小説「ウォルテニア戦記 IX(9)」戦場で勝利をするも・・・感想・ネタバレ

小説「ウォルテニア戦記 IX(9)」戦場で勝利をするも・・・感想・ネタバレ

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どんな本?

学校の屋上で弁当を食べようとしていたらいきなり異世界に召喚された高校生の御子柴亮真。
ただ彼はマトモじゃ無かった。

召喚した魔術師を殺し。
逃亡途中で双子姉妹を仲間にして大国の帝国から逃亡。

帝国から逃げれたと思ったら、ローゼリア王国の跡目争いに巻き込まれてしまう。
それにも勝利させて女王ルピスを誕生させ。
そのまま解放されると思ったら。
住民は皆無で、沿岸部に海賊がおり、強力な魔物が跋扈するウォルテニア半島を領地に与えられ貴族にされてしまう。

読んだ本のタイトル

#ウォルテニア戦記   IX
著者:保利亮太 氏
イラスト:bob 氏

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あらすじ・内容

オルトメア帝国軍と三王国軍の戦争が泥沼化するなか、かつて自分をこの世界に召喚した旧敵・オルトメア帝国の侵攻を阻むため、御子柴亮真はオルトメア領内にある最重要拠点であるノティス砦の攻略を提案する。

しかし、それは敵国内に深くもぐり込まなければ不可能な、大ばくちとも言うべき企てだった。

亮真以外の誰もが不可能と考えた作戦だが、そこには意外な抜け道が……。

ウォルテニア戦記 IX

感想

侵攻して来たオルトメア帝国軍の補給の要衝ノティス砦を奇襲で逆侵攻して攻略。

オルトメア帝国領内にある要衝に帝国兵に扮して潜入して夜陰に紛れて亮真自ら焼き討ちに参加する。

砦の守将も討ち取り多くの補給物資と共に砦を陥落させる。

山間部を苦労して運搬していたオルトメア帝国からしたら補給の要衝の陥落は命取り。

補給物資も滞り敵中に孤立したオルトメア帝国軍は殲滅される危機だったが、、

オルトメア帝国の使者、須藤による国力を背景にした交渉で無傷で撤退させてられて終わる。

結局は相手の軍に痛撃を与えることも出来ず、オルトメア帝国軍が再編されたら再侵攻は必至。

保って10年のために奇策を弄してオルトメア帝国を退却させた。
援軍の面目は立った。

そして、飛鳥を救出するために地球人の組織と合流した浩一郎は裸一貫から領地持ちの男爵になった亮真の事を知る。

人伝とはいえやっと肉親の情報を得た浩一郎。

その時どう思ったのだろうか?

そして、まさか爺さんが組織の一員だったとは、、

唯一の裏大地から生還を果たした男。

いったい今後どう関わって来るのだろうか?

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備忘録

プロローグ

歓楽街の夜と密かな集い

レンテンシアの街は夜の帳に包まれ、二十二時を過ぎた頃であった。文明の光を持たない大地世界では、蝋燭やランプの油代が大きな負担となるため、街の灯りは限られていた。しかし、歓楽街だけは例外であり、昼夜を問わず明かりが灯り続ける場所であった。ただし、光が届くのは大通りや店の入り口付近までであり、一歩路地裏に入れば、そこは闇夜の支配する世界であった。その闇に紛れるように、様々な肌の色を持つ人々が姿を消していった。

隠された目的と身分証

闇の中を進んだ男たちは、一軒の家の前で足を止めた。そこには、まるで子供が戯れに積み上げたような平たい石のオブジェがあったが、それをただの飾りと見る者はいなかった。男たちは懐からギルドの登録カードを取り出し、扉に刻まれた龍の彫り物へとかざした。瞬間、龍の目が赤く光り、扉が静かに開いた。その場にいた男は、小さく囁くように「全員集まりました」と報告した。それを受け、燕尾服に身を包んだ中年の男——鄭孟徳は静かに頷き、背後を振り返った。

鄭孟徳と集められた者たち

鄭孟徳は黒髪をオールバックにまとめ、皺ひとつない燕尾服に蝶ネクタイを締めた人物であった。執事のような風貌をしていたが、歓楽街の裏路地には似つかわしくない出で立ちであった。しかし、この場にいる誰もが彼の存在を疑問視することはなかった。彼の恐ろしさを知る者ばかりだったからである。彼の前に並ぶ十人の人影は、彼の言葉に対し無言で頷いた。彼らは劉大人からの命令を受け、ここに集められていたのだった。

命令と違和感

鄭孟徳は五年近く劉に仕えていたが、今回の命令はこれまでにないほど異例のものであった。彼の主である劉は、西方大陸南西部の管理と光神教団に対する諜報活動を任されている存在であった。その彼が、レンテンシアの街で発生した出来事に直接介入することはほとんどなかった。街の管理は本来、ルカイヤ・ラドワーンの管轄であり、彼女が判断すべき事案であったはずである。それにもかかわらず、劉が鄭に今回の襲撃の指揮を命じたことには、何か確固たる理由があるはずだった。

