どんな本?
物語の概要
『最低ランクの冒険者、勇者少女を育てる』は、異世界と繋がりダンジョンが生まれた地球を舞台にしたライトノベルである。主人公の伊上浩介は、30歳を越えても最低ランクの冴えない冒険者であったが、ひょんなことから勇者候補の少女・瑞樹の女子高生チームに数合わせとして加わることになる。物語は、浩介が瑞樹たちと共に成長し、冒険を繰り広げる姿を描く。
主要キャラクター
• 伊上浩介:30歳を過ぎても最低ランクの冒険者。瑞樹のチームに数合わせとして参加するが、次第にその実力と人間性が明らかになっていく。
• 宮野瑞樹:勇者候補の女子高生。明るく前向きな性格で、チームのリーダーとして仲間を引っ張る。
物語の特徴
本作は、異世界と現実世界が交錯する独特の世界観を持ち、年齢差のあるキャラクターたちの交流や成長が描かれている。特に、冴えない中年冒険者である浩介が、若い仲間たちと共に冒険を通じて自己を見つめ直し、成長していく姿が読者の共感を呼ぶ。また、ダンジョン攻略やバトルシーンも緻密に描かれており、ファンタジー要素と人間ドラマが融合した作品となっている。
出版情報
• 出版社:ホビージャパン
• 発売日:2025年1月31日
• ISBN :9784798637518
読んだ本のタイトル
最低ランクの冒険者、勇者少女を育てる 7 ~俺って数合わせのおっさんじゃなかったか?~
著者: 農民ヤズー 氏
イラスト:桑島黎音 氏
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あらすじ・内容
伝説の生還者なおっさん、イギリスの勇者二人と共同戦線!?
二年生の秋を迎えて修学旅行に行くことになった瑞樹達。
しかし、行き先が竜殺しジークの活動するイギリスであることに伊上は嫌な予感を覚えていた。その予感は的中し、イギリスにやって来た瑞樹達は『元・最年少勇者』であるオリヴィアと険悪なムードになってしまう。
更にイギリスで活動中の犯罪組織『救世者軍(セイヴァーズ)』の拠点排除に協力するよう国家規模の命令までされて――
「せめて宮野に時間を寄こせ。駄目なら俺はこの国を敵とみなす」
まだ学生である宮野達のため、伊上は生還者として覚悟を決める!
感想
主な出来事は以下の通り。
作戦の背景と浩介の葛藤
浩介は、教導官として修学旅行に同行する中で、不自然な違和感を覚えた。日本政府の要請を受けて、宮野たち高校生の勇者がイギリスでの作戦に参加することになったが、浩介は彼女たちが命の危険に晒されることを心配していた。それでも宮野たちは勇者としての責務を受け入れ、自らの意志で戦う決断を下した。
修学旅行と因縁の再会
イギリス到着後、浩介は過去に因縁のある騎士団長カーターと再会した。カーターは浩介に対して強い敵意を持っており、修学旅行の裏で進行する計画に巻き込もうとしていた。ジークやオリヴィアといった現地の勇者たちも登場し、宮野たちは彼らとの関係を通じて成長していく。
戦いの始まりと勇者の覚悟
突如発生したゲートからドラゴンが現れ、街中で暴れ始めた。宮野たちはオリヴィアの厳しい指導を受けながらも、市民を守るために戦うことを決意した。彼女たちは勇者としての責任を果たすため、命懸けでドラゴンと対峙する。
敵拠点への突入と異形の子供たち
浩介とジークは、敵の拠点に突入し、実験によって生み出されたアルビノの子供たちと遭遇した。彼らは異形の存在となり、浩介は義娘ニーナを思い出しながらも、苦渋の決断を下して戦うことを選んだ。
決死の戦術と浩介の犠牲
浩介は、自身の体を犠牲にして魔石を設置し、敵を封じ込める結界を発動させた。満身創痍の状態で子供たちを解放するために戦い抜き、その後ジークと合流した。彼の行動は勇者たちに大きな影響を与えた。
戦いの終結と新たな旅の約束
戦いの後、浩介は病院で目を覚ました。宮野たちは彼の無事を喜びながらも、次の旅行の約束を取り付けた。
彼らは英国勇士勲章を受章し、正式に『勇者チーム』として認められた。浩介は次の旅が平穏であることを願いながらも入院生活を満喫する。
総括
イギリスへの修学旅行は、再び予期せぬ騒動へと発展した。
政府の計画に巻き込まれ、街中でドラゴンが暴れる事態に直面したが、宮野たちは勇者としての成長を見せた。
敵の拠点では実験体の子供たちと戦うこととなり、浩介は生還者としての真価を発揮した。
特に印象的だったのは、浩介が自身の体を犠牲にして敵を封じ込めるシーンであった。
彼の決断は痛ましくもあり、同時に彼の強さを物語っていた。
宮野たちも勇者としての覚悟を見せ、オリヴィアとの対立を乗り越えて成長していった。
物語の最後では、浩介が久々に入院することとなり、御約束なパターンで終わる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ
作戦の背景と浩介の疑念
浩介は、最初から違和感を覚えていた。なぜか教導官の中で彼だけがこの国に強引に招かれ、何かしらの事情があることは予想していた。しかし、それが過去の因縁によるものだとしても、ここまで大事になるとは思っていなかった。
