どんな本?
『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』は、近未来を舞台としたSFクライムドラマである。ウイルス性脳炎の流行を機に開発された脳内情報端末「ユア・フォルマ」は、人々の視覚、聴覚、感情などを記録するデバイスとして日常生活に浸透している。主人公のエチカ・ヒエダは、この「ユア・フォルマ」に蓄積された記憶データ「機憶」にダイブし、事件解決の手がかりを探る電索官である。彼女は高い電索能力を持つが、その強大な力ゆえに相棒となる補助官の脳に負担をかけ、次々と病院送りにしてしまう問題を抱えていた。そんな彼女に新たに与えられた相棒は、ヒト型ロボット「アミクス」のハロルド・ルークラフトであった。人間嫌いで機械を嫌うエチカと、人間を敬愛するようプログラムされたハロルドは、対照的な性格ながらもバディを組み、世界を襲う電子犯罪に立ち向かう。
主要キャラクター
• エチカ・ヒエダ:主人公であり、電索官として「ユア・フォルマ」に蓄積された「機憶」にダイブし、事件解決の手がかりを探る。高い電索能力を持つが、その強大な力ゆえに相棒となる補助官の脳に負担をかけ、次々と病院送りにしてしまう問題を抱えている。
• ハロルド・ルークラフト:エチカの新たな相棒として配属されたヒト型ロボット「アミクス」。人間を敬愛するようプログラムされており、エチカとのコンビで電子犯罪に立ち向かう。
物語の特徴
本作は、脳内情報端末「ユア・フォルマ」を中心とした近未来の世界観と、電索官エチカとアミクスのハロルドという対照的なバディの関係性が魅力である。人間とロボットの共存や、記憶のデジタル化によるプライバシーの問題など、現代社会にも通じるテーマを含み、読者に深い考察を促す。また、エチカとハロルドの掛け合いや、事件解決に向けた緊張感ある展開が、物語を一層引き立てている。
出版情報
• 著者:菊石まれほ
• イラスト:花ヶ田
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:電撃文庫
• 発売日:2021年3月10日
• ISBN:978-4049136861
本作は第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作である。
読んだ本のタイトル
ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒
著者:菊石まれほ 氏
イラスト:花ヶ田 氏
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
★第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作!!★
最強の凸凹バディが贈る、SFクライムドラマが堂々開幕!!
脳の縫い糸〈ユア・フォルマ〉――ウイルス性脳炎の流行から人々を救った医療技術は、日常に不可欠な情報端末へと進化をとげた。
縫い糸は全てを記録する。見たもの、聴いたこと、そして感情までも。そんな記録にダイブし、重大事件解決の糸口を探るのが、電索官・エチカの仕事だ。
電索能力が釣り合わない同僚の脳を焼き切っては、病院送りにしてばかりのエチカにあてがわれた新しい相棒ハロルドは、ヒト型ロボット〈アミクス〉だった。
過去のトラウマからアミクスを嫌うエチカと、構わず距離を詰めるハロルド。稀代の凸凹バディが、世界を襲う電子犯罪に挑む!
第27回電撃大賞《大賞》受賞のバディクライムドラマ、堂々開幕!!
感想
主な出来事は以下の通り。
序章 – 吹雪
• 感染調査の開始: エチカとベンノはブルビエガレ病院で新種ウイルスの感染経路を調査し、「ユア・フォルマ」による記憶接続を試みた。
• 感染者の記憶潜入: 感染者オジェの記憶にアクセスしたが、有力な感染経路の手がかりは得られなかった。
• 相棒の故障: 潜入中、ベンノが意識を失い、医師からエチカの過去の問題行動を非難された。
• 使命の再確認: エチカは非難に動じず、電索官としての使命を再確認し次の捜査へ進んだ。
第一章 – 機械仕掛けの相棒
• 新たな相棒の到着: エチカは空港で新しい補助官ハロルド(アミクス型ロボット)と出会い、その存在に懐疑的であった。
• 吹雪ウイルスの調査: 吹雪の幻覚を引き起こすウイルスの感染者12人の記憶を分析し、感染源クラーラ・リーを特定した。
• 葛藤と成果: ハロルドの耐久性と能力を認めながらも、彼がアミクスであることに対する葛藤を抱えた。
第二章 – 散らばったままのキャンディ
• 感染源の追跡: クラーラ・リーがカウトケイノへ向かい、彼女の行動を追跡することを決定した。
• 捜査中の対立: リーの匿われた可能性を持つ女性ビガを発見し、エチカとハロルドの推論が衝突した。
• リーの確保: 追跡の末、リーを低体温症状態で発見し、ユア・フォルマへの接続で手がかりを得た。
第三章 – 記憶と機憶、その軛
• 新たな手がかり: 感染経路がリグシティの見学ツアーに関連している可能性が浮上した。
