小説「ウォルテニア戦記 XII(12) 」御子柴男爵が反乱を起こす 感想・ネタバレ

小説「ウォルテニア戦記 XII(12) 」御子柴男爵が反乱を起こす 感想・ネタバレ

どんな本?

学校の屋上で弁当を食べようとしていたらいきなり異世界に召喚された高校生の御子柴亮真。
ただ彼はマトモじゃ無かった。

召喚した魔術師を殺し。
逃亡途中で双子姉妹を仲間にして大国の帝国から逃亡。

帝国から逃げれたと思ったら、ローゼリア王国の跡目争いに巻き込まれてしまう。
それにも勝利させて女王ルピスを誕生させ。
そのまま解放されると思ったら。
住民は皆無で、沿岸部に海賊がおり、強力な魔物が跋扈するウォルテニア半島を領地に与えられ貴族にされてしまう。

読んだ本のタイトル

#ウォルテニア戦記   XII
著者:保利亮太 氏
イラスト:bob 氏

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あらすじ・内容

着々と反乱への準備を進める御子柴亮真の手腕によって、混乱が広がるローゼリア王国。

この際ルピス王女を見捨てようと考える貴族も現われ、王国の勢力は分裂していく。

そんな中、亮真は未だその真価を見せない妖刀・鬼哭の声を聴く。そして、ローゼリアの内乱は、周辺の諸国にも影響を与え……。

ウォルテニア戦記 XII

感想

女王ルピスの政治は全く上手く行って無い。

その原因の全てはミハイルの助命。

そのミハイルと交換に内乱の原因の王の落胤の姫を王族として迎え、彼女を盟主にしていた侯爵を助命したのが全ての失敗の原因だった。

そのせいで国は乱れ。

北部では新興の御子柴男爵軍。兵数1000名が、古参の伯爵家とその同盟の家々北部十家、総数兵数2000名と矛を交える。

 2倍の兵数差に味方の死者13名。

あと全員は戦線復帰可能な怪我って無双じゃん。 

その13名を殺害したのはたった2名の騎士‥ 

ところで伯爵側の被害は?どのくらい出たのだろうか?

その辺りの描写が無かったな、、

一当てしただけだからあまり被害が出なかったのかな?

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備忘録

プロローグ

執務室での葛藤

ベルグストン伯爵は、自邸の執務室で深い沈黙に包まれていた。彼が王宮で繰り広げられる混迷した会議に沈黙を守り続けてきたのは、ルピス女王に国家の危機を認識させ、決断を促すためであった。しかし、その策は水泡に帰した。貴族階級の腐敗を容認しつつも、大局を見据えていた彼の目論見は、反乱の発生により崩れ去った。平民による貴族殺害という事実が、王国の秩序を根底から揺るがしたのである。

反乱による王国の危機

反乱の発端となったのは、腐敗した代官の殺害であった。爵位の低い貴族であったが、問題は彼が平民の手によって命を奪われたことにあった。貴族社会はその事実を決して許さず、平民側もまた自身の運命を悟り、交渉の余地を失っていた。結果として、王国が取り得る選択肢は武力による鎮圧のみであり、これにより国はさらに混迷を深めることになった。

王政の限界と女王の決断の重み

この事態を収める最も穏便な方法は、ルピス女王が恩赦を下すことであった。しかし、国王としての権威を維持するためには、貴族たちの支持を必要とする。その貴族たちが反発することは明白であり、女王が恩赦を決断した場合、その代償としてさらなる貴族の増長を招くことは避けられなかった。王国の求心力が低下する中、国王の決断はますます困難なものとなっていた。

ゼレーフ伯爵の訪問

執務室に年老いた執事が訪れ、ゼレーフ伯爵の来訪を告げた。ベルグストン伯爵は彼を迎え入れるが、義弟の顔をまともに見られなかった。ゼレーフ伯爵が長年の努力をかけて集めた貴族の不正の証拠も、反乱の勃発によって無意味なものとなりつつあったからである。ゼレーフ伯爵は変わらぬ穏やかな笑みを浮かべつつ、王宮でルピス女王が急報を聞いて倒れたことをすでに知っていた。その情報網の確かさに、ベルグストン伯爵は改めて驚きを覚えた。

破綻する王国の体制

ベルグストン伯爵は、王国の未来についてゼレーフ伯爵の意見を求めた。ゼレーフ伯爵は、すでにルピス女王の統治は破綻しており、王国が崩壊するのは時間の問題であると冷静に分析した。さらに、ゲルハルト子爵がラディーネ王女を擁立し、無能な王を廃するという大義を掲げて蜂起する可能性を示唆した。これにより、国内の貴族たちはルピス女王ではなく、ゲルハルト子爵に支持を寄せることが確実となった。

女王を見限る決断

ベルグストン伯爵は、可能な限りの策を模索したが、最終的にゼレーフ伯爵の指摘を認めるしかなかった。平民との交渉も現実的ではなく、貴族たちの支持を取り戻すことも困難であった。ルピス女王が強権を発動して貴族たちを抑え込むことができなければ、王国の崩壊は不可避であった。ベルグストン伯爵は苦悩の末、自らの家と領民を守るため、ルピス女王を見限る決断を下した。

