小説「【推しの子】まんがノベライズ 2」感想・ネタバレ

小説「【推しの子】まんがノベライズ 2」感想・ネタバレ

どんな本?

本作は、芸能界を舞台にした転生要素を含む物語である。主人公は双子の兄妹であるアクアとルビー。彼らは前世の記憶を持ち、推していたアイドル・B小町のアイの子供として転生する。アイの突然の死を機に、それぞれ異なる道を歩むことになる。アクアは母の死の真相を追い、芸能界へと足を踏み入れ、ルビーはアイドルとしての夢を叶えるべく奮闘する。恋愛リアリティショーやアイドル活動など、華やかな世界の裏に潜む現実が描かれる作品である。

主要キャラクター
• アクア:前世の記憶を持つ少年。母の死の謎を追うため、芸能界へと身を投じる。冷静かつ策略的な性格であり、目的のためなら手段を選ばないこともある。
• ルビー:アクアの双子の妹。前世の記憶を持ち、アイドルへの強い憧れを抱く。新生『B小町』として活動を始め、芸能界の厳しさを知りながらも成長していく。

物語の特徴
芸能界の光と闇をリアルに描写しながら、転生という要素を取り入れた点が本作の特徴である。華やかな世界の裏に潜む陰謀や、登場人物たちの葛藤が重厚に描かれており、読者を惹きつける。芸能界というフィールドを活かしたドラマティックな展開と、キャラクターたちの心理描写が魅力の作品である。

出版情報
• 出版社:集英社みらい文庫
• 発売日:2024年11月22日
• ISBNコード:978-4-08-321882-8

本書はオールふりがな付きで、挿絵も豊富に収録されており、幅広い読者層に向けた作品となっている。

読んだ本のタイトル

【推しの子】まんがノベライズ
芸能界のリアル&新生 『B小町』結成!
原作:赤坂アカ ×横槍メンゴ 氏
著者:はのまきみ  氏

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あらすじ・内容

推しのアイドル、B小町・アイの子に転生した双子のアクアとルビー。
ふたりはアイ亡きあと、芸能科のある高校に進学する。
アクアは恋愛リアリティショーへ出演し、黒川あかねに出会う。
一方ルビーは、芸能界で活躍する同級生たちに焦りを感じつつも、
新生『B小町』としてアイドル活動をスタートして――!?

【推しの子】まんがノベライズ
芸能界のリアル&新生『B小町』結成!

主な出来事

  • 星野ルビーと星野アクアは双子で、前世の記憶を持つ。アクアはアイの死に関与した父親を探すため、芸能界に入ることを決意した。ルビーはアイドルになる夢を追い、元天才子役の有馬かなとアイドルユニットを組む。

恋愛リアリティショー

  • アクアは『今からガチ恋♡始めます』という恋愛リアリティショーに出演し、様々なキャラクターたちと関わる。
    • 鷲見ゆき:ファッションモデルで、アクアに興味を示す。
    • 熊野ノブユキ:ダンサーで、素直な性格で人気を集める。
    • 黒川あかね:女優で、番組内で目立つために悪女ムーブを取る。
    • MEMちょ:インフルエンサーで、マーケティングに精通している。
    • 森本ケンゴ:バンドマンで、音楽の才能を持つ。
  • アクアの出演の目的は、アイに関する情報を得るためであった。

自称アイドル

  • ルビーとかなはアイドルユニット「B小町」を結成する。
  • 苺プロのミヤコの提案で、YouTubeを活用し、ネットでの知名度を向上させる戦略を取る。
  • 覆面筋トレ系YouTuber・ぴえヨンとのコラボ企画を成功させ、新生「B小町」としてのスタートを切る。

爪痕

  • 黒川あかねは『今ガチ』での悪女ムーブが原因で炎上し、ネット上での誹謗中傷に苦しむ。
  • アクアはあかねを救うため、仲間たちと共に彼女の真実を伝える動画を作成し、投稿する。
  • 動画は大きく拡散され、あかねへの批判は徐々に収まるが、完全には解決しない。

役作り

  • あかねはアクアに認められたいという思いから、彼の理想の女性像を演じようと決意する。
  • 彼女は過去のアイの映像を徹底的に研究し、その姿を完璧に再現することに成功する。
  • アクアはあかねの演技に驚愕し、同時にアイの死に関する真相へと迫ろうとする。

バズ

  • アクアはネット上での炎上を逆手に取り、あかねを再評価させるためのプロモーションを展開する。
  • MEMちょの協力で、マーケティングの視点からも戦略を立て、動画を拡散する。
  • その結果、あかねは再び人気を取り戻し、『今ガチ』の最終回へと臨む。

適正年齢

  • MEMちょは実年齢が25歳であることを告白し、それでもアイドル活動を続ける決意を固める。
  • ルビーとかな、そしてMEMちょの3人で「B小町」としての活動を本格化させる。

前夜

  • 「B小町」はジャパンアイドルフェス(JIF)に出演することが決まる。
  • センターを務めることになったかなは不安を抱えていたが、仲間たちの支えにより決意を固める。

プレッシャー

  • かなは自分の過去と向き合いながら、ステージに立つ覚悟を決める。
  • 彼女は「B小町」のセンターとしての責任を果たすため、自分自身を奮い立たせた。

箱推し

  • 「B小町」のステージは成功を収め、多くの観客を魅了する。
  • 特にルビーの輝きは観客を引きつけ、かなも自分の力を証明するため奮闘する。

ちょっと楽しいお仕事

『B小町』の新たな可能性を信じ、今後も活動を続けることを決意する。

JIFでのパフォーマンスを終えた後、かなは自分のアイドルとしての道を見つめ直す。


感想

このノベライズ版では、恋愛リアリティショー『今ガチ』の舞台裏が詳しく描かれ、芸能界のリアルさが際立っていた。
特に、アクアがアイの手がかりを求めて動く中で、計算ずくの振る舞いを見せるゆきと、目立つことに苦戦するあかねの対比が印象的であった。
ネット上の炎上や誹謗中傷がどれほど人を追い詰めるのか、その過程が丁寧に描かれており、リアリティショーが単なるエンタメでは済まされない現実を突きつけてくる。

また、ルビーたちの「B小町」結成の過程も興味深い。かながセンターになることを拒みながらも、結果的にリーダーとしての役割を担う姿が魅力的だった。
YouTubeを活用したプロモーションや、ぴえヨンとのコラボといった現代らしいアイドル活動が描かれており、ただのアイドルものとは一線を画している。
MEMちょの年齢詐称に気づいたアクアのリアクションは、漫画版とは違った視点で楽しめた。

舞台『東京ブレイド』のキャスティングが決まる場面では、あかねとかなの対立が本格化し、二人の意地が火花を散らす展開に引き込まれた。
かつて天才子役として名を馳せたかなと、現在の天才女優であるあかねがぶつかることで、舞台そのものが一層魅力的になっている。
アクアがその間にどのように関わっていくのか、今後の展開が楽しみである。

全体を通して、芸能界の厳しさと、その中で生き抜く人々の葛藤がリアルに描かれていた。
ノベライズならではの心理描写が加わることで、漫画版よりもキャラクターの心情がより深く伝わってくる。
アクアの冷静な判断、ルビーの無邪気さ、かなのプライド、あかねの執念――それぞれの個性がぶつかり合う展開が魅力的だった。
次巻では、さらに芸能界の深い部分に踏み込んでいくことが期待される。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

プロローグ

ふたごの秘密
星野ルビーと星野アクアは、互いに誰にも言えない秘密を抱えていた。ふたりの瞳には、それぞれ星の輝きが宿っており、その秘密の起源は過去に遡る。

前世の記憶
かつて、宮崎県の病院に産婦人科医の雨宮ゴローが勤務していた。彼はアイドル好きで、入院中の少女・さりなと推しの話を交わしていた。さりなが憧れていたのは、アイドルグループB小町の不動のセンター、十二歳のアイだった。アイのようなアイドルになることを夢見ていたさりなだったが、病気が治ることはなく、十二歳でこの世を去った。

