小説「ウォルテニア戦記 XIV(14)」御子柴家は北部を平定する 感想・ネタバレ

小説「ウォルテニア戦記 XIV(14)」御子柴家は北部を平定する 感想・ネタバレ

どんな本?

学校の屋上で弁当を食べようとしていたらいきなり異世界に召喚された高校生の御子柴亮真。
ただ彼はマトモじゃ無かった。

召喚した魔術師を殺し。
逃亡途中で双子姉妹を仲間にして大国の帝国から逃亡。

帝国から逃げれたと思ったら、ローゼリア王国の跡目争いに巻き込まれてしまう。
それにも勝利させて女王ルピスを誕生させ。
そのまま解放されると思ったら。
住民は皆無で、沿岸部に海賊がおり、強力な魔物が跋扈するウォルテニア半島を領地に与えられ貴族にされてしまう。

読んだ本のタイトル

#ウォルテニア戦記  XIV
著者:保利亮太 氏
イラスト:bob 氏

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あらすじ・内容

長きにわたる北部動乱もついに決着のとき。

御子柴亮真の作戦で各地から流れ込んできた難民との衝突により、城塞都市イピロスは混乱のるつぼと化していた。

その時、シグニスは自らの手で新たなる道を切り開く決意を固める。

いっぽう御子柴亮真はユリア夫人の手引きのもとザルツベルグ伯爵を討ち取るが、それはローゼリア王国を支配する貴族階級の反感に火をつける行為だった。

 そして、南からは新たなる火種が……「小説家になろう」発の王道ファンタジー戦記、つかの間の勝利を楽しむ亮真に新たな戦雲が訪れる。

ウォルテニア戦記 XIV

感想

北部のドンの伯爵を討ち取った御子柴家。 

北部十家の当主達も全員打首にする。

唯一残ったのが、伯爵夫人と双剣の2人のみ。

領民のルサンチマンが昂っていて、その当主達を皆殺し。
拡がった領地の経営はどうなるのだろうか? 

それに対しての王国の出方は?

色々な貴族達が暗躍してるようだ。 

裏で暗躍する須藤も不気味だが、何よりも御子柴の爺さま、浩一郎の動向が気になる。

従妹の飛鳥と合流出来るのか?

銃の回収を組織に依頼されて、飛鳥が泊まっている屋敷に侵入して。
その屋敷の当主の首を斬り落とし、同じ部屋に居た枢機卿を斬ろうとしたら、間に入った飛鳥を保護している騎士の腕を斬り落とす。

そのまま退却!?!?

え?飛鳥は回収しないの?

どうなるんだろう?

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備忘録

プロローグ

闇夜に集う影とサミュエルの回想

ローゼリア王国南端、ガラチアの街の北に位置する丘には、多くの人影が蠢いていた。そこは怪物の支配する闇夜であり、人の立ち入る場所ではなかった。傭兵や冒険者ですら近寄らぬその地に集う者たちは、何か後ろ暗い事情を抱えた人間ばかりであった。その中心に立つ男、サミュエル・キンケイドは、黒い覆面と革鎧を纏い、歴戦の勇士としての威圧感を放っていた。

彼の脳裏には、かつてアメリカ海兵隊の一員として潜入したアフガニスタンの夜が蘇っていた。アフガニスタンは豊かな地下資源と長い歴史を持ちながらも、度重なる侵略と内戦により荒廃していた。サミュエルはその地で任務を遂行する中、祖国の命令と現地民の生活との狭間で葛藤していた。軍人としての本能は冷徹でありながらも、彼の心には割り切れぬ感情が渦巻いていた。

大地世界と地球の相違点と共通点

サミュエルは、大地世界と地球の類似点と相違点について考えていた。この世界は、地球の中世と近世の狭間のような文化水準を持ち、機械による近代化とは無縁であった。しかし、魔法の存在が一部の不便を補っていた。特に言語の翻訳に関しては、大地世界の魔法は地球の技術を遥かに凌駕していた。地球では翻訳アプリや機械が必要だが、この世界では召喚術により異なる言語を話す者同士が自然に会話できるのだ。

