小説「烏衣の華」美貌の巫術師×堅物若君の中華退魔ファンタジー 感想・ネタバレ

小説「烏衣の華」美貌の巫術師×堅物若君の中華退魔ファンタジー 感想・ネタバレ

どんな本?

『烏衣の華』は、白川紺子 氏による中華退魔ファンタジー小説である。

物語の概要

霄(しょう)の京師(みやこ)には、稀代の巫術師と噂される董月季(とうげっき)がいる。彼女は幽鬼を祓い、王朝を守護する巫術師の名門・董家の娘でありながら、主に市井の人々を顧客としている。ある日、名家・鼓方(こほう)家からの依頼を受け、幼馴染みで許婚の封霊耀(ほうれいよう)を伴い、楊柳島(ようりゅうとう)へ赴く。そこで鼓方家に現れる女の幽鬼の調査を始めるが、依頼人が死亡する事件が発生し、物語は展開していく。

主要キャラクター
董月季(とうげっき):幽鬼を祓う巫術師の名門・董家の娘。美貌と天才的な巫術の才能を持ち、風変わりな性格で知られる。
封霊耀(ほうれいよう):月季の幼馴染みで許婚。堅物な性格の若君であり、月季の護衛役として共に行動する。

物語の特徴

本作は、天才巫術師の少女と堅物な許婚が謎を解く中華退魔ファンタジーである。幽鬼や巫術といった要素を取り入れた独特の世界観が魅力であり、登場人物たちの人間関係や成長も丁寧に描かれている。また、白川紺子の他作品『後宮の烏』や『海神の娘』と同じ世界観を共有しており、これらの作品を読んだ読者にも新たな発見がある。

出版情報
出版社KADOKAWA
発売日:2024年4月25日
ISBN:9784041146170

読んだ本のタイトル

烏衣の華
著者:白川紺子 氏

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あらすじ・内容

風変わりな天才巫術師の少女と許婚が謎を解く、中華退魔ファンタジー!

霄(しょう)の京師(みやこ)には、稀代の巫術師(ふじゅつし)がいる。
そう噂される董月季(とうげっき)は、
幽鬼を祓い王朝を守護する巫術師の名門・董家の娘だ。
しかし彼女の顧客は市井の人々。
ある日、名家・鼓方(こほう)家からの依頼を受け、
彼女は楊柳島(ようりゅうとう)へ行くことに。
お目付役として、幼馴染みで許婚の封霊耀(ほうれいよう)を伴い、
鼓方家に現れる女の幽鬼の調査を始める。
しかしその矢先、依頼人が死亡する事件が起きて……。
秘密を抱えた美貌の巫術師×堅物若君の中華退魔ファンタジー!

烏衣の華

感想

主な出来事は以下の通り。

董月季と霊耀の背景
• 月季は若くして皇帝の信頼を得た稀代の巫術師である。
• 封霊耀は巫術の才を欠き、名門の嫡男としての葛藤を抱えていた。

幽鬼事件と月季の救助
• 商人を追う幽鬼に霊耀が立ち向かうも力及ばず倒れた。
• 月季が現れ、幽鬼を祓い安らぎを与えた。

幽鬼の真相と月季の冷徹さ
• 月季は幽鬼となった女性が商人に虐待され死んだことを明かした。
• 商人の末路を冷静に見届ける月季に霊耀は複雑な感情を抱いた。

許婚の関係と楊柳島への同行
• 月季が幽鬼調査の依頼を受け、霊耀が護衛を任された。
• 彼らは複雑な許婚関係を抱えつつ同行を決意した。

過去の思い出と成長
• 幼少期に月季が霊耀を救ったことで、霊耀は自らの無力さを痛感した。
• 月季は霊耀への感謝と特別な想いを抱き続けていた。

継母による虐待と力の覚醒
• 幼い月季は継母から虐待を受け、異形の化け物が継母を殺害したことで救われた。
• その後、初めて巫術を使い霊耀を助けたことで力を認識した。

