どんな本?
本書は、保利亮太による異世界ファンタジー小説である。
本作は、異世界に召喚された高校生・御子柴亮真が、戦才と法術の力で厳しい世界に抗う物語であり、シリーズ第29巻にあたる。
物語の概要
ミスト王国からの撤退を決意した御子柴亮真は、ザルーダ王国の内情に目を向ける。同国では、ユリアヌス王の長引く病により、貴族たちの間で不穏な空気が漂っていた。オルトメア帝国に追従しようとする貴族が増えることを危惧した亮真は、薬術に長けた亜人をユリアヌス王のもとへ送り込む。さらに、ザルーダ王国の問題児とも言える貴族たちの粛清に乗り出す。
主要キャラクター
• 御子柴亮真:異世界に召喚された高校生であり、卓越した戦才と法術の力を持つ。ローゼリア王国の大公として、各国の情勢に深く関与する。
• ユリアヌス王:ザルーダ王国の国王。長引く病により、国内の政治情勢が不安定化している。
物語の特徴
本作は、異世界召喚という王道の設定ながら、主人公の戦略的思考や政治的駆け引きが詳細に描かれている点が特徴である。また、異種族との交流や、複雑な国家間の関係性など、深みのある世界観が読者を惹きつける。シリーズを重ねるごとに深化するストーリー展開とキャラクターの成長が魅力であり、特に本巻ではザルーダ王国の内政問題に焦点を当て、主人公の策略が大陸東部を揺るがす様子が描かれている。
出版情報
• 出版社:ホビージャパン
• 発売日:2024年12月19日
• 価格:1,430円(税込)
• ISBN:9784798637037
• 電子書籍版:あり
• 関連メディア展開:コミカライズ版が連載中
読んだ本のタイトル
ウォルテニア戦記 XXIX
著者:保利亮太 氏
イラスト:bob 氏
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あらすじ・内容
不本意ながらミスト王国からの撤退を決めた御子柴亮真。いっぽうザルーダ王国ではユリアヌス王の病が長引き、貴族たちの間では不穏な空気が漂い始めていた。オルトメア帝国に追従しようと言う貴族が増える事を危惧した亮真は、薬術に長ける亜人をユリアヌス王
のもとへ送り込む。そしてその裏では、ザルーダ王国の癌とも言える貴族たちの粛清に動きだすのだった。
感想
黒エルフの治療と国王の快癒
黒エルフ族のネルシオスが倒れたユリアヌス国王の病を治療する展開は予想外であった。
その方法がタバコを用いるという独特なものだったため、紅獅子たちが一時制止に入ったのも理解できる。
その後、国王が回復し、暗殺を企てた貴族たちを粛清する展開は劇的であった。
もしこの行動が以前の戦争時に実行されていれば、現在の状況は変わっていただろうに。
ユリアヌス国王の粛清の影響
ユリアヌス国王が病を克服した後、売国奴たちを粛清する場面は痛快であった。
国王の死を偽装し、反乱者を一堂に集めた策略には驚かされた。
この行動によりザルーダ王国が内部の敵を一掃し、再建への道を歩み始める姿は、明確な希望を示していた。
シャルディナの苦境と決断
セロン砦の建設や侵攻軍の困難が描かれる中、シャルディナが直面する選択は重要であった。
戦力を増強するか、個人戦力を招集するかという岐路に立つ彼女の姿には、リーダーとしての重圧が伝わってきた。
彼女の決意が物語の展開に大きく影響を与えるだろう。
彼女に誰かの刃が届くのか、それとも彼女の刃が亮真に届くのか見物である。
劉大人との交渉と久世の登場
劉大人との対話は、亮真が組織と手を組むのかと期待させた。
しかし、亮真が求める共存と、組織が望む破壊後の再構築という目標の違いが浮き彫りになった。
それでも劉大人が亮真に協力する意思を示したことで、物語はさらに深みを増した。
そして、久世の名前が登場したことで、新たな展開への期待が高まる。
須藤じゃ無かったんだ。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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同シリーズ
ウォルテニア戦記シリーズ
その他フィクション
備忘録
プロローグ
ボレアース号の航行
