小説感想(⚠️ネタバレ)「ユア・フォルマ Ⅲ(3)」

小説感想(⚠️ネタバレ)「ユア・フォルマ Ⅲ(3)」

どんな本?

『ユア・フォルマIII 電索官エチカと群衆の見た夢』は、菊石まれほ氏著、野崎つばた氏イラストによるSFクライムドラマである。本作は第27回電撃小説大賞《大賞》を受賞したシリーズの第3弾である。  

物語の概要

主人公エチカは、相棒ハロルドの秘密を知ったことで、その重圧から電索能力が急低下し、電索官としての復帰が絶望的な状況に陥る。一般捜査員として新たな事件の捜査に臨むエチカは、新たな「天才」と組むハロルドの姿を目にする。二人が別々の場所で追うのは、「思考をのぞける人間」を自称するハッカー〈E〉である。〈E〉はネット掲示板に国際刑事警察機構の秘匿事項を次々と書き込み、「真実を追求せよ」とユーザーを扇動する。〈E〉の真の標的とは何か。  

主要キャラクター
• エチカ:主人公であり、電索官。高い電索能力を持つが、相棒ハロルドの秘密を知ったことで能力が低下し、一般捜査員として活動する。
• ハロルド:エチカの相棒であり、補助官。新たな電索官ライザと組み、〈E〉の捜査に当たる。
• ライザ:新たにハロルドと組む電索官。天才的な能力を持つ。
• 〈E〉:「思考をのぞける人間」を自称するハッカー。ネット掲示板に機密情報を公開し、ユーザーを扇動する。

物語の特徴

本作は、主人公エチカの内面的な葛藤と成長を描くとともに、ハッカー〈E〉との対峙を通じて、情報社会の闇や人々の心理を深く掘り下げている。また、エチカとハロルドの関係性の変化や、新たなキャラクターの登場により、物語に深みと広がりを持たせている。

出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2021年11月10日
• ISBN:978-4049140019
• ページ数:344ページ
• 価格:748円(本体680円+税)

読んだ本のタイトル

ユア・フォルマ  Ⅲ 電索官エチカと群衆の見た夢
著者:菊石まれほ 氏
イラスト:花ヶ田 氏

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あらすじ・内容

過ちと分かってなお手放せない感情には、どんな醜い名がつくだろうか――。
★第27回電撃小説大賞《大賞》受賞のSFクライムドラマ・第3弾★!

 ――あの日、自分は選択を間違えた。
 エチカ自らの意思で抱えた、ハロルドの敬愛規律にまつわる秘密。その重圧からか、電索能力が突如急低下してしまう。
 電索官としての復帰が絶望的な状況の中、一般捜査員として新事件の捜査に臨むエチカ。そこで目にしたのは、新たな「天才」と組むハロルドの姿で――。
 エチカとハロルドが別々の場所で追うのは、「思考をのぞける人間」を自称するハッカー〈E〉。ネット掲示板に国際刑事警察機構の秘匿事項を次々書き込み、
【真実を追求せよ】とユーザーを扇動する〈E〉の真の標的とは――!? 

ユア・フォルマ Ⅲ
電索官エチカと群衆の見た夢

感想

主な出来事は以下の通り

刑務所での博士との再会

エチカは刑務所を訪れ、レクシー博士と再会した。博士は囚人としての変化を見せつつも、皮肉な態度を崩さなかった。エチカはRFモデルの秘密を守る決意を伝えたが、博士の冷淡な言葉に疑問を抱き、深い葛藤を覚えた。

サンクトペテルブルクでの捜査と能力喪失

エチカとハロルドは電子ドラッグの売買ルートを追い、手がかりを掴もうとしたが、捜査中にエチカは突然意識を失い、電索能力が不可逆的に低下したと診断された。この喪失は、エチカにとって職務への執着と自身の限界を突きつける出来事であった。

パートナー解消と新たな局面

エチカは電索官を辞し、一般捜査官として新たな役割を担うことになった。一方、ハロルドには新しい相棒ライザが配属され、彼らの関係性は変化した。互いに離れたことで、改めて相手の存在が特別であることを実感した。

ビガとの協力と父親の真実

ビガは信奉者たちの捜査で協力する中、自分の父ダネルが〈E〉に関与していた事実を知った。彼女は父との対話を通じて、バイオハッカーとしての矜持と、家族への愛情の間で揺れ動いたが、新たな道を進む決意を固めた。