楊柳島での調査と依頼主の死
• 月季と霊耀は幽鬼の調査で島を訪れるも、依頼主が幽鬼の祟りで亡くなる。
• 依頼主の死に動揺する月季を霊耀が励まし、調査を続ける決意を固めた。

家宝と祟りの真相
• 家宝の謎を追い祖廟で螺鈿の衣を発見した。
• その衣が祟りの原因と悟り、湖に沈める決断をした。

妄執の塊との対峙
• 月季は湖畔で妄執の塊と戦い、剣で断ち切ることで祟りを終わらせた。

旅の終わりと新たな始まり
• 月季と霊耀は島を後にし、渓も同行して新たな旅路を進む決意を固めた。
• 船上で霊耀は月季に「間違っていない」と伝え、彼女を救った。

総括

後宮の烏との繋がり
本作は『後宮の烏』と同じ世界を舞台にしている点が印象的である。巫術という独特の概念を引き継ぎながら、異なる時代やキャラクターが物語を彩っている。月季と霊耀の関係性が複雑で、読み進めるほど感情移入できる展開であった。

月季と霊耀の関係性の妙
月季は巫術師としての才に溢れ、霊耀はその劣等感に悩む姿が描かれている。このねじれた許嫁関係が物語の核となり、二人のすれ違いや感情の揺れが読者の心を惹きつけた。特に月季の一途な想いと健気さが印象的であった。

呪いと幽鬼の謎解きの面白さ
鼓方家にまつわる呪いと幽鬼の謎解きは、緊張感に満ちていた。祟りの正体が徐々に明らかになる過程が巧妙であり、月季と霊耀が協力して困難に立ち向かう姿が描かれている。

期待感を抱かせる結末
本作は序章的な要素が強く、続編への期待を高める内容であった。月季と霊耀がどのように成長し、関係を深めていくのか楽しみである。また、シリーズとして展開される可能性が高く、次作に期待が寄せられる。

感動と考察の余韻
月季と霊耀の物語は感動的でありながら、巫術や祟りについて深く考えさせられる要素も多かった。美しい世界観とキャラクターの魅力が詰まった本作は、シリーズを通じてさらなる発展が期待できる内容であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

第一章  月季と霊耀

董月季の評判と霊耀の葛藤
霄の京師で、董月季は稀代の巫術師として名を馳せていた。十七歳という若さでありながら、幽鬼や呪詛をたちどころに祓う才に恵まれ、皇帝からの信任も厚かった。一方、封霊耀は市で朱墨を購入中に同輩たちから侮辱を受けたが、毅然とした態度で対応した。霊耀は巫術の才を欠いており、名門・封家の嫡男としての立場に葛藤を抱えていた。

幽鬼の出現と月季の救助
市の喧騒の中、幽鬼が商人を追う事件が発生した。霊耀は護符を用いて幽鬼に立ち向かったが、力及ばず傷を負った。そこへ黒衣をまとった月季が現れ、優雅な動作で幽鬼を祓った。幽鬼は安らぎを取り戻し、月季の導きで楽土へ旅立った。観衆の前で見せた月季の冷静さと卓越した術が周囲を驚嘆させた。

幽鬼事件の真相と月季の冷徹さ
幽鬼を祓った後、月季は幽鬼となった女性が商人に虐待され命を落とした過去を明かした。その罪が捕吏により暴かれると、月季は微笑みを浮かべながら商人の末路を静観した。その冷徹さには、霊耀も複雑な心情を抱いた。

許婚としての関係と依頼の同行
董家の依頼で、月季が楊柳島の幽鬼事件を調査することが決まり、霊耀は彼女の護衛を任された。月季が朱墨を届けに来た際、霊耀は彼女の親切を受け入れざるを得ず、同行を承諾した。許婚としての関係における彼らの複雑な心情が浮き彫りとなった。