巨大帆船ボレアース号は、西方大陸東部の沖合を北に向けて航行していた。この船はクリッパー型に似た高速帆船であり、向かい風にもかかわらず直進する異常な性能を見せていた。その速度は常識を超え、帆船としては到底不可能な領域に達していた。
船長の責務と緊張
操舵室で指揮を執るストルム船長は、航海に伴う危険と責任の重さに緊張していた。この船の航海は通常の遠洋航海よりも危険であり、怪物や海賊の脅威が存在する大地世界では特にその難易度が高かった。それでも船長は、自身の経験と技量を信じ、航海の成功を祈った。
組織と最新鋭の技術
ボレアース号は、帆船と内燃機関を組み合わせたハイブリッド船であり、組織が誇る最新鋭の戦艦であった。文法術による帆への風の供給やスクリューの稼働によって、驚異的な速度を可能にしていた。この船は大地世界における技術の頂点を象徴しており、莫大な建造費を伴う一方で、圧倒的な戦闘能力を有していた。
長老・劉大人の存在
船には、組織の長老である劉大人が乗船していた。劉大人は、年齢を超越した外見と能力を持つ人物であり、組織内外に大きな影響力を持っていた。その存在は、船員たちに緊張感をもたらす一方で、組織にとって重要な意味を持つものであった。
劉大人と護衛の対話
甲板に立つ劉大人は、護衛であるルカイヤとのやり取りを楽しんでいた。ルカイヤはその生真面目さから、劉大人の健康を案じて部屋に戻るよう促した。劉大人はこれを受け入れつつも、自由を求める心と護衛の忠誠心の間で複雑な感情を抱いていた。
次なる目的地と劉大人の意図
航海の目的地はフルザードであり、劉大人は旧友の孫である御子柴亮真と接触する計画を立てていた。話し合いの成否に関わらず、劉大人はこの旅が組織に新たな道を開くきっかけになることを期待していた。
第一章 闇に潜む者
雲行きの不穏さと亮真の心境
その日、空には重苦しい雲が立ち込めていた。亮真は王都ピレウスの王城内で、ラディーネ女王との謁見を控え、遠征の結果報告に向けて思考を巡らせていた。遠征の成果と報告内容の難しさに、心中の不安を隠せなかった。
遠征の結果と貴族社会の反応
ミスト王国への遠征において、亮真は重要な決定を下し、結果として貴族たちから独断専行と非難される状況にあった。特に、戦象部隊を壊滅させるために火竜の息吹を使い果たしたことは、軍需物資の不足という新たな問題を生んでいた。
ミスト王国の変化と新たな不安
遠征後、ミスト王国では国王フィリップが謎の襲撃により落命し、新国王オーウェンが即位した。この政変と和平交渉の動きが、亮真にとって新たな懸念材料となった。また、自軍の特殊技術が敵に露見した可能性にも警戒を強めていた。
亮真の立場と決意
亮真は、ローゼリア王国内の無能貴族たちからの敵意と陰謀を警戒しつつも、ラディーネ女王や家臣たちの信頼を支えに歩み続けていた。訪れた使者の呼びかけに応じ、彼は動揺を微塵も見せず、毅然とした態度で執務室を後にした。亮真の肩には、多くの家臣と三ヶ国の未来が託されていた。
ラディーネ女王の執務室での対話
亮真は衛兵の案内でラディーネ女王の執務室に通され、臣下の礼を行った。ラディーネはその形式的な礼を緩めるよう促し、亮真をソファーに座らせた。この行動は礼節を重んじないわけではなく、ラディーネの立場や居心地を考慮した亮真の配慮であった。
マクマスター伯爵の不在と貴族たちの抑制
ラディーネの側近であるエレナは、マクマスター伯爵が亮真への反発を抑えるため多忙を極めていると説明した。亮真はラディーネとエレナの支援に感謝を述べたが、その関係が単なるビジネスライクではなく、一定の信頼に基づくものであることが垣間見えた。
エレナとの議論と組織への対応策
亮真はミスト王国の政変やエルネスグーラ王国での物価高騰に組織の関与を見出し、対応策として組織幹部との直接会談を予定していることを明かした。エレナは交渉の難しさや時間のかかる問題に懸念を示したが、亮真の計画に理解を示した。
ザルーダ王国への支援とネルシオスの選択
エレナは、ザルーダ王国への支援として派遣された黒エルフ族の将、ネルシオスに疑問を抱いた。亮真は詳細を語らなかったが、ネルシオスを選んだ理由が戦略的判断に基づくものであることを示唆した。エレナはその決定を受け入れ、ラディーネも亮真に全幅の信頼を寄せる姿勢を見せた。
