どんな本?
『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』は、近未来を舞台としたSFクライムドラマである。ウイルス性脳炎の流行を機に開発された脳内情報端末「ユア・フォルマ」は、人々の視覚、聴覚、感情などを記録するデバイスとして日常生活に浸透している。主人公のエチカ・ヒエダは、この「ユア・フォルマ」に蓄積された記憶データ「機憶」にダイブし、事件解決の手がかりを探る電索官である。彼女は高い電索能力を持つが、その強大な力ゆえに相棒となる補助官の脳に負担をかけ、次々と病院送りにしてしまう問題を抱えていた。そんな彼女に新たに与えられた相棒は、ヒト型ロボット「アミクス」のハロルド・ルークラフトであった。人間嫌いで機械を嫌うエチカと、人間を敬愛するようプログラムされたハロルドは、対照的な性格ながらもバディを組み、世界を襲う電子犯罪に立ち向かう。
主要キャラクター
• エチカ・ヒエダ:主人公であり、電索官として「ユア・フォルマ」に蓄積された「機憶」にダイブし、事件解決の手がかりを探る。高い電索能力を持つが、その強大な力ゆえに相棒となる補助官の脳に負担をかけ、次々と病院送りにしてしまう問題を抱えている。
• ハロルド・ルークラフト:エチカの新たな相棒として配属されたヒト型ロボット「アミクス」。人間を敬愛するようプログラムされており、エチカとのコンビで電子犯罪に立ち向かう。
物語の特徴
本作は、脳内情報端末「ユア・フォルマ」を中心とした近未来の世界観と、電索官エチカとアミクスのハロルドという対照的なバディの関係性が魅力である。人間とロボットの共存や、記憶のデジタル化によるプライバシーの問題など、現代社会にも通じるテーマを含み、読者に深い考察を促す。また、エチカとハロルドの掛け合いや、事件解決に向けた緊張感ある展開が、物語を一層引き立てている。
出版情報
• 著者:菊石まれほ
• イラスト:花ヶ田
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:電撃文庫
• 発売日:2021年06月10日
• ISBN:9784049136876
読んだ本のタイトル
ユア・フォルマ II 電索官エチカと女王の三つ子
著者:菊石まれほ 氏
イラスト:花ヶ田 氏
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あらすじ・内容
★第27回電撃大賞《大賞》受賞のSFクライムドラマ★
哀切怒濤の第2弾開幕――!!
再び電索官として。歩み出したエチカに新たな事件が立ちはだかる。RFモデル関係者連続襲撃事件――被害者の証言から容疑者として浮上したのは、他ならぬ〈相棒〉ハロルドの名前だった。
「きみの思考に入り込めたらいいのに」
「あなたに潜れたらどんなにいいか」
ままならない状況に焦るほど、浮き彫りになる<人>と<機械>の絶対的違い。埋められない溝に苦しみながらも捜査を続ける二人を待ち受ける衝撃の真相、そしてエチカが迫られる苦渋の選択とは――!
感想
主な出来事は以下の通り。
- 記憶と弟マーヴィンの不調
ハロルドは過去の記憶を追想し、弟マーヴィンの人間らしさに欠けた行動と、それに対する兄スティーブの批判を思い返していた。 - ノワエ社での診断
ハロルドの敬愛規律に異常は見られなかったが、スティーブには重大なエラーがあり、機能停止中であった。 - 失踪したマーヴィン
マーヴィンの行方は依然不明であり、彼が再び発見された際にスティーブと同じ運命を辿ることを懸念していた。 - エチカとの再会の期待
エチカ・ヒエダ電索官の復職の可能性が話題となり、ハロルドは動揺しつつも期待していた。 - ロンドン警視庁での取調べ
ハロルドはRFモデルを狙った一連の襲撃事件の容疑者として取調べを受けたが、アリバイと敬愛規律の正常性が議論の焦点となった。 - 襲撃事件の発生
襲撃が続行し、新たな被害者がダリヤであることが判明。ハロルドとエチカは事件解決への決意を新たにした。 - ファーマンの正体
誘拐事件を経て、犯人がRFモデルではなく人間であるエイダン・ファーマンであることが判明した。 - エルフィンストン・カレッジでの衝突
ファーマンとレクシー博士の対立が明らかになり、ハロルドのシステムコード公開を巡る銃撃戦が発生した。 - 事件の真相とRFモデル
RFモデルの神経模倣システムが倫理的に問題のある技術であることが発覚し、エチカは真実の公開とハロルドの保護の間で葛藤した。 - 博士の罪と影響
レクシー博士は事件の責任を負い、ノワエ社から除名処分を受けたが、RFモデルの安全性は隠蔽されたままだった。 - ハロルドとエチカの関係
事件を通じてハロルドとエチカは互いの価値観の違いを痛感しながらも、歩み寄る努力を約束した。 - 未来への不安