ゴローの死と転生
それから数年後、ゴローの前に一人の妊婦が現れた。それは、かつてさりなが憧れていたアイその人だった。アイは父親の存在を明かさず、ひそかに双子を出産しようとしていた。しかし、その直前、ゴローは何者かに襲われ、命を落とした。

そして、ゴローとさりなは転生した。アイが産んだ双子――ルビーとアクアとして。ふたりは前世の記憶を知らないまま、憧れのアイとともに楽しい日々を過ごしていた。

悲劇と復讐
しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。ある日、アイはストーカーに殺されてしまう。アクアはその事件の背後に、自分たちの父親が関与しているのではないかと疑い、復讐を誓った。真相を探るため、彼は芸能界へと足を踏み入れることを決意する。

一方、ルビーは前世の夢を叶えるためにアイドルを目指し、元天才子役の有馬かなとともにアイドルユニットを組むこととなった。

こうして、ふたりはそれぞれ異なる思いを胸に、同じショービジネスの世界へと進むことになった。

1  恋愛リアリティショー

恋愛リアリティショーの幕開け
星野アクアが出演する恋愛リアリティショー『今からガチ恋♡始めます』の第一回目の配信が始まった。番組のタイトルが画面に表示された後、出演者たちの紹介映像が流れた。

出演者たちの紹介
番組には、ファッションモデルの鷲見ゆき、ダンサーの熊野ノブユキ、女優の黒川あかね、インフルエンサーのMEMちょ、バンドマンの森本ケンゴ、そしてアクアが出演していた。彼らはそれぞれ個性的な魅力を持ち、番組の雰囲気を華やかにしていた。

事務所での視聴
苺プロの事務所では、ルビーと有馬かながソファに座り、配信を視聴していた。アクアが画面に登場すると、二人は驚愕した。アクアは普段の陰のオーラを消し、さわやかで人懐っこい笑顔を見せていた。MEMちょがアクアに甘えたように話しかける様子を見たルビーとかなは、彼の態度に不満を抱いたが、ミヤコは冷静にメディア用の演出だと説明した。しかし、かなは番組の趣旨を考え、アクアが本当に告白し、キスをする可能性があることに複雑な気持ちを抱えていた。

収録の舞台裏
週末、アクアは番組の屋外ロケに参加した。彼はMEMちょとベンチに座り、会話を交わしていたが、内心では気乗りしない様子だった。彼がこの番組に出演したのは、鏑木プロデューサーからアイの秘密を聞き出すためだった。恋愛リアリティショーの撮影には台本こそないが、演出が求められるため、出演者たちは戸惑いながらも対応していた。

ゆきの策略
撮影の合間、ゆきはアクアに近づき、自分の恋愛経験のなさを語った。アクアが過去の恋愛についてぼんやりと答えると、彼女は微笑みながら耳元で囁いた。「私、君にならキスできるかも」と。その言葉にアクアは動揺したが、ゆきはカメラを意識しながら美しく映るように振る舞い、立ち去った。彼女の振る舞いを見たアクアは、リアリティショーの本質を理解し始めた。

ルビーの介入
撮影を終えたアクアが帰宅すると、ルビーが仁王立ちで待ち構えていた。彼女はタブレットを手にし、「お兄ちゃんが付き合うべき相手を私が決める」と宣言した。ルビーが選んだのは鷲見ゆきだった。彼女が純粋でいい子だと主張するルビーに対し、アクアは呆れた様子で「しばらく恋愛するな」と言い放った。ルビーは納得がいかず、兄妹のやり取りは続いていった。

2  自称アイドル

アイドルユニット名の決定
苺プロのホワイトボードには所属タレントのスケジュールがびっしりと書かれていたが、ルビーの予定は何もなかった。彼女が記入したのは「ユニット名きめる!」の一言のみであった。ルビーは腕を組み、自分にできることを考え込んでいた。

一方、ソファでくつろいでいた有馬かなは、妙な生き物図鑑を読んでいた。ルビーが先輩としての過去の時間の使い方を尋ねると、かなは反発しながらも、アイドル活動の不安定さを指摘し、勉強を勧めた。しかしルビーは、成功するために何かできることを模索し続けた。

ユニット名が決まらない理由は、かなが決定を先延ばしにしていたからであった。ルビーがホワイトボードを指差し、責め立てると、かなは「実績がないのにアイドルと名乗るのが恥ずかしい」と吐露した。その時、ハイヒールの音とともにミヤコが現れ、手に持ったカメラを見せながら「実績を作りましょう」と告げた。

ネットでの知名度向上
ミヤコは、今の時代、アイドルのプロモーションの中心はネットであると説明し、YouTubeを活用して固定ファンを獲得することを提案した。ルビーは大喜びだったが、かなは懐疑的だった。知名度の低いアイドルがネットで成功するのは難しいと考えていた。

ミヤコは、苺プロがネットに強い事務所であり、すでに協力者を確保していると話し、その人物を紹介した。そこへ現れたのは、黄色いひよこ頭のかぶりものをしたマッチョな男、ぴえヨンであった。

ぴえヨンとのコラボ企画
ぴえヨンは覆面筋トレ系YouTuberとして小中学生に絶大な人気を誇る人物であり、その年収は一億円を超えていた。かなは彼の成功に圧倒され、態度を改めた。

彼の指導のもと、ルビーとかなはYouTubeで登録者を増やすための方法を学ぶことになった。ぴえヨンは、コラボ企画が最も効果的であると説明し、自身のチャンネルで二人を売り出すことを決めた。

過酷なブートダンス
数日後、ルビーとかなはひよこマスクをかぶり、ぴえヨンのチャンネルに出演することになった。企画は「ぴえヨンブートダンス」。1時間の激しい筋トレダンスに耐えきれば、素顔を公開できるという内容であった。

ダンスは想像以上に過酷で、かなは酸欠寸前に追い込まれた。しかし、ルビーは「きつい」と言いながらも、心から楽しんでいた。その姿に、かなは圧倒される。

ユニット名の発表
1時間のブートダンスを耐え抜き、二人はひよこマスクを脱いで自己紹介を行った。かなが疲労困憊の中でルビーにユニット名の決定を任せると、ルビーは迷わず「B小町」と宣言した。

こうして、新生「B小町」は誕生した。ルビーとかな、二人の「自称アイドル」は、YouTubeを足がかりにアイドル活動を本格的に始動することになった。

3  爪痕

ゆきの降板騒動
『今ガチ』の収録現場で、ゆきが突然「番組を辞めたい」と口にした。理由は、学校で男子たちにからかわれ、視聴者の注目を浴びることが予想以上に怖かったからであった。ノブユキは「辞めるなら自分も辞める」と言い、他の出演者も驚きと戸惑いを隠せなかった。

このシーンが配信されると、視聴者の間で大きな話題となった。学校でも「本当に辞めるのか」「ノブユキとの関係はどうなるのか」と女子生徒たちが噂をし、ネットニュースでも「鷲見ゆき、恋リア番組出演のストレスで降板か?」という記事が取り上げられた。

しかし、ゆき本人はその記事を見て「話題になったから視聴者獲得に貢献できた」とあっけらかんとしていた。実際に辞めるつもりはなく、彼女はリアリティショーの仕組みを理解し、注目を集めるために自分の気持ちを大げさに表現していただけであった。

出演者たちの立ち位置
収録が進むにつれ、それぞれのキャラクターが明確になってきた。ゆきとMEMちょは番組の見せ方を理解し、編集でカットされることなく目立つ存在になっていた。ノブユキは演技をしないが、その素直な人柄が視聴者に好かれていた。一方で、ケンゴとあかねは番組映えせず、出番が少なくなっていた。

