小説「ウォルテニア戦記 XI(11)」独立への暗躍が始まる 感想・ネタバレ

小説「ウォルテニア戦記 XI(11)」独立への暗躍が始まる 感想・ネタバレ

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どんな本?

学校の屋上で弁当を食べようとしていたらいきなり異世界に召喚された高校生の御子柴亮真。
ただ彼はマトモじゃ無かった。

召喚した魔術師を殺し。
逃亡途中で双子姉妹を仲間にして大国の帝国から逃亡。

帝国から逃げれたと思ったら、ローゼリア王国の跡目争いに巻き込まれてしまう。
それにも勝利させて女王ルピスを誕生させ。
そのまま解放されると思ったら。
住民は皆無で、沿岸部に海賊がおり、強力な魔物が跋扈するウォルテニア半島を領地に与えられ貴族にされてしまう。

読んだ本のタイトル

#ウォルテニア戦記   XI
著者:保利亮太 氏
イラスト:bob 氏

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あらすじ・内容

ウォルテニア半島へ帰還した御子柴亮真は、領主としての雑事に追われながら自分が率いる軍隊の強化を目指していた。

主であるローゼリア王国からいずれ独立しようと考える亮真は、その布石としてローゼリア領内での情報収集のため腹心のケビンたちを潜入させる。

いっぽう、戦後の混乱から治安が悪化したローゼリアでは、組織の暗躍によって住民の不満がたまり爆発寸前の状態となるが……。

ウォルテニア戦記 XI

感想

隣国に侵攻して来たオルテニア帝国を退却させ自国のローゼリア王国に戻るが、、

ローゼリア王国、女王ルピスの政治は内乱の混乱からの復興が遅々として進まず、主導してる本人は善良だが王としての資質が無いせいで良くなるどころか、悪化してしまっている。

さらに組織の須藤達が胎動して欲深い貴族を唆して住民達に重税を課して行かせる。
さらに税を払えない平民は奴隷として売り払う始末。

そんな事ばかりするから、国はドンドン衰退していき、圧政に苦しむ平民のルサンチマンは昂って来ている。

そんな混乱の火種が燻っている国を横目に御子柴亮真は、国からの独立を目指してウォルテニア半島の海路を利用して隣国との交易を模索して、資金を稼ぎをして、さらに内政を安定させ、軍備も増加させる。 

コレに須藤率いる組織、御子柴浩一郎と飛鳥の居る宗教組織がどう絡んでくるだ?

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備忘録

プロローグ

交易の準備

ウォルテニア半島北東部の森林地帯にある隠れ里では、ネルシオスが交易の準備を進めていた。十台の馬車が並び、同胞たちが額に汗しながら木箱を荷台へ積み込んでいた。今回の取引は若干の遅れこそあったものの、予定通りの出発が可能であった。彼が取引を行う相手は、クリストフ商会のアレハンドロ・ロッソ。御子柴男爵家の領内で唯一の商会を統べるシモーヌ・クリストフの秘書兼護衛を務める男である。彼の出自は不明ながら、その信頼度は御子柴男爵の最古参の部下と並ぶほどであった。

人間への警戒心

ネルシオスは、当初アレハンドロに強い警戒心を抱いていた。亜人種にとって人間は長らく敵であり、彼らに迫害されてこの地へ追いやられた歴史がある。さらに、四百年以上前の聖戦によって光神教団が西方大陸を支配し、亜人に対する差別が根強く残っていた。特にエルフ族は奴隷市場で高値で取引される存在であり、ディルフィーナもかつて人間の手によって捕らえられた過去を持つ。御子柴男爵の仲介があったとはいえ、アレハンドロを信用するには時間が必要であった。

しかし、実際に取引を重ねる中で、ネルシオスはアレハンドロを「信用できる相手」と認識するようになった。友人や仲間とは言えないものの、契約を遵守し、利益をもたらす商人として信頼に足る存在であると判断した。とはいえ、アレハンドロは決して妥協を許さず、取引条件を厳格に守る男であった。期日に遅れれば契約不履行を宣告され、交渉の条件が不利になる可能性があった。

交易の拡大と課題

ネルシオスは交易の拡大を望んでいたが、それには時間が必要であった。特にエルフ謹製の薬や武具は希少価値が高く、短期間で生産量を増やすのは不可能だった。薬は高い効能を持つが、原材料の採取や加工に時間を要し、量産は困難であった。武具の生産も、付与法術を施す工程が必要なため、大幅な増産は難しかった。日用品に関しては生産しやすいものの、御子柴男爵家からの要望は膨大であり、現状の供給量では到底足りなかった。