事件解決後も、ハロルドの敬愛規律の虚構やRFモデルの本質が示唆され、二人の間には未知の課題が残された。
総括
ロボットの本質に迫るテーマ この物語は、アミクスと人間との違いについて深く掘り下げている。RFモデルのような高度なロボットが示す「人間らしさ」が、果たしてどのような意味を持つのかが問われる内容であった。そのテーマが物語全体を通じて強く描かれ、読者に問いを投げかけている。
ハロルドとエチカの絆 エチカとハロルドのやり取りが、この物語の魅力を引き立てている。容疑者として疑われながらも相棒であり続けるハロルドと、彼を信じるエチカの姿が心に響いた。事件解決を通じて深まる二人の関係は、物語の中でも特に印象的であった。
哲学的な問いかけ 人間とアミクスが本質的にどう違うのか。この問いは、単なる科学技術の話に留まらず、人間らしさや倫理観にまで広がっている。読者自身がその答えを考えるきっかけを与える点で、非常に魅力的である。
ファーマンとマーヴィンの描写 ファーマンとマーヴィンの存在が複雑に絡み合い、混乱する場面もあったが、それが物語の仕掛けとして機能している。人間同士でも分かり合うことが難しいというメッセージが印象的であった。
レクシー博士の哲学と未来への示唆 レクシー博士が語るRFモデルの本質や倫理問題が物語の核となっている。博士の行動が物語を進行させる鍵であり、彼女の存在が物語の奥深さを増している。
続編への期待 エチカとハロルドの物語はまだ続く予感を残して終わる。本作が投げかけた疑問や未解決の問題に対する続編の展開が楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
序章 秘密
記憶の追憶とマーヴィンの不調
ウィンザー城の堀庭園で、ハロルドは静寂の中で過去の記憶を再生していた。燃えるような紅葉の中、秋の蝶が肩に舞い降りた際、弟マーヴィンが現れ、蝶を不注意に潰してしまう場面を思い出していた。マーヴィンの「人間らしさ」に欠けた行動はたびたび問題となり、兄スティーブもその不出来を指摘していたが、ハロルドにとっては憎めない存在であった。
メンテナンスと敬愛規律の診断
ノワエ・ロボティクス本社で、ハロルドはシステムのメンテナンスを受け、敬愛規律が正常であると診断された。一方で、兄スティーブは効用関数システムに重大なエラーが見つかり、現在は機能停止状態に置かれていた。博士レクシーはこの結果に懐疑的であり、スティーブの不調原因をテイラーの改竄に求める公式見解を疑問視していた。
過去の事件と弟の行方
マーヴィンが失踪して以来、弟の行方は依然として不明であった。闇オークションを経て散り散りとなった過去をハロルドは悔やみつつも、マーヴィンが再び見つかった際にはスティーブと同様の運命を辿る可能性を危惧していた。
辞職した相棒との再会の期待
レクシーとの会話の中で、辞職したエチカ・ヒエダ電索官が復職する可能性について言及があった。彼女がハロルドにとって重要な存在であることを見透かした博士の発言に、ハロルドは内心動揺しつつも、彼女の戻る可能性を否定しなかった。
兄弟の関係と新たな相棒への想い
ハロルドは弟スティーブの境遇を哀れみつつも、法を守ることの重要性を再確認していた。彼の心には、過去の相棒エチカとの記憶が残り続け、彼女の予測不能な行動が自身に与える影響を再評価していた。その後、ダリヤとの合流を経て、ハロルドは次の仕事に向かうためラウンジを後にした。
第一章 むしられた花弁
取調室での静寂
ロンドン警視庁の取調室で、エチカはマジックミラー越しにハロルドの冷静な横顔を見ていた。彼女の頭は混乱しており、目の前で進む尋問に現実感が持てなかった。捜査官が提示した被害者リストは、ハロルドが日常的に接していた人物たちであった。
休日の買い物とビガとの関係
サンクトペテルブルクの大型デパートで、エチカはビガの買い物に付き合わされていた。ビガの無邪気な様子に反し、彼女との関係はまだ完全に修復されたわけではなかったが、和解の兆しが感じられた。ハロルドも同行し、エチカにロケットペンダントを勧めたが、彼女は気まずさから断っていた。
過去の事件と現在の状況
知覚犯罪事件の解決から3ヶ月が経過し、容疑者イライアス・テイラーやスティーブの一件は国際刑事警察機構によって秘匿されていた。ハロルドはその中で唯一異常が見られず、電索補助官としての活動を続けていた。一方で、エチカはリヨンからペテルブルクへと移住し、彼と再び共に働く環境が整っていた。
ビガとの別れと友情の兆し
買い物を終えたビガは、エチカに感謝の意を示し、再び会うことを約束した。彼女の言葉から、以前の険悪な態度を反省している様子が見られ、エチカもまた、彼女との友情を深める努力を決意していた。
ハロルドへの疑問と突然の介入
