どんな本?
本書は、和風ファンタジーと恋愛要素を融合させた作品である。本作では、主人公の美世が愛する清霞を救うため、自らの力と意志で困難に立ち向かう姿が描かれている。
物語の概要
身に覚えのない罪で投獄された清霞。彼と離ればなれになった美世は、清霞を助けるため一人で軍本部へ向かう。しかし、目的地に着いた際、彼女の袖を引く者が現れる。振り返った美世が目にしたのは、清霞にそっくりな美少年で、彼は清霞の式だと名乗る。式に強引に連れ帰られた美世は、薄刃の家で態勢を整え、再び清霞と再会するための道を切り開いていく。そして、宿敵・甘水との決戦に挑むこととなる。
主要キャラクター
• 斎森 美世(さいもり みよ):異能の家系に生まれながら能力を持たず、家族から冷遇されてきた女性。清霞への愛と自身の成長を通じて、困難に立ち向かう。
• 久堂 清霞(くどう きよか):冷酷無慈悲と噂される軍人。美世との出会いを経て、彼女に心を開き、深い愛情を抱く。
• 清(きよ):清霞の式であり、美世を助けるために現れるショタ。
物語の特徴
本作は、和風ファンタジーの世界観を背景に、主人公・美世の成長と愛の力を描いている。特に、異能の力や家族の因縁、社会的な陰謀など、多彩な要素が絡み合い、物語に深みを与えている。また、美世と清霞の関係性の進展や、彼らが直面する試練を通じて、愛と勇気の重要性が強調されている。
出版情報
• 著者:顎木 あくみ
• イラスト:月岡 月穂
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:富士見L文庫
• 発売日:2022年7月15日
• 判型:文庫判/256ページ
• ISBN:9784040746012
• 定価:704円(本体640円+税)
本作は、電子書籍版も同日発売されており、さらにシリーズ累計700万部を突破するなど、多くの読者から支持を受けている。また、TVアニメ化もされており、関連グッズの展開など、メディアミックス展開も活発である。ズの展開など、メディアミックス展開も活発である。
読んだ本のタイトル
わたしの幸せな結婚 六
著者:顎木 あくみ 氏
イラスト:月岡 月穂 氏
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あらすじ・内容
旦那さまともう一度お会いするために。今、私にできることを――
身に覚えのない罪で投獄された清霞。
彼と離ればなれになった美世は、清霞を助けるために一人で軍本部へと向かう。
しかし目的地に着いたその時、彼女の袖を引く者がいた。
振り返った美世が見たのは、清霞そっくりの美少年。彼は清霞の式だという。
式に強引に連れ帰られた美世は、薄刃の家で態勢を調えて出直すことを決める。
すべては清霞と再会するため、美世は自力で道を切り開いていく。
そして迎えた甘水との決戦は――。
これは、少女があいされて幸せになるまでの物語。
小説 PV
感想
甘水編の結末と美世の成長
清霞が身に覚えのない罪で投獄され、美世が彼を救うために奮闘する本作は、シリーズの中でも重要な転機を迎えた巻である。清霞の式として登場した少年・清くんの存在は、可愛らしさと物語の緊張感を和らげる役割を果たした。彼が美世と行動を共にすることで、彼女の孤独感が少しずつ癒され、物語全体の雰囲気が和やかになった。
甘水直の企みは、彼の執念深さや強大な異能を見せつけながらも、美世の異能の力によって崩壊した。美世が母・澄美の記憶や異能の覚醒を通じて、自分の力を受け入れる姿は、読者に彼女の成長を感じさせた。特に、母との夢の中での再会は、物語の中で最も心に残る場面であった。
新たな日常と甘い展開への期待
