小説「ウォルテニア戦記 XVIII(18)」カンナート平原撤退戦 感想・ネタバレ

小説「ウォルテニア戦記 XVIII(18)」カンナート平原撤退戦 感想・ネタバレ

どんなラノベ?

学校の屋上で弁当を食べようとしていたらいきなり異世界に召喚された高校生の御子柴亮真。
ただ彼はマトモじゃ無かった。

召喚した魔術師を殺し。
逃亡途中で双子姉妹を仲間にして大国の帝国から逃亡。

帝国から逃げれたと思ったら、ローゼリア王国の跡目争いに巻き込まれてしまう。
それにも勝利させて女王ルピスを誕生させ。
そのまま解放されると思ったら。
住民は皆無で、沿岸部に海賊がおり、強力な魔物が跋扈するウォルテニア半島を領地に与えられ貴族にされてしまう。

少年少女の奴隷を買って、彼等に武法術を教えて兵士として育成し、半島の希少な魔獣を狩って資金を稼ぐ。
邪魔な海賊のアジトを攻め滅ぼし。
その時に、奴隷にされていたダークエルフと知己を得て貿易を始め。

そして彼等特有の技術で魔剣、魔法防具を量産してもらい兵士の装備をより強固にして、重傷を負ってもダークエルフ特性の薬で快癒させて損耗率下げる事に成功。

そんな兵士達を率いてザルーダ王国への援軍に行き、オルトメア帝国の侵攻を止め。

辺境伯と北部十家との戦争にも勝利。

それを貴族院で審問されるが、死刑が始まる前から決まっているので亮真は貴族院のメンバーを全て殺して自領へ逃亡。

反乱を討伐するためルピス女王が率いる20万の大軍がウォルテニア半島へ攻めて来たが、、

読んだ本のタイトル

#ウォルテニア戦記   XVIII
著者:保利亮太 氏
イラスト:bob 氏

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あらすじ・内容

カンナート平原の撤退戦で敵に痛撃を与え、退却に成功した御子柴亮真。だが、そんな亮真たちのもとににルピス女王の軍勢が攻め寄せようとしていた。

20万を超えると言われるローゼリア王国軍。この圧倒的な戦力を有する敵に勝利する為、亮真は意外な相手と手を組むことを思い立つ。戦いが新たな局面を迎える第18巻!!

ウォルテニア戦記 XVIII

感想

撤退戦というより、裁判を受けるつもりで王の前に行ったら殺されそうになったから反撃しただけじゃね?

そもそも、女王を王位に就けたら国外に出して貰うのが約束だったのに、他国に行かれて自国を攻められる事を恐れ。
最初は主人公を騎士にして任務を与えようとしたが、恐れてる女王が側仕えにする事を嫌い。貴族にして、流刑地にされていた無人の半島を押し付けた。

その領地をある程度発展させたら、今度は西の大国に攻められてる隣国への援軍を命じられる。
そこでも大勝利をするが、恩賞は微々たる物。
そもそも、多くを求めてもいない。

あれ?でも何で伯爵と揉めたんだ?
その辺りがアヤフヤだ。
読み返すか。

そして、北部での騒動で査問会(ほぼ有罪確定)に呼ばれ、有罪が確定すると貴族社会に対して主人公は牙を剥いた。

上から目線で平民を害せると思っている貴族達を伊賀崎衆達を使って女王の眼前で虐殺して悠々と自領へ戻ろうとしてた。

そして、領地に退却する時に立ち塞がった第五騎士団を御子柴浩一郎が持って来た情報を元に相手を蹂躙して騎士団長も討ち取る。

それを撤退戦?
撤退戦って殿が決死の足留をして死にそうな目に遭うっていうイメージだったのに。。

相手を蹂躙してしまうんだもんな。

そして、、
女王は主人公を国賊と認定して、20万の軍勢を動員して御子柴男爵討伐へ準備する。

それを知りながらも女王との決戦に自信満々に迎撃準備している主人公達。

さらに、東のミスト王国と裏取引して少数の援軍(弓騎兵の精鋭)を得て準備がさらに加速する。

そんな御子柴男爵軍と女王率いる20万の軍勢。
どう迎撃するのだろうか?
それとも、元公爵が横槍を入れるのだろうか?