また、暗視能力を強化する魔法も存在し、暗視装置に頼らずとも闇夜を見通すことが可能であった。サミュエルは、この力が戦場においていかに有利であるかを理解していたが、同時に魔法の原理が不明瞭である点に違和感を覚えていた。

銃の脅威と技術流出の懸念

今回のサミュエルの任務は、一丁の銃を回収することであった。この大地世界には、銃器の製造技術は存在しない。しかし、かつて地球で起こったように、一丁の銃が技術革新の引き金となる可能性は否定できなかった。サミュエルは、日本の戦国時代に火縄銃が伝来し、短期間で大量生産されるに至った事例を思い出していた。

組織はこの危険性を理解し、技術流出を防ぐために【猟犬】を送り込んだ。たった一丁の銃でも、大地世界の技術水準に影響を与える可能性がある以上、絶対に回収しなければならなかった。銃器の普及が進めば、大地世界の戦争の在り方そのものが変わる。それを未然に防ぐため、サミュエルたちは動いていた。

戦士としての信念と任務への覚悟

サミュエルは、戦場においては容赦しなかった。彼にとって重要なのは任務の達成のみであり、必要ならば女子供であろうと手を汚す覚悟を持っていた。それでも、無駄な殺しを望んでいるわけではなかった。目撃者の処理が必要になれば、さらに厄介な状況を招く可能性がある。だからこそ、余計な犠牲が出ないことを願っていた。

現代戦では銃器が主流であり、ナイフや剣は補助的な武器に過ぎなかった。しかし、組織の方針により、【猟犬】は銃の使用を制限されていた。その理由は、大地世界の技術流出を防ぐためである。確かに、この世界では剣や槍が未だに主力武器として扱われている。しかし、銃が持ち込まれ、量産が始まれば、戦場のルールが一変するのは明白であった。

待機命令と英雄の帰還の噂

サミュエルたちは、ウィンザー伯爵邸襲撃のために待機していた。しかし、上層部からの指示はまだ下りてこなかった。その命令を下す権限を持つのは、彼が直接関わることを避けたいと思っている青い目の女――【猟犬】の総司令官であった。彼女は、常に後方で情報を操る立場の人間であり、サミュエルとは正反対の存在であった。

今回、彼女は現場に自ら足を運んでいた。これは異例の事態であり、それが何を意味するのか、サミュエルには理解できていた。さらに、組織内では「英雄の帰還」の噂が囁かれていた。五十年前、時空の渦に呑まれた男が帰ってきたというのだ。その男は、組織の礎を築き上げた伝説的存在であった。

サミュエルは、この噂の真偽に興味はなかった。しかし、確実に言えることは、彼が何を考えようとも、状況はすでに動き出しているということだった。彼は静かにガラチアの街を見つめながら、次なる指示を待ち続けていた。

第一章  ウィンザー伯爵邸

宿屋への訪問

ガラチアの街の裏路地に建つ宿屋へ、一人の人物が音もなく近づいた。全身をマントで覆い、灯りを持たずとも足取りに迷いはなかった。この時間に訪れる旅人はまずい。城門は日没とともに閉じられ、許可のある者以外は通れないのが常識だからだ。しかし、その人物は城壁を越えてこの宿へと辿り着いた。

宿屋の主であるアードルフ・ベッケンバウアーは、筋骨隆々とした巨漢で、鋭い眼光と彫りの深い顔を持っていた。一見すると宿屋の主人よりも、裏社会の構成員のような風貌である。彼は訪問者を値踏みするような視線を送り、強い口調で問いかけた。だが、相手は一言も発せず、フードを静かに外した。

その下から現れたのは、銀色の髪を持つ妖艶な美女だった。体つきは細身ながらも鍛えられており、見る者の視線を奪う。彼女の鋭い気配を察知したアードルフは、警戒心を強めながらも、その身元を確かめるべく、挑発的な言葉を投げかけた。

しかし、彼女は動じることなく、受付のカウンターに置かれた呼び鈴を一定のリズムで鳴らした。その音は、組織内でしか知られていない合図であった。アードルフの表情が一変し、彼は深く頭を下げた。「お待ちしておりました。どうぞ、あの方が貴女をお待ちです。」そう告げ、宿屋の奥へと彼女を案内した。