新たな道の模索

ベルグストン伯爵は、ゼレーフ伯爵に今後の方針を問うた。ゼレーフ伯爵は、王国の沈没が避けられない以上、生き残る道を探るべきであると述べた。ベルグストン伯爵は、ルピス女王を守ることが正義であることを理解していたが、それ以上に領民と家族を守る義務があった。彼は最後の迷いを振り切り、ゼレーフ伯爵に策を託すことを決意した。

第一章  闇の深淵

月光の下の決断

ゼレーフ伯爵は、馬車の窓から澄み渡る夜空を見つめていた。完全な真円を描く月は、まるで全てを見通しているかのようであった。彼の胸に去来するのは、己の選択に対する嫌悪感である。義兄であるベルグストン伯爵に王を見限るよう説いたが、それが正しい決断であったのかどうかは分からなかった。しかし、感傷に浸る時間はなかった。王国の命運を左右する最大の鍵は、現在西の国境に駐屯するエレナ・シュタイナーの動向にあった。彼女はローゼリア国中から集めた兵八千を率いており、その選択次第で国の未来が決まるであろう。

貴族社会におけるゼレーフ伯爵の影響力

ゼレーフ伯爵家は、建国当時から続く名門でありながら、貴族社会においてほとんど目立つことがなかった。その理由は、ゼレーフ家が表舞台に立つことを避け、情報収集に特化していたからである。王宮や貴族社会に張り巡らされた情報網は、ローゼリア国内の貴族の不正や派閥争い、さらには王族の動向にまで及んでいた。ルピス女王が反乱の報告を聞いて気を失ったことをすでに知っていたのも、その情報網の力によるものであった。しかし、今回の反乱がゼレーフ伯爵の予想よりも早く勃発したことは、彼の計算に狂いを生じさせていた。何者かが意図的に貴族派を操り、平民たちの不満を煽っているのは明らかであった。

謀略の裏に潜む影

ゼレーフ伯爵は、今回の一連の策謀を巡らせた黒幕を探っていた。貴族派の首魁であるゲルハルト子爵が関与しているのは間違いないが、彼が単独で動いているとは考えにくい。ローゼリア王国の分裂を狙うオルトメア帝国が関与している可能性が高かったが、それを裏付ける確たる証拠はなかった。もしゲルハルト子爵がオルトメア帝国と通じているのであれば、旧領地であるイラクリオンを報酬として求めるはずだ。しかし、彼は新たな領地を安定して治めており、その行動は内通者のそれとは異なっていた。では、彼は誰かに踊らされているのか――ゼレーフ伯爵の脳裏に新たな疑念が浮かび上がった。

突然の襲撃

馬車が突然急停車し、ゼレーフ伯爵は前方へ投げ出された。頭を強く打ちつけ、意識が朦朧とする中で外の様子を確認すると、御者たちが無数の矢を受けて息絶えていた。彼らは単なる従者ではなく、熟練の戦士であった。その彼らが抵抗する間もなく倒されたということは、襲撃者が高度な訓練を受けた暗殺者であることを示していた。ゼレーフ伯爵はすぐに状況を理解し、死体を盾にして身を守った。次々と飛んでくる矢は、敵が強弓を用いる手練れであることを示唆していた。

絶体絶命の戦い

ゼレーフ伯爵は剣を手に取り、馬車の陰に身を潜めた。戦士としての技量は新人騎士に劣る程度であり、まともに戦えば勝ち目はない。それでも、ここで討たれるわけにはいかなかった。襲撃者が文法術師を伴っていないのは幸運であったが、強弓を扱う射手が複数人いることを考えると、状況は絶望的であった。矢が飛び交う中、ゼレーフ伯爵は自身の震える手を見つめた。生き延びるためには、暗殺者たちを排除するしかなかった。

迫り来る死の影

矢の嵐が続く中、ゼレーフ伯爵は盾にしていた客車の扉を貫かれるのを目の当たりにした。敵の狙いは正確で、次第に彼の逃げ場はなくなっていた。剣を握る手が震え、冷たい汗が背を伝う。もし、これが義兄であるベルグストン伯爵であれば、堂々と剣を振るっていただろう。しかし、ゼレーフ伯爵は策を巡らせることには長けていたが、直接の戦闘には向いていなかった。自身の非力を痛感しながらも、彼は最後の抵抗を決意した。

その瞬間、彼の運命は大きく変わろうとしていた。

暗殺者の影とマルフィスト姉妹の決断

闇が支配する森の中を、五人の影が疾走していた。彼らは武法術によって身体能力を強化し、馬をも凌ぐ速度で進んでいた。その一団に、木陰で待機していた伊賀崎衆の忍びが合流する。彼らはゼレーフ伯爵への襲撃計画を把握しており、すでに十人の暗殺者が動いていることを報告した。さらに、森の奥にはまだ複数の敵が潜んでいる可能性があった。