収録後、ノブユキがアクアを誘い、MEMちょが奢るという形で出演者たちは焼き肉屋へ向かった。MEMちょは登録者数の増加で収益が上がったことを指摘され、しぶしぶ食事を奢ることになった。食事の場でも、それぞれの性格が表れた。あかねは食事よりも気遣いに徹し、アクアは彼女の真面目さに半ば呆れながらも、その努力を感じ取っていた。

帰宅したアクアはルビーに「かわいい子たちと焼き肉を楽しんだ」と責められた。ルビーは、番組の影響で家族との食事の時間が減っていることを不満に思っていた。アクアは『今ガチ』が予想以上にリアルな構成になっていることを実感しつつ、「リアリティショーとはいえ、やらせが少ない分、出演者たちは本当に自分をさらけ出すことになる」と危機感を抱き始めていた。

あかねの焦りと悪女ムーブ
番組の進行とともに、ゆきとノブユキの関係が深まり、ケンゴが嫉妬する構図が出来上がった。これにより、『今ガチ』は人気を拡大し、中高生の間で話題となった。MEMちょはアクアに「ゆき争奪戦に参加しないのか」と尋ねたが、アクアは安全圏でやり過ごすと決めていた。

そんな中、出演時間が増えないあかねは、目立つためにディレクターに相談した。ディレクターは「ノブユキをゆきから奪う悪女ムーブをすればキャラが立つ」と助言し、あかねはそれを実行することにした。

あかねはノブユキを誘い、手作りクッキーを渡し、二人きりの時間を作るなどの行動を取り始めた。すると、番組内での彼女の出番は確かに増え、社長に怒られることもなくなった。しかし、その焦りは次第に危険な方向へと向かっていった。

ネイルアートと宣戦布告
ある日、ゆきが収録にネイルアートの道具を持ち込み、MEMちょとあかねの爪を飾った。ゆきはあかねの爪を整えながら、「最近焦っている?」と問いかけた。あかねは否定したが、ゆきは「私は私が一番目立つように戦う」と宣言し、対抗意識を隠さなかった。

ゆきの人気は絶大で、SNSでも好意的なコメントが多かった。一方、あかねは自分に好意的な投稿を探しても見つからず、その差に絶望していた。

事件の発生
収録中、あかねはノブユキと話していたが、そこへゆきが割り込み、ノブユキを誘って出て行こうとした。焦ったあかねは思わずゆきの手を払いのけ、その勢いで彼女の頬を爪で傷つけてしまった。現場は騒然とし、ゆきの傷を心配するスタッフたちが集まった。

あかねはパニックに陥り、涙を流して謝罪した。しかし、ゆきはそんな彼女を抱きしめ、「努力家で一生懸命なあかねが焦ってしまっただけ」と優しく諭した。

事件は表面的には収束したが、配信された番組ではあかねがゆきを傷つけるシーンで終わるように編集されていた。視聴者は次回がどうなるのか気になり、SNSではあかねへの批判が急増した。

ネットの影響
『今ガチ』はリアリティショーでありながら、編集によって作られるストーリーの影響は大きかった。現場では解決したことでも、視聴者はそれを知らず、一方的に出演者を評価してしまう。

そして、番組が生み出した物語は、ネットの中で独自の形に膨らんでいった。あかねの「悪女ムーブ」は一線を越え、ネットの世界では許されないものへと変わりつつあった。

4  炎上

あかねへの誹謗中傷
『今ガチ』の公式SNSには、あかねへの誹謗中傷が殺到していた。視聴者たちは彼女の行動を激しく非難し、「番組史上一番終わっている」「早く消えろ」といった言葉が並んだ。

あかねはスマートフォンを握りしめ、暗い部屋で一つひとつの投稿を読み続けた。自分が悪いのだから、これは当然の報いだと受け止めようとした。しかし、MEMちょが以前言っていた「謝罪すると炎上はさらに燃え上がる」という言葉を思い出し、後悔の念に駆られた。

時間が経つにつれ、誹謗中傷はエスカレートし、「死んで謝罪しろ」「消えろ」という過激な言葉が増えていった。彼女はスマートフォンを床に投げつけたが、すぐに拾い上げ、再び画面を見つめた。批判から目をそらしてはいけないと考えていたからである。

SNSの影響と心の傷
あかねは食事も喉を通らなくなり、母に心配されながらも「大丈夫」と笑顔を作った。しかし、SNSには彼女の母親を責める言葉まで飛び交い、「育て方が悪い」「手を上げるのは親の影響」と事実無根の噂が広まっていた。

翌日、学校ではクラスメイトたちが彼女のことを陰で笑い、嘲る声が聞こえてきた。「芸能人気取り」「性格が悪い」と悪意のこもった言葉が、彼女の心を締めつけた。家に帰ると、再びSNSには容赦ない攻撃が続き、彼女は部屋にこもったまま、心を閉ざしていった。

ネットの暴走と孤独
ネット上では彼女の過去の写真が拡散され、YouTubeには「自己中あかねVSゆき」という考察動画がアップされ、炎上のまとめサイトまで作られていた。

あかねは自室のベッドで、SNSを開き続けた。そして、罵倒の中に一つだけ見つけた好意的な投稿に希望を感じたが、それも最後には「推してたけど、今回の件で無理になった」と突き放されていた。希望の光は冷たい刃に変わり、彼女の心を深く切り裂いた。

ついに体も限界を迎え、食事も摂れなくなった。ふと気づくと、彼女は何も考えられないほど衰弱していた。

絶望と歩道橋の上
グループトークでは、ノブユキやMEMちょがあかねを心配するメッセージを送っていた。しかし、あかねはそれに応じる気力もなく、「ごはんを買いに行く」とだけ返信し、ふらふらと家を出た。

外は台風の影響で激しい風と雨が降っていた。彼女は傘をさしながらコンビニへ向かい、飲み物とお菓子を買った。しかし、帰り道の歩道橋で突風にあおられ、傘が飛ばされると、その場にしゃがみこんだ。「もういいや」とつぶやきながら、欄干をよじ登り、下を見下ろした。

その瞬間、彼女は後ろから力強く抱きしめられ、引き戻された。

救いの手
あかねが抵抗し、叫びながらもがくと、「落ち着け」と声がした。それはアクアだった。彼はMEMちょの報告を受け、あかねを探しに来ていた。

「バカ野郎が」とアクアに叱られると、あかねは激しく泣きだした。助けを求めてくれる人がいたことに、ようやく気づいたのだった。

そこへ警察官が駆けつけ、「何をしているのか」と厳しく問い詰めた。こうして、あかねの命は救われたが、事件は大きく動き出すことになった。

芸能界におけるリアリティショーの残酷さ
苺プロの事務所では、かなとルビーがSNSの炎上を見ていた。かなは「芸能人なら耐性があると思うかもしれないが、十代の少女が初めて罵詈雑言に晒されるのは想像を絶する」と語った。

ミヤコは「世界各国のリアリティショーでは、すでに50人以上の自殺者が出ている」と指摘し、その過酷さを説明した。SNSの誹謗中傷は、気づかないうちに人を追い詰め、命を奪う危険性を持っている。

その時、ミヤコのスマートフォンが鳴った。彼女は電話の内容を聞き、うんざりしたように告げた。「アクアが警察の厄介になったみたい……」

決意と仲間の支え
警察署では、ずぶ濡れのあかねが母親に抱かれながら泣いていた。「どうして話してくれなかったの」と母が涙ながらに問いかけると、あかねは「心配をかけたくなかった」と絞り出すように答えた。

アクアは事情聴取を終え、ミヤコに「よくやった」と褒められた。彼は「人は簡単に死ぬ。だからすぐに動かなければ手遅れになる」と静かに語った。

そこへ、『今ガチ』のメンバーが駆けつけた。ゆきはあかねの頬を平手打ちし、涙ながらに「心配させるな」と叱った。あかねは震えながらも、仲間たちの存在を感じ、次第に落ち着きを取り戻した。