不可解な要因

鄭は、今回の事態が組織の存続に関わるようなものであるかを考えた。しかし、彼の知る限り、直近で大きな問題は発生していなかった。強いて挙げるならば、数ヶ月前に起こったベルゼビア王国の次席宮廷法術師ミーシャ・フォンティーヌとその夫の暗殺事件くらいである。しかし、この事件が組織の動向を左右するほどの影響を持つとは考えにくかった。西方大陸全体の視点で見れば、それはただの一つの駒を失った程度の出来事にすぎなかった。

襲撃の準備と鄭の決意

鄭は自らの役目を果たすべく、精神を研ぎ澄ました。彼はかつて人民解放軍の特殊部隊に所属しており、自己の精神を制御する技術を身につけていた。そして、今ここで彼に求められるのは、感情を排除し、任務を完遂することであった。彼は集まった者たちに標的の情報を伝え、万が一の際には処理を優先するよう命じた。

戦闘の準備とそれぞれの役割

この場に集められた者たちは、表向きは商売人や労働者でありながら、全員が戦士として一流以上の実力を持つ者たちであった。彼らはレンテンシアの街に暮らす組織の中でも特に荒事に長けた精鋭であり、それぞれ異なる職業を隠れ蓑にしていた。そんな彼らが、鄭の指揮のもと標的の捕縛、もしくは抹殺に向かうこととなった。

標的の動向と作戦開始

やがて、大通りから一人の男が現れ、鄭に報告をした。標的が動き出したというのだ。その言葉に、鄭は静かに「始めるとしましょうか」と告げた。人影たちは一人また一人と夜の闇へと消え、作戦が幕を開けた。

第一章  古き友との邂逅

薄暗い路地と御子柴浩一郎

御子柴浩一郎は、異臭の漂う薄暗い路地をフードを深く被りながら進んでいた。昼間から酒場にいたにもかかわらず、足取りは確かであった。彼は体質的に酒に強く、さらに仕事を控えていたため、意図的に酒量を調整していた。大地世界では、酔いつぶれることは危険を伴い、最悪の場合、身ぐるみを剥がされたり奴隷商人に売られたりする可能性もあった。浩一郎は慎重に行動しながらも、特定の視線を感じ取っていた。それは単なる好奇の目ではなく、明確な意図を持つ者のものだった。

追跡者の狙い

浩一郎は、符牒を利用して組織と接触を試みていたが、現在もその符牒が使われている保証はなかった。西方大陸全土に根を張る組織は秘密裡に活動しており、その存在は一般には知られていない。浩一郎は過去に幹部の一人であったが、今は外部の人間に過ぎなかった。そのため、酒場での合図がどのように受け取られたのかは不明であった。追跡者の存在はその答えを示すものだったが、敵意を持つものか、それとも接触を図るものかは定かではなかった。

歓楽街の裏側

浩一郎が進む路地は歓楽街の影となる場所であり、貧困と絶望に満ちた区域であった。ここに生きる者たちは、生きるために犯罪に手を染めることも珍しくなかった。強盗を企てる者もいるが、浩一郎に向けられた視線は、それとは異なる何かを感じさせた。追跡者たちは手練れであり、動きは静かで、標的を包囲する技術に長けていた。彼らの動きから、単なる街の無法者ではないことは明らかであった。

対峙と駆け引き

浩一郎が袋小路に追い込まれると、追跡者たちは姿を現した。彼らは酔客を装い、浩一郎に金を恵むよう要求したが、その態度は単なる強盗のものではなかった。彼らは浩一郎の実力を試す意図を隠しながら接触を図っていた。浩一郎はその意図を見抜き、挑発するように金貨を投げ与えた。相手がどう出るかを試すためであったが、彼らは安易に飛びつくことなく、慎重な動きを見せた。

襲撃と実力差

追跡者たちは、浩一郎に襲い掛かった。彼らの攻撃は洗練され、連携も取れていたが、浩一郎は容易くそれを見切った。一撃で敵の一人を戦闘不能にしながらも、彼の目的は敵を倒すことではなかった。浩一郎は、彼らが本当に組織とつながる者たちなのかを確かめる必要があった。殺すことなく、戦闘を優位に進める方法を模索していた。

浩一郎の名乗り

浩一郎は突然構えを解き、戦いを止める意思を示した。そして、自らフードを脱ぎ、名を名乗った。その堂々とした態度と圧倒的な威圧感に、相手は困惑した。彼らにとっては予想外の展開であったが、浩一郎の言葉には抗えぬ何かがあった。リーダー格の男、カリムはしぶしぶ自身の名を名乗り、浩一郎の要求を聞く姿勢を見せた。浩一郎は、彼を通じて組織への接触を試みようとしていた。

劉仲健の動揺

その頃、組織の長老の一人である劉仲健は、静かに茶を楽しんでいた。しかし、そこに側近である鄭孟徳が現れ、緊張した面持ちで報告を行った。鄭の手には一振りの日本刀が握られていた。それはかつての盟友、御子柴浩一郎の愛刀「菊花」であった。劉はその刀を見て動揺し、鄭に問いただした。鄭は、組織が襲撃を仕掛けようとしていた標的が、御子柴浩一郎その人であったことを告げた。信じがたい報告に、劉は言葉を失った。数十年前に姿を消したはずの男が、再びこの地に現れたという事実が、組織にとって何を意味するのか——その影響は計り知れないものであった。