ローラは状況を聞くと舌打ちをした。ゼレーフ伯爵の警護を最優先とするよう亮真から命じられていたが、彼女はベルグストン伯爵の方を重視していた。そのため、ゼレーフ伯爵の動きを完全には把握できず、敵の奇襲を許してしまったのである。しかし、幸いにも伊賀崎衆の忍びを配置していたため、暗殺が実行される前に現場へ到達することができた。

戦闘準備と襲撃者の迎撃

ローラは襲撃者の戦術を即座に見抜いた。敵はゼレーフ伯爵を馬車に釘付けにしつつ、後詰めの部隊が彼の背後を突こうとしていると判断した。そこで、伊賀崎衆の忍びたちには周囲の警戒を指示し、自らと妹のサーラは直接襲撃者を排除することを決意する。

サーラは静かに腰に差していた曲刀を抜いた。それは亮真がザルーダ王国から帰国した際に特別に作らせた武具であり、黒エルフ族の秘伝の付与法術が施されていた。その刃は夜の闇よりも深く黒く、柄には血のような赤い宝玉が埋め込まれ、美しさと殺傷能力を兼ね備えていた。

ローラとサーラは呼吸を整え、瞬時に戦闘態勢に入る。二人の体に生気が巡り、体内のヴィシュッダ・チャクラが活性化した。次の瞬間、彼女たちは風となり、矢よりも速い速度で敵へと突進していった。

奇襲と迅速な殲滅

ローラの視界に襲撃者たちの姿が捉えられた。弓を射かけている射手は八人。報告が正しければ、残りはゼレーフ伯爵の背後へと回っているはずであった。ローラたちの部隊は伊賀崎衆五人を含めても敵と同数か、やや劣勢であった。しかし、奇襲の利があるうえ、敵は自らが攻撃されることを想定していなかった。

ローラは無言のまま駆け抜け、一人の男の左脇腹を鋭く斬り上げた。彼は最初何が起こったのか理解できずにいたが、次第に体がズレ、血をまき散らしながら崩れ落ちた。ローラは次の標的へと向かい、流れるように斬撃を繰り出した。サーラもまた、静かに敵の間をすり抜けながら、確実に一人ずつ仕留めていく。

やがて、矢の飛来が止んだ。ゼレーフ伯爵はそれに気づき、顔をそっと覗かせた。周囲は静寂に包まれ、まるで戦闘などなかったかのように森は静まり返っていた。

救出と新たな決断

ゼレーフ伯爵は慎重に客車の陰から身を出した。罠の可能性を疑いつつも、状況を打開するには行動するしかなかった。緊張の中、森の奥から木々をかき分ける音が響いた。伯爵は剣を構え、声の主を警戒した。しかし、月明かりの下に現れたのは、金髪と銀髪を靡かせた双子の姉妹であった。

彼女たちの姿を見た瞬間、ゼレーフ伯爵は全身から力が抜け、その場に崩れ落ちた。長年、愚物の仮面を被り続けてきた彼にとって、暗殺の恐怖は生涯初めての経験であり、戦いには不向きであった。しかし、マルフィスト姉妹は彼の姿を見ても侮辱することなく、静かに見守っていた。

ローラは襲撃者の殲滅を報告すると、伯爵へと問いかけた。この後の行動をどうするのか、と。普通であれば帰宅を選ぶべき状況であった。しかし、ゼレーフ伯爵は迷うことなく答えた。その決断は、ローゼリア王国の未来に新たな動きをもたらすものであった。

第二章  鬼哭という名の刀

ゼレーフ伯爵の救出とエレナとの合意

ローラはゼレーフ伯爵を伴い、西方の大都市トリトロンから帰還し、亮真に報告を行った。彼女たちは伊賀崎衆の情報を頼りに間一髪で伯爵を救出したが、最初の襲撃で護衛が全滅し、危機的状況であった。襲撃者を排除した後、ローラはエレナと会談を実施し、彼女とゼレーフ伯爵がルピス女王を見限ることで合意したことを伝えた。

エレナは亮真との会談を求める書状を送り、それを読んだ亮真は満足げに微笑む。彼は書状を蝋燭の火で焼きながら、ローゼリア王国が滅亡の危機に瀕していることを再確認した。エレナは軍人として優秀であるが、政治家としての適性は低く、王として君臨する器ではない。彼女の提案は、事実上、亮真の庇護下に入る意思表示にほかならなかった。

ゼレーフ伯爵の動向と休息

ゼレーフ伯爵がエレナと接触するために王都を離れたことは、亮真の予想通りであった。彼は今後の方針を話し合うため、伯爵を数日間セイリオスの街に滞在させることを決める。長旅と襲撃の影響で伯爵の疲労は甚大であり、休息が必要であった。

しかし、この滞在には別の意図も含まれていた。ゼレーフ伯爵にセイリオスの街の発展を目の当たりにさせることで、彼にウォルテニア半島の実力を理解させる狙いがあった。ローラは亮真の計画がすべて予想通りに進んでいることに驚きを隠せなかった。