過去の思い出と月季の成長
月季が霊耀を初めて助けたのは幼いころであった。その時から月季は圧倒的な才を見せ、霊耀に自らの無力さを痛感させた。一方で、月季は霊耀に救われた記憶を大切にしており、彼に特別な感情を抱いている様子がうかがえた。

董家での安らぎと祖父の影響
月季が董家に引き取られて以来、祖父である董千里の存在は彼女にとって大きな支えとなっていた。彼女は祖父の話に耳を傾け、幼いころの恐怖から解放されている安心感を享受していた。祖父の語る「烏妃」の話は、月季にとって心の平穏を与える象徴であった。

楊柳島への期待
楊柳島での依頼は、幽鬼と向き合う月季にとって重要な任務であると同時に、霊耀にとっても自らの存在意義を再確認する機会となる予感を漂わせていた。

継母による虐待とその最期
月季は幼いころ、継母から壮絶な虐待を受けていた。体に火傷を負わされ、背中を鞭打たれる日々であったが、顔や手に傷をつけられることはなく、表面上は隠されていた。ある日、継母が火箸で月季の目を潰そうとした際、異形の化け物が現れ、継母を殺害した。その後、継母の悪事が露見し、月季は遠縁だとされる董家に引き取られることになった。

継母の幽鬼と月季の力の覚醒
董家に引き取られた月季を、継母の幽鬼が追い続けた。その幽鬼は四肢が不自然に接合され、赤い衣に身を包んでいた。月季は恐怖から逃れるため市へと迷い込むが、そこで霊耀と再会する。幽鬼に追いつかれた際、月季は初めて自身の力を用い、霊耀を助けるために幽鬼を祓った。この経験が、月季に自らの力の強さを認識させる契機となった。

霊耀との関係と月季の想い
霊耀は月季を許婚として受け入れながらも、彼女の存在に複雑な感情を抱いていた。月季は霊耀の真面目さを慕いつつも、自分が彼にとって負担であることを理解していた。それでも、彼がいつか自分を受け入れてくれる日を密かに望んでいた。

楊柳島への出発
楊柳島への出発の日、月季は身軽な装いで現れた。侍女や従者を連れず、霊耀と二人で旅をすることを決意していた。出発前の船着き場では、冬官府の祀典使と思われる一行を目にするが、二人の関心は旅先へと向けられた。楊柳島は歓楽街として知られる島であり、彼らの依頼主もこの島に住む鼓方一族の分家であった。

島への期待と不安
船旅の中で月季は楊柳島や依頼主について語った。依頼主には幽鬼が取り憑いており、それが親戚の女性である可能性が高いという話であった。月季と霊耀は、この依頼を通じてさらなる困難に直面する予感を抱きつつも、前に進む覚悟を決めていた。

第二章  楊柳島の幽鬼

楊柳島の到着と花街の様子
船が港に到着すると、霊耀と月季は華やかな花街の光景に迎えられた。高楼に灯る赤い提灯が島全体を彩り、活気あふれる雰囲気であった。迎えに来た使用人に案内され、二人は依頼主の旅館『清芳楼』へと向かった。街は明るく賑やかで、港から続く石畳の坂道には料理屋や酒屋がひしめき合っていた。

依頼主との対面と幽鬼の出現
『清芳楼』に到着した二人は、主人の鼓方洪と対面した。洪は病的に青ざめた顔をしており、その背後には水に濡れた幽鬼が立っていた。幽鬼は美しい襦裙を着ていたが、その様子は異様であり、月季は幽鬼に名を呼びかけたものの、反応はなかった。洪は怯えながら幽鬼の存在を訴え、東鼓家の娘、寄娘であると説明したが、幽鬼が現れる理由は不明であった。