組織の地下施設

宿屋の奥には、地下へと続く階段があった。灯りを受け取り、慎重に階段を下る銀髪の女――ヴェロニカ・コズロヴァは、ここで待つ人物に思いを巡らせた。彼女はかつてロシア対外情報庁に属し、暗殺や破壊工作を指揮してきた諜報員だった。現在は組織の東部方面を統括する司令官の一人であり、この場所に呼ばれた理由を理解していた。

地下施設の奥にある扉の前に立つと、躊躇いながらもノックしようとした。その瞬間、扉が内側から開かれ、鄭孟徳が現れた。彼は組織の幹部であり、ヴェロニカとは旧知の仲であった。「お久しぶりですね、ニーカ。」彼の穏やかな声が響く。

驚きを隠せないヴェロニカは問いかけた。「鄭、何故ここに? 劉大人の側近だったはずでは?」鄭は答えず、浩一郎の待つ部屋へと彼女を案内した。

部屋に入ると、そこには伝説の人物――御子柴浩一郎がいた。彼は五十年前に消息を絶った英雄とされる存在で、組織の基盤を築いた一人である。ヴェロニカは、その名を知っていたが、目の前にいることが信じられなかった。

浩一郎は、ヴェロニカに提案を持ちかけた。「私が単独でウィンザー伯爵邸に潜入し、銃を回収する。」ヴェロニカは即座に否定した。伯爵邸の警備は厳重であり、聖堂騎士団の精鋭も滞在している。単独での潜入は自殺行為に等しい。

しかし、浩一郎の実力は尋常ではなかった。鄭と共に動くことで、成功の可能性は大きく上がると判断し、ヴェロニカ自身も同行を申し出た。

夜襲への出発

深夜、三人はガラチアの街を疾走していた。浩一郎を先頭に、鄭、ヴェロニカの順で進む。ウィンザー伯爵邸は高い壁に囲まれていたが、城壁外の警備が中心で、屋敷自体の守りは手薄だった。

ヴェロニカは、浩一郎の戦闘能力に驚愕していた。彼は年齢を感じさせない動きで、軽やかに駆け抜けていく。鄭もまた、槍を携えながら自在に動いていた。ヴェロニカは、自らの判断を省みながらも、彼らと共に戦う決意を固めた。

ついに、ウィンザー伯爵邸が目前に迫る。浩一郎は静かに呟いた。「さて、さっさと仕事を済ませよう。」鄭とヴェロニカは頷き、屋敷へと潜入する準備を始めた。

貴族のもてなしとロドニーの葛藤

ウィンザー伯爵邸の一室で、ロドニー・マッケンナは寝付けずにいた。元々泊まる予定ではなかったが、ローランド枢機卿と共に伯爵邸に逗留することとなった。彼に与えられた部屋は豪奢で、寝酒用の最高級の酒まで用意されていた。しかし、その贅沢なもてなしが、かえって彼の心を冷めさせた。

貴族の見栄と虚飾にまみれた振る舞いを目の当たりにし、彼は違和感を覚えていた。ロドニー自身も貴族の出身であるが、今は聖堂騎士として生きている。貴族としての過去と騎士としての現在、その二つの間で複雑な思いが交錯していた。飛鳥のことを思い浮かべながら、彼はこの待遇の真意を考え続けた。

不安の兆しと警戒

夜も更け、ロドニーの思考は飛鳥の祖父、御子柴浩一郎へと向かっていた。彼はすでに亡くなったはずだが、飛鳥の持つ刀の存在を考えれば、再び大地世界に戻ってきた可能性が高い。さらに、大陸にはもう一人、御子柴姓を持つ者がいる。光神教団の使節団がこの地を訪れた理由も、その男に関係しているとロドニーは推測した。

そんな考えに沈みながら、ロドニーは眠気に襲われた。しかし、突如として身体が警鐘を鳴らした。理由は分からないが、本能的な違和感を覚え、彼は即座に飛び起きた。危機感が彼を駆り立て、剣を手に取り、鎧を着る間もなく廊下へ飛び出した。