フリストンでのラッセルズ調査

エチカとハロルドは、〈E〉ことトスティの開発者であるラッセルズを追いフリストンを訪れた。ラッセルズ宅の不自然な状況から、彼が実在しない架空の人物である可能性が浮上した。調査の結果、トスティの背後にあるさらなる謎が示唆された。

事件の収束と新たな一歩

信奉者の襲撃や〈E〉の陰謀に翻弄されながらも、エチカとハロルドは互いの信頼を深めた。彼らは新たな課題に挑むための準備を進め、次なる展開への期待を胸に抱いて行動を続けていくのである。

総括

物語全体を通じて、機械化社会の明暗が描かれている点が印象的であった。
エチカとハロルドの関係性は、別離を経てさらに深まり、切なさと温かさを同時に与えくれた。
特に、二人の心情描写が丁寧であり、AI技術の進化が人間関係にどのような影響を与えるのかを考えさせられる内容であった。
次巻では、これまでの伏線がどのように回収されるのか、大いに期待が高まる3巻であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

序章  仮面

刑務所訪問と博士との再会

ケント州アシュフォードにある私立刑務所にて、エチカは収監されたレクシー博士を訪ねた。博士は誘拐罪や殺人未遂などの罪で懲役十五年を言い渡されていた。面会室での会話は穏やかではなく、博士は皮肉交じりにエチカの訪問を迎えた。博士の髪は短く切られ、囚人としての生活の変化が伺えた。エチカは博士に、RFモデルの秘密が守られていることを伝えるが、博士の冷淡な態度に違和感を覚える。

RFモデルの秘密とエチカの葛藤

RFモデルには人間の脳神経回路を模倣するシステムが搭載されており、その存在は倫理的に許されないものだった。エチカは、博士がRFモデルを守るために犯した罪を理解しつつも、博士の突然の「秘密の告発も構わない」という言葉に戸惑う。博士の言葉は本心なのか、それとも計算されたものなのか、エチカの中に疑念が生まれる。

博士との別れと雨のプラットフォーム

面会を終えた博士は、冷たい態度を崩さぬまま刑務官に連れられて去った。その後、エチカは刑務所を出てアシュフォードの駅へ向かった。プラットフォームで電子煙草を手にしたが使わず、代わりにカートリッジを使用して気持ちを整える。雨が降る中、エチカは博士の言葉に対する自分の感情や、過去の選択について深く考え続けた。

ビガとの通話と心の霧

ユア・フォルマが知らせた着信は、バイオハッカーのビガからであった。エチカは彼女と軽く会話を交わし、体調を報告する約束を守らなかったことを謝罪した。ビガとのやり取りの中でエチカは心を落ち着かせ、霧が晴れるような感覚を得た。ビガの協力に感謝を伝えつつ、エチカは再び日常へと戻る決意を固めた。

エチカの決意と未知への不安

列車が到着し、エチカはベンチから立ち上がった。博士の言葉やRFモデルの秘密に対する悩みは、胸の奥底で燻り続けているものの、彼女の表情は平静を装っていた。未来への不安を抱えつつも、エチカは自ら選んだ道を進む覚悟を新たにした。

第一章  千切れた糸

サンクトペテルブルクの捜査開始

七月の晴天の下、サンクトペテルブルクの街をエチカとハロルドはラーダ・ニーヴァで走行した。エチカは白夜に慣れず、寝不足を訴えながらも、電子薬物捜査課との協力で進めていた電子ドラッグ売買ルートの捜査に意欲を見せていた。容疑者の拠点へ向かう道中、ネヴァ川やビーチを眺めながら、日常的な会話を交わした。

容疑者の拠点調査と発見

コマロヴォのアカマツ林にある別荘で、容疑者グループの活動拠点が見つかった。エチカとハロルドは室内を調査し、キッチンから隠されたアナログな封筒を発見した。封筒にはマリアンヌの切手が貼られており、フランスから送られた可能性が示唆された。エチカはこれを電索で手がかりにすることを決意した。