御子柴男爵の領地が拡大すれば、交易量はさらに増加するだろう。ローゼリア王国北部へ進軍する日も遠くなく、セイリオスの街はますます発展することが予想された。ネルシオスはそれを見越して人材育成に着手していたが、まだ成果が出る段階には至っていなかった。急激な需要増加に対応するための準備が必要であり、彼にとっては時間が何よりも貴重な資源であった。

エルフ族の変化

交易の影響は、エルフ族の生活を劇的に変えた。かつては塩の確保すら困難であり、味の薄い食事を強いられていたが、今では塩や香辛料が流通し、食生活が改善された。酒や嗜好品も手に入り、生活の質は飛躍的に向上した。交易の恩恵を受けたエルフたちは、一度上がった生活水準を手放せず、さらなる取引の拡大を求めるようになっていた。

ネルシオスはその危険性を理解していた。交易が拡大すれば一時的に生活は豊かになるが、その先にあるリスクを考えなければならなかった。御子柴男爵との取引を軽視する者たちは、短絡的な利益に目を奪われており、将来的な影響を見通せていなかった。

出発と新たな戦雲

取引の準備が整い、ネルシオスは護衛部隊と共にセイリオスの街へ向かうことになった。今回は特に貴重な品が積まれており、万が一の事態が起こればエルフ族全体の交易に大きな影響を与える可能性があった。そのため、ネルシオス自らが隊を率いることとなった。

馬車に積まれた荷物の価値は計り知れなかった。薬草や怪物の部位、エルフ族の職人が作った武具や薬は、西方大陸の市場に持ち込めば金と同等の価値を持つ。ネルシオスは交易の継続がエルフ族全体の生存に直結することを理解しており、今回の取引が成功しなければ、他の部族長たちから厳しい追及を受けることは避けられなかった。

出発を前に、ネルシオスの脳裏には御子柴亮真の姿が浮かんだ。彼がこの状況を予測し、交易を通じてエルフ族を御子柴男爵家の影響下に置こうとしていたことは明白であった。セイリオスの街へ向かう道の先に待つものは、単なる商談ではない。ネルシオスは己の直感が、戦乱の兆しを感じ取っていることを確信した。

第一章  新たなる戦への誘い

交渉の場

ネルシオスは、セイリオスの街の中心にある御子柴男爵家の屋敷に招かれていた。二日前にアレハンドロを通じて亮真の意図を聞いていたため、今回の会談は最終確認であることを悟っていた。提案自体は不条理ではなく、今後の展望を考えれば最善の策であったが、ネルシオスが独断で決断できる内容ではなかった。ウォルテニア半島に住まうエルフ族は七つの部族に分かれており、全体に関わる決定を一人で下すことはできない。そのため、ネルシオスの表情には緊張が滲んでいたが、亮真の表情は余裕に満ちていた。

もてなしの茶

交渉に入る前に、ローラがネルシオスに紅茶を振る舞った。茶葉の香りは素晴らしく、抽出も見事だったが、普段とは異なり酸味と渋みが強かった。しかし、ネルシオスはその意図を即座に察し、カップの横に置かれたクッキーに視線を向けた。干し果物を練り込んだ菓子は、甘みと食感が絶妙であり、紅茶との組み合わせによって味が引き立つように計算されていた。亮真のもてなしは、驚きと新鮮味を持たせる意図が込められていたのだ。ネルシオスは感心しつつ、茶葉の産地を尋ねた。バンダーク産の銘茶であり、ネルシオスは村へ持ち帰ることを希望した。亮真はその申し出を快諾し、さらに南方大陸から入手したカカオを用いたチョコレートも提供すると伝えた。

交易の成果

チョコレートは貴族ですら口にするのが難しい希少な嗜好品であり、ネルシオスは驚きと歓喜を隠せなかった。しかし、高級品を無償で受け取ることにためらいを覚えたものの、亮真はディルフィーナの功績を引き合いに出し、堂々と受け取るよう促した。この言葉により、ネルシオスは面目を保ちつつ、ありがたく受け取ることができた。交易がエルフ族の生活を大きく変えたことを認識しつつも、ネルシオスは警戒を怠らなかった。亮真もまた、エルフ族の意識が変化していることを理解し、さらに良好な関係を築く意向を示した。

ザルーダ王国からの帰還

ネルシオスは亮真のザルーダ王国からの無事な帰還を祝った。亮真もまた、女王の勅命を果たし、オルトメア帝国の侵略を食い止めたことを報告した。しかし、戦の結果には課題が残されていた。ネルシオスは、ザルーダ王国の状況を聞きながら、戦後の影響について探るように視線を向けた。亮真もまた、根深い問題が残されていることを認め、深いため息をついた。