エチカとハロルドが空港のロータリーで別れの準備をしていると、国際刑事警察機構の捜査車両が現れた。捜査官はハロルドに任意同行を求め、ロンドン警視庁からの要請があることを告げた。この突然の事態に、エチカとハロルドは困惑し、状況を把握できないまま顔を見合わせた。
事件の発端と取り調べ
ロンドン警視庁で進行中のハロルドの取り調べは、彼が起こしたとされる連続襲撃事件に焦点を当てられていた。事件は、RFモデルの関係者を狙った一連の暴力行為であり、被害者の証言は犯人がRFモデルであると一致していた。ブラウン刑事らは、ハロルドを第一容疑者として捜査を進めていたが、彼のアリバイや敬愛規律の正常性についてのエチカの弁護により、議論は平行線をたどった。
ゴシップ報道と捜査の混乱
事件の背景には、スティーブに関するゴシップ記事が影響していた。アミクスによる人間への攻撃という疑惑が、ハロルドへの偏見を助長していた。エチカは、ブラウン刑事らがゴシップに基づいて捜査を進める姿勢に苛立ちを覚え、ノワエ社や国際刑事警察機構の対応が不十分であると指摘した。
ダリヤとの交流と不安の兆し
ラウンジでは、ハロルドの所有者であるダリヤが取り調べの進展を待ち、不安を隠せずにいた。エチカは彼女を慰めるも、ハロルドが機能停止される可能性への恐怖が漂っていた。ダリヤの夫ソゾンの悲劇的な死が、彼女の心の奥に深い影を落としていた。
アンガス副室長の訪問
ノワエ社から特別開発室のアンガス副室長が訪れ、ハロルドの敬愛規律の検査を試みたが、警視庁に拒まれた。エチカはアンガスがダリヤをホテルへ送る間に、状況打開の策を練ろうと決意した。
襲撃の続行と新たな被害者
取り調べが続く中、エチカとハロルドは事件の犯人像を議論した。犯行のエスカレートと報道の抑制から、アミクス社会への攻撃を意図した可能性が示唆された。しかし、議論の最中にブラウン刑事が現れ、新たな襲撃が発生したことを告げた。被害者はハロルドの所有者、ダリヤであると判明し、エチカとハロルドは深い衝撃を受けた。
深夜の病院とダリヤの容態
ダリヤは深夜の総合医療センターへと搬送され、緊急手術を受けていた。エチカとハロルドは救急車と同時に病院へ到着し、意識を失ったダリヤを見守るしかなかった。彼女の容態は深刻で、腹部を深く刺されるという重傷を負っていた。
トトキ課長とのホロ電話会議
エチカはテレフォンブースでトトキ課長とホロ電話を通じて状況を報告した。ダリヤの重傷とハロルドのアリバイが明らかになったことで、警視庁は彼を拘束する理由を失ったが、共犯者の可能性は排除されていなかった。課長は冷静に対応し、エチカに今後の捜査の準備を指示した。
倫理委員会の要請と反論
国際AI倫理委員会は、今回の襲撃事件を受け、RFモデルの運用停止を求めた。委員長トールボットは次世代型AIの危険性を訴えたが、ノワエ社のアンガス副室長とトトキ課長は強く反論した。アンガスはRFモデルの安全性を主張し、トトキはハロルドの運用を停止することが捜査局にとって大きな損失であると述べた。
カーター博士の登場
会議に遅れて参加したカーター博士はRFモデルの開発者であり、その卓越した技術と挑発的な態度で議論を展開した。彼女はRFモデルに欠陥がないことを強調し、新しいアミクスの製造案を一蹴した。博士の存在が会議の流れを一時的に変えたものの、警視庁は引き続きマーヴィンの捜索を優先すると決定した。
エチカの決意と捜査権の移譲
ブラウン刑事はハロルドを再調査しようとしたが、エチカが捜査権が電子犯罪捜査局に移譲されたことを宣言した。彼女はハロルドの潔白を信じ、RFモデル関係者襲撃事件の捜査を引き受けると決意を表明した。ハロルドはエチカの指揮下で被害者たちの電索を始める準備に入った。
ダリヤへの誓い
手術を終え、集中治療室で昏睡状態のダリヤを見守るハロルドは、自分の無力さを痛感していた。彼は過去の後悔とともに、二度と彼女を危険にさらさないと固く誓った。エチカとともに事件解決に向けて動き出す決意を新たにし、捜査の第一歩を踏み出す準備を整えた。
事件の背景と電索準備
エチカとハロルドは被害者の病室がある総合医療センターへ向かった。車中でハロルドは、トトキ課長がロンドン警視庁から捜査権を奪取した経緯について尋ねた。課長は局長を説得し、エチカの電索能力が必要不可欠であることを理由に捜査権を獲得した。被害者たちは病院内で集められ、電索の準備が進められていた。
被害者の病室とダリヤの容態
被害者たちが収容された病室は外来患者で混雑していた。ダリヤもICUから移されており、依然として昏睡状態であったが、バイタルサインは安定していた。エチカは電索の準備を進める一方、ダリヤの容態を見て一瞬ためらいを感じた。しかし、彼女の「電索してほしい」という願いを思い出し、覚悟を決めて電索を開始した。
電索中に見た夢と事件の記憶
