どんな本?
本作は、芸能界を舞台にした転生要素を含む物語である。主人公は双子の兄妹であるアクアとルビー。彼らは前世の記憶を持ち、推していたアイドル・B小町のアイの子供として転生する。アイの突然の死を機に、それぞれ異なる道を歩むことになる。アクアは母の死の真相を追い、芸能界へと足を踏み入れ、ルビーはアイドルとしての夢を叶えるべく奮闘する。恋愛リアリティショーやアイドル活動など、華やかな世界の裏に潜む現実が描かれる作品である。
主要キャラクター
• アクア:前世の記憶を持つ少年。母の死の謎を追うため、芸能界へと身を投じる。冷静かつ策略的な性格であり、目的のためなら手段を選ばないこともある。
• ルビー:アクアの双子の妹。前世の記憶を持ち、アイドルへの強い憧れを抱く。新生『B小町』として活動を始め、芸能界の厳しさを知りながらも成長していく。
物語の特徴
芸能界の光と闇をリアルに描写しながら、転生という要素を取り入れた点が本作の特徴である。華やかな世界の裏に潜む陰謀や、登場人物たちの葛藤が重厚に描かれており、読者を惹きつける。芸能界というフィールドを活かしたドラマティックな展開と、キャラクターたちの心理描写が魅力の作品である。
出版情報
• 出版社:集英社みらい文庫
• 発売日:2024年8月23日
• ISBNコード:978-4-08-321867-5
本書はオールふりがな付きで、挿絵も豊富に収録されており、幅広い読者層に向けた作品となっている。
読んだ本のタイトル
【推しの子】まんがノベライズ
アクアとルビー、運命のはじまり
原作:赤坂アカ ×横槍メンゴ 氏
著者:はのまきみ 氏
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あらすじ・内容
- 推しのアイドル、B小町・アイの子に転生し、
前世の記憶を持ったまま、“赤ちゃんライフ”を満喫する双子のアクアとルビー。
アイは双子を出産したことを隠し、
芸能界のスターダムをかけあがっていくが、“最悪”の事件が起こり!?
双子は高校生になり、アクアは事件の復讐のために、
ルビーはアイのように輝くために、芸能界にとびこんで――!? - 【推しの子】まんがノベライズ
アクアとルビー、運命のはじまり
華やかな舞台への第一歩
テレビ局のスタジオには、まばゆい光が降り注いでいた。その中を歩む二人の兄妹――アクアとルビー。彼らの瞳には、特別な輝きが宿っていた。その光は、かつて母・星野アイが持っていたものと同じであり、芸能界に生まれ落ちた運命を示すかのようであった。
推しのアイドルと運命の交錯
産婦人科医である雨宮ゴローは、アイドルグループ「B小町」のセンター・アイの熱心なファンであった。ある日、彼は担当する患者として、アイ本人と出会う。彼女は十六歳にして双子を妊娠しており、母となる決意を固めていた。ゴローは彼女を支えることを誓ったが、突如として襲撃され、命を落とすこととなる。しかし、気がつくと彼はアイの息子・アクアとして転生していた。
双子の新たな人生
アクアには双子の妹、ルビーがいた。彼女もまた、前世の記憶を持つ転生者であり、かつてのゴローの患者・さりなであった。二人は赤子としての生活を送りながらも、母・アイの愛情を受け、特別な環境の中で成長していった。やがてアイが復帰し、アイドルとして再び脚光を浴びると、彼らの運命も大きく動き始める。
突きつけられる芸能界の現実
芸能界は華やかに見えて、その裏では厳しい現実があった。アイの人気が再燃する一方で、収益の少なさや事務所の搾取に直面する。さらに、彼女の周囲には不穏な影が忍び寄っていた。やがて訪れたB小町のドーム公演の前日、彼女はストーカーの凶刃に倒れる。アクアは母の死を目の当たりにし、その裏に潜む真実を追い求める決意を固めた。
芸能界への挑戦
アイを失ったアクアとルビーは、それぞれの想いを胸に芸能界へ足を踏み入れる。ルビーは母と同じアイドルの道を志し、アクアは復讐のために業界に潜り込むことを決めた。彼の目標は、母の死の真相を暴くことであり、その鍵を握るのが芸能界の権力者たちであった。
アイドルと俳優の道
ルビーは苺プロダクションのアイドルとしてデビューを目指し、有馬かなを勧誘する。一方のアクアは、あるドラマへの出演を決める。それは、母の死に関わるとされるプロデューサーと接触するためであった。舞台の幕は上がり、二人の道は大きく分かれながらも、運命に導かれるように交差していく。
感想
物語の奥深さ
マンガとは異なり、文章だからこそ伝わる心理描写が豊かであった。
登場人物の感情の機微が細かく描かれ、より深く物語を味わうことができた。
フリガナが多く、小さな子ども向けに調整されている点は気になったが、それも作品の特性と考えれば納得できる。
転生という設定の面白さ
推しのアイドルの子どもに生まれ変わるという設定は、非常に興味深かった。
ゴローとさりな、それぞれの前世の記憶が、双子の人生にどのように影響していくのかが見どころである。
特に、アクアの冷静な思考とルビーの明るい性格の対比が際立っていた。
芸能界のリアルな描写
物語はシンデレラストーリーのように見えるが、その裏では業界の厳しさや不条理が垣間見えた。
成功する者と淘汰される者、嘘と真実が交錯する世界で、アクアとルビーがどのように生き抜いていくのかが気になる展開であった。
五反田監督の存在感
作中の五反田監督とその母親のやり取りが特に印象に残った。
シリアスな展開の中で、彼らの会話が程よい緩和剤となっており、思わず笑ってしまう場面もあった。
こうしたユーモアが物語にバランスをもたらしていた。
有馬かなの魅力
かなの存在も見逃せない。
かつての天才子役が、芸能界で生き残るために奮闘する姿は魅力的であった。
彼女の再起とアクアとの関係がどのように変化していくのか、続きが気になるポイントであった。
総評
本作は、芸能界の華やかさと裏側の現実をリアルに描きつつ、転生という要素を巧みに組み込んだ作品であった。
アクアの復讐の行方、ルビーのアイドルとしての成長、そして二人を取り巻く人々の関係性が今後どのように展開していくのか、期待せずにはいられない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ
華やかなスタジオの光景