• ハロルドとの信頼の再構築: ハロルドの自己犠牲に動揺しつつ、エチカは彼との信頼関係を再構築した。
• マトイの秘密: エチカが父の遺した教育システム「マトイ」を守るために抱えていた秘密が明らかになった。
第四章 – 証明は、痛みと共に
• 逃走と覚醒: 電索による潔白の証明を拒み逃走したエチカは、追い詰められる中でビガとハロルドに救われた。
• 真犯人の対決: 知覚犯罪の首謀者テイラーを逮捕するため、エチカとハロルドが計画を実行した。
• スティーブの乱入: 敬愛規律を逸脱したスティーブが場を混乱させるも、最終的にテイラーを逮捕した。
終章 – 雪融け
• 辞職と新たな旅立ち: エチカは電索官を辞職し、自分を見つめ直す決意を固めた。
• 再会と再始動: トトキ課長の策略によりハロルドと再会し、エチカは再び電索官として歩むことを選んだ。
• 新たな挑戦: エチカとハロルドは再び相棒として握手を交わし、事件解決へ向けて動き出した。
治安の悪い”RD 潜脳調査室”みたいな物語。
この物語は、情報技術が日常生活に浸透した退廃的な社会を舞台に、複雑な人間模様と機械との関係を描いている。エチカの鋭い洞察力と、彼女が抱える孤独が捜査の過程で鮮明に浮かび上がる。また、ハロルドという機械仕掛けの相棒が、単なる道具ではなく、感情を持つ存在として描かれている点が印象深い。
事件を追う中で、エチカが冷徹さの裏にある本当の感情と向き合い始める場面は特に心を打たれる。彼女が嫌悪していたはずのハロルドに、次第に助けられ支え合う関係を築いていく姿が感慨深い。ハロルドの冷静さと高い能力が際立つ一方で、彼の過去が捜査に影を落とし、今後の展開への期待を膨らませた。
特に、物語終盤で明らかになる「人間と機械の境界」に焦点を当てたテーマは深く考えさせられる。エチカの葛藤や、彼女が抱える過去のトラウマがリアルに描かれ、読者として共感する場面が多かった。次巻では、さらに二人の関係や未解決の課題がどう進展するのかを見届けたいと思う。
全体的に、独特な世界観と感情を揺さぶる展開が魅力的な一冊である。バディものとしての王道の良さを持ちながらも、近未来SFの設定が新鮮であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
Bookliveで購入BOOK☆WALKERで購入(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
備忘録
序章 吹雪
病院での会話と捜査の開始
パリ市内のブルビエガレ病院では、エチカ・ヒエダと同僚のベンノ・クレーマンが感染源の調査に当たっていた。二人は医師との会話を通じ、新種ウイルスの感染経路を探るため、感染者の「ユア・フォルマ」に接続する準備を進めていた。エチカは強い電索能力を持ちながらも、その力が原因で相棒との関係に困難を抱えていた。
感染者の記憶への潜入
エチカは感染源である青年トマ・オジェの表層機憶に潜入した。リュクサンブール公園での朝食や最新技術への興味が記録されていたが、感染経路を示す手がかりは見つからなかった。エチカはさらに深い記憶へ潜ろうとしたが、補助官であるベンノの能力が限界を迎え、接続が中断された。
相棒の故障と医師との対立
接続中断後、ベンノは意識を失い、医師からの非難がエチカに向けられた。医師は彼女が過去にも複数の相棒を病院送りにしてきた事実を指摘したが、エチカは冷静に応じるのみであった。自らの高い能力ゆえに、相棒との不均衡が常に問題となる状況を受け入れていた。
電索官としての使命
病室を後にしたエチカは、ユア・フォルマを通じて事件解決の糸口を探すことこそが自身の使命であると再確認していた。相棒との困難や周囲の非難に動じることなく、彼女は次なる捜査に向けて歩みを進めていた。
第一章 機械仕掛けの相棒
空港での待機と新たな事実の発覚
エチカはロシア北西のプルコヴォ空港で同僚ベンノを待っていたが、彼が現れることはなかった。ベンノから送られたメッセージにより、彼とのパートナー関係が解消されたこと、さらに新しい補助官が派遣されることが判明した。エチカは次第に苛立ちと不安を覚えながらも、待機を続けた。
新たなパートナーとの出会い
迎えに来たのは、アミクスと呼ばれるヒューマノイド型のロボットだった。彼の名前はハロルド・ルークラフトで、エチカの新しい補助官として紹介された。アミクスが補助官を務めるのは異例のことであり、エチカは彼の能力と存在に懐疑的な態度を崩さなかった。
ユニオン・ケアセンターでの捜査準備
目的地であるユニオン・ケアセンターに到着後、エチカとハロルドは新種のウイルスによる感染者たちの調査に入った。このウイルスは共通して「吹雪の幻覚」を引き起こし、感染者に低体温症をもたらしていた。エチカは十二人の感染者の記憶を並列処理する準備を進め、ハロルドが用意した特注の接続コードを用いて作業を開始した。
電索作業と驚くべき成果