政府の高官は「救世者軍」への対処が目的であることを説明し、宮野たちの協力を求めた。まだ成人していない高校生である彼女たちを危険な戦場に送り込むことに対し、一応の罪悪感を示してはいたが、それ以上に勇者としての責務を果たさせることが重要だという態度を崩さなかった。
浩介にとって、宮野たちはまだ子供であった。確かに十七歳は大人に近い年齢かもしれないが、高校生である以上は未熟であり、できることなら自由に遊ばせてやりたかった。修学旅行は人生で一度きりの貴重な時間であり、命がけの仕事ではなく、心から楽しんでもらうべきものだった。しかし、その考えはこの場では通用しなかった。
宮野たちの決断
浩介は、せめて彼女たちが危険に晒されないように動こうとしたが、彼には何の権限もなかった。結局、政府側の要請を断ることはできず、最終的に判断を下したのは宮野たち自身であった。彼女たちが決断した以上、それを尊重するしかなかった。
宮野は「何かあったとしても、みんなは私が守ります」と言い切った。その言葉がどれほど本心なのかは分からなかったが、それでも彼女は勇者としての責務を果たそうとしていた。
想定外の事態
作戦は人間の組織を相手にするものであり、予想外の事態が起こるのは当然だった。しかし、浩介はふと考えた。もし宮野たちが計画通りに動いていたら、この場所に来ていただろう。そうなれば、彼女たちは目の前の光景を目撃することになったはずだ。
「こう言うのもどうかと思うけど……これって君の娘の同類だよね?」
ジークの言葉が響く。目の前にいるのは、培養されたアルビノの子供たちだった。彼らは実験の結果として生み出された存在であり、その姿は浩介の義娘であるニーナと酷似していた。
浩介は歯を食いしばった。宮野たちがこの場にいなかったのは幸運だった。彼女たちにこんなものを見せる必要はない。いつか知ることになるかもしれないし、いずれは対処しなければならない問題かもしれない。だが、今はまだ早い。
浩介の決意
浩介は、深く息を吐いた。これが正しい選択かどうかは分からない。だが、今ここで自分にできることは決まっていた。
「――安心しろ。すぐに楽にしてやる」
たとえ、それが子供を殺すことだったとしても。
一章 楽しい修学旅行の始まり
元チームメンバーとの再会
浩介は、宮野たちの教導官としての仕事を終えた後、元チームメンバーのヒロ、ケイ、ヤスと再会した。彼らと集まるのは久しぶりであり、かつて共にダンジョンを攻略した日々を思い出させた。
ヒロが今回の集まりを提案した理由を尋ねると、浩介が修学旅行でイギリスに行く件が関係していると告げられた。イギリス側が修学旅行の行き先としてこの国を指定し、さらに「騎士団」の戦闘風景を見せる機会を提供するという異例の対応を取ったことが判明した。それが、単なる学生旅行とは思えない不自然さを感じさせるものであった。
修学旅行の決定と違和感
浩介は、宮野たちと共に修学旅行へ行くことを既に決めていたが、彼自身は強制参加という形で呼ばれていた。これは他の教導官と異なる扱いであり、何らかの意図があることは明白だった。
宮野が「一緒に観光するんですよね?」と尋ねると、浩介は「それもいいかもしれない」と応じた。彼にとっては面倒ごとが増える可能性が高かったが、それでも生徒たちと共に行動するのは悪くないと考えていた。
イギリス到着と不穏な出迎え
イギリスの空港に到着した浩介は、すぐに名指しで呼び止められた。現れたのは見知らぬ男であり、鋭い雰囲気を持つ軍人のような人物だった。彼は西洋風の鎧兜を被り、「久しぶりだな」と浩介に語りかけた。
その瞬間、浩介は過去の記憶を思い出した。以前イギリスを訪れた際、彼が嘲笑しながら逃げ回った相手――すなわち、イギリス騎士団の騎士団長その人だった。騎士団長は流暢な日本語を話し、浩介と直接話すために日本語を学んだことを明かした。
ジークとの再会と厄介な話
空港での騎士団長とのやり取りが終わると、今度はジークが現れた。彼は「ようこそイギリスへ」と笑顔で迎えつつ、浩介に重要な話があると告げた。
その内容は、この修学旅行が単なる観光ではなく、何らかの政治的、あるいは軍事的な意図が絡んでいる可能性を示唆するものであった。浩介は強制的にイギリス行きを決められたことから、この話が単なる雑談では済まないことを悟った。
騎士団長との因縁
修学旅行の初日、ホテルでの授業の際に、特別講師として現れた騎士団の一員が浩介を執拗に睨み続けた。授業が終わった後、宮野たちもそれに気づき、浩介に過去のイギリスでの出来事について問いただした。
浩介は「イレギュラーに遭遇しただけ」と説明したが、それ以上の詳細は明かさなかった。しかし、実際には過去の事件が騎士団にとって屈辱的なものであり、その影響で現在も恨みを買っている可能性があった。
騎士団長カーターとの対峙
夜、ジークに呼ばれた浩介たちは、ホテルの会議室へ向かった。そこで待ち受けていたのは、昼間に空港で出会った騎士団長だった。彼は「生還者、伊上浩介」と名指しし、改めて因縁を持ち出してきた。