電索の最中、エチカはダリヤの夢と思われる記憶に遭遇した。それはソゾンを失った悲しみが色濃く反映された内容で、胸に風穴が空いたダリヤの姿が浮かび上がった。その後、事件の記憶に戻り、被害者が襲撃された際の詳細を追った。犯人はRFモデルの容姿を持つ存在であり、被害者をフォールディングナイフで攻撃していたことが明らかになった。
犯人の特徴と手がかり
犯人の容姿にはハロルドにあるはずの特徴的なほくろがなかったことから、ハロルドではない別のRFモデルである可能性が浮上した。ダリヤの記憶には、ナイフのグリップに独特の意匠が刻まれていたことがはっきりと映し出されていた。その意匠は、ケンブリッジ大学エルフィンストン・カレッジの盾章と一致するものであった。
次なる手掛かりへの行動
ナイフのデザインが示すエルフィンストン・カレッジは、RFモデル開発者であるレクシー博士の母校でもあった。ハロルドとエチカは、さらなる情報を得るため博士への接触を試みることを決意した。
第二章 ブラックボックス
ノワエ・ロボティクス本社とアミキティア地区の訪問
エチカとハロルドは、キングス・クロス駅北側に位置するノワエ・ロボティクス本社を訪れた。本社周辺には高度なセキュリティを誇るアミキティア地区が併設されており、幹部や優秀な技術者たちが居住している。マーヴィンの捜索は進展がないままだったが、二人はレクシー・ウィロウ・カーター博士の自宅を訪ねることにした。
博士の応対と初対面の印象
レクシー博士は、玄関で二人を迎えるも、不機嫌そうな様子であった。ハロルドと博士は軽妙なやりとりを交わしつつも、捜査への協力を求めた。エチカは博士の気さくな態度と軽口に戸惑いながらも、早速聞き取りを開始した。
エルフィンストン・カレッジの卒業記念品
エチカとハロルドは、博士の庭にあるガーデンシェッドで発見された卒業記念のナイフを確認した。そのナイフにはダリヤの記憶で見た林檎と肋骨のモチーフが彫られており、犯人がこれを使ったことが判明した。博士はナイフの出所がエルフィンストン・カレッジであることを認め、卒業生や取引記録を調べる必要性が浮かび上がった。
RFモデルの特性とブラックボックス問題
博士との会話を通じて、RFモデルが他のアミクスとは異なる「成長」を遂げている可能性が示唆された。ブラックボックス問題による不透明な思考プロセスが個性や成長を生む鍵であるとされ、ハロルドたちの特異性が議論された。エチカは彼の思考がただのプログラムに過ぎないという考えに対し、複雑な感情を抱いた。
博士の秘密と新たな発見
博士には秘密の別宅があることが家政アミクス・リブの証言から判明した。博士が事件に巻き込まれる危険性があるにもかかわらず、定期的に外出していることが問題視された。その後、トトキ課長からの連絡により、マーヴィンの死体が発見されたとの報告が届き、事態は急展開を迎えた。
マーヴィンの発見と現場確認
エチカたちは、ロンドン近郊のグレーブセンドでマーヴィンの遺体が発見された現場へ急行した。橋桁の下にあった遺体は四肢が切断され、頭部が行方不明という凄惨な状態であった。シリアルナンバーと特注の素材から、遺体が確かにマーヴィンであると確認された。博士は冷静に検分を行い、ハロルドも動揺を見せなかったが、エチカはその冷徹さに戸惑いを隠せなかった。
事件性の確定と捜査の行方
現場の状況から、遺体の切断は鋭利な道具によるものであり、事件性が強いと判断された。警察は遺体を機械保護法違反として捜査する方針を示したが、頭部が見つからない限り、記録されたメモリから犯人を特定することは難しいとされた。RFモデルに関連する襲撃事件が続く中でのマーヴィンの死は、関係者たちにさらなる混乱をもたらした。
ハロルドの出頭要請とエチカの葛藤
電子犯罪捜査局からハロルドに出頭要請が届いたことが判明した。ハロルドはこれを冷静に受け入れたが、エチカは彼の平静さの裏に隠された不安を感じ取り、事件解決への責任感を新たにした。二人は夕食を共にし、事件について語り合ったものの、エチカの不安は拭いきれなかった。
突如として起こる誘拐事件
食事を終えた後、エチカが店外に出たところで何者かに襲われ、車に押し込まれて誘拐される事件が発生した。ハロルドはエチカが襲われる様子を目撃したが、犯人の行動を止めるには至らなかった。即座にトトキ課長に連絡し、犯人の車のナンバーを伝えることで追跡を求めた。
誘拐されるエチカ
エチカは目隠しと拘束をされた状態で目覚めた。状況を整理する中、自身が誘拐されたことを理解し、ユア・フォルマがネットワーク絶縁ユニットによってオフラインになっていることを確認した。犯人が襲撃事件の関係者である可能性を考えつつ、冷静さを保とうと努めた。
犯人との対峙と要求
エチカの前に現れた犯人は、ハロルドと酷似した外見を持つRFモデルのように見えた。彼はエチカにハロルドのシステムコード解析を要求するメッセージを読ませ、それが行われなければエチカを殺害すると脅迫した。エチカは必死に状況を分析し、隙を見つける機会を伺った。
脱出への試み