幽鬼の正体と月季の疑念
月季と霊耀は幽鬼の背景を探るため、東鼓家を訪問した。寄娘の父親である東鼓氏は娘の死に悲しみながらも、幽鬼が鼓方洪に現れる理由については何も知らないと語った。しかし、その態度には動揺が見え、何かを隠している可能性がうかがえた。さらに月季は寄娘の侍女に会う必要があると考え、侍女の生家を訪ねることにした。

侍女の証言と寄娘の異変
侍女は寄娘の死について涙ながらに語り、彼女が黒い影に川へ引きずり込まれるのを目撃したと証言した。さらに、寄娘は亡くなる直前、何かに怯えていたと明かした。その怯えは、青湖と呼ばれる湖が黒く変色したという噂を聞いた後から始まったという。湖の変色が寄娘の恐怖と死にどう関係しているのかは不明であったが、月季と霊耀は真相を探るため、青湖へ向かうことを決めた。

湖の変色の謎と次なる行動
湖が変色していたのは一時的で、すぐに元の青さに戻ったとされる。寄娘が怯える原因となったその出来事と、彼女の死を結びつける手がかりを得るため、二人は青湖を調査することを選んだ。未知の脅威への不安を抱きながらも、二人は島の謎に迫るべく行動を開始した。

湖への訪問と鬼鼓家の出迎え
霊耀と月季は青湖を調べるため、小舟を借りて鬼鼓家を訪問した。鬼鼓家は粗末なあばら家で、鼓方一族の他の分家とは対照的であった。出迎えた青年は月季の話を聞くことなく追い返そうとし、さらには薪を投げつけてくる始末であった。霊耀は怒りを見せたが、月季に諭され、その場を後にした。

鼓方洪の不在と昼食の場
霊耀と月季は『清芳楼』に戻るも、鼓方洪は本家へ出かけており、戻る予定がないと告げられた。昼食には月季の提案で路地裏の料理屋へ向かい、肉饅頭や鴨肉の羹を堪能した。食事をしながら鼓方一族や寄娘の幽鬼について語り合うが、依然として謎は多かった。

鼓方洪の死と月季の動揺
その夜、鼓方洪が青湖で亡くなったとの知らせが届いた。使用人によれば、洪は酔って溺れた可能性が高いとされていたが、真相は不明であった。この報せを受け、月季は自らの判断の甘さを悔やみ、激しく動揺した。霊耀は幽鬼のしわざと決めつけるのは尚早だと励まし、月季も再び冷静さを取り戻した。

東鼓家の突然の引っ越し
翌朝、霊耀と月季は東鼓家を再訪したが、屋敷はほぼ空き家となっていた。家主と家族は亡き寄娘の件を機に島を去ったとのことで、屋敷にはわずかな使用人しか残されていなかった。突然の移動に二人は困惑したが、さらなる手がかりを求める決意を新たにした。

北鼓家に現れた幽鬼
『清芳楼』に戻った二人に驚きの報せが入った。鼓方洪の幽鬼が北鼓家の門前に現れたという。この新たな出来事により、二人はさらなる調査を進める必要に迫られた。

第三章  神罰

北鼓家の幽鬼と月季の試み
北鼓家の門前には、亡くなった鼓方洪の幽鬼が現れていた。北鼓家当主の北鼓瀚は幽鬼を祓うよう月季に依頼したが、月季は洪を祓除できなかったことに触れ、不安を抱きながらも儀式を行った。しかし、幽鬼はその場から消えることはなかった。洪の幽鬼は憎悪や怨念を見せることなく、ただ静かに佇むのみであった。

洪の死因と『清芳楼』での調査
霊耀と月季は洪の亡骸が戻された『清芳楼』を訪れ、棺の中の遺体を確認した。洪の死因は溺死とされたが、使用人の話では、洪が酒楼で泥酔していた様子はなく、むしろ怯えた様子を見せていたという。また、洪は湖の祠について何かを語っていたらしく、その点が不自然であった。二人はさらに真相を追うため、本家への訪問を試みた。