ゼレーフ伯爵の評価と隠された実力

ゼレーフ伯爵がルピス女王を見限り、エレナと手を組む決断を下したことに、ローラは驚きを隠せなかった。彼女の認識では、伯爵は温和で気さくな中年貴族にすぎず、政治的な野心を持つ人物ではないと考えていた。しかし、今回の一件で彼の隠された実力が明らかになった。

亮真はゼレーフ伯爵の評価が低いことこそが彼の武器であり、彼は意図的に愚鈍さを装い、目立たぬよう振る舞ってきたと説明する。伯爵は義兄であるベルグストン伯爵の影に隠れつつ、政治の裏側を支えてきたのだ。こうして彼は権力の闇を利用し、最終的に決定的な局面で動く準備を整えていたのである。

ゼレーフ伯爵の情報網と亮真の計画

亮真はゼレーフ伯爵の持つ情報網の価値を高く評価していた。彼の影響力は貴族社会や王宮の奥深くまで及んでおり、伊賀崎衆では収集できない情報を入手できる。この能力こそが、ローゼリア王国を切り崩す上で不可欠なものであった。

貴族社会において情報戦は極めて重要である。しかし、伊賀崎衆のような外部の組織が貴族の社交界に入り込むのは難しく、ゼレーフ伯爵のような存在が必要不可欠であった。亮真は彼を戦略の中核に据え、ローゼリア王国を支配するための布石を打ち始めた。

ゼレーフ伯爵襲撃の真相とルピス派の動向

ゼレーフ伯爵襲撃の調査の結果、襲撃犯はローゼリア王国の騎士団に所属していた者たちであることが判明した。死亡届けが出された十七人の騎士の遺体は、異例の早さで埋葬され、詳細は一切不明となっていた。この事実から、襲撃の背後にミハイルやメルティナが関与している可能性が高いと亮真は推測する。

ルピス女王への忠誠心が強い彼らは、ゼレーフ伯爵がベルグストン伯爵と接触したことを問題視し、王権を守るために襲撃を仕掛けた可能性がある。しかし、その行動は結果としてローゼリア王国の混乱を招き、反乱の引き金となってしまった。

ゼレーフ伯爵の決断と新たな局面

ゼレーフ伯爵は亮真との会談を終えた後、セイリオスの街を視察し、その異様な発展ぶりに衝撃を受ける。ウォルテニア半島はかつて無人の魔境でありながら、ここまでの都市を築き上げた亮真の手腕に恐怖すら覚えた。

彼は亮真が意図的に混乱を引き起こし、ローゼリア王国内の反乱を誘発したことを理解し、その政治的な狡猾さを認める。しかし、同時に彼は亮真の行動を完全に否定することもできなかった。ローゼリア王国の現状を考えれば、彼の方法は最も合理的であり、唯一生き残る手段でもあった。

戦乱の幕開けと亮真の決意

亮真はゼレーフ伯爵襲撃事件を機に、ローゼリア王国に対する攻勢を本格化させる決意を固めた。彼はシモーヌと厳翁を召喚し、イピロスの制圧を計画する。

亮真の持つ鬼哭という妖刀は未だその真価を見せていないが、彼はそれを相棒として受け入れ、戦いの準備を整える。そして、ネルシオスとの交渉を通じて、亜人との関係をさらに強化し、軍備を増強する計画を進めた。

この戦いに勝利することで、彼はローゼリア王国内の支配権を確立し、最終的には王国そのものを支配下に置くつもりであった。戦乱の火種はすでに燻り始め、亮真はその渦中へと足を踏み入れるのであった。

第三章  虐げる者、虐げられし者

ザルツベルグ伯爵夫妻の関係

城塞都市イピロスにあるザルツベルグ伯爵邸で、ユリア・ザルツベルグ夫人は夫トーマス・ザルツベルグ伯爵の部屋を訪れた。部屋の中から聞こえる女の喘ぎ声を前に、ユリアは冷静に呼びかけたが、伯爵は傲慢に応じた。貴族社会において側室や愛人を持つことは珍しくなかったが、正妻の立場は絶対であり、本来ならば夫に軽んじられることはあり得なかった。しかし、ユリアは夫から完全に見下され、実質的には使用人同然の扱いを受けていた。

ユリア夫人の境遇

ユリアは元々イピロスの有力な商人の娘であり、貴族の身分を持たなかった。そのため、結婚当初から夫との関係は政略結婚に過ぎず、夫婦の愛情は皆無だった。それでも彼女は伯爵家の内政を一手に引き受け、貴族社会の厳格な規範に従って生きてきた。しかし、夫からの冷遇と日々の屈辱は積み重なり、次第にユリアの心には鬱屈した感情が蓄積していった。