最後の決断と王都を去る三人
数日後、亮真とエレナ、ラディーネはそれぞれの役割を果たすべく王都を去った。ラディーネの信任を得た亮真は、新たな局面に向けて動き出したのである。
第二章 ネルシオスの提案
王城での再会と挨拶
ザルーダ王国の王都ペリフェリアにある王城の一室で、大男ロベルトが勢いよく扉を開け放った。彼は旧友シグニスと再会し、その胸を大きな拳で叩き、友情を確かめ合った。一方で、窓際にいたリオネはその様子を冷やかしつつ、二人に早く席に着くよう促した。
ネルシオスの登場と茶会
黒エルフ族の族長ネルシオスが現れ、東方大陸の茶を振る舞いながら会話が進んだ。彼の用意した茶器や菓子は普段見慣れないものであり、リオネやロベルトたちは興味を示しつつも慎重に味わった。その場には、ネルシオスの長寿と経験からくる威厳が漂っていた。
ユリアヌス国王の治療計画
ネルシオスはザルーダ王国の国王ユリアヌスの治療を提案した。この治療が成功すれば、現在の混乱を収束させる鍵になると語った。リオネやシグニスはその可能性に驚きつつも、ネルシオスの自信に納得した。一方で、治療計画に反発する貴族たちの存在や光神教の影響が懸念された。
領土奪還の布石
ネルシオスは、オルトメア帝国の侵攻を防ぐだけでなく、占領された領土を奪還するという目標も掲げていた。その目的には、ユリアヌス国王の復帰が不可欠であり、ネルシオスは迅速な行動を主張した。リオネたちは慎重な対応を求めながらも、その計画に理解を示した。
今後の決断
ネルシオスは翌日の診察を提案し、状況を打開するための第一歩を踏み出した。リオネたちはその提案を受け入れ、協力する姿勢を見せた。ネルシオスの冷静な判断と自信が、緊張した空気の中で一筋の光を与えたのである。
第三章 粛清の幕開け
深夜の王城内での動き
深夜、ザルーダ王国王城の廊下をグラハルト率いる近衛騎士団とジョシュア、リオネ、そして黒エルフ族のネルシオスが進んだ。一行はユリアヌス国王の寝室に到着し、グラハルトの指示で扉が開かれた。部屋ではユリアヌスを看病していたメイドが驚きながらジョシュアに抗議したが、彼はそれを制して治療を始めるようネルシオスに促した。
ネルシオスの診断と治療
ネルシオスはユリアヌスの体を触診し、寄生虫の存在を確信した。その後、独特の治療法として煙草のような植物を用い、ユリアヌスに煙を吸わせる行動を取った。この奇妙な治療に周囲が反発する中、ユリアヌスは突然咳き込み、大量の水と共に血蟲と呼ばれる寄生虫を吐き出した。この寄生虫が病の原因であり、ネルシオスは即座に駆除した。
暗殺者の正体と衝突
ネルシオスの指摘により、ユリアヌスの食事に問題があった可能性が浮上した。追及の末、看病をしていたメイドのジェーンが暗殺者であることが判明した。ジェーンは短刀でユリアヌスに襲い掛かったが、ネルシオスが迅速に対処し、彼女を制圧した。ジェーンの死後、ジョシュアはその背後にある勢力の特定を急ぐ必要性を感じた。
御子柴亮真の提案
ネルシオスは御子柴亮真からの書状をジョシュアに手渡した。その中身には、この状況を逆手に取る策が記されており、ジョシュアはその内容を理解すると深くため息をついた。この書状こそが、ザルーダ王国の未来を左右する鍵となる可能性を秘めていたのである。
暗殺未遂事件後のユリアヌスの反応
ネルシオスの治療とジェーンの暗殺未遂事件から四日が経過していた。ユリアヌスは、忠実と思われたメイドが暗殺者だった事実を知り、複雑な感情を抱えながらも冷静さを保とうとしていた。彼は事件の詳細を聞き、ジェーンの裏切りに動揺しつつも、自身の感情を抑え、国の行く末を考える姿勢を見せていた。
ジョシュアとの対話と進言
ユリアヌスはジョシュアに対し、これ以上の犠牲を伴う行動が本当に必要かを問うた。ジョシュアは、ザルーダ王国がオルトメア帝国に抗するためには犠牲が避けられないと断言した。王国の存続を考えると、現在の劣勢を覆すには痛みを伴う決断が必要であると主張した。
王国の苦境と助力の現状
ザルーダ王国は戦力や国力で劣勢に立たされていた。四ヶ国連合の盟主エルネスグーラ王国の支援が遅れ、御子柴大公家から派遣された三将が奮闘していたが、貴族社会からの妬みが問題を引き起こしていた。これらの将たちの活躍がなければ、王国はすでに滅んでいたであろう状況でありながら、王都の一部貴族は彼らを批判していた。