浩介は「以前のことは……」と謝罪しようとしたが、騎士団長――カーターはそれを制止し、「そんな気持ちの悪い話し方はしていなかっただろう」と厳しく言い放った。
さらに、ジークが過去の事件の影響を明かした。騎士団が浩介に翻弄される様子が市民に目撃され、評判が大きく下がったのだ。その結果、騎士団の権威が揺らぎ、カーター個人にとっても大きな打撃となった。
浩介の反論と警告
浩介は「負けたくせに今更ネチネチとみみっちいこと言ってんじゃねえよ」と吐き捨てた。この発言により騎士たちの怒りが爆発寸前となったが、カーター本人は「やはりその無礼な態度の方がお前らしい」と不敵に笑った。
最後に、カーターは名乗りを上げ、「今度は覚えておけ、生還者」と告げた。その挑発的な態度に、浩介は苛立ちを覚えながらも、その後の展開を警戒せざるを得なかった。
部屋の様子と局長の不在
部屋に入ると、予想とは異なり、高級な作りの空間が広がっていた。宮野たちが授業で使っていた部屋よりも小さいが、明らかにグレードは上であった。部屋の中には何人かの騎士が待機し、壁際には秘書らしき者も数名いた。だが、呼び出した張本人であるはずの「局長」の姿は見当たらなかった。
ジークは軽い調子で椅子に座り、他の者にも座るよう促した。予定外の事態が発生し、局長の到着が遅れるとのことだった。ジークは申し訳なさそうに謝罪したが、クライは特に気にしていなかった。
「偉大な壁」との対面
ジークは新たな人物を紹介すると告げ、クライは部屋の中にいた少女へ視線を向けた。その少女こそ、「偉大な壁」と呼ばれるオリヴィア・ロックハートであり、元最年少の勇者であった。彼女はクライに対しては礼儀正しく挨拶したが、宮野たちには厳しい視線を向けていた。
ジークが彼女の胸をからかうと、オリヴィアは怒りをあらわにし、拳を振るった。しかしジークは軽くかわし、その挑発にさらに苛立った彼女は、今度はクライへと鋭い視線を向けた。
クライの英雄視
オリヴィアはクライのことを「生還者」として知っており、彼の行動を調べたことがあると語った。特に、「世界最強」を手懐けた一般人として話題になっていたらしい。クライは自分を英雄視する意見に否定的だったが、オリヴィアは彼の行動が結果として多くの人々を救い、勇者たちに影響を与えてきたことを強調した。
さらに、彼女はクライのことを覚醒者たちの目標となるべき存在だと評価していた。それはジークの変化にも影響を与えたという。クライ自身はそれを過大評価だと感じていたが、オリヴィアの態度は揺るがなかった。
騎士団との因縁と過去の事件
話が一段落したところで、ジークはクライと騎士団のいざこざについても話すべきだと提案した。しかし、話が始まる前に部屋のドアが開き、年配の女性が入ってきた。彼女こそ、超常対策局の局長シャーロット・ベルであった。
ベルは優しげな態度でクライたちに謝罪し、彼のことを以前から聞いていたと語った。そして、騎士団との過去の因縁についても触れ、クライ自身の視点から説明するよう促した。
クライは、数年前にイギリスを訪れた際、偶然突発的なゲートが開き、そこからドラゴンが出現したことを語った。彼は一般人を守るために戦い、結果的に騎士団と共闘する形になった。しかし、戦闘後に騎士団に呼び止められたため、敵意を感じて全力で逃走したという経緯があった。その際、騎士団を泥まみれにし、追跡を困難にさせたため、彼らから今も恨まれているのだろうと推測した。
事件の真相と救世者軍
ベルは、この事件に関する新たな事実を明かした。クライが戦ったあのドラゴンは、自然発生ではなく、人為的に作られたゲートから出現したものだったのだ。しかも、それは「救世者軍」という犯罪組織によるものだった。
この組織は、ゲートを発生させる技術を持ち、それを利用して戦力を増強しているらしい。さらに、彼らの拠点がこの街に存在していることも判明した。そして、彼らは単にゲートを操るだけでなく、「キメラ」と呼ばれる異形の存在を生み出していたのだった。
キメラ実験とクライへの要請
ベルは、救世者軍が人間を改造し、異形の存在を作り出している証拠を提示した。クライは、その写真に映る者たちが人工的なキメラであることをすぐに理解した。
ベルは、救世者軍の拠点を壊滅させる作戦を実行すると告げ、その作戦にクライたちの協力を求めた。特に宮野には、「勇者」としての責務があると強調した。
しかし、クライは宮野たちを巻き込むことに強く反発した。彼らはまだ学生であり、本来なら修学旅行を楽しむべきだと主張した。しかし、ベルはすでに日本政府と契約を交わしており、宮野たちの協力は既に決定事項であると告げた。
ニーナを引き合いに出すベル
さらにベルは、宮野たちが協力しない場合、「ニーナ」を作戦に呼ぶという選択肢を提示した。ニーナは救世者軍によって生み出された存在であり、今回の事件とも無関係ではない。そのため、戦力として召喚する理由は十分にあるというのだ。
クライはこの発言に強く反発した。彼はニーナを人間相手の戦場に立たせることを絶対に避けたかった。ベルはそれを理解しつつも、国を守るためにはあらゆる手段を使うと断言した。
クライの反発と交渉