物語の終盤では、戦いを経て再び清霞と美世が穏やかな日常を取り戻す様子が描かれた。甘水編の結末により、二人の未来が明るく開けたことを示す描写が多く、美世と清霞の関係がさらに深まった。二人が婚礼に向けて準備を進める姿や、十二階での展望を通じた心の交流は、これからの甘い展開を期待させるものである。特に、清霞が美世に贈った桜の簪のシーンは、美世への思いやりと愛情を象徴する瞬間であった。
次巻への期待と物語の余韻
甘水編が一段落した一方で、シリーズ全体の進行としてはやや緩慢な印象もあった。美世の成長と異能の開花が大きく描かれた一方で、物語全体が大きな展開を見せる場面は少なく、次巻に向けた伏線が多く残された形となった。次巻では、清霞と美世が穏やかな日常をさらに深める一方で、新たな困難や挑戦が訪れることを期待したい。読者としては、この幸せな物語がどのように続くのかを静かに見守りたい気持ちである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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アニメ PV
映画 PV
同シリーズ
その他フィクション
備忘録
序章
地下牢での拘束
清霞は、軍本部内にある地下牢獄の最奥部に投獄されていた。牢は異能を封じる仕組みが施され、陽光も届かない場所であった。彼は宮城で身に覚えのない罪を着せられ、逃げることも抵抗することもできず拘束された。尋問も裁判もなく、策略によるものと理解しつつも、彼は何もできない状況に置かれていた。
日常への回想
時間の感覚が曖昧になる中で、清霞の心を支えたのは、美世との日常の思い出であった。料理をする姿や、家事に勤しむ仕草、そして蕾のようにほころぶ笑顔が、彼の意識を闇から救い出す唯一の光となっていた。彼女と過ごした日々が、彼に幸福と温もりを与えていたのである。
願望と現実の狭間
清霞は一刻も早く日常に戻りたいと願った。しかし、その願望に囚われれば囚われるほど、心は深い闇へと沈んでいくことを自覚していた。彼はその感情を押し殺し、過去を思い返すことに留めようとした。ここは希望を抱けば壊れる場所であると、軍人としての経験から理解していたためである。
秘術の発動
清霞は、投獄前に備えていた術を起動させた。異能は封じられていたが、事前に外部に設置した術との連携は可能であり、それを用いて美世を見守ろうとした。彼は、彼女がじっと待っているはずがないことを確信していた。美世の行動力を理解しつつ、その不安定さすら許せると思えるほど、彼女への思いは深まっていた。
静かな決意
暗闇の中、清霞は瞳を閉じてただ彼女のことを想った。彼は、今の美世が自らの力で未来を切り拓こうとしていると信じ、その成長を静かに見守る決意を新たにしたのである。
一章 雪の路
冬の帝都と孤独な決意
美世は凍りつく冬の早朝、静まり返った帝都の街路を歩いていた。軍本部を目指し、真っ直ぐに進む彼女の足跡だけが雪に刻まれていた。異能心教の影響で、街全体に不穏な空気が漂い、人々は家に閉じこもっているように見えた。美世は周囲の閑散とした様子に警戒しながらも、清霞を救うため、自ら甘水の元に向かう覚悟を固めていた。
軍本部の警備と決断
軍本部に近づいた美世は、物々しい警備体制を観察し、警備兵の数を数えた。彼らが甘水の命令に従う者かどうかを見極める術はなく、対応に迷いながらも異能を用いて突破する覚悟を決めていた。そのとき、背後から袖を引かれ、突然の接触に驚いた美世は振り返った。
幼き清霞の式との邂逅