ウォルテニア半島の動向と伯爵の反応

その日、ユリアはウォルテニア半島の御子柴男爵から届いた書状を夫に届けた。書状の内容を読んだ伯爵は高笑いし、相手の要求を嘲笑した。書状には、ザルツベルグ伯爵家がウォルテニア半島へ密偵を送り込んだ件に対する謝罪と賠償、さらにローゼリア王国内の治安回復のため、北部十家の軍事指揮権を御子柴男爵家に移譲するよう求める内容が書かれていた。伯爵はこの要求を受け入れる気はなく、むしろ御子柴男爵の動向を警戒し始めた。

伯爵の決断とユリア夫人の覚悟

伯爵は軍を動員し、野戦で御子柴男爵を叩き潰す決意を固めた。これに対し、ユリア夫人は淡々と書状の準備を申し出たが、内心では別の決意を秘めていた。夫に対する最後の情が砕け散った瞬間、彼女は父ザクス・ミストールが以前提案した「新たな道」を選ぶことを決めた。

ユリア夫人と父ザクスの密談

その夜、ユリア夫人は実家であるミストール商会を訪れた。突然の訪問にもかかわらず、父ザクスは彼女を迎え入れ、静かに言葉を交わした。そして、ユリアがついに覚悟を決めたことを察し、彼女に一枚の書状を手渡した。これは、ザルツベルグ伯爵家からの解放を意味するものであり、ユリア夫人にとって新たな道を切り開く第一歩となるものであった。

第四章  開戦前夜

戦の始まりとロベルト・ベルトランの行軍

曇天の下、ロベルト・ベルトラン率いる騎士団が、イピロスへ向かい進軍していた。分厚い雲が空を覆い、今にも雨が降り出しそうな天気に、ロベルトは苛立ちを隠せなかった。彼はザルツベルグ伯爵の命を受けた戦いを快く思っておらず、さらにこの悪天候が気を滅入らせていた。

途中、彼は軍を停止させ、野営の準備を命じた。戦の前に体を冷やすわけにはいかないという判断であった。そんな彼の様子を見た老騎士は、彼の愛する酒を準備し、機嫌を取ることにした。ロベルトは酒を一気に呷りながら、鬱屈した感情を隠そうとしたが、すぐに北部十家の決定に対する不満を口にした。

戦への不満と目付役との対立

ベルトラン男爵家から派遣された目付役、シドニー・オドネルは、ロベルトの不満をなだめるように語りかけた。彼は、北部十家がザルツベルグ伯爵の要請を断ることができない理由を説明し、またウォルテニア半島の利権に言及しながら、この戦がただの手伝いではないことを示唆した。

しかし、ロベルトはシドニーの言葉に反発した。彼は、成り上がりの男爵家を相手に戦うこと自体が無意味であり、北部十家が御子柴男爵を挑発し、宣戦布告させるように仕向けたのではないかと考え始めた。実際、御子柴男爵が怒りに任せて戦を仕掛けたように見えても、それは北部十家が仕組んだ策略かもしれなかった。

旧友との再会

数日後、ロベルトの率いる軍勢は、ガルベイラ男爵家の軍と街道の合流地点で遭遇した。ロベルトはすぐに相手の軍旗を確認し、懐かしい顔を見つけた。彼の旧友であり、【ザルツベルグ伯爵家の双刃】と呼ばれるもう一人の男、シグニス・ガルベイラであった。

二人は戦場での再会を喜び、互いの境遇について語り合った。どちらも家の次男として生まれ、戦士としての才覚がありながら、家族の中で疎まれてきた存在であった。そのため、彼らは戦場でしか自分の価値を証明する場がなかった。

イピロスへの進軍と甚内の観察

一方、イピロスでは、伊賀崎甚内が城門をくぐる軍勢を監視していた。彼の部下がガルベイラ家の騎士団の入城を報告すると、甚内は満足げに頷いた。彼は、北部十家が騎士のみを出兵させていることに着目し、各領地の情勢が不安定であることを察知していた。

また、彼はガルベイラ家とベルトラン家の軍勢が共に参戦していることを確認し、【ザルツベルグ伯爵家の双刃】の実力を見極めることを決めた。彼の冷静な分析の裏には、御子柴亮真の策略が進行していることへの確信があった。

戦の準備は着々と整い、イピロスの地で大きな戦乱が巻き起ころうとしていた。

ザルツベルグ伯爵家の晩餐会

ザルツベルグ伯爵家では、盛大な晩餐会が開かれていた。貴重な香辛料や高級食材が惜しみなく使用され、貴族階級でも滅多に口にできないワインが次々と開けられた。ただし、戦の前夜であるためか、女性の姿は極端に少なかった。ロベルト・ベルトランは、家を継ぐ嫡男ではないため、この場で他の貴族と交流することもできず、ただ食事と酒に集中していた。

食事を楽しんでいたロベルトの元に、ザルツベルグ伯爵が声をかけた。伯爵はロベルトの旺盛な食欲を見て苦笑しながらも、彼の戦での働きに期待を寄せていた。ロベルトもまた、北部十家全体を動員する必要性に疑問を抱き、伯爵に直接問いかけたが、伯爵は慎重な姿勢を崩さず、御子柴男爵の行動が予測不能であることを理由に挙げた。そして数日後、イピロスの北に御子柴男爵の軍勢が姿を現した。