エチカは感染者たちの表層機憶に潜り、ネットワーク上の行動履歴や感情の記録を分析した。途中で自身の過去の記憶が逆流し、一時的に動揺する場面もあったが、冷静さを取り戻し、感染源であるクラーラ・リーの存在を突き止めた。作業終了後、ハロルドは疲弊することなく立っており、その異例の耐久性がエチカを驚かせた。
新たな希望と葛藤
エチカは、これまでの経験とは異なり、自分の能力に釣り合う補助官としてハロルドが適していると認識した。しかし、その補助官が大嫌いなアミクスであるという現実に、彼女は強い葛藤を抱えていた。感染源を特定するという成果を挙げながらも、心の中には複雑な感情が渦巻いていた。
感染源の失踪と疑惑
感染源クラーラ・リーはバレエアカデミーを休み、行方をくらませていた。祖父の葬式を理由にした休みの申請は虚偽であり、監視ドローンの記録から、リーがシェアカーでカウトケイノへ向かったことが判明した。彼女の行動に関する動機は不明だったが、ユア・フォルマの信号が途絶えているため、エチカとハロルドは足取りを追うため現地へ向かうこととなった。
道中での手がかり
移動中、ハロルドはリーのSNSを調査し、サーミ文化に関連する情報を見つけた。リーがカウトケイノで機械否定派に接触した可能性を示唆する中、エチカはバイオハッカーとの関連性を指摘された。バイオハッキングによる身体改造がバレエの技術向上に繋がったと仮定されるが、確証は得られなかった。
リーを匿う可能性
カウトケイノ到着後、エチカとハロルドはスーパーマーケットを張り込み、リーを匿っている可能性のある若い女性を発見した。ハロルドは彼女の行動や持ち物、伝統的なサーミのブレスレットからバイオハッカーである可能性を指摘し、リーとの接触が示唆された。
推測の衝突と答え合わせへの準備
エチカはハロルドの推論に懐疑的であり、異なる可能性を挙げて反論したが、説得力のある証拠に乏しかった。ハロルドの冷静な観察と推論は的を射ているように見え、エチカは複雑な心情を抱えつつも、女性との接触を決意した。ハロルドの余裕ある態度と気遣いに対し、エチカは反感を覚えつつも無視することはできなかった。
降雪と訪問先の家
エチカたちはニーヴァを降り、雪の降り始めた中で目的地にたどり着いた。訪問先の家は古びたロッジのような外観で、玄関をノックすると若い女性ビガが現れた。エチカが身分証明を示し捜査の協力を求めると、彼女は戸惑いながらも家に招き入れた。リビングはカントリー風の内装で、サーミ文化を感じさせる装飾品が並んでいた。
ビガの背景と会話
ビガは自分の名前や家族について語り、父がトナカイの牧畜を営んでいることを説明した。彼女の話から、地域の生活が技術制限区域の影響を受けていることが明らかとなった。会話の中でビガは、エチカの質問に困惑を見せつつも応じていた。ハロルドは彼女の緊張を和らげるために、サーミ文化についての知識を披露した。
ビガの動揺と捜査の推進
ビガが一時的に部屋を離れると、ハロルドは彼女の反応や行動に基づき、リーを匿っている可能性を指摘した。エチカは疑念を抱きつつも、彼の観察力を信じて裏口に向かう。裏庭にて、積雪のないスノーモービルを発見したエチカは、その直後にビガとは異なる人物が現れるのを目撃した。
逃走と追跡
現れた人物がリーであると確認したエチカは、逃走を図る彼女を追跡した。スノーモービルでの逃走を試みるリーに対し、エチカとハロルドはジープで追いかけた。最終的にリーは転倒し、意識を失った状態で発見された。
リーの状態と電索の決断
リーの身体は極度の低体温症に陥り、頭部に負傷を負っていた。ハロルドは彼女の命を守ることを主張したが、エチカは捜査のために彼女のユア・フォルマへ接続する必要性を説いた。両者の葛藤の末、電索が実施され、リーの機憶から重要な手がかりが得られた。彼女が訪れたリグシティが、感染源の共通点として浮上したのである。
救急車と捜査の進展
リーを乗せた救急車が極夜の雪原を去っていった。彼女は低体温症が悪化し意識を失った際に頭部を強打し、脳挫傷の可能性があると簡易診断AIが判断していた。命に別状はないものの、ユア・フォルマを通じた治療は不可能である。エチカは、リーとパリの感染源オジェが「リグシティの見学ツアー」に参加していた点に着目し、感染源の共通項として報告することを提案した。
ハロルドの反応と観察眼
ハロルドは進展よりもリーの負傷を気にかけ、倫理的な態度を見せていた。その姿勢に苛立ちながらも、エチカは彼の観察力に疑問を投げかけた。ハロルドは、過去に優秀な刑事から指導を受けた結果だと説明し、自らを現代のシャーロック・ホームズになぞらえた。
エチカとハロルドの対立
エチカは互いの不仲がむしろ捜査に良い影響を及ぼすと主張したが、ハロルドはため息をつくだけであった。さらにハロルドはエチカに対し、彼が感情を押し隠そうとしていると指摘した。エチカはその言葉を否定し、ビガの元に戻るためジープの運転を引き受けた。
車内の静寂と葛藤
エチカはハロルドの優しさを拒み、ジープを無理やり運転することで感情を振り払おうとした。ハロルドは物言いたげな様子だったが、結局助手席に座った。冷え切った車内で、エチカは自分の行動をただ「やるべき仕事」として正当化し、アミクスであるハロルドに心を見透かされることを拒んでいた。