クライは怒りを抑えきれず、ベルを「ババア」と罵倒し、対立姿勢を鮮明にした。騎士たちが警戒する中、彼は三日間の猶予を要求し、代わりに自身の作戦参加を確約した。ベルはその条件を受け入れ、話し合いは一旦終了した。
部屋を出る際、ベルはクライに対し、作戦の成功後には装備や素材を譲渡すると告げた。しかし、クライの心はすでに冷めきっていた。彼はベルの考えが理解できないわけではなかったが、それでも納得できるものではなかった。
決断の時
クライは宮野たちと共に部屋を後にしたが、彼の中には大きな葛藤が残っていた。ベルの要請を受けることで、宮野たちは人間相手の戦いに巻き込まれることになる。しかし、拒否すればニーナが戦場に立たされる可能性がある。
クライにとって、どちらの選択も受け入れがたいものであった。だが、彼が出した答えはすでに決まっていた。三日後、彼はこの戦いに身を投じることになるだろう。
修学旅行が決まった裏で
作戦準備と勇者の招集
シャーロット・ベルは、自室で一息ついた後、ある人物に連絡を取った。間もなくして、ジークが部屋へ現れた。彼は気軽な態度で紅茶を入れ、ソファーに腰掛けた。ベルは、浩介を呼ぶ手はずが整ったことを報告し、日本側が協力的であったことを述べた。ジークは「その分の負担は下の者に回る」と指摘しつつ、オリヴィアも同行することに疑問を呈した。ベルは、浩介の存在が表向きの理由となり、最年少勇者である彼を迎える形でオリヴィアを招集することが可能になったと説明した。勇者をこの場に三人集めるための、絶好の機会であった。
作戦の必要性と懸念
ベルは作戦の成功を強調し、ジークに協力を求めた。彼も作戦の重要性は認めつつも、浩介たちが学校行事で訪れる身であることに懸念を示した。ベルは「事情が事情だから協力してもらうしかない」と断言し、準備の時間が限られているため、到着次第すぐに呼び出すつもりだと語った。しかし、ジークはこれを「無茶だ」と一蹴し、浩介たちの行事を台無しにすることに強く反対した。
浩介の存在と計画の問題点
ジークは、浩介を騙して作戦に引き込むことへの強い抵抗を示した。ベルは、日本側の了承を得ていることを理由に、「旅行よりも国の危機が優先される」と考えていた。しかし、ジークは浩介がその「お遊び」を守るために必死だったことを指摘し、旅行を無理に壊せば逆に作戦自体が崩れる可能性があると主張した。ベルは「ジークが説得すれば問題ない」と考えていたが、彼はそれを即座に否定した。
対立と決断
ジークは、ベルの考えを「未熟」と断じ、強い口調で非難した。かつての傲慢な態度を取り戻した彼の言葉に、ベルは一瞬驚きつつも、冷静に受け止めた。彼の態度はすぐに元の穏やかなものに戻ったが、意見を変えるつもりはなかった。ベルはため息をつきながら、浩介たちの予定を極力崩さない形で作戦を進めることを決めた。ジークはその判断に満足し、部屋を後にした。
作戦の難航と新たな課題
ベルは、ジークの反応を受け、浩介の存在が作戦に与える影響の大きさを再認識した。「今回の作戦、思ったよりも面倒なことになりそうね……」と独り言を呟きながら、彼女は深いため息をついた。
二章 勇者達の思い
決断の余地と政府の意向
浩介は会議室を出た後、宮野たちへと語りかけた。政府がすでに了承している任務だが、彼女たちが受ける義務はないと伝えた。政府の意向で未成年を戦場へ送れば世論の反発は避けられず、それを盾にすれば圧力を跳ね返せると説明した。宮野たちは戸惑いながらも、最終的に個々の意志を固めていった。
浩介の過去と戦う理由
浅田が浩介の普段の行動について指摘すると、浩介は過去の戦闘は全て「仕方なく」だったと強調した。計画的な作戦に自ら関わることはなく、流される形で戦ってきたのだと説明した。北原は「困っている人がいるなら助けるべき」との意見を述べたが、浩介はそれが彼女たちの義務ではないことを改めて強調した。
若き戦士たちの意志
浩介は、修学旅行という一度しかない機会を潰すのは間違いだとし、大人が未成年に戦闘を強要する状況を嘆いた。しかし、宮野たちはそれぞれの理由を持ち、最終的に依頼を受ける決断をした。瑞樹は「勇者」としての責任を強く意識し、困っている人々を見捨てることはできないと断言した。
修学旅行と騎士団の見学
翌日、宮野たちは修学旅行の一環として、イギリスの騎士団の戦闘訓練を見学することとなった。生徒たちは武装を整え、騎士団とともにゲートへと向かった。しかし、そこにジークと共にもう一人の勇者、オリヴィア・ロックハートが同行することとなった。オリヴィアは不満げな態度を見せ、彼女が宮野たちを認めていないことが明白だった。
オリヴィアの苛立ちと対立
オリヴィアは、歴代最年少の勇者という称号を瑞樹に奪われたこと、国外の戦力を頼ることへの不満を隠さなかった。彼女は、勇者とは国民の象徴であり、仲間と馴れ合うべきではないと主張した。瑞樹は反論を試みるが、オリヴィアは「勇者には覚悟が必要だ」と一蹴した。
仲間を閉じ込める挑発