振り返ると、そこには清霞の幼少期を思わせる少年が立っていた。薄い色の髪と灰青の瞳を持つその少年は、清霞の式であると名乗り、主の意思として「軍本部へ行くな」と美世を諭した。清霞の面影を宿す少年の言葉に揺らぎながらも、美世は自らの意志を貫く決意を示した。
軍兵との遭遇と式の強引な引導
軍兵が現れ、美世に立ち去るよう命じたが、式の少年が美世の手を引いてその場を離れた。清霞の名を名乗ろうとしていた美世に、式は「婚約者だと名乗るのは危険だ」と諭し、甘水の兵である可能性を警戒した。自らの無謀さを反省しつつも、美世は自ら進むべき道を信じていた。
薄刃家への提案と冷静さの回復
式は美世に、甘水と新の根源を辿るため、薄刃家に行くことを提案した。自分の考えの浅さに気づいた美世は、その提案を受け入れ、決意を新たにした。彼女は自らの頰を叩き、式の手に手袋を嵌め直して「行きましょう」と力強く前進したのである。
薄刃家の訪問と祖父との再会
美世は正月以来の薄刃家を訪ねた。出迎えた祖父・義浪は暖かな微笑を浮かべ、美世を屋内へ招いた。座敷で祖父と対面した美世は、清霞の式と共に話を始めたが、義浪は式を清霞の隠し子だと勘違いした。式が即座に否定し、義浪が冗談と謝罪したことで場は和んだ。その後、美世は甘水の企みや清霞の現状について祖父に説明し、不安を吐露した。
甘水直と薄刃家の過去
義浪は薄刃家の過去について語り始めた。甘水直が幼少期から暴れん坊で、異能の力を持つ問題児だったこと、そして彼が澄美という女性に依存し変わりつつあったことを明かした。しかし、澄美が斎森家へ嫁ぐ決意を固めたことで、直は家を離れ、現在のような存在となったという。義浪は薄刃家全体の責任とその甘さを痛感していると語った。
夢見の巫女の記録と新たな決意
義浪は美世に、夢見の巫女たちの記録や手記を提供し、美世が異能を学び、甘水との対峙に備えることを提案した。美世はその言葉を受け入れ、式と共に滞在する間にできる限りの準備をしようと決意した。
式との対話と食事のひととき
部屋に案内された美世は、式を「清くん」と呼ぶことを決めた。清は少し照れながらもその提案を受け入れ、美世を気遣う態度を見せた。昼食が運ばれると、久しぶりに食欲を感じた美世は料理を堪能しながら、清霞と再会した際には一緒にこの料理を楽しみたいと願った。清も美世の言葉に共感し、微笑みを浮かべていた。
薄刃家の物置での探索
美世と清は、使用人に案内されて薄刃家の物置部屋を訪れた。そこには歴代の夢見の巫女たちの手記や資料が保管されていた。古びた書物は崩し字や古語で書かれており、美世には内容の理解が難しかった。清の助けを借りながら手記を確認すると、夢見の力の使い方やその影響についての記述が見つかった。
甘水の異能の特徴と弱点
清は資料の中から、甘水と同じ異能の能力者について書かれた記録を見つけた。その異能は五感を操作する強力な力であるが、使用可能な時間が短く、範囲も限定的であるという弱点があった。清は甘水が異能を補うために長年研究を続け、準備を整えてきたのだと推測した。
夕食後の祖父との対話
夕食を終えた美世は、義浪と茶を飲みながら話をした。資料の解読は清の協力があって初めて進んだことを報告し、感謝を伝えた。義浪は美世の努力を称えつつ、風呂で身体を温めて休むよう勧めた。
清との会話と不安
入浴後、美世は廊下で待っていた清を連れて部屋に戻り、一緒に休むよう誘った。しかし、清はそれを強く拒否し、美世を困惑させた。最終的には清が折れ、ベッドで距離をとりながら一緒に眠ることになった。
不安を抱える美世と清の支え
眠れない美世は、清霞への不安を吐露し、涙を流した。そんな美世を見た清は、そっと彼女の背に寄り添い、優しく支えた。美世は清霞の生存を感じられる清の存在に救われ、次第に心を落ち着けていった。そして、清のそばでようやく安らかな眠りについた。