テレビ局のスタジオでは、バラエティ番組の収録が進行していた。セットにはまばゆい照明が当たり、タレントたちが整然と座っていた。その場に、新たな二人の姿が加わろうとしていた。
輝きを放つ兄妹
少女と少年がスタジオへ向かって歩みを進めていた。彼らは後ろ姿だけでも華やかなオーラを放ち、周囲の視線を集めていた。スタッフの声が響き、ルビーとアクアの登場が告げられる。少女はセット横に立ち、メイクスタッフが慎重に頬へパフを当てていた。
収録直前の静寂
少女は目を閉じ、無言でその瞬間を待っていた。スタジオには緊張感が漂い、VTR明けのカウントダウンが始まる。ADの合図とともに、少女は力強く瞼を開いた。その左目には、きらめく星が宿っていた。少年の右目にも、同じ光が輝いていた。それは、見る者を魅了する特別な輝きであった。
受け継がれた光
その光は、彼らの母も持っていたものである。生まれながらにして芸能界への道が約束された者の証のように、二人の瞳には特別な光が宿っていた。
1 母と子
芸能界と嘘の関係
芸能界は虚構に満ちており、アイドルの世界も例外ではなかった。事実を都合よく隠し、誇張や演出を重ねることで、完璧な偶像が作り上げられる。それを受け入れ、楽しむことこそがファンの在り方であった。
熱狂する医師
雨宮ゴローは産婦人科医でありながら、アイドルグループ「B小町」のセンター・アイの熱狂的なファンであった。彼は病院の病室でライブ映像を鑑賞し、興奮を抑えきれずにアイの魅力を語っていた。若い看護師からの呆れた視線にもかかわらず、彼は布教活動の一環だと主張し、自らの推しへの情熱を隠そうとはしなかった。
アイの活動休止の報せ
ある日、看護師からアイの体調不良による活動休止のニュースを知らされる。ゴローはショックを受け、思わず叫び声を上げる。その反応に看護師はさらに呆れ、彼の信仰心の深さを改めて実感することとなった。
かつての患者との出会い
ゴローは研修医時代、一人の少女と出会っていた。彼女の名はさりな。病気のため長らく入院生活を送っていたが、「B小町」の大ファンであり、特にアイに憧れていた。彼女は部屋をアイのグッズで埋め尽くし、ライブ映像を楽しみながら、いつかアイのようになりたいと夢を語っていた。
叶わなかった夢
さりなは自身の病状を理解しており、「生まれ変わったらアイのような美少女になりたい」と冗談交じりに語った。ゴローはそんな彼女を慰め、退院したらアイドルになることを勧めたが、その約束が果たされることはなかった。さりなは十二歳でこの世を去ったのである。
突然の出会い
ある日、ゴローの診察室を訪れたのは、キャップを深くかぶった若い女性だった。問診票を確認した彼は、患者の名が「星野アイ」であることに気づく。目の前にいるのは、まさしく彼が推していたアイその人であった。そして彼女は妊娠二十週、しかも双子を宿していた。
アイの決意
アイは十六歳という若さで妊娠していたが、出産を決意していた。彼女は「アイドルは偶像であり、嘘を重ねることこそがファンへの愛だ」と語る。アイドルとしての輝きを保ちつつ、母親としての幸せも掴むというのが、彼女の望みであった。
ゴローの覚悟
ゴローはアイの安全な出産を支えることを決意した。彼女の健康管理に全力を尽くし、母子ともに無事に生まれるよう尽力する日々が始まった。
突然の襲撃
出産が間近に迫ったある日、ゴローは病院の帰り道で見知らぬ男に呼び止められる。男はアイの担当医であることを確認した後、突然逃走した。ゴローが後を追おうとした瞬間、背後から襲われ、崖下へと突き落とされる。
最期の思考
意識が薄れる中、ゴローの脳裏にはさりなの言葉が浮かんでいた。「もし芸能人の子どもに生まれていたら――」という彼女の問いが、今になって現実のものとなるかのように響く。そして、その夜、アイは無事に双子を出産した。彼女は涙を浮かべながら、我が子を抱きしめたのである。
2 兄と妹、ベビーシッター
女優としての挑戦
星野ルビーはインタビューで、アイドル活動と同じく女優の仕事も挑戦の一つであると語った。彼女は、自信を持って撮影に臨んでおり、その理由の一つに「最も信頼できる存在」である兄の存在を挙げていた。
新たな人生の始まり
一方、宮崎の病院で産婦人科医をしていた雨宮ゴローは、死後、星野アイの子として転生していた。右目に星を宿す赤ん坊として生まれた彼は、「愛久愛海(アクア)」という名を与えられ、新たな人生を歩み始めた。
受け入れがたい現実
ゴローは転生の原理を理解できぬまま、赤子としての生活を余儀なくされていた。しかし、推しであるアイに甘やかされる環境は、元社会人の心を癒やすものでもあった。
双子の存在
彼には双子の妹、星野瑠美衣(ルビー)がいた。彼女も左目に星を宿し、赤ん坊ながら強烈な個性を持っていた。泣き叫ぶルビーに対し、アイは時折名前を間違えながらも愛情を注いでいた。
事務所との関係
アイの所属する事務所「苺プロ」の社長である斉藤壱護と、その妻であるミヤコは、アイの復帰に向けた準備を進めていた。アイドルとしての活動を続けるため、彼女の母親であることは公にせず、子どもたちはミヤコの子として扱うことが決定された。
復帰と緊張感
アイは歌番組で復帰を果たし、スタジオには緊張感が漂っていた。スタッフや関係者の中には、B小町に対して懐疑的な者も多かった。しかし、イントロが流れた瞬間、アイの圧倒的なパフォーマンスが周囲を魅了し、場の空気を一変させた。
視聴者の反応
番組を見ていたアクアとルビーも、アイの輝きに圧倒されていた。ルビーは興奮し、ドルオタらしい感想を次々と口にした。一方でアクアは、彼女の秘密を抱えたままアイドルとしての道を歩む決意に複雑な感情を抱いていた。
影に潜む男
アイの復帰を見つめる一人の男がいた。彼はスマートフォンの画面を睨みながら、怒りと失望に満ちた表情を浮かべていた。「嘘つき」と呟く彼の正体は不明だったが、その視線には強い執着が感じられた。
秘密を守るための策
一方、ミヤコは子どもたちの存在を公表しようと考えていた。しかし、アクアとルビーは巧みに彼女を説得し、「神の使い」を装って秘密を守るよう仕向けた。ミヤコはその言葉を信じ込み、結果として彼らの協力者となることを決意した。
転生者たちの関係
ルビーもまた、前世の記憶を持つ転生者であった。彼女の行動や発言から、アクアはその事実を察し、互いに生まれ変わりとしての理解を深めることになった。
母と子の関係