急襲と異変

ロドニーは隣室のメネアを叩き起こし、ローランド枢機卿の部屋へ向かった。夜更けの伯爵邸に侵入できる者は限られている。最も疑わしいのは、この屋敷の主であるウィンザー伯爵だった。だが、部屋の扉を蹴破った先で見たものは、意外な光景だった。

ローランド枢機卿とウィンザー伯爵が、密談を交わしていたのだ。彼らの前には、装飾された箱が置かれ、その中には金属の筒状の物体と、指の形をした金属片が収められていた。ロドニーはその内容に興味を抱く間もなく、さらに異様な存在を目にした。

黒ずくめの男が、音もなく扉から入ってきた。全身を黒い装備で包み、顔は覆面で隠されている。その動きには敵意も殺意も感じられなかった。ロドニーはその違和感に戸惑ったが、次の瞬間、その影はウィンザー伯爵の前を横切り、白い閃光を放った。

伯爵の上半身が床に崩れ落ちると、血が絨毯を赤く染めた。ロドニーは、影が使った技が抜刀術であると即座に察したが、これほどの精度と速さを持つ斬撃は初めて見た。影は平然としたまま、ローランド枢機卿へと歩を進めた。

決死の防衛と敗北

ロドニーは影の正体を確かめるために問いかけた。御子柴浩一郎なのか、と。しかし、影は答えなかった。その沈黙が、逆にロドニーの不安を煽る。ローランド枢機卿の叫びが響き、影は新たな標的を定めた。

枢機卿を守るため、ロドニーは全力で剣を振るった。しかし、影の反応は圧倒的だった。ロドニーの剣が届く前に、彼の右腕が斬り飛ばされ、血飛沫が宙を舞った。激痛に襲われながらも、彼は影を睨み続けた。しかし、影は何の感情も見せず、ただ枢機卿に向かって進んでいった。

その時、廊下から駆けつけた兵士たちが部屋になだれ込んだ。先頭にはメネアがいた。彼女は傷を負っていたが、それでもロドニーのもとへ駆け寄り、安否を確かめた。影はそれを見届けると、静かにテーブルの上の箱を手に取り、窓へと向かった。そして、一瞬のうちに窓を突き破り、闇夜へと消え去った。

撤退と新たな決意

屋敷の外では、陽動を担当していた鄭孟徳とヴェロニカ・コズロヴァが待っていた。浩一郎は箱を掲げ、「問題ない」と告げると、三人は迅速に撤退を開始した。

鄭の槍には血が付着しており、彼も戦闘を繰り広げたことが分かる。ヴェロニカも多くの敵を倒してきたのは明らかだった。浩一郎は、二人の貢献に対して心の中で感謝を述べながら、彼らの後を追った。

夜空には、雲間からわずかに満月が顔を覗かせていた。浩一郎は、その光に誓うように、一歩ずつ闇の中へと消えていった。

第二章  裏切りと友情

星空の下の謀議

城塞都市イピロスの郊外に設営された天幕の中では、夜空の美しさとは対照的に、冷徹な戦略が語られていた。リオネをはじめとする【紅獅子】の団員や伊賀崎衆の忍び、黒エルフの戦士たちが集まり、御子柴亮真の指示を受けていた。彼の命に絶対の忠誠を誓うマルフィスト姉妹も同席していたが、リオネに対してだけは寛容な態度を示していた。

亮真は、イピロスの住民と難民の対立が臨界点を超えたと報告を受け、これを利用した作戦の進行状況を確認した。住民側の死者をきっかけに混乱が広がり、都市の防衛に駆り出された騎士と兵士が減少していた。これは亮真の計画通りであり、彼は着実に敵の防衛力を削いでいた。

戦局の操作と策略

リオネは、先日退けたシグニスとロベルトが再び戦いを挑んでこないことに疑問を抱いた。しかし、亮真は彼らが北部十家の中で孤立していることを指摘し、敗戦が彼らの立場をさらに悪化させたと説明した。