オリヴィアは挑発的な態度を取り、佳奈を土の檻に閉じ込めた。瑞樹は冷静に解放を求めたが、オリヴィアは挑戦的な言葉を投げかけた。晴華と柚子が介入し、魔法で応戦しようとしたが、オリヴィアの圧倒的な実力の前に防御は破られた。
勇者としての覚悟
オリヴィアは、瑞樹の覚悟の欠如を厳しく指摘した。勇者とは、人を助けるために他者を傷つける覚悟を持つべき存在であり、瑞樹にはその覚悟が足りないと断言した。瑞樹は反論しようとしたが、自分の戦う理由を明確に言葉にできなかった。
佳奈の反撃とオリヴィアの撤退
佳奈は自力で土の檻を破壊し、オリヴィアに食ってかかる。しかし、オリヴィアは興が削がれたとばかりにその場を去った。瑞樹たちは、オリヴィアの厳しい言葉を受け、勇者としての在り方について改めて考えさせられた。
浩介とベルの交渉
その頃、浩介はベルに呼び出され、作戦に関する新たな提案を受けていた。ベルは、宮野たちを人体実験が行われた敵拠点へは送らず、街の防衛に専念させることを提案した。それは、彼女たちに不要な負担をかけないための配慮だった。
配慮の理由と浩介の警戒
浩介は、昨日とは打って変わったベルの態度に疑念を抱いた。ベルは、「浩介が想定以上に宮野たちを大事にしていると理解した」と説明し、彼の影響力を考慮した対応だと語った。さらに、ジークから「浩介を敵に回すのは最悪の選択」との忠告を受けたことも明かした。
決断と戦いの行方
最終的に浩介は、宮野たちを街の防衛に留める方針を受け入れた。しかし、戦いが始まれば、どのような事態が待ち受けているかは未知数であった。浩介は宮野たちの未来を守るため、そして自身の責務を果たすために、作戦に臨む覚悟を決めた。
騎士団拠点での準備とジークの訪問
浩介は騎士団の拠点へと案内されたが、ジークが途中で離れたため、カーターと共に過ごすことになった。気まずい時間を経て、装備の準備に取り掛かった。数時間後、特殊な装備を作成していたところ、ジークが訪れた。浩介は「奥の手」と称する装備について説明し、過去に一度だけ使用したことを明かした。ジークはその技術の詳細を尋ね、浩介は「連結魔石」という技術を説明した。
連結魔石の技術とその意義
浩介の「連結魔石」は複数の魔石を一つの存在として使用できるようにする技術であった。通常、魔石は単独で使用され、複数を組み合わせると反発が生じる。しかし、この技術により、魔力の抽出時に生じるエネルギーロスを回避できる可能性があった。ジークはそれが「稀代の発明」であると驚いたが、浩介は「自分の体を媒体にする」ことでしか実現できない方法であると説明した。その過程は極めて苦痛を伴い、使用者を選ぶ技術であった。
浩介の過去と勇者たちの視点
ジークは浩介が「生還者」として英雄視される理由を理解したと語った。彼は勇者や英雄と呼ばれる存在が浩介に憧れていることを説明し、「君こそが勇者の象徴だ」と述べた。浩介自身はそれを否定したが、ジークは「勇者たちが道を誤らずにいられるのは君がいるからだ」と強調した。浩介の行動が、彼らにとって目標となっているのだという。
オリヴィアとの食事と彼女の信念
その後、浩介は宮野たちと夕食を共にした。彼女たちは観光を楽しみつつも、オリヴィアとの対立について語った。その翌日、瑞樹たちはロンドン市内でオリヴィアの勇者としての活動を目撃した。市民に感謝される彼女の態度は冷たく、瑞樹たちはその理由を理解できずにいた。そこで瑞樹はオリヴィアと話をする機会を得るため、昼食へと誘った。最初は拒絶したオリヴィアだったが、挑発に乗る形で同行することになった。
オリヴィアの決意と勇者としての使命
食事の場で、オリヴィアは自身の信念を語った。彼女は勇者として「失敗は許されない」とし、国と国民を守るためには冷徹な判断が必要だと考えていた。そして、「千人を犠牲にしても、その十倍を救う」とまで言い切った。瑞樹たちはその言葉に圧倒されつつも、彼女の本心を理解しきれずにいた。オリヴィアは「甘い考えは誰かを殺す毒になる」と告げ、席を立ち去った。瑞樹たちは彼女の言葉を噛み締めながら、再び観光へと戻っていった。
三章 『勇者』と共闘
騎士団の呼び出し
浩介は宮野達を見送った後、一人で騎士団の拠点へ向かった。本来は気が進まなかったが、戦いに備え準備を整えるためには仕方なかった。せめてもの意趣返しとして、高価な装備を揃えるつもりでいた。
街を歩いている最中、カーターが車で現れ、乗るように命じた。行き先は大聖堂だった。元々向かうつもりだったが、カーターの様子からただの送迎ではないと察し、不穏な気配を感じ取った。
車内での会話で、敵の動きに異変があることが伝えられた。今までの行動パターンと異なり、何らかの準備を進めている可能性があった。カーターはそれを予測し、浩介に意見を求めた。そして、想定外の事態に備えるため、浩介自身が「想定外」の戦力として動くべきだと示唆した。
ロンドン観光と異変の兆し
一方、宮野達はシャーロック・ホームズ博物館を訪れていた。観光を楽しみながら、作中の小道具や展示について語り合った。しかし、晴華が急に警戒の表情を浮かべ、周囲を見回し始めた。
