抹消され、逮捕状の連番には欠番が発生していた。さらに、役所の記録からも犯人の存在そのものが消されており、彼は完全に「この世にいない者」となっていた。

執拗な追跡と海賊との関係

司法制度に失望しながらも、トムソンは諦めず、消えた犯人の行方を追い続けた。貴族に連なる者であれば、国外に逃がされる可能性が高いと考え、宇宙港を重点的に監視していた。すると、ついに姿を現したが、彼は宇宙軍の軍艦に乗せられ、飛び立っていった。

トムソンは、誘拐犯を足がかりに海賊の拠点を突き止めようとしていたが、貴族と海賊の間には見えない壁があり、警察の捜査が及ばないようになっていた。それでも、ここまで露骨な形で軍が関与しているのは初めてのことであり、彼の絶望は深まった。

その夜、彼は行きつけのバーで飲んだくれていたが、突然アウトローに襲撃された。しかし、トムソンは返り討ちにし、襲撃者を逮捕した。だが、その件も翌日には「なかったこと」にされ、怒りに震えながら上司に抗議したところ、その場で左遷を言い渡された。もはや警察に留まる意味がないと悟った彼は、その日のうちに辞表を提出した。

九死に一生と王女の招待

失意の中、故郷へ戻るため宇宙船の予約を取ったが、その夜に尿管結石で緊急入院となった。三日後、退院を控えた彼は、衝撃的なニュースを目にする。彼が搭乗予定だった宇宙船が海賊に襲われ、乗員乗客全員が死亡したというのだ。彼は自分が海賊から恨まれていることを痛感し、身の振り方を考え始めた。

そんな折、病室に「第三王女殿下の使者」と名乗る者が訪れた。使者は、王女が彼の捜査能力と海賊に対する執念を高く評価し、スカウトしたいと考えていると伝えた。トムソンは半信半疑だったが、使者は「王女殿下はこの国の腐敗を憂いており、貴族の妨害を受けずに捜査ができる環境を提供する」と約束した。

彼は、ここに留まってもいずれ海賊に狙われると考え、王女の申し出を受けることを決意した。そして、使者と共に軍艦に乗り込み、王都へ向かった。

王都でのスカウトと新たな任務

王都のファーレン宇宙港に到着すると、彼は王女殿下と直接面会し、その場でスカウトされた。さらに、捜査責任者として部下を集めるよう依頼された。彼はすぐに旧知の部下三人を王都へ呼び寄せたが、王女は多忙で直接会う時間が取れず、代わりに執事のフェルマンが相談役としてついた。

その後、王女の指示で各地の警察に潜む優秀な捜査員を集めることになった。彼の新たな任務は、貴族の干渉を受けずに海賊を追跡し、壊滅させることだった。

王女の約束と未来への決意

王女はトムソンに「捜査に聖域は作らない」と誓い、必要とあれば王宮内部の捜査も許可すると約束した。さらに、彼が最も懸念していた「海賊が宇宙へ逃げた場合」の対策として、「英雄が率いる軍艦を用意する」とまで断言した。

彼はこの言葉を聞いた瞬間、王女殿下こそがこの国の最後の希望であると確信した。そして、これまでやけ酒で現実逃避していた日々とは決別し、王女の下で新たな道を歩む決意を固めた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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