第二章 散らばったままのキャンディ
父親との初対面と新生活の始まり
エチカは五歳の春、父親の元を訪れた。玄関先で初めて再会した父は、エチカに冷静な態度で接し、「父さんの機械でいなさい」と約束を求めた。家の中では、アミクスであるスミカが彼女の面倒を見ることを告げられた。さらに、父から姉ができると聞き、エチカの新生活への不安が少し和らいだ。
リグシティへの捜査開始
ペテルブルクでの捜査を経て、リグシティの見学ツアーが感染源の共通点である可能性が高まった。これを受け、エチカとハロルドはカリフォルニアのリグシティ本社に向かった。ハロルドは貨物室同然の移動に不満を漏らしていたが、エチカはその態度に困惑しつつも捜査への集中を保った。
リグシティ到着と迎え入れ
リグシティ本社に到着すると、アミクスであるアンが二人を出迎えた。施設内は広大で、社員たちはリラックスした様子で働いていた。アンはアミクスへの好意的な態度が一般的であることを語り、カリフォルニアの進んだ社会観を示していた。
電索による捜査とソークという存在
電索に協力した四人の社員の機憶を探った結果、感染源と共に行動していたロシア系社員ソークが浮かび上がった。彼に対する四人の感情には、表向きの友好的な態度と裏腹に強い嫌悪が混じっていた。見学ツアーの機憶には特筆すべき異常がなかったが、エチカはソークの存在に疑問を抱き、詳細を調べるようハロルドに指示した。
エチカの動揺とリグシティへの思い
電索中、エチカは「マトイ」という言葉に動揺し、過去の記憶が蘇った。捜査には手がかりが見つからず、焦燥感を抱えながらも次の行動へ移った。エチカはリグシティの存在自体に負の感情を抱いており、そこに来たくなかった理由が明らかになりつつあった。
ラウンジでの待機
エチカは、仮眠室を出た後ラウンジで待機していた。電子煙草を吸いながら気を落ち着けていたが、電索での動揺が尾を引いていた。そこに現れたスティーブというアミクスが、彼女を相談役のもとへ案内した。
ハロルドと同型モデルのスティーブ
スティーブはハロルドと同じ外見を持つアミクスであったが、その性格は無愛想で冷淡だった。彼はハロルドと過去に一緒に働いた経験があると話し、エチカを驚かせた。エレベーター内での会話では、スティーブとハロルドの正反対な性格が際立った。
相談役との対面
スティーブの案内で到着したのは、亜熱帯植物が茂る温室のような部屋だった。そこでエチカを待っていたのは、ユア・フォルマの開発者イライアス・テイラーであった。彼はホログラムとして登場し、エチカの父親、チカサト・ヒエダに関する話を始めた。
父の過去と「マトイ」の失敗
テイラーは、エチカの父が「マトイ」という全世代型情操教育システムの開発に人生を捧げていたが、その失敗が彼を自殺に追い込んだと語った。この話題はエチカに重い感情を呼び起こし、彼女は苛立ちを隠せなかった。
ウイルスの解析結果と捜査報告
エチカはテイラーからウイルスの解析結果と社員のパーソナルデータを受け取った。ウイルスは視床下部に干渉し、幻覚と低体温症を引き起こすという仕組みが明らかになったが、具体的な犯人像は浮かび上がらなかった。
ソークの存在への違和感
捜査終了後、エチカとハロルドは課長に報告を行った。エチカは感染源と接触した社員の中にいたソークという人物の機憶に違和感を覚え、彼の行動履歴を優先的に調べるよう依頼した。
ハロルドとの会話と優しさ
エチカはタクシーを待つ間、ハロルドにスティーブの話を振り、二人の違いに言及した。ハロルドは彼女に親切心からチョコレートを渡そうとし、その無邪気な行動にエチカは複雑な感情を抱いた。彼女はアミクスの優しさをプログラムとして割り切ろうとしたが、その温かさに苛立ちと戸惑いを感じていた。
ハロルドからのメッセで始まる休日の騒動
エチカは休日の朝、ハロルドからのメッセージで目を覚ました。ビガとのデートを理由に彼女を呼び出したのだが、それは冗談であり、実際はビガの民間協力者契約の立会いが目的であった。エチカは不機嫌ながらも地下鉄で指定の場所へ向かった。
ミハイロフスキー公園での契約
ビガは公園で待っていたが、彼女の前には浮浪アミクスが立っていた。二人のアミクスは物乞いをしていたが、エチカとハロルドの接近に気付き立ち去った。ビガは浮浪アミクスを初めて目にし、人間と見間違えたほどであった。公園内でビガはリーの状況や自身の決断について語り、民間協力者契約にサインした。
エルミタージュ美術館での観光
ビガの希望で一行はエルミタージュ美術館を訪れた。ビガとハロルドは芸術について熱心に話し、エチカはその様子に興味を示さず、離れようとしたがハロルドに引き止められた。展示品の中で「うずくまる少年」に目を留めたエチカは、自分の気持ちを表現する彫刻のようだと感じた。
ネフスキー大通りでの買い物
美術館を出た後、三人はネフスキー大通りへ向かった。ビガは家族への土産を買うために土産物店に入り、ハロルドは手品を披露して彼女を楽しませた。エチカは店の外で待ちながら、二人の楽しそうな様子を見て胸がチクリとした。彼女は、かつて姉と過ごした日々を思い出し、どこか物寂しい感情に襲われていた。