アクアは「このまま番組を降りる選択肢もある」と提案したが、あかねは「辞めたくない」と答えた。彼女はこれまでの努力を無駄にせず、女優として生き続けることを決意した。仲間たちもその意志を支持し、番組を最後までやり遂げる覚悟を決めた。

アクアの動き
アクアは「このままでは気分が悪い」と呟いた。彼は番組をあおった制作側にも、ネットの誹謗中傷を繰り返す者たちにも強い怒りを抱いていた。

彼は記者クラブに向かい、ある情報を提供した。そして、翌日、ニュースサイトには「炎上中の未成年女優が自殺未遂」との衝撃的な見出しが踊った。

ミヤコはアクアの行動に気づき、「やったわね……」とため息をついた。アクアはハンディカメラを手に取り、「ここからが本当のリアリティショーだ」とつぶやいた。

彼の目には、黒く輝く星が宿っていた。

5  バズ

炎上の拡大と議論の加熱
アクアの仕掛けによって、あかねの自殺未遂のニュースは大きく報道された。これによりSNS上では議論が巻き起こり、一部では誹謗中傷を問題視する意見が見られたが、「自殺未遂なんて嘘」「単なるアピール」と批判する声も依然として多かった。

ミヤコは、この事態を前に困惑していた。確かに注目度は上がったが、黒川あかねは未だ番組に復帰できず、状況は改善していないと判断していた。しかし、アクアはこの騒動を単なるリスクとは捉えておらず、「この賭けに勝たなければ、あかねは敗北するだけだ」と確信していた。

彼の考えでは、番組側が意図的にあかねを悪役に仕立てたのであり、それをそのまま受け入れるわけにはいかなかった。ミヤコは「現実はポーカーじゃない」と諭したが、アクアの意志は揺るがなかった。

『今ガチ』メンバーの協力
次の収録日、アクアはメンバーに協力を求めた。まずはMEMちょに映像や写真の提供を依頼した。彼女は公式SNS用に日頃から撮影していたため、100枚近い素材を持っていた。

アクアは、番組がプロによって編集され、「あかねを悪役に仕立てる」という意図を持って構成されていると説明した。どんな聖人でも、都合よく切り取られれば悪人に見えてしまう。そこで、彼は「私たち目線の『今ガチ』」を作り、あかねの本当の姿を伝えようと考えた。

MEMちょはこれを聞き、マーケティングの視点から分析を加えた。自殺未遂という話題はセンシティブであり、多くの人々が意見を決めかねている状況だった。そこで、「共感性の高い意見」を提示すれば、多くの人にその考えを浸透させることができるという。彼女は動画の投稿タイミングやSNSの活用法にも長けており、アクアの計画を強力にサポートすることになった。

音楽の提供と追加映像の確保
次に協力を申し出たのは、番組では目立たないものの、バンド活動をしている森本ケンゴだった。彼は「エモい雰囲気の曲を作ればいいんだろ?」とすぐにギターを手に取り、その場で楽曲を作り始めた。高校生ながらプロのミュージシャンであり、即興ながら感動的なインストゥルメンタル曲を提供した。

さらに、ゆきが「カメラが止まった後の映像も欲しい」と提案した。彼女は事件当時、定点カメラの位置を意識しながら動いていたため、映像が残されている可能性が高いと考えた。アクアはこれを利用し、番組のディレクターから追加の映像を手に入れることを決意した。

ディレクターとの交渉
アクアはディレクターを呼び出し、保管されている映像について話を持ちかけた。ディレクターは「持ち出し厳禁」としながらも、その存在を否定しなかった。

アクアは冷静に「この映像が表に出れば、番組が出演者を悪役に仕立てたことが明らかになる」と指摘した。そして、「このままではあかねへのバッシングが番組へ向かいかねない」と告げた。

ディレクターは「リアリティショーはエンタメであり、視聴者が求めるドラマを作っているだけ」と反論したが、アクアは「プロだろうと、17歳はまだ未熟な子どもだ。大人が守らなければならない」と説得を試みた。ディレクターはしばらく沈黙した後、ため息をつきながら映像を提供することを決めた。

動画の編集と完成
アクアたちはMEMちょの家に集まり、提供された映像をもとに動画の編集を始めた。各メンバーが意見を出し合い、編集作業は進んでいった。

MEMちょとゆきは「素人感を出すために長尺にすべき」「ここで音楽を入れるべき」と細かく指示を出した。ケンゴは楽曲を最適なタイミングで挿入し、映像に感動的な要素を加えた。

映像の内容は、あかねを含むメンバーの笑顔や楽しい思い出、事件当時の真実のシーンを盛り込んだものとなった。ラストには、涙を流すあかねをゆきが抱きしめる場面を挿入し、印象的な終わり方となった。

SNSへの投稿と拡散
動画のエンコードが完了し、MEMちょが投稿の準備を進めた。アクアは徹夜作業で疲れ果てていたが、最後の確認を行い、ついにSNSに投稿した。

投稿直後、リツイート数は急速に増加した。最初の1分で283リツイートに達し、MEMちょは「これはバズる」と確信した。その後、動画は爆発的に拡散され、24時間で74,000リツイートを記録した。

この動画は、黒川あかねのイメージを変えるだけでなく、『今ガチ』の人気をさらに押し上げる大きな要因となった。

6  役作り

動画による炎上の収束
暗い部屋の中、あかねは『今ガチ』のメンバーが作成した動画を見ていた。映像には、彼女が笑顔で仲間たちと過ごす様子が収められ、心地よい音楽が流れていた。その温かい内容に、涙がとめどなくこぼれた。

アクアの計画は成功し、ネットの雰囲気は大きく変わった。一部では批判の声が続いていたが、多くの人々があかねへのバッシングを疑問視し、番組側への批判へと移行していった。とはいえ、完全な解決には至らず、今後も炎上が再燃する可能性は残されていた。

復帰を決意するあかね
番組の打ち合わせに姿を見せたあかねは、メンバーから温かく迎えられた。ネット上ではまだ批判が続いていたが、彼女は「次の収録から復帰する」と決意を口にした。MEMちょやゆきも、彼女の意思を尊重しつつ、無理はしないようにと気遣った。

また、MEMちょは「これからは少しキャラを作ったほうがいい」と助言した。アクアも「役を演じることは、鎧を身につけるようなものだ」と賛成し、リアリティショーだけでなく社交術としても重要だと説明した。あかねは演技が得意だったため、この提案に前向きな姿勢を見せた。

アクアの理想像とあかねの役作り
MEMちょとゆきは、あかねの新たなキャラを考えるため、アクアの理想の女性像を尋ねた。アクアはためらうことなく「顔のいい女」と答えたが、それだけではなく、天性の魅力や無敵に見える振る舞いなど、アイを彷彿とさせる特徴を挙げていった。MEMちょが「B小町のアイみたいな?」と指摘すると、アクアは動揺しながらも肯定した。

あかねはその言葉を真剣に受け止め、アクアの好みを演じることを決意した。そして、アイの情報を徹底的に調査し、国会図書館やネットを駆使して資料を集めた。彼女の演技プランは、性格や仕草、視力や歩き方に至るまで詳細に分析された。

劇団ララライの天才女優
苺プロの事務所では、有馬かながあかねの炎上について話していた。彼女はあかねを「商売敵」と評し、その実力を認めていた。アクアは意外そうにしていたが、かなは「黒川あかねは劇団ララライの若きエースであり、天才役者として有名だ」と語った。

あかねの役作りは徹底しており、その才能は並外れていた。

完璧なアイの再現
『今ガチ』の収録当日、あかねはついに現場に復帰した。挨拶を終え、撮影が始まると、彼女はアクアの背後から話しかけた。その口調や仕草は、まるでアイそのものだった。