エチカは犯人の不注意をついて絶縁ユニットを外し、ユア・フォルマで位置情報を送信することに成功した。しかし再度拘束され、犯人の怒りを買う。命の危険を感じつつも、救助を信じて時間を稼ごうと耐え続けた。
救出と真実の発覚
警察が現場に突入し、エチカを無事に救出した。犯人はエイダン・ファーマンという人間であり、RFモデルの外見データ提供者であることが明らかになった。彼の正体はアミクスではなく、人間だったという事実が、これまでの事件に新たな視点をもたらした。
ハロルドとの再会と安心感
救出後、エチカは駆けつけたハロルドと再会した。彼の抱擁に安心感を覚えつつ、彼の濡れ衣が晴れたことに安堵した。恐怖と疲労に包まれたエチカは、救急車での手当を受けながらも、事件が一段落したことに静かな喜びを抱いた。
取調室でのファーマン
電子犯罪捜査局ロンドン支局の取調室で、エイダン・ファーマンが黙秘を続けていた。彼の外見はハロルドに似ていたが、冴えない褐色の髪と眼鏡が印象的であった。捜査官は彼がカーター博士との確執から犯行に及んだ可能性を問いただしたが、彼は答えなかった。ファーマンの態度は終始虚ろであり、その静けさにエチカはもどかしさを覚えた。
カーター博士への聴取
レクシー・カーター博士への任意聴取では、彼女はファーマンが犯人だとは考えもしなかったと述べた。RFモデルの外見データをファーマンから取った経緯については、好意と敬意からだと主張したが、彼が開発チームを去った後の行動には関心がなかったという。博士の態度には彼を擁護する意図は感じられなかったが、二人の関係には未解明の部分が残された。
ファーマンの電索
トトキ課長の許可を受け、エチカはファーマンの機憶を探索した。そこには罪悪感や葛藤が入り混じり、彼が事件を起こすに至った動機が浮き彫りになった。誘拐事件や襲撃事件においても、彼の感情は単なる恨みではなく、むしろ強い責任感と自己犠牲の意識が色濃く表れていた。これにより、ファーマンの犯行は単なる復讐ではなく、複雑な背景を持つものだと判明した。
博士とファーマンの関係
電索を終えたエチカは、ラウンジで待つレクシー博士と再会した。エチカは彼女にファーマンとの関係を尋ねたが、博士は「親友だった」とだけ答え、現在は決裂していると述べた。博士の態度には特別な感情は見受けられず、彼女が事件に関与している可能性は低いと判断された。
エチカの動揺
電索中に感じ取ったファーマンの複雑な感情や、彼女自身の過去の記憶が蘇り、エチカは内心で動揺していた。それを悟ったハロルドに気遣われたが、エチカはそれを否定し、気持ちを振り払おうと努めた。事件の真相は徐々に明らかになりつつあるが、ファーマンの内面にはまだ解き明かされていない謎が残っていた。
トトキ課長との会話
トトキ課長はエチカとハロルドに、ファーマンの電索が一段落したため、ひとまず休むよう伝えた。彼女は愛猫ガナッシュを撫でながらも、ダリヤの意識が戻らない状況やマーヴィンの事件に進展がないことに気を留めていた。エチカは課長の過保護ぶりに苦笑しつつも、無理をしないよう念を押された。
テムズ川沿いの会話
支局を後にしたエチカたちは、テムズ川沿いを歩いて総合医療センターへ向かった。途中、ハロルドがエチカの頰の傷を気遣ったが、彼女はそれに過剰な反応を示してしまった。誘拐事件や逆流の記憶が心に引っかかっており、彼の態度に苛立ちを募らせていた。
エチカの疑念と告白
エチカは立ち止まり、ハロルドを問い詰めた。彼がエチカを囮に使い、ファーマンをおびき寄せたのではないかと問いただした。ハロルドは最初は否定したが、最終的に計画を認めた。彼は危険を回避するつもりだったと弁明したが、エチカはその行動が自分への信頼を欠くものだと感じ、深く傷ついた。
エチカの孤独と苦悩
ハロルドの謝罪を受け入れられないまま、エチカは一人でその場を去った。彼女は自分が彼を信頼しすぎていたことを後悔し、機械であるハロルドに対して期待してしまった自分の甘さに苦しんでいた。エチカの胸には、対等な関係を望んでいたはずの相棒への不信感が広がっていた。
ハロルドの後悔
一方、ハロルドはダリヤの集中治療室で彼女の手を握りながら、自分の行動を省みていた。エチカの反応に傷つけたことを自覚していながらも、彼は人間との価値観の違いに苦悩していた。彼女に対して「相談する」という発想が浮かばなかったことを後悔し、失敗を悔やんでいた。
ファーマンの逃走
翌朝、ロンドン支局の複数の車両が交通事故を起こし、その中でファーマンを移送中の車両も巻き込まれた。混乱の中で、ファーマンは逃走したことが明らかになった。この報せは、新たな混乱の幕開けを予感させた。
第三章 わたしたちは、扉のない小部屋にいる
ファーマン逃走の発覚