晴華によると、空気中の魔力が異常に薄くなっていた。普段なら一定の濃度を保つはずの魔力が、何者かによって操作され、特定の方向へと集められているらしい。その方向を探るため、四人は浩介に連絡を取った。
浩介は状況を確認すると、舌打ちをした後、周囲と何か話し始めた。しかし、その最中に突然の爆発音が響き、電話の向こうから怒声が飛び交った。佳奈が慌てて呼びかけるが、浩介の声は聞こえず、通話は途切れた。
同時に、彼女たちの近くでも爆発が発生し、黒煙が上がるのが見えた。騎士団の拠点だけでなく、市街地の複数の地点で何かが起こっていることは明らかだった。
巨大な壁の出現
爆発の原因を探るべく四人は周囲を警戒しながら移動した。その中で、柚子が突然壁の存在に気づいた。それはビルほどの高さを持ち、街を分断するように聳え立っていた。
晴華が魔力の流れを観察すると、壁の向こう側へと魔力が集中していることが分かった。壁の先では何かが起こっているのは明らかだったため、四人はそちらへ向かうことを決めた。
武器の準備を整え、壁の上へと昇ると、そこにはオリヴィアがいた。彼女はゲートから溢れ出るモンスターを食い止めるため、巨大な壁を築いていたのだった。すでに多くのモンスターが倒されていたが、問題は別のところにあった。
壁の内部にはまだ取り残された市民がいた。瑞樹はオリヴィアに壁を開けるよう訴えたが、彼女は拒否した。多くの命を守るために、犠牲は避けられないと考えていたからだった。
『勇者』の覚悟
オリヴィアは「全員を救うことはできない」と断言した。彼女は過去に助けられなかった命の重みを知り、それ以来、多数を救うために少数を切り捨てるという判断を下すようになった。しかし、それを認めることは瑞樹にはできなかった。
「困っている人がいるなら助けるべきだ」と主張する瑞樹に対し、オリヴィアは激昂し、現実を突きつけた。誰も彼もを助けることは不可能だと。しかし、瑞樹は諦めなかった。仲間たちと共に壁の内部へ降り、モンスターを倒しながら市民を救う行動を開始した。
オリヴィアはそれを見届けながら、彼女なりの『勇者』としての道を貫くべく戦い続けていた。
ドラゴンの襲来と決意
市民の救助活動が続く中、突然、ゲートから異様な咆哮が響いた。そこに現れたのは、特級モンスターの中でも最上位に位置するドラゴンだった。オリヴィアの築いた壁は簡単に破壊され、街が直接危険に晒される事態となった。
瑞樹はすぐに浩介へと連絡を取り、状況を伝えた。浩介は即座に「逃げろ」と指示を出した。しかし、瑞樹はそれを拒否した。オリヴィア一人で戦うには限界があり、彼女を見捨てることはできなかった。
そこへジークが介入し、「逃げるな」と告げた。浩介の教え子であり、皆を救う英雄の弟子であるならば、ここで退いてはならないと強く言い放った。その言葉に瑞樹は覚悟を決め、「私達がみんなを守ります」と答えた。
浩介は悪態をつきながらも、最後に「絶対に死ぬな」とだけ言い、電話を切った。瑞樹達は、ドラゴンに立ち向かうための戦いへと身を投じた。
ドラゴンとの戦いと瑞樹の決意
オリヴィアの苦闘
オリヴィアは巨大な壁を用いてドラゴンの動きを封じていたが、その場しのぎに過ぎず、根本的な打開策はなかった。戦いを長引かせることで自身の消耗が激しくなり、焦りが募っていった。そんな中、突然ドラゴンを押さえつけていた抵抗が弱まり、異変を察したオリヴィアは警戒を強める。
瑞樹の申し出と対立
瑞樹が現れ、「共に戦おう」と申し出たが、オリヴィアは「勇者」である自負から協力を拒否する。彼女は瑞樹の理想を「妄想」と切り捨て、自分一人で戦おうとする。しかし瑞樹は「誰も見捨てない覚悟がある」と宣言し、対立はさらに激化した。
佳奈たちの奮闘
一方、地上では佳奈たちがドラゴンと戦っていたが、武器の不足と敵の強さに苦戦していた。瑞樹が加勢し、仲間たちは再び戦意を高める。だが、ドラゴンは圧倒的な耐久力を誇り、彼女たちの攻撃も決定打にはならなかった。
オリヴィアの変化と武器の提供
オリヴィアは戦いの様子を見て考えを変え、瑞樹たちに「エクスカリバー」と「ミョルニル」という魔法の武器を与えた。瑞樹を「勇者」として少し認めつつも、佳奈には冷淡な態度を崩さなかった。
ドラゴン討伐と新たな脅威
瑞樹と佳奈は新たな武器を使い、連携攻撃でついにドラゴンを討ち取る。しかし安堵する間もなく、新たなドラゴンがゲートから現れ、戦いは終わらなかった。
オリヴィアとの共闘
オリヴィアは「余所者に名誉を奪われるわけにはいかない」と言い、自らも戦闘に加わる。彼女の強力な魔法「ゲイ・ボルグ」がドラゴンを貫き、瑞樹と佳奈はその隙を突いてとどめを刺した。
オリヴィアの認識の変化
戦いが終わり、オリヴィアは無意識のうちに瑞樹を「勇者」と呼んでいた。それを指摘されると否定しつつも、「少しだけ認めてもいい」としぶしぶ認めた。瑞樹はその変化を嬉しく思い、これからも「勇者」としての道を歩む決意を新たにした。
大聖堂への襲撃とジークの決意
襲撃の終結と疑念
宮野たちがドラゴンと戦っている一方、ジークと彼の仲間たちは大聖堂を襲撃してきた敵を制圧していた。しかし、規模のわりに敵の攻撃は浅く、「本命の作戦が別にあるのでは」と疑念が生じた。