再会の場

御子柴浩一郎は、レンテンシアの商業地区にある商館の来賓室で、静かにソファーへと腰を沈めていた。鄭孟徳が茶を注ぎながら、まもなく劉大人が到着することを告げた。浩一郎はそれに落ち着いた声で応じ、その態度には戦場にいた者とは思えぬ余裕があった。鄭は、伝説とされる男の存在を目の当たりにし、その名の重みを実感していた。

伝説の武人

御子柴浩一郎の名は、組織の黎明期における最強の矛として語られてきた。彼は数々の戦場を駆け抜け、光神教団との死闘を繰り広げた武人であり、その戦功は数え切れないほどであった。組織の存続と繁栄は彼の力に支えられていたといっても過言ではなく、彼の活躍は今もなお英雄譚として語り継がれていた。鄭もまた、かつて劉大人から彼の武勇を聞かされ、胸を熱くした一人であった。

最高級の茶

鄭は浩一郎に茶を勧めた。敵地ともいえる状況で、並の武人ならば警戒するはずであったが、浩一郎は躊躇なくそれを受け入れた。彼が口にしたのは、君山銀針という希少な黄茶であり、本場中国でも滅多に手に入らない代物であった。この茶がここにある理由は、かつて召喚された地球人の中に茶職人がいたためであり、その偶然がもたらした奇跡ともいえる逸品であった。浩一郎はその味を正しく理解し、茶の質を称賛した。鄭は彼の見識に感心しながら、浩一郎という男がただの戦士ではないことを改めて認識した。

旧友との再会

やがて、来賓室の扉が開き、劉仲健が現れた。しかし、彼は室内へと足を踏み入れることなく、呆然と立ち尽くしていた。視線の先には、かつての盟友がいたからである。互いを見つめ合う両者は、長い時を経てようやく再会を果たした。劉は浩一郎の名を口にし、まるで自身の確信を確かめるように呟いた。浩一郎は、変わらぬ調子で劉の名を呼び、意味深な笑みを浮かべた。

地球への帰還

劉は驚きを隠せぬまま、浩一郎が本当に地球へ帰還したのかを問いただした。浩一郎は、それを肯定し、数ヶ月前まで向こうで暮らしていたと告げた。その言葉に、劉はさらに身を乗り出し、他の仲間も無事に戻れたのかを尋ねた。しかし、浩一郎はその期待を打ち砕いた。次元の渦に呑まれた者たちとは、それ以来一度も会っていないというのが彼の答えであった。

逆召喚の理論

逆召喚の術式は、召喚の瞬間に結界が解かれることを利用するという理論に基づいていた。これは、地球側から新たに召喚を行うことで、一時的に開いた扉を通り抜けるという発想であった。しかし、その成功には極めて短い時間内での移動が必要であり、さらに誰かを新たに召喚しなければならないという問題があった。組織はこの方法に賛否が分かれ、結果として帰還推進派と反対派が衝突することとなった。

分裂と悲劇

帰還推進派は、逆召喚の術式を強行しようとし、組織内での戦闘が勃発した。浩一郎と劉は、その暴挙を阻止するために動いたが、結果として術式は暴走し、多くの仲間が次元の狭間へと呑み込まれた。浩一郎もその一人であったが、偶然にも地球へ帰還を果たすこととなった。それが運命の悪戯であったのか、あるいは何かの意思によるものだったのかは分からない。

消えぬ後悔

浩一郎は、過去の出来事を振り返りながらも、未だに割り切れぬ思いを抱えていた。彼一人が帰還したという事実が、罪悪感として彼を苛んでいた。劉もまた、かつての決断に苦悩していた。組織はその後、瓦解の危機に瀕しながらも、残された者たちの努力によって存続してきた。二人は互いに過去を背負いながら、再び巡り合ったのである。

二人の思い

沈黙の中、二人はただ見つめ合った。戦友として共に戦った日々、そして異なる運命を歩んだ半世紀の時を経て、今ここに同じ場に立っていた。言葉にしなくとも、互いの心にはその重みが伝わっていた。

第二章  第一の難関

戦略会議の開始

ザルーダ王国を侵略するオルトメア帝国軍の動向を受け、エルネスグーラ王国の女王グリンディエナ・エルネシャールは軍議を開いた。会議の場は、ザルーダ王国北方に位置する城塞都市メンフィスの行政府であった。参席したのは、女王に仕える将軍アーノルド・グリッソンと、ローゼリア王国の男爵である御子柴亮真であった。会議の目的は、オルトメア帝国軍を撃退する策を練ることであったが、彼らの取れる選択肢は限られていた。

戦略の選択肢

オルトメア帝国軍は既にノルティア砦を築き、ザルーダ王国領内に深く進軍していた。ザルーダ王国の抵抗を支えているのは、ベルハレス将軍の遺児ジョシュア・ベルハレスのゲリラ戦であったが、オルトメア帝国はさらなる戦力を投入し、近々大攻勢に出るのは確実であった。この状況で考えられる戦略は二つに絞られた。一つは、エルネスグーラ王国軍がウシャス盆地に進軍し、東部三ヶ国と連合軍を結成してオルトメア帝国と戦う案。もう一つは、オルトメア帝国北部を急襲し、国境線へ敵を引きつけることでザルーダ王国への圧力を軽減する案であった。しかし、いずれの戦略にも大きなリスクが伴っていた。