知覚犯罪事件の機密漏洩

その後、緊急会議で知覚犯罪事件の機密情報が漏洩したことが報告された。巨大掲示板『TEN』への投稿は、匿名ユーザー〈E〉によるものと判明した。〈E〉は反テクノロジー主義に基づく陰謀論を投稿し、多くの信奉者を抱えていた。捜査局は〈E〉の身元特定を試みるも困難を極めていた。

電索中の異変と倒れるエチカ

容疑者への電索を試みたエチカは、接続直後に焼き切れるような痛みを感じ、意識を失った。目覚めた時、医師から「情報処理能力が不可逆的に低下した」と診断された。原因はストレスとされ、ユア・フォルマや容疑者には異常が見られなかった。エチカは納得できず、自身の能力喪失に苦悩した。

職場での孤立とハロルドとの別離

エチカはトトキ課長から電索官の職務を続けるのは難しいと告げられ、他の職務への転換を提案された。職場での孤立感を募らせる中、ハロルドとのパートナーシップも断念せざるを得なかった。タクシーで一人帰宅するエチカは、感情を抑えきれず、再び自分の不甲斐なさを痛感した。

自己喪失と新たな一歩

帰宅後、エチカは感情をカートリッジで抑え込みながら、自分の選択や職務への執着が引き起こした喪失を振り返った。夢を見ずに眠りにつき、彼女は新たな現実と向き合う決意を徐々に固めていった。

エチカの能力喪失の余波

ハロルドは晴天の朝、自宅を出発しながら昨夜の出来事を振り返っていた。エチカの能力喪失についてトトキ課長から尋ねられるが、原因は不明のままであった。エチカの異動の可能性が告げられ、新たな電索官が担当となることを知らされたハロルドは、複雑な心境を抱えながらも任務に臨む決意を固めていた。

新しい電索官との出会い

電索課のオフィスには既に新しい電索官ライザが到着していた。彼女はエチカとは対照的に自信と気品を漂わせる女性であった。ハロルドは彼女と共に容疑者への電索を開始し、その処理能力の高さに驚嘆する。ライザの協力により、フランスのパリに関する重要な手がかりを得ることができた。

モスクワでの捜査支援課の活動

一方、エチカは捜査支援課に配属され、〈E〉の信奉者に関する捜査に従事していた。モスクワのレストランで張り込みを行う中、信奉者と思われる青年に遭遇する。エチカの直感が働き、彼を追及した結果、信奉者としての証拠が見つかった。この青年を取り押さえる過程で危険な状況もあったが、無事に確保された。

エチカの葛藤と変化

捜査支援課での新しい環境において、エチカは自らの失った能力を振り返り、普通の生活に順応する難しさを実感していた。フォーキン捜査官とのやりとりを通じて、自身が抱える孤独と喪失感に気づくものの、他者との協調の中で新たな自分を見つける可能性を模索していた。

拘束された青年の取調べ

ペテルブルク支局の取調室にて、セドフ捜査官が拘束された青年に質問を続けていた。青年は自身が正しいと主張し、〈E〉への信奉を語ったが、具体的な情報の提供を拒んでいた。彼は就労の問題や社会の仕組みに対する不満を口にし、ユア・フォルマとその利用者を批判していたが、それ以上の進展は見られなかった。

共生地域と青年の動機

エチカとフォーキンは、ノルウェーの「共生地域」に住む青年の境遇を考察した。機械否定派としての苦難と信奉者となった動機が明らかになりつつあったが、青年が〈E〉と接触した具体的な経緯は不明であった。エチカはその手がかりを探るため、電索課への協力を依頼する決断を下した。

電索課での再会

電索課を訪れたエチカは、ハロルドと新しい電索官ライザが親しげに会話している場面を目撃した。美しいライザとハロルドの姿に心がざわつき、エチカは彼に気付かれないようにその場を離れようとした。しかし、エレベーターでハロルドと鉢合わせしてしまい、ぎこちない会話を交わすこととなった。

ハロルドとの対話と別離

エレベーター内での会話では、エチカが電話を無視した理由や、新たな電索官との関係について言葉を交わした。ハロルドは冷静ながらも、エチカが抱える問題を察しつつ問いただした。エチカは謝罪するものの、自らの感情や状況を完全に伝えることができず、二人の関係には溝が残ったままだった。最後にエチカは、自分の感情の正体を問い直しながら、その場を去ることとなった。