アイは、赤ん坊の二人を愛情深く育てながらも、アイドルとしての活動を続けていた。ルビーは母の才能と美貌に強い憧れを抱き、アクアはそんな妹を冷静に観察していた。
過去と未来
アクアはルビーを見て、かつての患者・さりなを思い出した。彼女の熱狂的なアイドル愛と、ルビーの姿が重なって見えたのかもしれない。やがて、ルビーは眠りにつき、その名を呟いた。「さりな」と――。
3 笑顔のつくり方
古参ドルオタの回想
とある古参ドルオタは、インタビューに応じ、かつてのB小町とアイについて語った。彼は、B小町が世間に認知されるきっかけとなったのは、ふたごの赤ちゃんが登場する動画だったと懐かしむ。そして、ふたごもすでに高校生になっているのではないかと、感慨深げに語った。
現実を突きつけられるアイ
アイが復帰して数か月が経過したが、B小町の快進撃とはならなかった。彼女は給与明細を見つめ、その低額に愕然とする。オリコン三位を獲得したにもかかわらず、利益が少なく、事務所の取り分の大きさに不満を抱いていた。
家族のための決意
アイは、ルビーを抱き上げながら、母親としての責任を痛感した。自分ひとりならば問題ないが、子どもたちにより良い未来を与えるためには、もっと成功しなければならなかった。彼女は大手の仕事を求め、映画やCMのオファーを望んでいた。
収入の現実
アイが出かけた後、赤ん坊のふりをしていたアクアとルビーは、芸能界の厳しい収益構造について語り合った。ルビーは、オタクの内臓を提供して資金を集めるという極端な発想をし、アクアに一蹴される。彼らはアイの努力に見合わない収入に憤りを感じ、マネージャーのミヤコに詰め寄った。
芸能界の仕組み
ミヤコは、芸能界の現実を冷静に説明した。アイドルは集団で売り出されるため、個人の評価は低くなりがちである。卒業後に成功する者は少なく、個人で戦える武器を持つことが重要だった。アイドルとしての実力だけでは不十分であり、アイは個人としての強みを示さなければならなかった。
アイの不安
アイはレッスンの休憩中、メンバーたちに元気がないことを指摘されるが、それを空腹のせいだと誤魔化す。気分転換のためにSNSをチェックすると、自身の笑顔が「プロの笑顔であり、人間味がない」と指摘されていた。その言葉は、アイにとって少なからず刺さるものだった。
ミニライブへの潜入
アクアとルビーは、ミヤコに懇願し、B小町のミニライブに潜入した。ベビーカーに乗せられたまま会場に入るが、ミヤコから「推さない、かけない、しゃべらない」と厳しく釘を刺される。しかし、二人の目的はアイを応援することにあった。
アイのステージとSNSの影響
ライブが始まり、アイは完璧なパフォーマンスを披露する。しかし、先日見たSNSの言葉が頭をよぎり、彼女の笑顔に迷いが生じた。そのとき、会場の一角で異様なコールが起こる。ベビーカーに乗ったアクアとルビーが、キレのあるヲタ芸を披露していたのだ。
ファンの注目とアイの素顔
ファンの注目が二人に集まり、ステージ上のアイも彼らの存在に気づいた。そして、驚いた後に見せたのは、今までファンの前では見せたことのない、とろけるような自然な笑顔だった。
SNSでの拡散
その様子はすぐにSNSで拡散され、ファンの間で大きな話題となった。「赤ちゃんがヲタ芸を打つ異常事態」「アイが初めて見せた素の笑顔」といったコメントが飛び交い、大きな注目を集めた。
覚えた「本物の笑顔」
ミヤコとアイ、アクア、ルビー、そして社長は、急速に拡散される動画を見守っていた。そして、アイはあるコメントを目にする。「これだよ!!!!! これ!!!!!!!」 その言葉を見た彼女は、いたずらっぽく舌を出し、「なるほど……コレがイイのね」と呟いた。
4 監督と女優、子役たち
映画監督・五反田泰志の回想
五反田泰志は、監督賞に七年連続でノミネートされたものの未受賞であり、不満を漏らしていた。彼が監督する新作『15年の嘘』は、十五年前に頓挫した脚本を復活させたものであり、優れた脚本家の手によって普遍的なエンタメへと仕上げられた。主演を務めるのは、彼が幼少期から見守ってきた若者たちであった。そして、彼は最後に映画を「アイに捧ぐ」と言い残した。
ふたごの成長とルビーの甘え
アクアとルビーは、母アイに似た美しい容姿に成長していた。ルビーは髪を肩まで伸ばし、アクアは短く整えていた。二人の瞳には、母と同じ星の輝きが宿っていた。ルビーは相変わらずアイに甘え、「ママ」と呼びながら愛情を求めた。その姿は、熱心なファンのようでもあった。アイは娘の言葉遣いに違和感を抱くが、深く考えることなく「天才かもしれない」と納得してしまう。
アイの女優デビュー
アイは、モデルやラジオアシスタントの仕事をこなしつつ、ついに女優デビューの日を迎えた。撮影現場へ向かう車の中で、マネージャーのミヤコはアクアとルビーに、絶対にアイを「ママ」と呼ばないよう厳命する。現場ではミヤコの子どもという設定で通すことになっていた。
撮影現場での出会い
撮影現場に到着すると、アイは礼儀正しく挨拶したが、監督の五反田泰志は不機嫌そうに腕を組んだまま彼女を見つめた。監督はミヤコが子どもを連れてきたことに疑問を抱くが、「働き方改革」と納得し、問題視しなかった。アイが控え室で待機する間、アクアとルビーは女優たちに可愛がられていたが、アクアはその状況に耐えきれず、廊下へ逃げ出した。
監督との会話
廊下を歩いていたアクアは、監督と出会う。監督はアクアの言葉遣いの流暢さに驚き、興味を抱いた。彼はアクアを抱き上げ、その顔をまじまじと観察した後、名刺を渡し、「事務所に入ったら連絡しろ」と告げた。アクアは戸惑いつつも、監督の申し出を受け流した。
撮影とアイの魅力
撮影が開始され、アイは主演女優とともに教室のシーンを演じた。彼女の演技は特別優れていたわけではなかったが、その圧倒的な存在感が監督の目を引いた。監督は思わず「演技は並だが……いやに目を引く」と呟いた。アクアは、それを当然のこととして受け止めていた。
放送と編集の現実
放送当日、アクアとルビーはアイの出演シーンを期待してテレビの前に座った。しかし、アイの登場シーンはわずかで、ほとんどがカットされていた。驚いたアクアは監督に抗議の電話をかけた。監督は「主演女優のイメージ戦略に影響を与えるから」という理由で、編集の段階でアイの映像が削られたことを説明した。そして、代わりに「映画の仕事をアイに振る」と告げた。ただし、条件としてアクアの出演も求めた。