御子柴軍の接近とシグニスの警戒

城壁の上でシグニス・ガルベイラは、漆黒の鎧兜に身を包んだ敵軍の姿を確認した。旗に刻まれた紋章は金と銀の双頭の蛇。兵数は約千、装備は統一され、十分な資金をかけていることが窺えた。北部十家の騎士を擁するザルツベルグ伯爵軍の兵力は二千であり、数の上では優勢だった。しかし、シグニスは単なる男爵軍とは思えぬ敵の精鋭ぶりに違和感を覚え、戦の展開に不安を抱いた。

ロベルトがシグニスの背後から声をかけると、彼もまた敵の様子を観察しながら、ただ目の前の敵を倒すことだけを考えればよいと述べた。一方、他の貴族たちは御子柴軍を軽視し、その兵力を侮る発言を繰り返していた。戦場経験のない者たちは、敵の装備を見てその財力を論じるだけで、実際の戦闘力については何の警戒もしていなかった。

ロベルトとシグニスの戦場への覚悟

シグニスは、今のままでは不安が残るとして戦略の再考を主張しようとしたが、ロベルトはそれを諦めるよう忠告した。北部十家の中で、戦の展開を憂慮する者はほとんどおらず、彼らが何を言っても聞き入れられない。さらに、もし意見を述べれば、家督を狙っていると疑われ、家族から命を狙われる可能性すらあった。

ロベルトはシグニスに、戦場では己の生存のみを考えるよう促した。敵の戦術がどうであれ、自分たちの力で切り抜ければいい。シグニスはなおも納得できない様子だったが、ロベルトはすでに戦う覚悟を決めていた。

御子柴亮真の指揮所

一方、御子柴亮真の陣営では、すべてが計画通りに進んでいた。甚内からの報告により、北部十家の軍勢が完全にイピロスへ入城したことが確認され、亮真はそれを封を開けることなく受け取った。彼の指揮所には、リオネやボルツといった側近たちが集まり、戦の準備が整いつつあった。

亮真は、自分の策が順調に進んでいることを確認すると、初戦では正攻法を用いると宣言した。リオネはその決断に満足した様子で危険な笑みを浮かべ、戦士たちは士気を高めた。いよいよ、イピロスを舞台に戦が幕を開けようとしていた。

第五章  凶獣の咆哮

イピロスの戦場と両軍の動向

遠方にそびえるイピロスの城壁の前には、北部十家の紋章が描かれた無数の旗が翻っていた。御子柴亮真は敵軍の配置を確認し、彼らが野戦を選んだことに気付いた。通常、防衛施設を利用すれば戦いを有利に進められるが、ザルツベルグ伯爵らは兵力の差を活かし、一気に決着をつける選択をしたのだ。

彼らは成り上がりの男爵を相手に総力を挙げて戦を仕掛けた以上、苦戦すら許されない状況にあった。少しでも勝敗がもつれれば、ローゼリア国内のみならず西方大陸全土から嘲笑を受けることになる。亮真はこれを見越し、情報統制を徹底して敵軍の不安を煽っていた。彼らの選択肢を狭め、圧倒的な勝利を求める心理を操ることで、戦場の主導権を握ろうとしていた。

戦闘の開始と軍の布陣

両軍は横陣を組み、御子柴軍は先鋒と後陣にそれぞれ五百名ずつを配置した。一方のザルツベルグ伯爵軍は、前陣八百、中陣五百、後陣五百の三部隊に分け、残りはイピロスの防衛に回した。これにより、彼らは主戦場に全兵力を投入することなく、拠点の安全を確保しようとした。しかし、この判断が後に大きな禍根を残すこととなる。

御子柴軍の兵たちは、黒い塊となり地響きを立てながら突撃を開始した。その速さは異常であり、ザルツベルグ伯爵軍の前陣を指揮するシドニー・オドネルは驚愕した。通常、重装備の歩兵がこれほどの速度を出せるはずがなく、彼は武法術による身体強化が施されていることを悟る。

弓兵が構えるも、敵が想定以上の速さで接近し、槍兵による迎撃体勢が急ぎ整えられた。だが、敵の動きは鋭く、シドニーの隊は瞬く間に混乱へと陥った。戦場には罵声と金属のぶつかり合う音が響き渡り、敵味方が入り乱れる乱戦が始まった。

ロベルトとシグニスの参戦

ロベルト・ベルトランは戦場の展開を見つめ、敵の兵力が予想以上に高いことを確認すると、不敵な笑みを浮かべた。彼はこれまでの戦歴から敵軍の質を見極める鋭い眼を持っていた。シグニス・ガルベイラもまた、戦況の推移を慎重に見極めつつ、戦場の混乱が激化するのを待っていた。

そんな中、前線から伝令が走り、シドニーの戦死が報告された。ロベルトはそれを聞いて満足げに笑い、彼の死が戦局にどう影響を及ぼすかを考えた。シドニーは元々ロベルトにとって目障りな存在であり、その消失はむしろ好都合だった。彼の死によって前線の指揮は混乱し、ザルツベルグ伯爵軍の防御態勢に綻びが生じた。