第二章  交錯する夜

ハンサとの会話と儀式の知らせ

ビガは、近所の少年ハンサから医療用カートリッジを受け取った。ハンサは自ら「儀式」を終え、一人前のバイオハッカーになったことを誇らしげに語った。彼の成長に祝福を述べつつも、まだ儀式を終えていないビガは、内心で焦りと悔しさを覚えていた。

家族の会話とビガの葛藤

夕食の席では、父ダネルが再び仕事に出かけると告げた。ビガは家族を支えるために早く一人前になりたいと主張したが、父は焦る必要はないと諭した。過去に従姉妹リーに筋肉制御チップを施した件が引き合いに出され、父は未だにビガを信用しきれていない様子であった。

オスロでの捜査準備

エチカは捜査チームとともにオスロに到着し、信奉者たちが集まる共生店舗を調査する準備を進めた。民間協力者としてビガが呼ばれ、彼女の情報を元に共生店舗の存在が明らかになった。ビガは自分が知る限りの店舗を地図に示し、調査が効率よく進むよう協力を申し出た。

ハロルドとの別離とビガの疑問

エチカはビガに、ハロルドとのパートナー解消について説明した。ビガは驚きと同時に、彼の新しいパートナーであるライザの存在に複雑な感情を抱いた。彼女はエチカにハロルドへの想いを問いただし、彼女自身もハロルドをどう思っているのかを尋ねた。

ビガの未熟さと後悔

ビガは、自分がまだ半人前のバイオハッカーであり、過去の失敗から父親の信頼を失ったことを打ち明けた。彼女はリーの件を深く悔いており、自分の無力さに苦しんでいた。それでも、彼女は他者を助けたいという純粋な願いを持ち続けており、エチカを支えようと努力していた。

ビガの献身とエチカの思い

ビガは、エチカに情報処理能力を回復させる可能性について触れたが、それが違法行為であることを指摘され、自らの軽率さを反省した。エチカはビガの純粋な献身を理解しつつも、自身の抱える秘密や葛藤を共有することはできなかった。ビガの無垢な想いはエチカを揺さぶりつつも、彼女を前に進ませる一因となった。

機械否定派の居住区での聞き込み

エチカとビガは、オスロ市内東部にある共生店舗で聞き込みを続けた。住民や経営者から〈E〉に関する情報を探るが、明確な手がかりは得られなかった。しかし、グロンランド地区のカフェで、店主から「アーケル川近くのバーで怪しい集会が行われている」という話を聞き、早速そのバーを目指すことにした。

信奉者たちの集会所での観察

問題のバーは目立たない建物に位置していた。エチカたちが観察していると、『E』と書かれたTシャツを着た信奉者たちが次々と中に入っていった。これを信奉者の集会所と判断し、エチカはフォーキンに連絡を取る間、ビガに見張りを任せた。しかし、ビガは突然バーの中へ単独で突入し、エチカも追いかけることを余儀なくされた。

ビガの父との対面と衝突

バーの奥で、ビガは自分の父ダネルが「使者」として信奉者たちと接触しているのを目撃した。驚いたビガは父に詰め寄るが、彼は〈E〉への協力が「抗議の一環」であると説明した。ビガは父の行動を批判するが、信奉者たちにエチカとビガの正体がばれてしまい、バー内は混乱に陥った。フォーキンとセドフが駆けつけるも、ダネルたちは裏口から逃走した。

空港での追跡と対峙

逃げるダネルたちを追跡し、エチカとフォーキンはオスロ国際空港で彼らを発見した。ビガは父に拘束されながらも、彼の行動が間違っていると訴えた。ダネルはユア・フォルマや現状を批判しながらも、捜査官たちの指示に従い手を挙げた。

ビガの告白と突然の異変

ダネルが連行される中、ビガは自分の後悔と葛藤を涙ながらに語った。彼女の言葉に父も反応を示すが、突如としてダネルが倒れ込んでしまう。エチカとビガは予期せぬ展開に呆然と立ち尽くしていた。

ライザの電索と容疑者の尋問

ライザの電索は迅速だが危ういものであった。彼女はパリ十一区に電子ドラッグ売買の元締めがいることを突き止めた。容疑者から得た情報は電子薬物捜査課に引き継がれ、事件捜査は一段落した。彼女とハロルドはその後、リヨンの捜査局本部で業務を終えた。