それとも、、

その裏で策動してる須藤が何かするのか?

この人、年齢不相応な外見をしてるのか??
組織はいったい主人公に何を期待しているのだろうか?
それとも、、、
須藤単独の暴走なのかな?

全くもって謎が多い。
そして、話が進まないww

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備忘録

プロローグ

ローゼリア王国の歴史と首都ピレウス

ローゼリア王国は、西方大陸東部に位置する東部三ヶ国の一つで、500年の歴史を持つ。広大な平野部と豊富な水資源を活かした農業国であり、軍隊も一定の精強さを備える。しかし、その国力は西方大陸の三大強国には及ばず、中堅国家と見なされている。

首都ピレウスは、整然とした巨大な城塞都市である。石畳の通りには多くの人々が行き交い、石材や漆喰で造られた堅牢な建物が立ち並ぶ。都市全体が戦時の防衛を意識して設計されており、戦乱の多い大地世界において、その存在感を示している。

光神教団第十八聖堂騎士団の到来

ある日、ピレウスの城門に光神教団の第十八聖堂騎士団が到着した。彼らの団旗には、光神メネオースの象徴である天秤と十字架、そして剣が描かれている。しかし、彼らの訪問を喜ぶ者は少なく、多くの市民は困惑と恐れを抱いていた。

酒場での市民の不安

薄暗い路地裏の酒場では、普段の賑わいとは異なり、重苦しい空気が漂っていた。酌婦たちは壁際に立ち、客の様子を伺っている。客たちは、ここ数日の出来事について不安を感じ、会話も弾まない状況であった。

市民の会話:騎士団への懸念

酒場の中央付近に座る中年の男二人が、小声で会話を交わしていた。彼らは、今回派遣されてきた第十八聖堂騎士団が、異端審問で名を挙げた部隊であることに不安を抱いていた。彼らは「コルサバルガの墓掘り人」という異名に侮蔑と嫌悪の感情を示していた。

光神教団とローゼリア王国の関係

光神教団の影響力は地域差があり、ローゼリア王国を含む東部三ヶ国では比較的弱い。市民の日常生活には教団が溶け込んでいるものの、定期的に神殿を訪れて礼拝をする者は全人口の1%にも満たない。市民の多くは、教団を便利な存在として受け入れているに過ぎない。

過去の悲劇と教団への不信感

約40年前に起きたグロームヘンの惨劇と、それに関与したとされる「コルサバルガの墓掘り人」の名は、ローゼリア王国民にとって特別な意味を持つ。市民たちは、その異名を聞くだけで平静を保てないほどの感情を抱いている。

御子柴男爵家への布告と市民の動揺

数日前、王国全土に御子柴男爵家に対する布告が伝えられ、多くの国民が衝撃を受けた。貴族院の襲撃や反逆者としての認定、そして遠征軍の編成が宣言された。これにより、物価の上昇や市民生活への影響が懸念されている。

酒場での噂:貴族院での事件の真相

酒場の客たちは、貴族院での事件についての噂話を交わしていた。御子柴男爵が貴族院側の策略を返り討ちにし、ザルツベルグ伯爵の汚職の証拠を提示したとの情報が広まっていた。市民たちは、貴族たちの狭量さや国の行く末に不安を募らせていた。

御子柴男爵家の経済的影響と市民の評価

御子柴男爵家は、ウォルテニア半島の交易拠点を活用し、王都の商圏に影響を及ぼしていた。香辛料やお茶などの嗜好品が手頃な価格で手に入るようになり、市民生活は向上していた。市民たちは、貴族階級の因習に囚われない御子柴男爵に敬意を抱きつつ、今後の国の行方を案じていた。

影で動く者の存在

酒場の片隅で、酌婦に扮した一人の女が周囲を観察していた。彼女は、御子柴男爵家と商会連合の動きを注視し、次なる行動を思案していた。彼女の存在は、影で国の動向に関与する者たちの存在を示唆していた。