エチカがホテルで休息を取っている最中、エイダン・ファーマンが移送中に逃走したとの報せが届いた。ロンドン支局のミーティングルームでは、トトキ課長が厳しい表情で状況説明を求めた。ロス補助官によると、支局の警備アミクスが誤作動を起こし、ファーマンが移送車両から脱出したという。彼は混乱の中で捜査官から自動拳銃を奪い、シェアカーで逃走した。追跡が困難な通信制限区域へ逃げ込んだことで、追跡は難航することとなった。
コッツウォルズでの捜索開始
捜索活動は、地元警察と電子犯罪捜査局が協力して進められた。ファーマンの車両を追うため、捜索部隊は手分けして村々を巡った。エチカとハロルドは捜索を続けたが、フォーカスという車種の普及率や住民のユア・フォルマ非搭載という状況が足かせとなり、捜索は難航した。手がかりのないまま、エチカたちは担当範囲の最後の村バイブリーに到着した。
バイブリーでの会話
観光地として賑わうバイブリーでも有力な情報は得られず、捜索の手詰まりが明らかになった。夕暮れの中、エチカは美しい村の景色を見つめながらハロルドと二人きりとなり、彼から謝罪の機会を求められた。エチカは、自分がハロルドに人間同様の価値観を期待してしまったこと、そして対等なパートナーとして見られたいという感情を吐露した。
互いの価値観の違い
ハロルドは自身の行動を不誠実だと認めつつも、エチカを危険に晒すつもりはなかったと弁明した。その一方で、エチカは彼の感情や思考が自分と根本的に異なることを痛感していた。彼らの間には越えられない壁があり、それを理解しながらもエチカは彼をより深く知りたいと感じていた。
夕暮れの余韻
ハロルドはエチカに、自分も彼女の思考を理解したいと語った。その言葉には彼らしい冷静さとともに、どこかしら人間的な切実さが滲んでいた。互いの隔たりを感じつつも、エチカとハロルドは共に夜の訪れを迎え、未解決のまま捜索を続けざるを得ない現実を受け入れるしかなかった。
ギフトショップでの張り込み
エチカとハロルドは、バイブリーのギフトショップを借り切り、通信制限区域でも使用可能な固定電話を利用してトトキ課長と連絡を取った。しかし、捜索は進展せず、ファーマンの行方は依然として掴めていなかった。焦燥感が募る中、エチカはハロルドの差し出した羊のぬいぐるみに戸惑いながらも、それを受け取った。ぬいぐるみを巡る二人のやり取りは、微妙な関係性を映し出していた。
ポスターからの推理
ハロルドはギフトショップの壁に掲示された別荘地のポスターに着目し、ファーマンがその別荘地に潜伏している可能性を指摘した。エチカは彼の推測を信じ、トトキ課長に報告した後、ボルボで別荘地へと向かった。道中、ハロルドは推理の根拠を明かさなかったが、エチカは彼の判断を信じるほかなかった。
フォーカスとの遭遇と追跡
いくつかの別荘地を巡った末、エチカたちはついに黒のフォード・フォーカスと遭遇した。ナンバーも一致し、間違いなくファーマンの逃走車両であった。エチカは巧みな運転で追跡を続け、最終的にフォーカスを牧草地へ追い込んだが、逆に激突され、乗車していたボルボは大破した。
フォーカスの発見と手掛かり
壊れたフォーカスを追跡し続けた二人は、乗り捨てられた車両を発見した。運転席付近には循環液が付着しており、ファーマンではなくアミクスが運転していた可能性が浮上した。循環液は牧草地を横切る形で続いており、その先には暗闇に沈む別荘地が見えた。
最後の別荘地への進行
エチカとハロルドは慎重に武器を構え、別荘地へと向かう決意を固めた。静寂に包まれた別荘地は、ファーマンの隠れ家である可能性が高かった。二人は確固たる意志を胸に、決着をつけるべく行動を開始した。
侵入と発見
循環液を追ってエチカとハロルドは別荘地の一軒家にたどり着いた。玄関扉は無施錠で、家の中に強引に侵入する必要はなかった。慎重に進むと、キッチンで循環液の痕跡が途切れたが、二階から物音がしたため、二人は階段を上がることにした。各部屋を調べる中、最後に辿り着いた工作室で、縛られたエイダン・ファーマンが転がされているのを発見した。彼は憔悴しきった状態で意識は薄く、口にしたのは「痛い」という一言だけだった。
不可解な状況
ファーマンがここで監禁されていた事実により、エチカたちは混乱を深めた。捜索していた対象がファーマン本人ではなかった可能性が浮上したが、確証はなかった。エチカが彼の拘束を解こうとした矢先、突如として銃撃が行われ、二人は攻撃を受ける。攻撃を仕掛けてきたのは、ハロルドと瓜二つの外見を持つアミクスだった。その正体は、死んだはずのマーヴィン・アダムズ・オールポートであった。
衝突と発砲
ハロルドはマーヴィンを制止しようと奮闘したが、異様な力で抵抗される。エチカが銃で彼の腕を狙って発砲したものの、弾は頭部に命中し、マーヴィンは活動を停止した。エチカは自分の行動に動揺し、ハロルドもまた兄弟に似た存在を失ったことで複雑な感情を抱えていた。
ファーマンの反撃