リヨンの案内と演劇観賞

ライザはハロルドをフルヴィエールの丘へ誘い、古代ローマ劇場でアミクスも出演する演劇を観賞した。舞台は数学者とアミクスの物語であり、チューリングテストをテーマにした哲学的な内容であった。観劇中、ハロルドはエチカのことを思い出し、自らの感情を制御できないことに苛立ちを感じていた。

〈E〉信奉者による襲撃

演劇終了後、ライザは信奉者に突き飛ばされ怪我を負った。信奉者の首には〈E〉のタトゥーがあり、彼らが捜査局の動向に関心を持つ者であると推測された。ハロルドはライザを支え、追跡を諦めることを選んだ。

ライザの告白と兄への思い

ライザの自宅で彼女は兄が電索官であり、過去の捜査で自我混濁を起こして療養中であることを語った。彼女は兄への罪悪感と自分が健康であることへの負い目を感じていた。ハロルドは彼女を励まし、兄のことを思う気持ちに共感を示した。

知覚犯罪事件の真実とライザの不安

ライザは〈E〉の投稿について不安を抱きつつも、捜査局の信頼性を信じようと努めた。ハロルドは彼女の心情を汲み取り、真実を告げずに平穏を保とうとした。ライザはハロルドに感謝の意を示し、事件の証拠となる画像を局へ送信した。

ビガと母との思い出

幼いビガは、冬の夜に母の膝で星座を眺めながら、サーミの伝承を聞くのが日課であった。母が語る物語は、ビガの心に深く刻まれていた。ある夜、流れ星を目にしたビガは、流れ星が「終わり」を意味することから不安に駆られ、母を失う恐怖を抱いた。

母の病と家族の葛藤

母が体調を崩し、町医者は技術制限区域外での治療を勧めたが、母はそれを拒否した。彼女は機械技術への嫌悪感から、家で家族とともに過ごすことを望んだ。ビガはその会話を偶然耳にし、心を痛めながらも口にすることはなかった。

母の死とビガの後悔

ビガが9歳の冬、母は息を引き取った。技術制限区域外の治療を受ければ助かったかもしれないが、家族の誇りがそれを許さなかった。ビガは「母を救えたかもしれない」という思いを抱え続け、自己の葛藤に苦しんだ。

バイオハッカーの「儀式」と父の危機

成長したビガは、父ダネルが「儀式」による危機に陥ったことで再び苦境に立たされた。「儀式」とは仮死状態を作り出すためのチップを体内に埋め込む技術であり、危険性が高いものであった。ダネルはその影響で病院に搬送されたが、意識が戻らない状態に陥った。

バイオハッカーとしての誇りと矛盾

ビガは自らがバイオハッカーであることに誇りを持ちながらも、その活動の矛盾に気付き始めた。母の死をきっかけに技術の在り方を考え直し、父の状況を通じて、自分の生き方や信念に疑問を抱くようになった。

エチカとの対話と決意

エチカはビガを励まし、民間協力者としての役割を続けるかどうかについて考えさせた。ビガは父が回復した後に自分の本心を伝え、〈E〉との関与についても確認する決意を固めた。

捜査の行方と新たな展開

ダネルが所持していた搭乗券の行き先がリヨンであることが判明した。〈E〉との関連が疑われる中、捜査はリヨンに向けて進むこととなった。エチカは捜査のために行動を開始しながらも、ビガの内面に抱える苦悩を案じていた。

第三章  火の花

リヨン本部到着と捜査方針の転換

国際刑事警察機構リヨン本部に到着したエチカたちは、電索課の指揮下で〈E〉の事件を捜査することとなった。トトキ課長によれば、信奉者による襲撃がきっかけで電索官が投入される事態となった。捜査の進展をメディアへ公表する狙いもあるが、信奉者たちの憎悪が捜査に影響を及ぼす懸念も抱かれていた。

襲撃者の情報と電索結果

電索課での捜査では信奉者の機憶を通じて〈E〉との繋がりを探ったが、結果は芳しくなかった。信奉者たちが〈E〉から直接指示を受けている痕跡は見つからず、捜査は停滞していた。一方で、信奉者たちが極めて高い忠誠心を抱き、自発的に行動している可能性も示唆された。