第一章  戦場考察

王宮の密会と遅刻者の影

王都ピレウスの王城にて、ミハイル・バナーシュとメルティナ・レクターはカンナート平原の戦況を再確認していた。地図上には兵の駒が並べられ、両者は戦略を再評価していたが、当初予定されていた人物が現れないことに苛立ちを募らせていた。遅刻した男、須藤秋武は王宮内で独自の立場を築く曲者であり、二人にとって信頼に値しない存在であった。

戦略と敗北の齟齬

メルティナとミハイルは戦術的かつ政略的理由から第五騎士団のみの動員を選び、戦力を制限した布陣で御子柴軍に挑んだ。地図上では王国側が優勢に見え、敗北は予想外であった。クレイ・ニールセンの率いる部隊は十分な戦力と統率を備えていたが、結果として一方的な敗北を喫した。この現実は、予想を超えた御子柴亮真の用兵と実力を浮き彫りにした。

貴族派閥と忠誠の交錯

ニールセン家とアーレベルク家の親密な関係は、ルピス女王の治世において重荷となっていた。クレイ・ニールセン自身は忠義に厚く有能な人物であるが、その婚姻関係や派閥的立場が問題視されていた。騎士派に冷遇された人々の怨嗟は深く、内乱後には女王派との間に新たな緊張を生み出していた。

復讐感情と体制のひずみ

かつての権力者に苦しめられた者たちが抱く報復の念は強く、国内の融和を妨げる要因となっていた。クリス・モーガンをはじめとする被害者の感情は無視できず、結果として騎士派と女王派の断絶が深まっていた。ルピス女王の統制政策も十分には機能せず、小さな火種は収拾のつかない状況へと拡大していた。

策謀の意図と誤算

カンナート平原での戦は、あくまで御子柴亮真を討つための前哨戦であった。敗れても情報を得ることを目的とした布陣であったが、想定外の敗北がメルティナとミハイルに衝撃を与えた。ニールセンの別動部隊は予期せぬ形で発見され、ロベルト・ベルトランとシグニス・ガルベイラにより壊滅した。

不可解な情報漏洩と軍略の妙

別動部隊の発見は偶然にしては不自然であり、内部情報の漏洩が疑われた。御子柴亮真の作戦は奇抜さこそ無いが、戦場の動きを的確に読み切る力に満ちていた。王国軍の配置を見破り、主力部隊を突くという流れは、まさに「イラクリオンの悪魔」と呼ばれるにふさわしい軍略であった。

須藤秋武の登場と不穏な気配

戦況の再確認に没頭する二人の前に、ようやく遅刻者である須藤秋武が姿を現した。密会の最中に突然現れたその男に対して、メルティナは強い警戒と不快感を露わにした。須藤の登場は、今後の政局にさらなる波乱を呼び込む予兆でもあった。

密会と遅刻者の登場

王城の一室にて、ミハイルとメルティナは地図を前に戦況を再確認していた。そこへ遅れて現れた須藤秋武が姿を見せる。冷ややかな視線を向けるメルティナに対し、須藤は平然と応じ、遅刻を意に介さぬ態度を見せた。ミハイルは礼儀を欠いた振る舞いを厳しく咎めたが、須藤はそれさえも受け流し、目的の会話へと踏み込んでいった。

敗因分析と戦術のすれ違い

須藤は、御子柴亮真の巧みな戦術を称えつつも、奇襲部隊の情報漏洩に対する疑念を口にした。彼の見解では、配置に致命的な欠陥はなく、むしろ敵の読みが鋭すぎたのが問題であった。ミハイルとメルティナもそれを否定せず、地図上で展開された戦局を思い返しながら、敗北の原因を探っていた。

包囲殲滅戦の難しさ

戦術としての包囲殲滅は高等な技術を要し、特に複数部隊の連携が必要不可欠であった。須藤はそれを例えに取り、島津家の釣り野伏せを引用しながら、誘引・奇襲の難しさを説明した。第五騎士団の単独出撃という選択も、むしろ統率と連携の観点から見れば理に適っていたと評価した。