捕縛された清霞の状況
清霞は牢の深い闇と厳しい寒さに晒されながらも、何とか自我を保っていた。過酷な環境にもかかわらず、式を通じて外界との感覚を共有することで時間の感覚を取り戻していた。しかし、美世への想いがふとした瞬間に頭をよぎり、その無垢な行動に戸惑いを覚える自分自身に困惑していた。
堯人との会話と試練の計画
清霞は捕縛前に堯人から、今回の試練が意図されたものであると聞かされていた。堯人は、美世の異能を開花させるためには、彼女が窮地に立たされる必要があると語った。甘水の本心を揺さぶり、彼の企みを阻止するには、美世だけが鍵であるという堯人の判断だった。清霞はその計画を理解したが、美世にすべてを話せないことに葛藤を抱いていた。
美世の成長への信頼
清霞は、美世が過去の困難を乗り越え、自ら動ける強さを取り戻しつつあると確信していた。彼女は支えてくれる人々に囲まれ、助けを受け入れることもできるようになっていた。堯人の計画に従うことにした清霞は、美世を信じる気持ちを再確認しつつも、彼女を傷つけることに対する罪悪感に苛まれていた。
式を通じた美世との繫がり
清霞は式を通じて美世の不安を感じ取っていた。彼女が眠れない夜を過ごしていることを知り、少しでも安心させたいという思いから式を通じて寄り添った。美世を抱きしめる形で繋がりを保つ中、清霞は自身の無力感とともに、彼女を守り抜きたいという決意を新たにしていた。
霧の中の異世界
美世は濃い霧の中に佇み、目の前に続く石段を見つめていた。この場所は初めて訪れる夢の中でありながら、どこか神秘的な安らぎを感じさせた。石段の両脇には小さな灯籠が次々と灯り、美世を招くように光が広がっていった。
清霞との再会
突然、美世の隣に清霞が現れた。彼は優しく微笑みながら、美世の手を握り、共に石段を上り始めた。その手の温かさは現実と変わらず、彼の存在が美世に大きな支えを与えていた。
澄美との邂逅
石段の先で、美世は母・澄美と再会した。澄美は桜色の着物に身を包み、穏やかな表情で美世に謝罪した。自分が背負わせた重荷について謝る母に対し、美世は否定しようとしたが、その声を遮るように、澄美は「手伝う」と言葉を続けた。
異能の覚醒
澄美の言葉に呼応するように、美世の中の異能が燃え上がり、視界が一気に開けた。美世は過去、現在、未来が脳裏に流れ込むような感覚を覚え、夢見の力が完全に覚醒したのを悟った。その中で、美世は澄美と甘水直の幼少期の記憶を垣間見た。
決意と別れ
霧が晴れ、澄美の姿は消えていた。灯籠の光もなくなり、美世の前には灰色の空へ続く石段だけが残った。隣の清霞も消えたが、美世は彼に「必ず会いに行く」と告げ、新たな決意を胸に再び歩み始めた。
二章 心を知り
薄刃邸からの旅立ち
美世は薄刃邸での滞在を終え、義浪に別れの挨拶をした。母の着物を纏い、新たな決意を胸に、清とともに帝都の雪道を歩き始めた。目的地は老舗旅館「明田屋」であり、美世の夢見の力によってその場所が導き出された。
旅館「明田屋」での再会
明田屋に到着した美世と清は、旅館の離れで義父・久堂正清と再会した。正清は病弱ながらも美世の頼みを快諾し、異能心教に対抗するための協力を約束した。その信頼に美世は感謝し、自分の異能が開花したことを正清に伝えた。
義母・芙由との対話
次に義母・芙由と対面した美世は、厳しい言葉を浴びせられながらもその愛情の裏側を感じ取った。芙由の冷たい態度にもかかわらず、彼女の言葉は美世の心に深く響いた。芙由は、美世の抱える恋情と夫婦としての在り方について鋭く指摘し、最終的には激励を与える形となった。
美世の決意