有馬かなとの出会い
アクアはアイのために映画出演を決意し、ロケ地へ向かった。そこで出会ったのは、幼いながらも強い負けん気を持つ子役・有馬かなだった。彼女はアクアの出演が監督のゴリ押しであることを知り、敵意をむき出しにした。かなは自信満々に振る舞っていたが、アクアの演技に圧倒され、悔しさのあまり泣き出してしまった。
監督の評価とアクアの才能
監督はアクアの演技を高く評価し、「すごい演技より、ぴったりの演技ができる役者になれ」と助言した。アクアは役者になるつもりはなかったが、監督の言葉を心に留めた。
かなの決意
帰りのロケバスで、かなはアクアの名前を反芻しながら、「次は絶対に負けない」と誓った。この出会いが、やがて二人の運命を大きく変えることになる。
物語の新たな展開
二年の月日が経ち、アイが二十歳を迎える年へと物語は進んでいく。
5 転ぶのを恐れればよけいに転ぶ
元幼稚園教員の回想
アクアとルビーの幼稚園時代を知る元教員は、二人を「天才」と評した。アクアは幼いころから難しい本を読み、ルビーも小・中学生並みの知性を持っていたという。彼らは年長のころに転園してしまい、それ以来、教員は二人と会う機会を失っていた。手渡された映画雑誌を見た彼女は、その活躍に驚き、懐かしむようにページをめくった。
アイの躍進とアクアの違和感
アクアたちがアイの子どもとして生まれ変わってから三年が経過した。その間、監督の映画『それが始まり』は評価され、監督賞にノミネートされた。しかし、作品の話題をさらったのは主演女優ではなく、アイだった。彼女の存在感は圧倒的であり、映画をきっかけに仕事が増え、バラエティ番組や雑誌のグラビアにも引っ張りだことなった。
一方で、アクアは「雨宮ゴロー」の遺体がいまだに発見されていないことに違和感を抱いていた。事件の手がかりを探そうとしたが、ネット上にも情報はなく、完全に闇に葬られているようだった。
幼稚園生活の始まり
アクアとルビーは幼稚園に通い始めた。二人はおそろいのベレー帽と園服に身を包み、アイの熱烈な称賛を受けながら登園した。ルビーは「ママのほうがかわいい」と主張し、アクアはその無意味な対抗意識に呆れていた。
幼稚園では、二人は他の子どもとは違った雰囲気を持っていた。アクアは本ばかり読んで過ごし、ルビーは幼児らしからぬ口調で話したため、先生たちは彼らを少し変わった子どもだと見ていた。
ルビーの秘密
園庭で遊んでいるルビーに、アクアはふと前世のことを尋ねた。ルビーは、自分がさりなだったことを隠そうとし、「オトナの女性」だと強調した。しかし、アクアは深追いせず、すぐに話題を流した。
アクアは新しい生活を気に入っていた。過酷な医師時代に比べれば、幼稚園で本を読むだけの生活は気楽だった。一方、ルビーは遊具で元気いっぱいに遊び回り、アクアにはその無邪気さが理解できなかった。
お遊戯会の恐怖
幼稚園ではお遊戯会の練習が始まった。先生が「保護者が見に来る」と告げると、ルビーは突然拒絶し、園庭へ逃げ出した。アクアが追いかけると、彼女は木のそばでうずくまっていた。
ルビーはダンスをしたことがなく、自信がなかった。前世のさりなは病気で体を動かせず、運動経験もほとんどなかった。アクアは「これからの人生は長い」と励ましたが、ルビーは答えずに沈黙した。
アイとのダンス練習
幼稚園から帰宅後、ルビーは家の練習スタジオにこっそり入り、鏡の前で踊り始めた。しかし、ぎこちない動きで何度も転んでしまう。そこへアイが現れ、一緒にダンスをすることになった。
アイが踊り出すと、ルビーはすぐに振り付けの間違いを指摘した。前世で何度も映像を見ていたため、彼女の記憶にはアイのダンスが完璧に刻まれていた。アイはその観察力に驚き、ルビーの頭を優しく撫でた。
しかし、ルビーの動きには「転ぶ準備」が含まれていた。前世のさりなは、常に転倒することを恐れ、受け身を取る癖がついていたのだ。アイは「転ぶのを恐れず、堂々と立つことが大切」と教え、ルビーを励ました。
ルビーの変化
深夜、ルビーは再びスタジオに向かい、ダンスの練習を始めた。最初は不器用だったが、徐々に動きが滑らかになり、自然とステップを踏めるようになった。
ルビーは、前世では叶わなかった夢を今なら実現できると確信した。病気で動けなかった過去を乗り越え、初めて自由に踊れることを実感したのだった。
その様子を、アクアはドアの隙間から静かに見ていた。ルビーのダンスの才能と母親譲りのルックスを目の当たりにし、彼女がアイに匹敵するアイドルになる可能性を感じた。
そして、思わず呟いた。「怖い想像をしてしまった」。
6 星野アイ
苺プロ元社長・斉藤壱護の現在
ある町の岸壁で、無精ひげを生やし、伸び放題の髪にサングラスをかけた男が釣りをしていた。彼こそ、かつて苺プロの社長だった斉藤壱護である。記者の問いかけに対し、彼は頑なに名乗ることを拒み、アイを失った瞬間に自分の人生も終わったと語った。そして、二度とアイについて語るつもりはないと告げ、カメラを手で覆った。
アイの決断と子どもたちの疑問
アイは公衆電話から、ある男に連絡を取っていた。ルビーとアクアの父親である。そのきっかけは、子どもたちの会話だった。アクアが自分たちの父親について考え込むのに対し、ルビーは「そんなもの最初から存在しない」と邪悪な笑みを浮かべながら断言した。
アイは、子どもたちがすでに自分たちの事情を理解できるほど成長していると感じ、父親と会わせることを考えた。しかし、その思いとは裏腹に、自身のポスターが街に溢れるほどの人気を得ているにもかかわらず、まだ何かが足りないと感じていた。
新居での祝宴とドーム公演への期待
成功を重ねたアイは、新たに高級タワーマンションへと引っ越した。新居祝いに社長とミヤコが訪れ、酒を持ち込んで盛大に祝った。社長は、アクアを右腕に抱え、焼酎の一升瓶を左手に握りしめながら上機嫌だった。
苺プロのアイドルたちは順調に仕事をこなし、アイが主演を務めるドラマの視聴率も好調だった。そして、ついに夢の舞台であるドーム公演が一週間後に控えていた。ドームは単なるライブ会場ではなく、選ばれたアーティストのみが立てる特別な場所。苺プロの社長にとっても、その舞台にアイドルを送り出すことは長年の夢であり、スタッフ全員の努力の結晶であった。
アイの嘘と本心
社長は、「スキャンダルには気をつけろ、父親には会うな」と釘を刺した。アイは「もちろん」と即答したが、すでに彼に連絡を取り、住所を伝えていた。