初めて迎える父の誕生日
エチカは父の誕生日に向けて、姉と共に駄菓子屋を訪れた。父に喜んでもらおうと、青いキャンディをプレゼントに選んだ。父が青を好むことを観察していたエチカは、それを基に選択したが、父との約束を破って外出したため、胸中に不安を抱えていた。
書斎での拒絶
家に帰ったエチカは、書斎で仕事に没頭する父にキャンディを渡そうとした。しかし、父はエチカを拒絶し、プレゼントを床に叩き落とした。ガラス瓶は割れ、キャンディが散らばる中、父はスミカに片付けを命じた。この冷たい態度にエチカは大きなショックを受けた。
スミカへの不信感
エチカは、スミカの優しさが父の愛情を奪っているのではないかと考え、不満をぶつけた。スミカがアミクスであり、プログラムされた存在であることを理由に、その優しさを拒絶した。エチカは孤独と怒りを抱えながら、自室に閉じこもり、姉の慰めに救われた。
レストランでの会話
場面は現在に戻り、エチカはハロルドとレストランで食事をしていた。ハロルドは彼女にアミクスの感情について問うたが、エチカはその感情を否定した。議論の末、二人の間には緊張が生じたが、エチカは自身の過去を思い出し、複雑な感情に押しつぶされそうになった。
ビガとのやり取り
その後、ビガがエチカのリーへの接続方法を非難した。エチカは法に基づく捜査だったと説明するが、ビガは納得せず、エチカに「人でなし」と告げた。この言葉にエチカは心の痛みを感じたが、それを表には出さなかった。
トトキ課長からの朗報
最後に、トトキ課長からの連絡で、新たな捜査情報が入った。ソークが偽名を使っていたことが判明し、彼が国際指名手配犯である可能性が浮上した。この情報により、エチカは新たな捜査の展開を迎えることとなった。
第三章 記憶と機憶、その軛
ウリツキーの潜伏先と会議の決定
ペテルブルク支局での会議では、ウリツキーの潜伏先が判明した。彼は市内のスラヴィ通り45番地のアパートに滞在しており、電子ドラッグの売買に関与しているとされた。国際刑事警察機構はこれまでウリツキーを泳がせていたが、知覚犯罪解決のために令状を取得し、身柄の確保を決定した。
元パートナーとの再会
エントランスでエチカは元パートナーのベンノと再会した。ベンノはエチカに皮肉を交えつつも、彼女に冷たい態度を取った。一方、現パートナーのハロルドは、ベンノを挑発するような発言をし、エチカをかばう姿勢を見せた。この行動にエチカは困惑しつつも、ハロルドの真意を測りかねていた。
ウリツキーのアパートでの調査
ウリツキーのアパートは乱雑で不衛生な状態だった。室内には電子ドラッグに関連するコードが吊るされており、彼がこの場所で何らかの活動を行っていた証拠が見つかった。ハロルドは現場の状況から、ウリツキーが精神的に不安定である可能性を指摘し、さらに恋人やパートナーの存在についての疑問を抱いた。
潜伏していた女性の襲撃
調査中、クローゼットから若い女性が飛び出し、エチカに襲いかかろうとした。彼女はウリツキーに匿われていた可能性が高い人物で、錯乱した状態でシースナイフを手にしていた。危機一髪の状況でハロルドがエチカをかばい、女性の攻撃を受けた。その結果、ハロルドの腹部にナイフが刺さったが、彼は平然としており、自らの状態を軽視する態度を見せた。
ハロルドの姿勢とエチカの動揺
ハロルドは刺された状態でも調査を続けようとしたが、エチカは彼の行動に戸惑いと動揺を覚えた。ハロルドの自己犠牲的な態度に苛立ちを抱きつつも、彼の冷静さと行動に感謝を感じざるを得なかった。この一件は、アミクスと人間の関係性についてエチカの内面に複雑な感情を残す結果となった。
ウリツキーの取り調べ
取調室で、ウリツキーはベンノから罪状を突きつけられていた。電子ドラッグの製造と売買、身分詐称、企業秘密の窃盗など多岐にわたる罪状に対し、ウリツキーは巻き込まれただけだと主張した。しかし、彼の態度は挑発的で、ベンノの質問をはぐらかし続けた。加えて、娼婦マニャの存在が問題視され、彼女が彼に匿われていた事実も明らかとなった。
トトキの指示と電索の準備
マジックミラー越しに取り調べを見守っていたトトキは、ウリツキーのPCのセキュリティが高度であると説明し、復号には時間がかかると述べた。そのため、電索による証拠収集を決定。エチカはトトキの指示に従い、ハロルドとともにウリツキーに接続を試みた。
電索中の逆流と過去の記憶
エチカが電索を開始した際、ウリツキーの記憶を探索するはずが、彼女自身の過去の記憶が逆流した。父との冷たい関係、姉との思い出、盗み取った記憶媒体──エチカの心に深く刻まれた傷が再び浮かび上がった。過去に囚われる中、彼女は現実に戻るのが遅れた。
ハロルドの異変と危機
現実に引き戻された時、ハロルドが倒れているのを目にした。彼の腹部にはナイフが深々と刺さり、循環液が流れ出していた。刺されたまま任務を続行していたハロルドの無理が、ついに限界に達したのだ。トトキとベンノが駆けつけ、修理工場への緊急搬送が決まった。
エチカの感情の高まり