芙由との対話を通じて、美世は清霞への想いを再確認した。夫としても、一人の男性としても清霞を愛するという自分の気持ちを明確にし、これからの困難に立ち向かう決意を新たにした。義母の厳しさの中に隠された愛情を受け止め、美世は微笑みを浮かべた。
正清と葉月の会話
葉月は美世と芙由の会話を見届けた後、宿を離れる準備をしていた。正清が声をかけると、葉月は母である芙由の厳しくも励ましのこもった態度に感銘を受けた様子を見せた。芙由の浮気推奨発言について正清をからかいつつも、二人の関係が愛情に基づくものであることを理解していた。さらに、正清は葉月に夫・大海渡の無事を伝え、彼が政府内部での対立に巻き込まれながらも奮闘していることを知らせた。
対異特務小隊の現状
美世と清は対異特務小隊の屯所に向かったが、そこは異能心教の扇動による抗議民衆で溢れていた。清の案内で裏手から敷地内に侵入し、屯所の内部へ潜入した。執務室に到着すると、隊員・五道が疲労困憊で倒れており、辰石一志が悠然と居座っていた。五道は隊員たちの不満や外部の圧力に挟まれ、孤軍奮闘していたが、大海渡の働きでようやく行動が可能になったと説明した。
一志の協力と計画の決定
一志は、美世の清霞救出計画に協力を申し出た。軍属ではない一志の立場が計画に適しているため、美世は彼の申し出を受け入れた。五道と一志の間で冗談交じりのやりとりが続く中、清も美世の決意に賛同した。美世たちは翌日、甘水が拠点とする軍本部に潜入し、清霞を救出する手筈を整えた。
清霞救出への決意
美世は自分の未熟さを認識しつつも、これまで支えてくれた人々のために全力を尽くす覚悟を固めた。新の動向や甘水の策略にも備えながら、美世たちはそれぞれの役割を全うすることを誓った。計画が練り上げられる中、美世は成功への願いを胸に、温かな日常を取り戻すことを決意した。
決戦前夜の薄刃邸訪問
美世たちは対異特務小隊の屯所を後にし、辰石一志を伴って薄刃家へ戻った。一志は初めて訪れる薄刃邸の普通さに驚きつつも、興味深げに邸内を見回していた。夕食後、義浪が美世を呼び止め、翌日に迫った運命の日について話をした。義浪は澄美を嫁に出した時と同じ感情を抱いていると告げ、美世の決意に感動しつつも無事を願っていた。美世もまた、義浪に春の結婚式での再会を約束し、未来への希望を胸に微笑んでみせた。
清の励ましと安らぎ
二階の部屋に戻った美世は、疲労と緊張で扉に寄りかかり座り込んだ。清が優しく声をかけると、美世は震えを隠しつつも、明日の不安を抑えきれない様子を見せた。清はそんな美世に「必ず守る」と誓い、額を合わせて安心させた。冷たいはずの清から温もりを感じた美世は、その言葉に支えられて気持ちを落ち着けることができた。
子守唄と新たな発見
美世が子守唄を所望すると、清は静かに歌い始めた。その歌声は美しく澄んでいたが、微妙に音程がずれていることに美世は気づいた。それでも、その不完全さがかえって微笑ましく、美世の緊張を和らげた。調子外れの旋律に包まれながら、美世は安らぎの中で眠りについた。
明日への決意
眠りに落ちる直前、美世は自分の強がりが明日の戦いにおいて前進する力になると確信していた。美世は清霞を救うため、人生で最も大きな挑戦に立ち向かう決意を固め、懐に入れたお守りを手にしながら穏やかな眠りについた。
三章 閉じた夢の先
冷え込む朝の出発
美世たちは薄刃家を出て、冷え込む早朝に軍本部へ向かった。薄暗い街並みは静まり返り、軍人の姿も少なかったが、美世が予知した通り、警備の薄い時間帯を狙って進むことができた。軍本部の門は無人で開放されており、三人は難なく敷地内に侵入した。
無人の軍本部への潜入