亮真の目的は、【ザルツベルグ伯爵家の双刃】と呼ばれる二人を自陣へ引き入れることであった。彼は、彼らの能力を評価し、あらかじめ戦局を操作することで、二人を孤立させるよう仕向けた。リオネとの戦いは、そのための布石に過ぎなかった。リオネ自身も、戦いに勝てたのは亮真の計画によるものであり、自らの実力だけではなかったと理解していた。

決戦前の最終確認

亮真は戦略を最終確認し、各自の役割を明確にした。リオネは敵軍の牽制、ディルフィーナ率いる黒エルフ部隊は突入部隊として配置され、伊賀崎衆は城内に潜入し、計画の核心部分を担うこととなった。

亮真は黒エルフの戦力を高く評価しつつも、彼らが人間社会で目立ちすぎることを懸念し、慎重に起用していた。ディルフィーナはその意図を理解し、静かに決意を固めた。

会議が終了し、参加者がそれぞれの任務に向けて準備を始める中、咲夜が亮真に意見を述べるために残った。

咲夜の懸念と亮真の覚悟

咲夜は、少人数でザルツベルグ伯爵の首を狙う作戦が危険すぎると訴えた。彼女は、亮真の策が奇襲戦法として理に適っていることを理解しながらも、博打に近い手法であることを危惧していた。

さらに、咲夜は亮真が持つ妖刀・鬼哭についても思いを巡らせていた。鬼哭は伝説に語られるほどの力を未だ見せておらず、咲夜はその真価を疑問視していた。しかし、亮真は鬼哭の力が徐々に目覚めつつあることを示し、戦いの中でさらなる覚醒が期待できると述べた。

亮真は咲夜の懸念を理解しつつも、計画の中止はあり得ないと断言した。彼の真の目的は、シグニスとロベルトを仲間にすることであり、それが達成されなければ、将来の戦に勝つことはできないと考えていた。咲夜はその決意を理解し、黙って頭を下げた。

戦乱の幕開け

夜が更け、ついに戦が始まった。城塞都市イピロスの中心に向かって、松明の光が流れていく。暴動が発生し、都市全体が混乱に包まれた。

シグニス・ガルベイラは、部屋の窓から外の様子を見ていた。亮真の策略が成功し、都市の内部が混乱に陥っていることを悟った。彼は手元の手紙を見つめ、過去の決断を思い返していた。その手紙は、幼少期から慕っていた乳母・エルメダの筆跡であり、亮真の配下が持ってきたものだった。それを読んだ瞬間、シグニスは運命を変える選択を強いられた。

彼は、ガルベイラ家とザルツベルグ伯爵への忠誠心と、エルメダの安全との間で苦悩していた。しかし、心の奥底ではすでに答えを出していた。

裏切りの決断

扉を激しく叩く音と共に、ロベルト・ベルトランが部屋に飛び込んできた。彼は血相を変え、事態の深刻さをシグニスに伝えようとした。しかし、シグニスは冷静に対応し、酒を勧めた。

ロベルトはその態度に違和感を抱きながらも、疲れからか酒を一気に飲み干した。次の瞬間、彼の身体から力が抜け、意識が薄れていく。ロベルトは、シグニスが何かを仕掛けたことを悟りながらも、抵抗することができなかった。

シグニスは、友人であるロベルトを裏切ることへの罪悪感を抱えつつ、静かに彼の姿を見つめていた。そして、自らも同じ薬を口にし、運命の時を迎えようとしていた。

第三章  武人と言う生き方

ザルツベルグ伯爵の覚悟と対決

静寂の中の決意


ザルツベルグ伯爵は城の喧騒を離れ、書斎に籠もっていた。珍しく家伝の鎧を纏い、傍らには長年手にしなかった愛剣がある。部屋には酒瓶が散乱していたが、伯爵の意識は明晰であり、危機を察知する本能が鋭く働いていた。それは、かつて父から爵位を奪った頃に感じていた感覚と同じものだった。

城塞都市イピロスの異変

城下では難民と住民の衝突が相次ぎ、城内でも火事が頻発していた。直前にも食糧庫が燃えたばかりであり、伯爵はそれを敵の仕業と見抜いていた。思い浮かぶのは老け顔の青年――御子柴亮真である。敵でありながらも、彼には愚鈍な貴族たちよりも親しみを感じていた。そんな中、伯爵は床に唾を吐く。彼の父親が自分を継がせず、異母弟に家督を譲ろうとした事実が脳裏をよぎったのだ。