ハロルドが倒れたことに動揺し、エチカは抑え込んでいた感情を押し出されるように自覚した。アミクスであるハロルドに対する感情は単なるパートナーシップ以上のものであり、彼の「パートナーを侮辱するな」という言葉が、心の奥底で救いとなっていた。エチカは自分の未熟さや孤独を直視し、ハロルドを失う恐怖を初めて明確に感じていた。
修理後のハロルドとの帰路
修理工場を出たのは深夜であった。ハロルドは一時的な補修を受けていたが、完全な修理にはロンドンから正規のパーツを取り寄せる必要がある状態であった。彼の体調を案じるエチカは、しばらく安静にするよう説得したが、ハロルドは平然と捜査への復帰を主張していた。エチカは、自分がもっと早く彼の異変に気付いていればと後悔しつつも、彼の言動にどこか救われていた。
ハロルドの家への同行
ペテルブルク市内を走る車中、エチカは修理工場で聞かされたハロルドのプライベートな話に驚きと動揺を隠せなかった。ハロルドには家族がおり、彼の家に招かれることで、アミクスとしてではない個人的な一面に触れる機会を得た。彼の住まいは暖かさに満ちており、そこで彼を迎えたダリヤという女性が、彼の大切な存在であることが伺えた。
ダリヤから語られる過去
ダリヤは、ハロルドの過去について詳細を明かした。彼はかつて英国王室の特別なモデルであり、王室への寄贈後、様々な事件を経てペテルブルクに辿り着いたという。ダリヤの夫であったソゾン刑事は、友人派連続殺人事件に巻き込まれ命を落とし、その後、ハロルドは彼の遺志を継ぐように捜査に没頭していた。彼が経験した過酷な出来事は、ハロルドの言動や行動に影響を与えているようであった。
エチカの謝罪とハロルドの反応
エチカは、これまでの自身の発言や態度がハロルドに与えた傷について謝罪した。彼女はアミクスを嫌う背景に自分の過去の問題があることを告白し、その一方でハロルドからも自分の行動について謝罪を受けた。互いの傷や誤解を共有する中で、関係の再構築が図られた。
ハロルドの執念とエチカの願い
ハロルドはダリヤの夫ソゾンの事件を再調査しようとする意志を持っていた。しかし、その執念がダリヤを不安にさせていることも明らかであった。エチカは、彼に対し家族を大切にするよう諭し、自分を過度に犠牲にしないよう願いを込めて伝えた。ハロルドの抱える痛みと責務の重さを理解しつつ、彼女はパートナーとして彼を支えていく覚悟を固めた。
エチカとハロルドの議論
エチカはハロルドに、ウイルスの感染経路がホロ広告のマトリクスコードに隠されている可能性を示唆した。ウリツキーが広告アルゴリズムを悪用してウイルスを仕込んだのではないかと推測したのである。ハロルドもその仮説に納得し、アミクスとしての完全な記憶力を使って関連データを確認した。その結果、感染経路として疑わしい広告を特定することに成功した。
緊急の訪問者
その直後、トトキ課長とベンノがエチカとハロルドのもとを訪ねてきた。二人の表情は険しく、トトキはエチカを知覚犯罪の容疑者として拘束すると告げた。ウリツキーの記憶にはエチカが彼を脅迫してウイルスを作らせた痕跡が残っていたというのだ。エチカは完全に身に覚えがなく、困惑したが、電索による潔白の証明を迫られる状況に追い込まれた。
電索を拒むエチカ
電索による真実の究明は、エチカにとって自分の隠された過去を暴かれるリスクを伴うものであった。彼女はその選択を拒む決意をし、突如としてその場から逃走を図った。ハロルドの端末を操作してウイルスのホロ広告を確認した後、彼を振り払い、階段を駆け下りる形で逃げ出した。
エチカの決意と逃亡
エチカは逃走という選択が最も愚かな行動であることを理解していた。それでも、自分の記憶を誰にも見られたくないという強い思いが彼女を突き動かした。追跡してくるベンノの足音を背後に感じながら、必死で階段を駆け下り、自らの信念に従って行動することを選んだ。
エチカの逃走とトトキの疑念
トトキは警察車両が集まる中、ユア・フォルマを通じて他者と連絡を取っていた。彼女はエチカが逃走したことに失望を隠せず、ハロルドに非難の目を向けていた。ハロルドは自らの行動を謝罪しつつ、エチカの逃走が有罪を証明するわけではないと反論した。しかし、トトキは冷静さを保ちながらもエチカへの疑念を拭えない様子であった。
ハロルドの推測とベンノの苛立ち
エチカが意図的にウイルスを読み込み、自らユア・フォルマを動作不能にする選択をしたとハロルドは推測した。その行動から、彼女の隠された意図を理解しつつあったが、彼女の逃走は予想外であった。一方、ベンノはエチカに脅されたのではないかとハロルドを詰問した。ハロルドは冷静に否定し、全ては自分の判断で行動したと説明したが、ベンノの不信感を完全には払拭できなかった。
エチカの位置情報の消失
エチカの位置情報が突如として消失したことで、トトキや警察官たちは困惑した。彼女が最後に確認された地点に警察官を向かわせる指示が飛び交う中、ハロルドは静かにその場を離れた。彼の冷静な態度は、周囲の混乱とは対照的であった。
ハロルドの行動と計算
