小説「烏衣の華 2」香炉と呪い 感想・ネタバレ

小説「烏衣の華 2」香炉と呪い 感想・ネタバレ

どんな本?

本作は、中華風の世界を舞台に、天才巫術師の少女とその許婚が謎を解く退魔ファンタジーである。主人公の董月季(とうげっき)は、「持ち主を次々に取り殺している」という香炉の依頼を受け、許婚の封霊耀(ほうれいよう)や巫術師見習いの渓(けい)と共に調査を開始する。香炉の持ち主を訪ねた際、強力な女の幽鬼と遭遇し、月季はこれを祓うが、幽鬼が消える間際に見せた表情が気になり、その背景を探るため、彼女の住んでいた村へ向かうこととなる。

主要キャラクター
董月季(とう げっき):稀代の巫術師と評判の少女。独特の感性と高い巫術の才能を持つ。
封霊耀(ほう れいよう):月季の許婚。堅物な性格で、共に謎解きに挑む。
渓(けい):巫術師見習いの青年。月季たちと行動を共にする。

物語の特徴

本作は、天才巫術師と堅物な若君が協力して謎を解く中華退魔ファンタジーである。独特の世界観とキャラクターの掛け合いが魅力であり、読者を引き込むストーリー展開が特徴である。

出版情報
著者:白川 紺子
イラスト:春野 薫久
出版社KADOKAWA
発売日:2025年1月24日
判型:文庫判
ページ数:240ページ
ISBN:9784041157152

読んだ本のタイトル

烏衣の華
著者:白川 紺子 氏
イラスト:春野 薫久  氏

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「烏衣の華 2」香炉と呪い 感想・ネタバレBookliveで購入gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「烏衣の華 2」香炉と呪い 感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「烏衣の華 2」香炉と呪い 感想・ネタバレ

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あらすじ・内容

風変わりな天才巫術師の少女と許婚が謎を解く、中華退魔ファンタジー第2弾

稀代の巫術師と評判の董月季(とうげっき)は、ある日「持ち主を次々に取り殺している」という香炉について依頼を受ける。
折しも同様の相談を受けていた許婚の封霊耀(ほうれいよう)と、
巫術師見習いの渓(けい)と共に、月季は香炉の持ち主を訪ねる。
しかしそこで遭遇したのは強力な女の幽鬼。
月季は思わず祓ってしまうが、女が消える寸前に見せた表情が気になり、
霊耀たちと、女が住んでいた村に向かうが……。
天才巫術師×堅物若君の中華退魔ファンタジー、待望の第二弾!

烏衣の華 2

感想

主な出来事は以下の通り。

妓楼の幽鬼事件
董月季は妓楼の幽鬼「王来児」を祓い、老婆の悪行を非難した。幽鬼は楽土へ送られたが、月季の心に苦悩を残した。

月季の日常と葛藤
月季は許婚の封霊耀と再会し癒されたが、祖父との対話で巫術師としての迷いを相談しきれなかった。

香炉に憑く幽鬼事件
美しい香炉に幽鬼が憑きつき、人々を死に追いやる事件が発生。月季たちは調査を開始し、呪いの真相を追った。

幽鬼の調査と対峙
月季たちは香炉の由来を調べ、幽鬼と対峙したが、幽鬼の憎しみと悲哀に心を揺さぶられた。

翠坡村での化け虎事件
化け虎の出現が村を恐怖に陥れていた。調査の結果、猫鬼の呪法や阿祥の過去が浮かび上がった。

阿祥の悲劇と猫鬼の誕生
阿祥は孤独と差別の中、猫鬼を作り自らの不幸を加速させた。最期は入水自殺し、その物語が村の闇を深めた。

阿祥の供養と塚の崩壊
阿祥の遺体は睡蓮の池で水葬され、村の歴史に一つの幕が下ろされた。塚の崩壊がさらなる謎を呼んだ。

帝からの勅命
月季は地方廟の異変調査を命じられ、董家の謎を解明する使命を帯びて旅立った。

霊耀と千里の信頼
霊耀は月季の支えとして期待され、千里から彼女を守るよう任された。

猫鬼と幽鬼を巡る葛藤
月季は自身の能力に迷いながらも、巫術師として生きる道を模索し続けた。

総括

本作は前作同様、董月季の独特な感性と彼女を取り巻く人々の関係が深く描かれていた。
特に、香炉に取り憑いた幽鬼の悲劇的な背景を辿る過程が丁寧に描かれる展開であった。
怨霊と化した阿祥の存在には、ただの恐怖や哀れみ以上のものを感じさせた。