アクアは驚き、雷に打たれたような衝撃を受けた。彼女の立ち振る舞いは、髪型も衣装も異なるのに、完全にアイと一致していた。周囲のスタッフやメンバーもその変化に気づき、あかねに釘付けになった。

MEMちょとゆきは、あかねの変化を察知し、アクアの反応を試した。アクアは普段なら素直に動かないようなことでも、あかねの言葉には従順だった。それを見たふたりは、「アクア、本当にああいう子が好きなんだ」と確信し、からかい始めた。

その結果、アクアはついに限界を迎え、顔を真っ赤にして教室から飛び出してしまった。MEMちょとゆきは興奮しながらあかねに詰め寄り、「これは本当に恋愛関係になる可能性がある」と騒ぎ立てた。動揺したあかねは、思わず「……ある」と呟いた。

苺プロでの反応とかなの不満
一方、苺プロの事務所では、かなが『今ガチ』の配信を見ていた。しかし、彼女は「面白くない」と不満げにスマートフォンを置いた。恋愛リアリティショーの展開が気に入らず、「人の恋愛を見て楽しむのは悪趣味だ」と憤慨した。

その頃、ルビーは別の感情を抱いていた。配信映像に映るあかねの姿を見て、思わず「ママ……」と呟いてしまった。それほど、あかねはアイにそっくりだったのだ。

アクアもまた、自室で思い悩んでいた。彼にとってアイとは何だったのか。母親なのか、憧れなのか、それとも――。彼の心は揺れていた。

かなの動揺とアクアの誘い
翌朝、かなは通学途中に『今ガチ』の話をする女子高校生たちの会話を耳にし、不機嫌になった。あかねの人気が高まるにつれ、彼女の中でモヤモヤした感情が膨らんでいった。

そんな時、後ろからアクアの声が聞こえた。彼は「今から学校をサボって遊ばないか」と誘った。

その瞬間、かなの心に明るい光が差し込んだ。

「行く」

彼女は迷わず答えた。

7  初めて

学校をサボってキャッチボール
かなは機嫌を直し、アクアと共に街を歩いていた。学校をサボることに罪悪感を抱きつつも、どこか嬉しそうだった。遊びに行く場所としてディズニーや東京タワーを提案するが、最終的に向かったのは公園のグラウンドだった。

そこではなぜかキャッチボールをすることになり、かなは左手にグローブ、右手に軟式ボールを持たされた。最初は戸惑いながらも、ボールを投げるうちに楽しさを感じはじめる。アクアが「気を遣わずに話せる相手」としてかなを選んだことを知り、彼女は密かに喜びを覚えた。

アクアの揺れる思考
キャッチボールをしながら、かなは『今ガチ』の収録が大詰めを迎えていることを話題にした。そして、「アクアは誰がタイプなのか」と問いかけた。アクアは考え込み、「最近、自分と星野アクアの境界が曖昧になってきた」と呟いた。

かなはその言葉に驚きつつも、アクアが単なる中二病ではないかと茶化した。しかし、アクアは真剣だった。彼は「自分も普通の高校生のように、同世代の女性を恋愛対象として見るようになった」と語った。ただし、「年下は無理で、年上のほうがいい」と付け加えた。

その瞬間、かなはあることに気づいた。自分はアクアより年上――そして、黒川あかねも年上だった。嫉妬心が芽生え、彼女は無言で剛速球を投げつけた。

あかねの徹底した役作り
『今ガチ』最終回の収録が始まる前、あかねはアクアと話していた。彼女は「アクアの助言どおりのキャラ作りをしたおかげで、人気が出た」と感謝の言葉を述べた。

アクアは、あかねの役作りが完璧だったことに感心し、その技術を尋ねた。すると、彼女は「プロファイリングの本を読み、長年の経験で役を作り上げている」と答えた。そして、「アイには実は隠し子がいたかもしれない」と仮説を立て、整合性のあるキャラクター像を構築したことを明かした。

その言葉を聞いたアクアは、驚愕した。アイの秘密に迫りつつあるあかねの洞察力に、恐れすら感じたのだった。

最終回のカップリング
最終回の収録が始まると、各メンバーが思いを伝え合った。ノブユキはゆきに告白するも、結果は不成立。ケンゴもMEMちょに想いを寄せたが、こちらも成功には至らなかった。

アクアはそんな様子を見ながら、あかねの才能の高さを改めて実感した。彼女は自分よりもアイを深く理解し、その行動や感情を完全に再現していた。

そして、収録のクライマックス。アクアはあかねに近づき、告白をした。驚いたあかねが素に戻ると、彼はその瞬間を逃さず、彼女にキスをした。これにより、番組は大団円を迎えた。

かなの嫉妬と涙
『今ガチ』最終回が配信されると、かなは自室のベッドでスマートフォンを見つめていた。しかし、アクアとあかねのキスシーンを目にした途端、彼女はスマートフォンを放り出した。

彼のことを考えるたびに、胸が苦しくなる。感情を抑えきれず、涙が頬を伝った。腕に顔を埋め、震える声でつぶやく。

「死んじゃえ、ばーか……」

8  適正年齢

打ち上げで交わされる会話
番組の打ち上げは都内のレストランで行われた。出演メンバーやスタッフが集まり、乾杯の声が響く。出演者たちはジュースやお茶でグラスを交わしながら、これまでの撮影を振り返った。

話題は自然と恋愛に向かい、女性陣はアクアとあかねに「最後のキス」について問いただした。あかねは顔を赤らめながら、「番組の流れに従っただけ」と言葉を濁した。ノブユキは「高校生なら恋愛して当然」と軽く流し、ゆきの恋愛経験についての話題に発展した。

話はさらに、芸能界の恋愛事情へと広がった。モデルや女優、アイドルたちの恋愛傾向について意見が交わされる中、あかねは言葉を詰まらせた。その時、ディレクターが会話に加わり、「番組のその後は当人たち次第」としつつ、業界の厳しさについて忠告を述べた。

アクアと鏑木の密談
アクアは打ち上げの途中で店を抜け出し、鏑木Pと話していた。鏑木は『今ガチ』の成功を評価しつつも、収録映像を外部に流した件について言及した。その行為は業界の掟に反するものだったが、アクアは契約の抜け道を利用して問題を回避したと説明した。

鏑木はその抜け目なさを評価し、「アイについての話をする場を設けよう」と提案した。アクアはその申し出を即座に了承した。彼が番組に出演したのは、アイの真実に近づくためだった。

あかねとの確認
店内に戻ったアクアは、ゆきとノブユキに捕まり、カウンター席へと連れていかれた。そこには、あかねが待っていた。

あかねは「私たちの関係は仕事なのか、それとも本気なのか」と真剣な表情で尋ねた。アクアは「仕事の延長にすぎない」と正直に答えたが、「女優としてのあかねには強い興味がある」とも告げた。

あかねは一瞬寂しそうな表情を見せたが、すぐに笑顔を取り戻し、「それが一番嬉しい言葉」と返した。そして「仕事としてのカップル関係を続けよう」と割り切った態度を見せた。

その際、あかねは「ゆきとノブユキが交際を始めた」とこっそり教えた。アクアは驚きつつも、ゆきの計算高さに感心した。

MEMちょの秘密
打ち上げが終わり、アクアが帰路につくと、MEMちょが後を追ってきた。彼女は『今ガチ』の現場を気に入っていたと話しつつ、アクアとあかねの関係についてからかってきた。

その後、MEMちょは突然「もともとアイドル志望だった」と告白した。彼女はかつてオーディションに挑戦していたが、家庭の事情で夢を諦めることになった。アクアはそれを聞き、「苺プロに来ないか?」と誘った。MEMちょは驚きつつも、その言葉に心を動かされた。