ロベルトは、シグニスとともに敵陣へ突撃する決断を下した。二人は馬を駆り、敵軍の中央へと切り込む。彼らの戦場での動きは圧倒的であり、敵を瞬く間に蹴散らしていった。しかし、その中でロベルトは異変を感じた。御子柴軍の兵たちは、通常の騎士よりもはるかに高い戦闘力を誇り、彼の攻撃を防ぎ、反撃すら行ってきたのだ。

ドイルとの対決とロベルトの敗北

ロベルトは敵兵の中でも特に動きの鋭い一人に目を留めた。ドイルと呼ばれるその戦士は、驚異的な動きでロベルトの一撃を防ぎ、反撃してきた。ロベルトは彼の力量を認めつつも、自身の武力には絶対の自信を持っていた。しかし、ドイルを討ち取る寸前で、別の兵士が割って入り、彼の攻撃を阻止した。

さらに、ロベルトの隙を突かれ、彼の乗る馬が転倒。宙を舞いながらも素早く体勢を立て直したが、敵に囲まれる形となった。敵兵たちは的確に攻撃を繰り出し、ロベルトは次第に追い詰められていった。

御子柴亮真との遭遇

その時、ロベルトは戦場の遠方に一人の男を見つけた。黒馬に跨り、左右には金髪と銀髪の双子の少女を従えている。その姿を見た瞬間、ロベルトの本能が叫んだ。彼こそが、御子柴亮真であると。

戦斧を投げつけると、それは見事な軌道を描き亮真へと向かった。しかし、亮真はそれを愛刀で一閃し、軽々と切り落とした。その瞬間、ロベルトは確信した。

「こいつが御子柴亮真か」と。

ロベルトは新たな武器を手にし、シグニスの切り開いた退路へと撤退。彼にとって、亮真はもはやただの敵ではなく、自らの全力を賭して戦うに値する相手となったのだ。

こうして、両陣営は互いに退却の鐘を打ち鳴らし、戦は一時的な幕引きを迎えた。

月夜の戦後処理と亮真の決意

戦場の静寂と報告


満天の星が輝く夜、月光が戦場を照らしていた。しかし、その美しい光景を味わう余裕は、戦を終えたばかりの御子柴軍とザルツベルグ伯爵軍のどちらにもなかった。

天幕の中で書類の処理をしていた御子柴亮真のもとに、ローラが報告に訪れた。彼女の表情から、戦の損害が予想の範囲内で収まったことが伝わる。戦死者は十三名、重傷者は二十二名であり、秘薬と文法術の治療によって大半が数日内に復帰できる見込みだった。

この結果に、亮真は深いため息をついた。自らの命令で人が死ぬという現実に、彼は決して慣れることはなかった。戦場では犠牲が避けられないとはいえ、その重みを軽視するような者にだけはなりたくないと考えていた。

戦斧とロベルトの存在

ローラの報告を受け、亮真は柱に立てかけられた巨大な戦斧に目を向けた。それはロベルト・ベルトランが放った一撃の名残だった。予想外の攻撃だったが、偶然にも防ぐことができた。しかし次に同じ状況になった時、無事でいられる保証はない。

それでも、戦の展開自体は概ね亮真の予測通りに進んでいた。ネルシオスを通じて手に入れた武具の性能も期待通りだった。これらの装備は一般的な市場では金貨百枚以上の価値がある品であり、その優れた性能が今回の戦いで兵士たちを守った。

軍の質と武具の重要性

ウォルテニア半島の特異な事情を踏まえ、亮真は軍の質を高めることに力を入れていた。領民を徴兵できない以上、奴隷兵を訓練し、優秀な戦力として育成するしかない。しかし、彼らを消耗品のように扱うことはできず、兵士一人一人の生存率を向上させる手段が求められた。

そこで注目したのが、亜人族、特にエルフの持つ付与法術の技術だった。軽量化と硬化の付与を施した装備は、戦場での生存率を大きく向上させる。生気の消費を抑えることで持久力を高め、兵士たちの戦闘力を維持することができる。

この技術が他国に漏れれば、大きな脅威となる。亮真は伊賀崎衆に命じ、情報の流出を徹底的に防ぐよう警戒を強化することを決めた。

シグニスとロベルトの存在

亮真にとって、戦場で圧倒的な実力を見せたシグニスとロベルトの存在は大きな問題だった。彼らは単騎で戦局を覆せるほどの力を持ち、御子柴軍の囲みを突破した。そのまま敵のままであれば、亮真にとって大きな脅威となることは明白だった。

確実なのは、伊賀崎衆に命じて暗殺するか、ザルツベルグ伯爵に殺させるよう仕向けることだった。しかし、亮真はどちらの方法も選ばなかった。彼の真の目的はローゼリア王国北部の支配ではなく、さらに広い未来を築くことだった。そのためには、優秀な人材を敵味方問わず味方に引き込む必要がある。