香炉の過去を調べる中で、月季が阿祥の村で発見する事実の数々は、物語全体に緊張感をもたらしていた。
例えば、阿祥が猫鬼を生み出した背景や、それが村人たちにどのような影響を与えたのかについての描写は特に印象的であった。
阿祥が生前、巫術の力を正しく使おうとしたのか、それとも復讐心に駆られていたのか。
その曖昧さが、彼女を単なる被害者でも加害者でもない存在として浮かび上がらせていた。

また、本作では月季だけでなく、霊耀や渓の成長も感じられた。
霊耀は一見冷静沈着であるが、月季を深く思いやり、行動に移す姿が魅力的であった。
渓の軽妙な言葉の裏には、彼自身の複雑な過去が垣間見えた。

幽鬼を祓うことで解決する問題だけでなく、彼らが旅を通じて感じる苦悩や葛藤が、物語に深みを与えていた。
月季自身もまた、巫術師としての使命と、自分の中に宿る謎の存在への恐れを抱えながら進んでおり。
その心情描写が丁寧で共感を与えてくれた。

また、妓楼の経営者に折檻を受けて亡くなった妓女の悲哀。
その妓楼が最後は妓女たちの訴えで潰れたと最後に書かれており、因果応報と思いながら本を閉じた。

次なる月季、霊曜、渓の旅がどうなるか早く知りたいと思いながらも、白川氏の他の作品の続きも待ち遠しい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

第一章  月季の憂鬱


妓楼の幽鬼事件

幽鬼の依頼
妓楼の女主人である老婆は、幽鬼の噂で客足が遠のき困窮していた。巫術師董月季を茶館に呼び、幽鬼の祓いを依頼した。老婆は幽鬼の正体については否定的であったが、月季は老婆の背後に痩せ細った女の幽鬼「王来児」を視認した。

幽鬼の訴え
幽鬼王来児は、妓楼での虐待や飢餓の中で病に倒れ、放置された末に死を迎えたと訴えた。月季はその苦痛と悲しみを受け止め、老婆の行いを非難した。老婆は言い訳を並べたが、月季の静かな怒りに気圧され、言葉を失った。

幽鬼の救済
月季は王来児を楽土へ送る儀式を行った。幽鬼は黒い羽根に包まれ、白い小鳥となって空へ飛び立った。老婆は恐怖と安堵を抱きながら報酬を渡し、その場を後にした。月季は報酬の銭を受け取りつつも、幽鬼の救済が喜びだけでない現実に胸を痛めていた。

董月季の日常と迷い

市での再会
月季は依頼を終えた帰り道、市で許婚の封霊耀とその友人鬼鼓渓に出会った。霊耀は月季の疲労を気遣い、食べ物を渡した。渓の軽口にやや辟易しつつも、月季は霊耀の優しさに癒やされ、足取りを軽くして帰路についた。

祖父との対話
翌日、月季は祖父董千里と庭で梅の木を眺めながら対話を交わした。巫術師としての葛藤を語る月季に、千里は焦らず答えを見つけるよう諭した。月季は、自身の中に潜む恐れについて相談しきれないまま、祖父の優しさに救われた。

次の依頼への旅立ち

新たな依頼
茶館からの急な依頼を受けた月季は、再び仕事へ向かうことになった。出発前に祖父へ挨拶をし、決意を胸に依頼先へと足を進めた。千里は月季の後ろ姿を見送りながら、彼女を案じる表情を浮かべていた。