御子柴亮真の戦術と勝因

須藤の想定では、御子柴軍は勝利するものの、兵力を大きく損耗するはずだった。だが現実は逆で、王国軍が壊滅的な損害を受け、第五騎士団の指揮官クレイ・ニールセンも戦死した。これは、ロベルト・ベルトランとシグニス・ガルベイラの迅速な攻撃と高い戦術遂行力によるものであった。

情報漏洩と御子柴浩一郎の関与

須藤は戦術的敗北の根幹には、御子柴浩一郎による情報提供の存在があると推察していた。彼が王都ピレウスに滞在していたこと、そして亮真に情報を伝えた可能性が高いという見解に至った。メルティナとミハイルにはその真意は分からなかったが、須藤は彼等に「運」の概念を提示した。

「運」との向き合い方

メルティナは須藤の言葉を前向きに受け止めた。運を悲観するよりも、何度でも挑戦すべきだという考えが彼女を変化させた。次の一手を求め、総兵力二十万の北部征伐に備えて動き出す意志を明確にした。その勢いに、ミハイルも無言で同調し、三人は王国の未来を見据えた戦略へと歩を進めた。

須藤の本音と戦力分析

会談を終えた須藤は、王都の裏路地を歩きながら内心で笑みを浮かべた。総兵力二十万という規模の戦いが迫る中、御子柴軍の実力は数の不利を凌駕する要素を備えていた。特にリオネの戦場指揮力、ロベルトとシグニスの突破力は傑出しており、須藤はその脅威を実感していた。

謀略の可能性と貴族の動向

須藤は兵数では劣る御子柴側が、内部から貴族層を切り崩す策を講じている可能性に言及した。ベルグストン両伯爵は既に動けないが、ゲルハルト子爵の存在が須藤の脳裏をよぎる。だが現状、ゲルハルトは女王派に協力しており、その思惑は未だに測りかねるものがあった。

外部勢力と光神教団の介入

王国の動向に加え、光神教団の第十八聖堂騎士団も参戦しており、情勢はさらに混迷を深めていた。その意図が単なる距離の利便性に拠るものであれば問題ないが、背後に別の思惑があるとすれば一筋縄ではいかない。須藤は、理想の実現の為に自らの行動を選び取る覚悟を固めていた。

第二章  狐狸の棲み処

女王の謁見と枢機卿の到来
ローゼリア王国の王都にある王城は、重々しい緊張感に包まれていた。謁見の間に集う衛兵や貴族達は、今にも戦が始まるかのような表情を浮かべていた。その中を、光神教団のローランド枢機卿が二人の騎士を伴い進み、ルピス女王の前に姿を現した。騎士たちは第十八聖堂騎士団に属する精鋭であり、その存在は場にいた全ての者へ無言の威圧を与えていた。ルピス女王は歓迎の辞を述べ、神の代理人である枢機卿への感謝を表明した。貴族達はこの瞬間に、王国としての決断が下されたことを理解した。

女王の内面の葛藤と枢機卿の観察
ルピス女王の所作は表面的には完璧であり、外交儀礼にも則ったものであったが、彼女の内面には強い葛藤が渦巻いていた。ローランド枢機卿は、その笑顔の裏に隠された怒りや屈辱を見抜いていた。光神教団という組織で長年権謀術数を潜り抜けてきた彼にとって、女王の仮面は見破るに容易いものであった。しかし、枢機卿は女王を軽蔑せず、むしろ過去の不幸に対する哀れみを抱いていた。

教団と王国の確執の背景
ローゼリア王国と光神教団の間には長年の確執があり、特に第十八聖堂騎士団が関与した過去の事件は、今なお民の記憶に深く刻まれていた。それでも、王国は今の困窮した状況から脱するため、教団の援軍を必要としていた。枢機卿もまた、その事情を理解していたため、形式的な祝辞で場を収めた。女王にとっては、内容よりもその形式こそが求めていたものだった。