御子柴亮真の提案

この軍議の場で、御子柴亮真は迷いなくオルトメア帝国北部の急襲を提案した。その発言に、グリッソンは深い失望を覚えた。彼は昨日の会談で亮真に対して高い評価を抱き始めていたが、この提案を聞いて、その期待が誤りだったのではないかと疑念を抱いた。オルトメア帝国北部を攻めるとなれば、皇太子の率いる北部方面軍と激突することになる。これは全面戦争を意味し、両国が泥沼の消耗戦に突入する可能性があった。さらに、キルタンティア皇国の動向も不透明であり、戦争が拡大する恐れがあった。

女王の洞察

しかし、グリンディエナは亮真の提案に驚くどころか、むしろ興味を抱いていた。彼女は亮真が単なる無謀な戦略を提案するはずがないと確信し、その意図を探った。そして、亮真が本当に狙っているのは、オルトメア帝国北部ではなく、ノティス砦であることを見抜いた。この砦はオルトメア帝国のザルーダ侵攻軍にとっての補給拠点であり、ここを叩けば敵の戦力を大きく削ぐことができた。

戦術の核心

亮真の策は、エルネスグーラ王国軍を囮にし、オルトメア帝国の北部方面軍を引きつけることであった。その隙に、山岳地帯を突破した部隊がノティス砦を急襲するという作戦である。しかし、ノティス砦はオルトメア帝国内部に位置し、容易に攻められる場所ではなかった。通常の進軍では、敵の防衛線を突破するのはほぼ不可能であった。

常識外れの奇策

グリッソンはこの策を聞き、愕然とした。戦術的に見れば、ノティス砦への進軍には二つの選択肢しかなかった。ザルーダ王国内を通るか、エルネスグーラ王国とオルトメア帝国の国境を成す山岳地帯を抜けるかである。しかし、ザルーダ王国内にはオルトメア帝国の支配下にある地域も多く、侵入すればたちまち敵に察知される。かといって山岳地帯は怪物の巣窟であり、そこを抜けるのも無謀であった。さらに、仮に軍がノティス砦までたどり着いたとしても、砦に籠る数千の敵兵と戦わなければならず、数的に圧倒的不利であった。

軍神の如き戦略眼

しかし、亮真はそれらの障害を乗り越え、ノティス砦攻略を可能とする策を編み出していた。その計画は、従来の戦略概念を大きく超えたものであり、グリッソンの想定を遥かに上回るものだった。彼は己の戦略眼を誇りに思っていたが、この時ばかりは自らの力量を痛感せざるを得なかった。亮真の考えは、単なる戦術ではなく、国家戦略レベルのものだった。

女王の評価

グリンディエナは、亮真の能力を高く評価していた。彼は不必要な戦を好まず、必要最低限の行動で最大の成果を上げる男であった。また、彼には過剰な野心もなく、安定を求める性質が強いと見ていた。そのため、彼が愚かな戦争に踏み込むことはないと確信していた。むしろ彼女が不安に思っていたのは、グリッソンの心理的変化であった。

疑心の芽生え

グリッソンは、亮真への恐れを抱き始めていた。この恐怖がやがて疑心へと変わり、それが周囲へ広がれば、両者の協力関係に亀裂が入る可能性があった。グリンディエナは、その危険性を察知していた。今のところは小さな懸念に過ぎないが、いずれ疑心が組織全体に影響を及ぼすかもしれない。

未来への懸念

グリンディエナは、温くなった紅茶を新しく入れ替えるように指示しながら、ふと未来を思った。もしグリッソンの恐れが広がり、亮真との関係が破綻すれば、それはエルネスグーラ王国にとっても大きな損失となる。今はまだ均衡が保たれているが、この関係が永遠に続く保証はない。果たして、この同盟はどこへ向かうのか。彼女は、その行方を静かに見つめていた。

戦略の重圧

城塞都市メンフィスの宿屋の一室では、重苦しい空気が漂っていた。ザルーダ王国親衛騎士団長オーサン・グリードは、御子柴亮真に戦略の本気度を問いかけた。亮真はすでに準備が整っていることを告げ、確信に満ちた態度を崩さなかった。グリードは、彼の策が分の悪い博打であると認めつつも、それ以外に選択肢がないことを理解していた。

エルネスグーラ王国の女王グリンディエナも反対していない以上、グリードとしても異議を唱える立場にはなかった。しかし、彼の心には不安が渦巻いていた。国の命運を賭けた戦であり、もし失敗すればザルーダ王国は滅びる。加えて、彼はこの戦場を離れ、王都ペリフェリアへ戻り、ユリアヌス一世へ報告しなければならなかった。その後、戦場に出る近衛騎士団長グラハルトの代わりに、国王の護衛任務を引き継ぐことになっていた。

亮真が背負う責任は計り知れなかった。今回の戦略を提案したのは彼であり、失敗すればその責を負うのも彼であった。しかも、信頼できる家臣の多くを手元に置けないまま、グリンディエナから預かった騎士団を率いなければならなかった。この状況は、将棋で飛車や角を欠いた状態で敵陣に突入するようなものであった。