警備体制の甘さに一志は呆れるが、美世の予知通り警備が手薄な状態であったため、侵入はスムーズに進んだ。美世が迷いなく進む様子に、一志は驚きながらも案内役を引き受けた。進む先には高い塀に囲まれた牢獄があり、美世たちはそこを目指した。
資料室からの侵入
美世たちは資料室の窓から建物内に入り込んだ。偶然にも鍵がかかっておらず、無用心な管理に清はぼやいた。侵入後、資料室内は埃っぽい静寂に包まれていたが、三人は速やかに行動を開始した。
軍人との遭遇と迅速な対処
廊下を進む途中、扉が開き軍人と遭遇したが、一志が迅速に対処して相手を無力化した。美世は軍人に悲しげな表情を向けつつも、状況を冷静に判断し、さらに奥へ進む決意を示した。
渡り廊下を越えて寮棟へ
渡り廊下を越えるには鉄格子の鍵が必要だったが、一志が軍人から奪った鍵を使って無事に突破した。美世は迷いのない足取りで前進し、一志はその毅然とした態度に感嘆していた。彼女の姿はかつての斎森美世とは大きく異なり、凛々しさと美しさが際立っていた。
罪人の棟への進行
寮棟への侵入後も美世は迷わず進み、一志と清はその後を追った。一志は美世の変化に思いを馳せ、彼女の成長と内に秘めた強さに驚嘆していた。一志の軽い冗談に清が不快感を示す場面もあったが、三人は緊張感を保ちながらさらに奥へと進んでいった。
地下牢への潜入
美世たちは寮棟の奥にある地下への入り口に到着した。錆びた鉄格子を一志が開錠し、カンテラの光を頼りに急な階段を慎重に下りた。地下は湿気と寒さが漂い、暗闇が支配する環境であり、美世は強い不安を抱えながらも進み続けた。
封じられた異能の障害
地下通路の途中、一志が牢内に設置された祭壇を発見した。それは異能の行使を阻害する術であり、一志は扇子を用いて祭壇を破壊した。その瞬間、地下に漂っていた重苦しい空気が一気に軽くなり、美世たちは再び前進を開始した。
清霞との再会
通路を進むうち、一志が人の気配を感じた。美世は胸の高鳴りを抑えきれず駆け出し、ついに牢から自力で脱出しようとする清霞を発見した。冷え切った彼の身体を美世は抱きしめ、再会の喜びと安堵に涙を流した。清霞は美世を労い、彼女の想いを受け止めた。
清の別れと真相の発覚
清霞は式である清を解き、美世は感謝を込めて別れを告げた。しかし一志の発言から、清霞が清を通じて美世の行動を見聞きしていた事実が明かされた。美世は過去の言動を思い出し、羞恥心に耐えきれず顔を赤らめたが、清霞の優しさに支えられ、再び立ち上がった。
新たな決意
清霞は美世の心情を受け止めつつ、彼女に自分の名を呼んでほしいと願いを伝えた。美世はその想いに応え、互いの絆を再確認した。二人はこれからの戦いに向けて、さらに固い決意を抱いていた。
異能者の動員と戦略の準備
一志は清霞に代わり、対異特務小隊の五道に式を飛ばし、行動開始を指示した。彼らの陽動によって甘水の手勢を引きつけ、その間に美世たちは甘水と直接対峙する計画であった。同時に、正清が集めた異能者たちが午後には加勢する準備が整い、異能心教に対する協力が広がっていることが明らかになった。
甘水の支配からの脱出
陽動作戦が始まり、地響きとともに異能の攻撃が響いた。美世たちは地下壕を抜け、太陽の光が差し込む地上へと戻った。出くわした敵も、清霞や一志の迅速な対応により次々と無力化され、彼らは管理棟へと向かっていった。
新との対峙
管理棟の廊下で美世たちは従兄の新と対峙した。新は美世の呼びかけに対しても冷ややかで、自身の信念を語った。薄刃家の未来を変えるために甘水と行動を共にすると断言し、美世の説得を退けた。新は薄刃家を守る意志を貫いており、その姿勢には妥協が見られなかった。
甘水直の登場
甘水が現れると、彼は帝を意識のない状態で連れてきた。帝に対する憎悪をむき出しにし、彼を虐待し続けていたことを明らかにした。甘水は異能者の支配による新しい秩序を夢見ていたが、その思想は美世たちの反発を招いた。