王国の衰退と女王の苦境
ルピス女王の治世は、内乱や帝国による侵攻によって傷ついた国家の再建に苦しめられていた。財政は逼迫し、社会福祉政策も打ち切られ、国民の不満が高まっていた。希望となったのは、御子柴亮真の介入によって実現した東部三ヶ国の通商条約であった。この条約は経済を活性化させ、国家の再生の光明となるはずであった。だが、皮肉にも御子柴亮真が引き起こした新たな混乱がその流れを断ち切った。

御子柴亮真の謎と脅威
御子柴亮真の一連の行動が偶然であれば、彼は神に祝福された男であり、必然であれば恐るべき悪魔であった。ローランド枢機卿は、自らも権謀の世界に生きる者として、彼の全てが計算づくである可能性を警戒していた。ウォルテニア半島の支配後の動きが全て意図的であったならば、亮真の存在は国家にとって破滅をもたらす存在となる。

王国の対応と開戦準備
ルピス女王は、各国に密使を派遣し、北部征伐への不干渉の確約を取り付けた。政治的な未熟さを補うように、戦に向けた準備は着々と進んでいた。二十万を超える兵力が集結し、御子柴男爵家の滅亡は避けられないと誰もが信じていた。だが枢機卿だけは、その確実とされた未来に一抹の期待を抱いていた。御子柴亮真が凡庸な男か、それとも時代を変える英雄かを見極める機会を心待ちにしていた。

非公式会談と女王の思惑
ルピス女王との謁見を終えたローランド枢機卿は、非公式な会談のために執務室へと向かった。女王は、神の代理人が北部征伐を承認したという形式を得ることで、民意と大義を得ようとしていた。ただし、教団の王国内での影響力拡大を警戒し、干渉を抑える交渉も視野に入れていた。枢機卿にとっても気を抜けない交渉の始まりであった。

秘密裏の海上会談の準備
その頃、ミスト王国の北端から二百海里離れた海上では、十隻の船団が停泊していた。屈強な船員達は、到着を待つ者のために準備を進めていた。やがて北西から接近する船影が確認され、甲板の緊張が高まる。指揮を執る女性将軍エクレシア・マリネールは、御子柴男爵家の紋章を確認すると、予定通りであると満足げに頷いた。

異常な船速と将軍の確信
御子柴男爵家の船は、向かい風にも関わらず驚異的な速度で接近していた。ミスト王国の高度な操船技術を以てしても、この速力は異常であった。その異様な航行性能を目の当たりにしたエクレシアは、彼との会談を決断した自らの選択が正しかったことを確信した。

将軍エクレシアの期待
エクレシアは、御子柴亮真との会談に臨む準備のため、静かに執務室へ戻った。副官にからかわれながらも、彼女は笑いながら応じた。彼女がその男に期待する理由は明白であった。かつてエレナ・シュタイナーが認めた人物、その御子柴亮真こそが、歴史を動かす存在であると信じていたからである。 

密談と取引の行方

ミスト王国船上での出迎えと茶会

亮真はアタランテ号に乗ってミスト王国の停泊船へ渡り、将軍エクレシア・マリネールの待つ執務室に案内された。エクレシアは自ら紅茶を淹れ、客人をもてなした。高貴な出自を持ちながらも自ら茶を淹れる所作は優雅であり、亮真はその姿に感嘆の念を抱いた。供された茶の香りと味に驚きつつも、亮真は無難な返答を選び、場を和ませた。

情報戦と互いの探り合い

エクレシアは亮真の夜会で用いたワインの産地を知っており、亮真はその背景に潜む情報収集網の存在を即座に察知した。自身の周囲に潜む監視の可能性を推測しつつ、ミスト王国が彼に強い関心を持っていることを確認した。形式上の礼儀を保ちながらも、両者は既に言葉を武器とした交渉を開始していた。

交易協力への提案とその真意

エクレシアは、ウォルテニア半島に生息する怪物素材や付与法術の技術などに関する特産品の取引拡大を提案した。亮真はこの申し出を「分け前の要求」と受け止めたが、半島開発や軍備拡充のための資金が必要である現状を踏まえ、取引拡大も視野に入れていた。販売経路拡大は利益に直結するが、人手不足という現実も抱えていたため、提携案は好機でもあった。