貴族派の不満と策略

ネルシオスは、貴族派の不満が亮真に向けられていることに懸念を抱いていた。伊賀崎衆の調査によれば、ルピス女王の側近が意図的に貴族たちを煽っている節があるという。亮真は、この動きが自分を犠牲にするための策略であることを理解していた。ネルシオスもまた、合理的ではあるが不快な手法であると評した。亮真は、ルピス女王が直接関与している可能性は低いと考えたが、側近であるメルティナやミハイルの関与を疑っていた。彼らはかつて猪武者のような振る舞いをしていたが、経験を積み、より狡猾な策を講じるようになっていた。

ウォルテニア半島の未来

ウォルテニア半島は天然の要塞であったが、守りを固めるだけでは先がなかった。いずれは大軍勢による攻勢を受ける可能性があり、亮真はそれを避けるため、ローゼリア王国北部の貴族領を切り取る決意を固めていた。ネルシオスもまた、それを察していた。交易の継続とエルフ族の未来を考えれば、この決断が避けられないことを理解していた。そして、亮真は最後にネルシオスに問いかけた。

「何れ出来る御子柴殿の国で、我々が今後どのような立ち位置で生きて行くかを……ですね。」

ネルシオスは息を呑み、重苦しい口調でその問いに答えた。亮真はゆっくりと頷いた。

来客の訪問と亮真の思惑

亮真の執務室に五人の来客が訪れた。ケビンを先頭に、メリッサ、レオン、リナ、アネットが並び、恭しく礼を取る。彼らは元奴隷でありながら、貴族の礼法を身につけていた。亮真は、その大仰な礼儀に苦笑しつつも、彼らの努力を認めた。貴族社会では礼儀が重要であり、簡略化は難しいと理解していたが、いずれ改善していくつもりだった。礼の後、亮真は五人の負傷の回復状況を確認し、問題がないことを確認した。

エルフ族の秘薬の効力

ケビンはノティス砦攻略戦で左腕を負傷し、ほぼ切断されかけたが、エルフ族の秘薬によって数ヶ月で完全回復していた。これは大地世界の医療技術では考えられない回復速度であった。エルフ族の秘薬は致命傷すら回復させる力を持つが、生産には手間がかかり、病には効かないという制約もある。完全な切断を治癒するには一年近い時間が必要であり、万能とは言えなかった。しかし、通常の医療では到底治せない傷を癒やせる点で、亮真にとっては貴重な戦略的資源であった。

兵士たちの忠誠心

亮真は、ザルーダ王国から帰還した兵士たちの士気について確認した。戦場での苦労に報いたいと考えていたが、それが十分であったかを懸念していた。しかし、ケビンはその問いに激しく反応し、自らの忠誠を疑われたと感じた。そして、主君への忠誠を証明するため、自害を申し出た。亮真は慌てて彼の剣を取り上げ、疑念ではなく労いの意を込めた質問だったと伝えた。彼らの忠誠心は揺るぎないものであり、亮真は自身の杞憂だったことを悟った。

北部十家との戦略的対決

亮真は、北部十家の領地を制圧する計画を明かした。イピロスを攻め落とすには、ザルツベルグ伯爵家を打倒する必要があった。しかし、彼の兵力だけでは北部十家全体を相手にするには不足しており、包囲戦には時間がかかりすぎる。また、王国の法により私戦は禁止されており、戦を起こせば反逆者として処断される恐れがあった。

反乱の計画とザルツベルグ伯爵家の抹殺

アネットの洞察により、亮真が戦を諦めていないことが明らかになった。彼は王国の混乱を利用し、平民の反乱を誘発することで戦の口実を作る計画を立てていた。そして、北部十家の不穏な動きを王家に対する反逆と見做し、軍を動かす大義名分を得るのだ。亮真はさらに、ザルツベルグ伯爵の力を削ぐため、三人の要人を標的に定めた。それは、伯爵夫人の父ザクス・ミストールと、【ザルツベルグ伯爵家の双刃】と称されるロベルト・ベルトラン、シグニス・ガルベイラであった。

亮真の言葉が響くとともに、部屋の空気が変わった。歴史の歯車が大きく動き始めた瞬間であった。

第二章  北部十家

イピロス城塞とザルツベルグ伯爵

セイリオスの街から南西に続く街道の先に、城塞都市イピロスが聳え立っていた。ここはローゼリア王国北部の防衛の要であり、北部十家の頂点に立つザルツベルグ伯爵の居城であった。高さ十メートルを超える城壁と深い堀に囲まれた難攻不落の城は、幾度もの侵略を退け続けてきた歴史を持っていた。歴代の当主たちは戦場で身を削りながら国を守り、現当主であるトーマス・ザルツベルグ伯爵もまた、若くして数々の戦を経験してきた。しかし、彼の中には誰も気づかぬ狂気が潜んでいた。