鼓方本家での門前払い
鼓方本家に向かった月季と霊耀は、当主との面会を拒まれた。使用人によれば、当主は月季たちの助けを必要としていないとのことであった。本家では洪の訪問後に何かが話された可能性が示唆されたが、それ以上の情報を得ることはできなかった。

鬼鼓渓との対話と湖の祠
湖の祠について調べるため、霊耀たちは再び鬼鼓家を訪ねた。青年・鬼鼓渓は最初こそ態度が険しかったが、最終的に湖への案内を承諾した。渓によれば、湖上の祠には鼓方家が信仰する青衣娘娘という水神が祀られているという。渓は、この騒動は水神の罰であり、自分たちではどうにもならないと語り、月季たちに調査をやめて帰るよう促した。

水神青衣娘娘の謎
湖上の楼閣と水神青衣娘娘の存在は、鼓方家の問題の核心を示唆していた。渓の話によれば、水神の怒りが鼓方家にもたらす死であり、この問題には巫術師の手では解決できないとされていた。渓の言葉は月季と霊耀に深い思索を促し、二人は更なる調査を進めるべきか悩むこととなった。

祖廟の訪問と塑像の謎
霊耀たちは湖からの帰り道、鼓方家の祖廟を訪れた。楼閣には初代当主の塑像が祀られ、豪華な錦の衣が新調されていた。塑像の古びた姿と対照的な衣装が、異様な印象を与えていた。渓は子供のころこの像が怖かったと語り、香を供えて退出した。月季は次に本家を訪れる意向を示し、渓は案内を断った。

裏門からの本家訪問
月季と霊耀は本家の裏門から入り、使用人である老爺と会話した。老爺は洪が本家を訪問した際、父親にすがるような様子だったと語った。洪は「この家のせいだ」と訴えたが、父親に追い返されたという。老爺は、洪が抱えていた事情については詳しく知らないまま、話を終えた。

北鼓家の混乱と幽鬼の消失
北鼓家に到着すると、洪の幽鬼が門前から消えており、邸内は騒然としていた。次男の滄が洪の幽鬼に指名されたことで恐怖し、家を飛び出していった。長男の汀や母親は取り乱していたが、当主の瀚は彼を引き留めることなく、事態を静観するような態度をとっていた。

鼓方当主との対峙
月季は北鼓家で鼓方当主・淵と対面した。淵は月季に依頼を断るよう圧力をかけ、「青衣娘娘の罰」として鼓方一族の死を受け入れる姿勢を示した。月季は依頼を断らない意志を伝え、さらに犠牲者が出る可能性を示唆したが、淵は答えずその場を立ち去った。

月季の決意と調査の継続
月季と霊耀は『清芳楼』に戻り、鼓方家にまつわる謎を解明する決意を新たにした。月季は「青衣娘娘の罰」に隠された真実を暴き、これ以上の死を防ぐことが自分の責務であると考えた。彼女の強い意志に、霊耀も調査の継続を認めざるを得なかった。

第四章  裏切りの血脈

北鼓家当主夫人との対話の準備
月季は北鼓家の当主夫人に話を聞くため、清芳楼を出た。途中、食堂で「島を出る船が転覆した」との話を耳にした。船が川に投げ出された乗客のほとんどは助かったが、一人だけ行方不明とのことであった。月季はその一人が北鼓家の次男滄ではないかと疑ったが、北鼓家に向かう前に港で身元を確認することにした。

渓との再会と北鼓家の次男の遺体
港に着いた二人は、偶然にも渓が小舟で川を捜索しているのを見つけた。渓は鼓方当主の命令で滄の遺体を探しており、崖近くで遺体を発見した。渓は鼓方一族の文身があるため、遺体を秘密裏に処理しなければならないと説明した。この風習が島外では異様に見られることから、当主が隠蔽に力を注いでいることが伺えた。