決死の作戦

亮真の作戦は、まず怪物が潜む山岳地帯を突破し、オルトメア帝国の防衛網を回避することから始まる。その上でノティス砦の兵を外へ誘い出し、砦内部へ潜入して守備隊長を討ち取り、倉庫の物資を焼き払うというものであった。作戦の成否は極めて不確実であったが、ザルーダ王国を救うにはこの一手しかなかった。

亮真は準備を整え、決戦に臨もうとした。しかし、不安は完全に消え去ることはなく、彼の脳裏には無数の疑念が浮かんでは消えていった。そんな彼の肩に、ローラとサーラの手がそっと添えられた。その温もりが、彼の迷いを断ち切らせた。

山岳地帯の道案内

メンフィスの南に広がる山岳地帯を進む一団の先導役を務めていたのは、女冒険者三人組【北風に舞う花】であった。リーダーのオリビアは、提示された報酬の高さと恩人の紹介という条件からこの仕事を引き受けた。しかし、依頼内容の詳細を知らされていなかった彼女は、実際にはエルネスグーラ王国の軍隊を導くことになるとは思いもしなかった。

彼女たちは、かつてゴランという傭兵に命を救われた過去を持つ。ゴランの紹介でこの依頼を受けたものの、国家間の戦争に巻き込まれることは本意ではなかった。しかし、既に報酬の前金をギルドの違約金支払いに充てており、今さら引き返すこともできなかった。

オリビアは自らの信念を曲げたくなかった。彼女の剣は、無辜の民を守るためのものであり、戦争の道具ではない。しかし、現実は厳しく、彼女はこのまま進むほかに道がなかった。

鷲王との遭遇

山岳地帯を進む一行の前に、突如として巨大な影が現れた。それは、この地域で最強とされる怪物、鷲王であった。オリビアは、すぐに全員に伏せるよう命じた。

鷲王は、龍種にも匹敵する巨大な猛禽であり、空からの襲撃は避けることが難しかった。隊列を組んで防御を固めることはできても、それだけで生き残れる保証はなかった。亮真は状況を確認し、オリビアの意見を求めた。オリビアも答えに窮した。逃げるには地形が悪く、隠れる場所もない。唯一の手段は、迎え撃つことだけだった。

囮役の決断

囮を立てて本隊を撤退させる案が最も現実的であったが、その役目を誰が担うのかが問題だった。エルネスグーラ王国の騎士団は、まだ亮真に対する忠誠を完全には確立しておらず、無理に命じれば反乱の危険があった。また、オリビアたちに囮を任せるのも非現実的であった。

亮真がその役を自ら引き受けようとしたが、それを制したのはローラとサーラであった。彼女たちは亮真の側近として、彼の代わりに囮を務めることを申し出た。亮真は彼女たちの決意を受け入れ、計画を実行に移した。

鷲王との戦い

亮真は囮となり、ローラとサーラが文法術で攻撃の準備を整えた。二人の詠唱と共に、巨大な風の渦が発生し、鷲王を包み込んだ。その竜巻はすべてを切り裂き、鷲王の体を粉砕していった。

鷲王は絶叫を上げながら地へと墜落し、その巨体が大地に沈んだ。ローラが亮真に止めを刺すよう促し、彼は鬼哭を構えた。戦いの決着は、まもなくつけられようとしていた。

第三章  第二の難関

ノティス平原への到達

亮真はノティス平原を見下ろす高台で深いため息をついた。メンフィスから出発し、三週間に及ぶ過酷な行軍の末、彼らはようやくこの地点に到達したのである。山岳地帯を越えながら、オルトメア帝国の警戒を避けるため慎重に移動し、エルネスグーラの騎士団は多くの犠牲を払った。

この作戦のモデルは、ハンニバル・バルカのアルプス越えであった。亮真の率いる軍は、怪物が犇く秘境を踏破し、敵領内へと進軍するという無謀ともいえる計画を実行した。危険を乗り越えた今、彼の胸には確かな手応えがあった。

鷲王を撃退し、冒険者たちを無事に送り出したことで、亮真への信頼は確固たるものとなった。エルネスグーラの騎士たちの態度も軟化し、彼の指揮の下で動くことに疑問を持つ者は減少していた。

作戦の最終確認

サーラの報告を受け、亮真は咲夜の待つ天幕へと向かった。咲夜は事前の調査どおり、ノティス砦の防衛は鉄壁であり、数万の兵力がなければ力攻めは不可能であると報告した。三重の城壁と水堀を備えたこの砦を真正面から攻略するのは無謀であった。

砦には守備隊長グレッグ・ムーアが駐屯しており、シャルディナの軍団再編成の影響を受けながらも、その防御力は健在であった。亮真はこの報告を受け、当初の作戦どおりに進める決断を下した。全軍がその指示を受け、緊張感が天幕内に広がった。

村々の焼き討ち

ノティス砦攻略のため、亮真は周辺の村々を襲撃し、物資を略奪する作戦を実行した。これは戦術の一環であり、敵の補給路を断つための不可避な行動であった。しかし、その現場に立ち会うサーラの顔には影が差していた。

村人たちは広場に集められ、家を焼かれながらも命だけは助けられた。亮真は不必要な殺戮を避ける方針を示していたが、彼が直接管理できない別動隊では過激な行動が行われている可能性があった。敵国の民に対する憎しみが暴走するのは避けられない問題だった。