ユリアヌスの決断
ユリアヌスはジョシュアの進言を聞き、王国の存続を最優先するために苦渋の選択を迫られた。彼は、現在の戦況を打開するためには犠牲を厭わず行動する覚悟を決めた。そして、ジョシュアの提案を受け入れると宣言し、国王としての責務を全うする決意を示した。この決断は、ザルーダ王国の未来を左右する大きな一歩となった。
ユリアヌス崩御の知らせ
王都ペリフェリアの貴族社会は、国王ユリアヌス一世崩御の報せに動揺した。この知らせは貴族たちを二分させた。オルトメア帝国に迎合する者たちは祝杯を挙げ、愛国者たちは悲嘆に暮れた。王国の命運を大きく左右する出来事であり、混乱が広がっていた。
アルムホルト侯爵の歓喜と計画
アルムホルト侯爵家当主であるアーネスト・アルムホルトは、国王の死を知り歓喜した。彼は大叔父ユリアヌスに深い恨みを抱いており、国王暗殺に関与していた。密かにオルトメア帝国に内通していたアーネストは、ザルーダ王国の現状を利用し、新たな政権を築くべく動き出した。
復讐と内通の背景
アーネストの復讐心は、幼少期の悲劇に起因していた。母と共に陳情に向かう途中、セグロア伯爵家の関与が疑われる事故で母を失った過去があった。ユリアヌスが証拠不十分として伯爵家を不問に付した決断が、アーネストの心を憎悪で染め上げた。以降、復讐の念が彼を動かす原動力となった。
アルムホルト侯爵の野望
ユリアヌスの死を契機に、アーネストは王位継承の可能性を模索し始めた。彼は忠実な支持者たちを招集し、計画を練り直していた。表向きは領地統治の名手でありながら、その裏で策謀を巡らせるアーネストは、王国全体を巻き込む大きな動きを始めていた。しかし、その行動が自身と家名に破滅をもたらす結果となることを、まだ知らなかった。
謁見の間での陰謀
ザルーダ王国の謁見の間に、三十名ほどの貴族たちが集まった。彼らはオルトメア帝国に通じ、祖国を裏切ろうとする売国奴たちであった。その様子を隣室から見守るユリアヌス一世は、ジョシュアからの報告を受け、かすかな希望を断ち切られた。ユリアヌスは苦悩を抱えつつも、リオネに重要な役目を託し、粛清を決意した。
ユリアヌスの登場と粛清の狼煙
謁見の間にユリアヌスが現れると、貴族たちは驚愕した。ユリアヌスは自身の崩御を偽装し、反乱者たちを一堂に集めていたのである。アーネスト・アルムホルトはその真意を悟り、怒りと恐怖を抱えながらも、無力な状況に追い込まれた。直後、近衛騎士団が謁見の間に突入し、粛清が開始された。
反乱軍の進軍と迎撃の罠
同時刻、反乱軍は三万の兵を率いて王都に向かって進軍していた。グラハルト・ヘンシェル率いる近衛騎士団が道を封鎖し、反乱軍の行軍を停止させた。さらに、待ち伏せしていた御子柴大公軍が森から奇襲を仕掛け、反乱軍を挟撃した。この戦略はネルシオスの緻密な計画によるものであり、反乱軍を圧倒した。
戦闘の終結と王国内の浄化
戦いの結果、反乱軍は壊滅的な打撃を受けた。街道は兵たちの血で赤く染まり、反乱は完全に鎮圧された。同時に王都でも粛清が進み、オルトメア帝国に通じる降伏論者たちは一掃された。ザルーダ王国は、この一連の戦いによって内部の敵を排除し、新たな再建への道を歩み始めた。
第四章 劉大人の問い
フルザードの門前の喧騒
フルザードの城門前には、農民や商人、冒険者たちが長蛇の列を作っていた。交易都市として重要なフルザードでは、人の出入りが制限され、厳重な荷物検査と身元確認が行われていた。そのため、入城には通常よりも時間がかかった。
交易都市フルザードの経済的影響力
フルザードは西方大陸最大級の交易都市であり、周辺地域の経済を支える生命線だった。この都市には膨大な量の交易品が集まり、大陸間貿易の中心地として栄えていた。フルザードの港には毎日多数の船が出入りし、その経済力はミスト王国の繁栄の基盤であった。
怪物と軍事力の必要性
フルザードの発展には、怪物や巨獣種といった脅威への対策が欠かせなかった。ミスト王国は経済力を背景に強大な海軍を整備しており、この海軍が都市を守る盾となっていた。怪物による脅威に対抗するため、都市の住人たちは日々強さを追い求めていた。