香炉に憑く幽鬼

依頼人の訪問
董月季は、急な依頼で錦華楼に呼び出された。依頼人の上官三娘は、夫・徐正秀が呪いの香炉に取り憑かれて死にかけていると訴えた。その香炉は美しい白磁製で睡蓮が描かれており、持ち主を次々と死に追いやるという噂があった。三娘は涙ながらに月季に助けを求めた。

幽鬼の出現
月季は香炉を見つめる青白い顔の幽鬼を確認した。その幽鬼は堅気には見えないものの、妓女とも異なる雰囲気を纏っていた。幽鬼は月季の呼びかけに応じず、無表情で香炉を見つめ続けた。そこへ徐正秀が乱入し、香炉を奪って去っていった。幽鬼は妖艶な笑みを浮かべ、その姿を消した。

巫術師たちの議論

相談のきっかけ
祀学堂で上官という名の同輩が、徐正秀の香炉について霊耀に相談を持ちかけた。霊耀と渓は徐家の問題を耳にし、正式な巫術師に頼むべきだと判断したが、上官の提案に渓が皮肉を交えたため、相談は途中で終わった。

月季との合流
霊耀と渓は後日、月季のもとを訪れ、相談を持ちかけた。月季はすでに依頼を受けており、幽鬼を祓う方法に頭を悩ませていた。徐正秀が香炉を手放さないため、解決は困難を極めていた。

幽鬼の正体の追跡

幽鬼の由来を探る提案
霊耀は香炉の由来を調べるよう提案した。幽鬼の正体が判明すれば、楽土へ導ける可能性があると説いた。月季はその案に同意し、調査を進める決意を固めた。

協力の依頼
月季は霊耀と渓に調査の手伝いを求めた。渓は軽口を叩きながらも承諾し、霊耀も協力を約束した。三人は幽鬼の正体を突き止め、問題解決に向けて動き出すこととなった。

第二章  かぐわしき死の香り

香炉に憑く幽鬼の調査

古物商での情報収集
月季たちは上官三娘の情報を頼りに古物商を訪れた。店主は香炉が「夢に美しい女を見せる」と語り、持ち主の男性が次々と不幸に見舞われたことを話した。香炉の前の持ち主であった質屋の男も同様の経緯で亡くなり、香炉はその娘に譲られたという。月季はこの香炉に強い禍々しさを感じながらも、次の調査先を崔氏の質屋に定めた。

崔氏の質屋での聞き取り
崔氏の質屋では、香炉が父親を取り殺したと語る娘から話を聞いた。香炉は美しい夢を見せるが、持ち主の男性は次第に衰弱し、死に至るという。香炉の由来はさらに遡る必要があると判明し、次の持ち主であった范家店を訪れることを決めた。

緊急事態と幽鬼の祓い

三娘からの悲痛な訴え
范家店への道中、三娘が息を切らしながら月季に助けを求めた。夫である徐正秀が香炉の影響で昏睡状態に陥り、生命の危機に瀕していた。月季は事態の緊迫感を感じ取り、すぐに徐家へ向かった。

幽鬼との対峙
徐の寝室に入ると、香炉のそばに幽鬼が佇んでいた。幽鬼は妖艶でありながらも憎悪を帯びた姿で、月季に敵意を向けた。月季は剣を抜き放ち、巫術で幽鬼を祓ったが、その消える間際の悲しげな瞳に心を乱された。幽鬼の存在は禍々しさを越え、深い悲哀と憎しみが交錯していた。

月季の心の葛藤

祓い後の疲労と沈黙
祓いを終えた月季は、依頼人である三娘から感謝の言葉を受けながらも、自身は深い疲労感に苛まれていた。董家に戻った彼女は日常の動作すら億劫に感じ、寝台に倒れ込んだ。幽鬼の最後の視線が彼女の心に焼き付き、消えない影を落としていた。