表と裏の交渉の駆け引き

亮真は、援助の申し出に対し、ローゼリア王国の不干渉要請を引き合いに出し、疑念をぶつけた。エクレシアは交渉後の協力を示唆しつつ、現段階での直接的支援の可能性も仄めかした。ミスト王国の立場上、陸路は封鎖されることを見越し、援軍は海路、かつ非公式な形での派遣になると明言した。

王国の不信と未来への賭け

亮真は、ルピス女王の政権下では自らも破滅すると語り、ローゼリア王国の未来に絶望していることを伝えた。エクレシアもまたその意見を否定できず、ミスト王国としてもルピス政権の不安定さに懸念を抱いていた。亮真の提案は、ルピスか亮真か、どちらと手を結ぶべきかをミスト王国に突き付ける踏み絵であった。

軍事支援と同盟の成立

エクレシアはついに決断を下し、ミスト王国が北部征伐後に御子柴男爵家と対オルトメア帝国への同盟を結ぶこと、精鋭部隊を非公式に派遣し物資補給も行うことを宣言した。その支援は裏切りを意味し、明確にミスト王国がルピス女王と距離を取った形となった。亮真はさらなる条件として、派遣部隊に弓騎兵を求め、さらにエクレシア本人の指揮を要請した。

追加条件と取引の成立

エクレシアは驚きながらも、御子柴亮真に対しミスト王国と魚人族の仲介を求めるという新たな条件を提示した。亮真はその要求が予想外でありつつも、ミスト王国の商業的野心として理解した。最終的に、両者は沈黙の末に手を取り合い、この交渉が一つの同盟として結実した。両国の命運を左右する取引が、水面下で静かに成立した瞬間であった。

第三章  血の絆

沈鬱な執務室の主と忠義の重み

窓際に佇むエレナ・シュタイナーは、疲弊し切った面持ちで椅子に座していた。彼女が抱える罪悪感と後悔は、御子柴亮真との破れた約定に由来するものであった。その表情を見たクリス・モーガンは、彼女の内心に深く同情していた。元将軍として長年王国に仕えてきたエレナが、かつて御子柴を選んだ決断には強い覚悟があった。だが、娘サリアの生存が明らかとなり、彼女はその選択を翻さざるを得なかった。代償として負った罪悪感は、今なお彼女を苛んでいた。

書類の山と罰としての労働

エレナは将軍として王国軍の再編を担い、連日膨大な書類に追われていた。クリスはその姿に深く憂慮していたが、エレナは自らを罰するかのように働き続けていた。身体に負担が掛かっているのは明らかであったが、エレナは忠義と後悔の念から止まることができなかった。

封建体制の現実と騎士団新設の重圧

ローゼリア王国は中央集権を標榜しながらも、実態は封建的な政治体制を取っていた。領主たちはそれぞれ軍事力を持ち、独自の裁量で法を執行していたため、王家の支配力は著しく制限されていた。王権強化を狙うルピス女王の意向により、騎士団の増設が急務とされ、それがエレナに課せられていた。クリスは、それが実質的にはエレナへの「踏み絵」として機能していることに気づいていた。

忠義と現実の狭間で揺れる心

祖父フランク・モーガンが治療可能な病で死を待つ状態にある現実は、クリスの心を強く締め付けていた。彼はエレナへの忠義と、自分の家族を顧みる想いの間で揺れていた。祖父の死は前将軍アーレベルクの妨害と、それに巻き込まれたフランクの頑なな忠誠心によるものであった。だが、今のクリスには、エレナの側に仕える以外の選択肢はなかった。

セイリオスの夜と祖父との語らい

セイリオスの街で亮真は祖父・浩一郎と再会し、二人で酒を酌み交わしていた。そこにはローラとサーラの双子の侍女も同席していた。亮真は祖父への信頼を表しつつ、浩一郎の異世界召喚の経緯と、彼の周囲に集う異国の人物たちの正体について問いただしていった。