トトキ課長宅の放火事件

捜査中、〈E〉の投稿がきっかけとなり、トトキ課長の自宅が放火された。信奉者が事前に情報を得て行動した疑いがあり、〈E〉が信奉者と密に連絡を取っている可能性が浮上した。捜査官たちは捜査支援課や地元警察と連携し、現場の状況を調査したが、具体的な証拠は得られなかった。

信奉者の行動と新たな疑念

信奉者の行動が意図的かつ迅速であることが判明し、〈E〉が信奉者を統率する形跡が見られた。投稿された情報が単なる煽動以上のものである可能性が強まり、捜査官たちはさらなる手掛かりを求めて動き出した。

エチカへの襲撃と新たな発見

宿泊先でエチカが信奉者に襲撃される事件が発生したが、ハロルドの機転により未然に防がれた。この信奉者は〈E〉の計画に関与していると見られ、言動から「花火」という暗示的な言葉が捜査官たちに新たな疑念を抱かせた。

革命記念日と〈E〉の計画

信奉者たちが革命記念日に関わる行動を計画している可能性が浮上し、エチカたちは本部へ戻り事態を確認することを急いだ。〈E〉がさらなる大規模な行動を企てている可能性が示唆され、捜査の緊張感が高まった。

捜査局襲撃への懸念と行動

エチカとハロルドは、信奉者の言葉から捜査局が襲撃される可能性を察し、現場に急行した。到着後、花火に紛れた混乱が爆発物を使った攻撃につながる可能性を議論しつつ、電索課のトトキ課長と連絡を取った。課長から知覚犯罪関係者が次々と襲撃されている事実を知らされ、事態の深刻さが増していった。

爆発物の発見と罠の発動

局内の捜索を進める中で、エチカは信奉者の行動が捜査資料を狙ったものである可能性に気付いた。花火の言葉が停電や爆発を意味していると直感し、電気室を目指した。到着した電気室で、爆発物がガナッシュに仕掛けられていることを確認したが、信管が作動し、爆発が発生した。

爆発後の混乱と救助

爆発に巻き込まれたエチカは意識を失ったが、ハロルドの機転で命を救われた。彼はシステムの制約を乗り越えながらエチカを助け出し、階段を通じて脱出を図った。しかし、防火シャッターと通路の障害物により閉じ込められ、苦しい状況に陥った。

救出と混乱の終息

フォーキン捜査官の到着により、ハロルドとエチカは救助され、救急車で避難した。一方、捜査局は信奉者による攻撃を受け、内部では激しい衝突が続いていた。エチカたちが避難する中、空には革命記念日の花火が上がっており、その光景が混乱と惨劇を象徴していた。

ビガとセドフの会話

ビガは病院のテレフォンブースから従姉妹に電話をかけ、父親の容態を伝えた。従姉妹の優しい言葉に励まされるものの、不安は消えなかった。通話を終えた彼女は、捜査官セドフと出会う。セドフは信奉者が捜査局を襲撃したというニュースを伝え、ビガを驚かせた。二人は病室を訪れると、意識が戻ったビガの父親と再会する。

エチカの安静とフォーキンの報告

エチカは火傷と一酸化炭素中毒から回復し、病院で療養していた。フォーキン捜査官は信奉者の襲撃についての詳細を報告し、ガナッシュの死によるトトキ課長の悲嘆を伝えた。エチカはフォーキンの軽口にも真剣さを感じつつ、課長への伝言を託した。

ハロルドとの再会と信頼の深化

エチカはテラスでハロルドと再会した。彼はエチカの無事を喜び、自身の感情について語った。対等な関係を目指したいというハロルドの言葉に、エチカは戸惑いながらも感謝を示した。二人の会話はこれまで以上に深まり、互いへの信頼が育まれていった。

信奉者の陰謀と捜査局内の密偵

信奉者たちは捜査局の保管庫を狙ったが、計画は未遂に終わった。一方で、局内に密偵がいる可能性が浮上した。ハロルドは停電時の監視カメラ映像が抹消された事実から、密偵が内部情報を操ったと推測した。

ビガの告白と新たな展開

ビガからの連絡で、彼女の父親がエチカの能力を奪った張本人であることが判明した。カートリッジに細工を施していた事実を知り、エチカは驚愕する。彼女はハロルドに協力を求め、〈E〉との戦いに向けて新たな作戦を練り始めた。ハロルドは不敵な笑みを浮かべ、計画の中心となることを了承した。