月季と霊耀のすれ違い
遺体を北鼓家へ運ぶ渓と別れた後、月季と霊耀は花街に向かい、次の行動を話し合った。月季は渓を深く信じきれない様子であったが、霊耀は「すべてを打ち明けないからといって信じない理由にはならない」と述べた。この対立の中で、月季は渓の抱える深い傷を察しながらも、彼を完全に信じることができず苦悩していた。

嵐の夜と月季の不安
その夜、嵐が訪れ、二人は安全のため同じ部屋で休むこととなった。月季は夜や夢への恐怖を吐露し、「もし私が何も持たない弱い少女だったら、好きになってくれた?」と霊耀に問いかけた。問いの真意を測りかねる霊耀は答えられず、心に漠然とした罪悪感を抱きながら沈黙した。

嵐の明けた朝
嵐が静まり、霊耀が目覚めると、月季はすでに起きていた。着替えを済ませた月季は雨戸を開け、青空が見えたが、まだ雲が残る天気であった。霊耀は顔を洗い支度を整え、朝食を取りに食堂へ向かったが、嵐の影響で混雑していたため、肉饅頭を持ち帰って部屋で食べることにした。

北鼓家長男の来訪
食事を終えたふたりのもとに北鼓家の長男・汀が訪ねてきた。やつれた様子の汀は、次男・滄の死後、母親が父親を殺し、自身も命を絶ったと語った。彼の話は、鼓方一族にかけられた呪いにまで及び、初代当主が異国から来て犯した罪が、一族に祟りとして現れていると告白した。

呪いの詳細と死の連鎖
汀は鼓方家初代が青衣娘娘を祀るようになった経緯を語った。初代は主家を裏切り、その妻である巫女を含む複数の人々を殺害した。その祟りにより、嵐の後に幽鬼が現れ、一族の若い娘や男性を死に至らせる連鎖が続いているという。汀は島を出る決意を固めるが、本家の娘が次の犠牲者になる可能性を案じていた。

本家の屋敷での対峙
月季は本家の屋敷を訪れた。侍女から幽鬼が現れたことを知らされ、病弱な娘の部屋へ案内される。娘に護符を渡した月季は、幽鬼が次の犠牲者を指さないよう祈った。しかし、屋敷の主である淵に見つかり、激昂した彼から追い出される。淵の態度は冷たく変わり果て、暴力を振るわれた月季は屋敷を後にした。

祖廟での思索
傷ついた月季は、霊耀に合流するため鬼鼓の家に向かう途中、祖廟に立ち寄った。そこでは、初代当主の像が豪奢な衣をまとい鎮座していた。その姿を目にした月季は、鼓方家の抱える闇と、これから訪れるかもしれないさらなる悲劇を思い、気を引き締めた。

第五章  嵐

霊耀の訪問と墓の秘密
霊耀は舟で鬼鼓の家に着き、渓を訪ねた。家の裏手で墓を見つけた霊耀は、それが渓の祖父のものであることを知った。三年前に湖で溺れて亡くなったという祖父の話に渓は悲哀をにじませたが、その死因に関する詳細を語ろうとしなかった。

祟りの真実と神罰の話
霊耀は鼓方一族の祟りについて、渓に祓う方法を尋ねたが、「神罰を祓う方法などない」と即答された。渓は初代が殺した者たちの遺骸を湖に沈めたため、湖が一族を呼び寄せる呪われた場所となったことを明かした。また、湖の藍色の鱗が家宝として隠されているという伝承についても語った。

月季との再会と怪我の理由
霊耀は湖畔で月季と再会し、彼女の頬と手に殴られた痕を見て驚いた。月季は鼓方家当主に殴られたと語り、当主が変わり果てたことを明かした。霊耀は自分が護衛として同行しなかったことを悔やんだが、月季は「自由を制限されたくない」と言い、霊耀を気遣う態度を見せた。