霊耀の訪問と月季の葛藤

霊耀との再会
翌朝、月季は霊耀の訪問を受けた。霊耀は幽鬼を祓ったことで月季が後悔しているのではないかと問い、幽鬼の正体を調査するために香炉を引き取ったと告げた。その言葉に月季は、自分が幽鬼を救えなかった責務を痛感し、正体を探る決意を固めた。

范家店での聞き込み

女主人の証言
月季と霊耀は范家店を訪ね、女主人から香炉が先代の主人によって気に入られたこと、甘い香りが特徴的であったことを聞いた。香炉の由来については、塩商の郭家に遡る可能性が示唆された。

郭家での新たな手がかり

郭家の妾の子の証言
郭家を訪れた月季たちは、雇い人であり先代の妾の子という男から、香炉が先代の妾の形見であったことを知った。その妾は若くして病死し、香炉には睡蓮の模様が彫られていた。さらに、妾が翠山麓の翠坡村に住んでいたことが判明した。

翠坡村への旅

村への到着
月季たちは翠坡村へ向かうことを決め、準備を整えて出発した。翠山の美しい景色を眺めながら馬車で進み、翠坡村に到着。村の静かな雰囲気の中で、さらなる調査を進める準備を整えた。

第三章  霧雨の孤虎


翠坡村の到着と村の情景

霧と翠山の村
村は青みがかった霧に包まれ、翠山の麓に広がっていた。家々は石垣の上に建てられ、道は不揃いな石で敷き詰められていた。旅客は少なく、村の光景はのどかであった。月季たちは湖畔の四阿で弁当を広げ、湖に映る翠山の景色を楽しんだ。

村長との出会い

化け虎の出現
村長の屋敷に招かれた月季たちは、村に現れる「化け虎」について聞いた。虎は霧雨の中で姿を現し、村人を脅かしては消えるという。被害はまだないが、村人たちは恐怖に怯え、村長は化け虎退治を懇願した。村長の案内で阿祥の家の跡地へ向かうことになった。

阿祥の塚と化け虎の出現

塚での対峙
阿祥の屋敷跡には現在塚があり、近くの池で彼女は入水して亡くなったという。塚に向かう途中、月季たちは霧雨の中で化け虎と遭遇した。甘い香りと共に現れた虎は、月季たちを脅かすように姿を見せたが、すぐに消えた。その後、塚を守る虎の石像が失われていることが判明した。

村の調査と阿祥の足跡

村人の証言
月季たちは村人から阿祥についての情報を集めた。阿祥は郭氏の妾であり、村の西端でひっそりと暮らしていたが、亡くなる前に外出が増えたという。また、阿祥の愛猫「雨娘」の存在や、甘い香りが彼女の特徴であったことが語られた。

廟と香の謎

烏漣娘娘の廟
村の東に新たに建てられた廟で月季たちはお詣りをした。村の西にある廟が廃されている理由については明確な答えは得られず、廟の場所や建て直しの事情に謎が残った。霧が再び立ち込める中、化け虎の正体と阿祥とのつながりを探る必要性を感じていた。

阿祥の足跡を探る

村人との会話

月季たちは村の東側に集められた村人たちに話を聞いた。阿祥について明確な情報を知る者は少なかったが、ある老婆が阿祥が東のはずれにある古い家を訪れていたと語った。その家には、巫術師崩れの老人が一時期住んでいたという。

巫術師の家の調査

村長の案内で巫術師が住んでいたという家を訪れた。荒れ果てた家には生活の痕跡があったが、巫術師が何をしていたかは不明のままであった。村長は化け虎の退治を懇願し、月季は阿祥の塚へ戻ることを決めた。

猫鬼の伝承

村の古い廟について村人に尋ねたところ、老婆が「猫鬼」という呪法について語った。かつて村では猫を使い魔に仕立てる呪法が行われており、それを祀るための廟が西に建てられていたという。村長はこれを「過去の恥」として隠したがっていた。