新たな脅威—ドラゴンの群れ
突如、建物の隅で魔力の異変が起こり、新たなゲートが開かれた。そこから現れたのはドラゴン。その数は次々と増え、最終的には八体にまで達した。
竜殺しの勇者の実力
ジークは冷静に「ドラゴンの弱点」を解説しながら、一撃でドラゴンの首を切り落とした。その圧倒的な実力に、敵の策略は通用しなかった。
ジークの獰猛な笑み
次々と現れるドラゴンを前に、ジークはまるで楽しむかのように微笑んだ。「竜殺しの勇者」にとって、この戦いは己の存在意義を示す場であり、敵の思惑を逆手に取る機会でもあった。彼は仲間たちに協力を求めつつ、「さあ、狩りを始めよう」と言わんばかりに戦場へと踏み出していった。
四章 氷の覚悟
ドラゴン討伐後の余韻
ジークは巨大な剣を担ぎながら笑っていたが、その全身はドラゴンの血で染まっていた。夜道で遭遇すれば恐怖を誘う姿だった。「楽に終わった」と軽口を叩くジークに対し、浩介は呆れつつも、周囲の被害の大きさを見渡した。街の建物は大きく破壊され、多くの負傷者が手当てを受けていたが、それでも死者が出なかったのは奇跡的だった。ジークは「ドラゴンが弱かった」と語るが、そもそもドラゴンが現れる時点で脅威であり、今回の戦いが容易に済んだのは、ここに戦力が揃っていたこと、そして「竜殺しの勇者」がいたためだった。
ゲートの不穏な兆候
ジークはドラゴンを召喚したゲートの跡を睨みつけ、「まだ未完成なものではないか」と推測した。ゲートはドラゴンを吐き出し終えた時点で消滅しており、もし敵がさらなる強力なゲートを作れるようになれば、より深刻な事態を招く可能性があった。浩介もその意見に同意し、これが単なる奇襲ではなく、何らかの試作品であると考えた。完成形に遭遇しないことを祈るばかりだった。
宮野からの報告
そんな中、宮野から電話が入った。ジークは「電話が来たということは生存している」と安堵したが、浩介は「安全とは限らない」と警戒しながら通話に応じた。宮野は興奮した声で「ドラゴンを倒した」と報告し、ロックハートの協力を得たものの、誰一人として負傷せずに済んだことを誇らしげに語った。浩介はその成果を讃え、宮野たちの成長を認めた。そして、戦いは終わっていないことを伝え、周囲の警戒を続けるよう指示した。
新たな敵の拠点への突入
カーターからの依頼で、敵の拠点を急襲することになった。新たなゲートが開いたため、国軍と騎士団の一部は対応に向かっており、敵がこれ以上ゲートを増やす前に拠点を潰す必要があった。浩介とジークは襲撃部隊に加わったが、宮野たちは街の防衛に残された。敵の拠点は一見すると普通のスーパーだったが、地下へ続く隠し通路が見つかり、そこで待ち伏せしていた敵と交戦になった。敵は銃火器を使用していたが、ジークの圧倒的な力によって制圧された。
異形の子供たち
地下を進むと、大量の培養器が並ぶ異様な光景が広がっていた。その中にはアルビノの子供たちが液体に浸かっており、意識はなかった。浩介はその姿に、自分の義娘であるニーナを重ね、激しい怒りを覚えた。ジークもこの状況に動揺しつつ、「どうするか」と問うたが、今は敵を倒すことが優先だった。しかし、その瞬間、銃弾が飛んできて培養器の一つが破壊され、中の子供が崩れ落ちた。
人質としての子供たち
敵は培養器の子供たちを人質に取り、攻撃を抑制しようとした。ジークは敵の気を逸らすために囮となり、圧倒的な耐久力で敵の注意を引いた。浩介はその隙に敵の通信機を探し、敵の動向を把握しようとしたが、事態は急変する。敵の一人が突如として薬を使用し、異形の怪物へと変貌した。その圧倒的な力に騎士団は苦戦し、通常の攻撃が通じないことが判明した。ジークが戦線に入り、一撃で怪物を討ち倒したが、これが量産されるとなれば事態は深刻だった。
子供たちの変異
突然、培養器の子供たちが苦しみだし、悲鳴を上げた。直後、彼らの身体が変異し、異形の怪物へと変わっていった。これが「キメラ」と呼ばれる存在であることは明白だった。子供たちは虚ろな目をしたまま襲いかかり、騎士団はやむを得ず攻撃を開始した。しかし、銃弾も剣も効かず、首を斬っても再生する異常な耐久力を持っていた。ジークは敵を追うため、浩介に後処理を任せる決断を下した。
子供たちの哀願と戦闘
子供たちは意識がありながらも操られ、浩介に向かって「助けて」と声を上げた。しかし、もはや彼らを助ける術はなく、戦うしかなかった。浩介は爆弾や武器を駆使し、徹底的に子供たちを仕留めていったが、彼らの「殺して」という哀願が頭から離れなかった。戦闘の中で、彼は怒りと無力感に苛まれながらも、子供たちを楽にするために最後まで戦い抜いた。
戦いの終焉と決意
戦いの果てに、浩介は息を切らしながらも、残る異形の子供たちを全て討ち果たした。彼は血まみれになった手を見つめ、心の中で叫びながら、ただ呟いた。「クソッタレな世の中だ」。戦いの勝利は得られたが、彼の心に残ったのは、助けられなかった命への悔しさだった。
決死の戦術