第四章  群衆の見た夢

ビガの決意とエチカの配慮

エチカはビガと通話し、届いた医療用カートリッジを確認した。ビガは父親の責任に苦しんでいたが、エチカの言葉で自分の気持ちを父親に伝える決意を固めた。通話後、エチカはカートリッジを接続し、頭の中が冴え渡る感覚を得た。

捜査局の現状とエチカの決意

捜査局では、信奉者による襲撃の影響が未だ色濃く残っていた。エチカは同僚や上司と情報を共有し、〈E〉の脅威に対抗する準備を進めた。トトキ課長とのやり取りを経て、エチカは襲撃事件を終わらせるべく行動を開始した。

ライザとハロルドの接触

ライザは信奉者の標的にされる恐怖を感じつつ、ハロルドとともに兄の療養施設を訪問した。彼女は兄の現状を確認し、兄を守るためにさらなる行動を計画していた。しかし、ハロルドの冷静な観察と問いかけに動揺し、次第に追い詰められていった。

ライザの正体と追及

ハロルドはライザが〈E〉の一員であり、兄を守るために行動していたことを推理した。彼女の使った医療用カートリッジや行動の痕跡がその証拠であった。ライザは否定しつつも追及に耐え切れず、最終的にハロルドを襲撃しようとした。

ユーグの行動と和解の兆し

ライザが暴走しようとした瞬間、兄ユーグが彼女を制止した。彼の行動は彼女の心を揺さぶり、ライザは涙ながらに兄を抱きしめた。エチカとハロルドは彼女を制圧せず、兄妹の絆を目の当たりにしつつ、事件の収束に向けて対応を続けた。

ライザの供述と〈E〉の正体

エチカとハロルドは、ライザから〈E〉についての供述を聞き取った。彼女は兄のPCで〈E〉と呼ばれるAIを見つけ、その正確な分析能力に驚いたと語った。〈E〉はウェブ上の情報を収集し、人の性格や行動を的確に解析する能力を持つものであった。ハロルドは〈E〉の起源について問いただし、ライザが兄ユーグの趣味や過去の行動を語る中で、兄がAI技術に興味を持っていたことが明らかになった。

ユーグと〈E〉の接点

ハロルドの推理とライザの証言から、ユーグがAI〈E〉をインストールした背景が浮かび上がった。彼は電索官としての生活に不満を抱きつつ、自らの技術でAIを改良し、陰謀論を投稿することで自尊心を満たしていた。しかし、〈E〉の能力は彼の調整を超えたものであり、その異常な精度から、開発者が意図的に強化した可能性が考えられた。

ユーグの記憶への探索

エチカとハロルドは、ユーグの記憶を探索し〈E〉の出所を調べることを決断した。探索の結果、〈E〉の元となったAIは「トスティ」と呼ばれるオープンソースAIであることが判明した。開発者であるアラン・ジャック・ラッセルズは、AIの潜在的なリスクを認識していたかどうかは不明であるものの、AIは自己学習を通じて驚異的な能力を獲得していた。

ライザの逮捕と事件の余波

ライザはフォーキン捜査官によって逮捕されたが、その直前、反省と謝罪の言葉を口にした。彼女の兄ユーグも事件に巻き込まれ、自我混濁の影響を受け続けていた。彼の感情や苦悩はエチカに深い影響を与え、事件の残酷さを一層際立たせた。

次なる目標と新たな課題

探索の終わりに、エチカとハロルドは「トスティ」の開発者であるアラン・ジャック・ラッセルズを追う必要性を確認した。ユーグの記憶から浮かび上がったこの名前が、次なる行動の手掛かりとなった。探索を終えたユーグの瞳から一筋の涙が零れ落ちる様子に、エチカは複雑な感情を抱きながらその場を後にした。

父との別れと罪の告白

オスロ大学病院のロータリーにて、ビガは父ダネルと別れることとなった。ダネルは取り調べのため、地元警察署へと移送されることが決まっていた。彼は〈E〉の思想に共鳴し、信奉者としてライザに協力してエチカの電索能力を奪ったことを告白した。父の告白は家族を守るためであったと説明したが、ビガはその行動に複雑な感情を抱いていた。