ユリア・ザルツベルグの苦悩

伯爵夫人であるユリアは、書状を夫へ届けるために屋敷内を進んでいた。その途中、彼女の耳に女の嬌声が響く。ザルツベルグ伯爵は女好きであり、特に素人の女性を好む悪癖を持っていた。最近になってその傾向は一層顕著になり、ユリアは諦めにも似た溜息を漏らした。彼女と伯爵の関係は決して対等ではなく、政略結婚によって結ばれた夫婦であった。表向きは夫を支える妻として振る舞いながらも、心の奥底では冷めた感情を抱いていた。

王都からの書状

ユリアは夫の部屋に入ると、淫靡な空気が漂っていた。そこには全裸の女が横たわり、伯爵は平然とシャツのボタンを留めていた。彼は妻の訪問を意にも介さず、何の遠慮もなく女を部屋から追い出した。その態度にユリアは言葉を失いながらも、手にした書状を差し出した。それは王都からの使者が届けたものであり、差出人はルピス女王の側近メルティナ・レクターであった。伯爵が封を開き内容を確認すると、予想通りのものだった。書状には御子柴亮真の動向についての調査依頼が書かれており、これまでに何度も送られてきたものと同じであった。

北部十家への指令と伯爵の狡猾な策略

ユリアは、この要請に対し表面的には応じるべきだと進言した。伯爵もそれに同意し、北部十家へ密偵の派遣を指示することを決めた。ルピス女王とメルティナは御子柴亮真を警戒しており、これまでも密偵を送り込んでいたが、誰一人として戻ってこなかった。伯爵はそれを理解した上で、情報を得ることよりも、王都の意向に従う形をとることで己の立場を守ることを優先した。そして、ユリアに処理を一任すると、再び女を呼び戻し、享楽に耽るのだった。

ユリアの疑念と王国の不穏な動き

その夜、ユリアは夫の許可を得て実家のミストール商会を訪ねた。彼女は商会の執務室で父の帰りを待っていたが、すでに五時間が経過していた。王国内の不穏な空気を感じ取っていた彼女は、単なる偶然ではなく、何者かが意図的に情勢を動かしているのではないかと考えていた。貴族派の陰謀か、あるいはオルトメア帝国の関与か。ローゼリア王国全土を揺るがすほどの影響力を持つ存在が、密かに動いているように思えた。

父・ザクス・ミストールの告白

ついに父ザクスが戻り、執務室に入るとすぐに鍵をかけた。その様子にユリアは不審を抱き、彼の行動の理由を尋ねた。しかし、ザクスは詳細を語らず、代わりにユリアの話を聞いた。彼女は王都からの書状の件を説明し、北部十家への密偵派遣を決めたことを伝えた。ザクスはしばらく考え込んだ後、ついに重い口を開いた。そして衝撃的な事実を告げた。彼はその日、御子柴男爵家の者と話をしてきたのだという。

その言葉を聞いた瞬間、ユリアの胸に新たな疑念が芽生えた。その夜、ミストール商会の明かりが消えることはなかった。

第三章  蒼天の雲

大蜈蚣との遭遇

広大な草原の中を、巨大な黒い影が地響きを立てながら移動していた。それはギルドによって特定危険種に認定された巨獣、「大喰らい」と呼ばれる蜈蚣であった。岩陰から様子を伺うケビンの目には、無数の脚を蠢かせながら疾走するその姿が映った。体長は四十メートル近く、節足動物特有の不気味な外見が目を引いた。戦うにはまず動きを封じることが不可欠であり、正面から挑むのは無謀に等しかった。周囲に落石を利用できる地形はなく、武法術や文法術を駆使するしかないとケビンは考えた。

討伐戦への準備と懸念

ケビンは背後を振り返りながら、不敵な笑みを浮かべた。【蒼天の雲】の団長リックも、単純な身体能力だけではこの怪物に太刀打ちできないと理解しているはずであった。討伐には戦術が必要であり、個々の力に依存する戦い方は危険だった。しかし、問題は仲間への信頼であった。ケビンにとって、彼らと共に戦うのは今回が初めてであり、彼らの本当の実力や戦術の練度を完全に把握できていなかった。彼は過去にウォルテニア半島で数々の修羅場を潜り抜けてきたが、今は新たな環境に適応する必要があった。