訪れる運命の夜

伯爵は書斎で待ち人が訪れるのを感じた。妻であるユリアが敵側についていることも既に察していた。城内には敵兵が潜入しており、戦いは避けられない状況である。しかし、逃げる選択肢はあった。秘密の脱出経路を利用すれば、生き延びることはできる。だが、伯爵はそれを選ばなかった。己の誇りが、戦う道を選ばせたのだ。

御子柴亮真との対峙

扉が開き、亮真が姿を現す。伯爵は彼を歓迎するかのように笑みを浮かべ、戦を始める前の会話を交わした。両者はすでに戦いの結果を悟りつつも、剣を交えることに躊躇はなかった。亮真の計略による城下の混乱も、伯爵にとっては見事としか言いようがなかった。

剣を交える者たち

伯爵は居合の構えを取り、亮真もそれに倣った。二人の気が激しくぶつかり合い、制空圏の中で剣が交錯する。瞬く間に流れる時間の中で、亮真の額には深い傷が刻まれた。しかし、伯爵は倒れ、勝負は決した。紙一重の差が勝敗を分けたのだ。

勝敗の分かれ目

伯爵の力量は圧倒的だったが、亮真の決意と覚悟が勝った。伯爵は享楽に溺れ、過去に縛られた男だった。対する亮真は、己の未来を切り開くために戦っていた。その違いが勝敗を決定づけたのだ。倒れた伯爵に手を合わせた亮真は、新たな戦いに向けて歩みを進める。

戦いの終焉と新たな戦場

城塞都市イピロスは御子柴亮真の手に落ち、戦いは次の局面へと移る。王都ピレウスでは、新たな権力争いが始まろうとしていた。エレナ・シュタイナーは、その渦中で次なる動きを見極めていた。亮真が掴んだ勝利の先には、さらなる戦いが待ち受けているのである。

第四章  貴族院

夜の訪問と急報

ルピス女王は、誰かの声によって目を覚ました。声の主は側近のメルティナであった。深夜二時を指している時計を見て、ただ事ではないことを察した。メルティナは北部に派遣していた密偵からの報告を伝えるため、警護の兵を押し切ってきたのだ。その内容は、御子柴亮真が城塞都市イピロスを制圧したという衝撃的なものだった。ルピスは動揺しながらも事態の詳細を求め、メルティナの報告に耳を傾けた。

北部戦線の崩壊

報告によると、イピロスを守っていたザルツベルグ伯爵と北部十家の当主たちの大半が討ち取られるか行方不明となり、彼らの家族も消息不明となっていた。ルピス女王はその事実に愕然とし、御子柴亮真の策略の深さを改めて思い知らされた。彼が長期戦を仕掛けると見せかけ、短期間で決着をつけたことは女王の予想を完全に裏切るものだった。

生存者と新たな懸念

メルティナはさらに、生存が確認されているのはザルツベルグ伯爵の正妻ユリアと、彼の家に仕える二人の剣士、シグニス・ガルベイラとロベルト・ベルトランのみであると告げた。その事実から、ルピスは御子柴亮真が意図的に彼らを生かしたことを悟り、不吉な予感を抱いた。さらに、ベクター・クロニクル男爵が戦の調停に向かった後、消息を絶ったことも知らされ、女王の不安は深まるばかりだった。

王宮の動揺

王宮内は、北部戦線の崩壊という知らせにより騒然としていた。貴族や官僚たちはそれぞれの思惑を巡らせながら、王宮内での権力闘争を繰り広げていた。そんな中、ルピス女王の側近であり、女官の監督役を務めるシャーロット・ハルシオンが動き出した。彼女は王宮内の有力貴族の娘たちを集め、今後の対応を協議した。

貴族院の対応

シャーロットは、ルピス女王の意向を貴族院に伝える役目を担っていた。彼女は集まった貴族令嬢たちに、御子柴亮真への制裁を決定するよう働きかけた。貴族院にとって、彼の存在は目障りな成り上がり者であり、制裁の機会を得ることは歓迎すべきことだった。ベティーナ・アイゼンバッハをはじめとする貴族令嬢たちは慎重に意見を述べながらも、最終的に制裁に賛同する形となった。