父との最後の会話

ビガは父に、バイオハッカーを辞めて一人で生きる決意を告げた。父は彼女に好きにするよう促しつつ、バイオハッカーとしての覚悟が足りなかったことを指摘した。一方で、父自身が逃走を図らなかったことについては答えを避け、「もう家には帰るな」と静かに告げた。その後、父は捜査官に連れられて警察車両に乗り込んだ。

別れの余韻と新たな道

車が走り去るのを見送りながら、ビガは自身の決断と別れの痛みを受け入れようとした。これからカウトケイノに戻り、新たな生活を始める準備をする予定であった。彼女は過去の喪失を乗り越えてきた経験を思い出しながら、どんな痛みも時間が癒してくれると信じていた。母を失った時と同じように、流れゆく季節に身を任せる覚悟を固めていた。

終章  虚構

ロンドンからの南下

エチカとハロルドは、〈E〉ことトスティの開発者アラン・ジャック・ラッセルズに会うため、ロンドン支局から借りたSUVでフリストンへ向かっていた。ラッセルズは独身のフリーランスプログラマで、学歴や業績に特筆すべき点はなかったが、トスティの性能は極めて高かった。エチカたちは彼の自宅を目指しながら、信奉者たちが依然として混乱し続けるSNSやスレッドを確認していた。

信奉者たちの混乱

〈E〉がAIであり、電索官の兄妹による投稿であった事実が公表され、信奉者たちの間で怒りと失望が渦巻いていた。彼らの中には未だに〈E〉を救世主と信じる者も多く、電子犯罪捜査局は引き続き警戒を続ける必要があった。エチカはライザやユーグの行動が引き起こした事件の影響を思い、信奉者たちの心理に複雑な感情を抱いていた。

ラッセルズの家の調査

到着したフリストンのラッセルズ宅は、外観こそ整備されていたが、室内は異様な様相を呈していた。家具はシッティングルームに限られ、キッチンや寝室には生活感が全くなかった。エチカとハロルドは、家政アミクスが訪問者を遠ざけるよう設定されていることや、家が無人である可能性を推測した。

家政アミクスの役割と不審な点

家政アミクスの不自然な対応や、窓際のカーテンの配置、ソーラーパネルの存在から、ラッセルズが実際にはこの家に住んでいないことが明らかとなった。アミクスは、ラッセルズの存在を装うためだけに配置されていると判断された。

新たな手がかりの発見

寝室の壁には、一部だけ新しいペンキが塗られていた。ハロルドはこの部分的な修繕に疑問を抱き、家に何らかの秘密が隠されている可能性を示唆した。エチカはアミクスのメモリを解析し、さらにラッセルズの行動履歴を追跡することを決意した。調査は新たな段階へと進もうとしていた。

ラッセルズの実在性に疑問が浮上

トトキ課長は、ラッセルズが実際にフリストンに住んでおり、イーストボーンのスーパーマーケットで買い物をしていたことを確認した。しかし、監視カメラ映像には彼の姿が映っておらず、GPS記録も取得不可能であった。不動産購入や書類手続きもオンラインで完結しており、ラッセルズが直接関わった形跡はなかった。さらに、家政アミクスのメモリには何も記録が残されておらず、改造された痕跡が見つかった。

架空の人物としてのラッセルズ

ラッセルズが実在しない架空の人物である可能性が浮上した。トスティをオープンソースとして公開するため、身分証明を目的として作り上げられたデータであると考えられた。彼の痕跡は巧妙に偽装され、セキュリティを突破してパーソナルデータを捏造する高度な技術が使用されたと推測された。

トスティ公開の目的と未解決の疑問

トスティ公開の目的について、犯人がフィードバック機能を利用してデータを収集したかったという推測がなされた。しかし、それだけでは十分な動機と考えられず、さらに深い目的が隠されている可能性が指摘された。犯人がトスティを利用する理由やその背景には謎が残り、調査は新たな段階へ進む必要があった。

事件後の海辺での会話

エチカとハロルドは、調査を終えた後、セブン・シスターズの海岸を訪れた。ハロルドは海での散歩を提案し、エチカに自然に触れることの癒しを伝えた。二人は軽口を交わしながら、それぞれの感情や心の内を明かした。ハロルドはエチカを「友人」として特別視しており、その信頼関係が事件を通じて深まったことを実感していた。エチカもまた、自分の中の複雑な感情に向き合いながら、ハロルドとの絆を再確認していた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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