アイは、自分の子どもたちを愛しているつもりだった。しかし、心の奥底では「愛すること」に自信がなかった。彼女はかつて、斉藤壱護からアイドルのスカウトを受けた時、自分が愛される資格があるのかを疑問に思っていた。それでも、社長の言葉に後押しされ、「嘘でもいいから愛してると言ってみよう」と決意し、アイドルの道を歩み始めた。
そして今、母親になった彼女は、子どもたちに「愛してる」と伝えることをためらっていた。もしそれが嘘だったと気づいたらどうしようという恐れがあったからである。
ドーム公演前夜の訪問者
公演の朝、アイはアクアとルビーを優しく抱きしめた。そして、スマートフォンで「今日のドーム楽しみ」とツイートしようとしたその時、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開くと、そこには花束を持った若い男が立っていた。黒いフードを深くかぶり、目を伏せていたが、ゆっくりと顔を上げると、くもった目でアイを見つめた。そして低い声で「ドーム公演おめでとう。ふたごの子どもは元気?」と告げると、花束に隠していたナイフを取り出し、アイの腹部へと突き立てた。
アクアの目の前で起きた悲劇
アイは悲鳴を上げることなく、よろめきながら後ずさった。そこへアクアがリビングのドアを開け、廊下へと飛び出してきた。フードの男は、アイドルが恋愛し、子どもを持つことを裏切り行為と見なし、激情のままにアイを襲った。
アイは痛みに耐えながら、アクアを背にかばい、男の怒りに真正面から向き合った。そして、優しい微笑みを浮かべながら、彼の名前を呼び、過去の思い出を語った。その言葉に男は動揺し、やがて震えながらその場を逃げ去った。
アクアはアイに駆け寄り、止血しようと必死になった。しかし、アイは静かに「ごめんね。たぶんこれ、無理だぁ」と弱々しく言い、アクアの頭を優しく撫でた。
ルビーが目を覚まし、リビングのドア越しに不安げな声を上げた。アイは彼女を安心させるように、「ルビーのお遊戯会の踊り、よかったよ」と微笑みながら話しかけた。
そして、震える手でガラススリットに触れながら、最後にアクアとルビーへと語りかけた。「ルビー、アクア、愛してる」。
その言葉を口にした瞬間、アイの目から涙がこぼれた。そして、微笑みながら静かに息を引き取った。
アイの死と残された者たち
アイドル「B小町」のセンター・アイは、20歳の誕生日を迎える直前に、自宅でストーカーによって殺害された。犯人の男は数時間後に自殺し、警察は事件の背後に協力者の存在を疑い、捜査を進めていた。
アイの死は世間に衝撃を与え、ドーム公演の中止が発表された会場では、多くのファンが涙を流した。
こうして、甘く幸福な子ども時代は幕を閉じた。
残されたアクアとルビーの新たな物語が、ここから始まる。
7 イントロダクション
アイの残したビデオメッセージ
アイは自宅のソファに座り、ビデオカメラをセットした。腕の中には、すやすやと眠るふたごの赤ん坊。彼女は、子どもたちが成長し、いつかこの映像を見ながら一緒にお酒を飲む日が来るかもしれないと考えていた。自身がその頃までアイドルを続けていることはないだろうが、ふたごがアイドルになっている可能性は十分にある。
アイは、冗談めかしながらそう語り、愛おしそうに子どもたちの頬を寄せた。そして、「元気に育ってほしい」と母としての願いを残した。
アイドルの死と世間の反応
アイがファンによって殺害され、犯人が自殺を遂げた。この衝撃的な事件のニュースは、発生から一時間も経たずに広まり、世間は大きく動揺した。
多くの人々は同情的な意見を示したが、その一方で、事件を利用して注目を集めようとする者も少なくなかった。SNSでは無責任な憶測が飛び交い、中には「アイに男がいたことをストーカーが知っていた」や、「殺されても仕方がない」といった心無い発言も見られた。
ルビーの怒りと絶望
ルビーはスマートフォンにかじりつき、SNSをチェックし続けた。アイドルが恋愛をしたことで命を奪われることが正当化されるなど、到底納得できる話ではなかった。
彼女は、ネットの書き込みに対して怒りを募らせ、アイが亡くなった直後にもかかわらず、人々が無神経な発言を繰り返していることに憤慨した。有名人だから何を言われても仕方がないという考え方に対しても、納得がいかなかった。
しかし、その怒りも長くは続かなかった。三日も経つと、ニュースは「交通網の麻痺」に切り替わり、世間の関心は完全に別の話題へ移っていた。アイの死は、一つの消費されるコンテンツとして扱われ、忘れ去られようとしていた。
アクアの決意と新たな疑念
事件当時、ルビーは現場を見ていなかったが、アクアは冷たくなっていくアイの体を抱きしめながら、警察に保護された。犯人が既に死亡していたこともあり、取り調べは簡素に終わったが、アクアへのカウンセリングは長く続いた。
そんな中、ミヤコはふたりに「自分の子どもにならないか」と申し出た。アイの代わりにはなれないが、それでも母親としてふたりを大切に思っていることを伝えた。ルビーは涙をこらえきれず、ミヤコに抱きついた。
しかし、アクアの考えは違っていた。自分がアイを守れなかった以上、普通に生きることは許されないと考えていた。
葬儀の日、ルビーは母の言葉を思い出し、アイドルになりたいとアクアに語った。アクアは冷めた様子で「アイドルになる意味はない」と返したが、ルビーは「それでも、ママはキラキラしていた」と言い切った。
その言葉に、アクアはルビーの純粋さを改めて実感した。一方で、自分は絶望の淵に立っていた。しかし、ニュースサイトに掲載された犯人の顔写真を見た瞬間、彼の中に新たな疑念が芽生えた。
真相への手がかりと復讐の誓い
アクアは、ストーカーの男の顔に見覚えがあった。過去に自分を殺した男と同一人物だった。
だが、疑問が残る。なぜこの男はアイが入院していた病院の場所を知っていたのか? なぜ引っ越したばかりの新居に辿り着けたのか? 彼には探偵のような能力はなかったはずであり、何者かが情報を提供したとしか思えなかった。
そして、アクアは確信した。アイの近くに、情報を漏らした者がいる。その可能性が最も高いのは、自分たちの父親だった。アイは彼のことを誰にも話さず、秘密にしていた。だが、彼の交友関係を考えれば、その人物が芸能界にいる可能性は極めて高い。