そんな中、後方の警戒に当たっていた伊賀崎衆が敵影を察知した。グレッグ・ムーアが動いたのである。亮真はすぐさま撤退を命じた。敵を罠に誘い込むための計画が、着実に進行していた。

決戦の時

数日後、亮真の軍はノティス砦を目前に控えていた。砦は堅牢であり、内部には数千の兵が駐屯していた。しかし、亮真はこの防御を突破するための準備を整えていた。

彼の計画は正面突破ではなく、別の手段による攻略であった。エレナの守るウシャス砦が持ち堪えている間に、ノティス砦の補給線を断ち、敵を消耗させることが目的であった。

そんな中、砦への入城が許可されたとの報告が届いた。亮真は背後の軍勢を振り返り、準備の最終確認を行った。彼の内心には不安と興奮が入り混じっていた。しかし、ここで迷うわけにはいかなかった。

グレッグ・ムーアの焦燥

一方、ノティス砦では守備隊長グレッグ・ムーアが報告を受けていた。オルトメア帝国の補給部隊が到着し、護衛兵も増強されている。しかし、ムーアはこの補給部隊の動きを不審に思っていた。

彼はジョシュア・ベルハレスの奇襲を警戒し、慎重に行動するよう指示を出した。ウシャス砦への総攻撃が近づいており、それを支えるためにも補給線の維持が重要だった。しかし、砦の兵力が一時的に減少することに不安を感じていた。

ノティス砦周辺では野盗の襲撃が相次いでいた。ムーアはこれを放置すれば、帝国内部の統制が崩れると危惧していた。彼は国内の治安維持を重要視していたが、今は戦局を最優先するしかなかった。

ムーアはシャルディナの成功を祈りながら、窓の外に広がる夜空を見上げた。しかし、その背後には忍び寄る影があった。彼の知らぬ間に、戦局はすでに亮真の手のひらの上で転がり始めていたのである。

ムーアの不安と警戒

ムーアはノティス砦の中央塔にある寝室のベッドに横たわっていた。しかし、どれだけ寝返りを打っても眠ることができなかった。彼の中で何かが蠢き、漠然とした不安が胸を締めつけていた。戦場での経験から、眠れるときに眠り、危機には即座に覚醒することが重要だと知っていたが、この夜ばかりは眠ることができなかった。

彼は冷たい水を飲み、気持ちを落ち着けようとした。しかし、違和感は消えなかった。それはまるで戦場で夜襲を受ける直前の感覚に似ていた。ノティス砦は強固な要塞であり、シャルディナの遠征軍が敗れない限り、ザルーダ王国側からの攻撃は考えにくい。だが、彼の勘は警鐘を鳴らしていた。

ムーアは自らの直感を信じ、壁に立てかけた愛用の大剣を握りしめた。その剣は、数多の戦場を共に生き抜いてきた自身の分身とも言える存在だった。そして、その勘は決して間違っていなかった。今まさに、彼の背後には飢えた狼の群れが忍び寄っていたのである。

ノティス砦への侵入

砦の中庭には無数の人影が蠢いていた。砦の倉庫へと運び込まれなかった荷馬車の山が、夜の闇に紛れて静かに待機していた。これは亮真の計画通りであった。夜半に到着するように調整し、警戒が緩む時間帯を狙ったのである。

オルトメア帝国の鎧をまとったエルネスグーラの騎士たちは、荷車の間から次々と砦の内部へと侵入した。彼らの手には大量の油が握られていた。如何に堅牢な石造りの砦であろうと、一度内部から火が放たれれば、延焼は避けられない。

亮真は静かに口元を歪めた。そして、ゆっくりと手を振る。その合図とともに、侵入部隊が一斉に動き出した。敵陣の混乱を誘うための計画が、着実に実行されていたのである。

ノティス砦の混乱

砦の各所から炎が上がり、煙が空を覆い始めた。兵士たちは混乱し、怒号が飛び交った。消火活動に追われる者、敵襲を叫ぶ者、指揮官の指示を求める者が入り乱れ、砦内は大混乱に陥った。

その隙を突き、亮真はサーラとローラに命じた。彼女たちはそれぞれ五百の兵を率い、砦の物資倉庫を重点的に燃やす指示を受けた。砦の混乱が極限に達した今、守備兵の対応は大幅に遅れるだろう。

そして、亮真自身も動き出した。鬼哭を抜き放ち、兵士たちに叫んだ。彼らは雄叫びを上げ、砦内の敵兵に襲いかかった。捕虜を取るつもりはなく、全員を殲滅する覚悟であった。

ムーアの危機

中央塔では、ムーアがすでに甲冑を纏い、臨戦態勢を整えていた。火災の報告を受け、彼はすぐさま事態の異常さに気づいた。敵の襲撃であると直感し、即座に行動を開始した。

ムーアは兵士を引き連れ、砦の中庭へと向かった。しかし、彼の前には無数の兵士が立ちはだかった。副官が彼らに名を名乗るよう要求したが、兵士たちは応じなかった。ムーアはその場の異様な空気に鋭く反応し、警戒を強めた。

しかし、副官がその中の一人へと近づいた瞬間、男は迷いなく剣を振り下ろした。副官の腹を深々と貫き、彼はその場に崩れ落ちた。鮮血が広がり、ムーアの周囲の兵士たちが動揺する。