数日後、MEMちょは苺プロを訪れた。ミヤコは彼女の人気と影響力を評価しつつ、何か隠していることに気づき、「年齢をサバ読んでいるのではないか」と指摘した。MEMちょは観念し、実年齢が25歳であることを打ち明けた。

新生『B小町』のスタート
MEMちょはアイドルを諦めていたが、ルビーが「年齢は関係ない」と力強く手を差し伸べた。さらに有馬かなも現れ、「業界の年齢制限に苦しんだ者として、気持ちはわかる」と共感を示した。

ミヤコは「年齢は問題ではない」とし、MEMちょの加入を認めた。ルビーとかなも快く受け入れ、新生『B小町』は正式にスタートを切った。MEMちょは感激し、「ここからが本当の夢の始まり」と涙を流した。

こうして、物語は新たな章へと進んでいくのだった。

9  モチベーション

『今ガチ』終了後の高校生活
ルビーのクラスでは、『今ガチ』の話題が続いていた。クラスメイトの寿みなみが、ルビーにアクアのキスシーンについて尋ねる。ルビーは気まずさを隠せなかったが、アクアがあかねに対して抱く感情は恋愛とは異なるものだと感じていた。

そこに、クラスメイトの不知火フリルが加わる。フリルは現在最も注目されている美少女マルチタレントで、クールな印象を持たれていたが、意外にも『今ガチ』の話題を楽しんでいた。彼女は特にMEMちょの反応に興味を持ち、番組を存分に満喫していたようだった。

話題はアクアの人気へと移り、芸能科・一般科問わず彼に興味を持つ女子が多いことが明らかになった。しかし、彼には公の場での恋人がいるため、今のところは静観されているようだった。

『B小町』の公式チャンネル開設
苺プロの事務所では、ルビーとMEMちょが『B小町』の公式チャンネルの登録者数1万人突破を喜んでいた。MEMちょの知名度が影響し、チャンネルは順調に成長していた。

動画の編集も進み、自己紹介やパジャマトークなど、魅力的なコンテンツが充実していった。しかし、今後の活動のためにはPVの制作が不可欠だった。かなは楽観的な態度を取るが、MEMちょは過去の『B小町』の楽曲を利用する案を提案し、ルビーもそれに賛同した。

MEMちょは勢いよくダンスの練習を開始することを宣言し、ルビーもそれに乗り気だった。しかし、かなだけはそのテンションについていけず、すぐに疲れ果ててしまった。

かなの複雑な心情
ダンス練習に疲れたかなは、スタジオの外でふてくされていた。そこにアクアが現れ、彼女に水を差し出す。しかし、かなは『今ガチ』の最終回のキスシーンを思い出し、彼の好意を拒絶した。

アクアはかなの態度に気づき、「いい加減傷つく」と言い残して去っていく。かなは意地を張り続けたが、彼の姿が消えた後、後悔の念に駆られた。

鏑木Pからの情報提供
その夜、アクアは鏑木Pと高級寿司店で会っていた。鏑木は、アクアがアイの過去を知りたがる理由を尋ねた。アクアは「ファンだから」と答えるが、鏑木は「実際を知れば幻想は壊れる」と忠告した。

しかし、アクアの意志は固く、鏑木は彼に情報を提供することを決めた。アイはかつて演技の勉強のために『劇団ララライ』に参加しており、その経験が彼女を大きく変えたという。アクアはその事実に驚き、アイの恋愛と劇団の関係に何か手がかりがあるのではと考えた。

鏑木はさらに、『B小町』の活動に興味を示し、彼らに大きなステージへの出演機会を提供することを提案した。

JIF出演への決断
MEMちょが持ち帰った情報により、『B小町』は来月のジャパンアイドルフェス(JIF)への出演オファーを受けることになった。ルビーとMEMちょは大喜びだったが、かなは懸念を示した。

しかし、最終的に出演することが決まり、次に議論されたのはセンターの選出だった。ルビーとMEMちょは互いにアピールし合ったが、かなは自らの過去の経験を理由にセンターを辞退した。

かなの本当の実力
ルビーとMEMちょはカラオケでセンターを決めようとしたが、どちらも低い点数しか取れなかった。その後、MEMちょがかなの過去の楽曲を調べ、彼女の歌唱力が予想以上に高いことに驚く。

一方、かなは別室でカラオケをしていた。彼女の点数は97点。誰にも見せずとも、彼女は確かな実力を持っていた。

10  前夜

センター決定とかなの葛藤
ルビーとMEMちょは、JIFでのセンターを有馬かなに決定したことを動画で発表した。しかし、かなは納得しておらず、撮影後すぐに二人を正座させて説教を始めた。センターをやりたくないと何度も伝えたにもかかわらず、動画を既成事実化する形で決められたことに激怒した。

MEMちょは、ルビーとともにカラオケでかなの過去のPVを見て、その実力を再確認したことを伝えた。しかし、かなは過去の楽曲について「迷走時代の象徴」として否定的な態度を崩さなかった。ルビーはかなの努力を認めたが、かなはそれを受け入れず、センターを断固拒否した。

圧倒的な歌唱力と最終決断
かなの説得に失敗したルビーとMEMちょは、直接自分たちの歌を聞かせる作戦に出た。しかし、その歌唱力は悲惨なものだった。かなは彼女たちのあまりの音痴ぶりに卒倒しかけ、結局、センターを引き受けることになった。

ダンスの練習を進める中で、かなは「この二人がセンターを務めるよりはマシ」と考えつつも、本心ではやりたくない気持ちが強かった。しかし、最終的には彼女らしい辛辣な口調で「私がいないとダメね」と言い放ち、センターを務めることを受け入れた。

ぴえヨンの登場と特訓開始
ミヤコは、新生『B小町』のサポート役として、事務所のマスコットキャラクター・ぴえヨンを連れてきた。MEMちょは初対面で驚き、ルビーは親しげに挨拶をした。ぴえヨンは元プロダンサーで、アイドルの振付師経験もあることが明かされた。

彼の指導のもと、三人はJIFに向けた過酷な特訓を開始した。坂道ダッシュや連続パフォーマンスを通じ、体力と持久力を鍛えられた。特に笑顔を絶やさずに踊ることが要求され、かなはその厳しさに音を上げかけた。

かなとぴえヨンの会話
特訓の合間、かなはベランダで夜風にあたりながら、自分がアイドルに向いていないと感じていた。そこへぴえヨンが現れ、彼女の努力を称えながらセンターを務めるべきだと諭した。

ぴえヨンは、かなの努力や本音を見抜いており、かなは思わず彼の言葉にときめいた。彼の優しさに触れ、かなは「自分にはもうファンはいない」と思い込んでいたが、まだ自分を見てくれている人がいると気づいた。

ぴえヨンの正体
MEMちょは、ぴえヨンの実際の体型が思っていたよりスラリとしていることに気づいた。さらに、彼がアクアと同じ背格好であることを指摘した。

その後、特訓の様子をタブレットで撮影していたぴえヨンは、誰かと通話をしていた。その相手は、南国のリゾート地で休暇を楽しんでいる本物のぴえヨンだった。実は、スタジオにいるぴえヨンの正体はアクアであり、彼はぴえヨンになりすまして『B小町』の成長を支えていたのだった。

JIF前夜のルビーとかな
ルビーはJIFの本番を前に興奮し、なかなか寝つけなかった。かなは、睡眠の重要性を説きながらも、彼女の無邪気な期待にどこか羨望を感じていた。

ルビーは過去に病気で引きこもっていたこと、そして初恋の相手に「アイドルになったら推してくれる」と言われたことが、夢を追う原動力になっていると明かした。それを聞いたかなは、「推してくれる人がいるルビーはいいな」と呟き、寂しげな表情を浮かべた。