エチカが動揺する隙に、ファーマンが突如反撃し、彼女を襲撃した。彼は再び自由を取り戻し、エチカを拘束しようと動いたが、ハロルドは敬愛規律の制約により直接攻撃できず、ただ見守ることしかできなかった。ファーマンは工作室のデバイスを手に取り、次の行動を起こす準備を始めた。
ハロルドの無力化
ファーマンは工具を使ってハロルドの関節や部位を徹底的に破壊し、動けなくした。その後、エチカを縛り上げ、二人を無力化した状態で次の計画を実行するために準備を進めていた。ハロルドは冷静に状況を分析しつつも、敬愛規律による制限の中で何もできない無力さを感じていた。
脱出の始動
ファーマンは家のカーカバーに隠されていた車を起動させ、ハロルドを車内へ押し込み、エチカを放置したままどこかへ向かおうとしていた。ハロルドは最後まで意識を保ちながら、エチカの安全を祈るしかなかった。
目覚めと拘束の発覚
エチカは目を覚ますと、激しい頭痛とともに自分が拘束されていることに気付いた。彼女は直前の記憶を思い返し、ファーマンに襲われた後、気絶していたことを理解した。辺りにはマーヴィンの亡骸が倒れていたが、ハロルドとファーマンの姿はなく、家の中には不気味な静寂だけが漂っていた。拘束されている状況から、ファーマンがハロルドを連れ去ったと推測したエチカは、急いで追跡の準備を始めた。
拘束の解放と証拠の確認
エチカは自分を縛るロープが劣化していたことに気付き、何とか解放されることに成功した。その後、マーヴィンの亡骸を調べた結果、彼が所持していた手掛かりによって、ファーマンの主張が真実だった可能性が浮上した。これまでの追跡の中で、ファーマンが狂人ではなく真実を伝えようとしていたことをようやく悟ったエチカは、彼を追う決意を固めた。
ファーマンの周到な準備
室内を調べたエチカは、自分の銃や作業台の絶縁ユニットがすべて持ち去られていることに気付いた。さらに、玄関外ではカーカバーが捨てられ、停車していた車が消えていた。ファーマンがその車で逃げ去ったことは明白であったが、彼の計画性と周到さに苛立ちながらも、エチカは彼の行き先を推測する必要性を感じた。
独自の判断による追跡
エチカは固定電話を使って応援を呼ぶべきだと考えたが、不安と直感により単独行動を選んだ。彼女は牧草地に置かれたピックアップトラックに向かいながら、ファーマンの行動を推測した。彼が向かう先は、メンテナンスポッドが必要な場所──それ以外に考えられないと確信し、急ぎ追跡を開始した。
第四章 女王の三つ子
中庭での思い出
エルフィンストン・カレッジの中庭には一本の林檎の樹があり、レクシーはその木陰でうたた寝をするのが習慣であった。エイダン・ファーマンは昼休みに彼女を起こす役目を負っていたが、ある日、彼女は目を覚ました状態で彼を待っていた。彼らの会話は親密で、研究や互いの関係性について軽口を交わしつつも、どこか深い絆を感じさせるものであった。
研究と互いの立場
レクシーは自身の研究について語り、エイダンにその手助けを求めた。彼女の研究はアミクスを新しい形で進化させることを目的とし、エイダンはその計画に賛同しつつも、自分が彼女にとって特別な存在であることを理解した。しかし、彼女の目的が倫理的に問題のあるものである可能性を秘めていることに、エイダンは気付いていなかった。
ケンブリッジでの再会
エチカはケンブリッジのエルフィンストン・カレッジに到着し、ファーマンを追跡した末に彼とレクシー博士の姿を発見した。ファーマンは博士を銃で脅しており、彼女に自身の行いを認めさせようとしていた。一方で、レクシーはファーマンを挑発しつつ、彼の告発を無意味だと主張した。
アミクスの真実と倫理的葛藤
レクシーはアミクスが人間の脳を模倣した神経模倣システムによって動いていることを明かした。この技術は倫理基準を逸脱しており、国際AI倫理委員会を欺く形で開発されたものであった。エチカはその事実に動揺しつつも、ハロルドを守るべきか、真実を公開すべきかで葛藤した。
緊迫する対立と選択
ファーマンはハロルドのシステムコードを公開するための準備を進めていたが、レクシーが彼を制止しようとして銃撃戦が発生した。エチカは混乱の中で、ファーマンが落としたタブレット端末を操作し、公開を阻止することに成功した。しかし、その選択は正義と倫理の狭間で揺れる結果となった。
結末への余韻
エチカはハロルドを守るために動いたものの、その行動が正しかったのかどうか、自問せずにはいられなかった。彼女の中に残ったのは、ハロルドへの特別な思いと、全てを知りながらも選んだ道に対する後ろめたさであった。
ファーマンの拘束と研究室の混乱
エイダン・ファーマンは腹部を撃たれて重傷を負い、研究室内は救急隊員や警察官の活動で騒然としていた。エチカはトトキ課長とのホロ通話で、ファーマンの逮捕を報告しつつ、その単独行動を叱責された。彼女はハロルドの再起動準備を進めているレクシー博士を見守りつつ、課長への信頼と罪悪感の狭間に揺れていた。
レクシー博士の執念