女王の葛藤

夜が更け、シャーロットはルピス女王の寝室を訪れ、貴族院の決定を報告した。女王はその結果を聞いて微笑んだが、その表情には迷いや哀しみが滲んでいた。シャーロットは、ルピスの優しさが王としての決断力を鈍らせていることに内心呆れつつも、彼女なりの忠誠を示していた。御子柴亮真という存在がもたらす影響は、ローゼリア王国の未来を大きく揺るがすことになるだろうと、シャーロットは冷静に見極めていた。

エピローグ

王都ピレウスでの密会

北部動乱が御子柴亮真の勝利によって終結してから一ヶ月が経過した昼下がり、王都ピレウスにある最高級の宿屋【赤星亭】の一室で、二人の男が対面していた。一人は光神教団の枢機卿であるジェイコブ・ローランド。もう一人は、組織に属する須藤秋武であった。通常であれば接点のないはずの二人は、親しげに酒を酌み交わしていたが、その会話の内容は血生臭いものであった。

ガラチアでの惨劇と教団の影

話題は、ウィンザー伯爵殺害事件に及んだ。ローランド枢機卿は、自分たちが事件に関与したと疑われ、被害を被ったことに不満を漏らした。須藤はそれを表面的には同情しつつ、密かに教団の動向を探るような発言を織り交ぜた。さらに、事件の夜、教団の誇る聖堂騎士であるロドニー・マッケンナが右腕を切り落とされたことに触れ、その相手が「影」と呼ばれる存在であったことを確認した。ローランド枢機卿は、この謎の存在について情報を集めていたが、満足のいく結果は得られていなかった。

本題への誘導

須藤は徐々に話を本題へと移した。ローランド枢機卿が王都まで出向いた理由を問い、最終的に「北の男」について言及した。その瞬間、枢機卿の表情が険しくなり、酔いが急速に冷めていった。北にいる男――すなわち御子柴亮真に関する調査が教団の密命であることを須藤が知っていたことが、枢機卿を驚愕させた。教団の中でも限られた者しか知らない情報を須藤が把握していた事実に、枢機卿の目からは親愛の情が消え、鋭い警戒の色が浮かんだ。

取引と策謀

しかし、須藤は冷静に微笑み、自らの目的が教団と一致していることを伝えた。枢機卿は敵意を隠しながらも、その提案に興味を示し、話に乗ることを決めた。こうして、二人の間に新たな取引が成立した。須藤は自らの目的を遂げるために教団を利用し、枢機卿は須藤を警戒しつつも、共通の利益のために協力せざるを得なかった。

闇の中の影

夜が更け、須藤は王都の裏路地を歩いていた。背後には密かに尾行する者たちの気配を感じ取っていたが、それが枢機卿の放った密偵であることは明白であった。彼は密かに嘲笑しながら、雑踏の中へと紛れ込んでいった。

須藤にとって、御子柴亮真は混乱と破壊をもたらす存在であり、利用価値の高い「おもちゃ」であった。しかし、その勢力拡大が単調なものとなることを好まなかった。バランスの崩れた戦局は彼にとってつまらないものだったからだ。彼は既にルピス女王や貴族院の動きを把握しており、ローゼリア王国と御子柴亮真の間で戦争が起こることを確信していた。

新たなる戦乱の兆し

だが、須藤にとって真の問題は、御子柴亮真に協力する「軍神」の存在であった。それが戦局のバランスを崩すことを懸念し、彼は新たな策を練っていた。彼の目的は、単なる戦争ではなく、長く続く混乱そのものであった。退屈を嫌う彼にとって、御子柴亮真が動けば動くほど、世界は混沌へと近づいていく。その状況こそが彼の最大の楽しみであった。

こうして、須藤の悪意は解き放たれた。誰も気づかぬうちに、さらなる戦乱がローゼリア王国に忍び寄っていた。

同シリーズ

ウォルテニア戦記シリーズ

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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