ぴえヨンの正体に気づいたかな
夜中、かなは眠れず、事務所のダイニングルームへ向かった。そこで、ぴえヨンのマスクが置かれているのを発見する。マスクの持ち主が誰なのか確かめようと部屋に入ると、そこにいたのはジャージ姿のアクアだった。

彼がエナジードリンクを飲んでいる姿を見たかなは、驚きのあまり反射的に身を隠した。何が起こっているのか理解できず、彼女の頭の中には無数の疑問が渦巻いていた。

JIF本番直前
新生『B小町』はJIF会場へ到着した。ルビーとMEMちょは高揚していたが、かなは焦燥感に襲われていた。

スターステージでのパフォーマンスを前に、二人は自信満々だったが、かなだけは一睡もできず、青ざめた顔をしていた。

11  プレッシャー

アクアの正体に気づいたかな
かなは前夜に見た光景を思い返していた。ぴえヨンの正体がアクアだと気づき、混乱していた。彼の優しさや言葉がすべて計算だったのではないかと疑念を抱いたまま、一睡もできずに本番当日を迎えた。

楽屋へ向かおうとしたが、ミヤコに止められ、別の会場へ案内される。そこはアイドルたちがひしめき合う巨大な控え室で、地下アイドルや駆け出しのグループが雑多に集まっていた。個室も着替えスペースもなく、騒然とした雰囲気にかなは圧倒された。

過去の失敗と自己否定
新生『B小町』の三人は、別室で食事をとることになった。ルビーとMEMちょは楽しそうに過ごしていたが、かなだけは青白い顔でぐったりしていた。ミヤコに「緊張しているのか」と問われたが、かなは強がって否定し、自分が引っ張らなければならないと気を引き締めた。

しかし、過去の苦い記憶が頭をよぎる。子役時代が終わり、イベントの観客がまばらだったこと、売れ残ったCD、スタッフの冷たい視線、仕事が減っていくにつれ離れていった母親――。成長した自分に価値がないと言われ続けた経験が、かなの心を蝕んでいた。

自虐を繰り返しながらも、自分が『B小町』を引っ張らなければならないという責任感だけは残っていた。しかし、心の奥では「自分がやるべきではない」との思いが拭えなかった。

ルビーの不安とかなの覚悟
そんなかなの前に、涙目のルビーが現れる。彼女は緊張で震えており、かなの手を握って助けを求めた。かなは「何年もこの業界にいるから怖くない」と強がったが、ルビーはかなの冷たい手を握りしめ「本当は緊張している」と見抜いた。

ルビーの言葉に、かなはついに本音を吐露する。失敗は慣れているが、今回は自分ひとりではない。ルビーとMEMちょがいるからこそ、彼女たちを悲しい気持ちにさせたくないと感じていた。その思いが、いつものステージ以上の重圧になっていたのだ。

ルビーは「責任を勝手に背負わないで」と笑顔で言い、かなをただの新人アイドルとして見ていると伝えた。その言葉は、かなの心をまっすぐに貫いた。

衣装をまとい、新人アイドルとして挑む
ルビーの言葉で吹っ切れたかなは、ルビーに手を引かれ楽屋へ戻った。三人はパーテーションの奥で衣装に着替え、それぞれの個性を生かしたデザインの衣装を身にまとった。

かなは最後に手袋をはめ、深く息を吸った。そして、自分に言い聞かせるように前を向いた。

「新人アイドル、有馬かな!」

12  箱推し

スターステージの開幕
夕暮れのスターステージは、ライトに照らされ、観客の熱気に包まれていた。新人アイドルの出演にもかかわらず、会場には多くの人が集まっていた。その中には、三人の男性――店長と呼ばれる年上の男と、若手二人の姿があった。MEMちょの出演を聞いた若者が、店長に説明をするが、彼は『B小町』という名前を聞いて眉をひそめた。

十数年前、店長はB小町のファンだった。まだ無名の頃からライブに通い、CDを買い揃え、アイという伝説的なアイドルに心を奪われていた。彼女がいたからこそB小町は輝いていた。店長は、名前だけを引き継いだ新しいB小町に懐疑的だったが、かつての楽曲のイントロが流れると、自然とステージへ目を向けた。

ステージ上の三人
ステージには、センターに有馬かな、右にMEMちょ、左にルビーが並んでいた。彼女たちは音楽に合わせて、笑顔でパフォーマンスを披露する。かなは観客を観察しながら、冷静にステージをこなしていた。MEMちょのファンが多く、黄色のサイリウムが目立つ中、赤のサイリウムもちらほらと見えていた。

メンバーカラーは、JIF出演が決まった際に三人で話し合い決定した。ルビーはアイと同じ赤、MEMちょは黄色、そしてかなは直感で白を選んだ。MEMちょは特別感が強すぎると懸念したが、ルビーは「かならしい」とあっさり受け入れた。

MEMちょはファンサービスを欠かさず、観客の近くへ移動して手を振る。その様子を見ながら、かなは思った。自分は落ちぶれた元子役、ルビーは無名の新人。結局、観客が求めているのはMEMちょなのだと。

ルビーの輝きと観客の反応
観客席の店長は険しい表情でステージを見つめ、「これはB小町じゃない」とつぶやいた。アイというスターがいたからこそ成り立っていたグループであり、新人三人が集まったところで何も変わらないと断言する。しかし、その時、ルビーが笑顔でウィンクし、満面の笑みで観客に手を振った。

その輝くような天真爛漫な姿に、店長は目と心を奪われる。彼女の左目には、アイと同じ星の輝きがあった。驚きと感動に突き動かされるように、店長は赤いサイリウムを振り始めた。その変化に気づいた若者たちは驚きの声を上げた。

一方、ステージ上のかなは、ルビーの笑顔を見て「まぶしい」と感じていた。彼女はアイドルが好きで、楽しそうで、生まれながらにしてアイドルだった。その姿を見ていると、自分の存在がどんどん小さく感じられた。誰も自分を見ていない。母も、マネージャーも、ファンですら過去の自分しか見ていない。

アクアのサイリウム
その時、観客の中に一本の白いサイリウムが掲げられた。かなの心臓が大きく波打つ。アクアが白、赤、黄色のサイリウムを持ち、真剣な表情でオタ芸を始めたのだ。

そのあまりにも真剣な姿に、かなは呆れながらも笑いそうになった。「箱推しを気取っている」と内心毒づきながらも、次第に気持ちが変わっていく。「目にもの見せてやる」と思いながら、彼をまっすぐに指差した。「必ずアンタのサイリウムを真っ白に染め上げてやる」と決意し、自らの存在を証明しようとした。

その瞬間、かなのオーラが変わった。輝きを増し、強く、明るくなった。アクアはその変化に気づき、サイリウムを振る手を止めてかなを見つめた。かなの気持ちに呼応するかのように、ルビーとMEMちょのパフォーマンスもさらに力強さを増した。

観客の歓声は、どんどん大きくなっていった。

B小町の可能性
店長は真剣な眼差しでステージを見つめていた。三人は他のグループならエース級のビジュアルを持ち、特にかなはオタク受けする要素を備えていた。そして何より、歌がうまい。

店長は静かにつぶやいた。「人気が出るかもしれないな」

13  ちょっと楽しいお仕事

アイドルとしての終わり

JIFへの出演と新たな発見

鈴城まなは、二十四歳のアイドルであり、今回のJIFへの出演は四回目であった。ステージを終えた彼女は、メンバーたちと「お疲れ様」と声を掛け合い、普段通りの雰囲気に包まれていた。緊張することもなく、慣れたイベントの一つとして過ごしていた。

しかし、まなには一つ気になっていることがあった。楽屋ブースで見かけたかわいらしいアイドルの存在である。興味を引かれた彼女は、私服に着替え、眼鏡姿に戻ってそのステージを観に行くことを決めた。