美世の異能による対話
美世は夢見の力を使い、全員を理想の風景に包むことで甘水の行動を抑えようとした。彼女は甘水の言葉に反論し、力を得る理由やその使い道が甘水とは異なると主張した。しかし甘水は激昂し、美世の言葉を否定し続けた。
新と甘水の決別
新と甘水は、夢の世界から力づくで脱出を試みた。現実に戻ると、新は銃を構え甘水を撃ち抜き、甘水も短刀で新を負傷させた。新の決断は、甘水の暴走を止めるためのものであったが、自身の命と引き換えになってしまった。
新の最期
新は深い傷を負いながらも、美世に許しを求め、微笑みながら息を引き取った。彼の選択は薄刃家や家族のためのものであったが、美世に深い悲しみを残した。彼の最後の言葉は、悲劇的な運命の中で静かに響いた。
激戦の始まり
対異特務小隊は、軍本部敷地内で甘水の勢力と激闘を繰り広げていた。異能を駆使して敵を翻弄しつつも、人工異能者や異形の大軍勢による圧倒的な数の差に苦しめられていた。敵の異形はすべて実体を持ち、対処が可能であったが、それでも数に押される状況が続いていた。
異能者の援軍到着
昼に差し掛かる頃、正清の呼びかけで集まった異能者たちが援軍として到着した。指揮を執る正清は、雷の異能を駆使し、敵を次々と感電させて無力化していった。その戦闘スタイルは鮮烈で、対異特務小隊にとって戦局を大きく好転させるものだった。
辰石一志の合流
戦闘の最中、辰石一志が現れ、美世が一人で危機に陥っていることを伝えた。一志は清霞や美世の無事を確信しつつも、甘水との対峙が続いていることを示唆した。その後、清霞の異能が敷地全体を凍りつかせ、圧倒的な存在感を示した。
戦いの終結
司令部の正面玄関から清霞と共に重鎮たちが現れ、大将の指示により戦闘が停止した。同時に政府側の大海渡征少将が指揮する部隊が突入し、甘水派の抵抗は終息した。甘水の側についた異能者たちも次々と沈黙し、宝上のみが最後の抵抗を試みたが、孤立していた。
甘水の企みの崩壊
甘水の異能技術と計画は確かに優れていたものの、二千年以上続く皇家の歴史とその重みに対抗するには不十分であった。短期間の小手先の技術では国家を覆すことはできなかった。陽光が傾く中、甘水の野望とそれに伴う争乱は終わりを迎えた。
四章 初めての
春の日差しと病室の安らぎ
小鳥の囀りが聞こえる病室では、冬の冷たさが春の暖かさへと移り変わる気配が漂っていた。美世は橙色の蜜柑を剥き、新に差し出した。新は静かに蜜柑を口に運びながら、美世とともに穏やかな時間を過ごしていた。戦いの日々から一転し、静寂な日常が戻りつつあることを二人は噛み締めていた。
甘水直と異能心教の瓦解
甘水直の死によって、異能心教は瞬く間に崩壊した。甘水の異能と憎悪が教団を支えていたが、それが消えると共に信念を持たない政府や軍の協力者たちは瓦解し、残党は逮捕された。甘水の抱えていた技術や思想は強力であったものの、それを支える人材の欠如により、教団は続くことができなかった。
美世と新の会話
新の病室で美世は、彼が甘水を撃つつもりで教団に加担していたことを初めて聞いた。新は甘水の思想や行動が薄刃家の価値観から抜け出せていなかったことを指摘し、甘水が新や美世に信頼を寄せすぎていたことを語った。美世はまた、自身の夢見の力を使った行動が彼らを救うためだったことを告白した。
異能の選択と美世の決意
美世は夢見の異能を覚醒させたものの、今後はその力を使わない決意を固めた。異能を使うことの危険性や、他人を傷つける可能性に向き合い、自分の幸せを大切にする道を選ぶことを新に語った。それは、美世が異能に囚われず、清霞との平穏な生活を望んでいることを示していた。