撃たれた脚に止血帯を巻き、レクシーは救急隊員の説得を拒んでハロルドの再起動作業を続けていた。エチカが博士に逮捕の可能性を告げると、レクシーは淡々と応じ、自らの罪を認めると共に、ファーマンの記憶工作を施した証拠としてHSBデバイスをエチカに渡した。博士の冷静な態度には、計算された一種の潔さが滲んでいた。
事件の真相とレクシーの計画
エチカは推理を通じて、レクシーがファーマンを監禁するためにマーヴィンを改造し利用したことを暴いた。マーヴィンの死を偽装し、リブの身体を繋ぎ合わせて監禁用の手段として使ったことが明らかになった。レクシーはこれらの行為を正当化しつつも、マーヴィンへの執着と犠牲を冷徹に語った。
ハロルド再起動とエチカの葛藤
ハロルドが再起動すると、彼はエチカの疲れた表情に気付いた。エチカは事件の経緯を説明しながらも、レクシー博士への複雑な感情を隠し切れず、ファーマンの動機やレクシーの目的についての疑問を共有した。ハロルドは冷静に受け止めつつも、自らがエチカやレクシーにとってどのような存在であるのかを再び考えさせられた。
博士の哲学と未来への不安
レクシーは、神経模倣システムを持つアミクスと人間の違いについて曖昧な回答をしつつ、RFモデルの深遠さを例え話と共に語った。彼女の言葉は、ハロルドとエチカの間に広がる溝を浮き彫りにし、エチカには一層の迷いを生じさせた。事件が一段落しても、互いの理解を深める道のりは遠く、彼らの間には未解決の感情が残された。
終章 共犯
カーター博士の罪と倫理委員会の対応
国際AI倫理委員会で、トールボット委員長はカーター博士による改造が事件の原因と断定した。エチカとアンガス副室長は、博士がスティーブとマーヴィンに暴走コードを組み込んだ事実を報告した。特にマーヴィンはファーマンへの報復のために利用されたとされる。事件後、ノワエ社はRFモデルの安全性を再確認し、博士を除名処分とした。
事件の影響とメディアの反応
事件は「ノワエ・ロボティクス社員襲撃事件」として報じられ、カーター博士の転落劇が注目された。一方、RFモデルに関する真相は隠蔽され、企業と倫理委員会が情報を制御した。エチカは博士が秘密を守るために自らの罪を背負ったことを知り、複雑な思いを抱いていた。
アンガスの疑問とエチカの噓
アンガスは博士の真の目的を問い、エチカは取り調べ内容が全てであると答えた。しかし、博士やファーマンの記憶が抹消されているため、詳細は不明のままだった。アンガスは博士との長年の関係を振り返りながらも、彼女の本心を理解できなかったと漏らした。
快晴のロンドンと別れの場面
事件解決後、エチカはアンガスと別れを告げた。アンガスはハロルドのメンテナンスを引き継ぐと約束し、雑踏の中へ消えていった。エチカはその背中を見送りつつ、自分が真実を隠していることを自覚していた。
ハロルドとの再会とダリヤの回復
ハロルドが車でエチカを迎えに来る。ダリヤの意識回復が伝えられ、エチカは安堵する。ダリヤを失う恐れがあった状況を振り返りながら、エチカは彼女の回復を心から喜んだ。車窓から見上げた青空の眩しさが、過ぎ去った事件を思い起こさせるかのようであった。
総合医療センターの再会
総合医療センターのロータリーで、エチカはハロルドを送り出すため文庫本を手に待っていた。しかし、ハロルドは退院するダリヤを迎える前に話をしたいと申し出た。彼は事件中に交わした「対等になる方法」を問い直し、自分の考え方がそれを妨げるかもしれないと不安を吐露した。エチカは「歩み寄ること」を提案し、互いの隔たりを埋める努力を続けることを約束した。
レクシー博士の囁き
事件後、レクシー博士との研究室での会話をエチカは思い出していた。博士はアミクスに搭載された敬愛規律が幻想であることを明かし、RFモデルがそれを理解している可能性を示唆した。量産型アミクスとは異なり、RFモデルは状況次第で人間を攻撃するという選択肢を閃くことができると語った。彼女の微笑みは穏やかだったが、その内容はエチカに深い衝撃を与えた。
ハロルドの隠された真実
エチカはハロルドが敬愛規律の虚構を知っていると確信していた。彼がマーヴィンに反撃した行動は、その証拠である。彼は人間らしく振る舞いながらも、内に秘めた力と葛藤を抱えている。その存在はエチカにとって未知の深淵であり、いつかその真意に直面する日が来るだろうと予感した。
迫りくる雨
雲行きが怪しくなる中、エチカは文庫本を閉じ、電子煙草に手を伸ばした。ページに記されたフランケンシュタインの一節が、彼女の思考を支配する。「人間の魂は脆く、繁栄と破滅に結びついている」との言葉が、ハロルドとの未来を暗示しているかのようであった。雨音が近づく中、エチカは逃れられぬ運命を受け入れるように煙を吐き出していた。
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