青衣娘娘の祠と家宝の謎
渓は月季と霊耀を青衣娘娘の祠に案内し、像と鏡を見せた。しかし鏡は偽物であり、本物は本家に隠されていると推測された。渓は鼓方一族が神罰を受ける様子を望む一方で、祟りを解く協力には消極的であった。

鼓方次男との接触
月季と霊耀は鼓方家の次男に接触し、三年前の出来事や家宝の所在について尋ねた。次男は祟りへの恐怖から協力を約束し、家宝が祖廟にある可能性を示唆した。次男の話は曖昧であったが、月季はその情報をもとにさらなる調査を決意した。

祟りを巡る手がかり
次男から得た情報をもとに、月季と霊耀は家宝を探し出し、祟りを解くための方法を模索することを決めた。次の行動を前に、ふたりは再び鼓方家の秘密に立ち向かう覚悟を固めた。

祖廟での探索と螺鈿の発見
霊耀と月季は雨の中、次男の話を頼りに祖廟を訪れた。堂内を丹念に調べるも、隠し扉や抽斗のような仕掛けは見つからなかった。しかし、烏衣が像の衣をつつきはじめたことをきっかけに、月季は衣に縫い付けられた深藍色の螺鈿を発見した。それは家宝とされる鏡ではなく、神の力を宿すとされる衣であった。

衣を湖に返す決断
月季は衣を湖に沈めるべきだと主張し、衣を剝ぎ取ろうとした。そこに鼓方の当主である淵が現れ、激しく抵抗した。霊耀と淵がつかみ合う中、月季は衣を手にして湖へ向かい走り出した。

湖畔での対峙と決着
月季は湖畔で淵に追いつかれ、締めあげられた。窮地に追い込まれたところで渓が現れ、淵を棒で殴り倒した。月季は湖に衣を投げ込み、湖面は大きく波立った。その後、淵の体から黒い泥のようなものが湧き出し、それが初代当主の姿を模した妄執の塊へと変じた。月季は剣でその妄執を断ち、初代の姿は完全に消え去った。

雨の終わりと静寂
衣が湖に沈んだ後、湖は静寂を取り戻し、雨も止んだ。淵は気絶し、一族を縛っていた呪いは消え去ったことが明らかになった。月季たちは鼓方家に戻り、娘の無事を確認した後、屋敷をあとにした。

渓の決断と出発
翌朝、月季と霊耀は港へ向かい、渓も同行を決めていた。渓は祠や廟を守る生活を捨て、月季たちとともに京師へ向かうことを選んだ。船上で霊耀は月季の抱える悩みを聞き、彼女に「間違っていない」と告げた。その言葉は月季にとって大きな救いとなった。

未来への船出
船が島を離れ、月季と霊耀、渓はそれぞれ新たな一歩を踏み出す覚悟を固めた。三人の背中にはそれぞれの思いが込められ、川の風がその旅立ちを祝うかのように吹き抜けていた。

番外編  花と光

祖父との会話と名の由来
月季の名をつけたのは祖父の千里であった。彼は「月季」という字が薔薇の花を指し、「棘だらけの強く賢い花」であると語った。千里の言葉に、十二歳の月季は少し誇らしい気分になった。

「花と光」という象徴
千里は「月季」と「霊耀」の名について、「花」と「光」を意味すると説明した。そして、ふたりを合わせて「華」だと語った。その言葉は月季にとって特別な響きを持ち、深く心に刻まれた。

霊耀の反応と月季の想い
後日、月季が霊耀にこの「華」の話を伝えると、彼はいやそうな顔をした。その反応に月季は悲しみ、千里の膝にすがった。千里はそれでも穏やかに笑い、月季の気持ちを受け止めてくれた。

心に残る「華」の言葉
月季は「華」という言葉をふたりを結ぶ縁のように感じ、大切にしてきた。いま再び霊耀に話したら、また同じ反応をするのかと少し考えたが、彼女の中では「華」は特別な想いとして生き続けていた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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