化け虎との対峙

月季たちが阿祥の塚へ戻ると、化け虎が再び現れた。虎は威嚇するも人を襲う様子はなく、月季が「雨娘」と呼びかけると、三毛猫の姿を見せて消えた。その後、失われていた守り神の石像が塚の前に現れた。

化け虎の正体と阿祥の謎

化け虎は守り神と猫鬼が混ざり合った存在であり、誰かの呪法によって作られたものと判明した。月季はその呪法が阿祥によるものである可能性を考え、彼女の過去についてさらなる調査が必要だと感じた。阿祥の真の姿は、村に隠された暗い歴史と関係しているのかもしれない。

第四章  花影を君に捧ぐ

猫鬼の真相を追う

陳家の証言
月季たちは阿祥と最も近い関係にあった陳家を再訪し、妻である程氏から話を聞いた。程氏によれば、阿祥は物静かで孤立していた。困った時に助けを求めることがあったが、日常的に交流することはなかったという。また、阿祥は猫を飼い、それを唯一の同伴者としていた。

村人たちの噂
村人の周氏からは、阿祥が巫術師崩れの老人と交流していた話を聞いた。阿祥はその老人と楽しげに会話を交わし、食べ物を持って訪れていたという。周囲の人々には閉じた態度であった阿祥が、この老人にだけ心を開いていたことが注目された。

童氏の証言
童氏からは阿祥が「猫鬼」の話に強く興味を示していたことが語られた。阿祥は猫鬼の作り方を何度も尋ねていたが、童氏は具体的な方法を知らず教えることはなかったという。また、童氏は阿祥が「猫鬼使いになれる目」を持っていたと語り、その言葉が月季たちに新たな疑念を抱かせた。

巻物の発見と村長の行動
深夜、霊耀は村長が密かに猫鬼の呪法に関する巻物を焼こうとしている現場に遭遇した。村長は廃廟での火事も自ら指示したと告白し、猫鬼の呪法を村の恥として隠したかったと語った。巻物には猫鬼の作り方が記されており、村の過去の暗い歴史が明らかになった。

阿祥の謎と村の闇
村長は巻物が阿祥の手に渡ることはなかったと主張したが、それでも阿祥が猫鬼を生み出した方法は不明のままだった。村長は阿祥が呪法を独自に編み出した可能性に恐怖し、その力の正体に震えていた。月季たちはこの村に残る闇の真相と、阿祥の本当の姿を追い求める決意を新たにした。

悪夢と廟の火災

月季の悪夢
月季は毎夜、継母と黒い化け物の夢を見る習慣があった。継母は四肢をもがれた姿で追いかけてきて、逃げる先には巨大な黒い影が待ち構えていた。その影は「殺してやろうか」と問いかけ、月季はその度に目を覚ました。

廟の火災
夜中に目を覚ました月季は、窓の外に赤い光を見つけた。それが廟の方向であると気づくと、黒衣をまとい現場に向かった。燃え盛る廟の前に到着した月季は、その炎が巨大な猫の姿に変わるのを目撃した。猫鬼のようなその炎は月季に迫ったが、黒い霧のような影が現れ、炎を飲み込むようにして消し去った。その直後、月季は意識を失った。

霊耀の救出
烏衣が霊耀を呼びにきたことで、霊耀は廟の火災現場へ急行した。倒れていた月季を見つけ出し、煙の中から助け出した。月季は辛うじて目を覚ましたが、自身が廟に向かった理由を明確に説明することはできなかった。

屈懐との出会い
月季たちは廃屋を再調査していた際、近くの沼地で声を聞いた。その声の主は、生前に村に住んでいたもぐりの巫術師・屈懐であった。屈は泥に埋もれて死んだまま霊となり、楽土へ送られるのを待っていた。

屈懐の告白
月季が阿祥の名を出すと、屈は動揺した。彼は阿祥に巫術の手ほどきをしたと認めたが、猫鬼の呪法は教えていないと否定した。月季から阿祥が死んだことを聞かされると、屈は責任を感じ、阿祥の巫術の才が悲劇の始まりだったと嘆いた。