ムーアはその男を見据え、低い声で問いかけた。そして、男は兜を取り、満面の笑みを浮かべながら名乗った。

「御子柴亮真」

その屈託のない笑顔が、ムーアにはこの上なく恐ろしいものに映った。彼は、己の前に立つこの男が、人の姿をした何か別の存在であるように感じていた。

第四章  収穫の時

中央塔の対峙

中央塔の大広間にて、ムーアと御子柴亮真が対峙していた。周囲の騎士たちは互いを取り囲み、緊張の中で鎧の擦れ合う音が響いていた。ムーアは目の前の男の名前に聞き覚えがあった。シャルディナの副官・斉藤との会話を思い出し、彼こそが帝国の首席宮廷法術師ガイエスを討った異世界人だと悟る。

亮真の表情は穏やかで人懐っこい笑みを浮かべていたが、その瞳の奥に潜む敵意と冷徹な知略をムーアは感じ取った。慎重かつ抜け目のない策士が、自ら戦場の前線に立つことに違和感を抱きながらも、ムーアは側近へと目配せし、書庫の封印を優先するよう指示を出した。

帝国の敵、御子柴亮真

オルトメア帝国にとって、亮真はまさに仇敵であった。ガイエスの死を事故として処理した帝国は、なんとか面子を保っていたが、真相は帝国に関わる者なら誰もが知るところだった。その犯人が目の前に立っている事実は、帝国の騎士たちの心に複雑な感情を呼び起こしていた。

ムーアの目には、周囲の兵たちが亮真に呑まれていく様子が映っていた。帝国の危機を生んだ張本人でありながら、その才覚と実績は敵味方を問わず評価されるものであった。特に武人として、彼の行動力と胆力は認めざるを得ないものだった。

戦略と策謀

亮真の策略は、ただの戦術ではなかった。帝国の兵力を削ぐために周辺の町や村を襲わせ、ノティス砦の防衛が薄くなるよう計算していた。そして、敵の警戒が緩んだ隙をついて一気に砦を制圧しようとしていたのだ。

ムーアは亮真の意図を読み解きながら、彼がザルーダとエルネスグーラの国境をどう越えたのかを考えた。通常の街道は厳重に監視されている。しかし、山岳や密林といった辺境を通れば、監視の目を逃れることが可能だった。だが、それを軍規模で実行するには極めて高い能力と知識が必要であった。

亮真は、ザルーダ王国の私兵団・紅月団を利用してその道を切り開いた。彼らの土地勘と残忍な戦術を駆使し、オルトメア領内に侵入していたのである。ムーアはその冷徹な判断力に戦慄を覚えた。

ムーアの決断

ムーアは逃走という選択肢を捨て、戦うことを決意した。彼は一騎打ちを提案し、亮真がこれを受けるであろうと確信していた。亮真が前線に立つこと自体が、すでにこの申し出を受ける意志の表れだったからだ。

戦意を高めたムーアは、大剣に己の生気を込め、水刃を飛ばす技を繰り出した。しかし、亮真はそれを見切り、最小限の動きで防ぎ続けた。さらに、亮真の戦闘スタイルは剛と柔を組み合わせた独特のものだった。剛力を誇るムーアに対し、亮真は脱力と巧妙な間合い管理を駆使して応戦した。

決着の瞬間

ムーアは最終手段として、武法術の最高位・第四のチャクラを解放した。圧倒的な速度で間合いを詰め、一瞬で決着をつけるべく突きを繰り出した。しかし、その一撃は亮真によって受け流され、逆に首筋を裂かれた。

ムーアは信じられない思いで自らの傷を見下ろした。亮真は武法術を使えないはずだった。だが、彼の動きは常識を覆していた。最後の意識の中で、ムーアはシャルディナに対する謝罪の言葉を呟き、力尽きた。

御子柴亮真は、オルトメア帝国にとって最大の脅威となる存在であることを、この戦いで証明したのであった。

第五章  表裏

ユリアヌスの執務室での対話

ユリアヌス一世は、オルトメア帝国の使者として訪れた須藤を前にし、余裕の表情を浮かべていた。ノティス砦の陥落により、オルトメア軍の補給路は断たれ、数万の兵が孤立する事態となっていた。ユリアヌスは勝者としての優越感を隠さず、皮肉を交えながら須藤に問いかけた。しかし、須藤は冷静な態度を崩さず、降伏勧告ではなく、和睦交渉のために来たことを告げた。この言葉に対し、ユリアヌスの側近であるグラハルトは殺気を放つが、須藤は動じることなく交渉の意図を説明し始めた。

和睦交渉の開始

須藤は、ザルーダ王国が自国の立場を誤認していることを指摘し、戦の終結には勝利・敗北・和睦の三つの選択肢しかないと説いた。ユリアヌスは戦況の有利さを主張するが、須藤はオルトメア軍が補給を絶たれても、すぐに滅びるわけではないことを示唆し、戦争を終わらせるための交渉が不可避であると主張した。ユリアヌスは一時的に言葉を詰まらせるが、次第に須藤の意図を理解し始め、和睦交渉を受け入れる決断を下した。