そのステージは、地下アイドルや駆け出しのアイドルが集うスターステージであり、まなにとっては自分たちよりも格下のアイドルが戦う場であった。だが、その考えは、まな自身が『B小町』のパフォーマンスを目にした瞬間、覆されることになった。

アイドルとしての自分を振り返る
『B小町』のパフォーマンスを見ながら、まなは自身のアイドル人生を振り返った。十七歳でオーディションに合格し、グループに加入。十を超える姉妹グループの一員となり、そこそこの人気を得た。しかし、アイドルの世界は厳しく、二百人以上いるメンバーの中で目立つことは難しかった。

デビュー当初は上を目指し、様々な挑戦を試みたが、やがて与えられた課題をこなすことに手一杯になった。現状維持に甘んじるようになり、いつしか「このままでいいのか?」という疑問が心をよぎるようになった。

歌割りが少なくなった時、テレビ番組で話を振られず一言も話さなかった時、年末の大型番組で自分が映ったのが一瞬だった時、新しいアイドルを見て「私もこうなりたかった」と思ってしまった時――そうした瞬間に、アイドルとしての自分の立ち位置を考えさせられた。

そして今、『B小町』のステージを見ながら、その思いが決定的なものになった。

アイドルを辞める決意
まなは『B小町』のパフォーマンスを見つめながら、寂しげな笑みを浮かべた。そして、心の中で静かに「アイドルを辞めるか」とつぶやいた。

彼女にとって、アイドルは夢であった。しかし、その夢はすでにある程度叶えられていた。ステージに立ち、歌い、踊り、演技の仕事やバラエティ出演も経験した。その先に待っていたのは、芸能界の現実だった。

人間関係の難しさ、競争の激しさ、事務所の厳しい管理、SNSの規制、怪しい飲み会の誘い。芸能界は楽しいことばかりではなく、むしろ辞めていく者の方が多かった。自らの賞味期限が切れるのを待つよりも、自分で終わりを決めたい。そう考えたまなは、アイドルとしての未来を完全に見限った。

新たな人生への一歩
まなは『B小町』のステージに背を向け、静かに歩き出した。ステージでは、観客の歓声が響き、アイドルたちは輝いていた。その光の中に、まなが戻ることはもうなかった。

彼女は次の人生について考えた。貯金はほとんどないため、すぐに働く必要があった。服が好きだから、服飾関係の仕事が向いているかもしれない――そんなことを思いながら、まなは芸能界を去る決意を固めた。

その二週間後、鈴城まなは芸能界からの引退を発表した。そして、大手衣料メーカーの営業職へと転身。以降の彼女の情報は、ネット上から姿を消した。

アイドルが生まれる裏では、同じようにアイドルが去っていく。まなもまた、その一人となった。

14  負けず嫌い

新たな舞台へ向けた動き

ライブ後の帰路とアクアとの対話

ライブを終えた『B小町』のメンバーは、ワンボックスカーに乗り込んだ。車内にはアクアの姿もあり、ルビーは兄の来場に驚きながらも嬉しそうに話しかけた。かなは最初、気まずさから沈黙を保っていたが、やがてアクアに向かって問いかけた。

自分たちのパフォーマンスをどう評価するのかと尋ねると、アクアは「初めてにしてはよくやった」と淡々と答えた。しかし、それ以上の賞賛を求めるかなに対し、「もっとすごいライブができるから、今高評価を出すのはもったいない」と付け加えた。それは、彼女たちの未来に期待していることを示していた。

ミヤコはそんな二人のやり取りを見て「やっと話をする気になったようだ」と微笑んだ。助手席に座っていたMEMちょは二人の関係を不思議に思い、首を傾げる。しかし、ミヤコは「そういうものではない」と含みを持たせた言葉を返した。

アクアと黒川あかねの関係
会話が進む中、ミヤコはアクアに「あかねとはうまくいっているのか」と尋ねた。アクアは「まだ会っていない」と答え、仕事の関係でインスタ用の写真を撮りに行く予定はあるが、それ以上の関係ではないことを示唆した。

このやり取りを聞いていたかなは、急に態度を変え、アクアを茶化し始めた。黒川あかねが本気でアクアに惹かれるわけがないと笑い、「演出上の関係だ」と強調した。MEMちょは、かなが突然楽しそうに話し出したことに驚き、その様子を見て彼女の感情の変化を察した。

あかねへの新たな仕事のオファー
一方その頃、あかねはマネージャーから新たな仕事のオファーを知らされた。その企画書の中にはアクアの名前も含まれており、彼女の表情は喜びに満ちた。「また一緒に仕事ができる」と呟き、期待に胸を膨らませた。

ぴえヨンの正体とかなの追及
苺プロの事務所では、アクアがノートパソコンを操作していた。その前にかなが現れ、ぴえヨンの中身がアクアであったことを追及した。アクアは「かなが自分と話してくれなかったから」と素直に理由を述べたが、かなはその答えに納得がいかず、さらに問い詰めた。

かなは、アクアがぴえヨンの着ぐるみを着てまで指導していたことをからかい、「意外な特技がある」と笑った。アクアは冷静に「妹の初ライブを成功させるため」と説明したが、かなはそれを「シスコンの言い訳」と一蹴した。二人の言い合いは次第に熱を帯び、やがて「討論」という名の口論へと発展していった。

アクアとかなの関係
ルビーはこの様子を見て、「二人は仲直りしたようだ」と微笑んだ。しかし、MEMちょは「むしろ仲が悪くなりそう」と不安を口にした。

ルビーはアクアがあまり他人と深く関わらない性格であることを説明し、かなのように強く関わってくる相手が必要なのだと語った。そして、かつてのアクアは今とは違う性格だったことを明かした。MEMちょはその言葉に考え込みながらも、やがて「黒川あかねはかなに対抗できるのか」と密かに懸念を抱いた。

『東京ブレイド』の舞台化企画
一方、都内の割烹料理店では、イベント運営会社「マジックフロー」の代表・雷田澄彰が、舞台『東京ブレイド』の企画について業界関係者の鏑木と話していた。この作品は累計五千万部を突破し、アニメ映画もヒットした人気漫画であった。

雷田は、舞台化のための予算を確保し、『劇団ララライ』の協力を取りつけたことを誇らしげに語った。そして、キャストについて相談を持ちかけた。鏑木は「これから来る子たちを紹介できる」と答え、二人は互いに笑みを浮かべながら駆け引きを続けた。

アクアとあかねのSNS戦略
アクアはあかねとともにカフェでインスタ用の写真を撮影していた。二人の写真はファンに向けたカップルアリバイとしてのものだったが、その裏には新たな仕事の話もあった。

『東京ブレイド』の舞台で、あかねはヒロイン・鞘姫役を、アクアは刀鬼役を演じることになっていた。さらに、刀鬼の相棒である剣士・つるぎのキャストも決まりかけていた。その瞬間、カフェに現れたのは有馬かなであった。

かなとあかねの火花
かなはスマートフォンを掲げ、あかねの投稿したインスタを見せながら、リアルタイム投稿の危険性を指摘した。そして、「またトラブルを引き起こすのか」と皮肉を込めて忠告した。

一方のあかねは、かながつるぎ役を演じると知り、表情を一変させた。かつて子役時代からライバル関係にあった二人の間に、再び火花が散る。

あかねは「ずっと演じたかった役を奪われ続けた」と語り、かなに対する強い対抗心を露わにした。一方のかなも、負けられないという思いを胸に秘め、退場していった。

舞台への期待
この様子を遠くから見ていた雷田は、企画のキャスティングを確信した。かつて天才子役と呼ばれたかなと、現在の天才役者であるあかねをぶつけることで、舞台の注目度をさらに高める狙いだった。

こうして、『東京ブレイド』の舞台化は、単なる作品の実写化ではなく、因縁の対決を交えた新たなステージへと向かうこととなった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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