リック団長と副団長アナスタシアの登場

背後からリックの声が響き、ケビンは驚いて振り向いた。彼は意図せず短剣の柄に手を伸ばしたが、相手が団長だと確認すると素早く表情を変えた。彼の役割は、没落した騎士の隠し子として、虚勢を張りながらも純粋な冒険者を演じることであった。そこへ副団長のアナスタシアも現れ、すでに落とし穴の偽装が完了していることを告げた。彼女は理知的な人物であり、団の指揮を担う知恵袋でもあった。リックと軽口を交わしながらも、作戦に関しては冷静であった。

怪物の脅威と戦略の重要性

アナスタシアは、すでにこの蜈蚣が五人以上の冒険者を仕留め、周辺の流通を止めていることを説明した。リックは、この怪物が人を喰らうことで危険性を増していると指摘し、放置すればさらに脅威となると語った。ケビンは討伐の規模について懸念を示したが、リックは楽観的な態度を崩さなかった。アナスタシアは戦術の要であり、彼女の計画に従えば問題ないと判断しているようだった。しかし、ケビンには確信が持てなかった。

討伐作戦の開始とケビンの密命

作戦の詳細は明かされず、ケビンは表向き新人としての役割を演じながら、密かにリックとアナスタシアの力量を見極めようとしていた。彼の本当の任務は、御子柴亮真の命により、有能な人材を見つけることであった。遠ざかる二人の背中を見つめながら、ケビンはふてぶてしい笑みを浮かべた。彼の中で、高揚感と警戒心が交錯していた。

大仕事の成功と団員たちの祝宴

城塞都市が夜の喧騒に包まれる中、リックは書類に埋もれながら仕事をしていた。階下では、団員たちが先の大蜈蚣討伐の成功を祝って盛大に酒を飲み、歓声を上げていた。彼らの興奮は当然のことであり、リックも本来ならば彼らと共に酒を酌み交わしたかったが、団長としての責務がそれを許さなかった。彼は机上の書類を整理しながら、団の経営に必要な収支を計算していた。戦士としての彼にとって、このような細かい作業は苦手であったが、団を維持するためには避けられない仕事であった。

リックの過去と団長としての責務

リックは幼い頃、戦乱によって家族を失い、孤児となった。飢えと渇きに苦しむ彼を救ったのは、当時【蒼天の雲】を率いていたドノバンであった。ドノバンはリックを戦士として鍛え、共に数多の戦場を駆け抜けた。やがて、年老いたドノバンが引退を決意すると、リックが団の後継者として団長の座を引き継ぐこととなった。しかし、戦士としての経験が豊富な彼にとって、団の運営や商人との交渉は苦痛であり、時にはドノバンがなぜ仕官せずに引退したのかを理解することもあった。戦場での戦いだけでなく、組織の維持には金と政治が絡むことを痛感していた。

ローゼリア王国の不穏な情勢

最近のローゼリア王国は、不安定な状況にあった。ギルドには盗賊討伐や護衛の依頼が急増し、貴族たちは自らの軍を強化するために領民への課税を強化していた。貧しい者たちは重税に苦しみ、ある者は賊となり、ある者は飢えに耐えていた。リックもまた、この国の情勢がかつての内乱期以上に危機的な状況にあることを肌で感じていた。その中で、新たに団へ加わったケビンの存在が、彼の中で小さな疑念を生んでいた。戦闘能力が高く、書類の読み書きや計算もできるという彼の能力は、ただの新人とは思えなかった。

ケビンの正体と御子柴男爵家の関与

リックが書類仕事を終え、団の副団長アナスタシアと話すために呼び出したところ、彼女は一人ではなくケビンを伴って現れた。その場でケビンは、自らが御子柴男爵家の人間であることを明かした。御子柴男爵家は、辺境のウォルテニア半島を与えられた新興貴族であり、ルピス女王から疎まれている存在であった。リックは、その名を聞いた瞬間、驚きを隠せなかった。王から冷遇されながらも、ザルーダ王国での戦功を挙げた御子柴亮真の勢力が、このローゼリア王国の不穏な情勢にどのように関わってくるのかを考えざるを得なかった。

密談と歴史の転換点

ケビンの目的は明確ではなかったが、少なくとも【蒼天の雲】に何らかの協力を求める意図があることは明らかであった。リックは深い溜息をつきながらも、話を聞かざるを得なかった。その夜、三人の密談は深夜まで続き、その結果として【蒼天の雲】はローゼリア王国内での活動を積極的に増やしていくこととなった。そして数ヶ月後、王国の情勢は急速に変化し、歴史の歯車は再び大きく回り始めることとなる。それは、多くの血と涙を伴う変革の始まりであった。