ハロルドは路肩に停めてあった車に乗り込み、エチカの行き先を既に推測しているようであった。彼女の逃走が予想外だったとはいえ、自身の目的である事件の解決に向けた計画は変わらなかった。彼はシェアカーへの乗り換えを検討しつつ、次の一手を冷静に考えていた。事件解決への執念を秘めた彼の表情は、静かだが確固たる意志を感じさせた。
第四章 証明は、痛みと共に
雪景色とエチカの逃走
ペテルブルクの街は銀世界に包まれ、エチカは監視ドローンから逃げるために路地裏を歩いていた。周囲には年越しを祝う人々が溢れ、花火が夜空に咲いていた。彼女は寒さに耐えながら道を進むが、幻覚のような雪景色に翻弄され、ユア・フォルマが操作不能となったため道に迷ってしまった。
吹雪と意識の混濁
エチカは吹雪が激しくなる中、進むべき道を探し続けたが、凍える寒さで身体の感覚を失い始めた。やがて彼女は路地の地面に座り込んでしまい、動けなくなった。周囲の喧騒から切り離され、静寂の中で自らの選択を後悔しつつ、過去の記憶に囚われていった。
過去への思いと姉への想い
エチカは姉と過ごした幸せな日々や、父親に従う機械のように生きてきた自分を振り返った。彼女は自分の感情を閉じ込め、誰にも触れさせないように生きてきたが、その孤独と苦しみが心に積み重なっていた。もっと素直に感情を表せる自分でありたかったという後悔が胸をよぎった。
崩れゆく意識と救いの腕
意識が混濁し、これまでの記憶が断片的によぎる中、エチカはついに知覚犯罪の真実に気づいた。しかし、身体は動かず、全てを手放していくような感覚に包まれる。そんな中、彼女は誰かの腕に抱き起こされる感触を最後に感じ取った。
覚醒とビガの介入
エチカはベッドで目を覚ました。幻覚の雪が消え、冷えた体は抑制剤の投与によって温もりを取り戻していた。ビガが彼女を助けた理由は、ハロルドの依頼によるものだった。抑制剤はユア・フォルマの機能を停止させ、エチカの視界から全ての情報を消していた。ビガの手術道具が散らかるホテルの部屋で、彼女は自分が追われている状況を再認識した。
ハロルドの登場と秘密の暴露
ビガに続いてハロルドが現れ、エチカを救ったことを告げた。彼はトトキらの追跡をかわし、エチカの命を救ったことを静かに説明した。その態度から、彼が全てを計算の上で行動していることが見え隠れしていた。ハロルドは、エチカに関する過去の情報を既に把握しており、マトイのプロジェクトとエチカの父の関与を明かした。
マトイと知覚犯罪の関連性
ハロルドは、マトイが現在の知覚犯罪と関連している可能性を指摘した。マトイはかつての情操教育システムで、エチカの父が開発に関わっていた。しかし、試験運用中のバグによりプロジェクトは凍結されていた。ハロルドは、エチカがマトイを記憶媒体にコピーし、自分の手元に残したことを推測していた。その推理は的中しており、エチカは姉のように慕っていたマトイを失いたくない一心で秘密を守っていた。
対立と心の葛藤
ハロルドは、エチカが秘密を守る理由を問いかける一方で、彼女がマトイに固執する心理を冷静に分析した。エチカは彼の論理を拒絶しつつも、心の内で自身の弱さと向き合わざるを得なかった。ハロルドは、自身の過去の暗い衝動を打ち明けることでエチカの信頼を得ようと試みたが、エチカは彼の計算高さに反発した。
姉との別れと決意
最終的にエチカは、マトイが既に過去の存在であり、今の自分を支えるものではないと悟った。彼女は涙ながらに記憶媒体をハロルドに差し出し、その秘密を手放す決意をした。ハロルドはその勇気を称え、次の行動計画をエチカに提案した。エチカは覚悟を決め、ハロルドとともに犯人を追うことを選んだ。
リグシティの潜入と警戒
スティーブがリグシティ本社に戻った時、ロータリーに見慣れないシェアカーが停まっていた。その車内には北欧系の少女が座り、兄を待っていると主張した。彼女の話に多少の違和感を覚えながらも、スティーブは不審な行動には出なかった。その後、社員から「観葉植物を運んでいた」との指摘を受け、スティーブは状況に異常を感じて最上階へ急いだ。
テイラーの寝室での対峙
スティーブが寝室に到着すると、室内は無機的な雰囲気に包まれ、テイラーはベッドで休んでいた。そこへ現れたのは、スティーブに変装したハロルドであった。ハロルドはテイラーに接触し、H.S.B.を使って知覚犯罪の仕組みを彼の頭部に再インストールした。その場面を見たテイラーは、自分が巻き込まれた状況を認識した。
エチカとテイラーの直接対決
エチカはテイラーの過去の犯罪や動機を明確にし、彼が知覚犯罪の首謀者であると断言した。テイラーはかつて友人だったエチカの父を裏切り、プロジェクトを横取りしたことを語った。それが今回の犯罪の復讐劇につながっていると明かし、エチカと対峙することになった。
スティーブの乱入と銃撃
スティーブが再び現れ、エチカに銃を向けた。彼は敬愛規律を逸脱し、自らの意思でテイラーを守ろうとしていた。テイラーはそれを遮るようにスティーブを撃ち、その場を混乱に陥れた。スティーブの死により、場の緊張はさらに高まった。
逮捕の瞬間
テイラーはエチカとハロルドの計画に翻弄されながらも最後まで抵抗を続けた。しかし、エチカは彼を見事に組み伏せ、知覚犯罪の容疑で逮捕した。テイラーの破滅とともに、エチカたちは事件の決着を迎えた。