アクアは、父親を探し出し、復讐を果たすことを決意した。
彼の目に宿る星は、鋭く輝いていた。「俺はまだ死んでいられない」。
五反田監督との対話
アクアは葬儀会場を後にする前に、五反田監督を訪ねた。監督は喫煙所でタバコを吸っていた。
アクアは、監督に「自分を育てる気はないか」と尋ねた。その言葉に、監督は驚き、手にしていたタバコを落とした。
高校生活の始まり
時が過ぎ、アクアとルビーは高校生となった。
入学式の朝、ルビーは新しい制服のリボンを整えるのに手間取っていた。アクアは玄関で待ちながら、彼女に急ぐように促した。
ルビーは制服のデザインを気に入りながらも、スカートの丈の短さに対するアクアの指摘を軽く流した。
出発前、ルビーは玄関に飾られたアイの写真に向かって「行ってきます」と声をかけた。アクアもまた、その写真に目を向け、静かに歩き出した。
ルビーは母に似た美しい少女へと成長し、アクアもまた、端正な顔立ちを持つ青年になっていた。
そして、アクアは復讐の幕を開ける決意を固めた。その舞台は、芸能界だった。
8 オーディション、三つ目の選択肢
ルビーのアイドルオーディション
ルビーとアクアが中学三年生だったころ、大型アイドルグループの追加メンバーオーディションが開催された。応募資格は十四歳から二十歳の女性で、総数十三万六千人を超える大規模なものだった。
ルビーは書類選考を通過し、全国八会場で実施される第二次審査の面接を控えていた。彼女はこのオーディションを二年間待ち続けており、強い意気込みを持っていた。
学校ではクラスメイトたちにその熱意を語り、彼女の美貌やダンスの実力を評価する声が上がる。しかし、歌の実力には難があった。だが、ルビーは母のようなアイドルになることを決意しており、その夢に向かって突き進もうとしていた。
ルビーの前世とアイへの想い
ルビーには誰にも言えない秘密が二つあった。一つは、彼女の母が伝説のアイドル「アイ」であり、熱狂的なストーカーに殺害されたこと。そしてもう一つは、前世の記憶があることだった。
ルビーの前世は「さりな」という少女で、病弱な体を抱えながら人生のほとんどを病院で過ごしていた。唯一の楽しみはアイドルの応援であり、特にB小町のアイに強く惹かれていた。
さりなは最期の瞬間までアイの歌声を心に響かせていたが、次に目を覚ました時にはアイの子どもとして生まれ変わっていた。母としてのアイと過ごした数年間は宝物であり、彼女の死後、ルビーは母のようなアイドルになることを誓った。
ルビーとアクアの衝突
ルビーがアイドルへの夢を語る中、アクアは冷静に現実を説いた。アイドル業界は薄給であり、三十歳前には引退を余儀なくされることが多い。ファンの監視は常に付きまとい、業界の生存率も低い。
しかし、ルビーは「したいことをするのが人生」と反論し、コストやリターンを気にしていたら何もできずに終わってしまうと主張した。彼女にとって、前世のさりなのように何もできずに終わる人生こそが最も恐ろしいものだった。
アクアは「勝手にしろ」と言い残し、監督のもとへ向かった。その後ろ姿を見つめながら、ルビーは母の死以来、兄が変わってしまったことを実感していた。
アイの死後の変化
アイの死後、苺プロの元社長・斉藤壱護は行方不明となり、事務所はミヤコが引き継いだ。B小町は二年後に解散し、苺プロはアイドル部門を閉鎖。現在はネットタレントのマネジメントを主軸として運営されていた。
ルビーとアクアは、事務所を兼ねた三階建ての一軒家で暮らしていた。ある日、ルビーはミヤコにアイドル活動の再開を持ちかけたが、ミヤコは「アイのような奇跡は二度と起きない」と消極的な態度を示した。
その時、ルビーのスマートフォンに着信があり、オーディションの結果が伝えられた。ルビーは緊張しながら応答したが、結果は不合格だった。彼女は絶望し、涙を流した。
しかし、実際にはルビーは合格しており、不合格を伝えたのはアクアだった。彼は監督の自宅で通話し、ルビーの携帯からオーディション担当者に辞退のメッセージを送信し、番号を着信拒否設定したのだった。
ルビーのスカウトとアクアの策略
その後、ルビーは下校途中でタレント事務所のスカウトを受けた。家に帰ると、彼女はミヤコとアクアに興奮気味に報告した。スカウトされたのは地下アイドルグループで、ルビーは運命的なものを感じていた。
しかし、アクアはこの事務所を信用せず、調査を開始。彼は苺プロの名刺を持ち、偽名を使って地下アイドルのメンバー・ららを呼び出した。彼女から内部事情を聞き出すと、運営の不公平な対応やメンバー間の不満が噴出していることが判明した。
この状況を見たアクアは「ルビーをこんな環境に入れるわけにはいかない」と判断し、ミヤコもそれに同意した。結果、ルビーは苺プロ所属のアイドルとしてデビューすることになった。
ルビーの契約とアクアの不満
ルビーは正式に契約を結び、苺プロの新規アイドルグループの第一号となった。ミヤコは慎重に契約を進め、ルビーが芸能科に進学できるよう手続きを整えた。
一方、アクアは依然として不機嫌だった。彼はルビーが芸能界に入ること自体を反対していたが、身内の管理下でならまだ安全だと判断しただけだった。
アクアと五反田監督
アクアは定期的に五反田監督のもとを訪れ、映画制作の手伝いを続けていた。彼にとって役者は復讐のための手段であり、芸能人としての接点を得ることが目的だった。
監督はアクアに対し、「夢を持つことを諦めるな」と説いたが、アクアは「自分にはアイのような才能はない」と冷めた態度を示した。しかし、監督は彼の可能性を見抜いており、「武器をすべて使ってから凡人ヅラしろ」と叱責した。
アクアはまだ役者としての道を捨ててはいなかった。
陽東高校の入試と再会
ルビーは芸能科、アクアは一般科の受験に臨んだ。ルビーの面接は順調に進んだが、アクアは偏差値が高すぎて面接官を驚かせた。
試験後、二人が校内を歩いていると、一人の女子生徒がアクアの名前を呼んだ。彼女は有馬かなだった。
かなはかつてアクアと共演した天才子役であり、彼の存在をずっと覚えていた。一方のアクアは、彼女のことを忘れていた。
こうして、アクアとルビーの高校生活、そして芸能界での新たな章が幕を開けた。
9 コネクション
かなとの再会と衝突
かなは、アクアが芸能科ではなく一般科を受験したことに強い衝撃を受けていた。ルビーは当然のように兄を「シスコン」と評し、かなは嫌悪感をあらわにした。