爆発を利用して子供たちから距離を取ると、浩介は痛みに耐えながら目的の場所へと走った。敵が集中していたため、その場には誰もいなかった。自身の血を使って地面に模様を描き、そこに細工を施したドラゴンの魔石を固定した。異物が体内に流れ込み暴れたが、それを抑えながら次の地点へと向かう。煙幕を使い、子供たちの中を突破して同じ作業を繰り返した。しかし、次第に敵も対応を学び、煙幕の中でも攻撃を仕掛けてくるようになった。
極限の戦いと消耗
三つ目、四つ目と作業を終えたが、五つ目を設置する頃には浩介の体力が限界に近づいていた。長時間の全力戦闘に加え、痛みを伴う作業が重なり、膝から力が抜けてしまう。それでも意志の力で立ち上がり、なんとか六つ目を設置した。しかし、気の緩みが生じた瞬間、岩が飛んできて左足を潰された。痛みに耐えながらも、次の攻撃を回避しようとしたが、触手に捕まり床へ何度も叩きつけられた。
決断と犠牲
逆さまに吊るされた状態で、浩介は周囲の魔力を察知した。十以上の魔法が自身に向けられ、避ける術はなかった。ならば、と彼は究極の選択をする。触手に捕まっているのが問題なら、そこを切り落とせばいい。浩介は左足を断ち、放たれた魔法の爆風から間一髪で逃れた。しかし、その影響で左腕も焼かれ砕け、右手と右足しか使えない状態に陥る。それでも最後の目的地へと向かい、爆弾を使って道を切り開いた。
最後の仕上げ
満身創痍の状態で目的地へ辿り着いた浩介は、七つの魔石を連結し、結界を発動させた。その瞬間、空間ごと凍りつき、子供たちの動きは完全に止まった。氷は七角形の内側にあるすべてを封じ、建物の一部までも凍らせた。最後の仕上げとして、銃を拾い氷へ向けて引き金を引く。弾丸が氷に命中した瞬間、澄んだ音を立てて氷は砕け散り、中にいた子供たちも消え去った。「悪いな、救ってやれなくて」――浩介は天を見上げ、静かに目を瞑った。
戦いの終結
壁に寄りかかりながら休息を取っていると、ジークが戻ってきた。彼は浩介の負傷を目の当たりにし、治癒魔法を扱える軍人が駆け寄った。最低限の治療が施されたが、失った手足はすぐには戻らない。ジークは「戦車数台とバケモノ数体を相手にした」と報告し、「問題なかった」と微笑んだ。浩介は「自分が戦車と戦ったら死んでいた」と皮肉を返しながらも、戦況を確認する。ジークは「ここが最も危険だったが、他の戦場はなんとかなる」と伝えた。
英雄の光
ジークは浩介を見つめ、「君は皆の憧れだが、少し眩しすぎる」と漏らした。浩介は「なら目が眩まないように、お前ももっと輝け」と返す。ジークは「勇者として、もっと輝いてみせる」と微笑んだ。そして、戦場の整理が進む中、浩介は「そろそろ限界だ」と自覚し、意識を手放す。すべてが終わった時には、事態が収束していることを願いながら――。
エピローグ
病室での再会
浩介は病院のベッドにいた。あれだけの大怪我を負ったのだから当然だった。だが、目の前の宮野と浅田は不機嫌そうにしながら、彼の手足を突いたりしていた。「知るかそんなん」と浩介は答えたが、最初に再会した時は泣かれたほどだったので、これでもまだマシな反応だった。北原が「またこの国に招待される」と話を逸らし、宮野たちは複雑な表情を浮かべた。
再び与えられた旅行の機会
修学旅行がドラゴン退治で台無しになったことを受け、生徒たちはもう一度この国に旅行する機会を与えられた。宿泊は最高級の施設で、費用はすべて相手持ちだった。しかし、それはあくまでも補填であり、本命は別にあった。宮野たちは英国勇士勲章を受章していた。これは他国の勇者でありながら市民を守り、ドラゴンを倒した気高さと強さを称えるものだった。ただし、大々的な表彰ではなく、ホテルの会議室で行われた簡易的なものだった。
勇者チームとしての認定
オリヴィアとジークは、宮野たちを『勇者チーム』として正式に認めた。オリヴィアは当初宮野たちを認めていなかったが、共闘を経て態度が変わったのだろう。終始そっけない態度だったが、以前よりも会話が成立するようになったという。ジークもまた、以前は将来性を認めていただけだったが、今回の戦いを経て正式に『勇者』と認める発言をした。それは表彰の場で意図的に行われ、宮野たちを余計な敵から守る盾となる意味もあったようだ。
次の旅行計画
次の旅行はいつになるのかという話題になり、卒業旅行が有力視された。春休みや夏休みも選択肢にはあったが、今回の件の後始末もあるため、時期としては妥当だった。宮野たちは一年後という期間に不満そうだったが、浩介は「普通の学生はそんな頻繁に海外旅行はしない」と諭した。さらに、浅田が「次も一緒に来てくれるの?」と問い、浩介が「その時の状況次第」と答えたが、宮野は「来てくれるに決まってる」と笑いながら釘を刺した。
約束と新たな不安
宮野と浅田に押し切られ、浩介は次の旅行への同行を約束させられた。「また一緒に来ましょうね」と微笑む二人を前に、彼は深いため息をついた。心の中で「もう何も起きないといいが」と願いながらも、既に嫌な予感を覚えていた。
同シリーズ
最低ランクの冒険者、勇者少女を育てる







その他フィクション

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