清霞との再会と穏やかな未来
清霞が病室に現れ、美世を迎えに来た。新は少し未練がましく冗談を言ったが、美世は微笑みながら清霞とともに病室を後にした。二人はこれからの穏やかな生活を予感し、静かに新たな一歩を踏み出した。
呉服店での婚礼衣装選び
美世と清霞は呉服店「すずしま屋」を訪れ、婚礼衣装の確認を行った。店内では葉月と芙由が婚礼衣装について意見を交わしていたが、美世の到着後、衣装の確認が始まった。白無垢は葉月や芙由が結婚の際に着用したものを受け継ぎ、色打掛はすずしま屋が美世に合わせて仕立てた新調品であった。これらの華やかな衣装に、美世は感激しながら感謝の意を述べた。準備を手伝う葉月や芙由、ゆり江の温かい配慮により、美世は次第に婚礼への期待を膨らませていった。
甘味処でのひととき
すずしま屋を後にした二人は、過去に訪れた甘味処を再び訪れた。美世は初めてあんみつを味わい、その美味しさに感動した。清霞との穏やかなひとときの中、美世は一年前の自分を振り返り、現在の幸福をしみじみと実感した。清霞もまた、美世の笑顔に目を細め、互いに心地よい時間を共有した。
神社での静かな祈り
次に訪れた神社では、静かな境内で参拝を行った。参道を歩きながら、清霞は久堂家の旧都とのつながりについて語り、いずれ旧都を訪れる必要があると説明した。美世は未知の土地への期待と共に、清霞との新たな思い出を作る未来に胸を躍らせた。参拝中、美世は過去の迷いを振り返り、今後は自分らしく清霞と共に歩んでいく決意を新たにした。
十二階での展望
十二階に向かった二人は、階段を登り切った先で帝都の全景を一望した。その広大な眺望を前に、美世は自身の悩みや責任感について清霞に語った。清霞は「お前らしくあればよい」と優しく励まし、美世は自分の小さな存在を受け入れながら、自分なりの幸せを追求する大切さを悟った。二人は互いの温もりを感じながら、静かに未来への希望を語り合った。
帰宅と贈り物
帰宅後、清霞は美世に桜を模した簪を贈り、これを美世の髪に挿した。美世も新しい組紐を清霞に手渡し、二人は互いの存在を大切に思う気持ちを確かめ合った。清霞は美世を抱きしめ、軍人を辞めて二人で新たな道を歩む意志を告げた。美世はその言葉を受け入れ、清霞への愛を再確認しながら、共に過ごす未来への喜びを胸に抱いた。
愛の告白と未来への誓い
夜の静けさの中、清霞は「お前が私の命だ」と美世に告げ、結婚の意志を再度確認した。美世は「愛しています」と応え、二人は互いの愛情を深く共有した。互いの存在が不可欠であることを再認識し、二人はこれからも共に幸せな日々を刻むことを誓った。
終章
穏やかな春の訪れ
庭で洗濯物を干していた美世は、春の気配が色濃くなった空や草花に目を向けていた。冬の寒さが和らぎ、庭の土から蒲公英の蕾が顔を出しているのを見つけたとき、清霞と共に春の芽吹きを喜び合った。何気ない日常の中で、二人は静かに巡る季節を楽しんでいた。
桜を植える提案
清霞はふと思いついたように、美世に庭に桜を植える提案をした。それは結婚の記念としてのアイデアだった。桜を庭に植えることが縁起が悪いとされる風習や、美世にとって母を思い出させる複雑な思いもあったが、美世は清霞の言葉に心を動かされ、「すごくいい」と答えた。
新たな春への期待
二人は庭に桜を植える未来を想像し、満開の桜の下で過ごす穏やかな時間を楽しみにした。清霞が美世の気持ちを理解し、特別な提案をしたことに感謝しつつ、美世は改めて清霞への深い愛情を感じていた。二人の春は、目の前に確かに広がっていた。
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