阿祥との出会いと孤独
屈が村の荒ら家に住み始めてひと月ほど経ったころ、阿祥が現れた。京師から遠く離れた山村で妾として囲われた彼女は、孤独と退屈を抱えて屈を訪れた。屈は彼女の話相手となり、ささやかな慰めを提供した。阿祥は妓楼で育ち、富豪に身請けされることで貧困から逃れたが、村では身分差別に苦しみ続けていた。

巫術の才と変化
屈は阿祥の孤独を癒すため、護符の書き方や幽鬼の祓い方などの巫術を教えた。驚いたことに、阿祥には巫術の才があり、その技術をすぐに習得した。屈も教えることに喜びを感じていたが、次第に阿祥の関心が呪法へと移り、彼女の目には危うい輝きが宿るようになった。

猫鬼の誕生
阿祥は村の老婆から猫鬼の話を聞き出し、祈りによって自身の飼い猫を猫鬼に変えた。その結果、猫鬼は阿祥を守るために屈を襲い、彼を殺害した。屈は死の間際に阿祥の涙を見たが、呪法の危険性を改めて痛感し、己の教えが彼女を不幸に導いたことを悔いた。

屈の懺悔と阿祥の死
屈の死後、阿祥もまた睡蓮の池に入水し命を絶った。屈は阿祥が彼を殺すつもりはなく、ただ喜んでもらいたかっただけだと悟り、深く後悔した。彼の魂は未練を残して沼に留まり続けていたが、月季の手によって楽土へ送られることとなった。

廟の焼け跡と黒い影
月季たちは阿祥が猫鬼を生み出した廟跡を訪れた。そこには黒い影のような存在が潜み、まるで土地神のなれの果てのようであった。影は祓われたが、月季はその過程で自身に宿る謎の存在を再認識した。彼女はそれを放置するわけにはいかないと決意した。

阿祥の塚の崩壊
村長の屋敷で月季が阿祥の望みを伝えると、村長は困惑しつつも話を聞いていた。しかしそのとき、外で陳が塚の崩壊を報告し、村長たちは現場に向かった。そこでは塚が真ん中から割れて崩れ、棺が露出していた。村人たちは恐れ、阿祥の祟りではないかと噂していたが、月季は沈黙を守っていた。

睡蓮の池での水葬
阿祥の遺体は棺から取り出され、睡蓮の池で水葬されることとなった。不思議なことに遺体は美しいままで、彼女が愛用していた甘い香りが漂っていた。舟に乗せられた遺体が池に沈むと、瞬く間に肉が溶け、骨となり水底へ消えた。芳香だけがあたりに漂った。

霧に包まれる池
水葬の後、池の周囲には濃い霧が立ちこめ、風景を白く包み込んだ。その霧のなかでは、見事な睡蓮の花々が咲き誇り、阿祥の望みが果たされたかのように静かに揺れていた。

翠山からの帰路

霧に包まれた翠山を遠ざけながら、霊耀たちは馬車で京師への道を進んでいた。霊耀は窓越しに山々を見送り、月季は疲れた様子でまどろんでいた。渓は姿勢を崩しつつ、「香炉はよかったのか」と霊耀に問いかけた。霊耀は短く「ああ」と答えた。例の香炉は阿祥の亡骸とともに睡蓮の池に沈められており、それがふさわしいと判断したためである。

阿祥の執着への考察

渓が「阿祥はなぜ香炉に取り憑き男を殺したのか」と尋ねると、霊耀は言葉を濁した。それは本人でなければわからない問いであったが、月季は「してみたかっただけ」と物憂げに答えた。猫鬼を作ったときと同じ衝動によるものだろうと推測された。その言葉に渓は沈黙し、霊耀は月季の昏いまなざしに背筋の寒さを感じた。

翠山の消失と会話

翠山は木立に隠れ、やがて完全に視界から消えた。霊耀が月季の名を呼ぶと、彼女はぼんやりとした状態から我に返り、霊耀を見つめた。霊耀は「帰ったら、よく休め」と声をかけた。それに月季はきょとんとしたあと、笑顔を浮かべた。いつもの月季の笑顔であった。