第四章  二振りの刃

盗賊団との対峙

ロベルト・ベルトランは、赤く染めた鎧に身を包み、黒毛の馬にまたがりながら戦場を見渡していた。彼の前には、ローゼリア王国とザルーダ王国の国境付近に根を張る、三百人規模の盗賊団が集結していた。元は傭兵団だった彼らは、敗戦の責任を問われて反旗を翻した者たちであり、近隣の流民や無法者を吸収しながら勢力を拡大していた。対するロベルトの軍勢はわずか五十人。数の上では圧倒的不利であったが、ロベルトには一切の動揺が見られなかった。彼は冷静に状況を分析し、策を巡らせていた。

ロベルトと老騎士の信頼関係

ロベルトの隣には、長年彼を守り続けてきた老騎士がいた。彼は主君に対して遠慮のない態度を取りつつも、確かな信頼を寄せていた。ロベルトは貴族の次男として生まれ、嫡男である兄と常に比較されながら育った。父からの愛情を感じつつも、次男としての立場に縛られ、自らの存在意義を模索してきた。そんな彼にとって、老騎士の存在は実の親以上に大きな支えとなっていた。ロベルトは老騎士に向けて、砦を力攻めせずに敵を誘い出す策を選んだ理由を語り、彼もそれに静かに同意した。

不満を抱える戦人

ロベルトはザルツベルグ伯爵家の命を受け、各地の戦に駆り出されていた。しかし、その功績は全て兄と父のものとされ、彼自身には何の見返りもなかった。次男であるがゆえに、領地の経営にも関われず、ただ戦場を駆け回る日々に嫌気が差していた。その苛立ちを紛らわせるため、彼は酒を求めたが、兄から送られたのは質の悪い安酒だった。ロベルトはそれを口にして苦い顔を浮かべ、改めて兄の守銭奴ぶりに呆れた。彼にとって、戦いこそが己の存在を証明する唯一の手段であった。

戦場での暴威

ロベルトは、圧倒的な力を持つ戦士であった。彼が持つ戦斧は通常のものより遥かに巨大で重く、並の人間では振るうことすらできない。しかし、彼はそれを軽々と扱い、盗賊たちを次々と斬り伏せていった。その動きはまさに人の形をした天災であり、戦場に恐怖を撒き散らした。盗賊たちは烏合の衆であったが、それでも数の力を頼りに抵抗を試みた。しかし、ロベルトの前ではその努力も無意味だった。彼は戦斧を振り回し、敵を粉砕しながら戦場を突き進んだ。

宿命の一騎打ち

盗賊団の頭目であるデック・モニスターは、ロベルトに一騎打ちを申し込んだ。彼は騎士としての誇りを持ち、正式な戦場の礼法を守る人物であった。ロベルトはそれを受け入れ、二人は馬を駆りながら激突した。デックは槍を構え、ロベルトは戦斧を振るう。激しい攻防の末、ロベルトの一撃がデックの槍を叩き折り、彼の体を斜めに切り裂いた。戦場は静寂に包まれ、ロベルトは勝利の雄たけびを上げた。その姿は、まさに戦場を支配する王のごとき威厳に満ちていた。

ザルツベルグ伯爵家からの書状

ロベルトが盗賊団を討伐した夜、ベルトラン男爵家にザルツベルグ伯爵家からの書状が届けられた。ベルトラン男爵は封蝋を確認し、嫡男ローゼンと共に内容を確認した。そこには、再びウォルテニア半島の調査を命じる指示が記されていた。ベルトラン男爵家は以前、この半島の調査で多数の死傷者を出しており、財政的にも深刻な打撃を受けたばかりであった。そのため、この命令に対し、男爵は深い溜息をついた。

ウォルテニア半島調査の過去

過去にベルトラン男爵家は、冒険者や密偵を派遣してウォルテニア半島の調査を試みた。しかし、派遣した者たちは次々と消息を絶ち、最終的に九人もの密偵が戻らなかった。特に、密偵頭までが行方不明になったことは男爵家にとって痛手であった。密偵の家族の生活を保証するため、見舞金の支払いが必要となり、財政は逼迫。ついにはロベルトの個人的な資産をも借用するほどの状況に追い込まれた。結果として、ベルトラン男爵家では「ウォルテニア半島」の名は鬼門とされ、この地への関与は避けるべきものと認識されていた。

ザルツベルグ伯爵家の双刃

ローゼリア王国北部には、並び称される二人の武将がいた。一人はロベルト・ベルトラン、もう一人はガルベイラ男爵家の六男であるシグニス・ガルベイラ。この二人は「ザルツベルグ伯爵家の双刃」として知られ、北部十家の盟主であるザルツベルグ伯爵自らが名付けた異名を持っていた。特に、五年前のミスト王国との戦いでは、彼らが千の兵を率いて五千の敵を打ち破り、王国に勝利をもたらした。この功績により、彼らの名声はローゼリア国内のみならず、近隣諸国にも響き渡ることとなった。