浩一郎の過去と組織の真実

浩一郎は、自身がかつてこの世界に召喚され、日本へ帰還した経験を持つ帰還者であることを語った。彼の背後には、異世界召喚された人々で構成される巨大な地下組織が存在しており、その目的は「より良き明日」を得ることであった。ただし、その手段には疑問が残った。

光神教団と飛鳥の救出問題

亮真は、飛鳥が現在光神教団の庇護下にある事実を重く受け止めていた。彼女の安全を考えれば、無理に救出を敢行することは危険であると判断していた。可能であれば、北部征伐の混乱を利用して安全に救出したいという思惑があったが、状況はそれほど単純ではなかった。

召喚者としての境遇と異世界の不自由さ

亮真は異世界で貴族となり領地を持っていたが、それは望んだ結果ではなかった。ガスも電気もない生活、娯楽の欠如、読書という趣味さえままならない現実は、彼にとっては過酷であった。娯楽小説や漫画すら存在しない環境は、精神的に大きなストレスを与えていた。

祖父との絆と明かされた想い

浩一郎の無遠慮な問いにより、亮真のローラとサーラへの想いが表面化した。彼は明言を避けたが、行動から彼女たちへの信頼と好意が読み取れた。浩一郎の揶揄に咳き込みながらも、亮真は自身の本心を誤魔化しつつ、話題を戦の準備へと戻した。

戦いの覚悟と王国への決別

亮真は、ルピス女王との決戦に向けて明確な意志を示した。彼にとって、王国を打ち倒すことは避けられぬ選択であった。ただし、王国の名を残すことで最低限の形式を保つ意図も持っていた。浩一郎もその覚悟を受け入れ、共に歩む決意を示した。

飛鳥救出のための策と忍びの役割

飛鳥を救出するためには、伊賀崎衆の力を借りる必要があると亮真は考えていた。潜入や離間の計を用いるにしても、彼等の情報力と工作能力が不可欠であった。浩一郎は飛鳥の安全を託し、亮真はそれに応える意志を見せた。

再会と決意の酒

亮真と浩一郎は酒を交わしながら、互いの想いを確認し合った。祖父の深い後悔と、孫の決意。それぞれが過去と向き合い、未来への道を見据えていた。亮真はこの戦乱の地で、守るべきものを守るために動き始める覚悟を固めていた。

第四章  意思を継ぐ者

修練場への訪問と異様な集まり

亮真は執務から一時的に離れ、ローラに連れられて街の一角にある修練場を訪れた。普段は兵士たちが腕を磨く場所であり、高級武官や領主である彼が訪れることは稀であった。理由を明かさないローラに疑念を抱きつつも、亮真は従った。現地ではサーラやリオネ、マイク、紅獅子の面々、そして祖父の浩一郎の姿を目にし、何かの目的で幹部たちが集まっていると察した。

浩一郎とシグニスの賭け試合

浩一郎はシグニスと酒代を賭けて試合を行うと宣言し、その立会人として亮真を指名した。観衆が盛り上がる中、二人の戦士が対峙する。装備の差や武器の相性から、亮真は浩一郎が不利であると感じたが、彼の冷静さと技量を信じて見守った。

戦いの展開と圧倒的な技術差

シグニスは重さ三十キロの鉄棍を自在に操り、連撃を浴びせた。しかし、浩一郎はその猛攻をほぼ動かずして躱し続けた。その姿は見物人にも異様に映り、次第に戦局の本質が露わになる。五分の攻防の末、シグニスの最後の一撃が弾かれ、鉄棍が地面に落ちたことで浩一郎の勝利が確定した。

試合後の思索と浩一郎の狙い

夜、庭での型の鍛錬中、亮真は浩一郎の行動の意味を思索した。浩一郎は自身の力を周囲に示すことで、周囲の信頼と団結を促したのだと理解した。彼の我儘な振る舞いにも、仲間を守ろうとする意志があった。亮真は、修練場の試合が単なる賭けでなかったことを確信する。

鄭との手合わせと技の応酬

闇夜の庭にて、鄭孟徳が姿を現し、亮真に手合わせを申し出た。鄭は八極拳と劈掛掌を駆使し連続攻撃を仕掛けたが、亮真はすべてを見切り、最終的に相手の顎を打ち、投げて失神させた。亮真の動きは、御子柴流の奥義を示すものであり、鄭もまたその技量に圧倒された。