第五章  勅命

京師への帰還と茶会

翠坡村から京師へ戻り五日が経過したころ、月季、霊耀、渓の三人は錦華楼で茶菓を囲んでいた。菓子職人の新作である蓮の飴や涼糕が並び、月季は特に蓮の飴を気に入った。渓は「すべて美味しい」と雑な感想を述べたが、月季は白糕や艾の団子の改良点を率直に指摘した。おかみはその意見に考え込むも、改良の糸口を得たようであった。

妓楼の幽鬼とその結末

おかみは以前幽鬼として現れた妓楼の妓女について話題を振った。その後、妓楼が潰れ、悪事を働いていた婆さんが捕まったという報告に月季は少し安堵した。渓は幽鬼への同情を訝しんだが、霊耀が「何もできないからこそ、生きている者が何かしてやりたくなるのだ」と代弁し、月季もそれに頷いた。

千里への相談

月季は翠坡村での出来事を祖父・千里に相談した。千里は月季の全てを受け入れ、話を黙って聞き、月季の心を潤すような温かい言葉をかけた。そして、翠坡村での廟の異変や、月季に憑いている化け物について、自分の一存では判断できない旨を伝えた。

冬官府への呼び出し

千里からの指示を受け、月季たちは冬官府へ向かった。しかし到着直前に場所が離亭へと変更され、彼らはそこで今上帝に拝謁することとなった。庭園を歩む間、月季は肩の烏衣とともに黒い烏の存在を感じ取ったが、その正体は不明であった。

帝の勅命と千里の意図

離亭にて、帝は地方の廟で起きている異変について語った。地方信仰の廟神が活発化し、不審な事件が相次いでいることが報告されており、その調査と解決を月季に託した。さらに、月季に憑く化け物の正体を解明し祓うため、この調査が必要であると千里は説明した。霊耀には月季を補佐するよう命じられ、月季はその使命を承諾した。

霊耀と千里の対話

帝の御前を辞したあと、千里は霊耀を冬官府へ誘い、応接室で話をした。千里は月季の世話役を任せていることを詫びつつも、霊耀の忍耐強さを褒めた。そして月季の脆さについて触れ、霊耀に月季を支えてほしいと頼んだ。千里の真摯な言葉と温かい手に、霊耀は自分がその役割を果たせるか不安を抱きながらも了承した。

馬車内の会話

月季と渓は馬車で帰路についた。月季は千里と話す霊耀の姿に苛立ちを覚え、渓に帝の勅命について尋ねた。渓は帝が異変の原因を突き止める表向きの目的の裏に、地方の神を退治する意図があるのではと推測した。また、月季に憑く存在もその「敵」に該当する可能性を示唆した。月季はその指摘に動揺しつつも、自分が董家に引き取られた経緯を思い返し、複雑な心情を抱えた。

幽鬼との遭遇

帰路の途中、柳の下に幽鬼が佇むのを発見した月季は、それに近づいた。幽鬼は半月前に自害した姚南という男で、借金に追い詰められ家族を売り払った末、自ら命を絶った者だった。月季は楽土へ誘おうとするが拒絶され、幽鬼を祓うことを選んだ。黒い羽根が姚南を覆い尽くし、彼は跡形もなく消えた。

月季の迷い

幽鬼を祓ったあと、月季は柳の幹にもたれながら巫術師としての自分に疑問を抱いた。生者も死者も救いがたく、巫術師の存在意義が揺らぐ思いを抱えつつ、湿った土の匂いに立ち込める絶望感を感じ取っていた。

千里と衣斯哈の対話

霊耀を帰したあと、千里は冷めた茶を口にしていた。そこへ冬官の衣斯哈が新しい茶を運んできた。彼は千里の教えを受けて冬官となった人物であり、いまもなお千里を師と仰いでいた。