城内への入城と市場の活気
御子柴亮真は入城時に鼻薬を使い、通常の検査を省略して城門を通過した。都市内部では市場が賑わいを見せ、厳戒態勢にも関わらず活気に満ちていた。亮真は市場の喧騒を感じながら、過去にフルザードで得た経験を思い返していた。
劉大人との再会と交渉
亮真は冒険者ギルドで劉大人と面会した。劉大人は亮真を温かく迎え、彼の望みを尋ねた。亮真はミスト王国での政変の黒幕との交渉を求め、オルトメア帝国への援助停止を提案した。劉大人は亮真の提案を受け入れ、協力を約束した。
久世昭光との接触
劉大人は、亮真の望む相手である黒幕の上司として久世昭光の名前を挙げた。久世昭光は急進派の長老であり、亮真の祖父・浩一郎のかつての友人でもあった。その名を聞いた亮真は動揺し、久世との対面を思案した。
エピローグ
朝の光とロルフの葛藤
暖かな朝の光が部屋に差し込む中、ロルフ・エステルケントはベッドから起き上がれずにいた。既に目は覚めているが、心に宿る罪悪感と疲労感が彼の体を縛りつけていた。彼は【皇帝の盾】として名を馳せた英雄でありながら、戦場での敗北と部下の死が彼の心を苛んでいた。
晴れた日と大地世界の生計
外は快晴であり、多くの人々が生活の糧を得るために動き始めていた。大地世界では、天気の良い日は貴重な稼ぎ時であり、人々は働くことを止める余裕がなかった。しかし、ロルフはその日常から遠く離れ、自分の内面との戦いに囚われていた。
英雄の重責と孤独
ロルフは、皇帝ライオネルに仕える近衛騎士団長として、忠誠と功績を重ねてきた存在であった。だが、王都ペリフェリアでの敗北により、一万もの部下を失い、自分だけが生き残った現実が彼を追い詰めていた。それは彼にとって、耐え難い罪悪感と孤独をもたらした。
メイドの献身とロルフの拒絶
扉越しに食事を運んできたメイドの声が響いたが、ロルフはその優しさを受け入れることができなかった。彼女の気遣いが伝わってきたものの、ロルフにとってそれは心の重荷であり、彼女を下がらせることでしか自分を守れなかった。
孤独な決意
メイドが去り、静寂が戻った部屋で、ロルフの空腹が彼を動かした。彼はゆっくりとベッドから体を起こし、自分の弱さと向き合いながら、深いため息を漏らした。それは、英雄としての責務と人としての苦悩に押し潰されそうな彼が、再び立ち上がる一歩を踏み出そうとする決意の表れであった。
ウシャス盆地とセロン砦の建設
ザルーダ王国の穀倉地帯ウシャス盆地では、穏やかな風景にそぐわないセロン砦が建設されていた。この砦は、シャルディナ・アイゼンハイトの命令で急速に整備されたオルトメア帝国軍の前線基地であった。第一次侵攻での失敗を踏まえた備えであったが、王国民にとっては祖国を侵す存在として憎まれる象徴であった。
戦況の悪化とシャルディナの憂慮
シャルディナは、側近セリアからの報告を受け、苦悩の色を濃くしていた。ザルーダ侵攻軍は内通していた貴族を失い、戦力の再編を余儀なくされていた。さらに、精神的な傷を負ったロルフ・エステルケントが戦線に復帰できず、戦局の悪化を招いていた。
ユリアヌス一世の粛清とその影響
ザルーダ王国では、ユリアヌス一世による粛清が実行され、売国奴たちが排除されていた。これにより、王国の結束力は高まり、侵攻軍にとって厳しい状況が続いていた。シャルディナは、その粛清が感情的ではなく計画的であったことに驚愕していた。
ロルフの不在がもたらす問題
ロルフの戦線離脱は、単なる個人の問題に留まらず、侵攻軍全体に大きな影響を与えていた。彼の不在による戦力低下は、戦術面だけでなく、オルトメア帝国の威信にも傷をつける恐れがあった。シャルディナとセリアは、彼の復帰を切望していたが、現状では見通しが立たなかった。
戦況を左右する選択
戦況打開のため、シャルディナは追加兵力の投入か、圧倒的な個人戦力を持つ存在の召喚を検討していた。セロン砦から帝都オルトメアに向けて送られた早馬は、彼女の決意と状況の逼迫を示すものであった。それは、第二次ザルーダ侵攻が総力戦へと突入する合図であった。
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