ヴェロニカの登場と戦いの意図

戦いを見守っていたヴェロニカが現れ、鄭の行動が浩一郎の依頼であったことを示唆した。昼間の浩一郎とシグニスの試合も、そして夜の鄭の挑戦も、亮真の実力を周囲に示すための演出だったと判明する。亮真はそれを理解しつつも、複雑な心境を抱えていた。

鄭の覚醒と心の変化

目を覚ました鄭は、ヴェロニカとの会話を通じて、亮真の強さと存在意義を再確認した。嫉妬と義務の狭間で揺れていた心が整理され、彼は亮真を浩一郎の意志を継ぐ者と認めるに至った。ヴェロニカはそんな鄭を静かに見守り、彼の心が定まることを願いつつ、戦いに向けて自らの行動を決意していた。

エピローグ

出征を前にした王都近郊の情景

ローゼリア王国の王都ピレウス郊外には、光神教団を含む数多の軍勢が駐留していた。整然と並んだ天幕の中で兵士たちは武器の手入れに励み、街道には兵と伝令が絶え間なく行き交っていた。中でも、光神教団の聖堂騎士メネアと上官のロドニーは、混雑する街道を慎重に馬で進みながら、過剰とも言える兵力が御子柴亮真討伐に向けられている現実を目の当たりにした。彼らの心には、貴族たちの血縁による報復の色が濃く映っていた。

メネアの葛藤と飛鳥の存在

メネアは、故郷を追われ復讐心を抱いて教団に身を寄せた過去を持ち、今の戦いに正義があるのかを自問していた。とりわけ気がかりなのは、宿で待つ飛鳥の身であった。飛鳥は異世界から召喚された少女で、桜花という法剣を持ち、怪物・三つ目虎を一刀で仕留めた過去を持つ。この事実は、飛鳥がただの少女であるはずがないことを証明していた。しかも、桜花には地球には存在しない付与法術が刻まれており、飛鳥の後見人である御子柴浩一郎の存在に疑念が生まれていた。

組織との関係と光神教団の方針

飛鳥を取り巻く異常な事実と、浩一郎の能力は、教団内でも疑念の対象となりつつあった。光神教団は建前として組織の存在を否定してきたが、現場の騎士たちは実戦経験からその存在を感じ取っていた。だからこそ、上層部が飛鳥を問題視する可能性は高く、メネアとロドニーは彼女を守る必要性を痛感していた。今の状況で飛鳥に悪意を向ける者が現れれば、教団内の正義を免罪符にして取り返しのつかぬ事態を招きかねなかった。

亮真の素性と調査の背景

御子柴亮真の名は、今や英雄にして反逆者として知られていた。その名を飛鳥が口にしたことで、彼が浩一郎の孫である可能性が濃厚となった。だが、組織との関与を示す証拠はなく、不確かな情報の中で亮真の立場は極めて不安定なものであった。教団としても、彼の真意を見極めなければならないという思惑が強まっており、ローランド枢機卿は教皇より直接調査を命じられた形となった。

聖堂騎士団の参戦と上層部の意向

ローランド枢機卿の申し出により、聖堂騎士団の精鋭・第十八団が北部征伐に加勢することとなった。本来、彼らは教皇直轄の存在で、枢機卿とは対立関係にあったが、それでも上層部の方針転換が明らかとなる動きであった。これにより、単なる調査の域を超え、教団が亮真に対して具体的な行動を取る可能性が高まった。メネアとロドニーは、彼らと腹を割った交渉が必要であると認識しつつ、到着した陣屋へと案内される。

戦争への移行と懸念の増大

数日後、王都郊外に角笛の音が鳴り響き、大地が震動を始めた。光神教団を含む大軍勢が北東へ向けて行軍を開始し、御子柴亮真の討伐戦が本格化した。メネアはこの状況が飛鳥に与える影響を案じつつ、反逆者とされた英雄の行方を見極めようと決意を固めていた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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