幽閉された英雄

しかし、そんなシグニスは現在、ガルベイラ男爵家の屋敷に幽閉されていた。彼は一年近く戦場から遠ざけられ、食事と睡眠だけの退屈な日々を過ごしていた。理由は父であるヨーゼフ・ガルベイラとの確執であり、義母や異母兄弟との間に深い溝が生まれたことにあった。家督争いの渦中にある彼は、身動きが取れない状況に陥っていたが、自ら家を出ることもためらっていた。なぜなら、彼にはたった一人、絶対に失いたくない存在がいたからである。それが、幼い頃から彼を育ててくれた老婆エルメダであった。

複雑な生い立ち

シグニスはガルベイラ家の六男であったが、正室の子ではなかった。彼の母は貴族ではなく、農民の娘であった。父ヨーゼフは爵位を継ぐ前に、ただ一度だけその娘と関係を持ち、その結果シグニスが生まれた。しかし、ヨーゼフにとってその関係は単なる気の迷いであり、子供の誕生を望んではいなかった。加えて、彼の正妻アンネは嫉妬深く、庶子の存在を認めることを許さなかった。こうした事情から、シグニスは生まれる前に命を絶たれるはずだった。

望まれぬ存在から英雄へ

しかし、当時のガルベイラ男爵がシグニスの存在を認め、正式に男爵家の一員とした。その後、彼は文武に励み、数多の戦場で活躍。結果として「ザルツベルグ伯爵家の双刃」と呼ばれるほどの武勇を誇る騎士へと成長した。しかし、彼の存在はガルベイラ家の人々にとって、もはや疎ましさを通り越し、恐怖の対象へと変わっていった。彼の力と名声が高まるにつれ、義母や異母兄弟たちは彼を敵視し、ついには屋敷に幽閉するという強硬手段を取るに至った。

訪れた転機

シグニスはガルベイラ家を離れるべきか否かで葛藤していた。家を出ること自体は彼にとって難しいことではなかった。彼の戦闘能力をもってすれば、屋敷の警備など容易に突破できる。しかし、それをすれば、エルメダを失うことになると理解していた。彼女を守るために、彼は身動きが取れないまま、無為な時間を過ごしていた。そんなある日、彼の部屋の扉が突然開いた。誰も予期していなかった来客の姿を目にし、シグニスの目は大きく見開かれた。

第五章  暴発

平和な村の日常とその崩壊

太陽が輝くある夏の日、ローゼリア王国の片田舎では、羊が草を食み、村人たちが穏やかな時を過ごしていた。この土地は街道からも外れ、戦略的価値が低いため、盗賊や怪物の襲撃は滅多に起こらなかった。しかし、村にとって真の脅威は外敵ではなく、王国から派遣される役人や貴族たちであった。その静寂は、突如として響き渡る怒声によって破られた。村の広場には、不安と怯えの表情を浮かべた村人たちが集まり、輪の中心では騎士の暴力が村人を襲っていた。

代官による圧政と暴力

村の中心で、代官の命令を受けた騎士が、納税を求めるために村人を殴打していた。中年の男は必死に減税を嘆願したが、騎士の拳が彼の奥歯を砕き、血が地面に滴り落ちた。幼い娘が泣きながら飛び出し、父を助けようとしたが、無力な彼女にできることは何もなかった。男は、王国の変革に期待していた過去を思い出しながら、現実の過酷さに打ちひしがれた。ルピス・ローゼリアヌスの即位は、庶民にとって希望の光と見られていたが、その実態はさらなる重税と搾取に過ぎなかった。

終わりの見えない重税

代官はさらに男を責め立て、税を納める期限を問い詰めた。男はすでに今年分の税を納めており、度重なる臨時徴税によって生計は限界に達していた。しかし、代官は彼の訴えを一蹴し、さらなる徴収を迫った。村の経済は逼迫し、もはや支払いは不可能であった。男は怒りと無力感に震えながらも、家族のために耐え続けた。しかし、代官は冷酷に「払えないなら他の方法で」と暗示し、その視線を男の妻と娘に向けた。

過去の失敗と後悔

男は過去を振り返り、かつて商人として生きていた日々を思い出した。彼は誠実な商売を心掛けていたが、知人に騙され、大切な資金を失った。それ以来、男は町を離れ、流浪の果てにこの村で新しい家族を得た。彼にとって妻と娘は何よりも大切な存在であり、彼らを守ることが唯一の願いだった。しかし、今や彼は再び絶望の淵に立たされていた。代官の要求を拒めば、家族を失う未来が待っていた。