アクアとルビーはその場で内緒話を始めたが、かなにはすべて聞こえていた。ルビーはかなを「ロリ先輩」と呼び、挑発的な態度を取ったため、かなは怒りを露わにした。
アクアはそのまま監督の家に向かおうとし、ルビーも別の方向へ歩き出した。かなは納得がいかず、アクアを追いかけた。
アクアを追うかな
かなはアクアに必死について行き、住んでいる場所や現在の活動について質問を浴びせた。しかし、アクアは役者を辞めたと答えた。
かなは落胆しつつも話を続けようとし、人目を避けるためにカラオケや自宅で話すことを提案した。アクアはそれを断ったが、人目につかずに話せる場所として五反田監督の家を提案した。
五反田監督との再会
監督はかなを見るなり「大きくなった」と軽口を叩いた。かなはその言葉に少し傷つきつつも、仕事は続けていると主張した。
監督の仕事部屋には映画関連の資料やDVDが多数並んでおり、かなは興味深そうにそれらを眺めた。そして、アクアが監督のもとに出入りしている理由を問い詰めた。
アクアは「今は裏方志望で監督の助手をしている」と説明したが、かなは彼がまだ業界にいることを知り、安堵した様子を見せた。
監督の家での食事
三人は監督の母親に食事を勧められ、夕飯を共にした。かなは健康を気にして炭水化物を控えていたが、監督の母親の熱心な勧めに困惑した。
かなは監督が親元に住んでいることを知り、驚きと失望を隠さなかった。一方、彼女自身は寮生活を送り、食事は主に宅配サービスに頼っていた。
話の流れで、かなはアクアの演技映像を見たいと言い出した。監督は映像があると認めたが、アクアはそれを拒否した。
アクアへの出演オファー
かなは自身がヒロインを務めるドラマ『今日は甘口で』の役者が決まっていないことを告げ、アクアに出演を勧めた。しかし、アクアは即座に拒否した。
監督は作品名を聞き、その知名度の高さに驚いた。かなはプロデューサーとの関係を利用し、アクアの出演を交渉できると言った。
アクアはプロデューサーの名前を尋ね、「鏑木勝也」と聞いた途端、態度を変えた。彼は突然出演を承諾し、かなにプロデューサーへ連絡するよう指示した。
アクアの決断
アイの死後、アクアは彼女の携帯を調べ、三台の端末を発見していた。仕事用、プライベート用、そして妊娠以前のものだった。
古いスマートフォンのパスワード解析には四年を要したが、ついに解除に成功した。そして、そこに登録されていた芸能関係者の中に「鏑木勝也」の名前があった。
アクアは、彼が母の死に関わる何かを知っていると直感し、彼に接触するためにドラマへの出演を決めた。
プロデューサー鏑木勝也
その頃、鏑木勝也は『今日は甘口で』のキャスト選考を進めていた。彼はかなからアクアの推薦を受け、プロフィールを確認していた。
彼は無表情のまま、演技力を評価されているかなの推しであれば問題ないと判断し、アクアをオーディションに呼ぶことを決めた。
こうして、アクアの新たな計画が動き出した。
10 漫画原作ドラマ
アクアのドラマ出演の発覚
アクアのドラマ出演は、ミヤコによってルビーに知られていた。ルビーは「ママが言っていたことが現実になった」と感慨に浸っていたが、アクアはアイの遺した手がかりを得るためだけに出演を決めていた。
ミヤコはドラマ『今日は甘口で』について説明し、アクアが最終話の悪役として登場することを伝えた。ルビーは興奮しながらも、ドラマの出来について疑問を抱いた。
ドラマの視聴と衝撃
ルビーとミヤコは『今日は甘口で』を視聴した。しかし、演技があまりに拙く、特に主演の鳴嶋メルトの棒読みぶりに驚愕した。
物語の改変も激しく、原作にないライバルキャラが追加されていた。ミヤコは「制作者側の事情で、多くの役者を使いたいのだろう」と推測した。
ルビーは、かなの演技まで抑えめになっていることを疑問に思い、アクアも彼女の実力を考えると不自然に感じた。
かなの説明とドラマの裏事情
アクアはかなとカラオケボックスで打ち合わせを行った。かなは「演技力は二の次で、イケメンモデルを売り出す企画」だと説明し、自分の演技も周囲に合わせて抑えていると明かした。
彼女は「自分の演技だけが際立てば、共演者との差が浮き彫りになり、作品が成り立たなくなる」と述べ、妥協しながらも良い作品にしようと努めていた。
かなはかつて子役として成功しながらも仕事を失った過去を振り返り、今は協調性を大切にするようになったと語った。
アクアの決意と撮影開始
アクアはかなの頼みを受け入れ、ドラマの撮影に臨むことを決めた。現場では、主演の鳴嶋メルトが態度の悪さを見せ、アクアを無視するなどの行動をとった。
その後、アクアはプロデューサー鏑木勝也と初めて対面した。彼こそが、アイの死に関わった可能性のある男であり、アクアはDNA鑑定のための証拠を手に入れることを画策していた。
撮影現場での挑発と演技
アクアはストーカー役として登場し、メルトに対し挑発的な言葉を投げかけた。これによりメルトは怒り、演技とは思えない迫力でアクアに掴みかかった。
この変化により、メルトの演技が自然になり、ヒロイン役のかなも最高のパフォーマンスを引き出された。監督はアクアのアドリブを認め、撮影を続行させた。
かなは、アクアが生み出した演技の流れに乗り、かつての「十秒で泣ける天才子役」としての実力を発揮した。
鏑木の本音とアクアの怒り
撮影の合間、アクアは喫煙所で鏑木の吸い殻を回収した。そこで、鏑木がかなについて「無料で使える便利な役者」と発言しているのを耳にし、怒りを覚えた。
かなは「自分の実力が評価された」と信じていたが、鏑木の発言はそれを否定するものだった。アクアは「世の中はそんなものだ」と冷静に受け止めつつも、彼女のために一矢報いることを決意した。
最終シーンとかなの本気
撮影再開後、アクアは演技を通じて場を作り上げ、かなに最高のパフォーマンスをさせる機会を与えた。かなは完璧な涙を流し、原作そのもののヒロインを演じきった。
撮影が終わると、メルトはアクアの挑発に乗せられたことを理解し、彼の演技を称賛した。一方、監督はアクアのアドリブに驚きながらも、その効果を認めた。
そして最後のカット――ヒロインが恋に落ちる瞬間の撮影。かなはアクアを見つめたとたん、演技ではなく本当に「恋に落ちた表情」になっていた。
11 小さな称賛
漫画家・吉祥寺頼子とドラマの最終回