和睦成立と王都の歓喜

ザルーダ王国とオルトメア帝国の停戦が成立し、国中で歓喜の声が上がった。王都ペリフェリアでは民衆が集まり、戦の終結を祝う声が響いた。しかし、国王ユリアヌスは執務室で沈痛な表情を浮かべ、停戦が本当に正しい決断だったのかをグラハルトに問いかけた。グラハルトは「時を稼ぐためには必要な決断だった」と述べ、ユリアヌスはそれに同意するしかなかった。

亮真の冷静な観察

一方、御子柴亮真は城下町の盛り上がりを冷ややかな目で見つめていた。ザルーダ王国が停戦を勝利のように受け止めていることに違和感を覚え、オルトメア帝国が本気で和平を望んでいるわけではないと見抜いていた。亮真は、この停戦が時間稼ぎに過ぎず、数年以内にオルトメアが再び攻め込んでくると予測した。彼の目的は既に達成されており、これ以上この戦に関わることは利益にならないと判断した。

エレナと亮真の対話

エレナは亮真と共に停戦後の今後について話し合った。彼女はミスト王国の増援が見込めないことを憂い、ザルーダ王国の国力回復のために早急に手を打つ必要があると考えていた。亮真は戦の再開を避けられないと見ており、ザルーダ王国の未来はユリアヌスの手腕にかかっていると述べた。また、エレナは側近であるクリスが今回の停戦に激怒していることを亮真に打ち明けた。亮真は、クリスがこれまでの不遇な扱いから自己の評価に執着していると分析し、彼の視野の狭さを指摘した。

聖都メネスティアの動向

一方、ザルーダ王国とオルトメア帝国の停戦を受け、聖都メネスティアでは光神教団の最高指導者が情報を分析していた。彼はオルトメアの停戦が単なる戦略の一環であり、真の和平ではないことを即座に見抜いた。また、戦争によって利益を得ている商会の動向にも注目し、それらの勢力を利用する策を練り始めた。教団の指導者は、戦争が長引くほど利益を得る者たちが存在し、それが停戦の裏にある真の目的であると理解していた。

戦の本質と今後の展望

ザルーダ王国の停戦決定は一時的な安定をもたらしたものの、オルトメア帝国が本気で和平を望んでいるわけではなく、再び侵攻の機会を伺っていることは明白だった。亮真はこの状況を見極め、これ以上関与しないことを選択したが、エレナやユリアヌスはそれぞれの立場で国の未来を憂いていた。戦争が完全に終わることはなく、ザルーダ王国の運命は依然として不透明なままであった。

エピローグ

旧友の再会と複雑な事情

レンテンシアの郊外に佇む屋敷の一室で、御子柴浩一郎と劉大人は旧交を温めていた。浩一郎が地球から帰還したことで、彼の身内が次々と大地世界へ召喚されている事実が判明し、劉大人はその異常な因果関係に思いを巡らせた。召喚術が極めて限定的であるにもかかわらず、浩一郎の身近な者ばかりが呼ばれる現象は、単なる偶然とは言えなかった。浩一郎は状況を「呪い」と評し、劉大人もそれに同意せざるを得なかった。

飛鳥の救出計画

浩一郎は、まず姪の桐生飛鳥を助け出すことを決意した。息子夫婦は召喚から二十年が経過し、所在も不明であるため、今さら手を打つことは難しい。孫の亮真は浩一郎が全てを叩き込んでいるため、問題はないと判断した。一方で、飛鳥は普通の高校生であり、大地世界で生き抜く力を持たないため、最優先で救出すべき対象となった。

飛鳥の居場所と障害

調査の結果、飛鳥は聖都メネスティアの第一城郭内にいることが判明した。しかも、彼女は光神教団の十の正規騎士団の一つを率いるロドニー・マッケンナの庇護下にあった。さらに、ロドニーの異母兄妹であるメネア・ノールバーグも関与しており、両者は組織が過去に痛い目に遭わされた強敵であった。劉大人は彼らの実力を、組織の最強部隊である【猟犬】の部隊長・鄭と同等かそれ以上と評価した。飛鳥を助け出すには、光神教団と全面戦争を覚悟する必要があったが、それは大陸全土を戦火に巻き込む危険を伴うため、浩一郎はこの手段を選べなかった。

意外な突破口

劉大人は、飛鳥を救出するには彼女が聖都を出る機会を待つしかないと述べた。しかし、近いうちにその機会が訪れる可能性があるという情報をもたらした。浩一郎が詳細を問うと、劉大人はもう一つの重要な報告を渡した。それは、ザルーダ王国の戦況と、ローゼリア王国から派遣された援軍の中に御子柴亮真の名があったことを示す報告書であった。さらに、亮真はオルトメア帝国の首席宮廷法術師を討ち取り、組織の計画を幾度となく妨害していた存在であることも明らかになった。

光神教団の動きと飛鳥の関与

御子柴亮真の活躍は光神教団の上層部を動かし、ローゼリア王国へ法王の側近であるローランド枢機卿が派遣されることとなった。その護衛を務めるのは光神教団の精鋭であり、飛鳥もその一員として同行する可能性が高かった。浩一郎はこの情報を聞くと、不敵な笑みを浮かべた。彼の目的である飛鳥の救出に向け、ようやく具体的な機会が訪れようとしていたのである。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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