阿兪拉の不安

さらに、祀典使である阿兪拉が現れた。彼女も千里を師と仰ぐ人物であり、月季の任務に反対の意を表した。彼女は月季が吉と出るか凶と出るかを憂慮し、朝廷や帝の判断がどのように影響するのか分からないと語った。

衣斯哈の説得

衣斯哈は放下郎が随行し、月季を助けると説明しつつ、烏漣娘娘の眷属である烏衣が月季を守るだろうと述べて阿兪拉をなだめた。そして、何よりも千里自身が月季を最も心配していることを指摘した。

千里の決意

千里は衣斯哈の言葉に微笑みつつも、月季を案じる気持ちを隠せなかった。老いゆく身である自分が月季を見守れる時間は限られており、その前に月季のために活路を開いてやりたかった。そして、月季には霊耀がついていることが大きな支えになると信じていた。

烏漣娘娘の眷属である烏が窓の外で羽ばたき、空へ飛び去っていった。

冬恵園での花見

冬恵園は先帝の命によって造られた自然豊かな庭園である。この日は梔子の花が見頃を迎えており、霊耀に誘われて月季が訪れていた。霊耀の誘いは珍しく、月季はその理由を測りかねていた。二人は梔子の花を見ながら旅の準備について話した。霊耀は月季を案じている様子を見せつつ、自分自身の不安を打ち明けた。それに対し月季は霊耀らしい真面目さに感謝し、少し心が軽くなった。

旅の同行者と準備

旅には月季、霊耀、渓、さらに従者の寒翠と侍女の春草が同行することになった。加えて董家の推薦で蘇訛里という放下郎が加わる。彼は少数民族出身の青年であり、千里からも高く評価されている人物である。月季は彼が単なる監視役なのか、それとも支援者として同行するのかを考えながら、準備を進めた。

旅立ちの日

出発の日、一行は港で揃った。霊耀は渓に勉強道具を持参するよう促し、船中でも学びを続ける意志を見せた。これに渓は困惑しつつも従う様子を見せた。蘇訛里は冬官府の人間であることを隠すため、平服で現れ、一行を船着き場へ導いた。

船上での祈り

船に乗り込んだ月季は、自分の肩にいる烏衣を感じながら、港に見えた黒衣の人物を一瞬目にした。その姿に胸を押さえつつ、この旅が自身に取り憑く化け物の正体を暴く一歩となることを祈った。船は静かに港を離れ、旅が始まった。

番外編 封家にて

朝の目覚めと渓の回想

渓は夜明けとともに目を覚ます習慣が身についていた。かつての荒れ果てた家での生活が彼の身体に刻み込んだものである。柔らかな布団には未だ慣れず、朝の静寂のなかで過去の記憶が蘇り、胸に冷たさを感じることもあった。清潔な夜着から祀学堂の制服に着替え、広い封家の屋敷を歩くと、整然とした庭が朝陽を浴びて輝いていた。

霊耀との朝の会話

庭を眺めている渓に、霊耀が声をかけた。霊耀もまた早起きで、規律正しい生活を送っていた。彼は朝餉の前に座学の復習をしようと提案したが、渓は空腹では集中できないと訴えた。霊耀は一度は納得したものの、朝食後に再び勉強を始めることを提案するなど、その真面目さを垣間見せた。渓は呆れつつも、彼の熱心さに根負けして勉強を引き受けることにした。

霊耀の負担と渓の思い

霊耀は祀学堂の授業だけでなく、渓への指導や武術の稽古もこなし、忙しい日々を送っていた。それでも渓に対する熱心な指導を怠らない彼の姿勢に、渓は不思議さを感じていた。一方で、霊耀の陰口をたたく者たちには反発し、渓は彼を密かに擁護していた。

朝餉へ向かう道すがら

渓は霊耀の真顔に半ば呆れつつも、朝餉を豪華にする条件で勉強を引き受けた。霊耀は桃を追加するように手配することを約束し、二人は並んで回廊を歩いた。清々しい朝陽が射し込むなか、渓はこの穏やかな朝が悪くないと思った。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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