吉祥寺頼子の自宅兼仕事場では、アシスタントたちが仕事を始める中、彼女はフローリングの上で眠っていた。締め切りに追われ、疲労がたまっていたのだ。アシスタントたちは「無理に観る必要はない」と言ったが、頼子はメディア化の現実を受け入れ、ドラマ『今日は甘口で』の最終回を観ることを決めた。
原作との違いと失望
ドラマには原作にはない設定やキャラクターが加えられ、主演の鳴嶋メルトの演技も低評価だった。頼子は「メディア化には期待するな」と、自分に言い聞かせていた。漫画家たちは皆、最初は期待しても、最後には失望すると語るものだった。
最終回の意外な出来栄え
しかし、最終回のクライマックスで状況が変わった。ヒロインを守るシーンで、アクアと有馬かなの演技が光り、原作の魅力が最大限に引き出されていた。有馬かなのヒロインは、頼子が想像していたキャラクターそのものであった。思わず涙を流した頼子は、ドラマ化を受けてよかったと心から思えた。
ネットでの反響
最終回放送後、ネット上では予想外の反応が広がった。「最終回だけでも観るべき」という声が増え、掲示板やSNSでは好意的な意見が多く投稿された。視聴者の大半は離れていたものの、一部の熱心なファンの間では高評価を受けた。
打ち上げパーティーでの再会
後日、ドラマの打ち上げパーティーが開かれ、多くの関係者が集まった。アクアはかなと共に会場を見渡し、改めて多くの人が関わっていることを実感した。かなはドレスアップし、場慣れした態度を見せつつも、アクアの恋愛事情に関心を示していた。
その時、二人の前に吉祥寺頼子が現れた。かなは、原作者がドラマに失望しているのではないかと緊張していたが、頼子は彼女に感謝の言葉を伝えた。最終回の演技を称賛され、かなは涙を浮かべるほど嬉しそうだった。
鏑木との対峙と新たな提案
パーティーの場で、アクアは鏑木勝也と再び対峙した。アクアは事前に彼のDNAを鑑定し、血縁関係がないことを確認していた。しかし、鏑木は「アイの顔をよく知っている」と意味深な言葉を発した。
さらに、彼はアイがかつて「事務所に内緒で男と会っていた」と語り、アクアの関心を引いた。そして、情報の交換条件として、アクアに恋愛リアリティショーへの出演を持ちかけたのだった。
12 芸能科
陽東高校への入学
春休みが終わり、アクアとルビーは陽東高校に入学した。入学式の後、中庭で彼らを出迎えたのは、有馬かなだった。かなは、芸能科の特色を説明しながら、校庭にいる生徒たちを紹介した。そこには俳優、アイドル、モデル、声優、歌手など、芸能界で活躍する者ばかりが集まっていた。ここは「日本で最も観られる側の人間が多い高校」だった。
芸能科の環境
ルビーは緊張しながら、一年F組の教室へ向かった。そこには美男美女ばかりが集まっており、地元の中学校とはまったく違う雰囲気だった。自分も母の遺伝子を受け継いでいると自信を持ちながら席に着くと、隣にはグラマラスな美人が座っていた。彼女の名は寿みなみ。関西弁のような口調だが、実は神奈川出身だった。ルビーは彼女とすぐに打ち解け、新しい友人となった。
アクアとルビーの新生活
放課後、ルビーはみなみをアクアに紹介した。ルビーが芸能科に馴染んでいることにアクアは安心したが、自分には友人ができていないことを指摘されると、必死に弁解した。一般科は中高一貫のため、交友関係がすでに固まっており、新参者には馴染みにくかった。それでもアクアは、友人がいないわけではないと主張した。
不知火フリルとの出会い
授業の始まる直前、クラスに一人の女子生徒が現れた。彼女の名は不知火フリル。月9ドラマで大ヒットを記録し、歌やダンス、演技もこなすマルチタレントだった。その圧倒的な美しさに、ルビーは一目でファンになった。興奮するルビーを尻目に、アクアはフリルに挨拶をし、妹をよろしく頼むと伝えた。フリルはアクアのことを『今日あま』の出演者として認識しており、演技を高く評価していた。
ルビーはフリルに自分をどう紹介すればいいかわからず、何も答えられなかった。するとフリルは「頑張って」とだけ言い、その場を去った。この言葉が、ルビーの胸に突き刺さった。
アイドルへの決意
帰宅したルビーは、ミヤコにアイドルデビューをせがんだ。陽東高校の生徒たちと比べ、自分が「何者でもない」ことを痛感し、焦っていたのだ。しかし、ミヤコは簡単にアイドルグループを作るわけにはいかないと説明した。するとルビーは、クラスメイトの寿みなみが適任ではないかと提案したが、彼女はすでに別の事務所に所属しており、スカウトは不可能だった。
その時、アクアが「フリーならいる」と言い、有馬かなの名前を挙げた。かなはすでに芸能界で名前が知られているものの、現在は仕事が少なく、事務所にも所属していなかった。ルビーは、彼女ならオタク人気を獲得できると確信し、翌日かなに接触することを決めた。
有馬かなへの勧誘
放課後、アクアとルビーはかなを公園に呼び出した。かなは「大事な話がある」と聞いて期待していたが、それがルビーの依頼だと知り、一気に興味を失った。ルビーはかなにアイドルにならないかと提案したが、かなは即答を避け、考える時間を求めた。アイドルになれば「若手役者枠」の仕事を失い、新しい市場で成功しなければ、芸能界から消えるリスクがあったのだ。
しかし、ルビーの中に母・アイの面影を感じ、何か可能性を見出した。だが、それでもアイドル活動に踏み切るにはリスクが大きすぎた。そこで、かなは断ろうとしたが、アクアが真剣な表情で頼み込んだ。
アクアの説得
アクアは「妹を頼む」と言いながら、かなの前に跪いた。そして、かなは可愛いと率直に評価し、「信頼しているからこそ頼んでいる」と説得を続けた。必死のアクアを前に、かなは抵抗したものの、最終的には押し切られてしまった。
数十分後、かなは苺プロの事務所で契約書にサインしていた。自分でも何が起こったのかわからず、頭を抱えながら契約を受け入れたのだった。
新たな展開への布石
事務所に戻ると、かなはアクアの次の仕事について尋ねた。ルビーがパソコンを開き、アクアの出演する番組を見せた。それは『今からガチ恋♡始めます』という恋愛リアリティショーだった。
画面には、爽やかな笑顔を浮かべるアクアの姿が映っていた。かなは驚きの声を上げ、そのまま物語は第三章「恋愛リアリティショー編」へと続いていった。
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