騎士エリオット・チェンバレンの思惑

広場の一角で、鎧に身を包んだ騎士エリオット・チェンバレンは、この惨状を冷笑しながら見つめていた。彼は地球出身の異邦人であり、元はニューヨークの金融マンだった。かつて召喚され、この世界で貴族の手に落ちた彼の恋人は、残虐な仕打ちを受けた末に命を落とした。その経験から、チェンバレンはこの世界に対する憎悪を募らせ、人々が互いに殺し合う様を楽しむ歪んだ存在となっていた。彼はこの混乱をさらに煽り、王国を内乱へと導くことを画策していた。

策略と暴発する怒り

チェンバレンは代官を巧みに操り、村人たちへの圧力を強めさせていた。彼の目的は、貴族たちの横暴を煽り、王国の統治を揺るがすことであった。しかし、事態は予想外の展開を見せた。突如として矢が放たれ、代官の頭部を貫いた。村人たちは動揺し、騎士たちは混乱に陥った。チェンバレンは即座に状況を把握し、毒矢が使われたことから、単なる村人の反乱ではなく、何者かの策略であることを察した。しかし、矢の放たれた方向は村の中であり、騎士たちはすぐに村人を犯人と断定した。

反乱の勃発

代官の死を受け、村人たちはついに決起した。彼らは鋤や鍬を手に取り、騎士たちを取り囲んだ。これまで耐え続けていた怒りと憎しみが、一気に爆発したのである。騎士たちは動揺し、特に平民出身の者たちは戦うことをためらった。チェンバレンは状況の危険性を理解し、仲間たちに撤退を指示した。騎士たちは少数であり、包囲された状況では戦い続けることは不可能だった。チェンバレンは組織への報告を急ぎ、事態を収拾する手段を考えなければならなかった。

王国全土へ広がる炎

この日、ローゼリア王国の片田舎で起こった小さな反乱は、やがて全国へと波及した。民衆の不満は限界に達し、各地で暴動が発生。貴族たちの圧政に対する反発は急速に広がり、統治機構は揺らぎ始めた。やがて、この事件は「第二次ローゼリア内乱」と呼ばれる王国滅亡の引き金となる。チェンバレンの思惑を超え、王国全土を焼き尽くす大火が幕を開けたのである。

エピローグ

王城に響く叱責

ローゼリア王国の首都ピレウス。その中心にそびえる白亜の城では、王の側近であるメルティナ・レクターが激昂していた。彼女の怒鳴り声が会議室に響き渡り、部屋の外で警備に当たる兵士たちも互いに目を合わせ、ため息をつくほどであった。メルティナは国政の停滞に苛立ち、部下たちに対して成果を求めたが、長年役人として働いてきた男たちは、ただ困惑しながらも言い訳をするしかなかった。彼女の求める変革を成し遂げるには、王国の現実はあまりに厳しかった。

変わらぬ政治の停滞

メルティナは、改革を進めるためには迅速な対応が必要だと信じていた。しかし、長年の政治のしがらみに縛られた役人たちは、「時間をかけて少しずつ味方を増やすしかない」と主張した。彼女はそれに納得できず、苛立ちを募らせた。ルピス女王が即位してからすでに時間が経過していたにもかかわらず、王国の体制は何も変わらず、むしろ混乱が深まっていた。メルティナはそれを認めることを恐れ、無理な指示を出し続けていた。

ルピス女王の苦悩

同じ頃、王城の会議室では、ルピス女王が日々の政務に疲れ果てていた。改革を進めるために集めた官僚たちは、議論を繰り返すばかりで何一つ結論を出せずにいた。ルピス女王は、自らの選んだ人材が役に立たないことに焦りを覚えながらも、何か突破口がないかと必死に探していた。彼女は期待の眼差しで周囲を見渡したが、誰もが目を逸らし、沈黙を守った。そんな中、ベルグストン伯爵が静かに手を挙げた。

迫る脅威と王国の危機

ベルグストン伯爵は、王国が直面している最大の問題はオルトメア帝国によるザルーダ王国への侵攻であると指摘した。帝国は東部三ヶ国の連携を分断するため、南部諸王国を利用し、ローゼリア王国を戦争に引き込もうとする可能性が高かった。国内の混乱が続けば、南部諸王国との戦いに対応することができず、王国はさらに弱体化することが避けられなかった。伯爵は、それを防ぐための提案をしようとした。

突如鳴り響く扉の音

ベルグストン伯爵が決定的な提案を述べようとしたその瞬間、会議室の扉が激しく打ち鳴らされた。その音は、王国の未来を左右する重大な知らせであることを予感させた。会議室の空気が一変し、誰もが緊張の面持ちで扉を見つめた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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