亮真の決断と次の戦い

亮真は決意を固め、砦に残した兵五百を率いて南下することを決めた。前線の指揮はローラに任せ、リオネが補佐に入る。ローラはその意図を理解し、静かに頷いた。

こうして、初戦を終えた戦場に静寂が訪れた。しかし、それは次なる戦いの幕開けに過ぎなかった。

エピローグ

ミスト王国の決断

エクレシアの召喚


ミスト王国の王宮では、将軍のエクレシア・マリネールが国王フィリップに呼び出されていた。普段の謁見の間ではなく、国王の執務室での対面という異例の場に、エクレシアは緊張を隠せなかった。国王のそばには宰相オーウェン・シュピーゲルのみが控え、警護の騎士すら部屋の外に待機させられていた。

エクレシアは若き将軍でありながら、先代から受け継いだ軍の指揮を執り、多くの戦場を勝ち抜いてきた。彼女の苛烈な戦いぶりから【暴風】と恐れられる存在であった。しかし、いくら経験を積んでいようと、国王との執務室での会談は緊張を伴うものであり、できれば謁見の間での形式的な会話に留めたいというのが本音であった。

国王フィリップは、六十に差し掛かる初老の男でありながら、衰えを見せない統治者だった。彼の治世は三十年以上に及び、中央大陸との交易を発展させ、フルザードをはじめとする沿岸都市の繁栄に尽力してきた。また、ブリタニア王国との戦いでは、敵国の名将を討ち取るなど、武勇にも優れていた。

王族としての特別な関係

フィリップは王としての堅苦しさを持たず、執務室では臣下と親しく接することが多かった。しかし、それがかえってエクレシアにとっては緊張の種となっていた。彼女にとって、国王の執務室に呼ばれることは決して気軽なものではなく、今回もまたその例外ではなかった。

実は、エクレシアはフィリップの実の姪であった。彼女の母は王族の出であり、王位継承権を持つものの、順位は低かった。フィリップは長らく娘に恵まれなかったため、エクレシアの誕生を非常に喜び、幼い頃から特別な愛情を注いでいた。彼女がマリネール家を継ぎ、将軍となった後も、その関係は変わらなかった。

しかし、宰相オーウェンは王としての振る舞いを求め、フィリップのエクレシアへの特別扱いに苦言を呈することもあった。それでもフィリップは、エクレシアをまるで実の娘のように可愛がり続けた。

ローゼリア王国の反乱と御子柴亮真の動向

国王がエクレシアを召喚した理由は、ローゼリア王国内での反乱と、それに関連する重要な情報についてであった。フィリップは話を切り出し、オーウェンが具体的な報告を始めた。

一週間前、ミスト王国の密偵から重大な報告がもたらされた。それは、ウォルテニア半島を治める御子柴亮真が、ローゼリア王国北部を支配するザルツベルグ伯爵と北部十家に対して戦を仕掛けるというものだった。

エクレシアはこの情報を聞き、驚きを隠せなかった。御子柴亮真が置かれている状況は理解していたが、まさかここまで大胆な行動に出るとは予想していなかった。彼はザルーダ王国への援軍派遣を成功させ、東部三ヶ国とエルネスグーラ王国との通商協定を結ぶことで、オルトメア帝国の侵攻を阻止するという離れ業を成し遂げた。ミスト王国にとっても、彼の動きは経済面で大きな利益をもたらしていた。

しかし、ローゼリア王国の女王ルピスにとって、あまりにも有能な臣下は脅威でしかなかった。彼女は御子柴亮真を排除しようと動いており、彼もまたその動きを察知し、先手を打ったのだろうとエクレシアは推察した。

ミスト王国の選択

フィリップはエクレシアに問いかけた。ミスト王国はこの事態にどのように対応すべきか。

選択肢は三つあった。

一つは、御子柴亮真の戦に積極的に介入すること。しかし、これはローゼリア王国との関係を悪化させる危険があり、オルトメア帝国の脅威が消えていない今、ミスト王国が敵を増やすことは得策ではなかった。

もう一つは、調停役として介入し、戦争を穏便に収めること。しかし、この方法をとるには、御子柴亮真側から正式な依頼が必要であり、彼がそんな頼みをするとは考えにくかった。

最後に、傍観するという選択肢もあった。しかし、ウォルテニア半島は北回り航路の要であり、ミスト王国の未来にとって極めて重要な地域である。彼が敗北し、半島の開発が止まることは避けなければならなかった。

エクレシアは考えを巡らせた。御子柴亮真は蛮勇ではなく、確実な勝算があるからこそ戦を仕掛けているはずだ。彼の策が何なのかは分からないが、少なくとも軽率な判断ではないことは明白だった。

エクレシアは冷笑を浮かべ、ゆっくりと答えた。ミスト王国は慎重に事態を見守りながら、御子柴亮真の動向を注視するべきだと。彼の戦が成功するかどうかを見極め、適切なタイミングで動くことが最善の策であった。

こうして、ミスト王国は御子柴亮真の戦いを見守る決断を下した。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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