病院の屋上での会話
エチカとハロルドは、夜明けのサンフランシスコ湾を見下ろしながら会話を交わした。テイラーは救急車で搬送され、低体温症の治療を受けて症状は安定していた。ハロルドは、トトキ課長が彼らの行動を信じ、エチカへの容疑を撤回する方向で動いていると報告した。だが、エチカは自身たちが法を破った事実に気を取られ、完全に喜べないでいた。
作戦の成功とスティーブの乱入
エチカはテイラーを逮捕するための作戦を振り返った。白頭鷲のレーザードローンを利用してテイラーを欺き、彼を追い詰めることに成功したが、スティーブが乱入したことは想定外であった。スティーブはテイラーによって撃たれたが、修理工場で修復される見込みであった。ハロルドは彼の行動を厳しく非難したが、エチカはスティーブの背景を思いやり、単純に責めることはできないと考えた。
敬愛規律の欠陥と疑念
スティーブが敬愛規律を無視して人間に銃を向けたことに、エチカは恐れを抱いた。ハロルドは、テイラーがスティーブを改造していないなら、そもそも欠陥があった可能性を指摘した。だが、それを聞いたエチカは、自分の敬愛規律が正常に機能しているのか疑念を抱き、内心でハロルドの真意についても考えを巡らせた。
決意の表明と新たな始まり
エチカは、自身の心情を整理し、電索官を辞める決意をハロルドに打ち明けた。父親の影響でこの職に就いたものの、もはや自分にとって必要ではないと感じていたためである。ハロルドは驚きこそしなかったが、彼女の決断を静かに受け入れた。そして、エチカは自身の成長を促してくれたハロルドに感謝を述べたが、彼はその不意打ちに戸惑いを見せた。
エチカの軽やかな一歩
エチカは、ハロルドと別れを告げるように屋上を歩き出した。まだ後始末は山積みであるにもかかわらず、その足取りは軽く、どこか未来を見据えたものとなっていた。彼女の心には、これまでの囚われから解放される予感があったのである。
終章 雪融け
辞職の決意とトトキ課長の反応
トトキ課長のオフィスで、エチカは辞表を提出し、その理由を尋ねられた。半年ほど前から辞職を考えていたと答えたエチカに対し、トトキは情報処理能力を活かせる仕事が限られることや、再就職の難しさを指摘した。しかしエチカは、ゆっくりと自分を見つめ直す時間が欲しいと訴え、最終的に辞表は受理された。
知覚犯罪事件後の余波
事件が公になると、世間ではパニックと怒りが広がり、リグシティの株価は大暴落した。イライアス・テイラーは逮捕されたが、公判を待たずに死亡した。捜査は続けられ、ユア・フォルマのシステムはアップデートされ、マトイが完全に消去された。エチカは電索官としての役割を終え、通常の生活に戻っていた。
ベンノとの再会とビガからの手紙
トトキのオフィスを出た後、エチカはベンノと会話を交わし、彼の婚約者との関係修復を察した。その後、自分のデスクに届いたビガからの手紙を開封した。ビガは事件後の感謝と謝罪を述べ、エチカも返事を書くことを決意した。
退職後の迷いと電索への未練
退職後、エチカはリヨンで自由気ままな生活を送りつつも、自分が何をしたいのか分からないままであった。過去の電索官としての日々や、ハロルドとの思い出が頭をよぎり、次第に電索への未練が募るようになった。
再出発のきっかけ
トトキから渡されたアドレスを思い出したエチカは、それを利用するべきか迷った。部屋に差し込む春の空気に背中を押されながら、新たな一歩を踏み出す兆しを感じていた。
ペテルブルクへの訪問
エチカはペテルブルクのプルコヴォ空港に到着し、四月にも関わらず冷たい気候に驚いた。彼女は事前に連絡を取ったワトスンという私立探偵と会う予定であったが、その相手がハロルドであることに気付き、驚愕した。ハロルドはトトキ課長の策略で彼女を再び電索官に引き戻すための一連の計画を暴露した。
再会と対立
ハロルドはエチカに久々の再会を喜びながら、彼女が電索官として戻るべき理由を語った。エチカは彼の策略に憤りつつも、自身が電索への未練を抱えていたことを否定できず、複雑な感情を抱えた。彼女はハロルドの提案がトトキの協力を得た上でのものだと悟り、彼を責めたが、彼は選択を最終的に委ねたのはエチカ自身だと主張した。
選択と皮肉
ハロルドはエチカに過去の言葉や行動を引き合いに出しながら、彼女を追い詰めた。彼の計算高い言葉に対し、エチカは冷静さを欠きつつも反論を続けたが、最終的には車に乗り込み、再び電索官としての道を歩むことを選んだ。
相棒としての再出発
ハロルドはエチカにミドルネーム「ワトスン」の真相を明かしつつ、彼女の復帰を歓迎した。エチカは彼の態度に呆れつつも、再び相棒としての関係を築くことを受け入れた。助手席に座る彼女の心中には、ハロルドへの感謝と複雑な安心感が混在していた。
新たな旅立ち
ニーヴァが走り出す中、エチカとハロルドは握手を交わし、再び共に歩み出すことを誓った。彼女は相棒としてのハロルドの存在を改めて認めつつ、新たな挑戦への覚悟を固めていた。
同シリーズ
その他フィクション
Share this content:
コメントを残す